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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~5



・フィナンシャル・レビュー
「マクロ経済及び社会資本整備における財政投融資の
果たす役割」の見所責任編集者 土居丈朗教授に聞く
財務総合政策研究所 総務研究部 研究官 山本 高大/研究員 玄馬 宏祐

・2021年度 中央アジア・コーカサスセミナーの実施
財務総合政策研究所 総務研究部 国際交流課 企画調整係長 赤嶺 彰一/研究員 田中 祥司/係員 岩嵜 智亮
フィナンシャル・レビュー
「マクロ経済及び社会資本整備における財政投融資の果たす役割」の見所 責任編集者 土居丈朗教授に聞く

財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)では、年4回程度、「フィナンシャル・レビュー」(以下、「FR」)という学術論文誌を編集・発行しています。今月のPRI Open Campusでは、今月刊行された「マクロ経済及び社会資本整備における財政投融資の果たす役割」をテーマとしたFR*1について、責任編集者を務めていただいた土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授にインタビューを行い、刊行に至る経緯やそれぞれの論文の読みどころについて、「ファイナンス」の読者の皆様に、分かりやすく紹介していきます。

コラム フィナンシャル・レビューとは
フィナンシャル・レビューは、財政・経済の諸問題について、第一線の研究者、専門家の参加の下に、分析・研究した論文をとりまとめたものです。昭和61(1986)年から刊行を続けています。


[プロフィール]
土居 丈朗 慶應義塾大学経済学部教授(写真中央)
財政学・公共経済学を専門としております。大阪大学経済学部を卒業し、東京大学にて博士(経済学)を取得しました。慶應義塾大学専任講師、准教授を経て2009年から現職です。2002~2004年に財務総研の主任研究官を務めました。

[聞き手]
山本 高大 財務総合政策研究所総務研究部研究官(写真左)
2017年に財務省に入省。理財局、国際局での本省勤務や福岡国税局出向を経て、2021年7月から現職。理財局では財政投融資の業務にも従事しました。

玄馬 宏祐 同研究所総務研究部研究員(写真右)
2019年に西日本旅客鉄道株式会社に入社した後、2021年より財務総合政策研究所の研究員を務めており、現在は財政経済に関する基礎的・総合的な調査研究に携わっています。


1.はじめに~池尾先生との思い出~
―今回の特集号は財政投融資(以下、「財投」)をテーマとしており、当初は財政制度等審議会財政投融資分科会(以下、「財投分科会」)の分科会長も務められていた池尾和人先生が責任編集者を担当されていました。残念ながら池尾先生が昨年2月に逝去され、責任編集者を土居先生に引き継いでいただき、今回の刊行に至ったという経緯があります。責任編集者を池尾先生から引き継がれた際の思いをお聞かせください。
池尾先生とは1999年に私が慶應義塾大学経済学部で教鞭を執り始めて以来ご一緒させていただいていて、さらに2004年度から12年間、企業金融論という科目を一緒に担当させていただいておりました。共同して財投の研究をしたという訳ではなかったのですが、金融論と財政学の両方の間をつなぐ制度・仕組みとして、財投が池尾先生と私の研究分野の真ん中にあるような形でした。
池尾先生は2001年の財投の抜本的改革の前から財投の新しいあり方に関する政府での議論に参画され、まさに今日の財投の制度設計に関わられていたという経歴も存じていました。2008年に私が財投分科会の委員を拝命してからは、キャンパスの中というよりは分科会の中で財投に関して深く議論させていただきました。
このように池尾先生の研究者・教育者としての姿勢を近いところで拝見していて、FRの財投特集号の企画が組まれていることも存じていました。池尾先生が亡くなられた後、責任編集者を引き継いでもらえないかという話があった際には、これまでの池尾先生の思いを側で感じていた立場でもあるので、この特集号を刊行までたどり着かせることでせめてもの恩返しをしたいという思いで引き受けさせていただきました。
―財投が土居先生の専門である財政学と池尾先生の専門である金融論の真ん中にあるということですが、研究をする上で池尾先生からインスピレーションや刺激を受けることはあったのでしょうか。
お金の使い方に関する規律ということになるでしょうか。民間の金融も財政も英語で言えばファイナンスになります。ファイナンスするためには、社債であれ国債であれ、お金を提供される側が提供する側に対してそのお金が有効に使われていることを示さなければなりません。官民問わず、提供されたお金を漫然と好きなように使っていい訳ではなく、一定の規律が必要になります。その点は財政学も金融論も全く同じです。池尾先生はコーポレートガバナンス・コード作成にも中心的役割を果たされ、民間企業でのお金の使い方に関する規律を高めることに腐心されました。私は財政学の立場からですが、提供されたお金をどう有効活用するかしっかり考えねばならないとの思いを、池尾先生の背中を見て強く持つようになりました。

2.本特集号の読みどころ
―そうした経緯もあって刊行に至った今回の特集号ですが、政策担当者や一般の読者にとって、どういった点に着目すると有益な示唆を得ることができるでしょうか。
今回の特集号は、財投の現代的な姿を浮き彫りにした論文が集められています。郵便貯金や年金積立金がそのまま使われているといった古い財投のイメージを払拭していただき、財投改革から20年経ってどんな姿になったのかを今一度ご覧いただくのに適したものとなっていると思います。もちろん課題もありますが、一定の役割を果たしていることが様々な分析から明らかになっています。
先ほども申し上げましたが、規律をより重んじる形で制度が運用されているということが重要なポイントになっていると思います。今回の特集号の序文*2でも私は書きましたが、財投改革前の資金調達は受動的なものでした。郵便貯金や年金積立金の残高が増えると、預託義務に従って資金運用部資金(現在の財政融資資金)に資金が入ってきて、その資金を棚ざらしにする訳にはいかず、何とか運用先を見つけて貸さないといけないという面があったのです。しかし、今は正反対で、必要なだけ財投債で資金を賄い、不必要なら投融資を行わないという能動的な仕組みに変わりました。財投機関への投融資を柔軟に精査できるようになったという意味で、規律を持って運営するにはふさわしい仕組みとなっています。
私は財投改革で受動的な資金調達から能動的な資金運用の仕組みに変わったことを「コペルニクス的転回」と形容したことがあるのですが、それを聞いて池尾先生からそれは褒めすぎだと言われたというエピソードもありました。ただ、それくらい大きく変わったということであり、そうした変化を経た財投の今日の姿を今回の特集号は浮き彫りにしていると思います。

3.財投改革後の地方公共団体向け
財政融資
―財投改革の後、構造改革で地方公共団体への資金の流れも変わりました。冨田論文*3はそうした経緯について丹念に検証されています。
財投改革から20年が経ち、省庁の方々もどういう経緯で今の仕組みになっているかを、先輩や上司から引き継いでいても、自分でリアルに体験した訳ではないという方も多くなっていると思います。そういった中で、この冨田論文でそのときの経緯を明らかにしていることは、地方公共団体向けの財政融資が大きなウエイトを占めていることも踏まえると重要なポイントだと思います。
―地方公共団体向けの財政融資については、大野・石田・小林論文*4でも、土居先生がワーキングチームの座長を務めて作成に関わられた地方公共団体の財務状況把握の財務指標を用いた財政状況分析がなされています。
この指標の元々の目的は、お金の貸出先である地方公共団体がどういう状況になっているかを掴むためということが基本ではあるのですが、指標を作るにあたっては公認会計士や民間の出向者の方にも携わっていただいていて、民間企業の財務分析の発想も入っています。単に足したり引いたり割ったりして出てくる数字ではあるのですが、実はより深い意味がそこにはあります。ただ、ルーティンワークではそうした深い意味を探求するのが目的ではないので、研究者が違った視点から分析し、同じ指標でもこういう風に見えるというのを示すことが今回の大野・石田・小林論文ではできており、新しい視点を提供してくれていると思います。

4.公的金融ならではの役割
―構造改革の結果、財投の大原則の一つである民業補完がよりハイライトされました。中田論文*5では、民間だけでは十分な資金供給が行われず公的機関の支援が必要とされる分野の例として農業をあげ、どういった公的な金融支援が行われているかについて丁寧に分析・整理されています。
財投は伝統的に日本政策金融公庫などを通じて農林漁業金融に関わっています。今は農林漁業の世代交代も進みつつあり新しい展開が求められていますが、かといって政府が何もしなくても民間だけで世代交代をして稼げる農業になるかというと、必ずしもそうでもない面があります。稼げる農業に変わるための政策的な支援については一般会計予算でも行っているのですが、それ以外の金融的手法で財投から農業に関わるという点にも中田論文は目配りしており、そこに新規性があると思います。
―2000年代後半以降は、リーマンショック・東日本大震災・コロナショックなどの場面で、危機対応業務が果たす役割も大きかったと思います。後藤論文*6はそういった危機の際の政策金融や信用保証の役割について検証されています。
金融危機期の信用保証をどう活用するかについては、漫然と行うと本来救わなくてよかった企業も救ってしまう恐れもあります。ただ、今回の後藤論文では、そういうことではなく、保証するとしても企業の状態を見極めて行っており、総じて見れば良いパフォーマンスだったという分析がなされています。これは今後の危機対応業務に良い示唆を与えるものではないでしょうか。規律を保ちつつも救うべきところに支援を行うことが大事だと思います。
危機対応業務は頻繁に起こってほしくはないのですが、財投改革後に危機対応を迫られたケースが、大きなものでリーマンショック・東日本大震災・コロナショックと立て続けに起こっていて、危機対応業務の体制もそれなりに確立していると思います。本特集号とは直接関係ありませんが、私が関わっている財投分科会でも、コロナ対策として資金繰り支援を行った企業の状況について、時間を割いて議論しています。日本銀行の金融システムレポートなどを見ても、貸し倒れで金融機関の自己資本が大きく毀損する状況になる要素は少ないとする見解も出ています。コロナの前から困っている企業まで支援しているというのではなく、コロナさえなければまた状況が回復すると見込まれる企業を支援している形になっているのではないかと思います。

5.近年の財投のハイライト
―2010年代は、低金利状況を活かし、インフラ整備に財投が活用されました。根本論文*7では老朽化したインフラ更新とその資金調達はどうあるべきかについて論じられています。
根本先生は、PPP/PFIといったインフラ整備への民間資金の活用について第一線で研究されています。そのご経験からインフラ整備への財投の活用につき、コスト管理はもちろんのこと、必要なインフラをどう維持するかという、財投を措置するにあたっての大前提となるノウハウも示されていて、こうした知見を今後財投の現場でも積極的に活用していただく必要があると思います。
これに関連して、さらに私自身の考えを付け加えると、建設国債ではなく財投で賄うことのできるインフラ整備には、財投をより積極的に活用すべきではないかと思っています。建設国債の返済原資は、必ずしもそのインフラから直接受益しない人も含む全国民からの税金から賄われます。しかし、財投で賄われたインフラの返済原資は、基本的にそこでの事業収入がもとになります。そうすると、利用料金や運賃などの形で利用者が払った資金が元手となって返済され、より応益的な仕組みでインフラ整備ができ、それだけ建設国債よりも節度が高まります。しかも、財投では償還確実性が重んじられており、その点をどう担保するのかということをきちんと考えてもらうことができます。そういう利用者のニーズと緊張感を、財投を媒介としてインフラ整備に活用できるのではないかと考えます。
―近年の財投では官民ファンドを通じた資金供給も大きな特徴であり、2019年には財投分科会で報告書がまとめられています。光定・川北論文*8では、官民ファンドに関する分析・検証が行われています。
官民ファンドの成果と課題をまとめたと言える論文だと思います。財投分科会でも、官民ファンドの課題について、委員から厳しい指摘がなされる場面があるのですが、官民ファンドは財投改革の移行期を終えてから出てきた仕組みで比較的新しい活用方法であり、政策目的の達成と収益性の追求の両立という難しいハンドリングの中で苦労している部分も多いことなどにも配慮しつつなされている面もあります。一方、光定・川北論文は研究論文ということで、そういった遠慮はなく、研究者として客観的に分析・検証し、歯に衣着せぬ形で評価しているので、そうした指摘をしっかりと受け止めて次なる改善につなげていただければと思います。

6.さいごに~今後の財投について~
-先生が財投を研究しようと思われたきっかけや、研究分野としての財投の面白さはどういったところにあるのでしょうか。
財投改革のとき、私は研究者として駆け出しだったのですが、この駆け出しのタイミングで、財投がこれからどう変わるのかを考えるべきホットイシューであったというのがあります。
また、私の研究業績に引きつけると、2006年に北海道夕張市が事実上破綻しましたが、実は夕張市に一番お金を貸していたのは民間金融機関ではなく財投だったのです。実は私は夕張ショックの前から地方債に注目をしていました。地方債の仕組みや課題を研究するにつれて、財投が深く関わっていることを知り、ますます財投の役割は重要だなというのを痛感した経験があります。この研究が、2007年に刊行した拙著『地方債改革の経済学』に結びついています。
―財投が今後果たすべき役割はどういったところにあるとお考えでしょうか。
財投改革後、民業補完に重きが置かれてきましたが、昨今の金融情勢ではどうしても民間がリスクを取りにくく、色々な形で財投が関わっています。しっかり客観的な議論を積み重ねた上で、必要なものをきちんと選りすぐりながらも、民間に取れないリスクを政府が取る。そういうところは、今しばらくは財投の果たす役割があると思います。
さらに言えば、税財源によらない財政対応として、財投をより賢く活用してもらいたいと思います。財源は借金で賄えばいいという話になると、どうしても一般会計の負債を増やすという話になりがちですが、幸い日本には財投の仕組みがあって、負債での調達はそちらでも可能です。先ほども申し上げましたが、一般会計と財投では返済原資が異なります。加えて財投には、一般会計には無い償還確実性を確認する機能もあり、本当に利用者のニーズがあるのか、そのニーズに応えればきちんと資金が返ってくるのかが確認されます。償還確実性のあるものについてうまく財投を活用して政策を講じるという財政運営の姿があっていいのではないかと思います。
もう一つ、低利融資が財投の一つの魅力ですが、民間では採算が取れないから財投で行うということに色々な意味合いがあると思います。経済学的に言うと、対価を払わなくても便益を受けられることを非排除性と言いますが、そうした非排除性があると低利でなければ営めない根拠になります。なぜなら、本当は便益がもっと及んでいるのに、対価を払わなくても便益を受けられる人達がいて、その人達からは費用を回収できず、民間による資金供給では賄うことができないからです。金利を減免した分だけ暗黙の補助金を出すという意味合いではなく、そういう非排除性があるサービスの提供などに着目した財投の活用というのも今後考えられるだろうと思います。

コラム 研究者という職業の面白さ
一つのテーマを深く探求したいという気持ちは多くの人が持っているのではないかと思います。研究者という仕事は、他の人よりも時間と資源を投入することを許していただいて、一つのことをより深く探求できるところに醍醐味と面白さがあると思います。それが多くの人々の役に立てるのであれば、なおさら学者冥利に尽きるという訳です。
学者も色々なスタンスの人がいて、多くの人が知りたいことを分析したり、潜在的に持っている気持ちを先取りして発信したりすることを得意とする人もいます。ただ私自身はそういったことはあまり得意ではなくて、他の人が気づいていないことを発見して、大衆受けしなくても事実はこうなんだという分析をする方が得意かなと思っています。学問的真理は、多数決で決めるものではありません。そういう意味では、共感されて「いいね」がいくつというのはあまり得意でないのですが、幸いにも「いいね」を沢山もらえなくても学者失格ではなく、失職しないで済んでいる訳で、そういったところも学問の一つの醍醐味でもあるのかなと思っています。
研究者という職業は、仕事とプライベートの境目が曖昧で、毎日が平日といえば毎日が平日ですし、朝満員電車に乗って出勤しないという意味では毎日が日曜日といえば毎日が日曜日かもしれません。そういうところも一つの面白さなのかなと思っています。その中でも色々な方がいて、公私のオンオフが得意な方もいれば、仕事とプライベートの境目が分かりにくい働き方をする方もいます。私はどちらかというと後者に近いかもしれません。
昨今働き方改革がよく議論されますが、私の場合は、自分のために時間を費やすところと、家族のために時間を費やすところをしっかり切り分けるように意識しています。変に自分のしたいことが心の中に多くを占めていると、例えば子供と接していても心ここにあらずという感じになって、逆に接しない方がいいということにもなってしまいます。仕事であれプライベートであれ、自分だけではない時間をどうやって確保するかということと働き方改革は心理面では繋がっているように思います。そういった踏ん切りが心の中でできれば働き方改革もすんなりいくのではないか、なかなかその踏ん切りがつかないから中途半端に働いている時間が夜まで食い込んでしまうのですが、自分のためだけでない時間を作ると自信を持って思えれば「今日は帰ります」と職場でも言える面はあるのかなと思います。

コラム 財政における“良心”
元々私が財政学を研究したいと思ったのは、高校3年生のときに消費税導入の議論があったことがきっかけでした。まだ選挙権がなかったのですが、大人達が安直に増税だから反対だと言っているのを見て、もう少し客観的に議論できないのかなと思いました。そうした中で、今では当たり前の計算なのですが、当時まだパソコンもままならなかった時代に消費税導入による所得階級別の負担分析を見て、経済学はこういうことができるのかと感銘を受けました。三つ子の魂百までという感じで、財政問題についてもっと深く研究したいと思って大学に行って研究者になったのですが、この消費税論争が私の研究者としての原体験です。
池尾先生についての話の中で規律という言葉を使いましたが、特に財政規律について、そんなこと重んじなくてもいいのではないかという風潮がこのところあるように思います。消費税については低所得者の方にとって辛い側面がありますが、消費税だけで全ての政策が終わっているのではありません。社会保障も含めて全体をトータルとして見たときに、税で取られる以上の恩恵を受けているのであればやむを得ないのではないかという感覚が少ないのではないでしょうか。もっとお金持ちや企業が税金を負担すればいいのになんで私に負担させるんだ、他の人が何とかしてくれればそれで自分は困らないで済むという他力依存の考え方が、消費税に対する嫌悪感の背景にあるように思います。それは国債発行も同じで、今税金で自分達が負担するよりも、他の人が負担する形で借金すればいいという考え方があると感じます。誰かに負担を押しつけておけばいい、他の人が犠牲になっても自分のところに恩恵がくればいいということだと、健全な財政運営は難しい。自分も一員として何とかしていこうという気持ちを持ってもらえればなと思います。
新型コロナ対応でも、日本ではロックダウンしなくても一定の感染抑制ができたのは、自分が感染したくないという利己的なところ以外の面で、社会としてこうあるべきだという良心が人々の心の中で作用して、ハメを外したらいけないと思うから自粛するという面があったと思います。コロナ対応ではそういう良心がうまく生きた日本国民なので、財政政策でもハメを外しすぎてはいけないという良心の呵責を感じてもらえると信じています。今は財政規律を度外視する風潮が強いように見えますが、再び財政運営における良心を取り戻してもらえる時期ができるだけ早く訪れるといいなと思います。そういう財政運営の良心を取り戻す試みというのも挑戦していただきたいです。

2021年度 中央アジア・コーカサスセミナーの実施
財務総合政策研究所では、2006年から、中央アジア・コーカサス諸国の財務省等の若手幹部候補生を日本に受け入れ、「中央アジア・コーカサスセミナー」を実施しています。本セミナーでは、参加各国の人材育成を支援することを目的として、政策講義に加え地方視察も含めた財政・金融関連諸機関の訪問等を実施し、日本の財政・経済制度に関する知識を提供するとともに、参加各国の財政当局間のネットワークを形成する機会を提供しています。
今般の世界的なパンデミックに伴い、2020年度はセミナーの開催を中止せざるを得ませんでしたが、2021年度は、12月20日(月)~12月24日(金)の日程で、オンライン方式により実施し、ウズベキスタン、アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、キルギス、タジキスタン及びトルクメニスタン(順不同)の中央アジア・コーカサス7カ国から、財務省職員等8名が参加しました。
各参加国と日本との時差があること、オンライン方式によって開催することなどを踏まえて、講義時間は従来から縮小し、日本の財政・金融・税制の各分野の研究者・専門家による政策講義を実施しました。また、政策講義以外では、各国の参加者による自国の経済・財政状況に関するプレゼンテーションを行い、各参加者の間で熱のこもった意見交換が行われました。

〈中央アジア・コーカサスセミナー議事次第〉

〈1日目(12月20日(月))〉
・開会挨拶
  栗原毅 財務総合政策研究所 所長
・講義:日本経済について:概観
  講師:上田衛門 慶應義塾大学 商学研究科 教授
〈2日目(12月21日(火))〉
・講義:国際課税の最近の動向
  講師:本田光宏 筑波大学 大学院ビジネス科学研究群 教授
・プレゼンテーション(アゼルバイジャン、タジキスタン)
〈3日目(12月22日(水))〉
・講義:日本の金融財政政策
  講師:吉野直行 金融庁 金融研究センター センター長
・プレゼンテーション(ジョージア)
〈4日目(12月23日(木))〉
・講義:公共支出管理:日本の経験と国際比較
  講師:田中秀明 明治大学 公共政策大学院 ガバナンス研究科 教授
・プレゼンテーション(アルメニア)
〈5日目(12月24日(金))〉
・講義:新型コロナ危機と中央アジア・コーカサス経済の課題
  講師:河合正弘 東京大学 公共政策大学院 客員教授

コロナ禍では、人と人とのつながりを新たに構築することが難しい環境にありますが、オンラインでの講義と意見交換によって、参加国の財政等担当者との人的交流を深めることができました。今後も、こうしたセミナーの開催を通じて、参加国の更なる発展に貢献していきたいと考えています。

写真:【参加者のプレゼンテーションの様子】
写真:【政策講義の様子】

プロフィール

財務総合政策研究所 国際交流課企画調整係長 赤嶺 彰一
2009年に熊本国税局に入局。2014年から財務省で勤務しています。財務省では、主にG7等の先進国のマクロ経済情勢や金融政策動向についての調査などに従事してきました。2020年7月から財務総研に勤務しています。

財務総合政策研究所 国際交流課研究員 田中 祥司
2017年にリベラ株式会社へ入社し、総務部へ配属。2020年より、財務総研の研究員を務めています。

財務総合政策研究所 国際交流課係員 岩崎 智亮
2018年に東京税関に入関。2021年7月から財務総研に勤務しています。

図表.【中央アジア・コーカサス諸国】

*1)本特集号の内容は以下の財務総研ホームページにも掲載されております。
https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/fr147.html
https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/fr147.html
*2)「序文」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r147/r147_01.pdf)
*3)「財投改革と地方債」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r147/r147_06.pdf)
*4)「財務状況把握の財務指標から見た地方公共団体の資金繰り状況」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r147/r147_07.pdf)
*5)「農業分野における資金供給の効率性向上に向けた課題」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r147/r147_04.pdf)
*6)「政策金融としての信用保証による経済・金融への影響」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r147/r147_03.pdf)
*7)「インフラ老朽化対策と更新投資ファイナンスに関する考察」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r147/r147_05.pdf)
*8)「我が国における公的エクイティ性資金の機能の状況―官民ファンドの可能性とリスクについて―」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r147/r147_02.pdf)