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第177回国会における野田財務大臣の財政演説

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平成23年1月24日

平成二十三年度予算の御審議に当たり、財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明申し上げます。

(我が国の抱える課題と成長に向けた方策)

我が国経済はリーマンショック後の経済危機を克服したものの、足元については、失業率が若年層を中心に依然として高水準で推移するなど厳しい状況にあります。加えて、デフレが続いており、円高、世界経済の動向等、景気の下押しリスクについても注視していく必要があります。

また、少子高齢化、生産年齢人口の減少が進んでおります。さらに、我が国財政は厳しさを増しており、国債発行に過度に依存した財政運営はもはや困難な状況にあります。こうした難局を乗り越えるため、政治主導による改革が国民から求められております。

このためには、確固たる戦略に基づいた政治のリーダーシップの下で、限りある財源を有効に活用し、生きたお金の使い方の道筋を示し、大胆な政策の実行を進めていかねばなりません。経済成長、財政健全化及び社会保障改革の強力な推進こそが、我が国の持続的な発展のための最重要課題であり、これに政府一丸となって取り組んでまいります。また、デフレ脱却に向けては、引き続き日本銀行と一体となって、強力かつ総合的な政策努力を行ってまいります。

グローバル社会の中で、日本が勝ち抜き、成長を実現していくためには「国を開く」ことが必要と考えております。農業再生を念頭に置きながら、主要国との高いレベルの経済連携への取組を推進してまいります。また、輸出通関における保税搬入原則の見直しやアジア諸国との政策協議等を通じて、貿易関連手続の円滑化を図ってまいります。

加えて、インフラ分野における海外展開等を通じて、アジア諸国等の目覚しい発展を我が国の成長に取り込んでいくことが重要です。現在、各国で膨大なインフラ需要が見込まれておりますが、厳しい国際競争があるため、官民一体となった取組が不可欠であり、政府としては、国際協力銀行など関係機関を最大限活用してまいります。そのために、関係機関に資金面の手当を行うほか、国際協力銀行については機能強化を行うことに伴い、その実をあげるため、組織を分離し、財務の独立性・明確性を確保するとともに、その機動性・専門性等を強化してまいります。また、IMFと世界銀行グループの第二位の出資国として、両機関がその資金基盤を拡充するための増資の早期実現に積極的に貢献していくことで、諸外国の発展を我が国の成長につなげてまいります。これら国際協力銀行の機能強化等やIMF等への追加出資について、所要の法案の準備を進めてまいります。

(平成二十三年度予算及び税制改正の大要)

続いて、平成二十三年度予算及び税制改正の大要を御説明申し上げます。

平成二十三年度予算は、「中期財政フレーム」に基づき財政規律を堅持するとともに、成長と雇用や国民の生活を重視し、「新成長戦略」及びマニフェスト工程表の主要事項を着実に実施する「元気な日本復活予算」であります。

基礎的財政収支対象経費は、七十兆八千六百二十五億円であります。前年度当初予算と比べ、六百九十四億円の減少となっております。

これに国債費二十一兆五千四百九十一億円を合わせた一般会計総額は、前年度当初予算と比べ、千百二十四億円増加の九十二兆四千百十六億円としております。

一方、歳入については、租税等の収入は、四十兆九千二百七十億円を見込んでおります。前年度当初予算と比べ、三兆五千三百十億円の増加となっております。その他収入は、基礎年金の国庫負担割合二分の一を維持するための特例法による二兆四千八百九十七億円の受入れを含め、七兆千八百六十六億円を見込んでおります。

以上のように、租税等の収入が依然として低水準にある中で、歳出・歳入両面において最大限の努力を行った結果、新規国債発行額については、四十四兆二千九百八十億円となっております。

主要な経費について申し述べます。

社会保障関係費については、高齢化等に伴って年金・医療等の経費を引き続き増額するとともに、三歳未満の子どもについて子ども手当の支給額を引き上げ、雇用のセーフティネットを広げるため求職者支援制度を創設いたします。また、成長や雇用の観点も踏まえて、ライフイノベーションプロジェクト、新卒者の就職支援などの施策を充実することとしております。この結果、前年度当初予算と比べて約一兆四千億円と他の経費を大きく上回る増額となっております。

文教及び科学振興費については、高校の実質無償化の着実な実施や小学校一年生の三十五人以下学級の実現、大学における教育研究基盤の強化を図るなど教育環境の整備を進めるとともに、基礎研究の充実に資する基金の創設やグリーン・ライフイノベーション分野をはじめとする最先端の研究開発等への重点配分を行いつつ、科学技術振興費を増額しております。

地方財政については、地方歳出について国の歳出の取組と基調を合わせつつ、地方の財源不足の状況を踏まえた加算を一兆五百億円行うこととしております。この結果、地方交付税交付金等について、前年度当初予算と比べ六千九百三十二億円減少し、十六兆七千八百四十五億円となっておりますが、地方自治体に交付される地方交付税交付金の総額は四年連続で増加し、地方の安定的な財政運営に必要となる地方の一般財源の総額を適切に確保するなど、引き続き地方に最大限配慮しております。

防衛関係費については、新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画の策定を踏まえ、即応性、機動性等を重視した動的防衛力の整備を図るとともに、コスト縮減への取組など経費の合理化・効率化を行っております。

公共事業関係費については、大規模公共事業の抜本的な見直しを引き続き進めるとともに、更なる選択と集中やコスト縮減の徹底を通じて合理化・効率化を図りつつ、真に必要な社会資本整備等に重点的に予算を配分しております。

経済協力費については、事業の見直しを行い、メリハリを強化しつつ、国際的な評価の対象となるODA全体の事業量の確保を図っております。

中小企業対策費については、中小企業の活性化を図るため、中小企業の海外展開支援、研究開発支援、資金調達の円滑化に関する施策等に重点化を行うほか、最低賃金引上げに向けた中小企業支援にも取り組むこととしております。

エネルギー対策費については、地球温暖化対策の中心的な役割を果たす省エネルギー促進事業などの施策に重点化を行っております。

農林水産関係予算については、農業の戸別所得補償制度を米から畑作物に拡大し農業経営の安定と国内生産力の確保を図るとともに、新たに規模拡大加算等を措置し、農業の体質強化に向けた第一歩を踏み出すこととしたところであります。

治安関係予算については、治安関連職員の増員をはじめ、安全で安心して暮らせる社会の実現に向けた重点化を行っております。

公務員の人件費は、国・地方を通じて、給与改定による給与の減額や定員純減等を的確に予算に反映することとしており、国家公務員の人件費は、前年度当初予算と比べ百九十億円の減少となる五兆千六百五億円となっております。

また、地域の知恵や創意を生かし、地域の自由裁量を拡大するため、都道府県向けの投資関係の経費を対象とした地域自主戦略交付金等を創設いたします。

平成二十三年度財政投融資計画については、「新成長戦略」等を踏まえ、対象事業の重点化・効率化を図りつつ、必要な資金需要に的確に対応した結果、前年度当初計画と比べ十八・八%減となる十四兆九千五十九億円としております。

借換債及び財投債を含む国債発行総額については、百六十九兆五千九百四十三億円と、三年連続で対前年度比増額となりました。国債残高が多額に上る中、財政規律を維持して、市場の信認を確保するとともに、市場との緊密な対話に基づき、そのニーズ・動向等を踏まえた発行を行うなど、国債管理政策を適切に運営してまいります。

平成二十三年度税制改正においては、所得・消費・資産等にわたる抜本改革の実現に向けて、経済活性化と財政健全化を一体として推進するという枠組みの下で、特に、現下の厳しい経済状況や雇用情勢に対応して、経済活性化や税の再分配機能の回復、地球温暖化対策などの課題に優先的に取り組むとともに、納税者・生活者の視点などに立った改革に取り組み、全体として、税制抜本改革の一環をなす、緊要性の高い改革を実施いたします。

具体的には、法人実効税率や中小法人の軽減税率の引下げ、雇用促進税制・環境関連投資促進税制の創設、所得税の各種控除の見直し、相続税・贈与税の見直し、地球温暖化対策のための税の導入、市民公益税制の拡充、納税環境の整備など、所要の措置を講ずることとしております。

(中期的な財政運営の課題等)

最後に中期的な財政運営の課題等について申し上げます。我が国の財政の現状は、国及び地方の長期債務残高が平成二十三年度末には対GDP比で百八十四%に達すると見込まれるなど、主要先進国の中で最悪の水準にあります。財政健全化は、どの内閣であっても逃げることのできない課題です。昨年六月には「財政運営戦略」において財政健全化への道筋を示し、二〇一五年度までに基礎的財政収支の赤字対GDP比を半減し、二〇二〇年度までに黒字化することを目標といたしました。

少子高齢化が進む中、国民の安心を実現するため、昨年十二月に閣議決定した社会保障改革の基本方針において、政府・与党は、社会保障改革と、その必要財源の確保及び財政健全化を同時に達成するための税制改革について一体的に検討を進めていくこととしております。さらに、その改革の実現に向けた工程表とあわせ、本年半ばまでに成案を得、国民的な合意を得た上で改革の実現を図ることとしております。

このような改革の実現のためには、立場を超えた幅広い議論の上に立った国民の皆様の御理解が必要であると考えております。各党の皆様にも是非積極的に議論に御参加いただきますようお願い申し上げます。

(むすび)

以上、財政政策等の基本的な考え方と、平成二十三年度予算の大要について御説明申し上げました。

国民生活に直結する諸施策が、来年度当初から直ちに実施されるためには、平成二十三年度予算を今年度内に成立させることが必要不可欠であります。関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。

日本は、デフレや人口の減少など困難な課題に直面しており、その解決への道を切り開くことで、世界に新しい経済社会の在り方を示すことができます。日本国民が一致団結して挑戦すれば、必ずやこうした難局を乗り越えることができるはずです。課題解決の道筋を示し、日本を成長軌道に乗せ、日本が自信を持って誇れる国であり続けられるよう、私も全身全霊をささげてまいります。

国民各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。