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第百四十四回国会における宮澤大蔵大臣の財政演説

 

 

平成十年十二月四日

 

 今般、先に決定されました緊急経済対策を受けて、平成十年度補正予算(第三号、特第二号及び機第二号)を提出することとなりました。その御審議をお願いするに当たり、当面の財政金融政策の基本的考え方について所信を申し述べますとともに、補正予算の大要について御説明いたします。

 

(最近の経済情勢と緊急経済対策)

 まず、最近の経済情勢と先に決定されました緊急経済対策について申し述べます。

  1.  最近の経済情勢を概観しますと、公共投資には前倒し執行等の効果がようやく現れてきたものの、民間需要は低調な動きとなっております。このため、生産は低い水準にあり、雇用情勢も依然として厳しく、景気は低迷状態が長引き、極めて厳しい状況にあります。
     政府としては、こうした経済の現況を踏まえ、金融システムの再生と景気回復を最優先課題として取り組んでおります。
  1.  こうした中で、先般、現下の厳しい経済情勢から早急に脱却し、内外の信頼を回復するため、総事業規模十七兆円超、恒久的減税を含めれば二十兆円を大きく上回る規模の緊急経済対策を決定いたしました。
  1.  本対策においては、経済全体にとっていわば動脈とも言うべき役割を担う金融システムを再生することが日本経済再生のためにはまず必要との認識の下、金融システムの安定化と信用収縮の防止に取り組むこととしております。
     具体的には、金融システム安定化策として、先般成立した金融機能再生法及び金融機能早期健全化法を車の両輪とする新しい枠組みに基づく制度の実効ある運用等を図ることとしております。また、信用収縮を防ぐため、中小・中堅企業等に対する信用供与が確保されるよう、先般閣議決定された「中小企業等貸し渋り対策大綱」に基づく施策の推進に加えて、日本開発銀行等の融資・保証制度の拡充のほか、信用保証協会等による新たな信用保証制度の導入等を行うこととしております。
  1.  併せて、二十一世紀型社会の構築に資する景気回復策として、まず、緊急に内需の拡大を図るため、省庁横断的に実施する「二十一世紀先導プロジェクト」、「生活空間倍増戦略プラン」及び「産業再生計画」も踏まえ、二十一世紀を展望した社会資本の重点的な整備を進めることとしております。また、住宅投資の現状に鑑み、住宅投資促進策を講ずるとともに、早急な雇用の創出及びその安定を目指し、雇用対策を行うこととしております。さらに、個人消費の喚起と地域経済の活性化を図るため、地域振興券を交付することとしております。
  1.  また、世界経済リスクへの対応に際しての我が国の役割の大きさを踏まえ、我が国と密接な相互依存関係にあるアジア諸国の実体経済回復の努力を支援するため、アジア支援策等を実施することとしております。

 

(税制)

 次に、税制について申し述べます。

 個人所得課税については、平成十一年以降、所得税の最高税率を三十七パーセントに引き下げること等により、国・地方を合わせた最高税率を五十パーセントに引き下げ、これに定率減税を組み合わせることにより、四兆円規模の減税を実施することとしております。

 法人課税については、平成十一年四月以降開始する事業年度から、法人税の基本税率を三十パーセントに引き下げること等により、国・地方を合わせた実効税率を四十パーセント程度へ引き下げることとしております。

 その際、地方財政の円滑な運営に十分配慮する観点から、これらの恒久的な減税の実施に伴う当分の間の措置として、国のたばこ税の税率引下げと同額の地方たばこ税の税率引上げ、法人税の交付税率の上乗せ、地方特例交付金(仮称)などの措置を講ずることとしております。

 政策税制については、現下の厳しい経済情勢に対応するため、景気回復に資するよう、住宅建設・民間設備投資等真に有効かつ適切なものについて、早急に具体案を得るよう、精力的に検討を進めます。

 これらの税制改正を具体化する法案は次の通常国会に提出することとします。

 

(財政構造改革法の凍結)

 次に、財政構造改革法の凍結について申し述べます。

 財政構造改革法については、財政構造改革を推進するという基本的考え方は守りつつ、まずは景気回復に向けて全力を尽くすため、これを当分の間凍結することとし、そのための法案を提出したところであります。

 

(平成十年度補正予算(第三号、特第二号及び機第二号)の大要)

 次に、今般提出いたしました平成十年度補正予算(第三号、特第二号及び機第二号)の大要について御説明いたします。

  1.  平成十年度一般会計補正予算については、歳出面において、緊急経済対策関連として、信用収縮対策等金融特別対策費二兆千四百二十四億円、二十一世紀を展望した社会資本整備及び災害復旧等事業費三兆九千六百一億円、地域振興券七千六百九十八億円、住宅金融対策費千九百億円、雇用対策費千二百四十六億円並びにアジア対策費五百十億円を計上するとともに、地方交付税交付金四千億円を計上することとしております。このほか、義務的経費の追加等特に緊要となったやむを得ない事項について措置するとともに、既定経費の節減及び予備費の減額等を行うこととしております。
  1.  他方、歳入面においては、租税及印紙収入について、最近までの収入実績等を勘案して六兆八千八百四十億円の減収を見込むとともに、その他収入の増加を見込んでもなお不足する歳入について、やむを得ざる措置として十二兆三千二百五十億円の公債の追加発行を行うこととしております。なお、追加発行する公債のうち、四兆五千百五十億円が建設公債、七兆八千百億円が特例公債となっております。今回の措置により、平成十年度の公債発行額は三十四兆円となり、公債依存度は三十八・六パーセントとなります。
     これらの結果、平成十年度一般会計第三次補正後予算の総額は、第二次補正後予算に対し歳入歳出とも五兆六千七百六十九億円増加し、八十七兆九千九百十五億円となります。
  1.  以上の一般会計補正等に関連して、特別会計予算及び政府関係機関予算についても所要の補正を行うこととしております。
  1.  財政投融資計画については、緊急経済対策を実施するため、この補正予算において、日本開発銀行、日本輸出入銀行等十六機関に対し、総額二兆四千四百二十五億円を追加することとしております。
  1.  以上、平成十年度補正予算の大要について御説明いたしました。
     何とぞ、関係の法律案とともに、御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。