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3.財政投融資の抜本的改革について

3.改革の基本理念と方向


(1)  対象分野・事業
      2.(2)[財政投融資の機能]で述べたように、財政投融資の役割、必要性について、根
    本から問い直してみると、従来型のままの財政投融資の役割は相当程度失われてきてい
    るとの指摘がある。しかしながら、財政政策の中で有償資金の活用が適切な分野に対応
    するという基本的な役割、必要性は将来においても残ると考えられる。ただし、その具
    体的役割は、社会経済情勢の変化等に応じて変わっていくことが必要である。
      今後の財政投融資の対象分野・事業については、昨年12月に公表された行政改革委
    員会「行政関与の在り方に関する基準」などを参考に官民活動の分担のあり方を精査し
    つつ、厳格に限定していくべきであり、以下の点を踏まえ、財政投融資のスリム化に積
    極的に取り組む必要がある。

    1  民業補完を徹底すること(公的関与の必要性のチェック)
        公的部門は、本来民間の活動を補完すべきものであり、民間でも実施可能と判断で
      きる事業については、財政投融資の対象から除外すべきことは当然である。
        その際、どの分野について民間でも継続して実施可能であるかに関し、民間サイド
      から「この分野は民間だけで実施可能であり、公的関与は必要ない」と積極的に意思
      表示してもらうことが必要であると考えられ、そうした意思表示が広く行われる分野
      については、財政投融資の対象から除外していくことが適当である。
        さらに、民間でできないかどうかを定期的に第三者を含めて複数の機関でチェック
      するという仕組みも検討されるべきであるという意見があった。

    2  償還確実性の精査、コストとベネフィットの十分な比較などを行うこと
        財政投融資の対象として公的な関与を行う場合には、償還確実性の十分な精査とと
      もに、そのような関与のコストとベネフィットの比較、諸資料の公開や事後チェック
      などが重要であるが、有償資金と租税(利子補給等)との組合せで事業を行う場合、
      本来有償資金で賄うべき部分(将来の元利償還が当該公共財の利用による受益者負担
      により確実と考えられる部分等)を超えて財政投融資資金が用いられ、当面の一般会
      計歳出が軽減されたのではないかと考えられる例があるとの指摘がある。
        この場合、財政投融資資金の返済に当たって将来の税財源が用いられることとなる
      が、これは、本来公債で行うべきであった事業が財政投融資資金で行われることによ
      って歳出への計上が当面先延ばしにされ、予算制約のソフト化をもたらしたという批
      判を受けることとなる。
        このような財政投融資については、民間金融の基準でみれば信用リスクがないと判
      断されるとしても、事業のコストとベネフィットを比較するとコストがベネフィット
      を上回り、そのような事業に対する税財源の投入は適当でないことから、財政的な意
      味では償還確実性に問題がある場合も存在すると考えられる。
        すべての公的な事業、特に有償資金と租税との組合せで行う事業については、国民
      負担に関する情報のディスクロージャーや財政の健全化といった観点を踏まえつつ、
      その適否を判断する手法について改善すべき点を検討する必要がある。
        有償資金と租税との組合せの典型的な例としては、政策金融に係る利子の一層の引
      下げのための利子補給等(9年度予算ベースで、住宅について約4, 000億円等)
      が挙げられる。政策金融については、各年度の貸付を決定する時点で、その貸付が将
      来どの程度の財政負担を生むかということが国民に明らかにされてきたとはいえず、
      累次の経済対策などにおいて融資額の追加がなされた際、将来の財政負担についての
      明示的な試算が示されないままに融資規模が決定されたのではないかとの指摘がある。
        また、政策金融機関における繰上償還の受入れがどれほどの財政負担をもたらすか
      について、十分な分析が行われ、その分析を踏まえた政策判断がなされてきたとはい
      えないとの指摘もある。
        したがって、特に予算の歳出と併用される財政投融資については、将来に生ずると
      考えられる税負担等を、あらかじめ割引現在価値ベースで定量的に分析する手法の導
      入により、国民の理解が得られる適切な政策決定を指向することが、財政投融資の改
      革に当たっての重要なポイントとなるものと考えられる。なお、こうした手法を導入
      することにより、今後の財政投融資は、財政規律のチェックを厳しく行うという役割
      も果たしていくべきであるとの意見があったほか、この作業を通じて、財政投融資対
      象機関全体の資産をいわば時価ベースで把握することが可能となるなど、管理面での
      副次効果も期待されるという意見もあった。
        また、このようなコストの定量的な把握に加え、ベネフィットについても正確に把
      握していく必要がある。ベネフィットの把握が困難であることは確かであるが、少な
      くとも定性的な評価を行うことが必要であり、さらに将来には数量的な評価を実施す
      る方向で努力していくべきである。

(2)  資金調達
      既に述べたような財政投融資の対象分野・事業の面での改革を徹底するためには、資
    金調達の面においても、従来のように、受動的に集まった資金を一元的に管理・運用し
    ている現状について見直しを行う必要があると考えられる。
      その際、以下の点について、実現していく必要がある。

    1  必要な額だけを能動的に調達すること
        受動的に受け入れる資金が豊富にある場合には、財政投融資の対象となっている特
      殊法人等は財政投融資資金を安易に要求し、審査も甘くなるおそれがあるという指摘
      があるように、有償資金の活用が適切な分野への限定を徹底することが難しくなると
      考えられる。
        したがって、今後の資金調達の方向としては、財政投融資の規模をスリム化する中
      で必要な資金を能動的に調達することとすべきである。

    2  市場と完全に連動した条件で最も効率的に調達すること
      財政投融資が投融資という手法をとる以上、民業との関係を常にチェックする必要が
      あることからも、その運営に当たっては、できる限り市場原理との調和を図る必要が
      ある。
        この観点から、財政投融資の資金調達に当たっては、預託金利設定に当たっての人
      為的な手続きや預託者の事業の運営に対する「配慮」を廃し、債券(財投機関債、財
      投債)の完全な市場条件による発行を行うことにより市場連動を徹底し、資金調達を
      最も効率的に行うことが必要である。

    3  金利リスクを適切に管理できるようにすること
        政府部門が行うべきものと判断され、民間資金では行いえないと考えられる部分に
      ついて財政投融資を行う場合、事業の実施主体がリスクを最小限にできるように、対
      象の事業にふさわしい償還スケジュールなどのキャッシュフローに合わせた融資条件
      によって融資を行うことが望ましい。
        その際には、将来の金利リスクなどを管理しながら運営される必要がある。このた
      め、資産・負債管理(ALM)上必要な限度で資金の溜まりを有しつつ、このような
      金融的付加価値を付けることにより、国民負担の軽減を図ることが望ましい。
        なお、財投機関債の発行が行われる場合には、当該機関についても、リスク管理の
      手段が与えられ、リスク管理体制の整備が義務付けられるべきである。



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