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第180回国会における安住財務大臣の財政演説

平成24年1月24日

 

 平成二十四年度予算及び平成二十三年度第四次補正予算の御審議に当たり、財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明申し上げます。

(我が国経済の現状と成長に向けた方策)
 未曾有の被害をもたらした東日本大震災から約十ヶ月が経ちました。この間、政府としては、震災からの復旧・復興のための補正予算を三次にわたり編成するなど、復旧・復興、景気の下振れの回避に全力を挙げて取り組んでまいりました。こうした中、我が国経済は、依然として厳しい状況にあるものの、緩やかに景気が持ち直してきているところです。他方、欧州政府債務危機の動向等による海外経済の減速懸念、為替の動向、原子力発電所事故の影響による電力供給の制約など、さまざまなリスク要因が存在することも事実です。本年は、様々な苦難を乗り越えながら、我が国経済を確かな再生の軌道に乗せていく年としていかなければなりません。
 
 そのためには、引き続き震災からの復興、福島の再生等の足下の課題に全力で取り組むとともに、少子高齢化、生産年齢人口の減少、経済のグローバル化といった環境変化に対応した経済社会の構造転換を進め、我が国の成長基盤の強化を図っていくことが不可欠です。規制・制度の改革等を通じた新規産業の創出、アジア太平洋地域をはじめとする世界経済の成長を取り込むための高いレベルでの戦略的かつ多角的な経済連携、官民一体となったインフラ分野の海外展開といった取組を推進し、金融政策を行う日本銀行と緊密な情報交換、連携を保ちつつ、デフレの脱却と経済の活性化に向けて取り組んでまいります。

 また、欧州の政府債務問題を見ても明らかなように、悪化した財政を放置すれば、安定した経済成長を実現する上で大きなリスクになりかねません。次に述べる「社会保障と税の一体改革」などを通じ、財政健全化に一刻も早く取り組み、経済の安定的な成長の基盤を築いていく必要があります。

(社会保障と税の一体改革)
 我が国の社会保障制度は、世界に誇りうる国民の共有財産として、「支え合う社会」の基盤となっております。将来世代にこれを引き継ぎ、かつ子どもからお年寄りまで国民生活の安心を確保する「全世代対応型」の社会保障制度を築き上げていくためにも、社会保障・税一体改革により、必要な負担を分かち合う仕組みを作っていくことが不可欠です。

 一方、社会保障を支える我が国財政に目を転ずれば、税収が歳出の半分すら賄えず、国及び地方の長期債務残高が平成二十四年度末には対GDP比で百九十五%に達すると見込まれるなど、主要先進国の中で最悪の水準にあります。欧州の政府債務問題を踏まえれば、財政健全化は、市場や国際社会の信認を維持し、我が国の経済や国民生活を守る上で、逃げることのできない課題です。

 政治改革、行政改革等の「自らの襟を正す」取組にもこれまで以上に踏み込み、国民の御理解を得ながら、消費税収について社会保障財源化し、経済状況を好転させることを条件に、二〇一四年四月に八%、二〇一五年十月に十%へと税率を段階的に引き上げるなど、「社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成」への第一歩を踏み出していかなければなりません。

 今後、本年度内に消費税法の改正を含む税制抜本改革の関連法案を国会に提出いたします。

(平成二十四年度予算及び税制改正の大要)
 続いて、平成二十四年度予算及び税制改正の大要を御説明申し上げます。

 平成二十四年度予算においては、引き続き東日本大震災からの復興に切れ目なく全力で対応するため、東日本大震災復興特別会計を創設し、必要な予算を計上しております。また、「日本再生重点化措置」を実施し、我が国経済社会の真の再生のために予算を重点配分しているほか、「提言型政策仕分け」等を予算に適切に反映し、公務部門において徹底してムダを排除することなどにより、「中期財政フレーム」を遵守しつつ、予算の大胆なメリハリ付けを行っております。

 基礎的財政収支対象経費は、六十八兆三千八百九十七億円であります。前年度当初予算と比べ、二兆四千七百二十八億円の減少となっております。

 これに国債費二十一兆九千四百四十二億円を合わせた一般会計総額は、前年度当初予算と比べ、二兆七百七十七億円減少の九十兆三千三百三十九億円としております。

 一方、歳入については、租税等の収入は、四十二兆三千四百六十億円を見込んでおり、前年度当初予算と比べ、一兆四千百九十億円の増加となっております。その他収入は、三兆七千四百三十九億円を見込んでおり、前年度当初予算と比べ、三兆四千四百二十七億円の減少となっております。

 国債費が増加し、税外収入が大幅に減少する中で、歳出・歳入両面において最大限の努力を行った結果、新規国債発行額については、四十四兆二千四百四十億円となっております。

 震災からの復興については、与野党間の協議も踏まえつつ、復興に係る国の資金の流れの透明化を図るとともに復興債の償還を適切に管理するため、特別会計法の一部を改正し、東日本大震災復興特別会計を創設することとしております。同特別会計においては、歳出について、東日本大震災関係経費三兆二千五百億円、復興債費千二百五十三億円、復興予備費四千億円を計上し、歳入について、復興特別税五千三百五億円、一般会計からの受入金五千五百七億円、その他収入百十八億円、復興公債金二兆六千八百二十三億円を見込んでおります。

 これらの復興予算が円滑・迅速に執行されることは重要であり、財政当局としても各省庁等の執行状況を注視してまいります。

 主要な経費について申し述べます。

 社会保障関係費については、高齢化等に伴って必要となる年金・医療等の経費について、重点化を図りつつ所要額を確保するとともに、恒久的な子どものための手当への移行を図っております。また、経済成長や人材育成、安全・安心社会の実現に資する観点から、ライフ・イノベーションの一体的推進や在宅医療・介護の推進、新卒大学生の現役就職支援などの施策を充実することとしております。基礎年金国庫負担については、歳出予算には国庫負担三十六・五%分を計上し、これと税制抜本改革により確保される財源を充てて償還される交付国債により、国庫負担二分の一を確保することとしました。これらの結果、前年度当初予算と比べて約二兆三千億円の減額となっております。

 文教及び科学振興費については、被災児童生徒への対応に万全を期すほか、きめ細かく質の高い義務教育の実現、スピード感を持った大学改革の推進、大学生向け奨学金や授業料減免の充実を図っております。また、原子力関係の既存の予算の大幅な縮減と安全・事故対策等へのシフト、大学等を活用した被災地域経済の再生と地震・津波への対応の実施、宇宙・海洋分野における予算の重点化、基礎研究の支援の充実などを図っております。

 地方財政については、震災対応に万全を期すほか、地方歳出について国の歳出の取組と基調を合わせつつ、前年度に引き続き、地方の財源不足の状況を踏まえた加算を一兆五百億円行うこととしております。この結果、一般会計ベースの地方交付税交付金等について、前年度当初予算と比べ千九百五億円減少し、十六兆五千九百四十億円となっておりますが、地方自治体に交付される地方交付税の総額は五年連続で増加し、地方の安定的な財政運営に必要となる地方の一般財源の総額を適切に確保するなど、引き続き地方に最大限配慮しております。

 防衛関係費については、防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画を踏まえ、引き続き、防衛力の構造改革を行い、即応性、機動性等を重視した動的防衛力の整備を図るとともに、コスト削減への取組など経費の合理化・効率化を行っております。

 公共事業関係費については、「選択と集中」やコスト縮減の徹底を通じて引き続き合理化・効率化を図りつつ、真に必要な社会資本整備等に重点的に予算を配分しております。

 経済協力費については、 経費の見直しを行いつつ、我が国の成長にも資する分野等への重点化を進め、ODA全体の事業量の確保を図っております。

 中小企業対策費については、中小企業の活性化を図るため、資金調達の円滑化に関する施策、海外展開支援、研究開発支援等に重点化を行うほか、最低賃金引上げに向けた中小企業支援にも取り組むこととしております。

 エネルギー対策費については、東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力安全対策や電力供給不足への対応等に重点化を図っております。

 農林水産関係予算については、「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」に基づき、競争力・体質強化を図り、若者が担う農業を目指して、農地の集約化、若者の新規就農を進め、六次産業化をはじめ、若者が魅力を感じ、安心して創意工夫を活かせる農業への改革を推進することとしております。

 治安関係予算については、安全で安心して暮らせる社会の実現に向け、災害等における警察活動基盤の整備や再犯防止に向けた取組などの施策を充実することとしております。

 国家公務員の人件費は、東日本大震災の復旧・復興にかかる増員には適切に配慮しつつ、全省庁を挙げて厳格な定員管理に取り組むこととしており、前年度当初予算と比べ六百六十一億円の減少となる五兆九百四十四億円となっております。

 平成二十四年度財政投融資計画については、引き続き対象事業の重点化・効率化を図りつつ、「日本再生の基本戦略」等を踏まえ、東日本大震災からの復興及び日本再生・成長力強化に積極的に対応することとし、計画の規模は十七兆六千四百八十二億円となっております。

 復興債、財投債及び借換債を含めた国債発行総額については、百七十四兆二千三百十三億円と、四年連続で前年度当初と比べて増額となりました。国債残高が多額に上る中、財政規律を維持して、市場の信認を確保するとともに、市場との緊密な対話に基づき、そのニーズ・動向等を踏まえた発行を行うなど、国債管理政策を適切に運営してまいります。

 平成二十四年度税制改正においては、成長戦略に資する税制措置、税制の公平性確保と課税の適正化、平成二十三年度税制改正の積残し事項の取扱いなど、特に喫緊の対応を要する税制改正を行うこととしております。

 具体的には、車体課税の見直し、研究開発税制の上乗せ特例の延長、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充・延長、給与所得控除の上限の設定など、所要の措置を講ずることとしております。

(平成二十三年度補正予算(第四号及び特第四号)の大要)
 次に、平成二十三年度第四次補正予算の大要について申し述べます。

 まず、歳出面においては、災害対策費等の義務的経費等の追加を行っております。また、高齢者医療・子育て・福祉等関係経費や中小企業金融関係経費等のその他の経費や地方交付税交付金を計上する一方、国債費の不用など既定経費の減額を行うこととしております。

 歳入面においては、税収及び税外収入の増加等を見込んでおります。

 これらの結果、平成二十三年度一般会計第四次補正後予算の総額は、一般会計第三次補正後予算に対し、歳入歳出とも一兆千百十八億円増加し、百七兆五千百五億円となります。

 また、特別会計予算についても所要の補正を行うこととしております。

(むすび)
 以上、財政政策等の基本的な考え方と、平成二十四年度予算及び平成二十三年度第四次補正予算の大要について御説明申し上げました。

 我が国経済社会の再生に向けた諸施策が、平成二十四年度当初から直ちに実施されるためには、平成二十四年度予算を今年度内に成立させることが必要不可欠であります。関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。

 様々な苦難を乗り越え、日本が新しい一歩を踏み出すためにも、経済成長と財政再建の両立を図り、日本経済を再生させていかなければなりません。引き続き震災からの復興に全力を尽くすとともに、若人からお年寄りまで、全ての人が将来の明るい展望を見出せる国家を実現すべく、社会保障と税の一体改革をはじめとする諸般の課題に全身全霊を捧げ取り組んでまいります。

 国民各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。