理財局国債企画課長 佐野 美波
本稿では、令和7年12月26日に公表した令和8年度国債発行計画の内容を中心として、国債発行を取り巻く最近の動きについて概要を説明したい。
1.国債管理政策の方向性
(1)令和7年の国債市場の状況
令和7年1月、日本銀行により政策金利が0.50%に引き上げられることが決定され、その後、12月には0.75%へ引き上げられた。また、6月に長期国債買入れ予定額を、令和8年1~3月まで毎四半期4,000億円程度ずつ、令和8年4~6月以降毎四半期2,000億円程度ずつ減額する計画が決定された。
令和7年の国債金利は、日本銀行による金融政策の見直しを含め、米国による関税政策、国内生命保険会社による規制対応を目的とした超長期債需要の一巡、参議院選挙や当初及び補正予算編成に伴う財政拡張懸念、インフレに対する見通しなど様々な要因を背景に、1年間を通じて上下動しながらも概ね金利上昇基調で推移し、年末に長期金利(10年債金利)は2.0%台まで上昇した。
(2)「国の債務管理に関する研究会」における議論
このように、国債市場を取り巻く環境は大きく変化しているところであり、国債発行当局としては、中長期的な調達コストを抑制しつつ、確実かつ円滑な国債の発行を実現することが引き続き重要な課題となっている。こうした中、昨年11月には第9回「国の債務管理に関する研究会」(以下、「研究会」という)を開催し、今後の国債の安定的な発行をどのように図っていくか、有識者の方々に中長期的な視点から議論いただいた。
まず、JPモルガン証券株式会社の山脇貴史債券調査部長より、超長期国債市場に関する説明が行われた。次に、日本経済研究センターの左三川郁子金融研究室長より、タームプレミアムの上昇と金融機関の国債の買い入れ余力に関する説明が行われた。最後に、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社の大塚崇広シニア債券ストラテジストより、国債発行計画の在り方や家計による国債保有促進策に関する説明が行われた。
その後は、それぞれの発表に関する質疑応答や現下の国債市場に関する分析の披露など、活発な意見交換が行われた。その中では、予見可能性にも留意しつつ、国債発行計画に柔軟性をもたせることについて検討を深めるべきだという意見や金融機関の国債保有を増やすための取組を進めるべきだといった声も聞かれた。
2.令和8年度国債発行計画の概要
市場環境や研究会における議論を踏まえつつ、昨年11月・12月に実施した「国債市場特別参加者会合」及び「国債投資家懇談会」等において、市中発行の年限構成等について市場関係者(機関投資家、証券会社等)との対話をきめ細かく実施した上で、令和8年度国債発行計画を策定した。以下、その概要を述べる。
(1)発行根拠法別発行額
令和8年度の国債発行総額は前年度当初比+3.8兆円の180.7兆円となっており、依然として極めて高い水準が続いている。
発行根拠法別の内訳(図表3 令和8年度国債発行計画の概要左)をみると、まず、一般会計予算の歳入となる新規国債(建設国債・特例国債)は、前年度当初比+0.9兆円の29.6兆円となっている。
復興債は、東日本大震災からの復興のための施策に要する費用の財源に充てるため、復興特別税等の収入が確保されるまでのつなぎとして発行されるものであり、令和8年度は0.0兆円(66億円)の発行を予定している。
GX経済移行債は、今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実現すべく、国として20兆円規模の大胆な先行投資支援を実行するために創設され、令和8年度は1.0兆円の発行を予定している。
子ども特例債は、こども・子育て政策の抜本的な強化に当たり、令和10年度にかけて安定財源を確保するまでの間に財源不足が生じないよう、必要に応じ、つなぎとして発行される。令和8年度の発行額は0.5兆円を予定している。
半導体・AI債は、令和7年度から令和12年度までの各年度に限り、先端半導体・人工知能関連技術措置に要する費用の財源を確保するために、必要に応じ、つなぎとして発行される。令和8年度の発行額は0.8兆円を予定している。
財投債は、財政融資の新規貸付規模や財政融資資金全体の資金繰り等を勘案した結果、令和8年度は13.0兆円の発行を予定している。
借換債は、過去に発行した国債の満期到来に伴う借換えのために発行するものであり、令和8年度の借換債発行額は135.8兆円となっている。
(2)消化方式別発行額
市場環境等を踏まえ、カレンダーベース市中発行額は168.5兆円とした(図表4 カレンダーベース市中発行額の推移)。具体的な年限構成については、市場のニーズを踏まえて、超長期債(40・30・20年債)の発行を各回1000億円ずつ減額する一方、中長期債(2・5・10年債)の発行は令和7年度補正後の規模を維持することとした。なお、クライメート・トランジション国債は、GX経済移行債及びその借換債のうち、資金使途等を定めたフレームワークに基づいて個別銘柄として発行するものであり、令和8年度は1.0兆円の発行を予定している。
個人向け販売分は、足元の販売状況等を踏まえ、前年度当初比1.3兆円増の5.9兆円としている。
3.国債の保有促進に向けた取組
研究会における議論や市場関係者との対話等を踏まえ、令和8年度国債発行計画の策定にあわせ、令和8年度に実施する新たな取組を公表した。
まず、令和8年度より、市場環境の変化への柔軟性を高めることを目的に、6月頃を目途として、進行年度中の発行計画について、市場関係者に対し「年央ヒアリング」を行うことで、定期点検の機会を導入することとした。
次に、市場のニーズを踏まえ、短期金利に連動した変動利付国債を発行することとした。具体的には、令和9年1月以降の発行開始を予定し、詳細について市場関係者と調整を進めている。
また、個人向け国債について、個人に加え、安定的な保有が期待される非営利法人等(学校法人、マンション管理組合等)に販売対象を拡大し、これにあわせて名称を「個人向け国債プラス」に変更することとした。販売対象の拡大時期は、令和9年1月発行分(令和8年12月募集分)を予定している。
4.おわりに
令和8年度国債発行総額は、依然として極めて高い水準となっており(図表5 国債発行総額の推移)、国債発行残高についても、令和8年度末に約1,239.1兆円に達すると見込まれている(図表6 国債発行残高の推移)。
国債市場を取り巻く国内外の環境が大きく変わる中、国債発行当局としては、引き続き国債市場の動向を注視しつつ、市場関係者との緊密な対話を行い、中長期的な需要動向を見極め、安定的で透明性の高い国債発行に努めてまいりたい。
図表1 年限別国債金利の推移
図表2 国債及び国庫短期証券(T-Bill)の保有者別残高の推移
本稿では、令和7年12月26日に公表した令和8年度国債発行計画の内容を中心として、国債発行を取り巻く最近の動きについて概要を説明したい。
1.国債管理政策の方向性
(1)令和7年の国債市場の状況
令和7年1月、日本銀行により政策金利が0.50%に引き上げられることが決定され、その後、12月には0.75%へ引き上げられた。また、6月に長期国債買入れ予定額を、令和8年1~3月まで毎四半期4,000億円程度ずつ、令和8年4~6月以降毎四半期2,000億円程度ずつ減額する計画が決定された。
令和7年の国債金利は、日本銀行による金融政策の見直しを含め、米国による関税政策、国内生命保険会社による規制対応を目的とした超長期債需要の一巡、参議院選挙や当初及び補正予算編成に伴う財政拡張懸念、インフレに対する見通しなど様々な要因を背景に、1年間を通じて上下動しながらも概ね金利上昇基調で推移し、年末に長期金利(10年債金利)は2.0%台まで上昇した。
(2)「国の債務管理に関する研究会」における議論
このように、国債市場を取り巻く環境は大きく変化しているところであり、国債発行当局としては、中長期的な調達コストを抑制しつつ、確実かつ円滑な国債の発行を実現することが引き続き重要な課題となっている。こうした中、昨年11月には第9回「国の債務管理に関する研究会」(以下、「研究会」という)を開催し、今後の国債の安定的な発行をどのように図っていくか、有識者の方々に中長期的な視点から議論いただいた。
まず、JPモルガン証券株式会社の山脇貴史債券調査部長より、超長期国債市場に関する説明が行われた。次に、日本経済研究センターの左三川郁子金融研究室長より、タームプレミアムの上昇と金融機関の国債の買い入れ余力に関する説明が行われた。最後に、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社の大塚崇広シニア債券ストラテジストより、国債発行計画の在り方や家計による国債保有促進策に関する説明が行われた。
その後は、それぞれの発表に関する質疑応答や現下の国債市場に関する分析の披露など、活発な意見交換が行われた。その中では、予見可能性にも留意しつつ、国債発行計画に柔軟性をもたせることについて検討を深めるべきだという意見や金融機関の国債保有を増やすための取組を進めるべきだといった声も聞かれた。
2.令和8年度国債発行計画の概要
市場環境や研究会における議論を踏まえつつ、昨年11月・12月に実施した「国債市場特別参加者会合」及び「国債投資家懇談会」等において、市中発行の年限構成等について市場関係者(機関投資家、証券会社等)との対話をきめ細かく実施した上で、令和8年度国債発行計画を策定した。以下、その概要を述べる。
(1)発行根拠法別発行額
令和8年度の国債発行総額は前年度当初比+3.8兆円の180.7兆円となっており、依然として極めて高い水準が続いている。
発行根拠法別の内訳(図表3 令和8年度国債発行計画の概要左)をみると、まず、一般会計予算の歳入となる新規国債(建設国債・特例国債)は、前年度当初比+0.9兆円の29.6兆円となっている。
復興債は、東日本大震災からの復興のための施策に要する費用の財源に充てるため、復興特別税等の収入が確保されるまでのつなぎとして発行されるものであり、令和8年度は0.0兆円(66億円)の発行を予定している。
GX経済移行債は、今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実現すべく、国として20兆円規模の大胆な先行投資支援を実行するために創設され、令和8年度は1.0兆円の発行を予定している。
子ども特例債は、こども・子育て政策の抜本的な強化に当たり、令和10年度にかけて安定財源を確保するまでの間に財源不足が生じないよう、必要に応じ、つなぎとして発行される。令和8年度の発行額は0.5兆円を予定している。
半導体・AI債は、令和7年度から令和12年度までの各年度に限り、先端半導体・人工知能関連技術措置に要する費用の財源を確保するために、必要に応じ、つなぎとして発行される。令和8年度の発行額は0.8兆円を予定している。
財投債は、財政融資の新規貸付規模や財政融資資金全体の資金繰り等を勘案した結果、令和8年度は13.0兆円の発行を予定している。
借換債は、過去に発行した国債の満期到来に伴う借換えのために発行するものであり、令和8年度の借換債発行額は135.8兆円となっている。
(2)消化方式別発行額
市場環境等を踏まえ、カレンダーベース市中発行額は168.5兆円とした(図表4 カレンダーベース市中発行額の推移)。具体的な年限構成については、市場のニーズを踏まえて、超長期債(40・30・20年債)の発行を各回1000億円ずつ減額する一方、中長期債(2・5・10年債)の発行は令和7年度補正後の規模を維持することとした。なお、クライメート・トランジション国債は、GX経済移行債及びその借換債のうち、資金使途等を定めたフレームワークに基づいて個別銘柄として発行するものであり、令和8年度は1.0兆円の発行を予定している。
個人向け販売分は、足元の販売状況等を踏まえ、前年度当初比1.3兆円増の5.9兆円としている。
3.国債の保有促進に向けた取組
研究会における議論や市場関係者との対話等を踏まえ、令和8年度国債発行計画の策定にあわせ、令和8年度に実施する新たな取組を公表した。
まず、令和8年度より、市場環境の変化への柔軟性を高めることを目的に、6月頃を目途として、進行年度中の発行計画について、市場関係者に対し「年央ヒアリング」を行うことで、定期点検の機会を導入することとした。
次に、市場のニーズを踏まえ、短期金利に連動した変動利付国債を発行することとした。具体的には、令和9年1月以降の発行開始を予定し、詳細について市場関係者と調整を進めている。
また、個人向け国債について、個人に加え、安定的な保有が期待される非営利法人等(学校法人、マンション管理組合等)に販売対象を拡大し、これにあわせて名称を「個人向け国債プラス」に変更することとした。販売対象の拡大時期は、令和9年1月発行分(令和8年12月募集分)を予定している。
4.おわりに
令和8年度国債発行総額は、依然として極めて高い水準となっており(図表5 国債発行総額の推移)、国債発行残高についても、令和8年度末に約1,239.1兆円に達すると見込まれている(図表6 国債発行残高の推移)。
国債市場を取り巻く国内外の環境が大きく変わる中、国債発行当局としては、引き続き国債市場の動向を注視しつつ、市場関係者との緊密な対話を行い、中長期的な需要動向を見極め、安定的で透明性の高い国債発行に努めてまいりたい。
図表1 年限別国債金利の推移
図表2 国債及び国庫短期証券(T-Bill)の保有者別残高の推移

