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税制メールマガジン第167号 2023年10月13日

【税制メールマガジン第167号】
 2023年10月13日

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◆目次
1 はじめに
2 税制をめぐる最近の動き
3 国際課税への誘い~ポストBEPSプロジェクトの新潮流(第2回)~
4 今月は何税の月?「10月:酒類税則(明治8年)、酒造税則(明治13年)の施行 」
5 編集後記

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1 はじめに

 今年の猛暑はかなり長引き、10月に入っても最高気温が30度を超す真夏日が一部地域ではございましたが、中旬に差し掛かりようやく秋めいて参りました。
 主税局では、令和6年度の税制改正を巡る各省との議論が熱く展開されております。私自身、社会人2年目の係員のときに、金融庁の平成18年度税制改正チームに配属され、主税局に税制改正要望を提出・議論致しました。租税特別措置を求めるということは、「公平・中立・簡素」という租税原則に反して、特定の政策目的の実現を目指すため、例外的に特定の者の税負担を軽減するように要望することを意味します。
 その際に、重要なのは「政策手段として税制を用いることが妥当なのか」「本当に目的に適う効果的かつ効率的なものであるか」等といった点を議論することです。もっとも、係員ごときの力量では高度な税制の議論に加われるはずもなく、私が貢献できたのは、主税局の指示・要望を受け、大量の保険商品の資料やパンフレットを何箱もお届けする等といった力仕事が主でありましたが・・・。合同庁舎4号館と財務省本省の渡り廊下を何度も往復致しました。
 それでも、平成18年度の税制改正で地震保険料控除制度が創設された際には、制度創設の末端に関与できたという達成感を感じたのを覚えています。平成18年に41.7%だった地震保険の付帯率は、平成22年には48.1%まで上昇。その後、東日本大震災を経て、令和3年には69.0%に達しております。
 関東大震災から100年を迎える今年、地震大国における「もしも」に備える一助として、地震保険料控除制度が備えを促す役割を引き続き果たしていったら嬉しいな、と先月の祖母(気仙沼出身)の葬式で、ふと思いました。

財務省主税局総務課 企画官 境吉隆


・令和6年度税制改正要望
・平成18年度税制改正要望(金融庁)

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2 税制をめぐる最近の動き  

HP掲載日 内容
9月1日
令和5年度 7月末租税及び印紙収入、収入額調
9月29日
インボイス制度円滑実施推進に関する関係閣僚会議第1回

(1)租税及び印紙収入、収入額調
令和5年度 7月末の租税及び印紙収入、収入額調を財務省ホームページで公開いたしました。

下記リンクから内容をご覧いただけます。
令和5年度 7月末租税及び印紙収入、収入額調

(2)インボイス制度円滑実施推進に関する関係閣僚会議
適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」という。)の施行にあたり、制度開始後最初の確定申告時期までの間の施行状況をフォローアップし、運用上の課題などを把握、共有し、必要な対応策を講じるため、インボイス制度円滑実施推進に関する関係閣僚会議第1回が開催され、内閣官房及び首相官邸のホームページで議事次第等が公開されました。
なお、これまでにおいてもインボイス制度への円滑な制度移行に当たって、万全の準備を進める観点から、関係府省庁で連携し、必要な取組を行うために、適格請求書等保存方式の円滑な導入等に係る関係府省庁会議を開催しております。

下記リンクから内容をご覧いただけます。
・インボイス制度円滑実施推進に関する関係閣僚会議

・適格請求書等保存方式の円滑な導入等に係る関係府省庁会議


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3 コラム・国際課税への誘い~ポストBEPSプロジェクトの新潮流(第1回)~

こういうことを言うと古い人間だと思われるかもしれませんが、一昔前は「お店」に出掛けていって、そこで商品を選んで買ってくるというのが当たり前でした。ところが時代はすっかり変わって、今ではアプリで選んだものが、早ければその日のうちに届く、何とも便利な時代になったものです。そんな世の中の変化が税の世界にも大きな影響を与えている、そんな話が今回のテーマです。
国際課税の世界でも、これまで長い間の常識は、企業は進出先の国に「店舗(支店)」や「工場」を持っていて、こうした物理的な拠点を使って事業を展開するというものでした。例えば製造業であれば、人件費の安い国に工場を持っていて、そこで製造したものを外国に輸出、その後は、輸出先の支店から現地の消費者に販売するといった具合です。こうした物理的な拠点は、国際課税ルール上、「恒久的施設(PE: Permanent Establishment)」と呼ばれていて、ある国は、その国内にPEが存在しない限り、外国の法人の事業から生じた所得に課税することは認められないという原則(「PEなければ課税なし」の原則)の形で、広く受け入れられてきました。
その一方で、今の社会ではデジタル化が進展して、現地に支店や工場といった拠点をまったく持たなくてもモノやサービスを提供することのできる業態は日に日に増えています。それに伴って、従来の「PEなければ課税なし」の原則だけでは、適切に課税を行うことができないという問題が取り沙汰されるようになってきました。
実はこの問題は、前回紹介したBEPSプロジェクトの中でも検討されていました。しかし、2015年に公表された「BEPSプロジェクト最終報告書」の時点では、具体的な対応について合意には至らず、引き続き検討を要する事項と位置付けられており、その後、2021年10月に至って、ようやく最終的な対応策が国際的に合意されました。これが、前回のコラム(9月号)の最後に触れた「経済のデジタル化に伴う課税上の問題への対応」と呼ばれるプロジェクトです。
このプロジェクトによって示された対応策は、「市場国への新たな課税権の配分」(「第1の柱」)と「グローバル・ミニマム課税」(「第2の柱」)という「2つの柱」から成っており、このうち「第1の柱」が「PEなければ課税なし」の原則の下で生じている課題に対応するものと位置付けられています。具体的には、売上高200億ユーロ超、利益率10%超の大規模で高利益水準の多国籍企業グループを対象に、利益率10%を超える部分の利益の25%を、その多国籍企業グループの進出先の国(市場国)の課税対象として配分するという仕組みです。
当の多国籍企業グループのみならず、多くの国や地域を巻き込んだ相当に大掛かりな仕組みですので、その実施に当たっては多数国間の条約を締結することが想定されています。現在、今年2023年の年末までの各国による署名と、2025年中の発効を目指して国際的な対応が進められており、日本の場合には、多数国間条約の締結と併せて、国内法でその詳細を制度化することが見込まれています(※)。

(※)「経済のデジタル化に伴う課税上の問題への対応」については、財務省「もっと知りたい税のこと」の「7 『国際課税』を知ろう」の中でも、簡単な説明を記載しています(https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei0507_pdf/index.html)

少々、小難しい話が続いてしまいましたが、ざっくりと言ってしまえば、新しいビジネスの形についていくために、長らく続いてきた伝統的な国際課税のルールに大きな見直しが迫られている、というのが現在の状況です。こうした大きな見直しの流れのうち、今回は「PEなければ課税なし」の原則から生じている問題に対応する「第1の柱」を扱いましたが、次回は、多国籍企業グループが世界中、どこで活動していても最低限度の税率を支払うことを担保する仕組みとして考案された「グローバル・ミニマム課税」(第2の柱)について紹介したいと思います。

私にとっても、冒頭でお話ししたアプリでの買い物にとどまらず、テレビのリモコン操作で観ることのできる動画や音楽のサブスクリプション、無料で使えるメール・サービスに至るまで、さまざまなデジタル社会の恩恵は既に日常の一部です。一方で、それがどこから届けられているのか、どこで課税されているのかを考えながら眺めてみると、単なる「便利な時代」の産物という以上の姿が垣間見えるような気がしています。


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4 今月は何税の月「10月:酒類税則(明治8年)、酒造税則(明治13年)の施行」

今年(2023年)10月は、インボイス制度が開始するとともに、ビール系飲料の税率変更が行われました。350ミリリットル缶あたりに換算すると、ビールは6円あまり引き下げられる一方、新ジャンルは9円あまり引き上げられました。
そんな酒税に関連して、今月のコラムでは、明治8(1875)年10月に施行された酒類税則、明治13(1880)年10月に施行された酒造税則に着目するとともに、特に、NHK連続テレビ小説「らんまん」でも取り上げられた“造石(ぞうこく)税”に注目してみたいと思います。
江戸時代は、徳川幕府によって酒造株が設定され、この株を取得した者のみに酒造が認められていました。明治4(1871)年に酒造株は政府により没収され、免許料を払えば自由に酒造が行えるようになったため、広汎に地主による酒造業が展開されるようになりました。
その後、明治8(1875)年10月に酒類税則が施行され、免許税的な性格の酒造営業税、売上税的な性格の醸造税、酒類請売(うけうり)営業税が課されることになり、そして、明治11(1878)年9月に酒類税則が追加改正され、酒類を清酒・濁酒・白酒・味醂・焼酎・銘酒の6種とし、その造石数に応じて醸造税を課税する従量主義に改められました。
この後、明治13(1880)年10月に施行された酒造税則によって、それまで酒の種類(清酒、焼酎、味醂等)ごとに課税された酒造免許税が酒造場ごとに課税されるようになるとともに、醸造税は“造石税”に改称されました。
出荷量に応じて課税される“庫出(くらだし)税”とは違い、“造石税”は酒を造った段階で課税されます。NHK連続テレビ小説「らんまん」では、主人公・万太郎(神木隆之介)の実家である酒蔵「峰屋」で火落ち菌が発生し、腐造になった日本酒を全廃棄。そのため、造った分の造石税を払うことが出来ず、峰屋は廃業するという展開となりました。ドラマの中で負の側面を描かれた造石税ですが、当時の酒価は季節的な変動と地域差が大きく、酒価に課税してしまうと派生する税収も不安定になってしまうことから、造石税はより安定的な課税方式だった等との指摘もございます(藤原隆男『近代日本酒造業史』)。
実際、酒税は明治期の基幹税でありました。明治11~13年までの酒類税則の改正等により、酒税の国税に占める割合は10.0%から17.3%となりました。政府税調の中期答申にも記載されているように、19世紀終わりから20世紀前半にかけて、経済社会の構造の中心が農業から商工業に移行し、農民から労働者が台頭するにつれて、地租に変わり酒税をはじめとする間接税が国税収入の中で大きなウェイトを占めるようになりました。造石税の税率についても、一石当たり1円(明治11年)から2円(明治13年)、4円(明治15年)と引き上げられていきました。ドラマの中で登場した早川逸馬(宮野真守)のモデルとなったと見られる自由民権運動家・植木枝盛は、高知の酒造人たちを支援したという側面もあります。
明治維新後の日本の近代化の中で、酒税が大きな役割を果たしていたのです。

・国税庁HP「明治前期の酒税」
・高知新聞「ドラマティックMAKINO! 峰屋がピンチ!? 酒を造った段階で課税の「造石税」とは?」 2023/6/22
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6 編集後記

世の中が美味しいもので溢れる「食欲の秋」の季節を迎えました。「秋限定!」の文字を見るとつい手に取ってしまう私ですが、今秋は秋限定グルメの他にもう1つ楽しみしているものがあります。それが10月14日(土)から始まるドラマ「ゼイチョー~「払えない」にはワケがある~」です。昨年まで納税者の方々と直接やり取りをする機会が多かった私にとって、税の世界がドラマの中でどのように描かれているのか楽しみにしております。
さて、今月号では、前号に続き、国際課税に関するコラムの第2弾をお届けします。今回のコラムでは、「新しいビジネスの形についていくために、伝統的な国際課税のルールに大きな見直しが迫られている」という言葉がとても印象に残りました。社会の変化に対応するために、一番適切な課税ルールを模索していくことが求められていることが分かります。
また、「今月は何税の月」の中では、明治期の酒税制度について取り上げております。当時の酒税に関する背景や歴史を勉強した上で、改めて「らんまん」を見直してみると、また違った楽しみ方ができるかもしれないなと思いました。

 
今月も最後までお付き合いいただきありがとうございました。次回もどうぞよろしくお願いいたします。

財務省主税局総務課 広報係 高木


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