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フロンティア市場は次世代の成長エンジンか:経済成長の軌跡と今後の見通し
世界銀行グループ シニアエコノミスト 田中 豪*1

1 はじめに
 筆者は 2023年8月より世界銀行グループで勤務し、マクロ経済分析に従事している。2026年1月、筆者が共著者を務めたレポート『フロンティア市場国:これまでの期待、成長の軌跡、今後の見通し(Frontier Market Economies:Promises, Performance, and Prospects)』(以下、本レポート)が『世界経済見通し(Global Economic Prospects)』(以下、GEP)*2の一部として公表されたことから、本稿では、その主な内容を紹介したい(図表1 世界銀行グループ『フロンティア市場国:これまでの期待、成長の軌跡、今後の見通し』*3)。

2 フロンティア市場国とは
 「フロンティア市場国(frontier market)」は、先進市場国(advanced/developed market)や新興市場国(emerging market)と対置され、これらの地域には及ばずとも、株式や債券の発行等を通じた国際金融市場からの資金調達を一定の水準で行っている国・地域の総称として用いられている。用語の起源は、世界銀行グループの中で民間セクターの支援に特化した国際金融公社(IFC)が、新興市場国に次いで成長が期待される国々を表すために1990年代初頭に生み出したことにさかのぼる。以来、本用語は、新興市場国より未成熟ではありつつも、経済成長のポテンシャルが高い国々を示す形で金融業界で広く使われるようになっていったが、研究という観点では、このフロンティア市場国を一つのグループとして捉えたマクロ経済分析は少ないことから、今般、このグループに光を当てることとした。
 先進市場国、新興市場国、フロンティア市場国という分類は、金融市場の参加者の認識に依るところが大きく、その認識の醸成にあたっては、主要なインデックス提供機関の分類が重要な役割を果たしている。インデックス提供機関は、各国の金融市場の大きさや発展度合いを踏まえて各国を分類しているが、その分類は機関間で常に一致するわけではないことから、本レポートでは、複数のインデックス提供機関の中で、より多く利用されている分類を金融市場での多数派意見として採用することとした。具体的には、先進国を除いた、GEPの主要な分析対象である新興国・開発途上国(emerging market and developing economies)について、新興市場国、フロンティア市場国、その他の開発途上国の3つに分類している(分類の詳細については、コラム1を参照)。
 2012年時点の各インデックス提供機関の分類に基づくと、150余りの新興国・開発途上国は、新興市場国として34、フロンティア市場国として39、その他の開発途上国として80の国・地域に分類される。フロンティア市場国は地理的に多様で、世界銀行グループの事業対象である6地域すべてにまたがっている(図表2 フロンティア市場国の地域的広がり)。
コラム1 フロンティア市場国の分類
 世界銀行グループの分類で、新興国・開発途上国(emerging market and developing economies)とされる国・地域について、本レポートでは、主要な株式インデックス提供機関3社(FTSE Russell、MSCI、S&P Dow Jones Indices)と債券インデックス提供機関1社(J.P. Morgan)に基づき、以下の3タイプに分類している。
・新興市場国*4:3つの株式インデックスの中で、フロンティア市場国よりも新興市場国と見なすインデックスの方が多い、または、世界銀行グループの分類で高所得国に分類される国・地域
・フロンティア市場国*5:3つの株式インデックスの中で、新興市場国よりもフロンティア市場国と見なす株式インデックスが多い、または、大規模なドル建て対外債券を発行している(J.P. Morganの新興市場国債券インデックス(EMBI)に採用されている)ものの新興市場国またはフロンティア市場国として3社の株式インデックスには含まれていない国・地域
・その他の開発途上国*6:いずれのインデックスにも登場せず、高所得国でもない、残りの国々
 フロンティア市場国と新興市場国の数には変動がある。GEPで分析対象としている150余りの新興国・開発途上国のうち、2025年時点のインデックス機関の分類に基づくと、合計56のフロンティア市場国が特定されたが、これは2012年時点の39から増加している。この近年の増加は、これまで未分類だった国(本レポートでは、その他の開発途上国に分類)が、フロンティア市場の株式インデックス、または、より頻繁には大規模な国債発行の結果としてJ.P. Morganの債券インデックスに追加されたことを反映したものである。
 加えて、フロンティア市場国と新興市場国の間での分類にも変動がある。2012年以降、株式インデックス提供機関によってフロンティア市場国から新興市場国に再分類された国はないが、FTSE Russellは2026年にベトナムをフロンティア市場国から新興市場国へ格上げすることを予定している。さらに、本レポートの分類法の下では、4か国のフロンティア市場国(ブルガリア、コスタリカ、パナマ、ルーマニア)が2012年以降に高所得国の地位に達したことで、新興市場国となった。

3 フロンティア市場国の経済的特徴
 フロンティア市場国の一人当たり所得にはばらつきがあるものの、その大半が中所得国*7であり、新興市場国よりも所得が低い。今日のフロンティア市場国は、すでに世界人口の5分の1を占めており、この割合は今後大幅に増加すると予測されているが、世界のGDPに占める割合は、わずか5%程度に留まっている(図表3 GDPと人口の世界全体に占める割合)。
 経済構造から見ると、約半数が一次産品輸出国であり、その多くは化石燃料や鉱物資源、農産物である。他方で、フロンティア市場国全体でみると、多様な成長モデルが示されている。
 各国をフロンティア市場たらしめる特徴は、国際金融市場からの一定の資金調達であるが、その点を示すように、フロンティア市場国は、金融市場の開放を進めてきた。金融市場の開放性を法律上(de jure)の尺度で見ると、2000年には、その他の開発途上国と同等の水準にとどまっていたが、2020年代までに、新興市場国との差を急速に縮めている(図表4 法律上(de jure)の金融市場の開放性)。
 その結果、国境を越えた資本フローも増加しており、例えば、フロンティア市場国の対外証券投資の負債残高は、21世紀に入ってから対GDP比で3倍以上の伸びを示した(図表5 対外証券投資の負債残高)。

4 フロンティア市場のポテンシャルと課題
 豊富な天然資源、人口ボーナス、国際金融市場へのアクセスが、フロンティア市場国の経済成長のポテンシャルを支える基盤となっている。フロンティア市場国は、様々な指標で新興市場国には後れを取っているものの、その他の開発途上国には優位性を有している。具体的には、2050年にかけて、その人口が世界の他の地域全体を上回る勢いで増加すると予測されており、人口ボーナスの恩恵を生かせる立場にある。そのうえ、同様の恩恵が期待できるその他の開発途上国と比較しても、公衆衛生や教育の水準が高く、金融市場の開放も進んでいる。さらに、フロンティア市場国は、主要な国際株式・債券インデックスに既に含まれており、インデックス投資戦略を通じた直接的なものを含め、国際的な資本フローを引き付ける上でも有利な立場にある。
 フロンティア市場国が、こうした経済的ポテンシャルを完全に発揮するには、大規模な投資が必要であり、開発途上国一般に言われるように、国内での貯蓄が不十分であれば、国際金融市場を通じた金融アクセスの拡大が鍵となる。実際、新興市場国やフロンティア市場国においては、海外からの資本フローが大きく流入するとGDPも高い成長率を示し、反対に資本フローが停止すると、経済成長も鈍化する(図表6 海外からの資本フローとGDP成長率)。同時に、海外からの投資は危機時において逃避も早く、資金フローのボラティリティがマクロ経済運営上の課題となるおそれもある。この点、フロンティア市場への証券投資は、先進国や新興市場国よりもボラティリティが高いことが分かっている。
 こうした相応の経済成長ポテンシャルにも関わらず、フロンティア市場国全体でみると、経済成長は限定的な水準にとどまっている。フロンティア市場国のGDP成長率は、他の地域よりも大きく減速し、2000年代の5.0%から2020年代前半には2.5%へと半減した(図表7 GDP成長率)。その結果、2000年代に新興市場国を上回っていた経済成長率も、2020年代前半にかけて、その差が徐々に縮小している。
 一般に、新興国・開発途上国の成長エンジンと言われるのは、投資であるが、フロンティア市場国が持つポテンシャルに比べると、伸び悩んでいるように見える(図表8 一人当たりの資本ストック)。フロンティア市場国の一人当たりの資本ストックは、21世紀に入り、60%強の伸びを示しているが、新興市場国やその他の開発途上国よりも、小さい伸びとなっており、これは、急速とまではいえないフロンティア市場国の経済成長の水準とも整合的である。
 こうした状況の中、フロンティア市場国が高所得国に追いつくペースも鈍化している。特に、フロンティア市場国はパンデミック後の景気回復が遅れており、その4割が、2020年以降、中所得国から高所得国と変わる所得水準*8から徐々に引き離され、高所得国入りの道のりから遠ざかっている(図表9 高所得国入りする所得水準から遠ざかっているフロンティア市場国の割合)。
 フロンティア市場国における貧困率は、2000年以降、半減したものの、新興市場国の約5倍という高水準にあり、過去10年間では改善のペースが鈍化している。一方で、平均寿命は延びており、教育水準など他の人的開発指標は改善している。
 フロンティア市場国たらしめる資金調達の方法として、多くの国が国際金融市場で大規模に国債を発行している。2025年時点で、フロンティア市場国の4分の3以上(56か国中43か国)がJPモルガンのグローバル債券インデックスに採用されている。フロンティア市場国の国債発行額の対GDP比は上昇しており、中央値で新興市場国の約2倍の水準にある。
 政府債務は、世界全体で増加しているが、フロンティア市場国で特に顕著になっている(図表10 一般政府債務残高)。歳入の対GDP比は横ばいで推移している一方、歳出は増加しており、財政収支の悪化が観察される。
 無論、債務の増加それ自体が問題ではなく、投資に回ることで、生産性が向上し、経済成長に繋がるのであれば望ましい。他方で、フロンティア市場国の債務構成は潜在的な脆弱性を示しており、例えば、一般にリスクが高いといわれる、一般政府の外貨建て債務や、官民を合わせた短期債務がフロンティア市場国で急増している。また、足元、フロンティア市場国では国家による債務不履行(ソブリンデフォルト)の件数も増加している。実際、2020年以降の5年間で、フロンティア市場国は、世界の他の地域全てを合わせたよりも多くの債務再編を経験し、過去四半世紀を振り返っても、フロンティア市場国の約4割がデフォルトを経験している。
 財政面以外においても、フロンティア市場国がポテンシャルを十分に生かしていくための課題が残されている。国内金融市場は相対的に規模も小さく、銀行の貸出金利と預金金利のスプレッドは新興市場国よりも大きいうえ、株式市場の規模も依然として小さいままである。また、インフレ率が高く、その変化幅も大きい傾向にある。その一因は、変動の大きい為替レートからのパススルーにある。財政拡大や外貨準備高の活用といった政策余地が限定的であり、ガバナンスや政策枠組みの信任にも課題があるため、企業や投資家にとっての不確実性が高まり、資金調達コストも上昇し、ショックの悪影響も増幅されやすい。結果として、投資の伸び悩みにも繋がっている。
 その一方で、個別にフロンティア市場国を見ていくと、他国よりも急速に経済進展を遂げた国々も存在する。成功への道筋は多様であり、例えば、本レポートでケーススタディとして取り上げた国の中でも、カザフスタンはエネルギーセクターへの投資、ベトナムは付加価値の高い製造業、ルワンダは観光を含むサービス業を通じて成長を追求してきた。その一方で、高成長を遂げたフロンティア市場国において、いくつかの共通点も浮かび上がる。過去25年間に一人当たりGDP成長率の平均が最も高かったフロンティア市場国では、その他のフロンティア市場国と比べて、投資の増加が顕著であった(図表11 フロンティア市場国の経済成長率と投資増加率)。また、ガバナンスの改善が進み、銀行の貸出コストも引き下げられている。さらに、これらの高成長国では、政府債務の増加も抑制されている。

5 フロンティア市場の今後
 フロンティア市場国は、全体でみると、高い期待に比して、実際の経済成長は伸び悩んでいるようにみえるが、引き続き大きなポテンシャルを有している。実際、力強い成長の基盤となる投資を呼び込むにあたっては、その他の開発途上国と比較しても有利な立場にある。他方で、金融市場のアクセス拡大に伴い、世界経済との統合が進むと、先進国の景気循環や、グローバルな資本フローの影響を受けやすくなるといったリスクも高まることになる。それゆえ、フロンティア市場国は、金融アクセスの拡大に伴う便益を活用しながら、そのリスクを最小化していくことが重要と言える。
 具体的には、多面的な政策アプローチが必要不可欠になる。まず、金融アクセスの拡大とそれに伴うリスクへの対処に向けては、国内の金融市場の機能改善や当局の監督能力の強化、政策余地の確保が挙げられる。こうした取組みは、同時に、マクロ経済の安定や政策の信認向上、ガバナンスの強化に繋がり、企業や投資家にとっての不確実性を限定することで、投資拡大の一里塚となる。加えて、インフラを含めた物的資本や人的資本を強化し、構造改革を進めていくことにより、国内でビジネス機会を創出していく鍵となる。さらに、こうした多面的な取組みにより、高い収益率が期待される投資機会が創出され、持続的な生産性向上と雇用創出に繋がれば、力強い経済成長が近づくだろう。
コラム2 「世界経済見通し(Global Economic Prospects)」とは
 GEPは、世界銀行グループのフラッグシップレポートとの位置付けの下、毎年1月と6月に公表される経済レポートの一つである。定型のフォーマットがあり、近年は、前半の2章においては、第1章は世界経済全体を、第2章は各地域を対象として、一般にサーベイランスと総括される内容(直近のマクロ経済動向や経済見通し、リスク、政策課題等)をまとめている。後半の2章は、時宜に叶うテーマに関する深度のある分析を特徴としており、最新の2026年1月号においては、第3章で財政ルールを、第4章でフロンティア市場国を取り上げている。なお、GEPの作成過程の詳細については、『世界銀行における世界経済見通しの作成・ポイント』(ファイナンス2023年3月号、稲見修・著)を参照されたい。
 以下、2026年1月号で公表された経済見通しの主な内容を紹介したい(図表12 GEP(2026年1月号))。
 世界経済の成長率は、2025年の2.7%を経て、2026年は2.6%に減速した後、2027年には2.7%に回復する見込みである。これは、長引く貿易摩擦や政策の不確実性にもかかわらず、世界経済が予想以上に強靭だったことを反映しており、昨年6月時点の予測に対して、それぞれ+0.4ポイント、+0.2ポイント、+0.1ポイントの上方修正が加えられた。2025年・2026年の修正は、アメリカ経済の上方修正の影響が大きい(図表13 世界経済見通し改定の内訳)。
 こうした足元での上方修正にも関わらず、長期的には、世界全体で経済成長は鈍化しており、2020年代は世界経済の成長率が1960年代以降で最も低い10年になるとみられる。この景気減速のトレンドは、特に途上国において顕著であり、パンデミックによる経済的な影響からも未だに立ち直れていない。国民一人あたりの所得は、2025年末の時点で、ほぼすべての先進国で2019年の水準を上回った一方で、約4分の1の途上国、半数弱の低所得国では依然として下回ったままである。
 こうした途上国の景気減速トレンドが続けば、今後10年間で12億人の若者が生産年齢に達する開発途上国での雇用創出はさらに難しいものとなる。雇用創出に向けては、第一に、物的資本、デジタル資本、人的資本の強化、第二に、企業の成長に向けたビジネス環境の改善、第三に、投資を支えるための大規模な民間資本の動員が不可欠といえる。こうした施策を組み合わせることで、より生産的でフォーマルな雇用に転換し、所得の増加と貧困削減に繋げていくことが期待される。加えて、公的債務と民間債務ともに過去最高水準に達するとみられ、債務返済コストの上昇によって損なわれてきた財政の持続可能性の回復も急務と言える。
*1) 開発経済総局・経済見通し局に所属(Prospects Group, Development Economics Vice Presidency)。本稿はすべて筆者の個人的見解であり、所属又は関連する組織を代表するものではない。
*2) GEPの概要については、本稿末尾のコラム2を参照。
*3) 本レポートは下記URLからダウンロード可。本稿での図表は、全て本レポートから引用している。
https://www.worldbank.org/en/research/publication/frontier-markets
*4) 2012年時点で以下の34か国・地域:アラブ首長国連邦、アンティグア・バーブーダ、インド、インドネシア、ウルグアイ、エジプト、オマーン、カタール、クウェート、クロアチア、コロンビア、サウジアラビア、赤道ギニア、セントクリスロファー・ネイビス、タイ、中国、チリ、トリニダード・トバゴ、トルコ、バーレーン、バハマ、バルバドス、ハンガリー、ペルー、フィリピン、ブラジル、ポーランド、マレーシア、南アフリカ、メキシコ、モロッコ、ラトビア、リトアニア、ロシア
*5) 2012年時点で以下の39か国・地域:アルゼンチン、アゼルバイジャン、アンゴラ、イラク、ウクライナ、エクアドル、エルサルバドル、カザフスタン、ガーナ、ガボン、北マケドニア、グアテマラ、ケニア、コスタリカ、コートジボワール、ザンビア、ジャマイカ、ジョージア、スリランカ、セネガル、セルビア、チュニジア、ドミニカ共和国、ナイジェリア、ナミビア、パキスタン、パナマ、バングラデシュ、ブルガリア、ベトナム、ボツワナ、ベラルーシ、ベリーズ、ボリビア、モーリシャス、モンゴル、ヨルダン、ルーマニア、レバノン
*6) 2012年時点で計80か国・地域(脚注4・5に含まれていない新興国・開発途上国のすべて)
*7) 世界銀行グループの定める中高所得国の一人当たりGDPのレンジは、2025年時点で、1136ドルから13935ドル。
*8) 世界銀行グループの定める高所得国の一人当たりGDPの下限は、2025年時点で、13935ドル。