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第104回世銀・IMF 合同開発委員会における日本国ステートメント(2021年10月15日 於:ワシントンD.C.)

  1. はじめに

     新型コロナウイルス(COVID-19)感染症による未曾有の公衆衛生・経済・社会危機が続いています。経済・社会の回復のスピードは国・地域間あるいは国・地域内で不均衡であり、先行きの見通しは不確実性が高い状況です。

     一刻も早い危機からの脱却と次の危機への備えを強化するとともに、人的資本への投資、気候変動問題への対応、安全性に配慮したデジタル開発の促進、債務の透明性・持続可能性の確保を通じて、包摂的で持続可能な復興を達成する必要があります。

     日本は、これらの課題に対応するための、世銀グループ・IMFをはじめとする国際機関の取組みを支えてまいります。

  2. 継続するCOVID-19危機からの脱却と将来の保健危機への備え

     COVID-19の感染拡大が継続している状況下、これを収束させることが喫緊の課題です。この点、世銀グループが、迅速にCOVID-19対策支援を実施してきたことを高く評価します。COVID-19による危機が長期化している中、引き続き国際社会が連携して危機からの脱却に取り組むことが重要であり、世銀グループが、IMFや他の国際開発金融機関(MDBs)との間で、それぞれの比較優位を踏まえつつ適切に役割分担した上で連携しながら、主導的な役割を果たしていくことを期待します。

     COVID-19は人類にとって最後のパンデミックではありません。次なるパンデミックが起こった際に、これまでの開発効果を失うことや脆弱層が極度の貧困に陥ることがないよう、将来の保健危機の予防・備えをすることが重要です。

     こうした問題意識の下、かねてより日本は世銀グループと連携し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成に向けた国際保健の議論を推進してきました。今後、世銀グループは、国レベルでの予防・備え強化の観点から、国際保健システムの強化とそのための知的支援・資金配分について、優先順位を戦略的に高めることが求められます。この点、国際開発協会(IDA)第20次増資の議論においてパンデミックへの備えの強化が重要な政策コミットメントとなることを期待します。

     同時に、グローバルなレベルでは、G20で議論が行われているGlobal Health and Finance Board for Pandemic Prevention, Preparedness and Response設立に向けて、国際保健アーキテクチャーのギャップ分析とその解決策の提示について、COVID-19 に関する多国間リーダーズタスクフォース(MLT)の経験も活かし、保健と財務の双方の知見を有する世銀グループが中核的な事務局機能を果たすことを期待します。

     さらに、G20における危機時の迅速な資金動員に際して、世銀グループが積極的な貢献を行うことを期待します。その際、新たな枠組みの構築により、重複や調整を複雑化させるリスクを避けるため、日本としては、MDBs を含む既存の資金メカニズムの効率化・スケールアップを重視します。

     この観点から、日本は、これまでCOVID-19への対応における途上国の支援に当たってきた保健危機への備えと対応に係るマルチドナー基金(HEPRTF)のスケールアップを通じて引き続き途上国政府の能力強化や医療設備・機材の整備等を支援するとともに、国際金融公社(IFC)のGlobal Health Platform(GHP)を通じた途上国向け医療物資の製造・供給能力強化等への民間資金動員を支援していく考えです。

  3. 強靭で持続可能で包摂的な復興

     貧困の削減と持続可能な成長の実現をするためには、人的資本の強化、気候変動問題への対処、安全性に配慮したデジタル開発の促進に取り組むことを通じて、包摂的な復興と成長の基盤づくりを図る必要があります。その上で、こうした取組みを持続可能な形で支えるため、債務の脆弱性に対処することも重要です。

    (1)人的資本への投資

     COVID-19のダメージが長期化・固定化することを防ぐためには、誰も取り残さない包摂的な復興が必要です。人的資本への適切な投資は、COVID-19による教育機会の喪失、ジェンダー不平等の拡大といった将来に残る負担を緩和し、各国における能力構築と成長の基盤となります。

     人的資本の強化の観点からは、乳幼児の発育不全や免疫低下のリスク低減、非感染症疾患のリスク低減を含め、栄養の側面も考慮したUHCの推進が重要です。こうした観点から、日本は、Global Financing Facility(GFF)に対し50百万ドル、Japan Trust Fund for Scaling Up Nutrition(SUN)信託基金に対し20百万ドル、総計70百万ドルの追加拠出を行うこととしており、本年12月に日本が主催する栄養サミットに向け、栄養分野において世銀グループと連携して途上国支援に貢献していきます。

     (2)気候変動問題への対応

     気候変動問題について、日本は他の多くの国とともに2050年までのネットゼロ又はカーボンニュートラルを目指すこととしていますが、国際社会全体として1.5℃目標を達成するためには、途上国、とりわけ主要排出国においても、その目標に沿って温室効果ガスの最大限の排出削減を進めることが不可欠です。この点、パリ協定の目標達成を目指して、本年6月に取りまとめられた世銀グループのClimate Change Action Plan 2021-2025 (CCAP)を歓迎します。

     エネルギーについては、持続可能かつ近代的なエネルギーへのユニバーサルなアクセスの確保を目指すSDGsの目標7と国際社会全体としての温室効果ガス排出量削減の双方を達成するため、世銀グループには、各途上国において、パリ協定に沿った野心的な、国が決定する貢献(Nationally Determined Contributions:NDCs)、長期戦略(Long-Term Strategies:LTSs)、エネルギー計画の策定及び実施の支援と、継続的なモニタリングを行うことを期待します。この際、世銀グループをはじめとするMDBsの支援を受ける途上国が、二国間支援や民間資金により、エネルギー計画と整合的でない事業を実施しないようにして、国全体としての移行を確保する必要があります。また、卒業基準所得を超えている国については、エネルギー計画等が国際的な削減目標と整合的であることが重要です。

     その上で、個別プロジェクトについては、エネルギー計画等に沿って、各国の実情を踏まえつつ、累積的な温室効果ガスの排出を抑制する観点から最良と思われる方策が採られるべきであると考えます。天然ガスであることや中所得国であることだけを理由として支援対象から排除することは、結果として、累積的な温室効果ガスの排出量を大きくしてしまう可能性もあり、合理的ではないと考えます。なお、日本は、世銀グループをはじめとするMDBsが新規の石炭火力支援を行わないとしていることを支持します。

     日本は、こうした考え方の下、今般「MDBsのエネルギー支援に係る日本の提案」(PDF:259KB)を取り纏めました。これに沿った世銀グループの支援と連携し、相乗効果を発揮できるよう、信託基金への拠出等を通じて途上国の気候変動問題への対応を支援していきます。

     具体的な対応として、まず、再生可能エネルギーへの投資は決定的に重要です。日本は、Energy Sector Management Assistance Program (ESMAP)への新規拠出を通じて、途上国におけるグリーン水素や蓄電池の利用を支援していきます。

     また、気候変動により自然災害のリスクが高まっている中で、適応・強靭化の観点が重要です。CCAPの下で適応・強靭化分野の支援を強化するとともに、世銀防災共同プログラムを通じた知見の共有、防災グローバルファシリティ(Global Facility for Disaster Reduction and Recovery:GFDRR)を通じた気候変動リスク・脆弱性に関する分析、自然災害保険の活用を通じた自然災害への強靭性強化を進める必要があります。

     緩和・適応の双方に、民間資金の動員が不可欠です。IFC・MIGAには、民間資金の更なる動員に向けた計画策定とその報告を求めます。また、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD)提言に沿って、金融機関が自主的な気候関連の情報開示を進めることにより、民間資金が持続可能な社会の構築に資するように運用されていくことが重要です。これに係る技術支援を行うため、IFCに設置した日本信託基金を通じた支援を行っていきます。


    (3)デジタル開発

     デジタル化は、包摂的で持続可能な成長の機会をもたらすものですが、COVID-19の影響で生活様式が変化し、デジタル開発の重要性が一層顕在化しています。通信網等のデジタルインフラのみならず、電力、水道、交通といった重要基幹インフラや、教育や保健等の社会サービスの整備等、あらゆる場面でデジタル開発が重要になっています。

     こうしたデジタル開発の利点が適切に発揮され、その成果が失われることがないよう、サイバーセキュリティー・データプライバシーの確保が必要不可欠です。世銀グループの支援において、この観点を主流化することが重要であり、世銀グループにおけるICTポリシーの見直しを期待します。日本としては、サイバーセキュリティー能力構築信託基金への拠出を通じて支援していきます。

     サイバーセキュリティーに対処した質の高いインフラの整備にあたっては、世銀グループによる案件組成支援や調達支援を通じて、知見の共有がなされることが重要です。日本は質の高いインフラ・パートナーシップ基金(QIIP)を通じて支援していきます。

    (4)債務の透明性・持続可能性の確保

     途上国の持続的な成長のためには、債務の透明性・持続可能性の確保も不可欠です。

     昨年のG20・パリクラブによる「共通枠組」の合意以後、まだ一件も債務措置を実施していません。2021年末に債務支払猶予イニシアティブ(Debt Service Suspension Initiative:DSSI)が失効します。こうした中、G20は、「共通枠組」を適時かつ秩序だった方法で連携して実施することにコミットしました。G20が、この枠組の下で、予見可能な時間の枠内で、期限を区切って、途上国の債務脆弱性に効率的に対処することを期待します。既に「共通枠組」を要請した3か国に債務措置を早急に実施することが必要です。今後債務脆弱性を抱えた国を幅広く支援するにあたり、「共通枠組」が有効に機能することを期待します。

     将来の危機を未然に防ぐ観点から、世銀・IMFによる債務透明性に係る分析や債務分野の技術支援の一層の強化に期待します。加えて、世銀・IMFによる債務国のデータ突合(Debt Data Reconciliation:DDR)の進展を求めます。DDRを通して、債務国が正確に債務データを把握し、適切に債務を管理する能力が向上することが重要です。また、突合済みの債務データに基づき正確な債務持続可能性分析が実施されることは、債務国・債権国双方にとって重要なことです。世銀には、IDA20の政策コミットメントにおいて債務の透明性・正確性の向上に係る債務者側の取組みを促すとともに、債権者側には持続可能な開発金融政策(Sustainable Development Finance Policy:SDFP)の債権者アウトリーチプログラム(Program for Creditor Outreach:PCO)の下、IMFと連携してDDRへの協力を働きかけていくことを期待します。日本は、世銀の債務分野の取組みを支援するため、世銀の債務管理ファシリティ(Debt Management Facility:DMF)第3フェーズの2022年度の活動に1.5百万ドル拠出することを表明します。


     また、過剰な借入への依存の低下ひいては強靱な復興のための持続可能なファイナンスの実現や、将来の危機発生時の備えとなる財政余力の確保のため、国内資金動員を忘れてはいけません。国内資金動員は、途上国による資金へのオーナーシップの向上を通じ、当該途上国のガバナンス・公共財政管理に係る能力向上にも資するものです。この観点から、本年7月に採択されたアビジャン宣言において言及されているような、途上国における、国内資金動員に向けた取組みの継続や、動員された資金の透明かつ効率的な活用に期待します。日本は、COVID-19に伴う大幅な税収減に直面しているアジア太平洋地域を含めた国内資金動員支援のため、Global Tax Programに1.5百万ドル拠出することを表明します。

  4. IDA第20次増資

     特にCOVID-19の影響が大きい低所得国が一刻も早く危機から脱却し、グリーンで強靭で包摂的な復興を達成する上で、世銀グループによる継続的な支援は極めて重要です。IDA第20次増資の1年前倒しは過去に例のないものであり、国際社会としての強力なメッセージです。本年12月に東京でホスト予定のプレッジ会合に向け、国際社会が連携して取り組むことが重要であり、日本は引き続き議論に積極的に参画していく所存です。

  5. 結語

     世銀グループは、様々な分野に対して分野横断的なアプローチで、財務及び知見の両面から支援することが可能な数少ない存在です。

     強靭な復興と将来の危機への予防と備えに向けて、マルパス総裁のリーダーシップの下、世銀グループが、IMFや他のMDBsとも適切に連携しつつ、主導的な役割を担うことを期待します。日本として、世銀グループとの長年にわたるパートナーシップを更に発展させ、その世銀グループによる取組みを、資金面、政策面、そして人材面で、積極的に支援していくことを表明します。


(以 上)