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令和4年度 社会保障関係予算のポイント

主計局主計官(厚生労働第一担当) 一松 旬/主計局主計官(厚生労働第二担当) 田中 勇人

1.令和4年度社会保障関係費の全体像
令和4年度の社会保障関係費は、令和4年度診療報酬・薬価等改定等の様々な改革努力を積み重ねることにより、令和3年度社会保障関係費(足元の医療費動向を踏まえ医療費にかかる国庫負担分を▲700億円程度減少させたベース)と比較し、+4,400億円程度(年金スライド分除く)としており、社会保障関係費の実質的な伸びを「高齢化による増加分におさめる」という方針に沿ったものになっている。

2.令和4年度診療報酬・薬価等改定
令和4年度診療報酬改定においては、看護の処遇改善と不妊治療の保険適用を実現するとともに、通院負担の軽減につながるリフィル処方箋の導入等によりメリハリある改定を行い、改定率を0.43%(国費292億円)とし、国民の保険料負担を抑制。薬価等について市場実勢価格を反映する等により▲1.37%(国費▲1,570億円)とする。

3.看護、介護・障害福祉、保育等における処遇改善
新型コロナ医療対応等を行う医療機関の看護職員、介護・障害福祉職員、保育士等について、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)を踏まえ、令和4年10月以降、収入を3%程度引き上げるための措置を実施。これらの処遇改善に当たっては、予算措置が執行面で確実に賃金に反映されるよう、適切な担保策を講じる。
(注1)例えば、賃金改善の合計額の3分の2以上は、基本給又は決まって毎月支払われる手当の引上げにより改善を図るなど、それぞれの制度において適切な措置を講じる。
(注2)上記の取組等を踏まえ、社会福祉法人についても、職員の処遇改善を促すこととする。

4.令和4年度雇用保険制度
雇用保険(失業等給付)の国庫負担については、雇用情勢や雇用保険の財政状況に応じた国庫負担割合とする中で現行の負担割合を維持するとともに、予算で定めるところにより一般会計からの任意繰入を行うことができる仕組みとし、保険料率については、段階的に引上げ。

5.新型コロナウイルス感染症への対応
「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)に基づき、いわゆる「16か月予算」との考え方で、令和3年度補正予算と一体として、新型コロナウイルス感染症の拡大防止策等に万全の対策を講じる。
(1)保健所の人員体制強化、地方衛生研究所の機能強化
6.4億円(3年度:5.6億円)
〈一部その他の事項経費における対応〉
- 感染拡大時に保健所業務を支援することのできる専門人材の派遣体制を強化するとともに、人材派遣の名簿登録者に対する積極的疫学調査を中心とした保健所業務に関する研修を引き続き実施。

(2)国立国際医療研究センターの体制強化
14.3億円(3年度:12.7億円)
- 国立国際医療研究センターにおいて、国立感染症研究所と互いに連携・補完しつつ、新興・再興感染症に関する臨床研究を推進し、診断薬、治療薬、ワクチンの開発に迅速に取り組むとともに、総合的対策を遂行する体制を構築。

(3)新型コロナウイルス感染症に対応する水際対策等の推進
217億円(3年度:207億円)
〈一部デジタル庁計上分を含む〉
- 新型コロナウイルス感染症に対し、国内への感染者の流入を防止するため、検疫における検査体制の確保を行うなど、水際対策を強化。(強化分:95億円(3年度:91億円))

6.社会保障の充実
「新しい経済政策パッケージ」(平成29年12月8日閣議決定)及び「経済財政運営と改革の基本方針2019」(令和元年6月21日閣議決定)等を踏まえ、令和元年10月の消費税率の引上げによる増収分を活用し、社会保障の充実を実施する。

(1)令和4年度における「社会保障の充実」

ア 看護職員・介護職員の処遇改善(再掲)

イ 不妊治療の保険適用
診療報酬(本体):120億円(公費)(新規)
薬価:54億円(公費)(新規)
- 令和4年4月から不妊治療の保険適用を実施。適切な医療の評価を通じて、子どもを持ちたいという方々への、不妊治療に対する安心と安全を確保。

ウ 子どもに係る国民健康保険料等の均等割額の減額措置
81億円(公費)(新規)
- 国民健康保険の保険料(税)について、子ども(未就学児)に係る被保険者均等割額を1/2に減額した保険者に対し、その減額相当額を公費で支援する制度を施行。

エ 医療情報化支援基金
735億円(公費)
- 医療保険のオンライン資格確認等の普及促進及び令和5年1月からの電子処方箋の運用開始にあたって、医療機関・薬局のシステム整備を支援するため、医療情報化支援基金を措置。その際、電子処方箋の運用にあたっては、多剤・重複投薬の削減や薬剤の適正使用に資するものとする。

(2)令和4年度における「新しい経済政策パッケージ」
・ 高等教育の無償化
5,196億円(3年度:4,804億円)
- 少子化に対処するための施策として、消費税率引上げによる財源を活用し、真に支援が必要な低所得世帯の大学生等に対し、高等教育の無償化を実現するため、授業料等減免及び給付型奨学金の支給を合わせて措置。

7.その他各歳出分野における取組
各歳出分野において、メリハリ付けを行いつつ、必要な予算を措置。

(1)医療
ア ドクターヘリの導入促進、ドクターカーの活用促進
76億円(3年度:75億円)
- 1県での新規導入を含むドクターヘリの運行に必要な経費を確保するとともに、ドクターカーの活用促進に向けた検討を開始。

イ PMDA審査等勘定運営費交付金
23億円(3年度:22億円)
〈その他の事項経費における対応〉
- 海外査察業務など既存事業を見直したうえで、迅速なワクチン実用化に資するガイドライン策定部門や後発医薬品の法令違反を踏まえた製造業者に対する調査体制の強化を行う。

(2)介護
ア 介護人材の確保施策の強化
206億円の内数(3年度:206億円の内数、公費)
【地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)】
- 地域医療介護総合確保基金(介護従事者確保分)における事業メニューとして以下のものを追加。
・高齢障害者の介護保険サービスの円滑な利用に向けた仕組みである「共生型サービス」について、その普及促進のために必要な取組を支援
・ICTを活用した事業所の業務効率化を通じた職員負担軽減(事業所間のケアプランデータ連携や文書量半減を実現するICT導入への支援を拡充)

イ 認知症関連施策の推進
127億円(3年度:125億円)
〈一部科学技術振興費における対応〉
- 認知症の人への支援や認知症理解のための普及啓発、認知症医療拠点の整備、認知症研究の推進等を実施。

ウ 介護ロボットの開発・普及の加速化
5億円(3年度:5億円)
- 労働力の制約が強まる中、介護現場の生産性向上を推進するため、介護事業者や開発企業向けの相談窓口の設置、開発実証を行う企業に対するアドバイス等を行うリビングラボの設置、介護現場における大規模実証フィールドを提供し、エビデンスデータを蓄積しながら、介護ロボットの開発・普及を加速化。

(3)年金
・ 年金国庫負担
122,406億円(3年度:121,784億円)
- 基礎年金国庫負担(2分の1)等について措置。
- 足元の物価等の状況を勘案し、令和4年度の年金額改定率を▲0.4%と見込んで計上。

(4)子ども・子育て
ア 子育て家庭や女性を包括的に支援する体制の構築及び児童虐待防止対策・社会的養育の推進
1,731億円(3年度:1,735億円)
- ヤングケアラーについて、自治体による実態調査・研修や、コーディネーターの配置・ピアサポートなど自治体の先進的な取組を支援するとともに、当事者団体や支援団体のネットワークづくりを支援する。(新規)
- 「民間団体支援強化・推進事業」を創設し、女性が抱える困難な問題が多様化・複合化、複雑化する中、多様な相談への対応や自立に向けた支援を担う民間団体による地域における取組を支援する。(新規)
- 子ども食堂や子どもへの宅食等を行う民間団体等と連携して、食事の提供やクーポン・バウチャーによる子育て支援等を通じた子どもの状況把握を行うことにより、地域における子どもの見守り体制の強化を支援する。(新規)
- 子どもの権利擁護を図る観点から、子どもの意見・意向表明(アドボケイト)について先進的な取組を行う自治体を支援する。

イ 母子保健医療対策の推進
- 新たに「性と健康の相談センター」を創設し、不妊治療や出生前遺伝学的検査に係る相談対応や、性や妊娠に係る科学的知見の提供など、性や生殖に関する健康支援を行う。 9億円(新規)
- 予防のための子どもの死亡検証(Child Death Review)について、都道府県における実施体制を検討するため、モデル事業として、関係機関による連絡調整、データ収集・整理、検証・政策提言を支援するとともに、国においてデータ・提言の集約等を実施する。 3.2億円(3年度:2.3億円)

ウ 総合的な子育て支援
969億円(3年度:969億円)
- 待機児童の解消に向けた「新子育て安心プラン」に基づき、保育の受け皿の整備を推進するとともに、保育士・保育現場の魅力向上等を通じた保育人材の確保、保育補助者等の配置による保育士の業務負担軽減等を図る。
- 保育所等における医療的ケア児等の受入体制の整備に向けて、計画に基づき体制整備を進める市町村への支援を強化する(補助率の嵩上げ:1/2→2/3)とともに、看護師等の複数配置を可能とすることにより、支援体制を強化する。

エ ひとり親家庭等の自立支援の推進
1,793億円(3年度:1,756億円)
- ひとり親が就労し安定した収入を得て自立することを支援するため、訓練中の生活費を支援する高等職業訓練促進給付金の対象資格の拡充・訓練期間の緩和の措置を令和4年度も継続するとともに、訓練経費を支援する自立支援教育訓練給付金の一部について上限額を引き上げる。

(5)障害者支援等
ア 地域生活支援事業等
518億円(3年度:513億円)
- 地方公共団体において、移動支援や意思疎通支援などの障害児・者の地域生活を支援する事業について、地域の特性や利用者の状況に応じて実施。

イ 医療的ケア児等への支援
12億円(3年度:9億円)
- 地域における医療的ケア児への支援体制を充実するため、医療的ケア児支援センターの設置を促進し、相談体制の整備等を図る。
※ 一部は上記の「地域生活支援事業等」の内数。

(6)労働・雇用環境の充実
ア 雇用調整助成金の特例措置等
5,843億円(3年度:6,273億円)
- 新型コロナ禍において雇用を維持する事業主を引き続き支援。
※ 雇用調整助成金:
5,490億円【労働保険特別会計】
(うち一般会計繰入177億円)
緊急雇用安定助成金(雇用保険被保険者以外の短時間労働者に係る助成):
62億円【一般会計】
新型コロナ対応休業支援金(休業手当を受給できない労働者への直接給付):
253億円【労働保険特別会計】
(うち一般会計繰入0.6億円)
新型コロナ対応休業給付金(同上;雇用保険被保険者以外):37億円【一般会計】

イ 在籍型出向の活用による雇用維持への支援
450億円(3年度:537億円)
- 成長分野等へ労働者が円滑に移動できる環境整備を図るため、需要減少で人手が過剰な企業から人手不足の企業への在籍型出向を引き続き支援。【労働保険特別会計】

ウ 生産性向上、賃金引上げのための支援
12億円(3年度:12億円)
〈中小企業対策費における対応〉
- 最低賃金引上げに向けた生産性向上に取り組む中小企業・小規模事業者を支援。

エ 人材育成・非正規労働者のステップアップ等の強化
1,019億円
- デジタルなど成長分野を支える人材育成、非正規労働者のステップアップ、円滑な労働移動等を支援することにより、人への投資を推進。【労働保険特別会計】
※人材開発支援助成金:504億円
キャリアアップ助成金:268億円
教育訓練給付:96億円
特定求職者雇用開発助成金:150億円

(7)水道施設の耐災害性強化等の推進
387億円(3年度:395億円)
〈一部公共事業関係費における対応〉
- 災害時等においても安定的に安全な給水を確保するため水道施設の耐災害性強化を推進するとともに、水道事業体の運営基盤強化を図るため広域化への取組等を支援。

(8)東日本大震災からの復興
・ 医療保険制度等の保険料減免等に対する特別措置
49億円(3年度:50億円)
- 東京電力福島第一原発の事故により設定された避難指示区域等に住所を有する被保険者等について、引き続き、保険料等の減免を実施。今後、被保険者間の公平性等の観点から、適切な見直しを行う。
※介護保険制度、障害福祉制度を含む。

(9)その他
ア 原爆被爆者の援護
1,226億円(3年度:1,183億円)
〈一部デジタル庁計上分を含む〉
〈一部科学技術振興費及びその他の事項経費に
おける対応〉
- 原爆被爆者への援護施策として、医療の給付、諸手当の支給などを引き続き実施するとともに、広島「黒い雨」訴訟を踏まえた対応として、新たに援護施策の対象となる方々に対して支援を行う。

イ B型肝炎給付金
1,176億円(3年度:1,173億円)
- 特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法に基づき、B型肝炎ウイルスの感染被害を受けた方々への給付金等の支給に万全を期すため、社会保険診療報酬支払基金に設置した基金に、毎年度当初予算で措置してきた572億円に加え、給付金等の支給に必要な費用を積増し。

ウ 重層的支援体制整備事業の実施
261億円(3年度:116億円)
- 市町村による属性を問わない相談支援、多様な参加支援の推進、地域づくりに向けた支援を一体的に行う重層的支援体制整備事業の実施を促進するほか、都道府県による市町村への後方支援、国による人材養成研修等を実施。

エ 生活困窮者等の自立支援の強化(住居確保給付金等)
594億円(3年度:555億円)
〈一部デジタル庁計上分を含む〉
- 生活困窮者自立支援法に基づき、生活困窮者に対する包括的な相談支援や就労支援等を実施するとともに、居住支援体制を強化。
- 生活困窮者の安定的な生活基盤を確保するため、住居確保給付金の支給や一時生活支援事業の共同実施への支援を実施。

オ 自殺総合対策の推進
36億円(3年度:34億円)
〈一部その他の事項経費における対応〉
- 地域の実情に応じ地方公共団体や民間団体が実施するSNS等の相談対応や相談員の養成等の取組を支援するとともに、指定調査研究等法人において自殺未遂者レジストリ制度を構築。

8.社会保障制度改革の着実な実行

(1)全世代型社会保障改革の推進
○現役世代の保険料負担の上昇を抑制するため、後期高齢者の患者負担割合への一定の所得がある方への2割負担の導入については、令和4年10月1日から施行する。
○現役世代への給付が少なく、給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し、切れ目なく全ての世代を対象とするとともに、全ての世代が公平に支え合う「全世代型社会保障」の考え方は、今後とも社会保障改革の基本である。今後、全世代型社会保障構築会議等において、これまでの改革のフォローアップを行うとともに、全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築する観点から、給付と負担のバランス、現役世代の負担上昇の抑制、保険料賦課限度額の引上げなど能力に応じた負担の在り方等、社会保障全般の総合的な検討を進め、更なる改革を推進する。

(2)「改革工程表」等に沿った医療・介護制度改革の着実な実行
令和4年度には団塊の世代が後期高齢者となることを踏まえ、以下の改革項目について早急に取組み、具体的かつ明確な成案を得ることをはじめ、「新経済・財政再生計画 改革工程表」等に基づき改革を着実に実行する。
(医療)
○各都道府県において第8次医療計画(令和6年度~令和11年度)の策定作業が令和5年度までかけて進められることとなるため、その作業と併せて、令和4年度及び令和5年度において、地域医療構想に係る民間医療機関も含めた各医療機関の対応方針の策定や検証・見直しを求める。
また、検討状況については、定期的に公表を求める。
○毎年薬価改定を実施するなど、薬価制度の改革をさらに推進し、薬剤流通の安定のために平成12年度改定において設定された調整幅の在り方について検討する。
○保険者協議会の機能強化なども含めた医療費適正化計画の在り方の見直しについて、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18日閣議決定)に基づき、令和6年度から始まる第4期医療費適正化計画に対応する都道府県医療費適正化計画の策定に間に合うよう、必要な法制上の措置を講ずる。
○国保連合会及び支払基金における医療費適正化にも資する取り組みを着実に推進するための業務の在り方や位置づけについて、「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18日閣議決定)に基づき、令和6年度から始まる第4期医療費適正化計画に対応する都道府県医療費適正化計画の策定に間に合うよう、必要な法制上の措置を講ずる。
○かかりつけ医機能の明確化と、患者・医療者双方にとってかかりつけ医機能が有効に発揮されるための具体的方策について検討を進める。
○都道府県のガバナンスを強化する観点から、現在広域連合による事務処理が行われている後期高齢者医療制度の在り方、生活保護受給者の国保及び後期高齢者医療制度への加入を含めた医療扶助の在り方について、中長期的課題として検討を深める。
○医療法人の事業報告書等をアップロードで届出・公表する全国的な電子開示システムを早急に整える。アップロードによる届出は令和4年3月決算法人から開始する。

(介護)
○介護事業所・施設の経営実態等について正確な収益状況等を把握できるよう経営の「見える化」を推進するため、事業報告書等のアップロードによる取扱いも含めた届出・公表を義務化し、分析できる体制を構築する。加えて、特別収益の財源及び使途等に係る調査を実施して、より適切な実態把握のやり方となるように介護事業経営実態調査等を見直し、令和5年度調査に確実に反映させる。
○一人当たり介護費の地域差縮減等に寄与する観点から、都道府県単位の介護給付適正化計画の在り方の見直しを含めたパッケージを国として示すとともに、市町村別にその評価指標に基づき介護給付適正化に係る取組状況を公表するなどの「見える化」を確実に推進する。
また、調整交付金の活用方策について、第8期介護保険事業計画期間における取組状況も踏まえつつ、引き続き地方団体等と議論を継続する。

図表.一般歳出及び社会保障関係費の推移
図表.2022年度予算について
図表.令和4年度社会保障関係費の全体像
図表.令和4年度診療報酬・薬価等改定
図表.診療報酬における効率的な医療提供体制の整備等
図表.雇用保険財政(令和4年度における保険料率及び国庫負担等)
図表.令和4年度における「社会保障の充実」(概要)
図表.令和4年度における「新しい経済政策パッケージ」(概要)
図表.令和4年度の消費税増収分の使途について