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第174回国会における菅財務大臣の財政演説

平成22年1月29日

平成二十二年度予算の御審議に当たり、財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明申し上げます。

(はじめに)

去る総選挙において国民の皆様から大いなる御支持を賜り、鳩山内閣が成立してから、四ヶ月余りが経ちました。今ここに、新政権として最初の本予算を提出するに至りましたことに対し、御協力を賜りました皆様方に感謝の意を表するものであります。

我が国が直面している状況は、経験したことのない困難なものであります。しかしながら、国民の叡智を結集し、政治がリーダーシップを取ることで、必ずや道は開けるものと確信しております。

こうした認識の下、今後の財政政策の運営に当たっては、以下に申し述べる基本的考え方に立ち、国民生活に安心と活力をもたらすべく取り組んでまいります。

(新たな経済成長に向けた資源配分の転換)

我が国経済社会は、欧米発の金融危機を端緒として世界的に経済構造が変化しつつある中、人口減少と超高齢化の同時進行や地球温暖化といった長期的な取組を要する課題にも対応を迫られております。

この難局を打開するためには、旧来型の資源配分を転換し、経済社会の構造を変えることにより、新たな経済成長の機会を見出すことが不可欠です。

私は、これからの経済成長は、公共事業に頼るのでも、行き過ぎた市場原理主義に訴えるのでもなく、知恵を使って新たな雇用・需要を生み出すという第三の道を進むべきであると考えます。

こうした考え方に立ち、政府は、平成二十二年度予算について、資源配分を大胆に見直し、予算の全面的な組替えを行いました。あわせて、昨年末、「新成長戦略(基本方針)」を決定したところであり、政治のリーダーシップの下、資源配分の選択と集中を進めてまいります。

(財政全体の見直しと財政規律の維持)

健全な財政は、安定した経済成長を支えるために欠くことはできません。

我が国財政は、リーマン・ブラザーズ経営破綻後の世界的な景気後退を受けて税収が大きく減少する中、国・地方を合わせた長期債務残高が平成二十二年度末には八百六十二兆円に達すると見込まれるなど、極めて厳しい状況にあります。

そうした中にあって、財政規律を維持し、財政に対する信認を確保することは、社会保障をはじめとするセーフティネットの維持・強化の裏打ちとなることを通じて、将来に対する国民の安心につながるものであり、活力ある経済社会の基盤となるものであります。

私は、経済成長との両立を図りつつ、財政健全化に取り組んでまいります。

そのため、まず、財政の中身を転換いたします。選択と集中の考え方により、歳出全体を必要性の高い分野に重点的に配分いたします。

同時に、国民の皆様が歳出の意義を自ら御判断いただけるよう、予算の執行を可能な限り公開するとともに、予算執行に係るチェック機能をさらに強化いたします。

特別会計や独立行政法人の事務・事業等について、必要性、有効性、効率性等の観点から、財政に対する国民の信頼向上のために、基本に立ち返った検討を行うなど、更なる見直しにも取り組みます。

あわせて、国家戦略担当大臣を中心に、本年前半には、複数年度を視野に入れた中期財政フレームを作成するとともに、中長期的な財政規律の在り方を含む「財政運営戦略」を策定し、財政健全化への道筋を示すこととしております。

(景気回復の確実化)

現下の厳しい経済情勢の下、景気回復を確実なものとするため、政府は、平成二十一年度第二次補正予算と、これから御説明申し上げる平成二十二年度予算とを、一体として切れ目なく執行してまいります。あわせて、デフレの克服に向けて、日本銀行と一体となり、強力かつ総合的な取組を行ってまいります。

(平成二十二年度予算及び税制改正の大要)

以上の基本的考え方を踏まえ編成した平成二十二年度予算は、「国民生活が第一」、「コンクリートから人へ」の理念の下、国民生活に安心と活力をもたらす施策を充実させた「いのちを守るための予算」であります。

家計を直接応援し、国民の生活を守るため、マニフェストの工程表に掲げられた主要事項である子ども手当、農業の戸別所得補償、高校の実質無償化等の施策を実施することとしております。

一方、こうした新規施策を実現するに当たっては、行政刷新会議における事業仕分け等を通じた予算の全面的な組替えや公益法人等の基金の返納等による歳入確保を図っており、国債増発に依存することなく、必要な財源を確保しております。

一般歳出は、五十三兆四千五百四十二億円であります。前年度当初予算に比べ、一兆七千二百三十三億円の増となっております。

地方財政については、国税及び地方税の税収の落ち込みに対し、適切な補てん措置を講じております。その際、地方における歳出改革を継続しつつ、地方公共団体が、雇用情勢等を踏まえた当面の地域活性化に向けた施策等を円滑に実施できるよう、地方交付税を一兆四千八百五十億円加算しております。この結果、地方交付税交付金等について、前年度当初予算と比べ九千四十四億円増加し、過去最高水準の十七兆四千七百七十七億円となっており、地方に最大限配慮しております。

これらに国債費二十兆六千四百九十一億円等を合わせた一般会計総額は、前年度当初予算と比べ、三兆七千五百十二億円増加の九十二兆二千九百九十二億円としております。

一方、歳入については、租税等の収入は、現下の経済状況を踏まえ、前年度当初予算と比べ、八兆七千七十億円減少の三十七兆三千九百六十億円を見込んでおります。その他収入は、特例的な財政投融資特別会計財政融資資金勘定からの受入れ四兆七千五百四十一億円及び外国為替資金特別会計からの受入れ二兆八千五百七億円を含め、十兆六千二億円を見込んでおります。

以上のように、税収が大幅に減少する中、歳出・歳入両面において最大限の努力を行った結果、新規国債発行額については、四十四兆三千三十億円となっております。

主要な経費について申し述べます。

社会保障関係費については、子ども手当の支給や、医療・介護の再生等の実現を図ります。診療報酬本体について十年ぶりの大幅プラス改定を実現するとともに、地域の中核的な病院に重点化し、救急・産科・小児科・外科等の充実を図るため、従来以上に診療報酬の配分を大幅に見直します。また、肝炎対策の充実、障害者の利用者負担の軽減、生活保護の母子加算の継続、児童扶養手当の父子家庭への支給拡大等を行うこととしております。この結果、社会保障関係費は、前年度当初予算と比べて約一割増となり、一般歳出に占める割合は五割を超えることとなっております。

文教及び科学振興費については、高校の実質無償化を実現するなど、教育の振興を図るとともに、科学技術分野については、基礎研究や最先端研究の支援等への重点化を行っております。

防衛関係費については、弾道ミサイル攻撃への対応など各種事態への対応能力の確保等を図る一方、コスト縮減への取組など経費の合理化・効率化を行っております。

公共事業関係費については、「コンクリートから人へ」の理念を踏まえ、大規模な公共事業について、国民にとって本当に必要なものかどうか根本から見直すとともに、羽田空港等の国際競争力の強化のため真に必要なインフラ整備や、国民生活の安全・安心の確保に必要な分野に重点化するなど、事業の効率性・必要性を踏まえた厳しい優先順位付けを行っております。あわせて、地方公共団体が地域のニーズにあった社会資本整備を行うための新たな交付金を創設いたします。

経済協力費については、事業の見直しを行い、メリハリを強化しつつ、国際的な評価の対象となるODA全体の事業量の確保を図っております。

中小企業対策費については、中小企業の活性化を図るため、中小企業の資金調達の円滑化、仕事を創るための研究開発、下請取引の適正化に関する施策等に重点化を行っております。

エネルギー対策費については、特別会計の歳出総額を抑制するとともに、低炭素社会実現のための施策等に重点化を行っております。

農林水産関係予算については、戸別所得補償制度のモデル対策に重点配分を実施し、意欲のある農家が水田農業を継続することができる環境を整え、我が国の安定的な食料供給体制の構築と水田の有効活用等を図ることとしております。

治安関係予算については、治安関連職員の増員をはじめ、安全で安心して暮らせる社会の実現に向けた重点化を行っております。

公務員の人件費については、国・地方を通じて、定員純減や給与改定による給与の減額等を的確に予算に反映することとしており、国家公務員の人件費について、前年度当初予算と比べ千四百億円の減少となる五兆千七百九十五億円としております。

また、景気対策に万全を期すため、一兆円の経済危機対応・地域活性化予備費及び限度額一兆円の非特定議決国庫債務負担行為を合わせ、二兆円規模の財政上の措置を講じることとしております。

平成二十二年度財政投融資計画については、現下の経済情勢等を踏まえ、企業金融支援や地方公共団体を中心に必要な資金需要に的確に対応するため、前年度当初計画と比べ十五・七パーセント増となる十八兆三千五百六十九億円としております。

借換債及び財投債を含む国債発行総額については、百六十二兆四千百三十九億円と、昨年度に引き続いて対前年度比増額となりました。国債残高が多額に上る中、財政規律を維持して、市場の信認を確保するとともに、市場との緊密な対話に基づき、そのニーズ・動向等を踏まえた発行を行うなど、国債管理政策を適切に運営してまいります。

税制改正について申し述べます。

新政権の下、税制については、政府と与党に二元化していた従来の税制調査会を一元化して、政治家をメンバーとする新たな税制調査会を設置し、まず、税制改正プロセスを透明で国民に分かりやすいものとしました。

今後、税制調査会において、税制抜本改革実現に向けての具体的ビジョンについて幅広く検討を進め、歳出・歳入一体の改革が実現できるよう取り組んでまいります。その際には、番号制度といった府省横断的な課題についても、国家戦略室と連携しつつ検討を進めていく方針です。

平成二十二年度税制改正においては、「公平」「透明」「納得」の原則の下、税制全般にわたる改革の第一歩を踏み出しました。具体的には、「控除から手当へ」等の観点からの扶養控除の見直し、国民の健康の観点を明確にしたたばこ税の税率の引上げ、「新しい公共」を支える市民公益税制の拡充、暫定税率などの燃料及び車体課税の見直し、いわゆる「一人オーナー会社課税制度」の廃止、納税者の視点に立った租税特別措置等の見直しその他の各般の税目にわたる所要の措置を一体として講じることとしております。

(世界経済の回復と発展への貢献)

最後に、世界経済の回復と発展に向けた取組等について申し述べます。

昨年十一月に開催されました二十か国財務大臣・中央銀行総裁会議においては、世界経済と金融システムの健全性を回復するための政策を継続することに合意する一方、経済協力への新しいアプローチを強調するため、「強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み」を立ち上げ、各国の政策を相互に評価するための新しい協議プロセスを開始したところであります。

我が国は、自らの金融危機の経験も踏まえ、新しい世界経済・金融に対応した枠組みづくりの議論に積極的に参画するとともに、景気回復を確かなものとし、世界経済に貢献してまいります。

また、世界経済が危機を乗り越え持続的な発展を遂げるためには、各国が保護主義に陥らず、自由貿易を推進していくことが重要です。WTOドーハ・ラウンド交渉の進展に向け、引き続き全力を尽くしてまいります。

加えて、成長著しいアジア経済の活力を適切に取り込むことは、新成長戦略の柱の一つでもあります。引き続き、アジア諸国との間の地域金融協力の促進やEPAの推進等に、積極的に取り組んでまいります。

(むすび)

以上、財政政策等の基本的な考え方と、平成二十二年度予算の大要について御説明申し上げました。

国民生活に安心と活力をもたらすための施策が、来年度当初から直ちに実施されるためには、平成二十二年度予算を今年度内に成立させることが必要不可欠であります。関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。