財務総合政策研究所 設立40周年記念企画セッション
~財政研究における行政機関とアカデミアの協働~(後編)
財務総合政策研究所総務研究部 主任研究官 大西 宏典
2025年5月に、財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)の前身となる大蔵省財政金融研究所が設立されてから40周年を迎えました。今回のPRI Open Campusでは、前回に引き続き、日本財政学会第82回大会(日程:2025年10月25日・26日、会場:龍谷大学深草キャンパス)で開催した財務総研設立40周年記念セッション「財政研究における行政機関とアカデミアの協働」におけるパネルディスカッションの内容をお届けします。なお、本文の内容は全て発言者個人の意見であり、所属機関等の見解を表すものではありません。
1.登壇者プロフィール
上田淳二(モデレーター)
財務総研副所長
京都大学経済学博士。1994年東京大学経済学部卒、大蔵省入省。財務省主税局調査課税制調査室長、京都大学経済研究所准教授、IMF財政局審議役、財務総研総務研究部長等を経て、2024年から現職。主な著書に『動学的コントロール下の財政政策』等。
石川智久
日本総合研究所調査部長/チーフエコノミスト
1997年東京大学経済学部卒、住友銀行入行。日本総合研究所、日本経済研究センター、三井住友銀行、内閣府等を経て、2023年から現職。主な著書に『「金利のある世界」の歩き方』、『大阪 人づくりの逆襲』等。専門はマクロ経済・経済政策。
宇南山卓
京都大学経済研究所教授
2004年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学、京都大学、神戸大学、一橋大学等で教鞭をとった後、2020年より現職。主な著書に『マクロ経済学の第一歩』、『現代日本の消費分析』等。専門は日本経済論・家計行動・経済統計。
土居丈朗
慶應義塾大学経済学部教授
1999年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員、慶應義塾大学准教授等を経て2009年から現職。主な著書に『地方債改革の経済学』、『入門 財政学』等。専門は財政学・公共経済学。
宮本弘暁
財務総研総括主任研究官
2009年ウィスコンシン大学マディソン校にて博士号(経済学)を取得。IMF財政局エコノミスト、東京都立大学経済経営学部教授、一橋大学経済研究所教授等を経て、2024年より現職。主な著書に『日本の財政政策効果』、『私たちの日本経済』等。専門はマクロ経済学・労働経済学・日本経済論。
2.行政とアカデミアの人的交流を進めるために何が必要か?
(上田)
パネリストの皆様からの発表では、行政とアカデミアの協働を進めるために、人材のインタラクションが重要であるというお話が多かったように思います。もちろん、既存の仕組みの中でも様々なインタラクションは行われていますが、それが活発であると言えるまでの状況にはなっていないと思います。そうした状況を、どうすればブレークスルーすることができるとお考えでしょうか?
(土居)
行政の側から、もっと研究ニーズを示してほしいと思います。例えば、行政からのリクエストを財政学会で受けて、「こういう研究をしてほしいというリクエストがあるけれども、関心がある会員は、一度集まってディスカッションをしませんか」というような声掛けを行い、その場に研究者も行政官も一緒に集まってディスカッションをする、というようにネットワークを強化していく余地はあるのではないかと思います。
その中から、「このテーマであれば、この先生が関心を持っていて、このタイミングならば、一緒に仕事ができますよ」とか、「こういう分析ならば、私が引き受けますよ」というような事例が出てくれば、財政学会の会員も関与する形で、行政とアカデミアのコラボレーションを進めていくことができるのではないかと思います。
(上田)
宇南山先生からは、行政とアカデミアの「フォーマット」の違いを理解する必要がある、というお話があったかと思います。「フォーマット」を知る機会がないままに、お互いに顔を合わせると、異質な者同士で、協働する前に考えがぶつかりやすいということは、良くあるように思います。
(宇南山)
「フォーマット」の違いは非常に重要で、研究者は行政官の行動原理を理解していないし、行政官も研究者の行動原理を理解してないのではないかと思います。ですから、土居先生のような方が、「行政のフォーマットはこういうものだ」、「このレベルの会議ではこういうトピックに言及しないといけない」といった情報を発信していくことは、とても重要だと思います。
また、反対に行政の側は、研究者の行動原理や、研究者が何を重要なトピックと考えるか、何を業績とみなすか、といったことを理解していないように感じます。先行研究が存在していて、学会では決着のついているようなトピックであるにもかかわらず、「これは重要な案件なのに、なぜ研究者は関心を寄せないのか」というようなことを言われると、「いや、そういう問題じゃないんですよ」と言い返したくなります。
ですから、行政官が大学への出向等の機会を通じて、研究者の行動原理を理解する機会をもっと作るべきだと思います。その中で、財政学会を行政官のトレーニングの場として、活用できると良いのではないでしょうか。例えば、行政官の方が学会で報告したら、その内容がいかにアカデミックに評価できないかを突きつけるようなトレーニングが必要なのではないかと思います(笑)。
(宮本)
お互いを知る機会をなるべく増やすことは大事だと思いますが、特に若い研究者の方々は、行政と接点を持つ機会があるということを、そもそも知らないのではないかと思います。土居先生や宇南山先生のような、行政との接点が多い先生の指導を受けていれば、そういった道もあるということが分かると思いますが、そうではない場合は、そもそも財務省で働く機会があるとか、どうすれば採用されるか、といった情報に触れる機会が全くないのではないかと思います。
ですから、行政の側には是非、若い研究者との接点を増やし、積極的な情報提供を行ってほしいと思います。例えば、若手研究者を集めて、政策の動向や、どういったことがイシューになっているのかを紹介し、ディスカッションをするような場が、年に数回あるだけでも状況は変わると思います。そういったことを通じて、徐々にお互いの理解を深めていくことが大事だと思います。
(上田)
そういった場をファシリテートする役割を、どのような人たちが担っていくのが良いでしょうか?
(石川)
どこの世界にも通訳的な人材がいますので、そういった人材を見つけることが重要です。私が内閣府に出向していた時も、研究者の先生に説明する役割が回ってくることが多かったのですが、それは、個人的にも研究者の方々との付き合いがある程度はあって、日本総研の中にもそういった組織的な経験の蓄積があるので、私が通訳的な役割に適していると思われたからだと思います。
もしかすると、通訳的な人材が見つからない、ということもあるかもしれませんが、そういう場合は人材を育成する必要があります。ある程度は強制的に、色々な人にどんどん会わせていって、「10人中1人が当たれば良い」くらいの発想で、人材育成にチャレンジしていくことも大事だと思います。
(宮本)
アカデミアのことを理解している行政官の方が増えてくると、ファシリテーターとして適任ではないかと思います。例えば、財務省の中にも、海外や国内の大学院で経済学の博士号・修士号を取得している方が数多くいらっしゃいますが、実際に研究経験のある行政官の方とお話をすると、驚くほど研究能力が高かったり、色々なことをご存知だったりします。
ですから、宇南山先生のお話にもありましたが、霞ヶ関の中でも、行政官の方に研究者としてのトレーニングを受ける機会をもう少し増やしてあげると良いのではないかと思います。
(上田)
行政官のリテラシーを上げるためのトレーニングとして、学会に参加することは重要だと思います。行政官に対して、そのインセンティブや魅力を、どうすれば伝えることができるでしょうか?
(土居)
私はかつて、財務省内の私的な勉強会に参加していましたが、そういったインフォーマルなディスカッションの場を行政の中に作るということは、既にある程度は行われていると思います。
それよりもむしろ、学会の側にそのような場がないのではないかと思います。特定の研究をフィーチャーするような研究発表の場ではなく、ディスカッションの場を学会が作ると、行政官にとっても学会参加のインセンティブが出てくるのではないかと思います。
財務省に引きつけてお話をすると、様々な審議会等の場で政策の議論をするニーズがあった時に、いきなり研究業績のリストだけを見て、「この人はこういう人だから呼ぼう」というようには進まないと思うので、やはりface-to-faceでディスカッションを行う場をもっと作って、継続的に行政官と研究者が顔を合わせていくことが重要だと思います。
(上田)
行政官と研究者が顔を合わせる場において、行政官は「何を話せば良いのだろうか」、「どうすれば研究者の方々とのコミュニケーションのきっかけを掴めるのだろうか」というような悩みに直面すると思いますが、どのようにテーマ設定をすると、コミュニケーションを円滑に進められるのでしょうか?
(宇南山)
私が常々思っているのは、行政は「偉い先生」を呼びすぎるということです。一般論として、大御所の先生は、行政に対して親切に対応するインセンティブが少ないと思います。
その意味で、もっと若い大学院生やポスドクの研究者を積極的に呼んだ方が良いと思います。かつ、「手弁当で財務省まで来てください」と言われても、誰も来ないと思いますので、きちんと謝金を払った上で、お互いに言いたいことを言い合える、対等な関係を築くことが重要だと思います。
ですから、大所高所から全てを理解した人を呼ぶ場を作るというよりは、若い人同士で、お互いに対等に話せる関係を作るべきではないかと思います。
(宮本)
私も同感でして、世代の近い人同士で議論できる場があると、ラフな形で本音の議論ができるのではないかと思います。
また、研究者には研究者の強みがあり、行政官には行政官の強みがあるので、敢えて行政官の方が研究者のフィールドで研究発表をするとか、逆に研究者が行政官に合わせるというよりは、お互いの強みを活かして、両者が忌憚なく議論できる場を作ることが、やはり重要だと思います。
行政官が、今どういうふうに国の政策が動いていて、何が問題なのか、自身の考えを研究者にぶつける。研究者は、「こんな研究をしているけれども、何か役立てることはないのか」とぶつけて、相互の落としどころを探っていく。そういうプロセスを継続していけば、どこかで必ずコラボレーションが起きるのではないかと思います。
(石川)
やはり若手の研究者の方が、自分の名前を売っていきたいという気持ちもあったり、自分の考えていることを行政に言いたいけれどもそのチャンネルがないと思っていたりするので、まずはそういった方をピックアップしていくと良いと思います。
また、どの分野にもネットワークが広い人が必ずいるので、そういう人を見つけることも重要だと思います。良い研究をする人が、必ずしも友達が多いわけではないですし、逆に研究はそんなに良くないけれども、友達は多い人というのもいますので(笑)、そういった人を、アカデミアからでもシンクタンクからでも、見つけられると良いのではないかと思います。
3.財政研究の未来のために何が必要か?
(上田)
日本では、少子高齢化のトレンドの中で、若者の数が減っているという状況もあり、財政研究に取り組もうとする若い研究者の数が必ずしも多くないように見受けられます。また、財務省自身も採用に苦労しているという状況もあるわけですが、財政研究が、若い人にとって魅力的に映り、財政の分野で財務省の人たちと力を合わせて研究をやっていこう、と思ってもらえるようなインセンティブを、どうすれば作り出せるでしょうか?
(土居)
私も学部で財政学のゼミをやっていますが、最近は税制を研究したいというゼミ生がほぼゼロで、税制よりも地方創生の政策を考えたいというようなゼミ生が多くなっています。私も地方財政の話はできますけれども、「それにしても、税をやりたい人はいないのかな」と思っています。
昨今は、財政のトピックに若い人が関わると、友達に好感を持ってもらえない、というような変な風潮があるようです(笑)。一方で、コンサルティング会社に就職したがる学生が多くいるというのは、「まだ捨てたものではない」と思います。
つまり、行政が何らかの施策を講じるということに対して、アドバイスをするという仕事に魅力を感じる学生が多くいるわけですから、彼らに対して、「財政全体のことも視野に入れてコンサルティングをしないと完結しないよ」と、財政に関心を持ってもらうよう、上手に関心を引き出すということが、必要なのではないかと思います。
(宇南山)
財政研究に取り組む若い人が少ないというのは、私も感じています。その理由は非常に端的な話で、財政、特に日本の財政を研究しても、なかなか業績にならないからだと思います。因果推論のような高度なテクニックが使えるわけではなく、標準的なデータで標準的な分析しかできないとなると、論文にすることが難しいわけです。「論文にならない=就職もできない」と思えば、若手が取り組むのはハードルが高いと思います。
しかも、日本の財政の研究をしているのは、私も土居先生もそうですが、国内の大学院を出ている研究者が多いです。最近の若い世代には、「海外のPh.D.を取って、海外のトップジャーナルに論文を載せることこそが研究だ」という風潮があるので、それを乗り越えるためには、やはり日本のことを研究している人をもっと評価するような文化が必要です。
日本の大学院を出て、日本のことを研究している研究者の多くは、地方の大学にいます。ですが、財務省も他の省庁も、東京にいない研究者のことは、あまり相手にしていないように見受けられます。旅費も掛かるし、色々と面倒だとは思いますが、地方の研究者、特に若い研究者に対して、そうした研究をやっていれば、ポストや研究費が得られるし、政府のプロジェクトにも参加しやすい、というようなレピュテーションを、積極的に作っていくことが大切だと思います。
(宮本)
若い研究者を財政研究に呼び込む上で、行政データの活用は非常に強い武器になると思います。輸出入申告データですとか、税務データですとか、とても貴重なマイクロデータを行政機関は持っていますので、そういったデータに研究者がアクセスできるようになると、研究の裾野を大きく拡げることができると思います。
私も財務総研で話を聞いていると、「こんなに凄いデータがあるのか」と驚くようなデータです。これを使えば、海外の学術誌に載るような論文をどんどん書ける、という宝の山がありますので、これは若い研究者にとって、とても魅力的な材料になるのではないかと思います。
また、私も英語で学術論文を書いてきた立場ではありますけれども、最近は日本語でも論文を書いたり、一般向けの書籍を書いたりというように、少しずつスタンスを変えています。やはり日本で経済研究をする上では、日本のことを分析して、情報発信をしていくことが、とても大事だと考えているからです。
かつては、そういった研究もたくさんあったと思いますが、日本が直面している様々な問題、それは財政の問題だけではなく、例えば少子高齢化の問題もありますけれども、他国がこれから直面する問題に我々はフロントランナーとして直面しているわけですから、その経験を学術的な知見として蓄積・発信していくことは、将来的にはアカデミアの世界でも役に立つはずで、もっと日本の研究を積極的に行っていくべきだと思います。
(石川)
土居先生のお話にもありましたが、日本の公共を良くしたいという若者は、今もたくさんいると思います。日本総研はシンクタンクやコンサルティングの会社ですけれども、本当に優秀な若者に来ていただいています。行政から民間企業へ移る方も増えていますが、そういった方々も、民間に行った後も「日本を良くしたい」という気持ちを持ち続けている方が多いと思います。
ですから、学生に対して、「財政学は世の中を良くするための学問である」ということを、もっとアピールしていくと良いのではないかと思います。また、財政学の面白さというのは、実は社会人になってから分かるという側面もあって、実際に働くようになってから、財政や補助金、社会保障といったものの仕組みや重要性に気づくことも多いと思いますので、社会人が大学院で財政学を学べるようなパスを、もっと増やせると良いのではないかと思います。
4.これからどのような研究テーマに取り組むべきか?
(上田)
財政研究の魅力を高める上で、今後どのような研究テーマに取り組めば良いか、具体的なサジェスチョンを伺いたいと思います。財務総研は今年で40周年、10年後には50周年ということになりますが、50周年をどのような姿で迎えるべきか、というところからバックキャストをして、これからの10年間、どういった研究テーマに取り組んでいけば良いでしょうか?
(土居)
宇南山先生が仰ったように、最近は因果推論の論文が非常に増えていますが、財政・税制に関して、因果推論に向いているような制度改革等についての知見は、むしろ現場の行政官の方が持っているように思います。研究者はそうした知見をあまり持っておらず、分析手法は身についているけれども、分析対象を選ぶ際に、財政・税制の仕組みを詳しく知らないので、研究テーマには選びづらいという状況なのではないかと思います。
それに比べると、労働関連のデータは豊富にあるし、特に女性研究者は女性労働について大変詳しく調べて分析をするし、ということで、今や財政学者よりも労働経済学者の方が、税制についてどんどん研究成果を出しているという皮肉な状況になっています。しかも、彼らは財源を考えなくとも構わないので、例えば、「配偶者控除にはこういう効果がありました」ということだけを言えば良いわけです(笑)。
そういう観点で、まず願わくは、政策現場から「こういう制度改正をしているけれども、因果推論ができないだろうか」というような、オープンクエスチョンを提供していただいて、それに飛びつく研究者がいれば、一緒にそのテーマに取り組んでいけば良いのではないかと思います。
(宇南山)
研究者が常日頃から不満に思っていることとして、財務省がすぐに「選択と集中」というテーゼを出して、研究テーマを決めようとする、ということがあります。「そんなものは決まるはずがないじゃないか」というのが研究者のスタンスですから、今後どういう研究テーマに取り組むべきか、という問いに対する私の答えも、「それを問うてはいけない」というものです。
先に研究テーマを決めるのではなく、行政官と研究者が、お互いに重要だと思う問題を常に共有できていて、それが実際に研究される。10年後にそういった姿になっていれば、とても素晴らしいことだと思います。
(宮本)
私はIMF(国際通貨基金)で「財政エコノミスト」という仕事を拝命していました。ある国を担当するカントリーチームに入って、その国の財政を分析してほしいと言われたのですが、その時に私に来たアサインメントは、財政のことだけではなくて、「教育分野もあなたの担当だ、気候変動もそうだ、労働もそうだ、マクロの成長もそうだ」と、結局全ての分野を担当させられました。なぜかと言えば、財政というのはありとあらゆる分野に関わってくるテーマだからです。
土居先生の財源のお話がまさにそうだと思いますが、財源のことを考えつつ、教育はどうすれば良いのか、医療はどうすれば良いのか、というように、多岐にわたる分野について考えないといけないのが、財政だと思います。そういう意味で、実はどのような分野でも分析できるというのが、財政研究の魅力なのではないかと思います。
(石川)
私も内閣府で財務省と一緒に「骨太の方針」を取りまとめましたが、宮本先生の仰る通り、国がお金を使うものは全て財政の領域なので、財政研究もかなり間口が広いのではないかと思います。ですから、「財政×〇〇」というように、異分野をどうやって掛け算していくかが、鍵になるのではないかと思います。
現在の財政学はやや視野が狭まっているように思うので、敢えて異分野の人との共同研究を進めることも重要だと思います。例えば「財政×スタートアップ」でも良いですし、「財政×文化」でも良いので、オープンイノベーションのような形で、財政学会を盛り上げていけると良いのではないかと思います。
少し話が逸れますけれども、OIST(沖縄科学技術大学院大学)という、最先端の研究成果をどんどん出している大学がありまして、そこが面白いのは、昆虫を研究している人の横にコンピューターサイエンスの人がいて、その横に量子力学の人がいるわけです。要するに、全く違う分野の人が隣にいて、そこで議論をすることで、新たなものが生み出されるという構造になっています。
ですから、財政学会も、実験的かもしれませんが、どんどん新しい分野を取り入れていくことが重要かと思います。今回のセッションのように、会員と非会員で議論をするというような機会を増やしていくと、自ずとそのモメンタムがつくのではないかと思います。
5.フロアとのディスカッション
(上田)
最後に、限られた時間ではありますが、フロアの皆様からコメントがあれば伺いたいと思います。
(フロア参加者)
アメリカでは、研究者が行政機関の幹部としてアサインされるというケースも多いですが、研究者の皆様から見て、日本の行政機関に直接的に参入するということを考えた時に、どういったことがネックになるとお考えでしょうか?
(宇南山)
私に行政官としての仕事ができるか、と問われれば、恐らくできません。それは、経済学の知見しか持っていないので、具体的な政策を考える時に、経済学的な話しかしないのでは、適切な政策を選ぶことはできないだろうと思うからです。また、部下のマネジメントもできませんので、研究者をそのまま行政官として活用するというのは、多くの場合、無理があるのではないかと思います。
(石川)
私は内閣府へ出向した時に、比較的すんなりと適応することができました。その要因は、私が銀行に勤めていた時に、金融庁の方と法改正等の仕事を一緒にやっていたことがありまして、その時に行政官の仕事に対するスタンスとか、行政法といったものに触れていたからだと思います。実際に行政のオペレーションに参加するとなると、法律や行政自体に関する知識が不可欠なので、例えば、若い時に1年間くらいでも、法改正に関わるというような経験を積めると良いのではないかと思います。
(フロア参加者)
私もかつて、当時の大蔵省財政金融研究所に勤めていましたが、私にとっては、霞ヶ関の動き方を間近に見ることができた、というのが一番大きなメリットでした。例えば、マクロ経済学者が日銀に入って働くという場合は、マクロ経済は日銀の外にある分析対象ですけれども、財政学者が財務省に入った場合は、研究対象そのものの中に入ることになるので、他所とは全く違う経験ができると思います。
裏を返せば、霞ヶ関を研究するのに、霞ヶ関に行ったことがないというのは、「フランスに行ったことがないフランス研究者」ということになるわけです(笑)。そういう意味で、財務省に出向できるポジションは、とても有益だと思いますが、何年間もフルコミットをするのは大変だし、ポジション自体の数も少ないので、もう少し中間的なコミットメントで、そういったメリットを感じられるようなポジションを増やしてもらって、「フランスに行ったことがあるフランス研究者」が増えると良いのではないかと思います。
行政とアカデミアの協働が今日のテーマですけれども、「財政学者が全分野の経済学者と行政の間の通訳になる」というくらいの気持ちを持たないといけないと考えています。ですから、霞ヶ関の側も、財政学者を積極的に受け入れて、行政がどう動いているのかを見せる機会を増やしてほしいと思います。
(上田)
ありがとうございます。本日の議論では、いくつか重要なキーワードをいただいたと思っています。
財政学が「国家経営の学である」ということを前提にしつつ、それを若い人たちに真剣に考えてもらえるような場を作るために必要なこととして、オープンクエスチョンをきちんと提示すること、あるいはインタラクションのためのインターフェイスや接点をより多様な形で持つことの重要性が、共通して議論されてきたと思います。その上で、できる限り幅広く問題関心を共有し、それぞれの利害を踏まえつつ一致して協力できる点を見出していくことが重要であると思います。
改めまして、本日はパネリストの皆様に有益なご示唆をいただきましたことに、感謝を申し上げたいと思います。誠にありがとうございました。
財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html
~財政研究における行政機関とアカデミアの協働~(後編)
財務総合政策研究所総務研究部 主任研究官 大西 宏典
2025年5月に、財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)の前身となる大蔵省財政金融研究所が設立されてから40周年を迎えました。今回のPRI Open Campusでは、前回に引き続き、日本財政学会第82回大会(日程:2025年10月25日・26日、会場:龍谷大学深草キャンパス)で開催した財務総研設立40周年記念セッション「財政研究における行政機関とアカデミアの協働」におけるパネルディスカッションの内容をお届けします。なお、本文の内容は全て発言者個人の意見であり、所属機関等の見解を表すものではありません。
1.登壇者プロフィール
上田淳二(モデレーター)
財務総研副所長
京都大学経済学博士。1994年東京大学経済学部卒、大蔵省入省。財務省主税局調査課税制調査室長、京都大学経済研究所准教授、IMF財政局審議役、財務総研総務研究部長等を経て、2024年から現職。主な著書に『動学的コントロール下の財政政策』等。
石川智久
日本総合研究所調査部長/チーフエコノミスト
1997年東京大学経済学部卒、住友銀行入行。日本総合研究所、日本経済研究センター、三井住友銀行、内閣府等を経て、2023年から現職。主な著書に『「金利のある世界」の歩き方』、『大阪 人づくりの逆襲』等。専門はマクロ経済・経済政策。
宇南山卓
京都大学経済研究所教授
2004年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学、京都大学、神戸大学、一橋大学等で教鞭をとった後、2020年より現職。主な著書に『マクロ経済学の第一歩』、『現代日本の消費分析』等。専門は日本経済論・家計行動・経済統計。
土居丈朗
慶應義塾大学経済学部教授
1999年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員、慶應義塾大学准教授等を経て2009年から現職。主な著書に『地方債改革の経済学』、『入門 財政学』等。専門は財政学・公共経済学。
宮本弘暁
財務総研総括主任研究官
2009年ウィスコンシン大学マディソン校にて博士号(経済学)を取得。IMF財政局エコノミスト、東京都立大学経済経営学部教授、一橋大学経済研究所教授等を経て、2024年より現職。主な著書に『日本の財政政策効果』、『私たちの日本経済』等。専門はマクロ経済学・労働経済学・日本経済論。
2.行政とアカデミアの人的交流を進めるために何が必要か?
(上田)
パネリストの皆様からの発表では、行政とアカデミアの協働を進めるために、人材のインタラクションが重要であるというお話が多かったように思います。もちろん、既存の仕組みの中でも様々なインタラクションは行われていますが、それが活発であると言えるまでの状況にはなっていないと思います。そうした状況を、どうすればブレークスルーすることができるとお考えでしょうか?
(土居)
行政の側から、もっと研究ニーズを示してほしいと思います。例えば、行政からのリクエストを財政学会で受けて、「こういう研究をしてほしいというリクエストがあるけれども、関心がある会員は、一度集まってディスカッションをしませんか」というような声掛けを行い、その場に研究者も行政官も一緒に集まってディスカッションをする、というようにネットワークを強化していく余地はあるのではないかと思います。
その中から、「このテーマであれば、この先生が関心を持っていて、このタイミングならば、一緒に仕事ができますよ」とか、「こういう分析ならば、私が引き受けますよ」というような事例が出てくれば、財政学会の会員も関与する形で、行政とアカデミアのコラボレーションを進めていくことができるのではないかと思います。
(上田)
宇南山先生からは、行政とアカデミアの「フォーマット」の違いを理解する必要がある、というお話があったかと思います。「フォーマット」を知る機会がないままに、お互いに顔を合わせると、異質な者同士で、協働する前に考えがぶつかりやすいということは、良くあるように思います。
(宇南山)
「フォーマット」の違いは非常に重要で、研究者は行政官の行動原理を理解していないし、行政官も研究者の行動原理を理解してないのではないかと思います。ですから、土居先生のような方が、「行政のフォーマットはこういうものだ」、「このレベルの会議ではこういうトピックに言及しないといけない」といった情報を発信していくことは、とても重要だと思います。
また、反対に行政の側は、研究者の行動原理や、研究者が何を重要なトピックと考えるか、何を業績とみなすか、といったことを理解していないように感じます。先行研究が存在していて、学会では決着のついているようなトピックであるにもかかわらず、「これは重要な案件なのに、なぜ研究者は関心を寄せないのか」というようなことを言われると、「いや、そういう問題じゃないんですよ」と言い返したくなります。
ですから、行政官が大学への出向等の機会を通じて、研究者の行動原理を理解する機会をもっと作るべきだと思います。その中で、財政学会を行政官のトレーニングの場として、活用できると良いのではないでしょうか。例えば、行政官の方が学会で報告したら、その内容がいかにアカデミックに評価できないかを突きつけるようなトレーニングが必要なのではないかと思います(笑)。
(宮本)
お互いを知る機会をなるべく増やすことは大事だと思いますが、特に若い研究者の方々は、行政と接点を持つ機会があるということを、そもそも知らないのではないかと思います。土居先生や宇南山先生のような、行政との接点が多い先生の指導を受けていれば、そういった道もあるということが分かると思いますが、そうではない場合は、そもそも財務省で働く機会があるとか、どうすれば採用されるか、といった情報に触れる機会が全くないのではないかと思います。
ですから、行政の側には是非、若い研究者との接点を増やし、積極的な情報提供を行ってほしいと思います。例えば、若手研究者を集めて、政策の動向や、どういったことがイシューになっているのかを紹介し、ディスカッションをするような場が、年に数回あるだけでも状況は変わると思います。そういったことを通じて、徐々にお互いの理解を深めていくことが大事だと思います。
(上田)
そういった場をファシリテートする役割を、どのような人たちが担っていくのが良いでしょうか?
(石川)
どこの世界にも通訳的な人材がいますので、そういった人材を見つけることが重要です。私が内閣府に出向していた時も、研究者の先生に説明する役割が回ってくることが多かったのですが、それは、個人的にも研究者の方々との付き合いがある程度はあって、日本総研の中にもそういった組織的な経験の蓄積があるので、私が通訳的な役割に適していると思われたからだと思います。
もしかすると、通訳的な人材が見つからない、ということもあるかもしれませんが、そういう場合は人材を育成する必要があります。ある程度は強制的に、色々な人にどんどん会わせていって、「10人中1人が当たれば良い」くらいの発想で、人材育成にチャレンジしていくことも大事だと思います。
(宮本)
アカデミアのことを理解している行政官の方が増えてくると、ファシリテーターとして適任ではないかと思います。例えば、財務省の中にも、海外や国内の大学院で経済学の博士号・修士号を取得している方が数多くいらっしゃいますが、実際に研究経験のある行政官の方とお話をすると、驚くほど研究能力が高かったり、色々なことをご存知だったりします。
ですから、宇南山先生のお話にもありましたが、霞ヶ関の中でも、行政官の方に研究者としてのトレーニングを受ける機会をもう少し増やしてあげると良いのではないかと思います。
(上田)
行政官のリテラシーを上げるためのトレーニングとして、学会に参加することは重要だと思います。行政官に対して、そのインセンティブや魅力を、どうすれば伝えることができるでしょうか?
(土居)
私はかつて、財務省内の私的な勉強会に参加していましたが、そういったインフォーマルなディスカッションの場を行政の中に作るということは、既にある程度は行われていると思います。
それよりもむしろ、学会の側にそのような場がないのではないかと思います。特定の研究をフィーチャーするような研究発表の場ではなく、ディスカッションの場を学会が作ると、行政官にとっても学会参加のインセンティブが出てくるのではないかと思います。
財務省に引きつけてお話をすると、様々な審議会等の場で政策の議論をするニーズがあった時に、いきなり研究業績のリストだけを見て、「この人はこういう人だから呼ぼう」というようには進まないと思うので、やはりface-to-faceでディスカッションを行う場をもっと作って、継続的に行政官と研究者が顔を合わせていくことが重要だと思います。
(上田)
行政官と研究者が顔を合わせる場において、行政官は「何を話せば良いのだろうか」、「どうすれば研究者の方々とのコミュニケーションのきっかけを掴めるのだろうか」というような悩みに直面すると思いますが、どのようにテーマ設定をすると、コミュニケーションを円滑に進められるのでしょうか?
(宇南山)
私が常々思っているのは、行政は「偉い先生」を呼びすぎるということです。一般論として、大御所の先生は、行政に対して親切に対応するインセンティブが少ないと思います。
その意味で、もっと若い大学院生やポスドクの研究者を積極的に呼んだ方が良いと思います。かつ、「手弁当で財務省まで来てください」と言われても、誰も来ないと思いますので、きちんと謝金を払った上で、お互いに言いたいことを言い合える、対等な関係を築くことが重要だと思います。
ですから、大所高所から全てを理解した人を呼ぶ場を作るというよりは、若い人同士で、お互いに対等に話せる関係を作るべきではないかと思います。
(宮本)
私も同感でして、世代の近い人同士で議論できる場があると、ラフな形で本音の議論ができるのではないかと思います。
また、研究者には研究者の強みがあり、行政官には行政官の強みがあるので、敢えて行政官の方が研究者のフィールドで研究発表をするとか、逆に研究者が行政官に合わせるというよりは、お互いの強みを活かして、両者が忌憚なく議論できる場を作ることが、やはり重要だと思います。
行政官が、今どういうふうに国の政策が動いていて、何が問題なのか、自身の考えを研究者にぶつける。研究者は、「こんな研究をしているけれども、何か役立てることはないのか」とぶつけて、相互の落としどころを探っていく。そういうプロセスを継続していけば、どこかで必ずコラボレーションが起きるのではないかと思います。
(石川)
やはり若手の研究者の方が、自分の名前を売っていきたいという気持ちもあったり、自分の考えていることを行政に言いたいけれどもそのチャンネルがないと思っていたりするので、まずはそういった方をピックアップしていくと良いと思います。
また、どの分野にもネットワークが広い人が必ずいるので、そういう人を見つけることも重要だと思います。良い研究をする人が、必ずしも友達が多いわけではないですし、逆に研究はそんなに良くないけれども、友達は多い人というのもいますので(笑)、そういった人を、アカデミアからでもシンクタンクからでも、見つけられると良いのではないかと思います。
3.財政研究の未来のために何が必要か?
(上田)
日本では、少子高齢化のトレンドの中で、若者の数が減っているという状況もあり、財政研究に取り組もうとする若い研究者の数が必ずしも多くないように見受けられます。また、財務省自身も採用に苦労しているという状況もあるわけですが、財政研究が、若い人にとって魅力的に映り、財政の分野で財務省の人たちと力を合わせて研究をやっていこう、と思ってもらえるようなインセンティブを、どうすれば作り出せるでしょうか?
(土居)
私も学部で財政学のゼミをやっていますが、最近は税制を研究したいというゼミ生がほぼゼロで、税制よりも地方創生の政策を考えたいというようなゼミ生が多くなっています。私も地方財政の話はできますけれども、「それにしても、税をやりたい人はいないのかな」と思っています。
昨今は、財政のトピックに若い人が関わると、友達に好感を持ってもらえない、というような変な風潮があるようです(笑)。一方で、コンサルティング会社に就職したがる学生が多くいるというのは、「まだ捨てたものではない」と思います。
つまり、行政が何らかの施策を講じるということに対して、アドバイスをするという仕事に魅力を感じる学生が多くいるわけですから、彼らに対して、「財政全体のことも視野に入れてコンサルティングをしないと完結しないよ」と、財政に関心を持ってもらうよう、上手に関心を引き出すということが、必要なのではないかと思います。
(宇南山)
財政研究に取り組む若い人が少ないというのは、私も感じています。その理由は非常に端的な話で、財政、特に日本の財政を研究しても、なかなか業績にならないからだと思います。因果推論のような高度なテクニックが使えるわけではなく、標準的なデータで標準的な分析しかできないとなると、論文にすることが難しいわけです。「論文にならない=就職もできない」と思えば、若手が取り組むのはハードルが高いと思います。
しかも、日本の財政の研究をしているのは、私も土居先生もそうですが、国内の大学院を出ている研究者が多いです。最近の若い世代には、「海外のPh.D.を取って、海外のトップジャーナルに論文を載せることこそが研究だ」という風潮があるので、それを乗り越えるためには、やはり日本のことを研究している人をもっと評価するような文化が必要です。
日本の大学院を出て、日本のことを研究している研究者の多くは、地方の大学にいます。ですが、財務省も他の省庁も、東京にいない研究者のことは、あまり相手にしていないように見受けられます。旅費も掛かるし、色々と面倒だとは思いますが、地方の研究者、特に若い研究者に対して、そうした研究をやっていれば、ポストや研究費が得られるし、政府のプロジェクトにも参加しやすい、というようなレピュテーションを、積極的に作っていくことが大切だと思います。
(宮本)
若い研究者を財政研究に呼び込む上で、行政データの活用は非常に強い武器になると思います。輸出入申告データですとか、税務データですとか、とても貴重なマイクロデータを行政機関は持っていますので、そういったデータに研究者がアクセスできるようになると、研究の裾野を大きく拡げることができると思います。
私も財務総研で話を聞いていると、「こんなに凄いデータがあるのか」と驚くようなデータです。これを使えば、海外の学術誌に載るような論文をどんどん書ける、という宝の山がありますので、これは若い研究者にとって、とても魅力的な材料になるのではないかと思います。
また、私も英語で学術論文を書いてきた立場ではありますけれども、最近は日本語でも論文を書いたり、一般向けの書籍を書いたりというように、少しずつスタンスを変えています。やはり日本で経済研究をする上では、日本のことを分析して、情報発信をしていくことが、とても大事だと考えているからです。
かつては、そういった研究もたくさんあったと思いますが、日本が直面している様々な問題、それは財政の問題だけではなく、例えば少子高齢化の問題もありますけれども、他国がこれから直面する問題に我々はフロントランナーとして直面しているわけですから、その経験を学術的な知見として蓄積・発信していくことは、将来的にはアカデミアの世界でも役に立つはずで、もっと日本の研究を積極的に行っていくべきだと思います。
(石川)
土居先生のお話にもありましたが、日本の公共を良くしたいという若者は、今もたくさんいると思います。日本総研はシンクタンクやコンサルティングの会社ですけれども、本当に優秀な若者に来ていただいています。行政から民間企業へ移る方も増えていますが、そういった方々も、民間に行った後も「日本を良くしたい」という気持ちを持ち続けている方が多いと思います。
ですから、学生に対して、「財政学は世の中を良くするための学問である」ということを、もっとアピールしていくと良いのではないかと思います。また、財政学の面白さというのは、実は社会人になってから分かるという側面もあって、実際に働くようになってから、財政や補助金、社会保障といったものの仕組みや重要性に気づくことも多いと思いますので、社会人が大学院で財政学を学べるようなパスを、もっと増やせると良いのではないかと思います。
4.これからどのような研究テーマに取り組むべきか?
(上田)
財政研究の魅力を高める上で、今後どのような研究テーマに取り組めば良いか、具体的なサジェスチョンを伺いたいと思います。財務総研は今年で40周年、10年後には50周年ということになりますが、50周年をどのような姿で迎えるべきか、というところからバックキャストをして、これからの10年間、どういった研究テーマに取り組んでいけば良いでしょうか?
(土居)
宇南山先生が仰ったように、最近は因果推論の論文が非常に増えていますが、財政・税制に関して、因果推論に向いているような制度改革等についての知見は、むしろ現場の行政官の方が持っているように思います。研究者はそうした知見をあまり持っておらず、分析手法は身についているけれども、分析対象を選ぶ際に、財政・税制の仕組みを詳しく知らないので、研究テーマには選びづらいという状況なのではないかと思います。
それに比べると、労働関連のデータは豊富にあるし、特に女性研究者は女性労働について大変詳しく調べて分析をするし、ということで、今や財政学者よりも労働経済学者の方が、税制についてどんどん研究成果を出しているという皮肉な状況になっています。しかも、彼らは財源を考えなくとも構わないので、例えば、「配偶者控除にはこういう効果がありました」ということだけを言えば良いわけです(笑)。
そういう観点で、まず願わくは、政策現場から「こういう制度改正をしているけれども、因果推論ができないだろうか」というような、オープンクエスチョンを提供していただいて、それに飛びつく研究者がいれば、一緒にそのテーマに取り組んでいけば良いのではないかと思います。
(宇南山)
研究者が常日頃から不満に思っていることとして、財務省がすぐに「選択と集中」というテーゼを出して、研究テーマを決めようとする、ということがあります。「そんなものは決まるはずがないじゃないか」というのが研究者のスタンスですから、今後どういう研究テーマに取り組むべきか、という問いに対する私の答えも、「それを問うてはいけない」というものです。
先に研究テーマを決めるのではなく、行政官と研究者が、お互いに重要だと思う問題を常に共有できていて、それが実際に研究される。10年後にそういった姿になっていれば、とても素晴らしいことだと思います。
(宮本)
私はIMF(国際通貨基金)で「財政エコノミスト」という仕事を拝命していました。ある国を担当するカントリーチームに入って、その国の財政を分析してほしいと言われたのですが、その時に私に来たアサインメントは、財政のことだけではなくて、「教育分野もあなたの担当だ、気候変動もそうだ、労働もそうだ、マクロの成長もそうだ」と、結局全ての分野を担当させられました。なぜかと言えば、財政というのはありとあらゆる分野に関わってくるテーマだからです。
土居先生の財源のお話がまさにそうだと思いますが、財源のことを考えつつ、教育はどうすれば良いのか、医療はどうすれば良いのか、というように、多岐にわたる分野について考えないといけないのが、財政だと思います。そういう意味で、実はどのような分野でも分析できるというのが、財政研究の魅力なのではないかと思います。
(石川)
私も内閣府で財務省と一緒に「骨太の方針」を取りまとめましたが、宮本先生の仰る通り、国がお金を使うものは全て財政の領域なので、財政研究もかなり間口が広いのではないかと思います。ですから、「財政×〇〇」というように、異分野をどうやって掛け算していくかが、鍵になるのではないかと思います。
現在の財政学はやや視野が狭まっているように思うので、敢えて異分野の人との共同研究を進めることも重要だと思います。例えば「財政×スタートアップ」でも良いですし、「財政×文化」でも良いので、オープンイノベーションのような形で、財政学会を盛り上げていけると良いのではないかと思います。
少し話が逸れますけれども、OIST(沖縄科学技術大学院大学)という、最先端の研究成果をどんどん出している大学がありまして、そこが面白いのは、昆虫を研究している人の横にコンピューターサイエンスの人がいて、その横に量子力学の人がいるわけです。要するに、全く違う分野の人が隣にいて、そこで議論をすることで、新たなものが生み出されるという構造になっています。
ですから、財政学会も、実験的かもしれませんが、どんどん新しい分野を取り入れていくことが重要かと思います。今回のセッションのように、会員と非会員で議論をするというような機会を増やしていくと、自ずとそのモメンタムがつくのではないかと思います。
5.フロアとのディスカッション
(上田)
最後に、限られた時間ではありますが、フロアの皆様からコメントがあれば伺いたいと思います。
(フロア参加者)
アメリカでは、研究者が行政機関の幹部としてアサインされるというケースも多いですが、研究者の皆様から見て、日本の行政機関に直接的に参入するということを考えた時に、どういったことがネックになるとお考えでしょうか?
(宇南山)
私に行政官としての仕事ができるか、と問われれば、恐らくできません。それは、経済学の知見しか持っていないので、具体的な政策を考える時に、経済学的な話しかしないのでは、適切な政策を選ぶことはできないだろうと思うからです。また、部下のマネジメントもできませんので、研究者をそのまま行政官として活用するというのは、多くの場合、無理があるのではないかと思います。
(石川)
私は内閣府へ出向した時に、比較的すんなりと適応することができました。その要因は、私が銀行に勤めていた時に、金融庁の方と法改正等の仕事を一緒にやっていたことがありまして、その時に行政官の仕事に対するスタンスとか、行政法といったものに触れていたからだと思います。実際に行政のオペレーションに参加するとなると、法律や行政自体に関する知識が不可欠なので、例えば、若い時に1年間くらいでも、法改正に関わるというような経験を積めると良いのではないかと思います。
(フロア参加者)
私もかつて、当時の大蔵省財政金融研究所に勤めていましたが、私にとっては、霞ヶ関の動き方を間近に見ることができた、というのが一番大きなメリットでした。例えば、マクロ経済学者が日銀に入って働くという場合は、マクロ経済は日銀の外にある分析対象ですけれども、財政学者が財務省に入った場合は、研究対象そのものの中に入ることになるので、他所とは全く違う経験ができると思います。
裏を返せば、霞ヶ関を研究するのに、霞ヶ関に行ったことがないというのは、「フランスに行ったことがないフランス研究者」ということになるわけです(笑)。そういう意味で、財務省に出向できるポジションは、とても有益だと思いますが、何年間もフルコミットをするのは大変だし、ポジション自体の数も少ないので、もう少し中間的なコミットメントで、そういったメリットを感じられるようなポジションを増やしてもらって、「フランスに行ったことがあるフランス研究者」が増えると良いのではないかと思います。
行政とアカデミアの協働が今日のテーマですけれども、「財政学者が全分野の経済学者と行政の間の通訳になる」というくらいの気持ちを持たないといけないと考えています。ですから、霞ヶ関の側も、財政学者を積極的に受け入れて、行政がどう動いているのかを見せる機会を増やしてほしいと思います。
(上田)
ありがとうございます。本日の議論では、いくつか重要なキーワードをいただいたと思っています。
財政学が「国家経営の学である」ということを前提にしつつ、それを若い人たちに真剣に考えてもらえるような場を作るために必要なこととして、オープンクエスチョンをきちんと提示すること、あるいはインタラクションのためのインターフェイスや接点をより多様な形で持つことの重要性が、共通して議論されてきたと思います。その上で、できる限り幅広く問題関心を共有し、それぞれの利害を踏まえつつ一致して協力できる点を見出していくことが重要であると思います。
改めまして、本日はパネリストの皆様に有益なご示唆をいただきましたことに、感謝を申し上げたいと思います。誠にありがとうございました。
財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html

