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令和4年度防衛関係予算について

主計局主計官 渡辺 公徳

1.令和4年度予算編成の基本的な
考え方
令和4年度の防衛関係予算は、平成30年12月18日の国家安全保障会議及び閣議において決定された「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」及び「中期防衛力整備計画(平成31年度~平成35年度)について」(以下「中期防」という。)等に基づき編成を行い、防衛省情報システム関係経費のうちデジタル庁に計上する318億円を含め、全体で5兆4,005億円(対前年度比+1.1%)を計上している。このうち、SACO関係経費*1、米軍再編関係経費*2等を除く中期防対象経費については、中期防を踏まえ実質+1.1%の伸びとし、5兆1,788億円を措置している。(図表1 防衛関係予算の推移)
中期防対象経費については、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力の強化など、多次元統合防衛力の構築を推進するとともに、原価の精査、仕様の見直し等の装備調達の最適化や、重要度の低下したプロジェクトの見直しを実施している。
また、新規後年度負担については、将来における予算の硬直化を招かないよう伸びを抑制しつつ、2兆9,022億円(対前年度比+11.8%)を計上しており、このうち、中期防対象経費は、中期防で規定された新規契約額の上限(17兆1,700億円程度)を踏まえつつ、2兆4,583億円(対前年度比+2.0%)を措置している。(図表2 新規後年度負担額の推移)

2.令和4年度予算における主要事業
令和4年度予算では、防衛力の整備等に必要な事業を着実に推進しているところ、その主な内容は以下のとおりである。*3

(1)宇宙・サイバー・電磁波等の領域における能力の獲得・強化
領域横断作戦を実現するため、優先的な資源配分や我が国の科学技術の活用により、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力を獲得・強化する。

ア 宇宙領域における能力強化
○宇宙空間の安定的利用を確保するための取組
・宇宙空間の安定的な利用を確保するため、低軌道の宇宙物体をより正確に監視できるSSAレーザー測距装置を取得(190億円)。
・米軍及び国内関係機関等と連携した宇宙状況監視を行うために必要な関連器材等の取得等(77億円)。
○宇宙領域における体制整備(宇宙作戦群の改編)
・我が国の人工衛星に対する電磁妨害状況を把握するため、第2宇宙作戦隊(仮称)を新編するとともに、宇宙領域に関する装備品を維持管理する宇宙システム管理隊(仮称)を新編。なお、既存の宇宙作戦隊は第1宇宙作戦隊(仮称)に改編。

イ サイバー領域における能力強化
○サイバー関連部隊の体制の強化
・共同の部隊である自衛隊サイバー防衛隊の増員をはじめ、サイバー関連部隊の体制を拡充し、サイバー防衛能力を強化。
○システムの強靭化
・陸上自衛隊の全システムの防護、監視、制御等を一元的に行うシステムを整備(64億円)。

ウ 電磁波領域における能力強化
○電磁波作戦能力の強化
・艦艇の電子戦訓練支援能力を向上させるため、UP-3Dの搭載機器の換装及び機体改修を実施(1式:57億円)。
○電磁波作戦能力の強化に資する研究開発
・効果的な電波妨害を実施することにより自衛隊の航空作戦の遂行を支援する、スタンド・オフ電子戦機を開発(190億円)。

(2)従来の領域における能力の強化
領域横断作戦の中で、宇宙・サイバー・電磁波の領域における能力と一体となって、航空機、艦艇、ミサイル等による攻撃に効果的に対処するため、海空領域における能力、スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、機動・展開能力等を強化する。

ア 海空領域における能力強化
○戦闘機の取得、スタンド・オフ防衛能力の強化
・電子防護能力に優れたF-35A(8機:768億円)及びF-35B(4機:510億円)を取得し、航空優勢を確保し戦闘機運用の柔軟性を向上。
・周辺諸国の航空戦力の強化に対応するとともに、防空等の任務に適切に対応するため、F-15に対しスタンド・オフ・ミサイルの搭載、搭載弾薬数の増加及び電子戦能力の向上等に必要な改修を実施するための関連経費を計上(520億円)。
○艦艇の建造等
・多様な任務への対応能力の向上と船体のコンパクト化を両立した護衛艦(3,900トン)(2隻:1,028億円)や、探知能力等が向上した潜水艦(3,000トン)(1隻:736億円)を建造。
・「いずも」型護衛艦の改修において装備する着艦誘導装置の取得等(61億円)。
○哨戒機の取得等
・現有の固定翼哨戒機(P-3C)の除籍に伴い、その後継機として探知識別能力、飛行性能、情報処理能力等が向上したP-1の構成品を取得(141億円)。
・海上自衛隊における各種任務への適合性、有人機等との連携要領及び省人化/省力化に寄与する導入のあり方を検証するために滞空型UAV(無人航空機)の試験的運用を実施(47億円)。

イ 総合ミサイル防空能力の強化
○ミサイルの取得、システム整備等
・航空機や巡航ミサイルによる攻撃からの防護を目的としてイージス艦(「まや」型護衛艦)に搭載する長距離艦対空ミサイルであるSM-6を取得(202億円)。
・能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3MSE)の取得等(1式:159億円)、03式中距離地対空誘導弾(改善型)(中SAM(改))の取得(1式:137億円)。

ウ 機動・展開能力の強化
○戦車・機動戦闘車の取得
・各種事態において迅速かつ機動的な運用が可能である16式機動戦闘車を取得(33両:237億円)するほか、10式戦車を取得(6両:83億円)。
○輸送アセットの取得等
・島嶼部への輸送機能を強化するため、中型級船舶(LSV)1隻及び小型級船舶(LCU)1隻を取得(102億円)。

エ UAVの活用及び対処能力の強化
・車両への器材搭載による小型の攻撃型UAVの探知・迎撃手段について研究(1億円)。

オ 人的基盤の強化
○女性の活躍推進、生活・勤務環境の改善
・女性自衛官の教育・生活・勤務環境の基盤整備を実施(58億円)。
・自衛隊施設の整備を実施(631億円)。

(3)持続性・強靭性の強化
平時から有事までのあらゆる段階において、部隊運用を継続的に実施し得るよう、弾薬及び燃料の確保、自衛隊の運用に係る基盤等の防護等に必要な措置を推進するとともに、各種事態に即応し、実効的に対処するため、装備品の可動率確保のための取組を推進する。
ア 継続的な部隊運用に必要な各種弾薬の取得(1,659億円)
イ 装備品の維持整備に必要な経費の着実な確保(10,928億円)

(4)防衛技術基盤・防衛産業基盤の強化
将来の戦い方を生み出す技術分野において技術的優越を確保するため、革新的・萌芽的技術の発掘・育成に資する活動を推進し、新たな領域に関する技術や、人工知能(AI)等の重要技術に対して重点的な投資を行う。また、装備品の生産・運用・維持整備に必要不可欠な我が国の防衛産業基盤を強化するため、サプライチェーンの維持・強化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進等を行う。

ア 防衛技術基盤の強化
○革新的・萌芽的技術の発掘・育成に資する活動
・安全保障技術研究推進制度(101億円)
○先端技術に関する取組
・先端技術の早期実用化に資する取組(84億円)
・将来レールガンの研究(65億円)
○次期戦闘機に関する取組
・次期戦闘機の開発(858億円)
○スタンド・オフ防衛能力の強化
・島嶼防衛用高速滑空弾の研究(145億円)

イ 防衛産業基盤の強化
○防衛関連中小企業のサイバーセキュリティ対策の向上を図るため、脆弱性調査等を実施(8億円)

(5)米軍再編、基地対策等の推進
ア 米軍再編等関連軽費(2,217億円)
米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄県をはじめとする地元の負担軽減を図るため、在日米軍の兵力態勢の見直し等についての具体的措置を着実に実施。
○米軍再編関係経費[地元の負担軽減に資する措置](2,080億円)
・普天間飛行場の移設、在沖米海兵隊のグアムへの移転、嘉手納以南の土地の返還等を推進。
○SACO関係経費(137億円)
・沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の最終報告に盛り込まれた措置を着実に実施。

イ 基地対策等関連経費(4,718億円)
防衛施設と周辺地域との調和を図るため、基地周辺対策を着実に実施するとともに、在日米軍の駐留を円滑かつ効果的にするための施策を推進。
○基地周辺対策経費(1,186億円)
・自衛隊の行為や防衛施設の設置等により発生する障害の防止等を図るため、住宅防音や周辺環境整備を実施。
○在日米軍駐留経費負担(「同盟強靱化予算」)(2,056億円)
・新たに実質合意に至った特別協定等に基づき、在日米軍従業員の給与の負担、提供施設の整備、訓練資機材の調達等を実施。
○施設の借料、補償経費等(1,476億円)
・防衛施設用地等の借上や水面を使用して訓練を行うことによる漁業補償等を実施。

3.効率化・合理化への取組
令和4年度においては、防衛力整備を効率化・合理化することにより、4,390億円のコスト縮減を図ることとしている。(図表3 防衛力整備の一層の効率化・合理化の取組例)
(1)事業等に係る見直し
[縮減見込額:2,117億円]
重要度の低下した装備品の運用停止や、費用対効果の低いプロジェクトの見直し・中止、維持・整備方法の見直しにより、コスト縮減を追求する。
○短SAM等の誘導弾の信頼性回復について、耐用年数を超過し、使用不能となった部品のみを交換することにより、事業費を削減[縮減見込額:43億円]
○艦載型 UAV(小型)に関する研究について、供試用器材の取得をする代わりに、民間事業者に性能試験を委託し、効率化[縮減見込額:7億円]

(2)仕様の共通化・最適化
[縮減見込額:974億円]
モジュール化・共通化や民生品の使用・仕様の見直しにより、装備品の構成について見直しを行い、開発、取得にかかる期間を早期化すると共に、ライフサイクルコストの削減を図る。
○12式地対艦誘導弾(能力向上型)の地発型、艦発型、空発型について、設計等をファミリー化することにより、効率化[縮減見込額:168億円]

(3)一括調達・共同調達による効率化
[縮減見込額:129億円]
装備品のまとめ買い等により、価格低減と取得コストを削減する。
○輸送機(C-2)用エンジンについて、2式をまとめ買いすることにより、取得コストを抑制[縮減見込額:26億円]

(4)長期契約による効率化
[縮減見込額:19億円]
5か年度を超える長期契約の活用により、調達コストの縮減と安定的な調達を追求する。
○輸送機(C-130R)の機体維持等について、個々の修理ではなく、一定期間の包括的な契約(PBL)を行うことによる効率化[縮減見込額:16億円]
○輸送機(C-2)等の機体構成品について、値上がりが予想されることから、長期契約を活用することにより調達コストを縮減[縮減見込額:3億円]

(5)原価の精査等[縮減見込額:1,152億円]
装備品等について、価格や関連経費の精査等の取組を通じ、価格低減を追求する。
○護衛艦(3,900トン)について、市況の動向を反映した部材価格の見直しや習熟度の向上に伴う加工工数の減少等による減[縮減見込額:32億円]
○戦闘機(F-35)について、米国政府を通じた他FMS国との費用分担等の価格精査交渉等による減[縮減見込額:59億円]

4.今後の課題
周辺国の軍事力の近代化・強化や軍事活動の活発化など、我が国を取り巻く安全保障環境が急速に変化する中、我が国の防衛整備の在り方が根本から問われている。こうした中、政府として、今後、概ね1年をかけて、「国家安全保障戦略」、「防衛計画の大綱」、「中期防」を新たに策定することとしている*4。
これらの文書は、日本の防衛戦略のみならず、国民の安全・安心を如何に確保するかといった国家の在り方をも規定するものであり、その策定には国民的な議論が求められる。とりわけ、防衛予算については、これまでも他の経費より優先して手厚く配分してきており、その多寡を巡る議論は他の経費への配分にも影響し得るものである。限られた財源を生かすためにも、変化する国際情勢を冷静かつ的確に捉えた戦略・作戦・戦術を取っているか、これらに応じた自衛隊の態勢・組織の見直しは十分か、といった観点を含め、地に足の着いた、現実的な議論を丁寧に積み重ねていくことが重要である。

*1)SACO関係経費とは、沖縄に関する特別行動委員会(SACO:Special Action Committee on Okinawa)最終報告(平成8年12月2日)に盛り込まれた措置を実施するために必要な経費を指す。
*2)米軍再編関係経費とは、「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組について」(平成18年5月30日閣議決定)及び「平成22年5月28日に日米安全保障協議委員会において承認された事項に関する当面の政府の取組について」(平成22年5月28日閣議決定)に基づく再編関連措置のうち、地元の負担軽減に資する措置を実施するために必要な経費を指す。
*3)予算額は(5)を除き契約額ベース。なお、初度費(専用治工具費や初度設計費等)は含まない。
*4)上記の3つの文書は、(1)「国家安全保障戦略」において、外交政策・防衛政策を中心とした国家安全保障の基本方針を定め、(2)「防衛計画の大綱」で防衛力の在り方と保有すべき防衛力の水準を規定し、(3)「中期防」で今後5年間の経費の総額と主要装備の整備数量を明示する、という関係にある。