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令和5年1月 財務大臣年頭所感

財務大臣 鈴木  俊一
 
 
あけましておめでとうございます。令和5年の年頭に当たり、謹んで新春のお慶びを申し上げます。
 
2020年3月の世界保健機関(WHO)によるパンデミック宣言以降、日本と世界は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けてまいりましたが、昨年はこれに加え、ロシアによるウクライナ侵略やこれを背景とした物価高騰に悩まされ続けた、まさに国難に直面した一年でありました。政府としては、このような難局から国民生活と事業活動を守り抜くべく、岸田総理のリーダーシップの下、経済対策をはじめ切れ目のない対応で臨み、私も政府の一員として、補正予算の編成や予備費の支出など実務の面で尽力してまいりました。
 
足元のコロナ禍と物価高騰を乗り越え、新年を経済成長への重要な一歩となる年とするため、予算、税制などを所管する財務大臣として、以下、4つの抱負と主な取組について申し述べます。
 
1つ目は、日本が直面する難局を乗り越えていくことです。
 
昨年は、値上げに関するニュースが連日報じられてきました。消費者物価上昇率(生鮮食品除く)を見ますと、11月には3.7%と1981年以来40年11カ月ぶりとなる高い水準となり、とりわけエネルギーと食料品の中には2桁の伸び率を記録した品目も見られました。生活必需品であるこれらの価格の上昇は、特に低所得層の方々の家計に大きな影響を及ぼしており、政府としても国民の皆様の負担感を軽減すべく様々な対策を講じてまいりました。4年度第2次補正予算では、電気、ガス、ガソリンなどの急激な値上がりを緩和するため、総額6.3兆円に及ぶ思い切った支援を行うことといたしました。
 
他方、日本の貿易収支の赤字が足元で続いておりますが、これは資源価格高騰が一因となって、原油や石炭などの輸入増が大きくなっていることが背景にあります。将来を見据えれば、エネルギーや食料に対する海外依存度が高い日本経済の脆弱性を克服していくことが重要であり、4年度第2次補正予算、5年度予算では、省エネ対策や化学肥料の使用低減、飼料、穀物などの国産化に取り組んでいくこととしております。
 
さらに、足元の物価高騰の背景の一つであるロシアによるウクライナ侵略は、日本や世界の人々に大きなショックを与えました。ウクライナの主権と領土を大きく傷つけ、無辜の市民の生命と財産を奪っている今回の蛮行は決して許されるものではありません。私もこれまでG7などの国際会議に出席し、ロシアによる侵略戦争を強く非難するとともに、国際協調の重要性を訴えてまいりました。現下、非常に厳しい国際情勢ではありますが、こういう時だからこそ、ロシアへの圧力はもとより、エネルギー・食料、国際保健、気候変動、金融のデジタル化といった様々な課題を、世界各国が手を携えながら着実に解決していく必要があると考えております。本年は日本がG7の議長国を務めることになっておりますので、しっかりとリーダーシップを発揮してまいりたいと考えております。
 
2つ目は、未来に向けた経済成長の礎を築いていくことです。
 
岸田政権では、日本経済を再び成長させるための包括的なパッケージとして「新しい資本主義」を掲げております。これは、気候変動対策のための投資など、従来コストと考えられてきたものを未来への投資と再定義し、社会課題の解決を通じて新たな市場をつくることで、経済成長と持続可能性の二兎の実現を図っていくものです。このような考え方のもと、政府としては、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXなどの重点分野に投資を集中し、社会課題を成長のエンジンにすべく取り組むとともに、その担い手である「人材」、「企業」、「地方」を支える施策を推進していく方針です。
 
まず、企業や地方の担い手である「人材」の育成をしっかりと支援してまいります。岸田政権ではこれまで賃上げを最重要課題として進めてまいりましたが、今後はさらに、労働移動の円滑化と人への投資も併せた3つの課題に一体的に取り組むことで、「構造的な賃上げ」を実現してまいります。人への投資の施策パッケージとして4年度予算、5年度予算を合わせて3,300億円程度の予算を措置し、正規化・転職・リスキリングを支援していくこととしております。
 
また、経済成長とイノベーションを生み出す「企業」、とりわけ全体の99%を占める中小企業の潜在力を高める施策を推進してまいります。予算や財政投融資による資金繰り支援などを通じ、コロナ禍や物価高騰に直面する中小企業の皆様を引き続き支援していくとともに、販路拡大や事業再編、IT導入など、コロナ後を見据えた前向きな挑戦にきめ細かな対応を行ってまいります。
 
さらに、人口減少・高齢化、産業空洞化などに悩む「地方」の活性化も重要な課題であり、長年にわたるこれらの課題解決のためには、デジタル化が重要な鍵となります。4年度第2次補正予算、5年度予算ではデジタル田園都市国家構想交付金により、地方のデジタル実装を加速化するとともに、観光業、農林水産業の振興を図ってまいります。また、地方自治体の重要な一般財源である地方交付税については、5年度予算においてリーマンショック後最高となる18.4兆円を確保いたしました。
 
加えて、新たな投資やイノベーションが成長を促し、所得の向上につながる好循環を生み出すためには、2,000兆円にものぼる家計の金融資産などの「資金」を経済の血液として動かしていくことが重要です。5年度税制改正では、「貯蓄から投資へ」の流れを加速するためNISA制度の抜本的拡充・恒久化を行うほか、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化や資産の早期の世代間移転を促すための措置を講ずることとしております。
 
3つ目は、安全で安心できる社会を実現していくことです。
 
ロシアによるウクライナ侵略や北朝鮮のミサイル問題など、日本の安全保障環境が深刻化する中、国民の生命と財産を守るべくわが国の抑止力と対処力を強化していかなければなりません。今後5年間の必要な防衛力整備の水準を43兆円程度と定めるとともに、5年度予算の防衛関係費については、各事業の実効性や実現可能性を精査しつつ、対前年度比1.4兆円増の6.8兆円と歴史的な大転換とも言える予算措置を行ったところです。
 
また、昨年も日本全国において、地震、大雨、洪水、大雪などの自然災害が多発しました。近年、自然災害は激甚化・頻発化しており、他方でインフラの老朽化が急速に進む中、災害による被害はますます大きくなることが懸念されています。4年度第2次補正予算・5年度予算では、自然災害によって被害を受けたインフラの復旧に全力で取り組むとともに、防災・減災、国土強靱化へ予算を重点化することで、災害に強い社会を実現してまいります。
 
さらに、国際的な物流が拡大している中、私たちの生活や事業を脅かす不正薬物、銃砲、模倣品など、社会悪物品等が密輸される危険性が高まっています。財務省が所管する税関は、明治5年に「運上所」から「税関」に改称され、昨年で150周年を迎えました。150年の先の新たな時代においても税関の使命を果たせるよう、5年度予算では社会悪物品等の水際取締りのための検査体制の強化を図ったところであり、引き続き国民の皆様が安心して生活できる環境づくりの一翼を担ってまいります。
 
4つ目は、持続可能な制度を将来世代に引き継いでいくことです。
 
岸田政権の発足以降、これまで申し述べたとおり様々な対策に取り組んでまいりましたが、これと並行して大規模な補正予算を措置してきた結果、日本の財政状況は一層厳しさを増しています。5年度予算では、114.3兆円の歳出のうち35.6兆円を借金で賄わざるを得ない状況になっています。毎年の借金の積み上がりである債務残高はGDPの2倍を大きく上回り、諸外国と比較しても突出した水準にあります。健全な財政を将来世代に引き継いでいくことが、今を生きる私たちに課された責任であり、まずは2025年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成に向け、財政健全化にしっかりと取り組んでまいります。
 
5年度予算の編成作業においても、安定財源の確保や予算の重点化を通じ、財政健全化に努めてまいりました。先ほども申し上げた防衛力の抜本的強化に関する財源については、歳出改革や税外収入の活用など様々な工夫を先行して行い、それでもなお不足する部分については、税制でのご協力をお願いさせていただきました。また、一般会計予算の3割以上を占める社会保障関係費については、薬価改定などにより、高齢化による増加分相当に伸びをおさめました。さらに、社会保障、防衛以外の予算については、メリハリをつけることで、全体として対前年度で予算の削減を実現しております。
 
他方、財政健全化は一朝一夕で終わるものではありません。とりわけ、人生を支える基盤である医療、介護などの社会保障制度は、受益と負担の観点から粘り強い改革が不可欠です。給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの構造を改め、人生のステージに応じてバランスよくサービスが提供される、全世代型社会保障の実現に向けて取り組んでまいります。例えば、こども政策の一環として、高齢世代にご負担をお願いしつつ、出産育児一時金を現行の42万円から50万円へと大幅に拡充いたします。
 
このように財政健全化や社会保障制度改革を通じ、持続可能な制度を将来世代に引き継いでいく考えですが、同時に、既に存在する巨額の債務残高や毎年度の国債発行を適切に管理していくことも重要な課題です。財務省としては、引き続き国債の買い手である投資家の皆様のニーズを把握するとともに、国民負担を可能な限り抑えるべく中長期的な調達コストの抑制を図ってまいります。
 
最後に、財政を通じて展開される政策は、国民の皆様からの納税で支えられています。デジタル化の進展など、私たちを取り巻く環境は急速に変化しておりますが、このような中においても、納税者の皆様が適切に納税義務を果たすことができる環境づくりに努めてまいります。具体的には、ICTなどを活用しつつ、申告・納付手続の利便性の向上や適正・公平な課税の実現に引き続き取り組む所存であり、税務行政に対する国民の皆様からの信頼に応えてまいりたいと考えております。
 
以上、今後の経済財政運営についての抱負とその主な取組について申し述べてまいりました。日本が直面する課題を一つ一つ解決していくべく、「国の信用を守り、希望ある社会を次世代に引き継ぐ」との組織理念を胸に、副大臣、政務官、そして総勢7万人からなる財務省職員とともに、全力で職務に邁進していく所存です。
 
本年が皆様にとって良い一年となりますよう祈念しまして、新年の挨拶とさせていただきます。