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PRI Open Campus~財務総研の研究・交流活動紹介~52

財務総合政策研究所 設立40周年記念企画セッション
~財政研究における行政機関とアカデミアの協働~(前編)

財務総合政策研究所総務研究部 主任研究官 大西 宏典

 2025年5月に、財務総合政策研究所(以下、「財務総研」)の前身となる大蔵省財政金融研究所が設立されてから40周年を迎えました。今回と次回のPRI Open Campusでは、財務総研設立40周年を記念して、日本財政学会第82回大会(日程:2025年10月25日・26日、会場:龍谷大学深草キャンパス)で開催した企画セッション「財政研究における行政機関とアカデミアの協働」の内容を2回に分けてお届けします。なお、本文の内容は全て発言者個人の意見であり、所属機関等の見解を表すものではありません。


1.講演「財政研究における行政機関の役割-財務総合政策研究所の活動と目指す姿-」(上田淳二・財務総研副所長)

[プロフィール]
京都大学経済学博士。1994年東京大学経済学部卒、大蔵省入省。財務省主税局調査課税制調査室長、京都大学経済研究所准教授、IMF財政局審議役、財務総研総務研究部長等を経て、2024年から現職。主な著書に『動学的コントロール下の財政政策』等。
講演資料は財務総研HPでDL可能です。
右のQRコードを読み込んでください。
 
 私からは、そもそも財務総研という組織がどういう生い立ちなのかということを簡単にご説明した後で、財務総研で今何をやっているのか、そして40周年を迎え、今後何をやっていこうと考えているのかについて、紹介させていただきたいと思います。
 1999年に刊行された第50号の『フィナンシャル・レビュー』に、元・大蔵事務次官の長岡實さんが「財政金融研究所の歩み」というエッセイを寄稿されていますので、ここではその内容を紹介させていただきます。
 長岡さんは、「昭和30年代の半ばごろまでは、大蔵省各局の調査課(または調査部門)は、ルーティンの仕事から一歩離れて基本的な諸テーマに取り組む時間を持っていた」としつつも、だんだんとそういう時間がなくなっていく中で、「毎日の仕事に追われる身となったが、(中略)諸施策の実行に当って、どれだけの財源でどれだけの政策効果を求めるべきかということを追究する必要性を痛感するようになった。(中略)財政金融研究所的な組織が必要だという考えは、私の心の中で日増しに強くなっていった」と回顧されています。
 そういった研究を行う組織として、1979年に財政金融研究室が大臣官房調査企画課に設けられ、初代室長には伊吹文明さん(元・衆議院議長)が就任されました。長岡さんによれば、研究室の設置を要求する書類には、「…新たな状況の下で客観的に分析し、理論だて、中長期の展望に立った財政金融政策の運営を行っていく必要に迫られている。かかる要請に応えるため、大蔵省内には財政金融の専門研究部門を新たに設けることとしたい」と書かれていたそうです。
 そして1985年に、既存組織のスクラップアンドビルドによって、舘龍一郎先生を所長とする財政金融研究所が設立されました。この1985年はプラザ合意が結ばれ、様々な意味で日本経済史における画期となった年ですが、長岡さんも「繁雑な日常業務から一歩はなれたところに、中長期的な視点に立った政策運営や制度のあり方を考える組織の必要性に迫られていた時代であった」と振り返っておられます。
 その後、2001年の省庁再編で財務総研へと名称が変更され、2025年で設立40周年を迎えたわけですが、1999年の時点で、長岡さんは次のように述べておられます。
 「…常に忘れてはならないことは、財政金融研究所のあり方として、大蔵省の各局の行政の動きとの間に血の通ったものでなければならない、という点であろう。財政金融研究所は大学の研究機関ではない。行政府のなかで、生きた行政との血を通わせつつ、しかも国内行政のみならず国際的にも広い視野を持って、新世紀に向かってわが国の財政金融は如何にあるべきか、如何なる問題を抱えているか、それに対して如何に対処すべきか、等々の問題に取り組んでほしい。」
 そうした思いを踏まえつつ、財務総研では、(1)研究活動、(2)財政史の編纂・刊行、(3)企業統計調査(法人企業統計等)の実施、(4)財務省職員への研修、という4つの大きな業務を行っています。
 そうは言っても、研究所はそれほど大きな組織ではありませんので、外部の研究者の方々とタッグを組んで研究を行うということを、設立以来重視してきました。その中でも最も歴史の長い活動と言えるのが、『フィナンシャル・レビュー』で、年に4冊程度を刊行しています。『フィナンシャル・レビュー』の創刊は1986年で、創刊号には、舘所長に加えて、植田和男先生、竹中平蔵先生、吉田和男先生といった方々が、執筆者として名を連ねておられます。
 また、外部の有識者の方々を招いて、日本経済・社会を俯瞰して課題を取り上げ、それを可視化することを目的とした研究会を、毎年度開催しています。最近では、「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」を、『経済セミナー』(2025年6・7月号)でも紹介していただきましたので、皆様の目に触れる機会もあったかもしれません。
 長岡さんの「生きた行政との血を通わせ」という言葉にもあるように、財務総研では、「行政の役に立つ研究」を念頭に、様々な研究に取り組んでいます。例えば、「ディスカッション・ペーパー」や「リサーチ・ペーパー」として過去1年間に公刊した論文では、所得税、上下水道、奨学金、台風災害時のBCP、為替レート、上位所得シェア、と多岐にわたるテーマを取り扱っていますが、これらに共通するのは、政策を議論するための前提として必要であり、かつ、それなりの時間と手間をかけなければ得られないような情報を提供するということだと思います。
 また、国際機関や海外研究機関との交流にも注力しています。例えば、IMF(国際通貨基金)やADBI(アジア開発銀行研究所)と連携した「Tokyo Fiscal Forum」を10年前から開催しており、今では年1回のイベントとして定着しています。また、最近では、日中韓3か国共同ワークショップの開催、韓国の租税財政研究院との研究交流活動等にも取り組んでいます。さらには、セミナーの開催や政策金融の定着支援といった活動を通じて、途上国への知的支援も行っています。
 財務総研は、財務省内における人材育成という役割も担っています。その中でも特に注力しているのが「財政経済理論研修」で、財務省の入省4年目の総合職若手職員を3ヶ月間お預かりし、通常業務から切り離して、研修に参加してもらっています。この研修は、財政経済理論に関する講義を200コマ程度受講するのと並行して、データを用いた実証分析・因果推論を自ら実施し論文にするというプログラムですが、2009年度から15年間以上続けてきた結果として、累計で343名が論文を執筆しています。その過程では、研究者の方々に、指導教官や講師といった様々な形で協力していただいていますので、改めて感謝申し上げるとともに、こうした努力が霞ヶ関の中における経済学リテラシーを高めることにつながることを、私自身も願っています。
 こうした多岐にわたる活動を実施する上では、やはり、その担い手が鍵となりますが、職員数は財務総研全体でも100名足らず、その中で研究活動に従事する職員は30名程度と限られています。その30名も、本省で採用された職員、地方支分部局で採用された職員、民間企業からの出向者、アカデミアから任期付きで採用している研究者、と非常に多様な「混成部隊」となっています。その上で、100名以上の外部の研究者の方々に、特別研究官や客員研究員等として、研究活動に協力していただいています。
 ここからは、設立40周年を迎え、財務総研が今後どのような取組を行っていこうとしているのかということを、個人的な見解ではありますが、紹介させていただきます。大きなミッションは3つあると考えています(図1 財務総研の3つのミッション)。(1)新たな情報の探索・整理と発信。これは、財務省の政策立案の役に立つ知見・情報を探索し、提供するということです。(2)財務省職員にとっての学習機会の提供。財政経済理論研修についても触れましたが、財務省職員のリテラシー向上を通じて、財務省全体の政策立案能力を底上げするということです。(3)次世代にとって有用なアセット(資産)の構築。常に次世代に何を残せるかを念頭に置いて活動するということも、研究所の重要な使命だと考えています。
 この3つのミッションの中で、例えば『フィナンシャル・レビュー』は情報の整理・探索を行い、次世代へのアセットを残すことにもつながる。ランチミーティングやセミナーは、新たな情報を探索し、財務省職員に学習機会を提供する、というように、複数のミッションに跨るような取組も行っています。その中でも、特に3つのミッションが重なる中心に位置するであろうと考えているのは、行政データの利活用です。
 2022年に、国税庁における「税務データを活用した共同研究」、財務省における「輸出入申告データを活用した共同研究」がスタートし、現在では閣議決定文書の中で、我々の取組を参考にしながら、ユースケースを増やしていくべきだということが、政府の方針として示されるまでになりました。もちろん、まだ様々なハードルがあるのですが、今後こうした取組をどう進めていくのか、ということについては、後程のパネルディスカッションで改めて議論できればと思います。
 財務総研で実施している「輸出入申告データを活用した共同研究」については、外部の研究者の方々に財務総研の客員研究官(国家公務員)になっていただいた上で、行政データを行政目的研究に利用していただく、というスキームで動いています。2022年から第1期の研究がスタートしまして、現在は第4期まで進んでおり、データにアクセスできる利用者は30名程度いらっしゃいます。その中には、本日もいらしている林正義先生や長谷川誠先生といった財政学会の方々も含まれておりまして、関税・輸出入申告の情報を使って、財政研究の側面から分析に取り組んでいただいています。
 共同研究の成果物は、財務総研の「ディスカッション・ペーパー」だけでなく、外部の学術誌への掲載も行われるようになりました。公刊済み論文のリストも、1枚のスライドだけで紹介するのが厳しくなってきています。その内容を見てみますと、やはり、貿易やインボイス通貨の実態について、非常に大規模な個票データを使うことによって、極めて精緻な分析を行えるということが大きな強みだと思います。また、共同研究で得られた知見を活用して、内部職員も輸出入申告データを使った研究に取り組み始めている、ということも紹介させていただきます。
 財政学会の皆様にとっては、国税庁の税務データの方が、より馴染みがあると思います。実際に、多くの財政学会の方々に、共同研究へ参画していただいています。こちらは国税庁が主体となって企画・運営しているものですが、スキームとしては輸出入申告データと同様です。税務データの方は既に第5期の研究が始まっていますが、多くの研究者の方々に、様々な形でこのプロジェクトを支えていただいていますので、この場で改めて感謝申し上げたいと思います。
 この6月には、2022年から始まった行政データ利活用の成果をまとめた『フィナンシャル・レビュー』の第160号を刊行しました。これまでの研究の成果の一部を、執筆者の皆様の協力を得て、発表させていただいています。
 最後に、今後の取組に関しては、パネルディスカッションで議論できればと思いますが、その導入として、『リサーチ・クエスチョンとは何か?』という本で、個人的に面白いと思ったベン図を紹介したいと思います(図2 問題関心の3領域)。
 研究テーマを考える上で、行政側は「どう社会の役に立つのか」ということを考えます。一方で、アカデミアの関心は「学術的な知見をどう丁寧に積み上げていくか」というところにあります。また、1人1人の研究者にとってみれば「いかに夢中になれるか」が大事、というように、それぞれが異なった関心や目的を持っています。
 では、財務総研が目指していくべきことは何だろうかと考えると、もちろん、省内から「こんなことをやってほしい」、「あんなことは分からないのか」というニーズの表明はあるのですが、その全てに応えられるだけのリソースはありません。かつ、そうした日々のニーズは、次世代に残せるようなアセットにつながるものや、アカデミアの関心に沿うようなものばかりではありません。
 一方で、単なる好奇心だけで研究を行うということは、我々のミッションではありません。そう考えると、やはりベン図の「C」と「S」の交差する領域に軸足を置きつつ、成果が上がり、アカデミアにも貢献できるものについては、我々も積極的に貢献していきたい、ということになります。つまり、この3つの関心が重なる領域を目指すということになるのですが、この領域がたまたま「Z」で、財務総研の頭文字も「Z」なので、この「Z」の領域を目指していこうということで、私の報告を終わらせていただきます。


2.パネリスト発表(1)(土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授)

[プロフィール]
1999年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、カリフォルニア大学サンディエゴ校客員研究員、慶應義塾大学准教授等を経て2009年から現職。主な著書に『地方債改革の経済学』、『入門 財政学』等。専門は財政学・公共経済学。

 財務総研40周年の企画に携わる機会をいただきまして、ありがとうございます。私も約20年前に財務総研で「青春時代」を過ごしましたし、その後も、アカデミアからどのように行財政運営に貢献できるのか、ということを常に考えてきた身ですので、本日はそうした経験の一端を紹介させていただきたいと思います。
 私は2002~2004年に財務総研の主任研究官を務めました。当時は2001年に省庁再編が行われ、それに合わせて、私立大学や民間企業から任期付き国家公務員を採用するという仕組みが初めてできたタイミングでもありました。国立大学と財務総研や前身の財政金融研究所とは、昔から人事交流があったのですが、私立大学から転籍するというパターンは、恐らく私が最初になったのではないかと思います。
 財務総研では、2年弱の間、お世話になりました。夜まで籠って終電もなくなった後に、財務省の官舎に行くバスに乗って帰った、というような懐かしい記憶もあります。大学に戻った後も、財務総研での縁もあって、財務省だけでなく、厚生労働省や経済産業省の審議会等の委員を経験させていただく機会に数多く恵まれました。
 また、現在、法人税のデータを使った研究を行わせていただいており、その成果を政府税制調査会の資料として採用していただくというようなこともありました。行政や政策立案の役に立つような研究というのは、これまでも注力してきましたし、今後も続けていきたいと思っています。
 ただし、研究者が政策的なインプリケーションを出そうとする時に、注意しなければならないのが「季節性」です。重要な政策提言であっても、季節を間違えると全く聞いてもらえない、ということが多々あります。特に「骨太の方針」が出る6月や、予算案が決まる12月の前に言わないと、予算編成の方針や予算案が決まった後では今更変えられない、ということになってしまいます。
 また、「政府の会議に関わりっぱなしだと、研究が疎かになるのではないか」ということも良く問われるのですが、幸いにもそういうことはありません。政府の会議にも季節性があって、例えば、通常国会が開かれている間は、あまり会議が開かれません。そうなると、会議の繁閑と「カウンターシクリカル」に研究ができるということで、非常に良くデザインできているなと思います(笑)。
 もちろん、研究者は政策担当者ではありませんので、「評論家的な立場で気楽だね」と言われることもありますが、研究者と政策担当者にはそれぞれの役割があるので、研究者はむしろ所掌に囚われなくて良いという立場を活かすべきだと思います。私は様々な省庁の会議に参加する中で、当然ながらダブルスタンダードになるつもりはなく、どの省庁でも同じ意見を話すことによって、所掌を乗り越えて持論を拡げることができるのではないかと考えています。
 他方で、最近はすぐにインターネットで炎上してしまうということで、特に経済学者の発信が弱まっているのではないかという印象を受けています。確かに、ある政策について賛否を明らかにすると、反対側から叩かれるということはあるかもしれませんが、やはり自らの研究成果を世の中に発信していく上では、多少なりとも政策に対する賛否を明らかにせざるを得ないし、研究者がそれを躊躇すべきではないのではないかと思います。
 また、最近のEBPM(証拠に基づく政策立案)の議論の中で、「死角」になっていると感じていることなのですが、財政学者の立場からすると、「他分野の研究者は気楽だな」と思うことがあります。それは、財政のことはあまり議論しなくとも良い、ということです。例えば、医療分野の研究者は、医療費をどう工面すれば良いかということについて、あまり詳しくは話しませんし、教育分野の研究者も「こういう教育手段が効果的だ」、「そのためには財源が必要だ」とおっしゃるのですが、その財源は何で賄うのかということまで、ぜひセットで語っていただきたいと思います。
 EBPMを進める中で、どういう政策が効果的なのかを議論することはもちろん大事なのですが、財源の話までパッケージにして、議論してほしいと思います。ただ、こうした財源論も含めて、大事だけれども、学会や世間で評価されにくい、学術誌に掲載されにくい、というテーマについては、研究に取り組む人があまりいません。特に若い研究者がこうしたテーマに取り組んでいないという現状があり、残念に思っているところです。
 それからもう1つ、最近のEBPMの議論の中で欠けていると感じるのは、「厚生分析」です。特に公共経済学では厚生分析を大事にしていて、社会全体の経済厚生がどうなっているかということを考えるわけですが、EBPMの文脈では、「特定の指標が増えれば良い」とか、「特定の人々のQOLが上がれば良い」というような議論に終始しがちな印象を受けます。もちろん、それはそれで大事なことですが、願わくは、もう少し経済厚生のことも考えてほしいと思います。
 最後に、財務総研に期待することについてお話をさせていただきます。上田副所長の講演の中でも、省内から様々なリクエストがあるとおっしゃっていましたが、これは非常に大事だと思います。そうしたリクエストに対して、財務総研のスタッフだけで対応することができないならば、むしろ研究者に対して「オープンクエスチョン」として提示してみてはいかがでしょうか。もちろん、外部に話せないようなこともあると思いますが、話しても良い内容であれば、「こういうことについて政策現場でエビデンスが欲しいと思っています」、「どなたか研究に協力してもらえませんか」と発信することで、政策現場とアカデミアの橋渡しとなるような役割を期待したいと思います。
 それから、税務データや輸出入申告データをはじめとした、行政記録情報を研究に活用するための基盤の構築ですとか、あるいは、最近では政府税制調査会のEBPM専門家会合というものもありますので、財政経済理論研修等を通じた、職員のEBPMに関する能力の向上といったことにも取り組んでいってほしいと期待しています。


3.パネリスト発表(2)(宇南山卓・京都大学経済研究所教授)

[プロフィール]
2004年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学、京都大学、神戸大学、一橋大学等で教鞭をとった後、2020年より現職。主な著書に『マクロ経済学の第一歩』、『現代日本の消費分析』等。専門は日本経済論・家計行動・経済統計。

 本日は「行政とアカデミアの協働」について、それぞれの経験をもとに議論するということですので、まず私が行政とどのような接点を持ってきたかを紹介させていただきます。
 私は財務総研で2013~2015年に、常勤の総括主任研究官を務めまして、その後は非常勤の特別研究官を務めています。それと似た形で、RIETI(経済産業研究所)のファカルティフェローも務めています。また、総務省統計研究研修所や国税庁税務大学校の客員教授、各省庁の審議会・研究会等のメンバーもいくつか経験してきました。
 これらは大きく、(1)行政への貢献と、(2)研究活動という2つのカテゴリーに分類できると思います。(2)研究活動については、財務総研とRIETIでは、基本的に「自分でテーマを決めて研究してください」という形式になっているのに対し、統計研究研修所と税務大学校は、「税務データ等にアクセスさせるために国家公務員の身分が必要なので、客員教授に任命して守秘義務を守らせる」という形式になっています。
 一方で、(1)行政への貢献については、各省庁の審議会・研究会等のメンバーが該当します。私は主に審議会よりも下位の、物価指数研究会や消費統計研究会、また、財務総研の法人企業統計研究会等に出ています。これらの研究会は常設で、各種の統計や政策の改善のために設置されているものですが、それとは別に、その時々の各省庁の関心に応じて開かれる臨時の研究会もあります。上田副所長が紹介された「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」や、内閣府が特別定額給付金の効果を評価するために設置した研究会等にも参加させていただいていますが、こういった研究会がこちらに含まれます。
 このように分けてみると、行政側にとっても、研究者である私にとっても、「win-win」だと思えるのは、統計委員会や常設の研究会です。これは、統計をどのように作っているか、どのような変更を予定しているか、といったことを担当者に説明してもらって、それに対して意見を述べるという会議です。自分の研究を行う際にも、まさに自分で調べないといけないような内容を現場の担当者が説明してくれるので、とても有益な機会になっていますし、行政側から見れば、経済学の専門家がアドバイスをくれるということで、両者にとって有益な情報交換の場になっています。
 一方、統計研究研修所や税務大学校については、データを使わせてもらえる私はラッキーなのですが、行政側から見ると、「変な使い方をしないかな」と感じているはずなので、どちらかと言えば、「研究者win」になっていると思います。逆に、各種の審議会は、行政側から見れば、専門家に「お墨付き」をもらえますし、私にとっても政策決定に関与できる場ではありますが、必ずしも自分の研究につながるわけではないので、どちらかと言えば、「行政win」になっていると思います。
 では、臨時の研究会はどうかと言えば、政策の分析や評価に研究者が参加する良い機会だと思いますし、行政側にとっても、研究者の知見が使いやすい場面であると思うので、こうした研究会が、行政とアカデミアの協働における鍵になるのではないかと思っています。
 持続可能な協働関係を作るために、何が重要かと言えば、それはお互いに利害が一致している、「win-win」である、ということだと思います。そのためには、研究者ももっと現実の制度や政策、データの詳細に関心を持たなければならないし、行政側ももっと自分たちの持っているデータを自分たちで分析しようとする必要があります。その過程で、お互いがお互いを必要とし、双方のニーズが一致するのではないかと思います。
 それから、人事交流も重要だと思いますが、若い研究者を、まずは研究会の委員ではなくオブザーバーとして、どんどん入れると良いのではないかと思います。その時に大切なのは、行政には行政の「フォーマット」があるということです。「この会議で議論しないといけないのはこの範囲だけです」、「我々が言えるのはここまでです」といったことを理解しない研究者の発言はほとんど意味がありません。逆に、これまでの研究成果を踏まえないような政策も、研究者から見れば意味がありません。ですから、お互いの「フォーマット」を知り合う機会を少しでも増やすべきだと思います。土居先生のような方に、政策プロセスの季節性を説明していただければ良いのですが、いきなり会議に出ると、なぜ今この話をしているのか、ということが分かりません。それを理解するための機会をもっと増やしてほしいと思います。
 以上をまとめると、研究者の側も、行政が知りたいことが研究者の知りたいことになるような研究スタイルをもっと作らないといけないし、行政の側も、もっと研究者がやっていることに関心を持って、必要な情報を提供してほしいと思います。そうしてお互いに関心を持ち合うことが、良い協働につながると考えています。


4.パネリスト発表(3)(宮本弘暁・財務総研総括主任研究官)

[プロフィール]
2009年ウィスコンシン大学マディソン校にて博士号(経済学)を取得。IMF財政局エコノミスト、東京都立大学経済経営学部教授、一橋大学経済研究所教授等を経て、2024年より現職。主な著書に『日本の財政政策効果』、『私たちの日本経済』等。専門はマクロ経済学・労働経済学・日本経済論。

 私は2024年に一橋大学から財務総研へ移り、総括主任研究官を務めています。過去には、国内のいくつかの大学に在籍した他、IMFにもエコノミストとして3年強の間、在籍しましたので、IMFと財務省という、国際機関と日本の行政機関の両方を経験させていただいたことになります。また、財務省以外の省庁とも、これまでに様々な接点を持たせていただいています。
 私自身は研究者なので、学術論文を書くことを大事にしていますが、同時に、一般書の執筆やメディア出演等も積極的に行い、対外的な情報発信にも注力してきました。そうした経験・立場から、行政とアカデミアが協働することのメリットや社会的意義を考えてみたいと思います。
 まず、研究者にとってのメリットを端的に申し上げると、「研究の幅が広がる」ということがあります。もちろん、アカデミアの中で知見を積み上げていって学術論文を公刊する、というのは素晴らしいことですし、私もそうしてきましたが、実際にIMFや財務省に身を置くと、政策現場で何が求められているのかが見えてきます。そして、それに対してアカデミアがきちんと応えられているかと言えば、必ずしもそうではありません。
 「こういうことが分かったら政策につながるのですが、そういう研究はありますか」と行政官の方に問われた時に、色々と調べても見つからないということは多々あります。それで、良く考えてみると、そのテーマが実は研究対象としても面白いと気づくこともあるので、視界が開けるという点で、研究者にとっても行政と関わるメリットは大きいのではないかと思います。また、経済学を実践する現場に身を置くことになるので、経済学が現実にどのように役に立つのかを、肌で感じることができるという点でも、アカデミアの外の世界に出ることは非常に重要だと思います。
 それから、ネットワーキングの面でも大変有益です。外の世界に出ると、研究者以外の方との付き合いが増え、そこから得られる知見や考え方も、研究者としての視界を広げてくれます。また、国際機関や行政機関での経験は、教育にも活かすことができ、「実際の経済や政策はこういうふうになっています」という話を学生に伝えていくことは、とても意義深いものだと思います。
 一方で、行政にとっての協働のメリットは、やはり「政策の質が向上する」ということだと思います。研究者は最先端の研究成果や分析手法といった、非常に強い武器を持っていますので、それを政策現場に取り込むことができるわけです。それで、行政が持っているデータに最新の分析手法を応用するとか、あるいはデータがない場合でも、先行研究はどうなっているのか、研究者はどう考えているのか、といった知見を得られることで、政策の質的な向上に直結すると思います。
 先程、研究の幅が広がるというお話をしましたが、政策現場で行った研究がアカデミアで通用しないかと言うと、そんなことは全くありません。例えば、私がIMFで行っていた財政政策の効果検証に関する論文は、国際的な学術誌にも掲載されていますし、「World Economic Forum」や「IMF Blog」といった、かなりビジビリティの高いところでも宣伝してもらっていて、私の研究者キャリアにとっても大きなプラスとなっています。
 また、財務総研で実施してきた研究の成果も学術誌に掲載されていますし、それだけでなく、AIの経済・社会への影響を議論するG7の専門家パネルにも参加させていただいて、その場で、つい最近、ノーベル経済学賞を受賞されたフィリップ・アギオン教授とも議論させていただくことができました。こうした経験は、今後の研究活動にも非常に役立つことになると考えています。
 では、協働を進めるために何が必要かと言えば、やはり人的交流だと思います。まずは行政機関に研究者を長期・短期で受け入れていただく、それによってお互いを知る、ということが第一歩だと思います。また、そういった人事交流以外にも、例えば、霞ヶ関が主催する研究セミナーの機会をもっと増やしていただいても良いのではないかと思いますし、上田副所長から財政経済理論研修の紹介がありましたけれども、行政官の方々に経済学を知っていただくような研修の機会に、研究者がもっと入り込んでいってネットワーキングをするということも重要だと思います。
 さらには、人材の循環が大事だと考えていまして、例えば、大学から行政機関や国際機関を経て、また大学に戻ってくるようなパスであったり、逆に、行政官の方が国際機関や大学に来たりというように、人材をどんどん循環させて、行政、アカデミア、国際機関と、それぞれの世界を知っている人を増やしていく必要があると思います。そうしてロールモデルが増えていけば、そういったキャリアパスに挑戦しようと思う若手の行政官や研究者も増えていくのではないかと思います。


5.パネリスト発表(4)(石川智久・日本総合研究所調査部長/チーフエコノミスト)

[プロフィール]
1997年東京大学経済学部卒、住友銀行入行。日本総合研究所、日本経済研究センター、三井住友銀行、内閣府等を経て、2023年から現職。主な著書に『「金利のある世界」の歩き方』、『大阪 人づくりの逆襲』等。専門はマクロ経済・経済政策。

 私は、アカデミアと行政の中点にある民間シンクタンクという立場から、お話をさせていただきます。これまでは、主にエコノミストとして、マクロ経済や経済政策の分析に従事してきましたが、2022~2023年には内閣府にも出向したことがあり、「骨太の方針」の策定や、「異次元の少子化対策」の取りまとめに携った経験もあります。そうした中で、民間シンクタンクと行政の協働はもっと進めなければならないし、アカデミアの知見をもっと行政や民間シンクタンクでも活用しなければならないと感じてきました。
 では、こうした協働のメリットや社会的意義は何かということについて、私の経験をもとにお話をさせていただきます。民間シンクタンクは、様々な企業との付き合いがありますので、そうした企業からのアネクドータルな情報も蓄積されています。また、日本総研はSMBCグループの企業ですので、系列の銀行等が持っているデータを使える場合もあります。このように、アカデミアや行政とは違った強みがありますので、お互いに協働することで、より良いアウトプットを出すことができるのではないかと考えています。例えば、民間シンクタンクが持っているデータを分析する時に、アカデミアや行政の方にも絡んでいただいて、その分析をもとに政策提言をしていくようなこともできるのではないかと思います。
 こうした協働を進めていく上では、先程から話題に出ている人的交流が重要だと思いますが、私の感覚では、日本もかなり「リボルビングドア」になってきたと感じます。「もう霞ヶ関で働きたくない」と言って日本総研に来る人も結構いますし、私のように霞ヶ関に出向する人も増えました。ただし、この「リボルビングドア」はなし崩し的に進んでいるわけで、もっと戦略的に進めないと、官民ともに人材が枯渇する恐れがあります。
 例えば、私が内閣府に出向した際に感じたのは、霞ヶ関において人員削減と業務拡大が続く中で、統計人材や分析人材が減ってきたということです。最近は、様々な省庁から分析人材を送ってほしいと頼まれるようになっていまして、我々としても積極的に送り出したいのですが、我々のリソースにも限度がありますので、こうした人事交流をもっと戦略的にやっていくことが重要であるという問題提起をしたいと思います。
 また、行政データの利便性を高めることは、民間企業にとってもありがたいことだと思っていますし、例えば、データの分析結果が政府からは発信しにくい性質のものであっても、民間やアカデミアという立場を使って発信していくというような連携もできるのではないかと思います。
 財政研究の成果についても、一般の方にどれだけ届いているのか、というのは疑問に感じることがあります。物事を分かりやすく伝えるというのは、民間シンクタンクの専門分野でもあるので、そういったところで我々をどんどん使っていってほしいと思っています。
 最後に、エコノミストが集えるプラットフォームのような場があると良いと考えています。専門的な技能を持つ人たちは、大体「ギルド」のようなものを作っていくわけで、例えば俳優の組合といったようなものもありますけれども、エコノミストの組合のようなものは作れないでしょうか。そういう場を、財務総研や財政学会が提供できると、多様な人がどんどん入ってきて、情報共有や協働も進むのではないかと期待しています。


財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html