1.はじめに(IDA第21次増資)
世界は、ロシアによるウクライナ侵略や中東における紛争といった地政学的危機に見舞われています。また、世界経済の不確実性が高まる中、途上国は、貧困の拡大、債務問題、及び保健や自然災害などの長期的な開発課題に直面しています。
こうした中、多国間主義の下で開発アジェンダを推進する重要性は一層高まっており、昨年12月に国際開発協会(IDA)第21次増資(IDA21)の合意に至ったことは、大変喜ばしいことです。IDA21において、国際保健、自然災害に対する強靭性、債務の透明性・持続可能性など、日本が重視する開発課題が重点政策に位置づけられたことを高く評価します。日本は、厳しい財政事情ではあるものの、IDAに対し4,257億円の出資を行うこととし、4月11日、IDA21への出資に応じるための法律が国会で成立したことをご報告します。日本以外の国々においても、プレッジに沿って速やかに国内手続きを終えることを求めます。
日本として、途上国が直面する開発課題への対応に果たす世銀グループ(WBG)の役割に期待する点、及び日本の貢献につき、以下申し上げます。
2.ウクライナへの支援
3年を超え長期化するロシアの侵略により、ウクライナの被害はますます拡大しており、世界経済の見通しに対する不確実性要素となっています。ロシアのウクライナに対する不法な侵略の即時の終結を求めます。
戦争が継続する厳しい状況下にもかかわらず、ウクライナ政府が積極的に改革に取り組み、マクロ経済の安定を維持していることを評価し、IMFプログラムの7次レビューの完了を歓迎します。
昨年G7で合意された、ロシア凍結資産から生じる特別収益により返済される融資の枠組み(ERAローン)の下で、日本はウクライナに対して4,719億円の円借款を世銀の基金を通じて行い、同国への支援に貢献します。これに加え、日本の二国間支援として、2025年においては、5億ドルの国際復興開発銀行(IBRD)融資に対する信用補完も行います。その最初の案件として運輸セクターの事業実施が決定したことを歓迎します。
WBGがウクライナ政府等と協働し、ウクライナの被害とニーズ調査(RDNA4)を公表したことを歓迎します。膨大な復旧・復興需要に対しては、公的な資金と共にこれを触媒とした民間資金の動員が重要です。日本は、多数国間投資保証機関(MIGA)の「ウクライナ復興・経済支援(SURE)信託基金」に第1号ドナーとして貢献を行ってきましたが、現下の情勢を踏まえ、トップドナーとして10百万ドルの追加拠出を行い、合計で46百万ドルの貢献を行います。
3.世銀改革
WBGにおいて、世銀改革の取組が進展していることを高く評価します。特に、WBGの今後の取組として、貧困からの脱却の道筋ともなる雇用創出を重視し、こうした課題に取り組むために保健やインフラを含む5つの優先課題に焦点を当てていることを支持します。
こうした取組への対応にあたり、one WBGアプローチの下、国際金融公社(IFC)及びMIGAがより積極的な役割を果たすことを求めます。具体的には、IFC及びMIGAが、環境・社会面でのリスクに配慮しつつ、民間だけでは事業活動が難しい地域・分野への支援を強化し、より高い開発効果を実現することを期待します。また、高中所得国以上の国に対しては、IBRDからの卒業を促していく観点も踏まえ、IFC及びMIGAが民間部門の成熟のために必要な支援を行っていくことを期待します。
多様かつ膨大な資金ニーズに対応していくため、他の国際機関や開発パートナーとの協力も重要です。アジア開発銀行(ADB)との間で完全相互信頼枠組みを構築したことは、国際開発金融機関(MDBs)がシステムとしてより機能するための先進事例として評価しており、手続きの迅速化や開発インパクトの最大化につながることを期待します。また、各国の開発金融機関との連携強化も重要です。日本は、民間資金動員の促進や国内外のパートナーとの連携強化等を目的に国際協力機構(JICA)法を改正し、JICAの機能を拡充しました。今後、WBGが、「グローバル協調融資プラットフォーム」の拡大を含め、国際協力銀行(JBIC)やJICAとの協働を一層強化していくことを期待します。
途上国が自律的な成長を実現する上で、国内税制と税の執行能力の強化を通じた国内資金動員の強化は喫緊の重要な課題です。世銀・IMFを中心に、関係国際機関から成る「税に関する協働のためのプラットフォーム(PCT)」の役割を発展させ、税に関する技術支援の戦略を共有し、その実効性及び効率性を高めることを期待します。日本は、税の分野の課題を把握し、技術支援のニーズを的確に特定するため、メンバー国・非国家地域の税の専門家同士が、国際機関と共に定期的な対話を行うことを慫慂するとともに、PCTによるこうした対話の場の構築に貢献する用意があります。
4.日本とWBGのパートナーシップ
(1)国際保健
国際的な情勢変化を受けた国際保健資金の減少により、低・中所得国の保健分野への影響が懸念されます。そうした中、日本は、財務・保健の連携を通じたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進とパンデミックへの予防・備え・対応(PPR)の強化に引き続き取り組みます。
低・中所得国における保健財政強化のため、国際資金に加えて国内資金動員の促進が一層重要です。日本は、今夏、世銀・WHOと連携して「UHCナレッジハブ」の設立を予定し、財務・保健当局の人材育成を通じ、国内資金動員に基づく持続的な保健財政の構築を支援していきます。このため、日本は、WBGに対して3百万ドルを拠出します。本年12月には、バンガ総裁を含む国際保健分野のリーダーを東京に招いて「UHCハイレベルフォーラム」を開催し、UHC達成に向けた国際的なモメンタムの強化を主導していきます。また、UHCプログラムのフェーズ4に対し、16百万ドルを追加拠出します。
昨年来のエムポックスの感染拡大は、パンデミックへのPPRの強化の必要性を再認識する機会となりました。日本は、パンデミック基金が、多様なドナーによる安定的な資金基盤に基づき、低・中所得国のPPR強化のため中心的な役割を果たすことを引き続き支援します。また、保健システムの強化とパンデミックPPRを一体的に推進するため、信託基金間の連携強化や統合を含め、基金の戦略的・効率的な活用を求めます。
(2)防災・インフラ
気候変動への対応においては、開発との両立を図りつつ、適応と緩和の両面から現実的な移行の道筋を構築することが必要であり、特に脆弱国においては、適応への対応が重要です。
今年は、阪神・淡路大震災の発災から30年の節目の年ですが、この大震災における教訓の一つは「災害への備え」の重要性です。世界各地で自然災害の頻度と規模が増大する中、ハード対策としての災害に強靭なインフラ整備と、ソフト対策としての国家防災計画の策定など、制度面・政策面での支援を両輪として取り組んでいくことが重要です。日本は、「日本-世界銀行共同防災プログラム」を通じて、途上国における防災の主流化や強靭なインフラ整備を支援しており、先月ミャンマーで発生した地震に対しても、復旧・復興計画の策定に不可欠な災害による経済被害を評価するための支援を実施しました。強靭性強化の観点からは、質の高いインフラ投資も重要です。日本は、WBGやその支援対象国においてG20質の高いインフラ投資原則が主流化すること、また、世銀の調達改革を通じて支援対象国において品質評価の比重をより高めた公共調達が行われることを期待します。
ネット・ゼロ実現に向けて、低・中所得国が資源の採掘など上流だけではなくクリーン・エネルギー製品のサプライチェーン全体を構築し、より大きな役割を果たすことが重要です。この観点から、RISEパートナーシップにおいて、ザンビアの重要鉱物を活用するための課題や機会を特定したカントリーロードマップが完成したことを歓迎します。日本は、ロードマップに記載された課題や機会を踏まえ、WBGと連携しつつ、ザンビアにおけるJICAによる技術協力などの支援を実施していきます。今後もWBGと他機関が連携し、ラテンアメリカなど他地域での活動を含め、RISEの取組を着実に進めていくことを期待します。
(3)債務問題
グローバルな債務脆弱性への対応は引き続き喫緊の課題です。「共通枠組」の下での債務再編は、本年3月、エチオピア政府との間で基本合意に到達するなど進展しています。他方、債務再編プロセスの迅速化等、改善すべき課題も多く、昨年策定された「共通枠組」実施の「教訓に関するG20ノート」の勧告を踏まえ、予測可能で、適時に、秩序立ち、かつ連携した方法での更なる実施改善が重要です。そのための具体的な手法として、タイムラインの目標設定を含めたユーザーマニュアルや債務再編プレイブックを策定すべきです。WBGには、グローバル・ソブリン債務ラウンドテーブルでの議論も含めて、「共通枠組」の実施改善に向けた役割を期待します。
債務の透明性は、適切な貸付・借入慣行を促すことで将来の債務危機を未然に防ぐとともに、危機時に迅速な債務再編を実施するためにも重要です。この観点から、日本とWBGが連携して主導してきた債権データの突合に係るData Sharing Exerciseの2回目の実施、及びその結果の公表を歓迎します。日本は、本取組の定例化と参加国拡大を呼びかけるとともに、WBGが実施する突合作業のデジタル化に向けたパイロットプロジェクトに債権国として参加し、資金支援を行うことを表明します。日本は、債務管理ファシリティ(DMF)の次期フェーズを含めて、途上国の債務の透明性・持続可能性向上を引き続き支援していく所存であり、債務透明性の分野で更なる進展を得られるよう、WBGが主導的な役割を果たすことを期待します。
債務が持続可能である一方で短期的な流動性困難を抱える脆弱国を、如何に支援するかも重要です。日本は、そうした国が国内資金や民間資金の動員強化に取り組むことを特に重視しており、それを第一の柱に掲げるIMF・WBGによる「三本柱のアプローチ」の取組を引き続き支持します。
(4)太平洋島嶼国
太平洋島嶼国は、その地理的特性に由来する狭小性、隔絶性、遠隔性、海洋性といった脆弱性を抱えており、様々な開発課題に直面しています。
同地域が持続可能かつ包摂的な成長を達成していくためには、金融システムの健全性と包摂性の確保が極めて重要であり、同地域からのコルレス銀行の撤退は経済発展と社会生活の安定に悪影響を及ぼします。日本は、世銀が実施する太平洋島嶼国向けの「コルレス銀行関係プロジェクト」に対して、「日本開発政策・人材育成基金(PHRD)」を通じて2.8百万ドルを拠出し、非IDA対象国であるクック諸島、ナウル、ニウエ、パラオをその支援対象に加えました。同プロジェクトへの他のパートナーからの協調支援を慫慂します。
また、同地域が抱える自然災害に対する脆弱性やその財政への悪影響に対応するため、日本は、太平洋島嶼国の財政強靱化を目的とした世銀のFiscal Resilience Programの立上げを支援するとともに、本年3月に太平洋島嶼国の財務大臣等が参加するハイレベル会合を東京で開催しました。今後とも、日本は、世銀を始めとするパートナーと緊密に連携しながら、太平洋島嶼国の実情に則した必要な支援を実施していきます。
(5)アフリカ開発会議(TICAD)
日本は、1993年にアフリカ開発会議(TICAD)を立ち上げ、長年に亘り、アフリカ開発に向けた国際社会の取組を主導してきました。アフリカの国際社会における重要性や発言力が益々高まる中、本年8月に世銀、国際連合等と横浜で共催する第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)では、貿易・投資促進、若者・女性のエンパワーメント、地域統合・連結性促進等、日本、アフリカ及び国際社会が抱える諸課題について、官民が連携し、日本の強みを生かした革新的な解決策をアフリカと共創するべく議論を行います。
この機会に、日本は、喫緊の地球規模課題に機動的かつ柔軟に対応するため、PHRDに新しい支援枠として「Global South Pillar」を設置します。本支援枠から、アフリカにおける食料・栄養安全保障のための世銀の取組を支援するべく、約30百万ドルの貢献を行う意向です。加えて、TICAD9では、WBG・アフリカ開発銀行・欧州復興開発銀行をはじめとするMDBsとの連携やJBIC・JICAを通じた民間主導の経済成長支援、日本が従来から重視してきた債務問題への対応を含む財政の健全性の確保、及びUHCハブを通じた人間開発の礎としてのUHCの実現などの取組も進めます。横浜で皆様をお迎えすることを楽しみにしています。
5.結語
日本は、バンガ総裁及びゲオルギエバ専務理事のリーダーシップの下、WBG及びIMFが、他機関とも連携しつつ、複雑化する世界の開発課題に対処していることを高く評価しています。WBGがマルチの開発金融機関として主導的な役割を果たせるよう、その取組を資金面、政策面、そして人材面で引き続き支援していきます。
(以 上)