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財政制度等審議会「令和5年度予算の編成等に関する建議」について

 
主計局調査課長 松本  圭介/課長補佐 和田  康宏 川原  英典/調査第一係長 三重野  航/同係員 田中  颯馬 保田  紗里
 
 
財政制度等審議会・財政制度分科会は、2022年9月から8回にわたって審議を行い、「令和5年度予算の編成等に関する建議」をとりまとめ、11月29日に鈴木財務大臣に手交した。
本建議では、令和5年度予算編成の指針となるものとして、総論に加え、社会保障、地方財政をはじめとする10の歳出分野における具体的な取組が示されている。
詳しい内容は建議本文をご覧いただくこととし、ここでは、特に財政総論の中でポイントとなる点をご紹介したい。
まず、冒頭において、令和5年度予算は、我が国財政の長年抱えている問題と世界的な環境変化で新たに生じた課題のいずれをも真正面から受け止め、解決していく決意を示したものとしなければならず、そのことが、「財政に対する市場の信認」を維持し、「将来世代への責任」を果たしていくために不可欠であることを、強く認識すべきであると指摘している。
 
 
1.財政に対する市場の信認
(1)イギリスの混乱の教訓
ひとたび財政運営に対する信認が損なわれれば、市場は鋭く反応し、経済社会に不測の影響を与えかねず、9月以降のイギリスの状況は、日本にも重要な教訓を与えるものである。膨張する歳出を税収で賄えず、市場からの資金調達に大きく依存した財政運営を余儀なくされている現状では、市場の信認を維持し続けることが不可欠であることが、改めて確認されたと述べている。
今後、日本においても、イギリスの混乱を他山の石とし、市場の不信を招かぬよう、責任ある財政運営を行っていくことを求めている。
 
(2)市場動向と財政
日本を取り巻く状況は変化し得ることに加え、財政状況を見ると、日本の債務残高対GDP比は世界最悪の水準であり、イギリスよりも格段に悪いことも直視すべきである。仮に、イギリスのように財政運営に対する信認が低下すれば、国債市場や為替市場にも影響が及びかねないとしている。
近年では、従前と比べて突出した規模の補正予算の策定を繰り返し、その財源の大宗を国債発行によって賄う中で、短期債の発行額が大きく増えてきており、それは金利上昇に伴う影響を受けやすい資金調達構造になっているということでもある。今後、金利上昇局面が到来すれば、利払費の増大により財政運営に負荷がかかることは必至であり、こうした観点からも、毎年度の国債発行額をできる限り縮減し、債務残高を抑制していけるよう、不断に取り組んでいくべきであると指摘している。
 
 
2.インフレ・物価高騰等と財政
(1)欧米諸国におけるインフレの進行と財政運営の基調変化
コロナ禍やロシアによるウクライナ侵略など、国際情勢は激しく変化している。経済面において欧米諸国が直面している課題は、インフレである。金融政策は引締めに転じており、金利も上昇している状況にあるとしている。
世界は今、コロナ禍の時代とはフェーズが変わり、インフレ対策との整合性や、財政の持続可能性確保を意識した財政運営に転じていると述べている。
 
(2)各国の具体的な取組例
各国の実際の取組状況からも、コロナ禍での例外モードから脱却し、更にインフレが進行する中で必要な対策を行いつつ、財政状況も考慮しながら、バランスの取れた経済財政運営に向けて試行錯誤を重ねている様子が見てとれるとしている。
 
(3)日本の新型コロナ対策と物価高対策
日本も、新型コロナ対策として前例のない大規模な財政措置を講じてきたが、今まさに例外から脱却し、平時への移行を図るべきタイミングであると指摘している。
物価高対策については、低所得者等にターゲットを絞り、メリハリの効いたものとすることが望ましい。激変緩和のために一定期間措置を講じる必要があるとしても、当初段階から、終期を的確に設定するなど、例外措置が長く続かないような設計とし、いたずらに延長されないようにしていくべきであると指摘している。
日本は、危機対応のための支援策を、手厚く、長く続けてしまう傾向がある。しかし、財源の裏付けもないまま、必要以上に長期にわたって支援を続ければ、財政に多大な負荷がかかるばかりでなく、民間活力も損ないかねない。時機を逸することなく、必要な見直しを行っていくことを求めている。
 
 
3.日本経済の成長力と財政
(1)日本経済の長期低迷
日本経済は、この30年間にわたり低迷を続けている。この30年間の状況は、財政政策を含む日本の政策対応の結果でもある。この間、様々な財政措置を講じてきたにも関わらず、日本経済の成長力が全く高まらなかったという現実を真摯に受け止め、必要な規制・制度改革等とあわせて、歳出全体を通じて「アウトカム・オリエンテッド・スペンディング(成果志向の支出)」を徹底していくべきであると指摘している。
 
(2)「成果志向の支出」の徹底
日本の財政支出対GDP比はOECD諸国の平均を大きく上回るペースで増加してきており、結果として財政赤字が継続し、1990年代初頭は200兆円台であった債務残高は1,000兆円を超えるに至っている。それにも関わらず、名目GDPはほぼ横ばいのままである。経済低迷と財政悪化が同時に進行していたということにほかならない。名目政府支出の乗数効果も、趨勢的に低下してきている。少なくとも、この間の拡張的な財政運営は、持続的な成長にはつながっていないと述べている。
また、単に財政支出を拡大することで経済成長を図ろうとしても、結果は望み難い。限られた財政資源を最適な形で配分するため、政策の優先順位付けとスクラップ・アンド・ビルドを通じて、真に効果的な施策への絞込みを行うなど、メリハリのついた予算を作成し、成果を挙げられる支出に重点化していく必要があると指摘している。
大事なことは、歳出の中身を見直し、成果を出せるものとしていくことである。「規模ありき」ではなく、「アウトカム・オリエンテッド・スペンディング(成果志向の支出)」を徹底し、成果を検証していくことを求めている。
 
(3)GDPギャップと財政支出
近年、GDPギャップに着目して、「GDPギャップを財政支出で穴埋めすべき」といった議論がなされることがあるが、「供給と需要の差を財政支出で埋め合わせる」という対応では、資源の効率的な再配分を抑制し、経済の成長力を低下させてしまう。目指すべきは民間需要主導の経済成長であり、実施すべきは家計・企業の活力を引き出す政策対応である。民間需要の不足分を財政支出で補填し続けるような資金フローは望ましいものではない。財政支出の規模ばかり大きくしても、持続的な成長は実現できないと指摘している。
 

4.PDCAの取組
予算編成においては、予算の更なる効率化に向けて、予算がどのように使われ、どのような成果をあげたかを評価・検証し、次の予算への反映等を行っていくPDCAの取組が極めて重要である。具体的に事業の問題点を指摘・見直し・公表することを通じて、予算の透明化を図り、国民の予算・財政に対する理解・関心を高める契機とすることも重要であるとしている。
また、予算編成プロセスで、行政事業レビューシートをより効果的にプラットフォームとして活用できるよう、行政事業レビューの質の向上を図ることが不可欠であり、予算編成プロセスで積極的に活用し、更なる改善点を明確に示すことによって、予算の質の向上に努めるべきであると指摘している。
 
 
5.将来世代への責任
歴史の転換点ともなり得る世界的な環境変化が急速に進行している中、今後新たに生じ得る危機に備え、レジリエンス(回復力)を高めていくため、財政余力を確保する必要性も高まっている。日本の財政が世界的に見ても最悪の状況にある中で、財政健全化の「旗」を下ろさず、これまでの財政健全化目標に着実に取り組むことを求めている。
令和5年度予算編成も課題が山積しているが、特に、予算編成過程での検討事項とされた主要課題として、防衛力の強化、少子化対策・こども政策、GXへの投資がある。いずれも、日本の将来を左右する大事な課題であり、成果を挙げるために真に効果のある支出を積み上げていくことが求められる。その上で、これらの施策の充実を図るため、安易に国債発行に依存せず、安定的な財源を確保していくべきであると指摘している。
また、長期低迷から脱却し、日本経済の成長力を高めるためにも、成果志向の支出を徹底する、日本が抱える脆弱性・リスクを放置せず、解消に向けて取り組む、市場の信認をしっかりと確保し続ける、そして、持続可能な財政・社会保障を将来に引き継いでいく。このように、今後の財政運営は、将来世代への責任を果たし得るものとしていくべきであると述べている。
さらに、債務残高対GDP比を将来に向けて安定的に引き下げていくための重要な条件を整えるべく、まずは、2025年度のプライマリーバランス黒字化目標の確実な達成に向けて取り組む必要があると指摘している。
政府としては、「財政に対する市場の信認」を維持し、「将来世代への責任」を果たしていくことを強く求める今回の建議を、厳粛に受け止め、今後の財政運営や令和5年度予算にしっかりと活かしてまいりたい。
 
写真:(榊原会長から鈴木財務大臣への建議手交。左から、中空麻奈委員、土居丈朗委員、榊原定征会長、鈴木俊一財務大臣、増田寛也会長代理、
田近栄治委員、冨田俊基委員。)※写真撮影時以外はマスクを着用。
 
(図.財政制度等審議会「令和5年度予算の編成等に関する建議」(概要))