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5.財政投融資の抜本的改革について

5.コスト分析手法の導入、充実


 (1)  基本的考え方
      3.[改革の基本理念と方向]においてもみたように、公的部門の活動については、
    そのような活動のコストとベネフィットの比較、諸資料の公開や事後チェックなどが
    重要である。特に、財政投融資の場合には、投融資という手法を用いるという性格上、
    元利金の返済等が確実に行われるかどうかを把握していくべきことは一層重要である。
    さらに、有償資金と租税の組合せで事業を行う場合には、将来の税財源による償還が
    見込まれるために民間金融の基準からみれば信用リスクがないと判断されるとしても、
    事業のコストとベネフィットとを比較するとそのような税財源の投入が適当ではない
    ため、その意味において投融資それ自身が適切でないとされる場合も存在すると考え
    られる。
      今回の財政投融資の改革に当たっては、こうした点に留意し、今後の財政投融資の
    運営に際して、国民負担に関する情報のディスクロージャーや財政の健全性を確保す
    る観点から、諸外国における試みを参考としつつ、科学的、客観的な不断の検証とし
    て、コストの定量的な把握、公表を行うことにより、適切な審査、政策判断を行って
    いく必要がある。
      また、コスト分析の実施に当たり、財政投融資対象機関の将来の資金フローを把握
    していくことが、その資産のいわば時価ベースでの把握につながり、各財政投融資対
    象機関のALMの向上に資するなどの効果も期待される。
      さらに今後、各政策のコストとベネフィットを科学的、客観的に算出し政策決定に
    反映されるよう努めるべきであるが、コスト分析の導入はそうした方向への重要なス
    テップとなる。

 (2)  米国における取組み
      米国では、我が国の財政投融資に類似する制度である連邦信用計画において、従来
    は現金ベースのみの予算計上が行われてきたため、直接融資の実行は予算上、単なる
    歳出として把握され、将来の返済が把握されていない一方、債務保証を付与する時点
    では予算上保証のコストが認識されず、むしろ保証料収入が計上されることとなるた
    め、国民負担の適切な実態把握が困難であるという問題が指摘されていた。
      このため、「1990年信用改革法」において、1992年予算から融資と保証の
    コスト計算が義務付けられ、連邦各機関は、デフォルト等を含めた将来のキャッシュ
    フローの流出と流入の差額について、国債利子率による割引現在価値をコストとして
    示すこととされたところである。
      このコスト計算については、データの制約など実務上の問題の多さがなお指摘され
    ているところではあるが、米国連邦政府からの直接融資、債務保証に関する従来の問
    題点については、この手法の導入によりほぼ解決されたと言われており、国民負担に
    関する情報のディスクロージャーと財政の健全化につながるものと理解されている。

 (3)  我が国におけるコスト分析手法の導入、充実
      我が国と米国とで財政制度等に様々な違いがある点については留意する必要がある。
    例えば、連邦信用改革法以前の米国においては融資についての利子負担軽減に伴うコ
    ストの認識は困難であったが、我が国の制度の下では財政投融資の貸付金利は基本的
    に市場金利に連動しており、各機関ごとに区々にはなっておらず、利子負担の軽減は
    一般会計等からの歳出で行われているため、政策目的を実施する機関ごとに、その政
    策コストは当該機関に対する補給金などの形で予算上把握されていると考えることが
    できる。
      しかしながら、事業の採択に当たり、コスト分析手法の導入を通じて、将来に生ず
    ると考えられる税負担についてあらかじめ定量的な分析が明らかにされることは、国
    民負担に関する情報のディスクロージャーと財政の健全化の観点から極めて重要な課
    題である。
      具体的な手法としては、各財政投融資対象機関において利子補給等の将来コストの
    キャッシュフロー等を予測し、これについて割引現在価値化を行っていくことが考え
    られる。
      このようなコスト分析は、その性格上、将来の金利水準等といった予見の困難な事
    項についての一定の仮定を前提とせざるを得ないこと等から相当の誤差を含みうる。
    また、米国の例にもみられるように、具体的な手法の確立には相応の時間が必要であ
    ることも確かである。こういった限界へ対応していくためには、可能なものからコス
    ト分析手法を段階的に導入し、その手法について不断の見直しを行いつつ、分析を継
    続、充実させていくことが重要である。
      また、コスト分析のように、財政投融資に科学的、客観的な手法の導入を進め、よ
    り適切な審査を行っていくためには、専門的な知識・技能を持った人材の育成など知
    的インフラストラクチャーの構築に努めることが必要である。
      なお、財政投融資は期間変換等により他の政策手段を用いた場合に比べて租税負担
    を軽減する効果を有していることから、この軽減額の多寡もコスト分析に際して明示
    すべきであるという意見もあった。



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