このページの本文へ移動

第108回世銀・IMF合同開発委員会における日本国ステートメント(2023年10月12日 於:モロッコ・マラケシュ)

1.はじめに

モロッコ中部及びアフガニスタン西部で発生した地震並びにリビア東部において発生した洪水によりお亡くなりになられた方々並びにその御家族に心からの哀悼の意を表するとともに、負傷者の方々にお見舞いを申し上げます。また、震災後間もない中、年次総会をホストしたモロッコ政府及びマラケシュ市民の皆さまの温かい歓迎に心より深く感謝を表したいと思います。

我々は、ロシアのウクライナに対する不法かつ、不当で、いわれのない侵略戦争を引き続き非難します。ロシアの戦争は、悲劇的な人命の損失と財産及びインフラの破壊を引き起こし、世界経済の課題を悪化させています。ロシアのウクライナに対する不法な戦争の即時の終結を求めます。これは、世界経済の見通しに対する最大の不確実性の1つを解消するものです。

アジェイ・バンガ新世界銀行グループ(WBG)総裁を心より歓迎します。バンガ総裁のリーダーシップの下、新しいビジョンとミッションの実現に向けて、WBGがより一層大きな役割を果たすことを期待します。

2.ウクライナへの支援

長期化するロシアの侵略により、ウクライナの甚大な被害は更に拡大しています。こうした中、WBGとIMFが復旧に向けた取組を主導していることに感謝します。特にWBGがウクライナの被害とニーズ評価を実施し、中長期的に復旧・復興に要する費用を算出するとともに、喫緊のニーズである住宅分野等の支援を行っていることを高く評価します。

日本はこれまで、ウクライナ復旧・復興支援基金(URTF)を通じた約5億ドルのグラント支援に加え、国内法を改正し、50億ドルの国際復興開発銀行(IBRD)融資に対して信用補完をコミットしました。この信用補完を活用し、既にウクライナに対して15億ドルのIBRD融資が実行され、年内の次の融資実行に向け準備が進められていることを歓迎します。

ウクライナの復興に見込まれる膨大な資金需要に対応するには、公的な資金が触媒となり、民間資金を動員していくことが重要です。その観点から、日本は多数国間投資保証機関(MIGA)の「ウクライナ復興・経済支援信託基金(SURE)」に対し、第1号ドナーとして23百万ドルを拠出しました。加えて、今般2百万ドルの追加拠出を行い、民間プロジェクトへのMIGAによる保証付与に一層貢献します。

日本は、今後ともウクライナが必要とする財政ニーズや復興需要に対応していくため、引き続きWBGと連携しながら支援を行います。

3.世銀改革

昨年の総会において、出資国はWBGに対して、複層的な危機への対応能力を向上させ、地球規模の課題への対応を強化するための具体的な取組についての検討を求めました。日本は、ビジョンとミッション、業務モデル、財務モデルの見直しを含む、WBGでのこれまでの作業の進捗を高く評価し、春総会に向けて残る課題について更に議論を深めることを期待します。

日本は、新しいビジョンとミッションにおいて、「極度の貧困の撲滅」と「繁栄の共有」という二大目標を維持しつつ、地球規模の課題への対応との相互補完関係が明確化されることを歓迎します。

こうしたビジョンとミッションを実現するため、日本は、WBGに対し、One World Bankアプローチを一層推進していくことを求めます。加えて、WBGのすべての機関が、各国政府だけではなく、民間セクターやその他の国際機関や開発パートナーとの協力を強化していくことを期待します。そのための取組として、国内資金や民間資金の動員を更に強化していくこと、コーポレートスコアカードにおいてインプットよりもアウトカムを重視して開発効果を高めていくこと、知的貢献(knowledge products)を強化し、知識面でのリーダーシップを発揮することを求めます。また、Global Challenge Programsにおいて案件の再現性と規模拡大を可能とするパイロットプロジェクトを開始すること、それらに保健危機対応やデジタル化が含まれていることを歓迎します。

途上国が自律的な成長を実現する上で、国内資金動員の強化により持続可能な財源を確保していくことは重要です。そのためには、その基盤となる税制度の整備や税務執行能力の向上が不可欠です。日本はWBGに対して、受益国の実情に合わせたPublic Finance Reviewの実施やIMF・ADB・OECD等との連携強化を求めます。

地球規模の課題への対応のため、巨額の開発資金が必要であり、WBG自身が融資余力を拡大していくことも不可欠です。そのためには、まず自己資本の十分性に関する枠組み(CAF)レビューの提言に沿って既存資金の効率的な活用に取り組むことが重要です。こうした中、WBGマネジメントと理事会が、ポートフォリオ保証プラットフォーム(PGP)や株主によるハイブリッド資本等のファイナンス・ツールを開発したことを歓迎します。日本は、今後PGPへの拠出を通じて、数十億ドル規模の融資余力の拡大に貢献する用意があります。支援にあたっては、拡大した融資量が地球規模の課題への対応に適切に使用されるよう、支援分野の優先付けについても理事会において議論されることを期待します。

外部性があり、国境を越えて他国に影響を及ぼす性質を有する国際公共財への対応を各国が強化するにあたり、その財務負担を軽減するための譲許的資金の提供も求められます。有限の譲許的資金を効果的に活用するには、低所得国に加えて、所得水準が低く市場アクセスの限られる脆弱な中所得国に対象を絞って支援していくことが重要です。こうした観点から、日本は譲許性原則の議論を支持するとともに、譲許的資金の配分枠組みについて理事会が更に議論を深めることを期待します。また、日本は、低所得国支援に果たす国際開発協会(IDA)の重要性に鑑み、引き続き相応の貢献をする考えです。

膨大な開発ニーズに対応するには、公的資金に加え民間資金の動員が不可欠であり、国際金融公社(IFC)やMIGAが果たす役割はますます大きくなっています。とりわけMIGAは与信集中リスクを低減することで国際開発金融機関(MDBs)の融資余力の拡大に貢献することが可能であり、日本はMIGAによるMDBs向け保証プログラムの提案を歓迎します。加えて、新しく設立された民間セクター投資ラボとも連携し、更なる民間資金動員につながる効果的な保証プログラムを開発していくことを期待します。

4.個別開発課題への対応

続いて、日本が特に重視する開発課題について、日本として重視する点及びWBGに期待する点は以下のとおりです。

(1)国際保健

我々はCOVID-19パンデミックの教訓を活かし、次のパンデミックに備えて平時から「予防」、「備え」及び「対応」(PPR)の強化を図っていく必要があります。

その観点から、WBGに昨年設立された「パンデミック基金」が、今年7月に第一回目の支援案件を決定したことを歓迎し、当支援が着実に実施されることを期待します。日本としては既に発表済みのものに加え、今年4月に20百万ドルの追加拠出を決定したところ、第二回目の案件募集の年内開始に向け、当基金を引き続き支援していく所存です。

平時の「予防」及び「備え」に加え、パンデミックが発生した場合の「対応」の強化が必要です。日本は、今年8月に「G20財務・保健合同タスクフォース」がWBG及びWHOとともに作成した「パンデミックの対応のためのファイナンスの選択肢及びギャップのマッピングに関する報告書」を歓迎し、年内の最終化を期待します。当報告書が特定した既存の資金メカニズムのギャップを解決するため、パンデミック発生時に迅速かつ効率的に必要な資金を供給する革新的なメカニズムの構築は喫緊の課題であり、日本として更なる作業をWBG等と連携して進めていく所存です。

日本がかねてより重要性を主張してきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の根幹とも言うべき各国の保健システムの強化も重要です。日本はWBGの日本信託基金(PHRD)を通じて以前から貢献してきましたが、途上国のUHCを更に推進するため、来年から開始されるフェーズ4に向けて追加拠出を行っていく所存です。また、保健ファイナンスやガバナンスの強化、デリバリーの改善、技術革新の支援など保健システム全体の強靭性を高める観点から、今後新基金が設立された際には、日本は第1号ドナーとして10百万ドルの拠出を行う用意があります。

(2)気候変動問題

気候変動の対応においては、開発との両立を図りつつ、各国の事情を踏まえた野心的かつ現実的な移行の道筋を構築することが必要です。脱炭素化に向けた取組が加速する中、移行に不可欠であり今後需要の急増が見込まれるクリーン・エネルギー関連製品のサプライチェーンの多様化は、ネットゼロの達成に向けた世界的な取組を支えるのみならず、途上国における新たなより環境にやさしい成長機会の創出にもつながります。

こうした問題意識から、日本は世銀とともに、新たなパートナーシップであるRISEの策定を主導してきました。RISEは、低・中所得国がクリーン・エネルギー関連製品の中流(鉱物の精錬・加工)及び下流(部品製造・組立)において、より大きな役割を果たせるよう協力する取組です。

日本の貢献予定合計額25百万ドルを含め、各国の協力を得て、昨日11日にRISEの立ち上げイベントを世銀と共同で開催することができました。日本は、クリーン・エネルギー分野で、低・中所得国の自国産業の多様化・高付加価値化を通じた持続可能な発展や、関連製品の安定供給を通じたネットゼロに向けた取組を支えるため、引き続き世銀や関係機関、同志国と協力して取組を進めていきます。この取組に、より多くの国に参加いただけることを期待しています。

今年は、日本の首都東京を襲い死者10万人以上を出した関東大震災から100年の節目の年です。災害は地域に重大な経済的被害をもたらすだけではなく、貧困層や脆弱層にとりわけ大きな影響を与えます。近年、自然災害の頻度や危険性は更に増加しています。災害への迅速な対応を促進するため、日本は「日本―世界銀行防災共同プログラム」を通じて、グローバル災害被害迅速判定(GRADE手法)による支援を本年度より開始しました。これは、復旧・復興計画の策定に不可欠な災害による経済被害を評価するための手法であり、被災国における長期的な復旧計画の迅速な策定に貢献します。

防災の観点から、ハード対策としての災害に強靭なインフラ整備とともに、ソフト対策としての災害リスク保険の普及などが益々重要となっています。日本は、「日本―世界銀行防災共同プログラム」、「質の高いインフラパートナーシップ基金(QIIP)」、「東南アジア災害リスク保健ファシリティ(SEADRIF)」等を通じて、こうした強靭性強化の取組を引き続き支援していきます。来年6月には、世界銀行防災グローバルファシリティ(GFDRR)が自然災害について議論を行う防災グローバルフォーラム2024を兵庫県姫路市で開催する予定であり、多くの国の方々に参加いただけることを期待します。

(3)債務問題

債務の脆弱性が、低所得国に加え一部の中所得国でも一層高まっています。途上国が中長期的に開発課題を解決していくためには、債務の持続可能性を回復することが喫緊の課題です。

低所得国については、「共通枠組」の下、債権者委員会による債務措置を迅速かつ予見可能な形で実施することが必要です。中所得国であるスリランカの債務再編においては、日仏印の主導の下、パリクラブ・非パリクラブの垣根を越えた協調の枠組を創設してから半年間で大きな進展があったことを歓迎するとともに、一刻も早い債務再編合意に期待します。

債務危機を未然に防ぐには、平時から債務データの透明性・正確性を高める取組が不可欠です。この重要性を踏まえ、日本は、債権者がWBGに詳細な貸付データを共有する取組を主導し、WBGによる債権突合の結果、初期段階で計65億ドルに上るデータギャップを特定できました。この取組を通じた債務正確性・透明性の向上は、MDBsを含む債権者・債務者の双方の債務持続可能性を踏まえた適切な融資や借入の判断に資するものです。日本は、全ての公的二国間債権者が同様の協力をするよう慫慂するとともに、引き続き、WBGの取組を支援します。また、こうした公的セクターの取組と併せて、民間債権者による国際金融協会(IIF)/OECD 共同のデータ保存ポータルに貸付データの提出が促進されることを期待します。

途上国の債務持続可能性の回復と、安定的な経済成長の実現には、債権国による債務措置に加えて、WBG等のMDBsが新たな開発資金ニーズに応えることが不可欠であり、MDBsはこうした独自の役割に注力することが重要です。日本は、こうしたMDBsの役割の重要性について、WBGとともに、関係国の理解を深めていきます。

(4)デジタル化

デジタル化は、世界経済の成長の源泉であると同時に、社会サービスの普及等を通じ成長をより包摂的にし得るものです。また、デジタル化の便益は、通信分野にとどまらず、あらゆる分野のサービスの質や効率性の向上に及びます。こうしたデジタル化の果実を最大限享受しつつ、デジタル化がもたらすガバナンスやセキュリティ上のリスクに対処するうえで、①サイバーセキュリティー及びデータプライバシーを始めとするガバナンスの構築、②デジタル技術のあらゆる分野への活用、③格差への対応に重点を置くことが重要です。

WBGには、①データへの信頼性向上やデジタル技術の活用を促進するための、ガバナンスの構築に係る支援、②デジタル技術の保健、防災、教育、交通分野等への活用に係る支援、③デジタル格差への対処に係る支援を期待します。この観点から、日本は、本年度より開始される「デジタル開発パートナーシップ(DDP)2.0」に対して、立ち上げメンバー国として拠出を行っていく所存です。

5.結語

日本は、バンガ総裁が世銀改革の議論を主導し、WBG全体で地球規模の課題への対応・強化に強くコミットしていることを高く評価しています。新総裁とともに、WBGがマルチの開発金融機関として主導的な役割を果たせるよう引き続き支援していきます。

(以 上)