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職員トップセミナー

講師 出雲 充 氏(株式会社ユーグレナ 代表取締役社長)

演題 私はミドリムシで世界を救うことに決めました。 令和3年11月16日(火)開催

1.私とユーグレナ

1.ムハマド・ユヌス博士との出会い

(1)ごく普通の中流家庭で育つ
私は東京の多摩ニュータウンで育ちました。父親はサラリーマン、母親は専業主婦、そして私と弟の4人家族、なんの特徴もない平凡な中流家庭です。
転機は大学1年生の夏休みに訪れました。私はそれまで一度も海外に行ったことがなかったので、大学1年生の夏に海外に行こうと決めていました。
パスポートを作り、どこに行こうかと考えて、バングラデシュに行くことにしました。そこで人生が変わりました。

(2)バングラデシュは人口大国で最貧国のひとつ
バングラデシュは、2つのことがよく知られています。1つ目は、九州の2倍ほどの国土に1億6千万人もの人が暮らす人口大国ということ、2つ目が最貧国のひとつだということです。
バングラデシュの労働人口のうち、第一次産業である農家は40%で、そのほとんどが一日の所得が1ドル程度、年間所得が4万円に届きません。国連のSDGsの17のゴールの一番は貧困の撲滅で、国連は1日1.9ドル以下で暮らす人を極度の貧困層と定義していますが、バングラデシュの農家はこの1.9ドルにすら届いていません。

(3)グラミンバンクで1か月のインターンシップ
私はバングラデシュにあるグラミンバンクで1か月間インターンをしました。「グラミン」はベンガル語で「農家」という意味です。グラミンバンクは、2006年にノーベル賞を受賞したムハマド・ユヌス博士が貧しい農家のために設立した銀行で、現在ではグラミン銀行が9百万人に1兆円の融資をしています。
グラミンバンクは字が読めない、名前が書けない人に、年収に等しい3万円を融資してくれます。私が手伝った支店では、融資を受けた農家はこの3万円でヤギを買い、農作業の合間にヤギの乳搾りをしてヤギのミルクを市場で販売しました。一日農作業をしても所得は100円ですが、ヤギのミルク販売をすると、売り上げが500円になります。所得が5倍になって、収入も安定しますから、一年後、融資を受けた全員が3万円を返済します。ユヌス博士は、極貧の生活を強いられている農家の人々の生活基盤づくりをずっと続けて来られました。
私は大学1年生の時に、この「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」という素晴らしいソーシャルビジネスを世界で一番貧しい国で実現しているのを目の当たりにして「自分は将来、絶対こういう仕事しよう」と決めました。ムハマド・ユヌス博士との出会いは、私が起業した1つ目の理由です。

2.栄養失調者に栄養価の高い食べ物を届けたい

(1)コメしかなくて栄養失調に
私が起業した二つ目の理由についてお話します。
バングラデシュは最貧国のひとつですから、食べ物がなくて困っていると思っていましたがそうではありませんでした。朝、昼、晩、食べ切れないボリュームのカレーが出てきます。日本では1年間に50キロのお米が食べられますが、バングラデシュの人は、日本人の3倍以上、年間160キロのお米を食べています。それなのに、子どもはみんなおなかだけ膨らんで手足が細く、痛々しい体型になっています。
なぜかというと、カレーに具が入っていないからです。ニンジンも玉ねぎも肉も魚も牛乳も卵も。人間が健康に生活するためには新鮮な野菜や果物、肉や卵、牛乳などが必要ですが、バングラデシュでは食べられるのは米ばかりで栄養失調に陥っていたのです。
今、十分な食料にアクセスできずに困っている人は世界で10億人いますが、この10億人は、空腹で困っているわけではなく栄養失調で困っています。
このことが忘れられず、私は日本に帰ってから徹底的に栄養の勉強をしました。日本で一番栄養価の高いものをバングラデシュに持って行き、喜んでもらおうと決めてたどり着いたのが微細藻類のユーグレナです。

(2)栄養価の高いユーグレナ
ユーグレナの緑色は植物の葉の色で葉緑素、クロロフィルの色素の色です。ユーグレナは光合成をする植物プランクトンですが動物性の栄養素も作れます。植物と動物の両方の遺伝子があり、人間が生活するために必要な植物と動物の59種類の栄養素を作れます。
私は、この栄養たっぷりのユーグレナをバングラデシュに持っていこうと決めました。大学3年生、二十歳のときです。
しかし、当時ユーグレナの大量培養技術は確立されていませんでした。ユーグレナは光合成で増えますが食物連鎖の底辺にいるため、他の微生物がユーグレナの培養槽に混入するとユーグレナを食べてしまいます。昔から多くの研究者がユーグレナの大量培養に取り組んできましたが成功しませんでした。
それでも何とかバングラデシュに届けたいという思いで、日本中の研究者の先生方に教えて頂きながら研究を続け、2005年12月16日、世界で初めてユーグレナの食用屋外大量培養に成功しました。それまでは一年間付きっ切りで実験室の中で培養をしても、収穫できるのはわずか100グラムでしたが、今は石垣島で一年間に160トンのユーグレナを生産できます。

3.ユーグレナでベンチャー企業を設立

(1)500社から断られる
2005年にユーグレナを大量に培養することができるようになり社会実装の応用研究を終えて、いよいよ販売できる、と営業に行きました。しかし、企業側の反応は冷たいものでした。訪問した企業ではユーグレナの和名であるミドリムシから「イモムシやアオムシ、毛虫の仲間だと思っていた」「ユーグレナがそんなにすごいものなら、なぜ今までほかの会社ではやっていないのか、なぜ採用実績がないのか」と言われました。
今まで世界中で研究され、それでも培養できなかったものがようやくできるようになったのに、実績がないから駄目だと言われてしまったのです。2006年1月から2007年12月の2年間で500社に出向きましたが、和名の「ミドリムシ」という名前が気持ち悪い、実績がない、という2つの壁は高く、1社もユーグレナに興味を示してくれませんでした。

(2)大手総合商社が初めてユーグレナに出資
いつ倒産してもおかしくない。2007年の大晦日は本当に辛かったのですが、そんな時「新聞でユーグレナのことを読んでとても面白そうだから当社の試験を受けてみませんか」と大手総合商社の方から連絡が来ました。501社目、これが駄目だったら倒産して自己破産しようと覚悟し、とにかく一生懸命何度も資料を作り直して挑みました。そして2008年のゴールデンウィークが明けた週「一緒に頑張りましょう」と言って頂けたのです。今までの人生でこんなにうれしかったことはありません。
2008年5月からこの企業と一緒に全国にユーグレナの説明に行くと、かつてと反応が全然違いました。「目の付けどころが違いますね。これからはユーグレナの時代です」となるのです。
その後、「ユーグレナGENKIプログラム」というものを立ち上げて、バングラデシュでユーグレナ入りの栄養豊富なクッキーを小学校で子どもたちに配り、健康状態の改善に取り組みました。その活動を知ったWFP(国連世界食糧計画)、FAO(国連食糧農業機関)、UNDP(国連開発計画)とベンチャー企業である私たちが日本の民間企業として初めて包括提携を結びました。今でも、バングラデシュのスラム街を中心に毎日約1万人の子どもたちにユーグレナ入りクッキーを配布する活動を続けています。

4.ベンチャー発のイノベーションを生かせ
私が立ち上げた会社は東京大学農学部発のベンチャー企業の一つです。2021年時点で大学発ベンチャー企業は2,905社で、もうすぐ3,000社です。その中で60社以上が上場していますが、その多くが東証マザーズ、新興市場での上場です。私たちの会社は2014年12月3日に東証一部に上場しました。10年前に3人でなけなしの貯金をはたいて1,000万円でつくった会社がたった10年で東証一部に上場し、時価総額が一時1,000億円にもなりました。
しかし、私が説明に行った500社は、ユーグレナなんて見たことも聞いたこともないから駄目だ、リスクがあるから無理だ、と言いました。これが日本のスタートアップ、ベンチャー企業にとって最大の急所、ボトルネックです。
もし、皆さんのところに情熱を持った大学の先生や若者が来た時に何と答えるでしょうか。「そんなこと知らないから、無理だよ、駄目だよ、やめなさい」ではイノベーションは絶対に起きません。「知らないけれど、おもしろそうだ。チャンスかもしれない。どうしたら世の中で受け入れられて皆の役に立つものになるのか」という視点に立って、先輩としての経験と見識を日本の大学と若者に投資するかどうかにかかっています。
日本はベンチャー企業に冷たい国です。スイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)でも、世界経済フォーラムダボス会議でも、日本はベンチャーを応援することについて最下位に位置付けられています。コロナ禍で世界中がベンチャー企業を応援しています。米国では、新型コロナウイルス感染症が拡大する前のベンチャーに対するリスクマネーは15兆円でしたが、コロナ後には17兆円に増えました。中国のリスクマネーもコロナ前が2.5兆円でしたが、3兆円に増えました。
インドもフランスもイギリスも、世界中でベンチャーに対するリスクマネーが増えましたが、日本は減っています。新型コロナウイルス感染症拡大の前の日本のベンチャー企業に対するリスクマネーは2,500億円で、ただでさえ少ないのにコロナ後には1,500億円にまで減少しました。
エンジェル投資家(起業後間もない企業に出資する投資家)の投資金額について言えば、アメリカでは成功した起業家が後輩のために毎年2.5兆円投資しますが、日本ではたった80億円です。2015年に日本ベンチャー大賞を受賞して以来、私はずっとこんなにベンチャーに冷たい国はない、日本はこれを変えなければといけない、と訴えています。

5.ミレニアル・Z世代
(1)ミレニアル、Z世代とは
ミレニアル世代は2000年に20歳になった人たち、1980年以降生まれの人たちで、Z世代は1990年代後半から2000年代に生まれた人のことを指します。
私がちょうど1985年生まれなので、ミレニアル世代の先頭バッターです。私の父親が1949年生まれ、団塊の世代の最後で同期生は270万人いますが、私と同じ1980年生まれが150万人、2021年に日本で生まれてくる赤ちゃんはおそらく80万人を切ります。人口構成では団塊の世代が4、ミレニアル世代が2、これから100年の人生を迎える赤ちゃんが1で、ミレニアル世代とZ世代は人口も資本の蓄積も全くないため社会を変えるインパクトを持っていません。

(2)ミレニアル、Z世代が社会の中心に
しかし、4年後にはミレニアル世代、Z世代が社会の中心、主役になります。2025年に生産年齢人口15歳から64歳までの二人に一人がミレニアル世代とZ世代になり、選挙やサービスの供給者、消費者、生活者としても二人に一人以上がミレニアル世代とZ世代が中心になります。
1989年、日本はスイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)の世界競争力ランキングで1位、ダボス会議の競争力フォーラムでも1位で、年末の日経平均終値は3万8,915円でした。
平成の30年間が終わり、2019年では日本はIMDの競争力ランキングで30位、一人当たり生産性では27位、ジェンダーギャップ指数では120位。日本が世界一という指数は一つもありません。日本はこの30年間全く成長していないのです。
ですから、今までとやり方を変える必要があります、それを今こそやらなければいけません。これだけ変化の激しい時代は私たちが初めて経験するものです。
5千万人が利用するまでにどれくらいの時間が必要だったのか、という調査があります。ライト兄弟が飛行機を発明してから5千万人が飛行機を利用するまで68年、ドイツのフェルディナント・ブラウンがブラウン管を発明してから5千万人がテレビを見るようになるまで22年、ジャック・ドーシーがTwitterを発明して5千万人がツイートするまで2年、任天堂がポケモンGOを出して5千万人が遊ぶようになるまで19日です。

(3)デジタルとグリーンが日本を変える
私たちはインパクトフルな新しい発明で世界が一変してしまう社会を生きていますが、今、ポケモンGOよりもインパクトフルなイベントを体験しています。それはコロナショックです。世界中の人が、あっという間に生活が変わってしまいました。それなのに日本は全然変わっていません。
最も変わっていないのはデジタルとグリーンです。デジタル化の度合いにおいて日本はバングラデシュの難民キャンプ以下です。コロナ禍で10万円を国民に給付するための経費が1,500億円かかっていますが、私たちはWFP(国連世界食糧計画)とともに、毎日バングラデシュの難民キャンプで100万人に食料をコストゼロで届けています。難民が全員マイナンバーカードにあたるものと、国連から配布される電子マネーを持っているからです。バングラデシュの難民キャンプの方が日本よりもデジタル化が進んでいます。
今、デジタルとグリーンの分野で日本が変わらなかったら、日本が再び活力ある国になるのが不可能なことは明らかです。今ここで絶対に変わらないといけません。

2.奇跡を起こすための3つの取り組み
1.最高未来責任者(CFO)
私自身も自分が社長を務める会社が変わらなければいけないと考えて、3つのことに取り組んでいます。
一つ目は、自分たちと一番遠い人の意見を会社の中に取り入れようとしています。私たちの会社にはCFOがいます。Chief Financial Officer(最高財務責任者)ではなく、Chief Future Officer、すなわち「最高未来責任者」です。未来の当事者の声を会社に直接取り入れようと、18歳以下の最高未来責任者を全国から公募し、SDGsの17のゴールの中で最も挑戦したい課題はどれで、ユーグレナ社としてこの課題にどのように取り組むのか、という論文を書いてもらいました。小学生から高校3年生まで世界中から500人の応募があった中からこれまでに2人の中高校生をCFOに選びました。未来に生き残る会社、変化し続ける社会に対応できる会社になるために、取締役会、役員会、株主総会など会社に最も縁遠い人の意見を取り入れる仕組みを導入しています。
価値あるイノベーションと多様なアイディアを生み出すことができる組織の条件はすでに明らかになっていて、MIT(マサチューセッツ工科大学)アレックス・ペントランド教授が「そのための条件は3つしかない」と言っています。一つ目は「talk a lot」、たくさん話さないと良いアイディアは出てこないということ、二つ目は「talk equally」、どんな立場の人にも平等に発言の機会がないと良いアイディアは出てこないということ、三つ目が最も難しいことですが、「talk outside」、同じカンパニーや同じ業界、同じ分野の人と会っていても価値あるアイディアやイノベーションは出てこないということです。普段会えない人と強引に会う仕組みを内在化することができるかどうかです。
この3つの条件がイノべーション、価値あるアイディアづくりのための組織設計の肝だ、ということが明らかになっているわけですから、生産性を高めて価値あるアイディアづくりができる組織になるために「最高未来責任者」を取り入れています。

2.徹底的に1番にこだわる

(1)1番以外は存在していないのと同じ
CFOや、CFOとともに活動しているFutureサミットメンバーの彼ら彼女らと「イノベーションを起こすために、必要なものは何か」について2年間ディスカッションしてきて分かったことが一つあります。それは「徹底的に1番にこだわる」です。これが私たちの取り組んでいることの二つ目です。文化、アート、スポーツ、研究、ビジネス等どんな分野でも競争している限り1番でないと駄目なのです。
1番を目指すということは、一回で成功することではありません。1番を目指す過程でたくさん失敗をするでしょう。しかし、それでいいのです。何故なら、1番を目指して失敗の経験を重ねないことには、競争するために必要なアセット、リソースにアクセスできないからです。

(2)適切な科学と繰り返し努力する力
最初にお話ししたとおり、私は平凡な中流家庭で育ちましたが、それでも世界で初めてユーグレナの食用屋外大量培養を成功させることができました。お金持ちかどうか、特別な才能に恵まれているかどうか、家柄やコネがあるかどうか、こうしたものは成功するために本当に必要なものではありません。一回でイノベーション、一回で成功するというのは難しいでしょう。99%失敗します。でも「99%失敗するからやめよう」ではイノベーションは起きません。2回やると0.99の二乗ですから1.99%うまくいきます。3回、4回、5回と繰り返していき、100回やると64%、459回繰り返すと最初と数字が逆になります。1回やって99%失敗するということは、459回努力すると99%うまくいくことと同じ意味です。
イノベーションを起こすために必要なのは「適切な科学」と「繰り返し努力する力」。この2つの掛け算ですべての人、すべての学生、すべての若者がイノベーションを起こすことができます。
新型コロナウイルス感染症の影響が拡大する前に新潟で応用物理学会がありました。その学会のテーマが「いかにしてイノベーションをやり切るか」でした。これは私の人生のテーマでもあります。2014年にノーベル物理学賞を受賞された天野浩先生と一時間お話させていただきました。最後に天野先生が急に「出雲君、あなたは商社に出資してもらうまで500社への営業をよく頑張りましたね。ところで、私の母校である名古屋大学は日本一お金持ちでもなく、日本一偏差値が高いわけでもなく、一番優秀な学生が集まる大学でもない。それでも私は青色LEDを発明しました。私が何回実験に失敗したか、出雲君知っていますか」とお尋ねになりました。私は知らなかったのでお尋ねしたら、1,500回失敗したそうです。先生は「1,500回失敗した人はほかに誰もいなかった」と笑っておられました。私は天野先生の言葉で、お金や能力、家柄などはイノベーションとは関係ないことを確信しました。

(3)メンターとアンカー
若者が繰り返し努力するために必要なもの、それは「メンター」と「アンカー」です。心の底から尊敬している先生、先輩、師匠といったメンターと、そうした人からいただいた手紙、お守り、品物、ハンカチ等のアンカーです。メンターとアンカー、これが1位と2位を分かつ最大のポイントです。
私のメンターはムハマド・ユヌス博士です。ユヌス博士と私は「いつの日か貧困博物館を作ろう」と約束しました。今、貧困博物館をつくっても誰も来てくれないですが、恐竜博物館やSL博物館と一緒で、この世から貧困がなくなったら、貧困のことを学びに皆が博物館に来るようになるでしょう。貧困の撲滅を成し遂げたら、貧困博物館を一緒に作ろう、とユヌス博士と約束をしました。そんなユヌス博士と出会ったバングラデシュで私は1枚のTシャツをお土産に購入しました。実験がうまくいかないときや、営業に行くのがいやだ、もうやめようと思ったとき、クローゼットにあるこのTシャツが目に入るのです。これを見ると、ユヌス博士のこと、大学1年でバングラデシュに行った時のこと、自分がなぜ会社を立ち上げたのかということ、そうしたことを全部思い出して「苦しいけれど明日もう一回だけやってみよう」という気持ちになります。ですから、皆さんには「ぜひこれは」という後輩、学生、若者にとってのメンターになっていただき、そして、アンカーを渡してあげてほしいのです。アンカーは夢や志を忘れずにいるためのものです。情熱を持った若者が500回、1,500回と、繰り返し努力することによって、あらゆる分野で日本はまだ、奇跡を起こすことができます。

3.バイオ燃料への挑戦

(1)電気自動車では解決策にならない
私たちの3つ目の取り組み、それはバイオ燃料の製造です。私は石油が産出されない我が国で「CO2を排出しない国産のバイオ燃料を作って飛行機を飛ばします」と10年間言い続けて、そんなこと絶対にできないとずっと笑われてきました。
日本で電気自動車を使う場合、走行時にCO2は排出されませんが、電気を作るときにはCO2が排出されるのでCO2問題の解決策になりません。
世界のCO2排出量は約350億トンのうち、日本のCO2排出量は約11億トンで世界で5番目に多く排出しています。日本は森林が非常に広いので光合成で毎年2億トンのCO2を吸収してくれますが、同じ量が交通セクターから出てしまいます。さらに、最もCO2が排出されるのはエネルギー変換部門で、発電の工程で4億トンものCO2が排出されますので、日本においてCO2削減に本気で取り組むためには、バイオ燃料が必要です。あまり知られていませんが、日本の最高のハイブリッド車のCO2排出量は、石炭で作られる電気を使用する電気自動車よりも燃費がよくてCO2が少ないのです。
いま日本では乗用車が6千万台走っていますが、将来、6千万台のうち半分の3千万台が電気自動車化したとします。電気代が安い深夜零時から6kWで1時間、3千万台が同時に充電した場合に必要な電力量は1億8千万kWhです。日本の夏の最も暑い日に旧型の石炭火力発電まで含めて根こそぎ動かして1時間に発電している総量が1億8千万kWhですから、どこにもそんな余剰電力はありません。

(2)バイオ燃料の特長
バッテリーがよくなる、安くなる、という人がいますが、そんなことはありません。バッテリーはプラスとマイナスの電位差で発電する二次電池で、どんなに改良しても1キロ当たりのエネルギー量は100Whしか充電できません。物理的に限界が決まっています。
一方で、私たちが作っているバイオ燃料(原料には使用済み食用油とユーグレナ由来の油を使用)は同じ1キロ当たりのエネルギー量は12,000Whもあります。これまでバイオ燃料は質が悪く、たくさんの量を入れると車が故障したり、排ガスが規制値を超えてしまう、というイメージがありましたし、国の規定で一般的なバイオディーゼル燃料は上限5%までしか混ぜられません。
しかしユーグレナ社が作ったバイオ燃料は、今までのものと全く質が違います。私たちが作ったバイオディーゼル燃料「サステオ」は市販の軽油と同じ品質なのです。
ユーグレナは油田と違って生産量を増やすことができます。そして今まで最大のネックだったバイオディーゼル燃料の混合上限5%という制限を超えて100%まで使えるようになることを実現しようと、10年前から研究開発に取り組み、やっとディーゼル用とジェット用のバイオ燃料を出荷できるようになりました。
1リットルの石油を燃やすと、2.6キロのCO2が出てきますが、国産のバイオ燃料ではこの2.6キロを光合成で吸収してくれるので、CO2の排出量はプラスマイナスゼロという考え方ができます。運ぶ段階でCO2が出ますが、ここも再生可能エネルギーで充電したバッテリーを使ったり、グリーンな水素を使えばCO2排出量は限りなくゼロになります。

(3)バイオ燃料を飛行機と自動車に
私は「国産のバイオ燃料を作って飛行機を飛ばします」と言い続けて、2021年にようやくバイオ燃料で飛行機が飛びました。
モータースポーツの「スーパー耐久レースin岡山」にも参加し、マツダのレース用の車が化石燃料を一滴も使わずに完走しました。私たちが製造するバイオディーゼル燃料「サステオ」は、揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)上も問題なく、JIS規格上も軽油と全く同じ品質であること、よって軽油と混合せずバイオ燃料100%で走行しても問題ないことを説明し、マツダに使ってもらいました。
これまでCO2を排出しない取り組みでスーパー耐久レースに参加する車はトヨタの水素エンジン車しかありませんでしたが、今回、マツダがエンジン等の改造も一切なく、バイオ燃料でカーレースができることを証明しました。

4.大学発ベンチャーが日本再成長のエンジンに
日本のスタートアップ、特に大学発ベンチャーには、まだまだ山ほど夢とイノベーションが埋もれています。ですから、ここに注目してリソースを投入すれば、日本はあっという間に元気になります。
全国にある国立大学を中核として、地元企業と大企業と地域金融機関を結びつけるのです。地域金融機関全体の総資産のうち地場のベンチャー企業を応援するリスクマネーに回っているのは、総資産200兆円のうちわずか0.5%しかありません。地元のことを一番よく知っている地域金融機関が地元の企業、地元のベンチャー企業、地元の大学発スタートアップを応援するために、少なくとも2倍投資をしてくれれば、いいベンチャー企業が次々と生まれてきます。
大学発ベンチャーは3,000社近くあり、そのうち上場を果たしたのは67社で約2%です。政府は「2023年までに20社のユニコーン(企業評価額が10億ドル以上で、創業10年以内の、未上場の、テクノロジー企業)を創出する」という目標を掲げていますが、大学発ですでに7社、ユニコーンが存在しています。この7社にプラスして、全国津々浦々、大学発ユニコーンを全都道府県で創出します。そして、2025年の関西万博に集まってもらい、大学と若者が大学の技術を使ってイノベーティブなベンチャー企業を日本全国で立ち上げ日本のGDPを1ポイントアップさせた、と世界に発信したいと思っています。
全国にいる素晴らしい技術を持っている先生方や若者と一緒にユニコーンを創出していくことが私のライフワークです。「日本の再成長、リスタートのエンジンは若者のイノベーションと大学発のスタートアップだ」ということを実現したいという切なる思いです。

講師略歴
出雲 充(いずも みつる)
株式会社ユーグレナ 代表取締役社長
東京大学農学部を卒業後、2002年東京三菱銀行入行。同行を退職後、2005年株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。世界初の微細藻ユーグレナ(和名:ミドリムシ)食用屋外大量培養に成功。
世界経済フォーラム(ダボス会議)ヤンググローバルリーダー、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」、第五回ジャパンSDGsアワード「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」受賞。
経団連審議員会副議長、産業構造審議会委員、知的財産戦略本部員、経産省SDGs 経営/ESG投資研究会委員、ビル&メリンダ・ゲイツ財団SDGs Goalkeeperを務める。
著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)『サステナブルビジネス』(PHP 研究所)など。