-
はじめに
ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす、明白な国際法違反です。また、民間人に対する残虐な行為は国際人道法違反であり、戦争犯罪です。途上国の開発援助を含む国際的な経済・社会協力に当たって平和の維持は不可欠であり、これに反するロシアの行為は断じて許容できず、厳しく非難します。そうした中、世銀グループ(WBG)が迅速に、ロシア及びベラルーシでのプログラムを停止したことを評価します。
-
ウクライナ及び周辺国への支援
国際社会としては、ウクライナに対する支援に緊急に取り組む必要があり、WBGが即座に30億ドルの支援パッケージを発表したことを日本は歓迎します。また、ロシアによるウクライナ侵略の影響はウクライナにとどまるものではなく、避難民発生等により周辺国に波及し、さらに、エネルギー価格や食糧価格の高騰、貿易や金融の経路を通じ、途上国を含む世界全体に波及しています。影響を受けて苦しむ人々に一刻も早く支援を届けることが重要です。
日本としても、2億ドルの緊急人道支援に加えて、世銀のウクライナ支援への協調融資として1億ドルの融資の提供を既に表明していますが、これを3億ドルに増額することを表明します。また、国際開発協会(IDA)の資金を活用したウクライナ及びモルドバへの支援を支持するとともに、WBGをはじめとする国際開発金融機関(MDBs)やIMFと連携し、引き続き積極的に支援を行っていきます。
-
世銀グループの資金基盤強化
こうしたウクライナ等の緊急支援や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等への危機対応に加え、持続可能で包摂的な成長を確実に支援できるよう、日本は、WBGの資金基盤の強化に貢献します。
(1)国際開発協会第20次増資(IDA20)
IDAが、歴史上初めて増資を1年前倒しし、昨年12月に日本が最終会合を主催した中で、史上最大の支援規模の合意に至ったことは、国際社会としての強力なメッセージです。日本としても強力な支援を継続すべく、マルチ債務救済イニシアティブ(MDRI)負担分も含めてIDA20に4,206億円(38.4億ドル)の出資を行う増資法が3月30日に全会一致で成立したことをご報告します。IDA20の下で低所得国に対して力強い支援が提供されることを期待します。
(2)国際復興開発銀行(IBRD)及び国際金融公社(IFC)増資の払込み
国際復興開発銀行(IBRD)及び国際金融公社(IFC)についても、2018年の増資パッケージの合意に基づく資金基盤強化を加速するため、日本は、両機関の増資に係る払込みを当初予定より前倒しし、今般完了させました。各国からの払込みの早期完了を期待するとともに、より所得の低い国にWBGのリソースをより多く振り向けるため、卒業に向けた議論を含めた増資パッケージの着実な実施を期待します。
-
持続可能で包摂的な成長の実現
持続可能で包摂的な成長を実現するためには、まず①COVID-19パンデミックの収束と国際保健システムの強化を図るとともに、②気候変動への対応、③デジタル化の推進が不可欠です。そのうえで、こうした取組を持続可能な形で支えるため、④質の高いインフラ投資の推進を通じて成長の土台を構築しつつ、⑤パンデミックの中で一層悪化した債務の脆弱性に対処する必要があります。それぞれについて日本が重視する点とWBGに期待する点は以下のとおりです。
(1)COVID-19パンデミックの収束と国際保健システムの強化
COVID-19パンデミックとの闘いは終わっていません。世界経済全体の回復を図るためには、途上国を含めた世界全体で変異株の連鎖を防ぎ、パンデミックを収束させることが最優先です。IDA20等の支援が、ワクチンの調達・普及や医療体制の強化といった足元のCOVID-19対応を更に加速させることを期待します。
また、日本がかねてよりその重要性を主張してきた、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進等を通じた、将来の保健危機への予防・備え・対応の強化も重要です。IDA20との相乗効果を発揮し、途上国の支援を一層強化するため、日本は、「保健危機への備えと対応に係るマルチドナー基金(HEPRTF)」に対し、30百万ドルの追加拠出を行うことを表明します。
そのうえで、IDAやHEPRTF等の既存のメカニズムを最大限活用しつつ、なお不足するギャップに対処するため、既存の取組を補完するFinancial Intermediary Fund(FIF)の設立を支持します。FIFが正しく機能するためには、財政・保健当局者及び国際機関の連携を促進しながら、拠出するドナーの意向が意思決定に適切に反映されるガバナンスの仕組みを構築することが肝要です。WBGには、WHOの協力を得ながら、FIFの設立に向けた具体的な議論を早急に進めることを期待します。
(2)気候変動問題への対応
国際社会全体として1.5℃目標を達成するためには、途上国、とりわけ主要排出国においても、温室効果ガスの最大限の排出削減を進めることが不可欠です。「ネット・ゼロ」の達成に向け、開発との両立を図りつつ、各国においてそれぞれの事情を踏まえた野心的な移行の道筋を構築する必要があり、その際にWBGの国別気候・開発報告書(CCDR)が中核的役割を果たすことを期待します。更に、各国がその道筋に沿って緩和と適応の取組を進められるようWBGが包括的な支援を行うことが重要です。
緩和の面では、エネルギー分野において、温室効果ガスの排出量削減を図りつつ、ユニバーサルかつ現実的な価格でのアクセスを同時に達成することが重要です。足元における着実なエネルギー移行を進めるため、WBGが各国の実情を踏まえつつ、天然ガスも含め、累積的な温室効果ガスの排出を抑制する観点から最良の方策を支援することを期待します。そのうえで、将来を見据えた再生可能エネルギーへの投資も同時に進めることが重要であり、この観点から、日本は、「Energy Sector Management Assistance Program(ESMAP)」への15百万ドルの追加拠出を通じ、途上国におけるグリーン水素や地熱発電、蓄電池の利用を支援するとともに、多数国間投資保証機関(MIGA)の「Renewable Energy Catalyst Trust Fund」に新たに5百万ドル拠出し、再生可能エネルギー分野での民間資金動員を加速させます。
また、適応の面では、気候変動により自然災害の頻度と深刻さが一層高まっている中で、防災・強靭化の観点が益々重要になっています。日本は、引き続き「世銀防災共同プログラム」や「防災グローバルファシリティ(GFDRR)」を通じた自然災害への強靭化を支援します。また、IFCの包括的日本信託基金(CJTF)を通じて送水ロスの削減や排水の再利用による水資源の有効な活用を推進し、干ばつ等への対応を支援します。
気候変動分野のみならず、生物多様性保全、国際水域汚染防止、化学物質対策等も含む地球環境問題に対応する地球環境ファシリティ(GEF)の第8回増資交渉の合意を歓迎します。GEFが後発開発途上国(LDCs)・小島嶼開発途上国(SIDs)支援への重点化を進め、効率的・効果的に事業を推進することを期待します。
(3)デジタル化の推進
デジタル化は、世界経済の成長の源泉であると同時に、社会サービスの提供拡大への貢献等を通じ成長をより包摂的にし得るものです。デジタル化の果実を最大限享受する上で、日本が重視するのは、①通信分野にとどまらないデジタル技術のあらゆる分野への活用、②格差への対応、③サイバーセキュリティー及びデータプライバシーをはじめとするガバナンスの構築です。
WBGには、①データへの信頼性向上と公平な競争を通じて成長を促進するための、ガバナンスの構築・環境整備の支援、②デジタル・ディバイドの解消や、デジタル技術を活用した新たな支援手法の導入といった格差対策支援、③様々な金融手法とグローバルな知見をフル活用した資金ギャップへの対応、を期待します。特に、ガバナンスの構築を推進するため、日本は、「サイバーセキュリティー能力構築信託基金」に対し、13百万ドルの拠出を行うことを表明します。
また、デジタル化に関するWBGの広範な取組をより俯瞰的・戦略的に進めていくため、国別支援フレームワークの分野横断的な優先課題としてデジタル化を位置づけるなど、WBG内で主流化することを強く期待します。
(4)質の高いインフラ投資の推進
成長の土台となる経済基盤の整備のためには、気候変動やデジタル化への対応を含め、債務持続可能性の観点も踏まえた質の高いインフラ投資を一層推進することが重要であり、WBGが一体となって質の高いインフラ投資に関する G20 原則の実施を更に推進していくことを期待します。この観点から、日本は、「グローバル・インフラストラクチャー・ファシリティ(GIF)」に10百万ドルを追加拠出するとともに、引き続き「質の高いインフラ・パートナーシップ基金」、「世銀東京開発ラーニングセンター(TDLC)」等を通じた取組を推進していきます。また、IFCが整備を進めている質の高いインフラ投資指標(QII Indicator)は民間資金を一層動員する上で重要な作業であり、既存のプロジェクトに対して指標の適用の試行を開始することを期待します。
(5)債務問題への対処
COVID-19の影響に加え、エネルギー価格の上昇等を背景に、途上国の債務が持続不可能となるリスクが一層高まっており、途上国が返済能力を超えた過剰な借入を行わないよう注視することが重要です。また、既に債務脆弱性を抱えてしまった国については、「共通枠組」の下、債務持続可能性を回復することが必要です。WBGが、こうした取組の重要性について、債権国・債務国双方の理解を醸成することを期待します。また、債務国に「共通枠組」の有益性を理解してもらえるよう、「共通枠組」の下での債務措置の予見可能性を与えることが必要です。この観点から、G20とパリクラブの債権国が、債務措置を既に要請した3か国のプロセスを早急に進めること、「共通枠組」のプロセスを明確化することが必要です。
加えて、債務持続可能性の確保には、債務データの透明性・正確性の向上が不可欠です。この分野で高い専門性を有するWBGが、債務国への能力構築支援を一層強化することを期待します。また、WBGが債権国に対しても、貸付データをIMF・世銀に提供することや、不透明な担保付借入やデータ共有の妨げとなる秘密条項を使用しないよう、促していくことを期待します。日本は、債務透明性向上の取組に、引き続き、積極的に協力していく所存です。
-
結語
WBGは、様々な分野に対して分野横断的なアプローチで、財務及び知見の両面から支援することが可能な数少ない存在です。
持続可能で包摂的な成長の実現のため、WBGが、マルパス総裁のリーダーシップの下、IMFや他のMDBsとの間で、それぞれの比較優位を踏まえつつ適切に役割分担した上で連携しながら、主導的な役割を果たしていくことを期待します。
日本として、WBGとの長年にわたるパートナーシップを更に発展させ、WBGによる取組を、資金面、政策面、そして人材面で、積極的に支援していくことを改めて表明します。
(以 上)