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3重苦(コロナ・クーデター・地震)が生んだ統制経済―ミャンマーの経済政策とその改革―

在ミャンマー日本国大使館 一等書記官 高木 聡*1
エコノミスト・博士(経済学) 川畑 博司

1.はじめに――「軍政⇒民主化⇒そして再び軍政へ」
 長く軍政下にあったミャンマーは、2011年から本格的に民主化改革を進め、2016年には選挙で選ばれたアウン・サン・スーチー政権の下で民主化が大きく前進した。「アジア最後のフロンティア(ラストフロンティア)」と呼ばれた同国には、援助パートナー(機関)が活発に活動するとともに外国直接投資(FDI)が相次いで流入し、政治・経済の両面で明るい未来が期待されていた。若者たちも自由を謳歌し、海外との交流が活発化するなかで、フェイスブックなどのSNSを通じて情報発信や意見交換を積極的に行っていた。
 コロナ禍によって物流や経済活動が停滞した2020年、人々は強固なコミュニティの支えを頼みに、再び立ち上がれると信じて耐えていた。そこに2021年2月、軍事クーデター*2が発生する。コロナ対策で自宅待機を続けていた市民は、感染リスクを顧みず民主政治を守ろうと街頭に立ったが、軍の強硬な対応により再び軍政へと逆戻りすることとなった。
 クーデター以降、ミャンマー経済は再び「統制色」を強めている。クーデターに端を発する内戦の拡大や徴兵制による労働人口の縮小に加え、2025年3月28日に発生したマグニチュード7.7のミャンマー大地震*3は、世界遺産や暫定遺産へ被害をもたらしただけでなく、多くの家屋や生産拠点、インフラにも甚大な被害をもたらし、経済活動全体を疲弊させた。さらに、フェイスブックやX(当時はTwitter)などの閲覧も遮断されたため、軍政によるインターネットの規制をかいくぐるためにVPN(Virtual Private Network)の利用を余儀なくされる一方で、その利用自体も取締りの対象となるなど通信制限が強化された。この結果、多くのミャンマー人、特に若者は、高い失業率や低賃金等の経済的困難、不安定な社会情勢、言論の自由等が制限されたため、より良い収入や安定した生活を求めて海外に活路を求めるようになっている。
 経済面では、国際社会の制裁により経済的孤立が深まり、開発パートナーによる資金供与の停止、外国企業の追加投資の凍結や撤退、外資系銀行による取引の縮小などを背景に、国内では慢性的な外貨不足に陥った。価格安定やインフレ抑制を固定為替レート及びチャット高で実現しようとした当局は、為替取引・輸出代金・海外送金に対する規制を次々と導入し、為替管理を通じて経済を直接統御する体制を再構築していった。
 クーデター以降、憲法上、非常事態宣言は1年間とされ、その後の延長は半年ごとに最大2回(合計2年)までと定められているが、軍政はこの枠組みを超えて、実際には7回にわたり延長を繰り返してきた*4。しかし2025年8月、ロシア、中国、インドを含む諸外国が選挙実施を支持していることを理由に、これ以上の延長を行わないとし、憲法第429条に基づき、その半年後に総選挙を実施することを宣言した。総選挙は、治安状況などを理由に選挙区を分割し、2025年12月28日、2026年1月11日、同年1月25日の3フェーズに分けて段階的に実施された。もっとも、アウン・サン・スーチー氏が所属していた国民民主連盟(NLD)の解体や党員の拘束など、民主派を排除した形で行われた選挙であることから、民主派からは「みせかけの選挙」と批判されている。結果として、軍が支援する連邦団結発展党(USDP)が過半数を獲得する事態となった。
 本稿では、このようなコロナ・クーデター・地震といった「三重苦」のなかで展開される為替・貿易政策の実態を整理し、ミャンマー経済が直面する制度的課題を明らかにする。限られた公開情報をもとに同国の現状と苦悩を取り上げたい。また、本稿は2026年2月12日時点で入手可能な情報に基づいて執筆しており、その後に公表された情報については反映していない。

2.統制文化の形成――通貨と統治制度
(1)通貨の歴史――統制の象徴
 ミャンマー(旧ビルマ)の通貨の変遷は、同国が歩んできた政治的支配と統制の歴史そのものである。どの時代においても、通貨は経済の手段であると同時に、国家統治の象徴として運用されてきた。
 19世紀前半までのビルマ王朝期では、銀チャット(Silver Kyat)や銅ペイ(Pe)が流通し、王室造幣局が発行を担った。紙幣は存在せず、金属の重量を基準に価値が定められ、地域ごとに形状や単位が異なるなど、実質的には地方分権的な通貨制度であった。
 1826年の第一次英緬戦争後、一部のビルマは英領インド経済圏に組み込まれ、インド・ルピーと銀チャットが併存した。その後、第二次英緬戦争を経てヤンゴンを含む全土が英領インドに併合されると、英領インド・ビルマ州としてインド通貨制度に全面統合され、インド・ルピーが公式通貨となった。1937年にビルマが英領インドから行政的に分離されると、英領ビルマ政府は新たにビルマ・ルピーを導入し、発行はインド準備銀行(RBI:Reserve Bank of India)が代行した。
 第二次世界大戦期には日本占領下で軍票チャットが導入され、戦後の英軍政期には再びビルマ・ルピーが発行された。1948年の独立後、ビルマ・チャットが新通貨として採用され、中央銀行(Union Bank of Burma)が設立される。しかし、その後も為替や金融政策は政治体制の変動に強く左右され、1989年のビルマ(Burma)からミャンマー(Myanmar)への国名変更を契機として、通貨名もミャンマー・チャット(MMK)へと改称され、現在に至っている。
 また、ミャンマーの通貨の歴史において「廃貨(demonetization)」は重要な論点である。ミャンマーではインフレ抑制、不正資金・闇市場の排除、さらに、外国系商人や少数民族資本の影響力の排除を目的として、過去3度(1964年、1985年、1987年)廃貨(正確には高額紙幣や特定の券面の部分廃貨)が実施された。
 しかし、実施方法は極めて場当たり的で、1964年の廃貨では交換期限が「1週間」と発表された後も複数回にわたり延長され、その度に条件が変更されるなど、今日と同様に政策に一貫性がなかった。特に1987年の廃貨は混乱が大きく、対象となった券面が一夜にして交換不能となり、国民の貯蓄の約75%が価値を失ったとされている。こうした措置は、銀行や中央銀行を含む金融システムに対する国民の信頼を損なわせただけでなく、通貨そのものへの信頼を長期にわたって低下させた。
 その結果、国民は金・土地・耐久財など実物資産へ退避し、当初掲げられたインフレ抑制の効果もほとんど得られなかった。現在でもこの行動様式は続いており、クーデター以降のインフレ対応が困難になっている一因とも考えられる。
 なお、こうした政治主導かつ即興的な廃貨措置による混乱はミャンマー特有の現象ではない。近年ではインドのモディ政権が2016年に高額紙幣を突如無効化し、電子化を促進した一方で、国内に大きな混乱を招いた例がある。
 以上のように、ミャンマーの通貨制度は、植民地支配、戦時統制、独立後の国家建設などの政治的転換点において再編を重ねてきた。廃貨や奇数額面の発行にみられるように、通貨は経済合理性よりも「国家の権威や統治を示す象徴」として用いられてきた。これは現在の統制的な為替政策にもつながっている。

【コラム】:紙幣と獅子
 筆者は訪問した国々の紙幣を集めることを趣味としている。いわゆる収集価値を求めているわけではなく、紙幣に描かれた動物や人物にその国の文化や歴史が表れており、そこに強い興味を抱いているからである。特に動物が好きなため、アフリカ諸国では象やライオンなど「Big Five(ビッグファイブ)」が描かれている紙幣に目を引かれる。パプアニューギニアの通貨キナには国鳥である極楽鳥が描かれ、その羽は伝統儀式にも用いられるなど、紙幣はその国の文化的背景を映し出す鏡でもある。
 ミャンマーでは、独立の父アウン・サン将軍が図柄として選ばれることが多いが、多くのチャット紙幣には獅子(ミャンマー語でチンテー)が描かれている。獅子はパゴダ(仏教寺院)の入口に必ず配置され、悪霊を払い、僧団と教えを守る存在として、いわば国家と宗教を守護する霊獣である。仏教国ミャンマーを象徴する存在であり、日本の稲荷神社における狐のような“守護の象徴”といえる。
 興味深いことに、獅子はミャンマー中央銀行のロゴに採用されているだけでなく、実は日本銀行も獅子を重要な象徴として用いている。日本においても獅子は「権威」「守護」「威信」を象徴する存在であり、明治期以降の金融機関の建築物にはしばしばライオン像が配置されてきた。日銀本店の正面にも二頭の雄ライオンが置かれており、金融の安定と信頼を象徴している。
 両国とも“守護”と“権威”を獅子に託している点は共通しているが、日本の場合は西洋の銀行文化の影響が強いのに対し、ミャンマーでは仏教的・宗教的意味合いがより色濃く反映されている点が興味深い。
写真 ミャンマー中央銀行のロゴと日本銀行のシンボルマーク

【コラム】:占いと奇数額面紙幣
 ミャンマーで3回行われた廃貨は、どれもネ・ウィン(Ne Win)将軍の時代に起きた出来事である。彼の政権下では、15・25・35・45・75・90といった中途半端な額面の紙幣が次々と発行された。これには理由があり、本人の年齢(75歳)にちなんだものや、「9は幸運の数字」という数秘術的な信念、占星術の助言が背景にあったと言われている。後任のタン・シュエ将軍も占星術を信じており、ヤンゴンからネピドーへ遷都する際も、地理や軍事面だけでなく、占いの結果が場所選びに影響したと広く語られている。
 ミャンマーでは占星術が身近で、日常生活から政治まで様々な場面で用いられている。中でも「8曜日占い」はとても有名で、水曜日を午前と午後に分けて1週間を8つにし、それぞれに惑星と守護動物(虎・ライオン・象・龍など)が割り当てられる。人は「自分が生まれた曜日」によって性格や運勢が決まると考えられており、シュエダゴン・パゴダなどの大きな寺院には曜日ごとの動物像が並び、参拝者は自分の曜日動物に水をかけて祈り、良い運勢を願う。雰囲気としては、日本の干支や六曜(大安・仏滅)に近く、結婚相手を決める時や、結婚式の日取りを決める時も占いが基準になっている。
 ちなみにミャンマーでは、雨季の約3カ月間(通常7~10月頃)の結婚式はほとんど行われない。理由は、(1)雨季が仏教の修行期間にあたり、僧侶が寺院にこもって「娯楽を避ける」などの戒律をより厳しく守る必要があること、(2)占星術でも雨季は「新しい物事を始めるのに向かない時期」とされていること、の2つが大きいとされている。
 ミャンマーの占星術は、仏教・ヒンドゥー占星術・在来信仰が混ざり合った独自の文化で、今も強く根付いている。インドには占星術を大学の学問として学べるコースまであり、占星術の学士(B.A. in Astrology)を持っていると占い師としての信用度も上がると言われている。こうした背景を知ると、ミャンマーの政治や金融政策にも「占い文化」が少なからず影響してきたことが、少し身近に感じられるのではないだろうか。
写真 75チャットと45チャット紙幣

【コラム】:2万チャット札と廃貨の噂
 2023年7月31日、CBMは権力と幸運の象徴である白い象を描いた2万チャット札を発行した。
 それまでの最高額面であった1万チャット札(2026年1月末現在、1万チャット約400円)を上回る2万チャット札であり、また、クーデター以降、物価高の中発行されたこともあり、更なる物価高を誘発するといった噂が広まった。
 これに対し、軍政は国営メディを通じて2万チャット札が古くなった紙幣とのみ交換し、無制限に発行しないため物価高に繋がらない旨を周知した。
 なお、2万チャット札発行時期から暫くの間、少額紙幣(50チャット、100チャット)が廃貨されるのではないかといった噂が広まっていた。

(2)統治制度の変遷――統制志向の強化
 ミャンマー(旧ビルマ)は19世紀以降、王朝 → 植民地 → 戦時占領 → 社会主義 → 民政 → 軍政を経ており、統制的な経済政策は、これらの統治形態の変遷とともにある種の行政文化として根付いてきたと考えられる。1962年のネ・ウィン将軍による軍事クーデター以降に導入されたビルマ式社会主義は特に現在の統制の基礎となっている。
 ビルマ社会主義計画によって民間銀行はすべて国有化され、金融・為替・貿易は国家の直接管理下に置かれた。1970年代にはモノバンク制度が導入され、中央銀行と商業銀行の機能が一体化し、資金配分が行政判断によって行われる体制が確立した。
 同時に、多くの軍人・退役軍人が省庁の上級ポストや中間管理職に大量に登用され、行政内部への軍人の流入が急速に進んだ。その結果、軍組織特有の規律や価値観が行政に深く浸透し、行政運営は軍的な運用原理に基づくものへと大きく転換した。具体的には、命令は上から下へ、報告は下から上へと流れる垂直的なコミュニケーションと説明責任の体系、命令の厳格な遵守を求める文化、そして他部局への不干渉といった原則が行政組織全体に定着したのである。こうした構造のもとでは、現場レベルの主体性や政策形成過程における多様な意見の反映は抑制され、軍指導部の政治判断がそのまま金融政策に反映される状況が常態化した。これにより、中央銀行は独立的に政策決定を行えない体制へと固定化されていった。
 1988年の民主化運動以降の軍事政権では、一部で市場化の動きが見られたものの、1993年に導入された外貨兌換券(Foreign Exchange Certificate:FEC*5)制度は管理為替管理の一つの例である。これは外貨(米ドル)を国内に流通させない事を目的に、1米ドル=1FECの固定レートで取引させる仕組みで、外貨の集中管理を維持するための手段であった。事実上、二重為替レートを制度化するもので、貿易や投資活動における自由度を大きく制約した。
 2011年以降の民政移管期に外国為替(外為)オークション制度や外国為替管理法(Foreign Exchange Management Law)*6が導入され、市場に連動した為替制度が実現したものの、官庁間の縦割り構造や許認可依存の行政文化は温存された。こうした「制度としての統制」は、植民地期から続く許認可主義と社会主義期の統制経済が融合したものであり、クーデター後の厳格な為替管理はその延長線上に位置づけられる。言い換えれば、ミャンマーの歴史において市場経済が主導した時期は例外的であり、統制は行政文化の中核をなしてきたといえる。

3.クーデター後の制度転換――市場型から統制型へ
 2021年の軍事クーデター以降、ミャンマーの為替制度は、民主化期に築かれた市場型の仕組みから大きく後退した。民主化期の2012年に導入された管理フロート制と外為オークション制度の下では、中央銀行(CBM:Central Bank of Myanmar)が外国為替オークション*7*8を通じて為替相場を形成し、民間銀行はその結果に基づいて算出された参照レートの±0.数パーセントの範囲内で取引を行うことで、為替の安定と透明性が維持されていた。これらの制度は、当時存在していた二重為替を解消するためのメカニズムであり、2019年に中央銀行参照レートの市場連動化を実現するまでの7年間で、為替レートの統合という大きな成果を上げた。また、当時のミャンマーは「アジア最後のフロンティア」と呼ばれ、海外直接投資(FDI)が活発に流入するなど、為替管理は比較的緩やかに運営されていた。
 しかし、クーデター後はCDM(Civil Disobedience Movement:市民不服従運動)による経済活動の停滞、国際社会の制裁、外資企業の撤退が重なり、外貨供給が急減した。これを受けた当局は、為替や輸出入許可を通じて物価上昇と資本流出を抑制しようと試みたが、その手段はかつての統制的政策に近いものとなった。
 2022年4月、中央銀行は新たに公定レート(1米ドル1,850チャット)を導入し、民間銀行に対してすべての外貨残高及び今後の外貨収入をこのレートで強制的にチャットへ転換する所謂「強制兌換」を義務付けた。さらに輸出業者に対しては、輸出で得られる外貨収入(輸出収入外貨)の国内送金期限の短縮、輸出確認手続きの強化、輸出代金入金口座の管理厳格化などを指示し、銀行にCBMへの報告を義務づけた*9。これにより、輸出入に関する外貨取引は実質的に全数管理の対象となり、外貨の保有と利用は国家の統制下に置かれた。
 ここで特徴的なのは、為替管理に加え、商業省(MoC:Ministry of Commerce)による貿易管理との一体化が進んだ点である。具体的には、商業省が所管する貿易管理システムと、税関及び中央銀行が管理する関連システムとの情報連携が強化され、輸出入から外貨還流までを統合的に管理する枠組みが構築された。貿易は、商業省傘下のTrade Department及びBorder Trade Departmentが所管しており、従来の輸出入登録書(EIR)及び輸出入ごとに取得する輸出入ライセンス制度を維持しつつ、「輸出第一主義 (Export First Policy)*10」を再強化した。輸出第一主義とは、「輸出で得た外貨収入の範囲内でのみ輸入を認める仕組み」であり、商業省がMyanmar Tradenet 2.0を通じて輸出入登録書や輸出入ライセンス申請をオンラインで一元管理している。このため、貿易収支が赤字となりにくい構造になっている。さらに、前述のとおり3つのシステム(Tradenet、税関局が管理する電子通関システム(MACCS)及びCBMが管理する為替管理システム(ERS))間の情報連携が強化され、輸出代金の還流状況をED(Export Declaration:輸出申告)/ID(Import Declaration:輸入申告)・輸出入ライセンス・銀行口座情報などと照合しながら統合的に管理できる仕組みとなっている。
 同時に、輸入代金や非貿易支出のための外貨の購入及び海外送金なども外為監督委員会(Foreign Exchange Supervisory Committee:FESC*11)による事前承認制に変更され、実務上は事実上のライセンス制度となり、これまでよりも強い「外為+貿易統合管理」体制が形成されていった。結果、FESCによる承認が得られず、親会社ローンの返済や配当金の支払い、ライセンス料の送金が滞るなど、多くの外資系企業が事業運営に支障を来した。ちなみに海外から融資を受けるオフショアローン(親子ローンも含む)もすべてCBMの許可制(現在はFESCが最終決定を持つ)となっている。
 さらに、制度設計が十分でないまま導入された通達や規則は頻繁に改定され、時には数日単位で変更が発表されることもあった。その結果、企業や銀行は将来の取引コストを予測できず、新規投資を控える傾向が強まり、外貨不足は一段と深刻化した。当局の狙いは限られた外貨を優先分野に配分し、為替安定とインフレ抑制を両立させることにあったが、実際には闇市場やHundi*12(非公式送金)が拡大し、為替政策の統制効果は限定的に観察された。
 こうした中で軍政は、外貨確保のため新たな仕組みを導入した。具体的にはまず、Workers Remittance制度の適用を拡大した。従来、同制度の特別送金レートは船員に限定されていたが、これを全ての海外労働者へと拡大したうえ、海外労働者がミャンマー国内の家族に送金する際には受取人に対して補助金を付与する仕組みを導入した。こうした措置の狙いは、より多くの外貨をフォーマルな送金ルートで入手することであり、これにより集められた外貨は、銀行がCBMに強制的に売却する仕組みとなり、CBMの市場介入原資として活用されている。
 次に導入されたオンライントレード制度では、銀行が顧客の外貨売買希望(額とレート)をCBMに集約し、売りと買いをマッチングさせる仕組みが採用された。ドル需要が過多の場合は翌日に繰り越され、CBMは石油や医薬品など優先分野のドル買い要請に対し、公定レートで直接ドルを供給するなどしている。表面上は自由取引制度とされているが、実際には銀行が極端なドル高チャット安のレートを提示することを避ける「暗黙のルール」が存在し、公定レート、Workers Remittanceレート、実勢レート(闇市場レート)に加え、オンライン取引レートと呼ばれる新たな指標が形成された。その他、現在ではホテルやレストラン等が独自のレートを設定しているため、複雑な多重為替体制となっている。
 また、実勢レートで取引した両替業者や金の価格を吊り上げようとした金事業者、そして輸出代金を期限内に本国送金しなかった輸出業者を相手に強制捜査や逮捕・訴追が行われるなど、当局は強硬的な手段で為替レートの統制を試みている。こうして、クーデター後の為替政策は、表面的には「安定」を目指しながらも、実質的には市場機能を抑え込む統制的な制度へと回帰したといえる。
 このように、クーデター後の為替・貿易政策は、為替安定を掲げながらも実質的には国家による外貨配分体制へと変貌しており、制度やシステム的な統制が経済全体の活力を徐々に奪いつつあると考える。

4.多重為替と統制の代償――混乱する市場と疲弊する企業
 クーデター後、当局は外貨流出の抑制や物価安定を目的に一連の為替規制を導入したが、結果として市場の歪みを拡大させた。公定レート、オンライン取引レート、Workers Remittanceレート、実勢レートなど、複数の為替レートが同時に存在する多重為替制度が定着し、透明性と公平性は大きく損なわれた。
 この制度の下では、政府関連企業や燃料輸入業者(企業)は公定レートで外貨を取得できる。公定レートはこうした企業による取引を除き使用される事例が最近ほぼみられず、公定レート自体が偶像化している。一方、民間企業は闇市場やオンライン取引経由でしか外貨を調達できず、場合によっては取引自体が当局から却下されることもある。結果として、為替差益を得る企業と外貨不足に苦しむ企業の格差が拡大し、市場の競争原理は失われていった。
 企業は為替差損を避けるため取引を延期したり、国境沿いの非公式ルートを利用して決済や物資調達を行うようになった。軍と少数民族武装勢力(EAO:Ethnic Armed Organizations)の対立で国境管理が弱まったこともあり、タイ・インド・中国とのインフォーマルな国境貿易が拡大。外貨は公式ルートではなく闇市場を通じて循環し、統制の効果は薄れていった。
 民間銀行も膨大な報告義務と承認手続きに追われ、国際決済が遅延するだけでなく、シンガポールの銀行に続き、タイの銀行による送金の中継業務拒否が頻発した。その結果、外資系企業は、為替差損や配当送金の困難化により事業継続を断念するケースが相次いでいる。軍政は「優先産業への外貨配分」などを掲げて統制を維持しているが、実体経済では価格の歪みと取引コストの上昇が進行している。
 こうした統制の影響は、経済指標からも明らかである。以下の図が示すように、CLMV*13 4か国の中でミャンマーだけが長期的なマイナス成長を続けている。2020年のコロナ禍で大きく落ち込んだのち、カンボジア・ラオス・ベトナムは2021年から回復基調に入ったが、ミャンマーは同年の軍事クーデターでさらにマイナス成長が悪化した。2022年には一時的に持ち直したものの、2022年の強制兌換制度と2025年のミャンマー大地震の影響で再びマイナスに転じている。筆者の見立てでは、ミャンマーの成長鈍化は外貨統制と投資停滞による構造的要因が大きく、いわゆる「トランプ関税」など外的要因の影響は限定的である。こうした動きは、統制経済がもたらす長期的な成長制約を如実に示しているといえる。

5.再生への道筋――統制から自由化へ向けた条件
 2021年のクーデターから5年が経過した現在も、ミャンマー経済は未だ出口の見えない状況にある。為替・貿易制度は軍政を維持する政策を優先して設計され、市場の自律性は著しく制約されている。民主派不参加のまま国政選挙が実施され、軍が強い影響力を持つ連邦団結発展党(USDP)が再び政権を担う事となった一方、民主派不在という問題は残存しているが、過去5年間暗いニュースばかりだったミャンマーにとって、選挙から新政権発足までの動きは僅かながらも希望との見方もある。筆者としては、かつて民主化改革を進展させた軍政下のテイン・セイン大統領のように、新たな大統領が民主化に向けた姿勢を具体的な政策として実行に移すかが焦点であるとみている。その意味で、USDP政権下における今後の政策運営は、停滞するミャンマー経済の出口が見つかるか否かの試金石となるだろう。
 出口の見えないミャンマー経済の解決の糸口として、為替制度の統合及び規制緩和に向けた工程表(ロードマップ)の策定が求められる。統制色の強い現在の経済状況は、テイン・セイン政権期の政策環境と多くの点で類似しており、当時策定された国家総合開発計画(NCDP:National Comprehensive Development Plan)及び経済社会改革枠組(FESR:Framework for Economic and Social Reforms)は経済情勢を大きく改善させる役割をになったことから、今般の経済的改革において有益な参照事例となる。NCDPは2011年から2031年までを対象とする長期計画であり、FESRは2012年から2015年までの中期計画として位置づけられていた。これらの計画を基礎として、国際機関やドナーは積極的な支援を展開していた。また、当時の計画には金利自由化など、現在においても有効な政策目標が盛り込まれている。こうした点を踏まえ、既存のNCDP及びFESRを現下の経済環境に即して更新、若しくは、新たにNCDP及びFESRを策定することが望ましいといえる。
 もっとも、当時の計画は、中期支出枠組(MTEF:Medium-Term Expenditure Framework)や単年度予算との連動が十分に確保されておらず、持続可能な開発目標(SDGs)との体系的なリンケージも限定的であった。この点は、西側諸国や国際機関がミャンマーへの支援(再開)においてグッドガバナンスや透明性を重視するところ、今後の制度設計において検討が必要であると考える。さらに、現行のSDGsは2030年を目標年としており、その後の国際的な開発目標の再設定が視野に入ることを踏まえれば、当面は長期計画よりも、中期的な政策運営の指針となる新たなFESRの策定を優先することが現実的と考えられる。
 こうした制度的課題を踏まえ、今後の改革の方向性を整理するために、必要とされる改革を幾つかの柱に沿って検討したい。
 第一に、自由為替制への移行、あるいは為替レートの統一といった中期的な目標を明確に示すことが不可欠である。現行のように多重為替制度を維持したままでは、企業は基礎的なコスト計算すら困難となり、投資判断が著しく阻害される。その結果、軍が関係を維持している中国やロシアを除けば、日本を含む欧米諸国の直接投資が本格的に回復することは期待し難い。こうした状況が続けば、西側諸国からの資本流入や国際金融市場への復帰が進まず、投資や資金調達における中国への過度な傾斜が生じ、経済構造が特定国に過度に依存するリスクが高まる。したがって、政策当局が、どの段階で、いかなる規制を撤廃していくのかを具体的に示すことこそが、国内外の信認回復につながる。また、FESCによる管理体制を見直し、迅速な為替取引や海外送金を可能とする制度改革を進めることで、資金移動の予見性が高まり、民間投資の回復繋がるだろう。
 第二に、為替政策・金融政策の一貫性と、経済統計の透明性を確保することが欠かせない。CBMの通達やレート運用が頻繁に変わる現状では、規制の不確実性が高まり、企業の弁護士費用、法務対応、人員配置などを含むコンプライアンスコストが増大している。こうした不安定な政策運営は市場の信頼を損ない、公式チャネルよりも現金取引やHundiの利用を助長している。そのために、まずはCPI(消費者物価指数:Consumer Price Index)や外貨準備などの基礎統計公表を再開し、市場データや政策方針を継続的に開示することで、CBMや政府への信頼を回復する必要がある。加えて、市場の需給を反映した適正な価格・金利・為替レートを維持するための政策目標を明確にすれば、透明性は一層高まるだろう。政策の一貫性と情報公開の徹底こそが、為替政策の「予見可能性」を取り戻し、統制から信頼へと制度を転換させるための出発点となる。
 第三に、金融活動作業部会(FATF)が策定したマネー・ローンダリング(資金洗浄)、テロ資金供与、拡散金融(大量破壊兵器の拡散に関する資金供与)を防ぐための国際基準の遵守が必要である。現在、ミャンマーはFATFから「行動要請対象の高リスク国・地域(High-Risk Jurisdictions subject to a Call for Action)」に指定*14されている。これは所謂ブラックリストと呼ばれるものだが、単にブラックリストから除外されれば良いというものではなく、早期に脱却することが肝要である。これはミャンマーがブラックリストにいる限り、国際金融から孤立し国内経済の停滞が長期化する可能性が高くなること、つまり、金融機関はミャンマーとの取引において膨大な書類の確認が求められるなど事務負担が増大するほか、送金手続きにおいて日数が増加若しくは中継銀行で送金が遮断されるなど金融取引が難しくなることを意味する。また、こうした金融環境において、日本を含む外国企業はミャンマーへの投資を控え、その結果、ミャンマーの経済成長が伸び悩む要因となり得る。その他、ミャンマー人の海外労働者による郷里送金や、NGO等による人道支援活動のための資金調達にも悪影響を及ぼし得る。そのため、まずは早急にブラックリストを脱しグレーリストへの移行することが必要だが、グレーリストへ移行した後においても、ミャンマーが国際的な金融システムから孤立せず、また、ペナルティを受けるリスクやミャンマービジネスにおけるレピュテーションリスクを回避し、金融の安定と経済発展のために継続的にFATFによる国際基準を遵守していくことが求められている。
 第四に、段階的な市場連動型制度への復帰が求められる。民主化期に導入された管理フロート制や為替オークションは、完全ではなかったものの、市場メカニズムを取り込む重要な一歩であった。これらを新たな形で再設計し、市場の取引を部分的に解禁することが、為替統合への現実的な道筋となろう。統一為替レート及び市場連動型に移行する最大の利点はインフォーマル経済からフォーマル経済への移行を促進できる点にある。国境貿易や為替・送金取引などがフォーマル化されれば、政府としても実態経済をより正確に把握する事になり、それが統計指標に反映されることで、国際社会からの信頼回復にもつながる。また、金利の引上げやデポジットオークション*15の再開など、金融引き締め策を段階的に実施することは、現在の高インフレ対策、そしてマイナス実質金利の是正に有効であろう。金融引き締めは短期的にはGDP成長を抑制する側面があるものの、投資環境の改善と資金の効率的配分が進めば、中長期的にはその影響を相殺しうると考えられる。
 第五に、金融と財政を連携させたミャンマー大地震及び内戦からの復興支援策の導入を提案したい。東日本大震災で導入したモデルに倣い、財務当局(現:財務・税務省)による復興国債や復興支援国債の発行は、国内資金を動員しつつ民間の参画を促す仕組みとして有効である。金融政策だけでなく、財政面での合意形成を通じて、国民的信頼を醸成することが期待される。これと並行して保険市場の改革を進めることも重要である。とりわけ再保険市場においては、外貨建て保険料の支払いと保険金の受取りに異なる為替レートが適用されており、その結果、為替差損のリスクが大きい。このため、国内の保険会社は地震保険のような長期・高リスク商品を開発したくとも、採算性の確保が困難であり、市場参入を躊躇せざるを得ない状況にある。
 第六に、債券・証券市場の育成である。2016年に取引が開始された ヤンゴン証券取引所 では、現在8社が本市場(Main Board)に、2社が上場前市場(Pre-listing Board)に登録されているが、不動産市場や動産市場と比較すると、取引が活発に行われているとは言い難い。また、日本の支援により導入された資金・証券決済システムであるCBM-NET*16(Central Bank of Myanmar Financial Network System)においては、2016年以降、国債及び短期国債の無券面化やリオープン方式国債の導入*17が実現しているものの、国債の流通市場における取引も依然として低調である。米国国務省は『2025 Investment Climate Statements: Burma (Myanmar)』において、ミャンマーの株式市場及び債券市場はいずれも規模が小さく、投資家が希望するタイミングで大口ポジションに参入または退出するに足る十分な流動性(取引量)が存在しないと指摘している。マーケットメーカー制度の導入に加え、国営企業の上場促進や、前述の復興国債及び個人向け国債の発行を含めた債券・証券市場の活性化は、投資先の多様化を通じて資金の実物資産偏重を緩和し、動産・不動産価格の過熱を抑えることでインフレ圧力の軽減にも寄与する。
 IMFの推計によると2026年の成長率は、僅かながらプラスに転じる見通しである。もっとも、それは制度改革の進展を前提としない「控えめな予測」にとどまっており、政治的・経済的安定が確保されれば、さらなる上振れも期待できる。新しい政治体制が「統制解除へ」と舵を切れるかどうかが、ミャンマー経済の将来を大きく左右するだろう。
 かつて「アジア最後のフロンティア」と呼ばれたミャンマーは、再びその可能性を取り戻すことができるのだろうか。課題は山積しているものの、こうした小さな制度改革の積み重ねこそが、新たな希望と信頼を築く礎となろう。

●主な参考文献
1.乾 泰司・向井 直人・川畑 博司(2018)「ミャンマー中銀の支払決済システム構築――現状,課題と展望」『国際金融』1312号,6–15頁。
2.岩崎 淳(2021)「ミャンマーにおける金融政策フレームワークの現状と課題」『アジア太平洋討究』41号。
3.貿易・投資円滑化ビジネス協議会(2025)「2025年版 各国・地域の貿易・投資上の問題点と要望調査結果」,2026年2月参照,https://www.jmcti.org/mondai/pdf/chosakekka2025.pdf
4.Central Bank of Myanmar(CBM)(2026)「FX Market Online Trading Platform Data (20260-2-18)」, 2026年2月参照,https://www.cbm.gov.mm/sites/default/files/inline-files/FX%20Market%20Online%20Trading%20Platform%20Data%20%2818-2-2026%29.pdf
5.Democratic Voice of Burma(2025)『DVB Live』(ビルマ語版),2026年1月14日参照,https://burmese.dvb.no/live
6.Hendrix, C. S., & Noland, M.(2015)Myanmar:Cross-Cutting Governance Challenges, ADB Economics Working Paper Series No. 428, Asian Development Bank.
7.International Monetary Fund(IMF)(2017)Myanmar:Selected Issues, IMF Country Report No. 17/31.
8.Japan External Trade Organization(JETRO)(2013)『ミャンマー』世界貿易投資報告(GTIR)2013年版,https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/gtir/2013/pdf/2013-mm.pdf
9.Japan External Trade Organization(JETRO)(2022)「外国為替監督委員会への国外送金の承認申請手続き判明(ミャンマー)」『ビジネス短信』,2026年2月参照,https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/1308699ac337eb9b.html
10.Japan External Trade Organization(JETRO)(2024)「ミャンマー、輸出外貨収入の現地通貨への両替割合を削減」『ビジネス短信』,2026年2月参照,https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/08/1bcfaadca6c1e9a5.html
11.Kikuchi, T. & Masutomo, T.(2019)Financial Development in Myanmar and the Role of Japan, RSIS Working Paper No. 321, S. Rajaratnam School of International Studies.
12.Lieberman, V.(1991)“Secular Trends in Burmese Economic History, c.1350–1830, and their Implications for State Formation,” Modern Asian Studies, Vol. 25, No. 1, pp. 1–31.
13.Myanmar Central Bank(ミャンマー中央銀行)(2026)『History of Bank Notes』,2026年1月参照,https://www.cbm.gov.mm/content/history-bank-notes
14.NUMIS ASIA(2021)『Burma Odd Denomination and Unusual Banknotes (1985–1987)』,2026年1月30日参照,https://numisasia.com/burma-odd-denomination-and-unusual-banknotes
15.OG Research(2025)「Myanmar:a unique system of multiple parallel exchange rates」, OG Research, 2026年2月参照,https://www.ogresearch.com/news/myanmar-a-unique-system-of-multiple-parallel-exchange-rates
16.Passas, N.(2003)Informal Value Transfer Systems, Terrorism and Money Laundering, Report to the National Institute of Justice, Boston:Northeastern University.
17.Reuters(2024)「Myanmar junta arrests dozens in bid to stabilise currency」, Reuters, 2026年2月参照,https://www.reuters.com/world/asia-pacific/myanmar-junta-arrests-dozens-bid-stabilise-currency-2024-06-04/
18.Stokke, K., Vakulchuk, R., & Øverland, I.(2018)Myanmar:A Political Economy Analysis, Norwegian Institute of International Affairs(NUPI).
19.Tilleke & Gibbins (2022)「Overview of Myanmar’s 2022 Foreign Currency Restrictions and Exchange Requirements」, Tilleke & Gibbins Insights, Tilleke & Gibbins, 2026年2月参照,https://www.tilleke.com/insights/overview-of-myanmars-2022-foreign-currency-restrictions-and-exchange-requirements/
20.Winston Set Aung (2025)「Obstacles to Reform in Myanmar:Lessons from the Past, for a Better Future」『Trands in Southeast Asia』, 2026年2月参照,https://www.iseas.edu.sg/wp-content/uploads/2025/06/TRS15_25.pdf
21.World Bank (2023),「Navigating Uncertainty」『Myanmar Economic Monitor』, 2026年2月参照,https://documents1.worldbank.org/curated/en/099134001292342538/pdf/P1791060704c4d0720a7ac0c3c23f1b5b90.pdf

*1) 本稿の内容は、筆者らが参考資料等も参照しながら個人的に執筆したものであり、誤りがある場合は筆者個人に責任がある。また、本稿は全て筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではない。
*2) 軍は「2020年総選挙に不正があり、選挙管理委員会が調査要求に応じなかった」と主張し非常事態を宣言したが、実際には政権維持を目的とする権力掌握とみられる。
*3) 2025年3月28日にマンダレー近郊を震源として発生した大地震。ザガイン断層のずれによるもので、1912年以来最大規模とされる。世界銀行によれば、建物やインフラ等の損害額はミャンマーのGDP(国内総生産)の14%(約110億米ドル)と推計される。また、Democratic Voice of Burma紙によれば、死者数は4,549名に上る。
*4) 憲法第417条により非常事態宣言は1年間とし、第425条により「通常は1回につき6か月、最大2回まで延長可能」と定められているが、軍政は「通常」ではない状況であることを理由に、2回を超える延長を実施した。
*5) 2013年に廃止。
*6) 2012年にミャンマーで導入された。従来の厳しい外貨規制を緩和し、外国送金や外貨取引を規定するとともに、個人による外貨保有を認めた。しかし、その後、外国投資や労働者の送金(Workers’ Remittance)の運用、チャットへの強制兌換等様々な追加、変更が加えられ、クーデター以降は特にその運用が複雑化。
*7) CBMが指導・管理し、国内銀行を通じて企業へ外貨を販売する外貨供給の仕組み。
*8) CBMが毎日外国為替オークションを実施し、銀行から提示された入札レートに基づいて市場需給を反映した基準レート(reference rate)を形成する方式。これにより、従来の管理レートや外部市場との乖離を解消し、インターバンクFX市場の育成と単一為替市場への移行を実現した。
*9) 2022年4月、CBM通達にて1米ドル1,850チャットにチャットを切上げ。同年8月、1米ドル2,100チャットへ更に切上げ。また、同8月、輸出企業は外貨収入(輸出収入外貨)の65%をチャットに兌換しなければならないとする規定を導入。
*10) 本稿で用いる「輸出第一主義」は国内的表現であるが、学術的にはforeign exchange retention scheme に相当し、輸出収入外貨の範囲内で輸入を認める政策原理を簡潔に示した通称である。
*11) クーデター後の2022年4月外貨の安定、及び外貨兌換の承認や国外への外貨送金等の外貨の有効活用等、外貨を監督する機関として新たに設立されたもの。財務・税務大臣、商業大臣、CBM総裁等で構成される。
*12) Hundi(フンディ)は、インドを中心とする南アジアで商人が用いた伝統的な手形・支払い指示書で、送金・信用供与・貿易決済に用いられた。インド準備銀行は、「特定の人物に対し、注文書に記載された人物に一定の金額を支払うよう指示する、書面による無条件の命令」と定義している。現代では、インフォーマル送金全体を指す用語として広く用いられている。
*13) CLMVとは、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの4か国をまとめた呼称で、ASEANの中でも経済発展が比較的遅れている国々を指す。
*14) ミャンマーは、2020年2月に強化モニタリング対象国(グレーリスト)に指定され、2022年10月に行動要請対象の高リスク国(ブラックリスト)に指定された。
*15) CBMが市中銀行から過剰流動性を吸収するために実施するオペレーションで、2・4・6週間などの定期預金に類似する商品について、市中銀行が預入金利を提案(入札)する。CBMは設定したオファー額の範囲内で、提示金利の低い入札から順に受け入れ、資金を吸収する。
*16) 銀行間の資金決済や国債決済、担保管理について専用回線を通じて安全かつ迅速に行うCBMが運営する基幹システム。
*17) CBM-NET導入と同時に紙の国債証書を廃止して無券面化(dematerialization)が進められ、2021年5月にはすべての国債がCBM-NET上の電子登録(book-entry)へと一本化された。リオープン方式は、既発債に対して追加発行を行う仕組みであり、同一銘柄の発行残高を積み増すことで、セカンダリー市場の流動性を高めることを目的としている。