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公的債務管理政策に関する研究会・報告書

公的債務管理政策に関する研究会・報告書



はじめ



に 我が国の公的債務
 我が国の公的債務は、国の資金調達による債務(普通国債、財投債、FB(財務省証券、外国為替資金証券などの政府短期証券)及び特別会計借入金)の残高が669兆円に、また、特殊法人等の資金調達に対して付与された政府保証の残高が59兆円に達している(いずれも平成14年度末)
 この他、郵貯・簡保は、現在、国とは別人格を有する郵政公社の債務であるが、貯金者からの預り金等には法律により一括して政府保証が付されている(郵貯残高は233兆円、簡保の資金量は124兆円(いずれも平成14年度末))
 また、公的年金の給付債務は、財政資金の調達に伴う債務とは性質が異なるが、修正賦課方式の下、過去の保険料の蓄積である積立金が将来にわたる年金給付のために運用されている。この積立金相当額を公的年金に係る国の負債とすると、その相当額は158兆円となる(平成13年度末。「国の貸借対照表(試案)」参照。)
 更に、広い意味での公的債務である地方公共団体の債務残高は、193兆円に上っている(平成13年度末)

 このように、公的部門の債務は巨額に上り、また多岐にわたっている。こうした公的債務のあり方は、家計や市場における金融資産選択に影響を与え、マクロ的にも我が国の資金循環に大きな影響を及ぼしている。
 また、市場における金利変動は、発行体としての国の資金調達コストに影響を及ぼすだけでなく、巨額の国債等の価格変動を通じて投資家の財務や市場行動に大きな影響を及ぼす可能性がある。
 このため、公的債務管理政策の目的、その対象範囲や他の経済政策(財政・金融政策)との関係、そのあり方等について整理しておくことが重要になっている。





.公的債務管理政策の意義及び役割

 


(1


)公的債務管理政策の目的
 公的債務管理政策とは、「公的債務管理のための指針」(IMF・世界銀行(2001年3月公表))によると、「必要な政府資金調達を行う観点から、その債務を管理するための戦略を立案・執行すること」とされている。公的債務管理当局は、これにより効率的な資金繰りを行い、債務の返済が確実に行われるようにしなければならない。
 このため、公的債務管理政策の目的は、「必要な財政資金の調達において、リスクを適切な水準に抑えた上で、中長期的視点から政府の資金調達コストを最小化すること」が基本となる。
 こうした公的債務管理政策の目的を達成するためには、国債残高の増嵩等を背景として、公的債務が抱えるリスク(金利変動リスク、借換リスク等)を計測し、適切に管理することがますます重要となってきている。
 また、中長期的視点から政府の資金調達コストを最小化するには、国債市場の流動性を向上させ、また、国債市場の安定性を高めるよう、市場整備に努めることも重要である。国債は、社債等を含めた債券市場において、唯一の信用リスクのない債券として中心的な地位を占めていることから、国債市場の発展は、債券市場全体の発展にも寄与するものである。

 


(2


)財政・金融政策との関係
 公的債務管理政策と財政・金融政策との関係については、「公的債務管理のための指針」においても示されているように、健全な財政及び適切な金融政策が行われることが、公的債務管理政策が有効に機能するための前提であり、公的債務管理政策がその代替になり得るものではない。
 「公的債務管理のための指針」では、「財政との関係では、まずは債務残高及びその伸び率が持続可能な水準以下に抑えられていることが必要である」とされている。また、市場で国債の価格が決定される際には、将来にわたる政府の財政運営のスタンスが評価され、それが国債市場の動向に反映されている。このため、公的債務管理当局は、政府の資金調達額や債務残高に対する市場のシグナルを適切にフィードバックし、財政政策の意思決定過程に活かされるようにすべきである。
 公的債務管理政策と金融政策とは、それぞれ固有の政策目標を持ち、相互に独立して運営されるものである。ただし、いずれも金融市場に影響を及ぼすものであり、各々が適切に政策効果を挙げるためには、両当局が緊密な意思疎通を行い、金融市場に対する認識を共有しつつ政策運営を行っていくことが重要である。

 


(3


)公的債務管理と資金循環
 現在、企業部門における資金需要が低迷する中、国債の大量発行等に伴い多額の資金が公的部門に流れているが、日本経済再生のためには、こうした資金が民間部門の成長分野へ流れるよう、転換を図っていくことが重要である。
 我が国においては、公的部門に流れる資金として、1財政赤字のファイナンスのための債務のほか、2公的資金仲介のための債務(1以外の債務で、資産と両建てになっているもの。例えば財投債等。)が多く存在することが特徴といえる。
 このうち1については、正に財政と裏腹の関係にあることから、まずは財政の健全化が図られるべきであるが、公的債務管理当局には、リスクを適切な水準に抑えた上で、必要な財政資金を中長期的視点から最小のコストで調達することが求められている。
 2については、政府が厳しい経済状況下において、中小企業の資金繰り等に対するセーフティネットの提供等の役割を果たしてきた結果という面はあるが、他方、こうした公的資金仲介の比重の大きさには、市場機能の発揮を妨げる面があることは否定できない。
 この他、公的な信用保証や流動性預金の全額保護といった公的信用補完も、これと同様の影響をもたらしている。
 今後、我が国の資金循環に、資金調達主体の信用力に応じた金利形成が行われる等の健全な市場機能が活かされるようにするためには、公的資金仲介を量的に圧縮するとともに、公的信用補完の範囲を限定・明確化していくことを通じて、市場における健全なリスクテイクを促していくことが求められる。このうち財政投融資については、これまでも財政投融資改革の趣旨に則って、規模の縮減及びその対象分野・事業の重点化を図ってきたところであるが、今後ともその対象を、政府として資金を供給することが真に必要な分野へ限定していく必要がある。





.公的債務管理政策の対象範囲

 


(1


)総論
 はじめに述べたとおり、我が国の公的債務には、国の資金調達による債務(普通国債、財投債、FB、特別会計借入金)や特殊法人等の資金調達に対して付与された政府保証が存在する。また、この他にも、郵貯・簡保、公的年金、地方債等、様々な公的債務が存在している。このため、公的債務管理政策の対象となる公的債務の範囲をまず明確にしておく必要がある。
 これについて、「公的債務管理のための指針」では、「公的債務管理政策が対象とする範囲には、中央政府のコントロール下にある債務全般が含まれるべき」とされており、諸外国においても基本的にこうした考えに則って公的債務管理が行われている。
 我が国においても、国の資金調達による債務や特殊法人等の資金調達に対して付与される政府保証については、中央政府のコントロール下にある債務であり、また、国の財政活動に伴うものであることから、公的債務管理当局において管理すべき債務であると考えられる。したがって、我が国における公的債務管理政策は、狭義の国債(JGB。普通国債及び財投債。)だけでなく、FB、特別会計借入金、政府保証債務を対象として立案することが適当である。
 郵貯・簡保、公的年金、地方債等、これ以外の公的債務は、国の財政資金の調達に伴うものではなく、また、ガバナンスの枠組みも異なることから、統一的な政策立案を行うにはなじまないが、これらの債務の状況は、国債等の公的債務管理のあり方や将来にわたる潜在的な財政負担にも影響を及ぼし得るものである。そのため、公的債務管理当局としてもこれらの債務について適切にモニターし、更に、それにより得られた情報を分かり易い形で提供していくことが求められている。

 


(2


)FB、特別会計借入金、政府保証債務
 FB、特別会計借入金、政府保証債務は、国債と並んで中央政府のコントロール下にある債務であり、その現在高は現在四半期毎に「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」として公表されている。これらの資金調達のあり方は国債(JGB)の利回りにも影響を及ぼし得るものであり、国債(JGB)とも整合性のある計画的な入札の実施等、発行・流通市場の整備を含む適切な債務管理を行う必要がある。
 また、FB、特別会計借入金等についても、国債の場合と同様、リスクを適切な水準に抑えた上で中長期的視点から資金調達コストを最小化することが必要である。また、政府保証を付した特殊法人等の財務情報を分かり易い形で提供していくべきである。

 


(3


)郵貯・簡保、公的年金
 郵貯・簡保には郵政公社発足後も政府保証が付されている一方、その資金運用については財政投融資改革によって平成13年度以降原則として金融市場を通じて自主運用が行われている。この点に対しては、政府保証付の金融商品が提供されていることによって、家計や金融市場の資金配分を歪めているのではないか、という意見が多かった。
 他方、郵貯・簡保は、現状、大量の国債を個人向けに変換して提供する経済的機能を果たしており、政府保証を付すことにより国民が潜在的に負担しているコストは小さいのではないか、との意見もあった。その場合においては、郵貯・簡保は、そうした経済的機能を踏まえ、国債保有・運用状況についてより積極的に情報を開示し、公的債務管理当局との間で情報交換を図るべきである。
 また、郵貯・簡保は、現状、政府保証が付されていることに鑑み、偶発債務のリスクが拡大し、または顕在化することのないよう、リスク管理や事業運営を適切に行うべきである。更に、郵貯・簡保は、大量の国債を保有する巨大な市場参加者であることから、その運用姿勢が金融市場に攪乱的影響を及ぼさないよう努めるべきである。これらの点は、経営形態の移行期においても十分留意すべきである。
 公的年金に係る負債は、年金制度に基づく将来の支払いであり、通常、公的債務管理政策が対象とする、財政資金の調達に伴う債務とは性質が異なるものである(「公的債務管理のための指針」にも公的年金に係る負債に関する言及はない。)。しかしながら、我が国の公的年金は、修正賦課方式の下、過去の保険料の蓄積である積立金が将来にわたる年金給付のために有価証券等により運用されている。これらの有価証券等は国の資産を構成するものであり、国の資産・負債を統合的に把握していく観点からは、公的年金に係る負債も広い意味での公的債務と認識する必要がある。公的債務管理当局としては、このような資産・負債の関係を踏まえつつ、公的債務管理政策を立案していくべきである。
 また、公的年金積立金については、その運用姿勢が金融・資本市場に大きな影響を及ぼさないよう、米国の社会保障信託基金の例に倣い、非市場性国債による運用も視野に入れるべきである。他方、郵貯・簡保については、郵政公社が民営化されることにより政府保証が付されなくなれば、民間会社として自主的な資金運用が行われることが基本となるものと考えられる。

 


(4


)地方債
 地方債は、社会資本整備等の地方行政に係る財源に充てるために発行される地方公共団体の債務であり、本来それぞれの地方公共団体の自己責任原則に基づいて発行・償還が行われるべきものであるが、国による様々な財政的措置等が講じられている。これらの財政的措置の結果、地方債が市場において準国債的なものとして受け止められ、地方債と国債との利回りスプレッドが基本的に流動性格差だけとなり、発行体の事業内容や財務状況等が必ずしも反映されないことの要因となっているとの指摘がある。
 この背景には、市場において、国による様々な財政的措置の趣旨が必ずしも浸透していない一方、関係者の間でも地方債が結果として低コストで安定的に消化されることが重視されてきたという事情があるものと思われる。今後は、地方公共団体の債務について、国がどこまでコミットしており、どこからが地方公共団体の自己責任かを明確にし、全体像を分かり易い形で示す必要がある。同時に、こうした現状や様々な財政的措置に鑑み、公的債務管理政策を立案するにあたっては、地方の債務の状況を十分把握しておく必要がある。
 各地方公共団体の自立的な債務管理を促す観点からは、歳出面をも考慮し歳入と歳出の差額を補填する地方交付税・地方財政計画の仕組みを、いわゆる「三位一体の改革」の中で見直すとともに、財政融資資金等による地方債引受けについて対象分野・事業毎に更なる縮減・重点化を図る必要がある。また、公営企業金融公庫の役割についても、これと並行して同様の観点から見直していくべきである。

 


(5


)特殊法人等の債務
 特殊法人等は政府の監督の下に公的な施策を実施している法人であり、政府保証債等の政府の信用に基づく資金調達のほか、財政投融資改革に伴い、新たな自己資金調達手段として財投機関債が導入された。特殊法人等の債務がそうした公的な施策のための資金調達であることを踏まえると、公的債務管理当局としては、自己資金調達手段による分まで含め、特殊法人等の債務全体について分かり易い形で情報提供していくことが求められる。
 特殊法人等の債務のうち、財投機関債については、いわゆる「暗黙の政府保証」のため、必ずしも発行体の財務内容に応じたスプレッドが付いていないという現象が見られる。こうした現象が生じる理由の一つとしては、そもそも発行体に、民間企業と異なり破産制度が存在せず、金利形成において発行体のデフォルト・リスクが織り込まれないことが挙げられるのではないか、との意見があった。
 こうした現象が見られる一方、これを発行する特殊法人等にあっては、ディスクロージャー等の取組みが以前に比べ進んでおり、こうした取組みを通じて業務運営の効率化が図られるという効果もある。
 また、特殊法人等の債務については、国民に対するディスクロージャーが重要であり、そうした観点からは、政策コスト分析や行政コスト計算書を通じて、将来の国民負担がどの程度となるかをより一層明らかにしていくべきである。その際、特殊法人等による融資だけでなく、公的信用保証に伴う将来の国民負担についても明らかにしていくべきである。





.公的債務管理のあり方

 


(1


)リスクの分析
 公的債務の抱えるリスク(金利変動リスク、借換リスク等)について、「公的債務管理のための指針」では、「公的債務管理当局は、公的債務のポートフォリオが抱えるコストとリスクの背反関係を把握、管理した上で、様々なショックに備えるためにストレス・テストを行うべきである」とされている。
 我が国においても、公的債務の増加が今後とも見込まれる中で、金利上昇などの様々な内外の環境変化による外生的ショックが生じた場合に、それが市場や経済全体に大きな影響を及ぼし得ることを踏まえ、公的債務の抱えるリスクを計測し、把握することが求められている。このため、公的債務管理当局においては、金利変動リスク等について一層高度な定量分析を行うことにより、政府の資金調達に伴うコストとリスクの相関関係を把握し、それを国債発行計画の策定等に活用していくべきである。
 具体的には、リスク把握・分析力向上に向け、CaR(コスト・アット・リスク)分析、シナリオ分析により、将来にわたる金利変動リスク、借換リスク、将来の残存年限や償還状況等を定量的に把握するためのリスク管理体制を整備する必要がある。
 加えて、定量分析を駆使できる専門的知識を備えた人材の育成・登用を行っていくことが重要である。

 


(2


)金利変動への対応
 現在、企業部門における資金需要の低迷等の結果として、民間金融機関の貸出残高が減少し、国債保有高が増加している。仮に想定していた以上の金利変動が生じた場合、金融機関に国債の評価損による損失が発生する可能性があるが、その場合においても、それは金融機関自身の資産・負債管理による自己責任に帰するべきものであり、金融機関の抱える金利変動リスクを、ことさら政府が軽減するように配慮することは望ましくない。
 また、仮に公的債務管理当局が、金利の動向等を踏まえボンド・コンバージョンやスワップ等の取引を行う場合においても、それは公的債務管理政策の目的(国債市場の安定性・効率性の維持や中長期的な資金調達コストの最小化等)を追求するために行うものであり、金利水準の操作を目的とすべきではない。
 なお、公的債務管理当局はその政策を立案する際には、金利変動時に金融機関が採るであろう市場行動を踏まえておく必要がある。こうした点は、同質的な金融機関の参加が特徴である我が国の流通市場においては、市場の環境が変化した場合、売買が一方向に流れ易い特性があることから、特に重要である。

 


(3


)国債保有構造に関する課題
 我が国の国債保有構造は、公的部門による保有が多い(政府部門(財政融資資金、郵貯・簡保等)の保有割合は42%、また日本銀行は同15%(平成14年度末。以下同じ。))こと、また、民間部門にあっては、海外投資家(同3%)や個人投資家(同2%)の保有が少なく、預金金融機関に偏在している(同19%)ことが特徴として挙げられる。
 公的部門の国債保有が多いことは、政府の財政資金が結果として高い割合で公的部門により供給されていることになる。このため、公的部門の投資行動の透明性が低い場合には、政府の実質的な財政資金調達額についてマーケットの予測可能性が低下する惧れがある。また、我が国の国債の流動性は、国債全体でみれば高いものの、銘柄別など個別に見ると、公的部門の保有状況によっては流動性に差が生じる可能性もある。
 そのため、郵貯・簡保、公的年金等、政府部門は、その収支の見通しや国債の運用方針・保有状況についてより積極的に情報を開示すべきである。また、国債の流動性を高めるため、市場が必要としている銘柄については、日本銀行や財政融資資金の保有する国債をレポ等により供給していくべきであるという意見があった。
 民間部門において、国債保有が預金金融機関に偏在していることについては、市場の環境が変化した場合、同質的な市場参加者の取引が一方向に流れがちな傾向があることから、国債保有者層及び市場参加者層の拡大による市場行動の多様化が大きな課題となっている。また、国債保有者層等の多様化は国債市場の流動性維持・向上にも資するものであり、ひいては国債の安定消化及び我が国の金融市場の発展にも寄与するものである。
 こうした国債保有構造を是正するため、これまで個人向け国債の導入、非居住者等非課税制度や源泉徴収免除の拡大等、個人による保有や海外投資家、事業法人による保有を促進するための施策が講じられてきた。今後とも、一層の商品性の多様化を進めるとともに、最近導入された税制上の措置の効果を検証し、その実効性を高めること等により、保有者層の多様化を進める必要がある。

 


(4


)市場への説明責任のあり方
 市場における公的債務管理政策に対する信頼性を維持することは、中長期的な調達コストを抑制することにつながり、公的債務管理政策の目的を達成する上で極めて重要である。このためには、適切な情報を一覧性のある形で集約、開示し、公的債務管理政策に関する基本方針を分かり易い形で示すことが必要である。英国やフランス等においては、主に国債や資金繰り債を対象として、毎年「債務管理レポート」が作成・公表され、その中で公的債務管理政策の基本方針や国債発行の状況等が説明されている。
 我が国においても、当局としての説明責任を果たしていくため、こうした諸外国の例も参考にしながら、公的債務全体について現状や政策を概観できる「債務管理レポート(仮称)」を毎年作成・公表すべきである。なお、その際には、政府保証を付した特殊法人等の財務情報を分かり易い形で提示することが望ましい。また、公的債務管理政策の直接の対象である債務(中央政府がコントロールする債務)だけでなく、それ以外の公的債務についても必要な情報提供を行うべきである。

 


(5


)公的債務管理政策を行う組織体制
 公的債務管理政策を適切に実施することは、必要な財政資金の調達という面で、円滑な財政運営の基盤を提供するものである。他方、国債に対する信認を確保するためには、規律ある財政運営が不可欠であり、公的債務管理政策と財政政策は表裏一体の関係にある。主要諸外国においても公的債務管理はいずれも財務大臣の責任において実施されている。
 財務省理財局においては、国債企画課及び国債業務課を設置することにより国債管理政策の企画部門と実施部門を分掌させ企画機能の一層の強化を図るとともに、国債担当審議官の新設、民間人専門家の登用及び定員の拡充等を図る方針である(平成16年度機構・定員要求)。このうち、国債管理政策の企画部門では、中央政府がコントロールする債務全般を対象として公的債務管理政策を立案するとともに、市場への説明責任を果たしていくことが求められる。
 また、リスク管理の高度化や市場動向の把握・分析など、公的債務管理部局は機構面の拡充に加え、人材育成面でも更に工夫し、職員の専門性の向上を図る必要がある。

 


(6


)公的債務管理に関する市場との対話の強化
 国債の大量発行が今後とも見込まれる中で、国債の安定消化の確保や流動性の維持・向上を図るためには、国債市場参加者の発行・流通市場への一層積極的な参加を確保していく必要がある。そのためには、主要諸外国で導入されているいわゆるプライマリー・ディーラー制度を参考にしつつ、我が国においてもこうした制度を早急に導入することが望ましい。
 また、これとは別に、中長期的視点から公的債務管理政策や国債市場のあり方について民間関係者の意見や助言を得る機会を充実させるよう努めることも重要である。米国では、市場関係者等の有識者により構成されるアドバイザリー・コミッティーが設けられており、財務省に対して連邦債務管理政策等について助言を行っている。我が国においても、プライマリー・ディーラー制度の導入と併せて、公的債務管理政策について高い識見を有する民間人の意見を諮問するための会合(「日本版アドバイザリー・コミッティー」)を設けることを検討すべきである。

 
 

(以 上)
   

 これらの公的債務の残高等を単純に合計したものが我が国の公的債務の総額となるわけでない点に留意が必要である。なぜなら、これらの債務はそれぞれ性格が異なる上、例えば、郵貯・簡保や公的年金が大量の国債を保有している等、重複が多く存在するからである。
 「国の貸借対照表(試案)」では、公的年金に係る負債の計上方法として、積立金相当額を負債として認識する方法の他に、2案の計上方法が示されている。
 ここでいう非市場性国債とは、米国の社会保障信託基金に対して発行される国債のように、制度上、公的部門により引受けられ、市場での売買による流通が予定されていない国債を指す。
 財政的措置には、地方財政計画を通じた地方公共団体全体の元利償還費の財源保障、各地方公共団体の元利償還金の基準財政需要額への算入等がある。
 財政投融資を活用している事業の実施に伴い、国(一般会計など)から将来にわたって交付される補助金等や出資金の機会費用を現在の価値として評価したもの。
 民間企業仮定損益計算書に計上された費用から、手数料収入等の自己収入を控除し、これに政府出資金等の機会費用を加算して得られた、国民負担に帰すべきコストを算出したもの。
 金利変動に伴う将来の利払費の振れについての分析をいう。
 将来の金利シナリオに基づく利払費等の予測分析をいう。
 いわゆるプライマリー・ディーラー制度とは、国債の入札への積極的な参加等の責任を果たす一定の市場参加者に対して、国債発行当局が特別な資格(例えば、買入消却等の取引の相手方となる資格)を付与すること等により、国債の安定消化や国債市場の流動性確保等を図る仕組みである。