主計局主計官 北尾 昌也
1.基本的考え方
令和4年度予算の公共事業関係予算については、「令和4年度予算の編成等に関する建議」(令和3年12月3日、財政制度等審議会・財政制度分科会)も踏まえ、主に以下のような考え方により、編成を行った。
(1)我が国においては、これまでインフラ整備を着実に進めてきた結果、バブル景気絶頂期の30年前と比較しても、高速道路、新幹線、空港、港湾、生活関連施設等の社会資本の整備水準は大きく向上しており、社会インフラは概成しつつある。
(2)こうした点や、今後人口減少等により社会資本における人口一人当たりの維持管理コストの増加が見込まれること、そして厳しい財政事情を踏まえ、インフラ整備を「量」で評価する時代は終わり、より少ない費用で最大限の効果が発揮されているかという「質」の面での評価が重要な時代になっている。
(3)「量」から「質」への転換、メリハリをつけた社会資本整備に向けた一つの傾向として、近年、激甚化する水災害や予想される巨大地震等への対応にインフラ整備の予算を重点化してきている。
(4)これまでの予算編成においては、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の初年度について令和2年度第3次補正予算で機動的な対応のため1.7兆円を計上した。令和3年度予算では、公共事業関係費の総額を横ばいとしつつ、国土強靱化関連予算の増額(3.5兆円→3.8兆円)を官民連携による「流域治水」への支援の拡充によるなど安易なハード整備が軸にならぬようにするとの方向性を示している。
(5)しかしながら、予算が適切に執行されているか、という点に関しては、翌年度への繰越額が増加傾向にある。
(6)令和2年度末における繰越額が増えたのは、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の初年度として、前年度を上回る規模の補正予算を措置したことが大きな要因と考えられる。その一方で、当初予算における公共投資予算の繰越額も増加傾向にある。臨時・特別の措置の一環として当初予算を増額させた令和元年度・2年度は繰越額も平成30年度末の2.0兆円から2.6兆円に増加している。
(7)公共事業の当初予算における事業(工期1年程度)の執行状況を見ると、約3割の事業が年度後半になって契約がなされており、約4割の事業は、年度末に繰越手続きを行った上で、翌年度にかけて執行されている。効率的・計画的な事業執行を進める観点から、翌年度にまたがる見通しが立つ事業については、国庫債務負担行為を活用すること等により、執行の平準化を図りつつ、可能な限り繰越額を減らしていくべきである。
(8)もとより、執行上の工夫以前に、公共事業関係費が漫然と高水準で高止まりすることは避けねばならない。補正予算を含め、執行可能性を見極めつつ、真に必要な事業を厳選すべきである。
(9)「量」から「質」への転換の更なる進展に向けては、防災・減災対策、生産性向上対策、老朽化対策といったインフラ整備の各分野において、これまで以上にソフト対策とハード対策を一体のものとして効果を最大化させることは絶対条件である。そのためには地方公共団体・住民・民間事業者等、あらゆる関係者の行動変容を促すことが重要である。
(10)このため、令和4年度の公共事業関係費については、安定的な確保を行い、その中で、防災・減災対策におけるソフト対策の強化や新技術の活用による老朽化対策の効率化といった観点を踏まえつつ、防災・減災、国土強靱化の取組への重点化を実施するほか、人口減少に対応した広域的なコンパクト・プラス・ネットワークの推進や生産性向上・成長力強化につながるインフラ整備を進める観点から、メリハリ付けを強化することとした。
2.総額の水準
令和4年度の公共事業関係費の一般会計予算は、前年度比+26億円(+0.0%)の6兆575億円となっている。
また、防災・減災、国土強靱化関連予算についても、前年度比+1,144億円(+3.0%)となっている。
3.主な施策の概要
令和4年度の国土交通省予算では、主に以下のような施策を講じることとしている。
※以下、計数は令和3年度当初予算⇒令和4年度予算
(1)ハード・ソフトが一体となった防災・減災対策の推進
ア.防災・安全交付金における防災・減災に資するソフト対策の推進
防災・安全交付金 8,156億円
防災・減災対策の効果を最大化するため、避難確保計画を策定していない社会福祉施設等を抱えるなどソフト対策が不十分な市町村について防災・安全交付金による重点配分の対象外とする措置を導入。
イ.浸水被害防止区域等を活用した流域治水対策の加速(個別補助事業等の創設)
40億円(皆増)
新たに創設された浸水被害防止区域(浸水災害レッドゾーン)等を活用した流域治水対策を加速するため、浸水被害防止区域等の指定の方針を含む流域水害対策計画に基づくハード事業を集中的・計画的に推進するための個別補助事業等を創設。
ウ.流域治水プロジェクトの見える化
3,320億円⇒3,602億円(+283億円、+8.5%)
(防災・安全交付金の優先配分額)
防災・安全交付金における流域治水関連施策への優先配分枠を増額した上で、ハード整備効果の最大化を図るため、ソフト対策等の取組状況がプロジェクト間で比較できるように見える化するとともに、ソフト対策等に積極的に取組むプロジェクトに対してハード事業を優先的に支援する仕組みを導入。
エ.防災指針に基づく災害リスク軽減の取組の加速化
(ア) 災害に強い安全なまちづくりに向け、災害リスクの高い地域からの移転など防災指針に基づく取組を加速化するため、
A. コンパクトシティ形成支援事業(5億円)による防災指針の策定支援にあたり当該防災指針において災害リスクを踏まえた居住人口等の定量的な目標設定を行うことを要件化。
B. 都市構造再編集中支援事業(700億円)において、防災指針の策定及び災害リスクを踏まえた居住人口等の定量的な目標設定等を要件とする居住誘導区域への移転促進を支援メニューに追加。
(イ) 上記予算措置と併せ、来年春頃を目途に、まちづくりと併せた土砂災害リスク回避の一環として、土砂災害防止法に基づく移転勧告の考え方の改善(※)も含めて、移転が促進される仕組みを構築。
※これまで都道府県知事が行った移転勧告の事例は2戸に留まり、限定的な運用となっている。
オ.従来の原形復旧を前提としない迅速・柔軟な復興支援
防災・減災対策等強化事業推進費 200億円の内数
防災集団移転促進事業 1億円
自治体が事前の復興まちづくり計画に基づきインフラの原形復旧によらない柔軟な復旧・復興事業を行うワイズスペンディングを促進する制度を創設。再度災害防止に必要な事業費の総額から、従来の原形復旧を前提としない輪中堤の効率的な整備等を通じて節減される事業費を下回る範囲内で、防災・減災対策等強化事業推進費を活用して以下の支援を行うことにより、災害リスクの高い区域からの移転支援に係るインセンティブを付与。
(ア) がけ地近接等危険住宅移転事業の対象区域に浸水被害防止区域を追加し、復興後に浸水を許容する区域を当該区域に指定
(イ) 都市構造再編集中支援事業による都市機能のまちなか移転支援の対象に金融機関等の公共性の高い民間施設を追加
併せて、防災集団移転促進事業の活用に際し、移転先での空き家等の既存ストックの利用が可能となるよう要件を緩和。
カ.地方整備局等の執行体制の強化
23,518人⇒23,653人(+135人)
大規模災害からの復旧・復興や災害発生時におけるTEC-FORCEの自治体への派遣に加え、地域の防災・減災、国土強靱化の取組を図る観点から、地方整備局等の人員を増員し体制を強化。
(2)生産性向上
ア.建設業の生産性向上
(ア)ICT施工等による建設現場の生産性向上
10億円⇒10億円(+0億円、+1.7%)
「新経済・財政再生計画改革工程表2021」において、国土交通省におけるICT施工等の取組を加速化し、直轄事業の建設現場の生産性2割向上を2024年度までに実現するなど、ICT施工等により建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指して取組を進めることを明記し、この目標達成に向け、i-Constructionの施策を推進。
※単位労働者・時間あたり付加価値額から算出した建設現場の生産性
:2019年度6.6%(2015年度比の増加率)
(イ)BIM/CIMを活用した新積算システム
0.3億円(皆増)
令和3年度第1次補正予算 1.1億円
設計の3次元化により、工事変更・手直し修繕といった施工時に発見される費用超過リスクを低減するとともに、工事の各工程のコスト・所要時間等の情報をビッグデータ化し、類似工事の積算をより精緻に実施するため、次期積算システムの整備を推進。
(ウ)国庫債務負担行為の積極的な活用
(国庫債務負担行為新規設定額)
1兆5,662億円⇒2兆1,368億円
(+5,706億円、+36.4%)
※公共事業関係費計上分
単年度主義の弊害是正や建設現場の生産性向上に向け、国庫債務負担行為を新規に約2.1兆円設定することにより、施工時期の平準化・施工の効率化を図るとともに、複数年にわたる重要インフラの計画的な整備を円滑化。
イ.国際コンテナ戦略港湾等の機能向上
469億円⇒478億円(+9億円、+1.9%)
船舶の大型化等に伴い、国際基幹航路の寄港地の絞り込みが進展する中、国際コンテナ戦略港湾(京浜港・阪神港)等における国際競争力強化のため、
(ア) 船舶の大型化に対応したコンテナターミナルの整備やコンテナ貨物の集貨事業を重点的に実施するとともに、
(イ) AIを活用したターミナルの機能高度化等の港湾業務の自動化や物流手続の電子化を通じて、港湾物流の生産性向上を促進。
ウ.民間を活用したコンパクトなまちづくり
(ア)「バスタプロジェクト」におけるPPP/PFI活用の加速化
道路改築事業 10,451億円の内数
バスやタクシーの停留所の集約・立体化と併せて商業施設等を設置する「バスタプロジェクト」について、コンセッションをはじめとするPPP/PFIの実施検討を新規採択の要件にするとともに、実施中の事業のうちコンセッション等による地域活性化等の効果が大きいと認められるものに予算を重点的に配分するなど運用改善を行い、民間活力を導入したインフラの効率的活用を推進。
(イ)広域的な立地適正化の促進
人口減少下における広域的な持続可能性を確保するため、都市構造再編集中支援事業(700億円)において、複数市町村が立地適正化計画に基づき、広域的に基幹となる誘導施設の整備を行う場合、
A.連携自治体数に応じて、当該施設の整備への補助上限額の嵩上げを行い、広域レベルで集約的な施設整備を行うインセンティブを付与するとともに、
B.補助対象となる整備主体に都道府県等を追加し、広域連携の実効性を確保。
エ.整備新幹線の着実な整備
804億円⇒804億円(±0億円、±0.0%)
北陸新幹線(金沢・敦賀間)における直近の事業費の増加及び開業遅延を踏まえた整備新幹線をめぐる諸課題への対応を進め、工程全体の管理を徹底した上で、3区間(新函館北斗・札幌間、金沢・敦賀間、武雄温泉・長崎間)の整備を着実に推進するための所要額を計上。
(3)老朽化対策
ア.道路の老朽化対策を勘案した改築支援
自治体におけるライフサイクルコストを意識したインフラ整備を推進するため、橋梁に係る個別施設計画を策定していない自治体については、社会資本整備総合交付金(5,817億円)及び防災・安全交付金(8,156億円)における道路整備(新設・改築等)事業の重点配分の対象外とする措置を導入。
イ.維持管理コストの縮減に資する橋梁撤去
橋梁撤去にあたり、中長期的な維持管理コスト縮減の観点から、交通量や交通利便性の減少等も踏まえて地域の合意形成が図られ、かつ治水効果を確認できる場合には、改築等の実施を伴わない単体での撤去を可能とする運用改善を実施。
※現行制度において、橋梁撤去は、複数の橋梁を集約化した上で、集約先の橋梁への迂回路の拡幅等を併せて行う場合に限り補助対象とされている。
(ア) 道路メンテナンス事業補助
2,223億円⇒2,234億円(+11億円、+0.5%)
(イ) 大規模特定河川事業
351億円⇒354億円(+3億円、+0.9%)
ウ.インフラ老朽化対策の集中的・計画的な実施(個別補助事業の創設)
これまで防災・安全交付金で支援をしていた自治体等へのインフラ老朽化対策について、国土交通省インフラ長寿命化計画を踏まえ、より集中的・計画的に進めるための個別補助事業を創設。
(ア) 河川・ダム・砂防(河川メンテナンス事業等)
151億円(皆増)
(イ) 海岸(海岸メンテナンス事業)
64億円(皆増)
(ウ) 港湾(港湾メンテナンス事業)
59億円(皆増)
(4)コロナ対応
ア.地域経済を支える観光の継続的支援と本格的な観光の復興に向けた施策の推進
一般財源 148億円⇒142億円
(△7億円、△4.4%)
観光財源 300億円⇒90億円
(△210億円、△70.4%)
令和3年度第1次補正予算 102億円
(注1)このほか、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)関連として、「新たなGoToトラベル事業」について令和3年度第1次補正予算2,685億円(注2)を計上したほか、既定経費を活用し、「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化」(1,000億円)及び「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出」(101億円)を実施。
(注2)既定経費の活用(含む地域観光事業支援)を含めると13,239億円。
(注3)上記観光財源には、皇室費計上予算(三の丸尚蔵館の整備)を含む。
(ア)観光需要喚起策については、地域観光事業支援の隣県への対象拡大に加え、今後の感染状況等を十分に踏まえつつ段階的に対象範囲を拡大し、引き続き切れ目のない支援を行う。
(イ)国際観光旅客税収の活用によりデジタル等を活用した地方誘客・周遊に向けた環境を整備するとともに、「第2のふるさとづくり」(反復継続した来訪者の増加等)に取り組む地域や観光産業の付加価値向上、DXの推進による観光サービスの変革と観光需要の創出等を支援。
イ.地域公共交通の維持・活性化(地域公共交通確保維持改善事業等)
206億円⇒207億円(+1億円、+0.5%)
令和3年度第1次補正予算 285億円
(ア) 地域公共交通の維持と活性化のために、自動運転の実証運行や先進・優良事例を含め、地域の多様な主体の連携・協働による取組を支援。また、運行情報のデータ化等を通じた事業の効率化・高度化や鉄道・バス・デマンド交通等の異なる交通モードが連携した路線の再編、貨客混載の導入など、生産性向上や経営の持続可能性の確保に取り組む事業者などを重点的・集中的に支援。
(イ) 地域バスの運行費支援について、改正法に基づく地域公共交通計画の策定を引き続き推進し、経営効率や公的負担等をKPIとして設定する地域の補助路線に対して重点的に配分。
ウ.空港使用料及び航空機燃料税の引下げ
(ア) 新型コロナウイルス感染症の影響による航空会社の厳しい経営状況等を踏まえた上で、インバウンド回復に向けた航空会社の機材投資等を引き続き後押しするため、令和4年度の時限措置として、国内線の空港使用料(着陸料、停留料及び航行援助施設利用料)及び航空機燃料税を減免(700億円規模。上記空港使用料及び航空機燃料税の総額の5割減相当)。
(イ) 令和3年度及び今回の減免による歳入の減少を踏まえ、その回復を図るため、令和7年度から18年度にかけて、空港使用料を適正な水準に定める。
(5)安全・安心の確保
ア.一般会計から自動車安全特別会計への繰戻し
47億円⇒54億円(+7億円、+14.9%)
(ア) 被害者保護増進事業等が安定的、継続的に将来にわたって実施されるよう、54億円の繰戻しを行う。
(イ) また、令和4年度が期限とされていた財務大臣・国土交通大臣間の覚書を令和9年度まで更新し、毎年度の具体的な繰戻額については令和4年度予算における繰戻額を踏まえること、自動車事故対策勘定に係る財政運営の安定性確保に向けて、繰戻しに継続的に取り組むこと及び賦課金制度について令和5年度以降の可能な限り速やかな導入に向けた検討を行い、早期に結論を得ること等について合意。
イ.通学路における交通安全対策の推進(個別補助事業の創設)
500億円(皆増)
「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策(令和3年8月4日)」に基づき実施した通学路合同点検の結果も踏まえ、速度規制等のソフト対策と歩道整備等のハード対策を適切に組み合わせた効果的な交通安全対策を、計画的かつ集中的に支援するための個別補助事業(「交通安全対策補助制度(通学路緊急対策)」)を創設。
ウ.住宅セーフティネットの拡充
(ア) 民間賃貸住宅の活用による住まいの確保や災害リスクの軽減を図るため、低額所得者等が、災害リスクの高い地域等からセーフティネット登録住宅へ移転する場合の住替え費用を支援対象に追加。
(イ) 居住支援協議会、居住支援法人または地方公共団体等が行う、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への入居の円滑化に関する活動等に係る事業について補助上限額を引き上げる要件を緩和。
エ.戦略的海上保安体制の構築等
2,221億円⇒2,231億円(+10億円、+0.4%)
(注)令和3年度当初予算は特殊要因経費を除いた額。令和4年度当初予算はデジタル庁一括計上分を含む。
無操縦者航空機といった新技術も導入しつつ、「海上保安体制強化に関する方針」に基づき、補正予算(388億円)とあわせ、尖閣・大和堆に対応するための大型巡視船を中心に体制強化等を推進。
(ア) 巡視船・航空機の増強、基盤整備
A. 尖閣領海警備体制の強化
大型巡視船4隻の増強 等
B. 海洋監視体制の強化
無操縦者航空機1機の暫定運用
中型ヘリコプター1機の増強 等
C. 基盤整備
体制強化に必要な定員など、差引111人の増員
教育訓練施設の拡充 等
(イ)老朽巡視船の代替
大型巡視船2隻の代替 等
図表.《公共事業関係費》
図表.《国土交通省関係予算》
1.基本的考え方
令和4年度予算の公共事業関係予算については、「令和4年度予算の編成等に関する建議」(令和3年12月3日、財政制度等審議会・財政制度分科会)も踏まえ、主に以下のような考え方により、編成を行った。
(1)我が国においては、これまでインフラ整備を着実に進めてきた結果、バブル景気絶頂期の30年前と比較しても、高速道路、新幹線、空港、港湾、生活関連施設等の社会資本の整備水準は大きく向上しており、社会インフラは概成しつつある。
(2)こうした点や、今後人口減少等により社会資本における人口一人当たりの維持管理コストの増加が見込まれること、そして厳しい財政事情を踏まえ、インフラ整備を「量」で評価する時代は終わり、より少ない費用で最大限の効果が発揮されているかという「質」の面での評価が重要な時代になっている。
(3)「量」から「質」への転換、メリハリをつけた社会資本整備に向けた一つの傾向として、近年、激甚化する水災害や予想される巨大地震等への対応にインフラ整備の予算を重点化してきている。
(4)これまでの予算編成においては、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の初年度について令和2年度第3次補正予算で機動的な対応のため1.7兆円を計上した。令和3年度予算では、公共事業関係費の総額を横ばいとしつつ、国土強靱化関連予算の増額(3.5兆円→3.8兆円)を官民連携による「流域治水」への支援の拡充によるなど安易なハード整備が軸にならぬようにするとの方向性を示している。
(5)しかしながら、予算が適切に執行されているか、という点に関しては、翌年度への繰越額が増加傾向にある。
(6)令和2年度末における繰越額が増えたのは、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の初年度として、前年度を上回る規模の補正予算を措置したことが大きな要因と考えられる。その一方で、当初予算における公共投資予算の繰越額も増加傾向にある。臨時・特別の措置の一環として当初予算を増額させた令和元年度・2年度は繰越額も平成30年度末の2.0兆円から2.6兆円に増加している。
(7)公共事業の当初予算における事業(工期1年程度)の執行状況を見ると、約3割の事業が年度後半になって契約がなされており、約4割の事業は、年度末に繰越手続きを行った上で、翌年度にかけて執行されている。効率的・計画的な事業執行を進める観点から、翌年度にまたがる見通しが立つ事業については、国庫債務負担行為を活用すること等により、執行の平準化を図りつつ、可能な限り繰越額を減らしていくべきである。
(8)もとより、執行上の工夫以前に、公共事業関係費が漫然と高水準で高止まりすることは避けねばならない。補正予算を含め、執行可能性を見極めつつ、真に必要な事業を厳選すべきである。
(9)「量」から「質」への転換の更なる進展に向けては、防災・減災対策、生産性向上対策、老朽化対策といったインフラ整備の各分野において、これまで以上にソフト対策とハード対策を一体のものとして効果を最大化させることは絶対条件である。そのためには地方公共団体・住民・民間事業者等、あらゆる関係者の行動変容を促すことが重要である。
(10)このため、令和4年度の公共事業関係費については、安定的な確保を行い、その中で、防災・減災対策におけるソフト対策の強化や新技術の活用による老朽化対策の効率化といった観点を踏まえつつ、防災・減災、国土強靱化の取組への重点化を実施するほか、人口減少に対応した広域的なコンパクト・プラス・ネットワークの推進や生産性向上・成長力強化につながるインフラ整備を進める観点から、メリハリ付けを強化することとした。
2.総額の水準
令和4年度の公共事業関係費の一般会計予算は、前年度比+26億円(+0.0%)の6兆575億円となっている。
また、防災・減災、国土強靱化関連予算についても、前年度比+1,144億円(+3.0%)となっている。
3.主な施策の概要
令和4年度の国土交通省予算では、主に以下のような施策を講じることとしている。
※以下、計数は令和3年度当初予算⇒令和4年度予算
(1)ハード・ソフトが一体となった防災・減災対策の推進
ア.防災・安全交付金における防災・減災に資するソフト対策の推進
防災・安全交付金 8,156億円
防災・減災対策の効果を最大化するため、避難確保計画を策定していない社会福祉施設等を抱えるなどソフト対策が不十分な市町村について防災・安全交付金による重点配分の対象外とする措置を導入。
イ.浸水被害防止区域等を活用した流域治水対策の加速(個別補助事業等の創設)
40億円(皆増)
新たに創設された浸水被害防止区域(浸水災害レッドゾーン)等を活用した流域治水対策を加速するため、浸水被害防止区域等の指定の方針を含む流域水害対策計画に基づくハード事業を集中的・計画的に推進するための個別補助事業等を創設。
ウ.流域治水プロジェクトの見える化
3,320億円⇒3,602億円(+283億円、+8.5%)
(防災・安全交付金の優先配分額)
防災・安全交付金における流域治水関連施策への優先配分枠を増額した上で、ハード整備効果の最大化を図るため、ソフト対策等の取組状況がプロジェクト間で比較できるように見える化するとともに、ソフト対策等に積極的に取組むプロジェクトに対してハード事業を優先的に支援する仕組みを導入。
エ.防災指針に基づく災害リスク軽減の取組の加速化
(ア) 災害に強い安全なまちづくりに向け、災害リスクの高い地域からの移転など防災指針に基づく取組を加速化するため、
A. コンパクトシティ形成支援事業(5億円)による防災指針の策定支援にあたり当該防災指針において災害リスクを踏まえた居住人口等の定量的な目標設定を行うことを要件化。
B. 都市構造再編集中支援事業(700億円)において、防災指針の策定及び災害リスクを踏まえた居住人口等の定量的な目標設定等を要件とする居住誘導区域への移転促進を支援メニューに追加。
(イ) 上記予算措置と併せ、来年春頃を目途に、まちづくりと併せた土砂災害リスク回避の一環として、土砂災害防止法に基づく移転勧告の考え方の改善(※)も含めて、移転が促進される仕組みを構築。
※これまで都道府県知事が行った移転勧告の事例は2戸に留まり、限定的な運用となっている。
オ.従来の原形復旧を前提としない迅速・柔軟な復興支援
防災・減災対策等強化事業推進費 200億円の内数
防災集団移転促進事業 1億円
自治体が事前の復興まちづくり計画に基づきインフラの原形復旧によらない柔軟な復旧・復興事業を行うワイズスペンディングを促進する制度を創設。再度災害防止に必要な事業費の総額から、従来の原形復旧を前提としない輪中堤の効率的な整備等を通じて節減される事業費を下回る範囲内で、防災・減災対策等強化事業推進費を活用して以下の支援を行うことにより、災害リスクの高い区域からの移転支援に係るインセンティブを付与。
(ア) がけ地近接等危険住宅移転事業の対象区域に浸水被害防止区域を追加し、復興後に浸水を許容する区域を当該区域に指定
(イ) 都市構造再編集中支援事業による都市機能のまちなか移転支援の対象に金融機関等の公共性の高い民間施設を追加
併せて、防災集団移転促進事業の活用に際し、移転先での空き家等の既存ストックの利用が可能となるよう要件を緩和。
カ.地方整備局等の執行体制の強化
23,518人⇒23,653人(+135人)
大規模災害からの復旧・復興や災害発生時におけるTEC-FORCEの自治体への派遣に加え、地域の防災・減災、国土強靱化の取組を図る観点から、地方整備局等の人員を増員し体制を強化。
(2)生産性向上
ア.建設業の生産性向上
(ア)ICT施工等による建設現場の生産性向上
10億円⇒10億円(+0億円、+1.7%)
「新経済・財政再生計画改革工程表2021」において、国土交通省におけるICT施工等の取組を加速化し、直轄事業の建設現場の生産性2割向上を2024年度までに実現するなど、ICT施工等により建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指して取組を進めることを明記し、この目標達成に向け、i-Constructionの施策を推進。
※単位労働者・時間あたり付加価値額から算出した建設現場の生産性
:2019年度6.6%(2015年度比の増加率)
(イ)BIM/CIMを活用した新積算システム
0.3億円(皆増)
令和3年度第1次補正予算 1.1億円
設計の3次元化により、工事変更・手直し修繕といった施工時に発見される費用超過リスクを低減するとともに、工事の各工程のコスト・所要時間等の情報をビッグデータ化し、類似工事の積算をより精緻に実施するため、次期積算システムの整備を推進。
(ウ)国庫債務負担行為の積極的な活用
(国庫債務負担行為新規設定額)
1兆5,662億円⇒2兆1,368億円
(+5,706億円、+36.4%)
※公共事業関係費計上分
単年度主義の弊害是正や建設現場の生産性向上に向け、国庫債務負担行為を新規に約2.1兆円設定することにより、施工時期の平準化・施工の効率化を図るとともに、複数年にわたる重要インフラの計画的な整備を円滑化。
イ.国際コンテナ戦略港湾等の機能向上
469億円⇒478億円(+9億円、+1.9%)
船舶の大型化等に伴い、国際基幹航路の寄港地の絞り込みが進展する中、国際コンテナ戦略港湾(京浜港・阪神港)等における国際競争力強化のため、
(ア) 船舶の大型化に対応したコンテナターミナルの整備やコンテナ貨物の集貨事業を重点的に実施するとともに、
(イ) AIを活用したターミナルの機能高度化等の港湾業務の自動化や物流手続の電子化を通じて、港湾物流の生産性向上を促進。
ウ.民間を活用したコンパクトなまちづくり
(ア)「バスタプロジェクト」におけるPPP/PFI活用の加速化
道路改築事業 10,451億円の内数
バスやタクシーの停留所の集約・立体化と併せて商業施設等を設置する「バスタプロジェクト」について、コンセッションをはじめとするPPP/PFIの実施検討を新規採択の要件にするとともに、実施中の事業のうちコンセッション等による地域活性化等の効果が大きいと認められるものに予算を重点的に配分するなど運用改善を行い、民間活力を導入したインフラの効率的活用を推進。
(イ)広域的な立地適正化の促進
人口減少下における広域的な持続可能性を確保するため、都市構造再編集中支援事業(700億円)において、複数市町村が立地適正化計画に基づき、広域的に基幹となる誘導施設の整備を行う場合、
A.連携自治体数に応じて、当該施設の整備への補助上限額の嵩上げを行い、広域レベルで集約的な施設整備を行うインセンティブを付与するとともに、
B.補助対象となる整備主体に都道府県等を追加し、広域連携の実効性を確保。
エ.整備新幹線の着実な整備
804億円⇒804億円(±0億円、±0.0%)
北陸新幹線(金沢・敦賀間)における直近の事業費の増加及び開業遅延を踏まえた整備新幹線をめぐる諸課題への対応を進め、工程全体の管理を徹底した上で、3区間(新函館北斗・札幌間、金沢・敦賀間、武雄温泉・長崎間)の整備を着実に推進するための所要額を計上。
(3)老朽化対策
ア.道路の老朽化対策を勘案した改築支援
自治体におけるライフサイクルコストを意識したインフラ整備を推進するため、橋梁に係る個別施設計画を策定していない自治体については、社会資本整備総合交付金(5,817億円)及び防災・安全交付金(8,156億円)における道路整備(新設・改築等)事業の重点配分の対象外とする措置を導入。
イ.維持管理コストの縮減に資する橋梁撤去
橋梁撤去にあたり、中長期的な維持管理コスト縮減の観点から、交通量や交通利便性の減少等も踏まえて地域の合意形成が図られ、かつ治水効果を確認できる場合には、改築等の実施を伴わない単体での撤去を可能とする運用改善を実施。
※現行制度において、橋梁撤去は、複数の橋梁を集約化した上で、集約先の橋梁への迂回路の拡幅等を併せて行う場合に限り補助対象とされている。
(ア) 道路メンテナンス事業補助
2,223億円⇒2,234億円(+11億円、+0.5%)
(イ) 大規模特定河川事業
351億円⇒354億円(+3億円、+0.9%)
ウ.インフラ老朽化対策の集中的・計画的な実施(個別補助事業の創設)
これまで防災・安全交付金で支援をしていた自治体等へのインフラ老朽化対策について、国土交通省インフラ長寿命化計画を踏まえ、より集中的・計画的に進めるための個別補助事業を創設。
(ア) 河川・ダム・砂防(河川メンテナンス事業等)
151億円(皆増)
(イ) 海岸(海岸メンテナンス事業)
64億円(皆増)
(ウ) 港湾(港湾メンテナンス事業)
59億円(皆増)
(4)コロナ対応
ア.地域経済を支える観光の継続的支援と本格的な観光の復興に向けた施策の推進
一般財源 148億円⇒142億円
(△7億円、△4.4%)
観光財源 300億円⇒90億円
(△210億円、△70.4%)
令和3年度第1次補正予算 102億円
(注1)このほか、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)関連として、「新たなGoToトラベル事業」について令和3年度第1次補正予算2,685億円(注2)を計上したほか、既定経費を活用し、「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化」(1,000億円)及び「地域独自の観光資源を活用した地域の稼げる看板商品の創出」(101億円)を実施。
(注2)既定経費の活用(含む地域観光事業支援)を含めると13,239億円。
(注3)上記観光財源には、皇室費計上予算(三の丸尚蔵館の整備)を含む。
(ア)観光需要喚起策については、地域観光事業支援の隣県への対象拡大に加え、今後の感染状況等を十分に踏まえつつ段階的に対象範囲を拡大し、引き続き切れ目のない支援を行う。
(イ)国際観光旅客税収の活用によりデジタル等を活用した地方誘客・周遊に向けた環境を整備するとともに、「第2のふるさとづくり」(反復継続した来訪者の増加等)に取り組む地域や観光産業の付加価値向上、DXの推進による観光サービスの変革と観光需要の創出等を支援。
イ.地域公共交通の維持・活性化(地域公共交通確保維持改善事業等)
206億円⇒207億円(+1億円、+0.5%)
令和3年度第1次補正予算 285億円
(ア) 地域公共交通の維持と活性化のために、自動運転の実証運行や先進・優良事例を含め、地域の多様な主体の連携・協働による取組を支援。また、運行情報のデータ化等を通じた事業の効率化・高度化や鉄道・バス・デマンド交通等の異なる交通モードが連携した路線の再編、貨客混載の導入など、生産性向上や経営の持続可能性の確保に取り組む事業者などを重点的・集中的に支援。
(イ) 地域バスの運行費支援について、改正法に基づく地域公共交通計画の策定を引き続き推進し、経営効率や公的負担等をKPIとして設定する地域の補助路線に対して重点的に配分。
ウ.空港使用料及び航空機燃料税の引下げ
(ア) 新型コロナウイルス感染症の影響による航空会社の厳しい経営状況等を踏まえた上で、インバウンド回復に向けた航空会社の機材投資等を引き続き後押しするため、令和4年度の時限措置として、国内線の空港使用料(着陸料、停留料及び航行援助施設利用料)及び航空機燃料税を減免(700億円規模。上記空港使用料及び航空機燃料税の総額の5割減相当)。
(イ) 令和3年度及び今回の減免による歳入の減少を踏まえ、その回復を図るため、令和7年度から18年度にかけて、空港使用料を適正な水準に定める。
(5)安全・安心の確保
ア.一般会計から自動車安全特別会計への繰戻し
47億円⇒54億円(+7億円、+14.9%)
(ア) 被害者保護増進事業等が安定的、継続的に将来にわたって実施されるよう、54億円の繰戻しを行う。
(イ) また、令和4年度が期限とされていた財務大臣・国土交通大臣間の覚書を令和9年度まで更新し、毎年度の具体的な繰戻額については令和4年度予算における繰戻額を踏まえること、自動車事故対策勘定に係る財政運営の安定性確保に向けて、繰戻しに継続的に取り組むこと及び賦課金制度について令和5年度以降の可能な限り速やかな導入に向けた検討を行い、早期に結論を得ること等について合意。
イ.通学路における交通安全対策の推進(個別補助事業の創設)
500億円(皆増)
「通学路等における交通安全の確保及び飲酒運転の根絶に係る緊急対策(令和3年8月4日)」に基づき実施した通学路合同点検の結果も踏まえ、速度規制等のソフト対策と歩道整備等のハード対策を適切に組み合わせた効果的な交通安全対策を、計画的かつ集中的に支援するための個別補助事業(「交通安全対策補助制度(通学路緊急対策)」)を創設。
ウ.住宅セーフティネットの拡充
(ア) 民間賃貸住宅の活用による住まいの確保や災害リスクの軽減を図るため、低額所得者等が、災害リスクの高い地域等からセーフティネット登録住宅へ移転する場合の住替え費用を支援対象に追加。
(イ) 居住支援協議会、居住支援法人または地方公共団体等が行う、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への入居の円滑化に関する活動等に係る事業について補助上限額を引き上げる要件を緩和。
エ.戦略的海上保安体制の構築等
2,221億円⇒2,231億円(+10億円、+0.4%)
(注)令和3年度当初予算は特殊要因経費を除いた額。令和4年度当初予算はデジタル庁一括計上分を含む。
無操縦者航空機といった新技術も導入しつつ、「海上保安体制強化に関する方針」に基づき、補正予算(388億円)とあわせ、尖閣・大和堆に対応するための大型巡視船を中心に体制強化等を推進。
(ア) 巡視船・航空機の増強、基盤整備
A. 尖閣領海警備体制の強化
大型巡視船4隻の増強 等
B. 海洋監視体制の強化
無操縦者航空機1機の暫定運用
中型ヘリコプター1機の増強 等
C. 基盤整備
体制強化に必要な定員など、差引111人の増員
教育訓練施設の拡充 等
(イ)老朽巡視船の代替
大型巡視船2隻の代替 等
図表.《公共事業関係費》
図表.《国土交通省関係予算》