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ファイナンスライブラリー

評者 渡部  晶
 
嶋田  博子 著
職業としての官僚
岩波書店 2022年5月 定価 本体940円+税
 
 
本書の著者は、1986年に京都大学法学部を卒業し、同年人事院に入庁、オックスフォード大学に留学し、哲学・政治・経済MAを取得、総務庁、在ジュネーブ日本政府代表部、人事院事務総局総務課長、同給与局次長、同人材局審議官などをへて、2019年4月より京都大学大学院公共政策連携研究部教授をつとめている。労作の単著『政治主導下の官僚の中立性』(慈学社 2020年4月)については、本誌2020年6月号のライブラリ―にて紹介した。
京都大学公共政策大学院の教員紹介のホームページ(https://www.sg.kyoto-u.ac.jp/sg/faculty/full-time/shimada/)では、「1964年山口県生まれ。大学卒業時は就職先を選り好みできる時代ではなく、消去法で行政官になったが、社会の理不尽に対して制度を変えていける職業は結果的に性に合っていた。子供の頃は一日じゅう本に囲まれて過ごせる司書に憧れ、今の環境はそれに近いかも。」と自己紹介している。また、学生に一言として「公共の場で活躍を目指す皆さんに対し、現場で失敗を重ねながら学んだ経験を生かして、長い職業人生で迷わないための地図をお渡しできればと思っています。」との言葉を寄せている。
これには、本書のエッセンスを示す表紙扉の裏書にある「旧態依然のイメージで語られ続ける霞が関官僚の職業実態を示し、職業としての官僚が国民や政治に対し担うべき役割、現状をあるべき官僚像に近づける方途を、政官関係の歴史的変遷、各国比較などを交えながら考える。メディアでのバッシングや政治主導の掛け声だけに満足せず、我が事として官僚を見つめる必要を説く」と通じる問題意識を窺うことができると思う。
本書の構成は、「はじめに」、「第1章 日本の官僚の実像―どこが昭和末期から変化したのか」、「第2章 平成期公務員制度改革―何が変化をもたらしたのか」、「第3章 英米独仏4か国からの示唆―日本はどこが違うのか」、「第4章 官僚制から現代への示唆―どうすれば理念に近づけるのか」、「結び―天職としての官僚」、「あとがき」、参考文献、年表(公務員制度に関する主な変化)、となっている。
ここで、巻末の年表は、簡潔に戦後の制度の変遷をたどっており、俯瞰するために非常に有益である。1989年が平成元年であるが、平成、それも2000年以降様々な「改革」がなされたことをあらためて再認識させるものであり、このような表の作成は地味ではあるが、労力を要するものであり、著者の本書への細部にわたるこだわりも感じられる部分でもある。
著者は、「はじめに」で本書の目的を、自身の経験を踏まえ、「官僚という職業をめぐる『実像』、『理念』、『達成の道筋』という3点を示すこと」としている。そして、前半の第1章と第2章は幹部ヒヤリングに基づく実像を描き、後半の第3章と第4章で理念と達成を描く。それぞれの章には「小括」がなされており、それぞれ「合理性や官民均衡が強まった半面、政治的応答は聖域化」、「改革項目のつまみ食いによって、官僚が『家臣』に回帰」、「日本の特徴は、(1)政治的応答の突出、(2)無定量な働き方、(3)人事一任慣行(評者注:当局による一方的な配置が慣例化していること)」、「『あるべき官僚』を実現させるには、自分ごとでとらえる必要」とある。
本書では「官僚」という言葉を正面から使用している。英国でいう「the civil service」にあたるという。適当な和訳が見当たらず、「行政官」という言葉は世間で耳慣れないとして、ネガティブな含意があることは承知で「官僚」という言葉を使うこととしたのだ。類書では刺激的な書名も多い中、物事に正面から真摯に向かっていく著者らしいアプローチを象徴していると感じる。
新書書評でよく知られる「山下ゆ」さんは、2022年6月30日付「山下ゆの新書ランキング Blogスタイル第2期」(http://blog.livedoor.jp/yamasitayu/archives/52334630.html)で本書を取り上げており、「今後の官僚のあり方については、理念的なものではなくて、もう少し具体的に期待される制度改革などを知りたかった気持ちもありますが、現在の日本の官僚の状況を知るには有益な本だと思います。」としている。
著者が第4章で「より良い官僚制の実現に向けた具体的示唆」として、(1)政官関係・労働市場双方への目配り、(2)「自分と同じ生身の人間」への視点、(3)政治丸投げに代わる日常的関与、(4)限られた資源の直視、を挙げている。著者も参加する「令和国民会議」(令和臨調)「第1部会(統治構造)」でのさらなる具体的な検討・提言が期待される。