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令和4年度農林水産関係予算について

主計局主計官 野村 宗成

1.令和4年度農林水産関係予算の基本的考え方

(1)米政策の在り方について
主食用米需要が少子高齢化等を背景に減少を続ける中、我が国においては、水田における主食用米から他の作物への転作を助成(水田活用の直接支払交付金*1)することによって、需要の減少と概ね足並みを揃える形で主食用米の生産を減少させてきた(資料1 転作助成金による主食用米の生産抑制参照)。しかし、低収益作物への転作ほど助成金単価が高く設定されている中、我が国の水田農業においては、経営規模が大きくなるほど助成金への依存度が高まり、また収益性が低下するという傾向が見られる(資料2 水田作経営における大規模経営体の収益性参照)。本来大規模経営体には、逆に水田農業全体の収益性の向上をリードしていくことが期待されるところである。
こうしたparadoxicalな状況を打開し、水田農業全体の収益性向上を図る上では、輸出用米や野菜・果実等の「高収益作物」への転作を促していく必要がある。また、そうした取組は、主食用米の国内需要の減少傾向が止まらず、転作面積の拡大傾向が続く中において、本転作助成金の財政的持続可能性を確保していく上でも必要である。
以上のような問題意識を踏まえ、令和3年度補正予算においては、主食用米から輸出用米や高収益作物への作付転換の促進に向け、生産者と実需者の連携による水田農業の生産性向上のための取組を支援することとしている(新市場開拓に向けた水田リノベーション事業等:453億円)。また、令和4年度予算においては、「水田活用の直接支払交付金」(3,050億円)について、輸出用米や高収益作物への作付転換を進めるべく、産地交付金による飼料用米等への転作支援の加算措置を原則廃止するとともに、今後5年間に一度も水張りを行わない農地を交付対象外とする等の見直しを実施することとしている。

(2)農地の集積・集約による生産性の向上について
我が国の基幹的農業従事者*2数は、2020年と比べて2030年には約4割、2040年には約7割減少することが見込まれる(資料3 農地面積・農業人口の減少と農地集積・集約の必要性参照)。こうした中において我が国の農業の生産力を維持、向上させていくためには、農地の集積・集約を進めていく必要がある。農地の集積・集約の推進に当たっては、農地中間管理機構(農地バンク)が大きな役割を果たすことが期待されている。
こうした観点から、令和4年度予算においては、農業経営の生産性向上を図るため、地域の将来的な農地利用の目指すべき姿を示す「目標地図」の実現に向けて、農地バンクを通じた農地の集積・集約の加速化を支援することとしている(令和4年度予算:51億円、令和3年度補正予算:55億円)。

(3)農林水産物・食品の輸出拡大について
少子高齢化が進む中、我が国の国内の飲食料品の市場規模は縮小傾向にある。他方、世界の人口は引き続き拡大傾向にあり、また、新興国や途上国の経済発展が続く中、世界の飲食料品の市場規模は拡大することが見込まれる。我が国の農林水産業の成長産業化を図る上では、成長が見込まれる海外市場の需要を適切に取り込んでいくことが有益と考えられる。そうした中、現在政府全体として我が国の農林水産物・食品の輸出額を2030年に5兆円とする目標を掲げているところである。こうした目標を効率的に達成していくためには、他国の経験も踏まえながら、官民が適切に役割分担し、連携して効果の高い施策に重点化する形で施策を展開していくことが重要である(資料4 国内外の市場の変化と輸出拡大の重要性参照)。
こうした観点を踏まえ、令和4年度予算においては、海外市場のニーズを踏まえ輸出重点品目やターゲット国・地域を定め、官民連携による市場開拓、輸出向け生産を行う産地・事業者への支援、輸出環境の整備等を推進することとしている(令和4年度予算:108億円、令和3年度補正予算:433億円)。

(4)令和4年度農林水産関係予算のポイント
以上の点を中心に、令和4年度農林水産関係予算及び令和3年度補正予算については、
・農林水産物・食品の輸出5兆円目標に向けて輸出力を強化するとともに、「みどりの食料システム戦略」を踏まえ、持続可能な食料システムの構築を推進し、また、スマート農林水産業の展開等を後押しすることとしている。
・コロナ禍の影響を踏まえた米の需給安定や、水田農業の高収益化を進めるほか、競争力強化に向けて農地の大区画化等や集積・集約化を支援するとともに、人口減少等が進む中山間地域等の課題にも対応することとしている。
・森林資源の適正な管理、国産材の安定供給を図り、林業・木材産業の持続的成長を推進することとしている。
・水産改革の方向性に沿って、資源管理に取り組む漁業者への支援や水産業の競争力強化を推進することとしている。
こうした結果、令和4年度の農林水産関係予算は、総額2兆2,777億円と対前年度比▲76億円(▲0.3%)となった(資料5 農林水産関係予算の推移参照)。また、令和3年度補正予算は8,795億円となった。

2.主な施策の概要
以下、主な施策の概要を紹介する(以下の括弧内の金額は前年度当初予算比)。

(1)輸出5兆円目標に向けた輸出力の強化
農林水産物・食品の輸出5兆円目標に向け、海外市場のニーズを踏まえ輸出重点品目やターゲット国・地域を定め、官民連携による市場開拓、輸出向け生産を行う産地・事業者への支援、輸出環境の整備等を推進。
・輸出5兆円目標に向けた輸出力の強化 107.9億円(+8.8億円)、[令和3年度補正予算]432.9億円

(2)「みどりの食料システム戦略」の実現に向けた取組の推進
令和3年5月に策定された「みどりの食料システム戦略」を踏まえ、持続可能な食料システムの構築に向け、脱炭素等の環境負荷軽減に資する基盤技術の開発や、化学農薬・化学肥料の使用量の低減等に取り組むモデル的先進地区の創出等を推進するほか、持続可能性の高い農業生産活動への支援を着実に実施。
・みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業 34.7億円(新規)
・みどりの食料システム戦略推進総合対策 8.4億円(新規)、[令和3年度補正予算]25.2億円
・環境保全型農業直接支払交付金 26.5億円(+2.0億円)

(3)スマート農林水産業、農林水産行政のDXの推進
スマート農業の社会実装を加速するため、スマート農業技術の開発や産地ぐるみの実証等を推進するほか、スマート農林水産業の全国展開に向けてスマート機械等の導入支援を実施。
また、補助金申請手続等のオンライン化や各種台帳で分散管理されてきた農地情報のデータ統合を進め、農林水産行政におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を引き続き推進。
・スマート農業の総合推進対策 14.0億円(+0.4億円)、[令和3年度補正予算]48.5億円
・農林水産省共通申請サービス(eMAFF)等による行政手続の効率化【デジタル庁計上】 44.9億円(+6.0億円)、[令和3年度補正予算]35.2億円
・スマート技術の全国展開に向けた導入支援 [令和3年度補正予算]77.0億円

(4)米の需給安定と水田農業の高収益化の推進
令和3年度補正予算においては、コロナ禍の影響による米の過剰在庫や米価下落への対応として、民間在庫のうちコロナ禍の影響による需要減に相当する15万トンの特別枠を設け、飲食店や子ども食堂等への提供等を支援。また、主食用米から輸出用米や高収益作物への作付転換の促進に向け、生産者と実需者の連携による水田農業の生産性向上のための取組を支援。
令和4年度予算においては、主食用米の中長期的な消費減少を踏まえ、米の需給安定を図るため「水田活用の直接支払交付金」による転作支援を措置。
・水田活用の直接支払交付金 3,050.0億円(±0.0億円)
・コロナ影響緩和特別対策 [令和3年度補正予算]165.0億円
・新市場開拓に向けた水田リノベーション事業等 [令和3年度補正予算]452.5億円
・水田活用の直接支払交付金の追加 [令和3年度補正予算]240.5億円
・農業農村整備事業における臨時特別対策 [令和3年度補正予算]46.0億円

(5)農地の大区画化・汎用化、集積・集約の加速化
農業農村整備事業において、国土強靱化対策等を進めるほか、農業の競争力強化に向けて、農地の大区画化や高収益作物に転換するための水田の畑地化・汎用化を推進。
また、農業経営の生産性向上を図るため、地域の将来的な農地利用の目指すべき姿を示す「目標地図」の実現に向けて、農地バンクを通じた農地の集積・集約の加速化を支援。
・農業農村整備事業関係 4,453.3億円(+23.2億円)、[令和3年度補正予算]1,832.0億円
・農地バンクを通じた農地の集積・集約の加速化 51.2億円(▲15.0億円)、[令和3年度補正予算]54.5億円

(6)中山間地域等の課題への対応
高齢化や人口減少による中山間地域等の集落機能の低下、農地の荒廃等の課題に対応するため、集落の機能を補完し地域コミュニティを維持する農村型地域運営組織(農村RMO:Region Management Organization)の形成を支援するとともに、農地の粗放的利用(放牧等)や農地周辺部の計画的な植林等のモデル的取組を支援。
・農山漁村振興交付金 97.5億円(▲0.5億円)
・多面的機能支払交付金 487.0億円(+0.5億円)
・中山間地域等直接支払交付金 261.0億円(±0.0億円)

(7)林業・木材産業の持続的成長の推進
カーボンニュートラル実現に向けた温室効果ガス吸収量の確保・充実、国土強靱化のほか、林業の持続的発展を図るため、森林資源の適正な管理を推進。また、木材の国際的な需給逼迫(いわゆるウッドショック)に対応するため、国産材の安定供給に向けた環境整備を推進。
・森林整備事業 1,248.2億円(+1.6億円)
・「新しい林業」に向けた林業経営育成対策 5.2億円(新規)
・建築用木材供給・利用強化対策 12.6億円(+0.1億円)
・木材産業国際競争力・製品供給力強化緊急対策 [令和3年度補正予算]494.8億円

(8)水産改革の推進
不漁問題、コロナ禍での需要低迷、燃油価格の高止まりといった課題に対応する観点から、資源管理に取り組む漁業者に対する経営安定対策等を着実に実施するとともに、水産業の成長産業化等に向けて、漁船漁業や養殖業の競争力強化の実証的取組等を支援。
・漁業収入安定対策事業 201.9億円(+1.4億円)、[令和3年度補正予算]592.0億円
・漁業経営セーフティーネット構築事業 18.2億円(+16.7億円)、[令和3年度補正予算]89.2億円
・漁業構造改革総合対策事業 20.0億円(+0.9億円)、[令和3年度補正予算]65.0億円

*1)「水田活用の直接支払交付金」とは、水田を活用して主食用米以外の作物を生産(転作)した農家に対し交付する交付金をいう。
*2)「基幹的農業従事者」とは、自営農業に主として従事した世帯員のうち、ふだん仕事として主に自営農業に従事している者をいう。