主計局総務課主計官 松本 圭介
1.令和8年度予算編成の背景
名目GDPは600兆円を超えて700兆円に近づいており、高い成長の下では2040年頃に1千兆円程度の経済が視野に入る。賃上げ率が2年連続で5パーセントを上回るなど、日本経済は、「デフレ・コストカット型経済」から、新たな「成長型経済」に移行する段階まで来た。一方で、我が国は、静かな有事とも言うべき人口減少や、長期にわたるデフレから一転した物価高、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境等に直面している。こうした中で、潜在成長力は伸び悩み、個人消費は力強さを欠いている。
(注)令和7年度の実質GDP成長率は1.1%程度、名目GDP成長率は4.2%程度と見込まれており、令和8年度はそれぞれ1.3%程度、3.4%程度と見込まれている。
このような状況においては、今の国民の暮らしを守る物価高対策を早急に講じること、そして、日本経済の強さを取り戻すことが重要である。そのためには、生活の安全保障・物価高への対応、危機管理投資・成長投資による「強い経済」の実現、防衛力と外交力の強化を3つの柱として閣議決定した「「強い経済」を実現する総合経済対策」の裏付けとなる令和7年度補正予算を迅速かつ適切に執行するとともに、令和8年度予算、令和8年度税制改正を実行に移し、切れ目のない経済財政運営を行う必要がある。
高市内閣が掲げる「責任ある積極財政」は、プロアクティブな、先を見据えた財政政策であり、決して、いたずらに拡張的に規模を追求するものではない。国民生活の下支えや経済成長に資することが期待される施策には大胆に重点化する一方で、見込まれる効果が乏しい施策については見直しを行うなど、歳出・歳入両面で「強い経済」を支える財政構造への転換を図ることが重要である。引き続き、ワイズスペンディングを徹底しながら、成長率を高めていくことと相まって、政府債務残高の対GDP比を安定的に引き下げ、財政の持続可能性を、そして、マーケットからの信認を確保していく。
2.令和8年度予算の概要
(1)令和8年度予算のポイント
令和8年度予算は、令和7年度補正予算に続き、「強い経済」を実現する予算であり、複数年度の取組や歳出構造の平時化に向けた取組を推進し、重要施策について当初予算での増額を実現している。具体的なポイントは以下のとおりである。
【経済・物価動向等の反映】
社会保障関係費については、保険料負担の抑制努力を継続しつつ、人口構造の変化に伴う増分である高齢化による増加分(+2,500億円程度)に、診療報酬改定・介護報酬改定をはじめとする対応や、年金スライド分を含む、「経済・物価動向等への的確な対応分」(+5,200億円程度)を加算している。
非社会保障関係費についても、物価上昇と公務員人件費の増加を適切に反映している(+5,100億円)。
その際、個々の事業のレベルにおいても、物価上昇に合わせた官公需や公的制度についても、点検・見直しを推進しており、官公需の施設整備や委託・請負事業の単価や予算について、労務費や資材価格の上昇等を踏まえた引上げ、公的制度の基準額・閾値についても、物価動向を踏まえた基準額等の引上げなどの対応を行っている。
【財源を確保して複数年度で計画的に取り組んでいる重要施策の推進】
財源を確保しつつ複数年度で計画的に進めている重要施策として、防衛力強化、こども・子育て支援、GX、AI・半導体分野の投資を引き続き推進している。
【新たな財源確保や予算全体のメリハリ付けを通じた重要施策の充実】
いわゆる教育無償化や外国人施策等の充実、農業構造転換集中対策、重要物資等の確保対応など、新たな財源確保や予算全体のメリハリ付けを通じた重要施策の充実も行っている。
【歳出構造の平時化に向けたその他の取組】
診療報酬改定における令和9年度分の取扱いとして、診療報酬点数・予算措置を令和8年度分から上乗せするとともに、物価等が見通しと乖離し、経営に支障が生じた場合は更に調整を行うこととしている。また、日米投資イニシアティブへの対応として、NEXIの財務基盤を強化するため、上限3兆円の交付国債を発行することとし、令和8年度は、当面想定される案件への対応として、1兆7,800億円を交付することとしている。
【予算全体のメリハリ付けに向けた歳出抑制の取組】
予算全体のメリハリ付けに向けた歳出抑制の取組として、OTC類似薬を含む薬剤自己負担見直しなどの社会保障改革や、執行状況等を踏まえた補助金の見直しなどを実施している。
【財政規律への配慮】
令和8年度予算の国債発行額は29.6兆円と、17年ぶりに30兆円を下回った令和7年度当初予算(28.6兆円)に続き、2年連続で30兆円を下回り、公債依存度も低下している。あわせて、一般会計のプライマリーバランスは、当初予算としては、28年ぶりに黒字化している。このように財政規律にも配慮した姿となっている。
(2)令和8年度予算のフレーム
令和8年度予算の一般歳出については、70兆1,557億円であり、これに地方交付税交付金等20兆8,778億円及び国債費31兆2,758億円を加えた一般会計総額は、122兆3,092億円となっている。
歳入については、租税等の収入は83兆7,350億円、その他収入は8兆9,902億円を見込み、公債金は29兆5,840億円となっている。
(3)主要な経費の概要
社会保障関係費については、現役世代の保険料負担を含む国民負担を軽減する観点から、市場価格を反映した薬価改定や高額療養費制度の見直しなど、様々な制度改革・効率化努力を積み重ねることにより、実質的な伸びを高齢化による増加分に抑えた上で、診療報酬改定における今後の物価・賃上げ対応や、介護報酬改定、障害福祉サービス等報酬改定における現場で働く方々の処遇改善など、経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算している。これらの結果、39兆559億円を計上している。
文教及び科学振興費については、一連の政党間合意を踏まえ、財源を確保しつつ、いわゆる教育無償化を実現しております。また、中学校35人学級の実施等に向けて必要な措置を講じるほか、「新技術立国」の観点から、国立大学法人運営費交付金や科学研究費助成事業の増額により、基礎研究の充実強化等を行うとともに、AI・量子等の重要技術領域に係る研究開発等を推進することとしている。これらの結果、6兆406億円を計上している。
地方財政については、給与改定分や物価反映分を措置するなど、地方の一般財源総額を適切に確保しつつ、臨時財政対策債の発行額をゼロにするなど、地方財政の健全化を図ることとしている。これらの結果、20兆8,778億円を計上している。
防衛関係費については、厳しい安全保障環境の中で、防衛力整備計画に基づき、引き続き、防衛力を安定的に維持するための財源を確保しつつ、防衛力の強化を着実に進めている。これらの結果、8兆9,843億円を計上している。
公共事業関係費については、埼玉県八潮市における道路陥没事故の教訓を踏まえた取組や、規制・誘導手法の活用といったソフト対策との一体的取組などにより、防災・減災、国土強靱化を推進するとともに、成長力強化に向けたインフラ整備等についても重点的に取り組んでいくこととしている。これらの結果、6兆1,078億円を計上している。
経済協力費については、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を進めるとともに、同志国やグローバルサウス諸国との連携強化を図りつつ、ODAの効果的・効率的な実施に取り組むこととしている。これらの結果、5,108億円を計上している。
中小企業対策費については、適切な価格転嫁や生産性向上、事業承継・M&Aに対する支援など、賃上げ環境の整備等に取り組むこととしている。これらの結果、1,700億円を計上している。
エネルギー関係予算については、エネルギー対策特別会計において、GX経済移行債を発行し、カーボンニュートラル目標の達成に必要な民間のGX投資を支援するとともに、「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、産業競争力の強化、経済安全保障及びエネルギー政策上の観点から、AI・半導体分野への支援を実施するなど、当初予算を増額している。これらの結果、一般会計において8,001億円を計上し、エネルギー対策特別会計において、3兆4,343億円を計上している。
農林水産関係予算については、農業構造転換集中対策として、生産性向上に向けた大区画化やスマート農業の推進等の取組について、財源を確保し、当初予算を増額するほか、林業・水産業の持続的成長に向けた資源管理等に取り組むこととしている。これらの結果、2兆2,956億円を計上している。
東日本大震災からの復興については、第3期復興・創生期間の初年度において、帰還・移住支援や風評対策などにきめ細やかに対応するため、令和8年度東日本大震災復興特別会計の総額を6,334億円としている。
能登半島地震・豪雨災害からの復旧・復興については、被災者の生活・生業の再建支援やインフラ復旧などを引き続き推進していく。
3.結び
前述のとおり、令和8年度予算は、令和7年度経済対策・補正予算と合わせて、切れ目無く「強い経済」を実現する予算であり、関連法案と合わせて、国会での御審議を経て速やかに成立することが期待される。
我が国経済が転機を迎える今、名目GDPが拡大する中で、物価や金利が上昇するという新たな経済・社会状況に真摯に向き合うことが重要であり、引き続き、「強い経済」の構築と「財政の持続可能性」をバランス良く同時に実現していく必要がある。
(以上)
図表 令和8年度予算フレーム(概要)
図表 令和8年度予算のポイント
1.令和8年度予算編成の背景
名目GDPは600兆円を超えて700兆円に近づいており、高い成長の下では2040年頃に1千兆円程度の経済が視野に入る。賃上げ率が2年連続で5パーセントを上回るなど、日本経済は、「デフレ・コストカット型経済」から、新たな「成長型経済」に移行する段階まで来た。一方で、我が国は、静かな有事とも言うべき人口減少や、長期にわたるデフレから一転した物価高、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境等に直面している。こうした中で、潜在成長力は伸び悩み、個人消費は力強さを欠いている。
(注)令和7年度の実質GDP成長率は1.1%程度、名目GDP成長率は4.2%程度と見込まれており、令和8年度はそれぞれ1.3%程度、3.4%程度と見込まれている。
このような状況においては、今の国民の暮らしを守る物価高対策を早急に講じること、そして、日本経済の強さを取り戻すことが重要である。そのためには、生活の安全保障・物価高への対応、危機管理投資・成長投資による「強い経済」の実現、防衛力と外交力の強化を3つの柱として閣議決定した「「強い経済」を実現する総合経済対策」の裏付けとなる令和7年度補正予算を迅速かつ適切に執行するとともに、令和8年度予算、令和8年度税制改正を実行に移し、切れ目のない経済財政運営を行う必要がある。
高市内閣が掲げる「責任ある積極財政」は、プロアクティブな、先を見据えた財政政策であり、決して、いたずらに拡張的に規模を追求するものではない。国民生活の下支えや経済成長に資することが期待される施策には大胆に重点化する一方で、見込まれる効果が乏しい施策については見直しを行うなど、歳出・歳入両面で「強い経済」を支える財政構造への転換を図ることが重要である。引き続き、ワイズスペンディングを徹底しながら、成長率を高めていくことと相まって、政府債務残高の対GDP比を安定的に引き下げ、財政の持続可能性を、そして、マーケットからの信認を確保していく。
2.令和8年度予算の概要
(1)令和8年度予算のポイント
令和8年度予算は、令和7年度補正予算に続き、「強い経済」を実現する予算であり、複数年度の取組や歳出構造の平時化に向けた取組を推進し、重要施策について当初予算での増額を実現している。具体的なポイントは以下のとおりである。
【経済・物価動向等の反映】
社会保障関係費については、保険料負担の抑制努力を継続しつつ、人口構造の変化に伴う増分である高齢化による増加分(+2,500億円程度)に、診療報酬改定・介護報酬改定をはじめとする対応や、年金スライド分を含む、「経済・物価動向等への的確な対応分」(+5,200億円程度)を加算している。
非社会保障関係費についても、物価上昇と公務員人件費の増加を適切に反映している(+5,100億円)。
その際、個々の事業のレベルにおいても、物価上昇に合わせた官公需や公的制度についても、点検・見直しを推進しており、官公需の施設整備や委託・請負事業の単価や予算について、労務費や資材価格の上昇等を踏まえた引上げ、公的制度の基準額・閾値についても、物価動向を踏まえた基準額等の引上げなどの対応を行っている。
【財源を確保して複数年度で計画的に取り組んでいる重要施策の推進】
財源を確保しつつ複数年度で計画的に進めている重要施策として、防衛力強化、こども・子育て支援、GX、AI・半導体分野の投資を引き続き推進している。
【新たな財源確保や予算全体のメリハリ付けを通じた重要施策の充実】
いわゆる教育無償化や外国人施策等の充実、農業構造転換集中対策、重要物資等の確保対応など、新たな財源確保や予算全体のメリハリ付けを通じた重要施策の充実も行っている。
【歳出構造の平時化に向けたその他の取組】
診療報酬改定における令和9年度分の取扱いとして、診療報酬点数・予算措置を令和8年度分から上乗せするとともに、物価等が見通しと乖離し、経営に支障が生じた場合は更に調整を行うこととしている。また、日米投資イニシアティブへの対応として、NEXIの財務基盤を強化するため、上限3兆円の交付国債を発行することとし、令和8年度は、当面想定される案件への対応として、1兆7,800億円を交付することとしている。
【予算全体のメリハリ付けに向けた歳出抑制の取組】
予算全体のメリハリ付けに向けた歳出抑制の取組として、OTC類似薬を含む薬剤自己負担見直しなどの社会保障改革や、執行状況等を踏まえた補助金の見直しなどを実施している。
【財政規律への配慮】
令和8年度予算の国債発行額は29.6兆円と、17年ぶりに30兆円を下回った令和7年度当初予算(28.6兆円)に続き、2年連続で30兆円を下回り、公債依存度も低下している。あわせて、一般会計のプライマリーバランスは、当初予算としては、28年ぶりに黒字化している。このように財政規律にも配慮した姿となっている。
(2)令和8年度予算のフレーム
令和8年度予算の一般歳出については、70兆1,557億円であり、これに地方交付税交付金等20兆8,778億円及び国債費31兆2,758億円を加えた一般会計総額は、122兆3,092億円となっている。
歳入については、租税等の収入は83兆7,350億円、その他収入は8兆9,902億円を見込み、公債金は29兆5,840億円となっている。
(3)主要な経費の概要
社会保障関係費については、現役世代の保険料負担を含む国民負担を軽減する観点から、市場価格を反映した薬価改定や高額療養費制度の見直しなど、様々な制度改革・効率化努力を積み重ねることにより、実質的な伸びを高齢化による増加分に抑えた上で、診療報酬改定における今後の物価・賃上げ対応や、介護報酬改定、障害福祉サービス等報酬改定における現場で働く方々の処遇改善など、経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算している。これらの結果、39兆559億円を計上している。
文教及び科学振興費については、一連の政党間合意を踏まえ、財源を確保しつつ、いわゆる教育無償化を実現しております。また、中学校35人学級の実施等に向けて必要な措置を講じるほか、「新技術立国」の観点から、国立大学法人運営費交付金や科学研究費助成事業の増額により、基礎研究の充実強化等を行うとともに、AI・量子等の重要技術領域に係る研究開発等を推進することとしている。これらの結果、6兆406億円を計上している。
地方財政については、給与改定分や物価反映分を措置するなど、地方の一般財源総額を適切に確保しつつ、臨時財政対策債の発行額をゼロにするなど、地方財政の健全化を図ることとしている。これらの結果、20兆8,778億円を計上している。
防衛関係費については、厳しい安全保障環境の中で、防衛力整備計画に基づき、引き続き、防衛力を安定的に維持するための財源を確保しつつ、防衛力の強化を着実に進めている。これらの結果、8兆9,843億円を計上している。
公共事業関係費については、埼玉県八潮市における道路陥没事故の教訓を踏まえた取組や、規制・誘導手法の活用といったソフト対策との一体的取組などにより、防災・減災、国土強靱化を推進するとともに、成長力強化に向けたインフラ整備等についても重点的に取り組んでいくこととしている。これらの結果、6兆1,078億円を計上している。
経済協力費については、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を進めるとともに、同志国やグローバルサウス諸国との連携強化を図りつつ、ODAの効果的・効率的な実施に取り組むこととしている。これらの結果、5,108億円を計上している。
中小企業対策費については、適切な価格転嫁や生産性向上、事業承継・M&Aに対する支援など、賃上げ環境の整備等に取り組むこととしている。これらの結果、1,700億円を計上している。
エネルギー関係予算については、エネルギー対策特別会計において、GX経済移行債を発行し、カーボンニュートラル目標の達成に必要な民間のGX投資を支援するとともに、「AI・半導体産業基盤強化フレーム」に基づき、産業競争力の強化、経済安全保障及びエネルギー政策上の観点から、AI・半導体分野への支援を実施するなど、当初予算を増額している。これらの結果、一般会計において8,001億円を計上し、エネルギー対策特別会計において、3兆4,343億円を計上している。
農林水産関係予算については、農業構造転換集中対策として、生産性向上に向けた大区画化やスマート農業の推進等の取組について、財源を確保し、当初予算を増額するほか、林業・水産業の持続的成長に向けた資源管理等に取り組むこととしている。これらの結果、2兆2,956億円を計上している。
東日本大震災からの復興については、第3期復興・創生期間の初年度において、帰還・移住支援や風評対策などにきめ細やかに対応するため、令和8年度東日本大震災復興特別会計の総額を6,334億円としている。
能登半島地震・豪雨災害からの復旧・復興については、被災者の生活・生業の再建支援やインフラ復旧などを引き続き推進していく。
3.結び
前述のとおり、令和8年度予算は、令和7年度経済対策・補正予算と合わせて、切れ目無く「強い経済」を実現する予算であり、関連法案と合わせて、国会での御審議を経て速やかに成立することが期待される。
我が国経済が転機を迎える今、名目GDPが拡大する中で、物価や金利が上昇するという新たな経済・社会状況に真摯に向き合うことが重要であり、引き続き、「強い経済」の構築と「財政の持続可能性」をバランス良く同時に実現していく必要がある。
(以上)
図表 令和8年度予算フレーム(概要)
図表 令和8年度予算のポイント

