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2022年IMF・世界銀行グループ年次総会およびG20財務大臣・中央銀行総裁会議等の概要

 
国際機構課長 木原  大策/国際機構課企画係員 吉田  有希
開発機関課長 大江  亨/開発機関課開発機関第一係長 金田  瑞希
 
2022年10月12日から10月14日にかけて、アメリカ・ワシントンDCにおいて、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)、国際通貨金融委員会(IMFC)、世界銀行・IMF合同開発委員会(DC)等の国際会議が開催された(対面とオンラインのハイブリッド形式)。一連の会議は、本年2月24日以降のロシアのウクライナに対する侵略戦争によって世界経済の抱える困難が深刻化する中で行われた。
以下本稿では、各会議での議論の概要を紹介したい。
 
1.G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2022年10月12-13日)
今回のG20は、2022年7月15、16日にバリで開催された会議に続く、インドネシア議長下における4回目の大臣・総裁級の会議となった。
冒頭の世界経済セッションにおいては、ウクライナのマルチェンコ財務大臣の参加を得て、ロシアのウクライナに対する侵略戦争による世界経済への影響等について議論が行われた。日本を含む多くの国がロシアの侵略行為を厳しく非難するとともに、食料・エネルギー不安やインフレ圧力などの困難をもたらしていることを指摘した。特に、食料・エネルギー不安については、最も影響を受けやすい脆弱層への支援が重要であり、IMFの緊急融資制度である食料ショックウィンドウの新設を歓迎し、国際協調を推進していくこととした。
また、インフレを受けた先進国の金融引き締めの国際的な波及効果等にも議論が及ぶ中、日本からは特に為替について、変動が急激に高まり極めて憂慮していること、日本も投機による過度な変動に対応するため2011年以来の為替介入を2022年9月に実施したことを説明した。その後、議長総括では、2022年に多くの通貨がボラティリティの増加を伴って大幅に変化したとの認識が書き込まれるとともに、2021年4月の為替相場のコミットメントが再確認された。
低所得国等への支援については、IMFの強靱性・持続可能性トラスト(RST)*1について、その稼働を歓迎した。SDR(特別引出権)チャネリング*2における日本の貢献として、既に2021年に配分されたSDRの20%をコミットしており、一部についてはRST・貧困削減・成長トラスト(PRGT)への貢献を既に行ったところ、今回残余の54億ドル相当のSDRをRSTに追加貢献する予定であることを表明した。
また、債務問題では、新興国を含むほぼ全ての国が債務問題を前に進める必要性を強調し、従来よりも具体的かつ前向きな内容が盛り込まれたが「1メンバーが異なる見解を有している」との脚注が付された。
この他、今回のG20では、非常に困難な情勢にもかかわらず、国際保健、国際課税、金融セクター、コーポレートガバナンス、気候変動、インフラを含めインドネシア議長下のG20の取組を推進できたことは有意義であったと思われる。

2.G7財務大臣・中央銀行総裁会議(2022年10月12日)
G7については、議長国ドイツの下、同年5月にボンにて開催されて以来の、対面形式での会議となった。
今回のG7においては、ウクライナのマルチェンコ財務大臣の参加を得て、ウクライナ支援やロシア非難で引き続き結束すること等を確認した。
また、日本から為替についてG20と同様の説明を行い、会議後に発出された声明において、2022年に多くの通貨がボラティリティの増加を伴って大幅に変化したことの認識と、2017年5月に詳述された為替相場のコミットメントの再確認が明記された。
以下、発出された共同声明の概要について紹介したい。
まず、G7として、ウクライナへの支援とロシアのウクライナに対する侵略戦争への非難について結束を確認し、世界経済の重大な混乱を引き起こしている戦争の即時終結を求めた。同時に、一時的かつ的を絞った支援を通じて、戦争の国内外の影響を緩和するために引き続き協働すると表明した。
また、G7は引き続きウクライナの緊急の短期的資金需要への対応を支援することに強くコミットした。2023年に多額の資金ギャップに直面するとし、ウクライナ復興支援のための、実効的かつ包摂的なプラットフォームを設置するための取組みを支持した。
さらに、公的債権者グループとウクライナ政府により、2023年末までの債務支払猶予を実施するための覚書が、2022年9月14日に締結されたことを歓迎した。このイニシアティブは、同国政府と民間の国債保有者及びワラント債保有者との間の、2年間の債務支払猶予のための重要な合意を後押しした。その上で、全ての他の公的二国間債権者が、ウクライナとの間で債務支払猶予に迅速に合意することを求めた。
この他、気候に関するハイレベル対話や、アフリカ諸国とのラウンドテーブルも行った。
 
3.国際通貨金融委員会(IMFC)
(2022年10月13-14日)
国際通貨金融委員会(IMFC)*3では、議長声明において、国連のロシアに対する非難決議を想起するとともに、ウクライナに対するロシアの戦争が甚大な人道的影響をもたらし、世界経済に有害な影響を及ぼし続けていることへの認識を表明した。IMFCの議長声明においても、G20やG7と同様、2022年に多くの通貨がボラティリティの増加を伴って大幅に変化したことを認識するとともに為替相場のコミットメントを再確認した。
また、国際収支上の問題を抱える加盟国に対して、資金支援を提供するというIMFの重要な役割を再確認するとともに、RSTの稼働を歓迎し、2022年中の第一弾のRST支援プログラムへの期待を示した。2023年12月に期限を迎える第16次クォータ一般見直しについて、次の会合までに進捗を加速させることへの期待も表明した。
日本から発出したステートメントでも、ロシアの侵略行為を厳しく非難するとともに、その行為が世界経済における困難を悪化させていることを指摘した。為替についても、G20、G7同様、ボラティリティが急激に高まり極めて憂慮していること、日本円に関して、投機的な動きも背景に、過去にないような急速で一方的な動きが見られたため、2011年以来の為替介入を実施したことを説明した。
また、IMFへの期待として、世界的な食料不安を受け、IMFが新たに食料ショックウィンドウを設置したことを評価し、RSTの稼働を歓迎するとともに、RSTへの54億ドル相当のSDRの追加貢献を表明した。低所得国については、「共通枠組」の下、債権者委員会による迅速な債務措置実施が不可欠であり、脆弱な中所得国については、当該国自身による改革努力を前提に、全ての債権者等による債務持続可能性の回復に向けた協調が必要であるとし、債務データの透明性・正確性を高めるIMFの取組みへの期待を述べた。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)については金融安定性や資本フローへの影響、他国金融政策や国際通貨システムへのスピルオーバーへの理解の重要性を指摘するとともに、2022年4月に1,500万ドルの貢献を行った日本管理勘定(JSA)*4デジタルマネーウィンドウを通じ、IMFが各国のCBDCの検討状況の調査とリスク分析、実務者向けのハンドブック作成や能力開発等に取り組むことへの期待を表明した。

4.世界銀行・IMF合同開発委員会(2022年10月14日)
世界銀行・IMF合同開発委員会*5においては、世界全体が複合的な危機に直面し、各国の財政事情が悪化する中での(1)食料・エネルギー危機への対応や、(2)気候変動対策推進の方法について議論が行われた。なお、通例発出している「開発委員会コミュニケ」に関しては、各国の意見の合意に至らず、前回4月の開発委員会に続き、史上2度目の議長声明としての発表となった。
日本国ステートメントにおいては、冒頭、ロシアによるウクライナ侵略を非難するとともに、ウクライナ侵略の長期化への対応やCOVID-19や気候変動、債務問題への対応等、様々な危機が複合的に重なる中、世界銀行グループをはじめとする国際金融機関(IFIs)を中核とする連携を通じた開発支援の意義や、国際社会が一丸となって対応する必要性を訴えた。
ウクライナへの支援に関しては、各国が効果的・効率的な支援を行うため、世界銀行グループが中心となり、支援の枠組みを作ることが重要であることを述べた。また、世界銀行が設立する「ウクライナ復旧・復興支援基金(URTF)」への早期拠出、及び多数国間投資保証機関(MIGA)が設立予定のウクライナ支援を目的とした信託基金に対する拠出を検討している旨を表明した。
ウクライナ危機と共に複合的な危機を織りなす、地球規模の課題に関しては、国際保健、教育、エネルギー・食料問題、気候変動問題、債務問題について、それぞれ日本のスタンスと、世界銀行グループへの期待を述べた。
国際保健については、強靱で持続可能な国際保健システムの構築のため、(1)資金ギャップへの対処、(2)財務・保健関係者間の一層の連携強化、(3)保健危機が発生した際の対応が重要であることを指摘した。特に、資金ギャップへの対処を行うための、新たな資金メカニズムである「パンデミックに対する予防、備え及び対応のための金融仲介基金(PPR FIF)*6」に対し、合計50百万ドルの貢献を行うことを表明した。
教育に関しては、学習機会の喪失が引き起こす様々な開発課題への悪影響に対して、多面的なアプローチを行う必要性を述べた。また、世界銀行グループに対して、デジタル技術の活用など、教育分野における支援のモデルケースの形成に期待する旨を述べた。
エネルギー・食料問題に関しては、短期的な対応のみならず、中長期的な開発効果も重視して世界銀行グループが検討を行っていることを高く評価すると共に、国際金融公社(IFC)を含む世界銀行グループに対して合計20百万ドルを拠出し、中長期的な途上国の食料生産能力の向上、サプライチェーン強化に貢献する旨を表明した。
気候変動問題への対応として、中所得国も含め、各国それぞれの事情を踏まえ、移行燃料としての天然ガスの活用等も通じて、野心的かつ現実的なクリーンエネルギーへの移行の道筋を構築することの重要性を指摘した。加えて、その道筋においては、世界銀行グループが策定する国別気候・開発報告書(CCDR)が中核的役割を果たすことを期待する旨を述べた。また、気候変動への適応の観点から、防災や自然災害への強靱性を増すために、信託基金を通じた支援を引き続き展開する意向を示した。
債務問題に関し、低所得国については、債権者委員会が「共通枠組」の下で迅速に債務措置を実施すること、脆弱な中所得国については、当該国自身による改革努力を前提としつつも、民間を含む全債権者とドナーが債務持続可能性の回復にむけ協調して取り組むことが必要であることを述べた。また、平時から債務データの透明性・正確性を高める取組や、債務透明性に係る分析や能力構築支援といった、未然に債務危機を防ぐための世界銀行の取組を評価すると共に、途上国が効率的に債務データの透明性・正確性を確保できるよう、債権国が債権データをIMF・世界銀行に共有することの重要性を呼びかけた。加えて、途上国の債務持続性の回復と安定的な経済成長の実現を図るうえでは、債務措置に加えて世界銀行グループを始めとする国際開発金融機関(MDBs)が新たな開発資金ニーズに応えることが不可欠である旨強調した。
最後に、日本国ステートメントの結語として、世界銀行グループをはじめとしたIFIsとの更なる連携強化を表明すると共に、「MDBsの自己資本の十分性に関する枠組の独立レビュー」の提言に基づき、世界銀行グループのバランスシートを効率的に活用し、長期的な財務健全性に留意しつつ必要な支援を届けるために、理事会と迅速に議論を行い、実行可能なものから速やかに実行していくことを慫慂した。
 
*1) 気候変動や将来のパンデミックといった中長期的な構造問題がもたらす国際収支上のリスクに加盟国が対応するため、低所得国と脆弱な中所得国等に対する融資を行うことを目的として、IMFに設置された基金。2022年5月に設立され、同年10月より稼働を開始。
*2) SDR(特別引出権)は、国際的な流動性を創出するため、IMFが創出し、加盟国に配分する合成通貨。配分されたSDRは、SDR金利を支払うことで米ドル等の自由利用可能通貨に交換可能。新規配分されたSDRは、IMFの全加盟国に対して、出資割合に応じて分配されるため、低所得国に配分されるのは全体の数%に留まる。これを受け、先進国等に配分されたSDRの一部を支援の必要な低所得国等に自発的に融通(チャネリング)する取組が進行中。
*3) 国際通貨・金融システムに関する問題についてIMF総務会に助言及び報告することを目的として1999年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第46回目。
*4) 途上国における効果的な政策実施につながる実効的な経済制度の構築等を図るため、技術支援と研修から構成されるIMFの能力開発等を支援する日本管理勘定。
*5) 開発をめぐる諸問題について、世界銀行・IMFに勧告および報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第106回目。
*6) 日本国ステートメント発表時の名称。その後、The Pandemic Fundに名称変更。