関税局関税課 関税企画調整室長 長谷川 悠
令和8年度の関税改正は、国税と同様に、与党における税制改正プロセスを経て、「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)にその内容が盛り込まれた。本稿においては、「令和8年度税制改正の大綱」のうち関税の主な内容について説明したい。
1.暫定税率等の適用期限の延長等
暫定税率は、政策上の必要性等から、適用期限を定めて基本税率を暫定的に修正する税率である。令和8年3月31日に適用期限が到来する、とうもろこしや麦芽等412品目に係る暫定税率について、国内の生産者及び消費者等に及ぼす影響、国際交渉との関係、産業政策上の必要性等を考慮し、404品目に係る暫定税率の適用期限を1年延長する。
ウルグアイ・ラウンド合意に基づいて関税化された米、麦、乳製品等については、輸入数量が一定の水準を超えた場合等に関税率を一時的に引き上げる特別緊急関税制度が設けられている。国内産業保護等の観点から、令和8年3月31日に到来する同制度の適用期限を1年延長する。
国内産糖と競合関係にある加糖調製品(砂糖と砂糖以外のココア粉やミルク等の混合物)は、CPTPP関税割当枠外の輸入及びCPTPP加盟国以外の国からの輸入に係るものについて、WTO譲許税率を下回る暫定税率を設定し、これらの税率の差分が調整金として徴収されている。糖価調整制度に基づき国内産糖への支援の原資となる調整金について、その取り幅を拡大することが可能となるよう、加糖調製品のうち5品目の暫定税率を引き下げる。
石油化学製品製造用揮発油(ナフサ)、灯油及び軽油については、国内需要を賄うために輸入に依存する構造にあり、国産品と輸入品の間で内外価格差も生じていない。また、中国や北米等で石油化学製品の生産能力が増強され、我が国の石油化学産業は海外との激しい競争に晒されている。こうした中、国内産業を保護し、原料を安定的かつ安価に供給する必要があることから、現行の暫定税率を廃止し、基本税率により無税とする。
航空機部分品等免税制度については、航空機部分品の製造に際し、国産困難な部分品等は輸入に依存しているため、航空機部分品等の免税輸入を通じて、コスト軽減に資するものとなっている。こうした点を踏まえ、令和8年3月31日に適用期限が到来する航空機部分品等免税制度については、その適用期限を令和11年3月31日まで3年間延長とする。
加工再輸入減税制度については、安価な海外製原材料による製品の輸入が増加している我が国の繊維・皮革産業においては、本制度を利用し、国産の材料を一旦輸出して海外で加工した後、再び輸入することで、国産材料の利用促進と生産コストの削減による産業全体の活性化及び競争力の強化を図っている。こうした点を踏まえ、令和8年3月31日に適用期限が到来する加工再輸入減税制度については、その適用期限を令和11年3月31日まで3年間延長する。
2.急増する少額輸入貨物への対応
令和6年の輸入許可件数は約1億9千万件と、コロナ禍前(令和元年:約4,600万件)の約4.1倍に増加しており、特に課税価格の合計額が1万円以下の輸入貨物が全体の約9割を占め、その多くが中国・韓国を原産地とするものである。越境EC(電子商取引:E-Commerce)を含めたネットショッピングの利用は年々増加しており、令和6年の国内におけるネットショッピングの1か月平均支出額は平成30年の約2倍、利用世帯も10年で倍増するなど、ECが生活に浸透していると言える。
こうした環境変化の下、越境ECの健全な発展を阻害しない形で輸入貨物の急増に対応し、「安全・安心な社会の実現」「適正かつ公平な関税等の徴収」「貿易の円滑化」という社会的要請に応える観点から、通関業者・保税業者の適正な業務運営の確保と、国外事業者と国内事業者の間の競争条件の不均衡の是正を図る制度的な対応が必要であるため、以下の改正を行う。
保税制度は、外国貨物を税関の監督下にある保税地域に置いて管理することにより、不正薬物・銃器等の国内への流入防止や関税等の適正徴収を確保する制度である。越境ECの拡大に伴い輸入件数が急増する中、一部の保税業者(保税地域の被許可者等)において不適正な貨物管理や従業者の不正関与が疑われる事案が発生しており、保税業者の業務運営に対する監督の実効性を高める必要がある。このため、保税業者に対し貨物管理に関する体制・手順を定める規則の制定を義務付けるとともに、保税業者が関税法の規定に従い業務を行わなかった場合等に税関長が改善措置を命ずる「業務改善命令」を創設する。また、業務改善命令に違反した際に行政処分を行う旨の規定及び罰則を新設する。さらに、一部の保税業者において輸入許可未済の貨物を搬出したことが疑われる事案が発生したことを踏まえ、保税地域からの搬出時に必要な許可・承認・届出があることを確認する義務及びその違反に対する罰則を設ける。
課税価格決定の特例は、携帯品又は輸入取引が小売段階によるものと認められる貨物等で、輸入者の個人的な使用に供されると認められるもの(以下「個人使用貨物」という。)に限り「海外小売価格×0.6」で課税価格を算出するものであり、海外旅行土産等を念頭に昭和55年に法制化された。しかし、現在では本特例が適用された貨物の9割以上が課税価格の合計額が1万円以下であり、越境ECにより個人が容易に輸入できる商品に広く適用されていると考えられる。また、本特例の適用により、国外事業者から直接購入した商品については関税等の負担が相対的に軽減される一方、国内事業者が販売する同種の商品には通常の課税が行われるため、国外事業者と国内事業者の間で競争上の不均衡が生じているほか、個人使用貨物と偽って輸入する事例もみられる。こうした状況を踏まえ、課税の公平性の確保と国内外事業者間の不均衡な競争環境の是正の観点から、本特例を廃止する。
3.不当廉売関税に係る迂回防止制度の創設
不当廉売関税(AD関税)制度は、ダンピングされた輸入貨物から国内産業を保護するため、供給国や対象産品等を指定して通常の関税の他に割増関税を課す仕組みである。しかし近年、課税を免れる目的で供給国や品目を形式的に変更しつつ、実質的には課税命令前と同様の商取引を継続する「迂回」行為が発生し、制度の効果が減殺されている疑いが生じている。我が国においても、類似品の輸入増加や第三国経由の輸入増加がみられ、迂回が疑われる事例が存在する。
G20をはじめとする主要国では、既存のAD関税の課税措置(以下、「原措置」という)に対する迂回行為が確認された場合に、課税の対象国や対象産品を拡大できる迂回防止制度が既に導入されている。我が国としても、WTO協定の趣旨を踏まえつつ、迂回行為に対する迅速な救済と抑止を可能とする制度整備が求められている。
こうした状況を踏まえ、「不当廉売関税の迂回防止に関するワーキンググループとりまとめ」に基づき、迂回行為を第三国迂回、軽微変更迂回、輸入国迂回の三類型として整理し、利害関係者の意見表明の機会などを確保しながら、AD関税の課税を免れる目的のない合理的な経済活動を行っている者による課税からの「除外申請」に係る調査も含め原則10か月以内(必要に応じ最大6か月延長)の期間で迂回防止調査を行い、迂回の事実および損害等の事実が認められる場合には、迂回された輸入貨物に対しても原措置と同等の割増関税を賦課する制度を創設する。
4.関税の犯則調査・処分に係る手続のデジタル化
令和7年5月、情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号)が公布された。刑事手続と同様に税関の犯則調査・処分に係る手続の円滑化や迅速化を進め、あわせて当該調査等に関与する国民の負担軽減を図る観点から、関税法上の犯則調査手続を刑事訴訟法の改正内容に沿って見直すことが求められる。
まず、裁判所が発する許可状により、USBメモリ等の物理的な記録媒体の授受を介さずオンラインで通信履歴等の電子データの提供を受けることを可能とする電磁的記録提供命令の制度を関税法に設ける。また、手続の迅速化を図る観点から、捜索・差押許可状の請求・交付・提示の電子化、及び告発についても電子化を可能とする規定を設ける。加えて、税関職員の事務負担を軽減し、資料の真正性を確保する観点から、差押目録や調書を電子データとして作成・管理できる規定を整える。
令和8年度の関税改正は、国税と同様に、与党における税制改正プロセスを経て、「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)にその内容が盛り込まれた。本稿においては、「令和8年度税制改正の大綱」のうち関税の主な内容について説明したい。
1.暫定税率等の適用期限の延長等
暫定税率は、政策上の必要性等から、適用期限を定めて基本税率を暫定的に修正する税率である。令和8年3月31日に適用期限が到来する、とうもろこしや麦芽等412品目に係る暫定税率について、国内の生産者及び消費者等に及ぼす影響、国際交渉との関係、産業政策上の必要性等を考慮し、404品目に係る暫定税率の適用期限を1年延長する。
ウルグアイ・ラウンド合意に基づいて関税化された米、麦、乳製品等については、輸入数量が一定の水準を超えた場合等に関税率を一時的に引き上げる特別緊急関税制度が設けられている。国内産業保護等の観点から、令和8年3月31日に到来する同制度の適用期限を1年延長する。
国内産糖と競合関係にある加糖調製品(砂糖と砂糖以外のココア粉やミルク等の混合物)は、CPTPP関税割当枠外の輸入及びCPTPP加盟国以外の国からの輸入に係るものについて、WTO譲許税率を下回る暫定税率を設定し、これらの税率の差分が調整金として徴収されている。糖価調整制度に基づき国内産糖への支援の原資となる調整金について、その取り幅を拡大することが可能となるよう、加糖調製品のうち5品目の暫定税率を引き下げる。
石油化学製品製造用揮発油(ナフサ)、灯油及び軽油については、国内需要を賄うために輸入に依存する構造にあり、国産品と輸入品の間で内外価格差も生じていない。また、中国や北米等で石油化学製品の生産能力が増強され、我が国の石油化学産業は海外との激しい競争に晒されている。こうした中、国内産業を保護し、原料を安定的かつ安価に供給する必要があることから、現行の暫定税率を廃止し、基本税率により無税とする。
航空機部分品等免税制度については、航空機部分品の製造に際し、国産困難な部分品等は輸入に依存しているため、航空機部分品等の免税輸入を通じて、コスト軽減に資するものとなっている。こうした点を踏まえ、令和8年3月31日に適用期限が到来する航空機部分品等免税制度については、その適用期限を令和11年3月31日まで3年間延長とする。
加工再輸入減税制度については、安価な海外製原材料による製品の輸入が増加している我が国の繊維・皮革産業においては、本制度を利用し、国産の材料を一旦輸出して海外で加工した後、再び輸入することで、国産材料の利用促進と生産コストの削減による産業全体の活性化及び競争力の強化を図っている。こうした点を踏まえ、令和8年3月31日に適用期限が到来する加工再輸入減税制度については、その適用期限を令和11年3月31日まで3年間延長する。
2.急増する少額輸入貨物への対応
令和6年の輸入許可件数は約1億9千万件と、コロナ禍前(令和元年:約4,600万件)の約4.1倍に増加しており、特に課税価格の合計額が1万円以下の輸入貨物が全体の約9割を占め、その多くが中国・韓国を原産地とするものである。越境EC(電子商取引:E-Commerce)を含めたネットショッピングの利用は年々増加しており、令和6年の国内におけるネットショッピングの1か月平均支出額は平成30年の約2倍、利用世帯も10年で倍増するなど、ECが生活に浸透していると言える。
こうした環境変化の下、越境ECの健全な発展を阻害しない形で輸入貨物の急増に対応し、「安全・安心な社会の実現」「適正かつ公平な関税等の徴収」「貿易の円滑化」という社会的要請に応える観点から、通関業者・保税業者の適正な業務運営の確保と、国外事業者と国内事業者の間の競争条件の不均衡の是正を図る制度的な対応が必要であるため、以下の改正を行う。
保税制度は、外国貨物を税関の監督下にある保税地域に置いて管理することにより、不正薬物・銃器等の国内への流入防止や関税等の適正徴収を確保する制度である。越境ECの拡大に伴い輸入件数が急増する中、一部の保税業者(保税地域の被許可者等)において不適正な貨物管理や従業者の不正関与が疑われる事案が発生しており、保税業者の業務運営に対する監督の実効性を高める必要がある。このため、保税業者に対し貨物管理に関する体制・手順を定める規則の制定を義務付けるとともに、保税業者が関税法の規定に従い業務を行わなかった場合等に税関長が改善措置を命ずる「業務改善命令」を創設する。また、業務改善命令に違反した際に行政処分を行う旨の規定及び罰則を新設する。さらに、一部の保税業者において輸入許可未済の貨物を搬出したことが疑われる事案が発生したことを踏まえ、保税地域からの搬出時に必要な許可・承認・届出があることを確認する義務及びその違反に対する罰則を設ける。
課税価格決定の特例は、携帯品又は輸入取引が小売段階によるものと認められる貨物等で、輸入者の個人的な使用に供されると認められるもの(以下「個人使用貨物」という。)に限り「海外小売価格×0.6」で課税価格を算出するものであり、海外旅行土産等を念頭に昭和55年に法制化された。しかし、現在では本特例が適用された貨物の9割以上が課税価格の合計額が1万円以下であり、越境ECにより個人が容易に輸入できる商品に広く適用されていると考えられる。また、本特例の適用により、国外事業者から直接購入した商品については関税等の負担が相対的に軽減される一方、国内事業者が販売する同種の商品には通常の課税が行われるため、国外事業者と国内事業者の間で競争上の不均衡が生じているほか、個人使用貨物と偽って輸入する事例もみられる。こうした状況を踏まえ、課税の公平性の確保と国内外事業者間の不均衡な競争環境の是正の観点から、本特例を廃止する。
3.不当廉売関税に係る迂回防止制度の創設
不当廉売関税(AD関税)制度は、ダンピングされた輸入貨物から国内産業を保護するため、供給国や対象産品等を指定して通常の関税の他に割増関税を課す仕組みである。しかし近年、課税を免れる目的で供給国や品目を形式的に変更しつつ、実質的には課税命令前と同様の商取引を継続する「迂回」行為が発生し、制度の効果が減殺されている疑いが生じている。我が国においても、類似品の輸入増加や第三国経由の輸入増加がみられ、迂回が疑われる事例が存在する。
G20をはじめとする主要国では、既存のAD関税の課税措置(以下、「原措置」という)に対する迂回行為が確認された場合に、課税の対象国や対象産品を拡大できる迂回防止制度が既に導入されている。我が国としても、WTO協定の趣旨を踏まえつつ、迂回行為に対する迅速な救済と抑止を可能とする制度整備が求められている。
こうした状況を踏まえ、「不当廉売関税の迂回防止に関するワーキンググループとりまとめ」に基づき、迂回行為を第三国迂回、軽微変更迂回、輸入国迂回の三類型として整理し、利害関係者の意見表明の機会などを確保しながら、AD関税の課税を免れる目的のない合理的な経済活動を行っている者による課税からの「除外申請」に係る調査も含め原則10か月以内(必要に応じ最大6か月延長)の期間で迂回防止調査を行い、迂回の事実および損害等の事実が認められる場合には、迂回された輸入貨物に対しても原措置と同等の割増関税を賦課する制度を創設する。
4.関税の犯則調査・処分に係る手続のデジタル化
令和7年5月、情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和7年法律第39号)が公布された。刑事手続と同様に税関の犯則調査・処分に係る手続の円滑化や迅速化を進め、あわせて当該調査等に関与する国民の負担軽減を図る観点から、関税法上の犯則調査手続を刑事訴訟法の改正内容に沿って見直すことが求められる。
まず、裁判所が発する許可状により、USBメモリ等の物理的な記録媒体の授受を介さずオンラインで通信履歴等の電子データの提供を受けることを可能とする電磁的記録提供命令の制度を関税法に設ける。また、手続の迅速化を図る観点から、捜索・差押許可状の請求・交付・提示の電子化、及び告発についても電子化を可能とする規定を設ける。加えて、税関職員の事務負担を軽減し、資料の真正性を確保する観点から、差押目録や調書を電子データとして作成・管理できる規定を整える。

