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令和7年度上級管理セミナー

講師
佐藤 洋彰 氏
(株式会社 Matchbox Technologies代表取締役社長)
演題
日本は、本当に労働力不足なのか?~「眠れる労働力」を掘り起こす。地方自治体の挑戦~
令和7年11月25日(火)開催

はじめに
 ただいまご紹介にあずかりました、マッチボックステクノロジーズの佐藤です。
 弊社では、自治体による就業インフラの取組を支援しております。私たちはこれを「自治体マッチボックス事業」と呼んでいますが、国内ではまだ非常に珍しい取組です。世界の事例を探してみても、現時点で確認できる範囲では、参考になるものはほとんどありません。これは、少子高齢化が急速に進み、人手不足という課題に直面している日本という“人手不足の先進国”で生まれた仕組みなのだと思います。
 「日本は、本当に労働力不足なのか?」という逆張りのようなタイトルですが、こうした疑問に至った背景や、私たちのサービスの概要、課題の提起、そして自治体と連携したマッチボックスの事業、さらに具体的な事例について、皆さんと共有したいと思います。

会社概要・サービス概要
1.自己紹介
 私は静岡県出身で、幼少期はアメリカで過ごしました。高校生の頃には「起業しよう」と決めていたので、大学を中退して、19歳で新潟に来ました。アルビレックス新潟というサッカーチームの会長である事業家の池田弘さんから「新潟に来るなら、創業支援するよ」と、冗談半分で言われたことがきっかけです。池田さんには現在、弊社の会長をお願いしています。
 こうして私は、新潟で私の兄と高校の先輩とともに3人でローソンのコンビニ経営から事業を始めました。弊社の本社は、現在でも新潟にあります。
 コンビニ経営をするなかで人手不足がどんどん深刻になってきたことから、業界では異例でしたが、ローソンのフランチャイズ本部と協力して人手不足を解消しようという動きがでてきました。そして、2014年にローソン本部と合弁で「株式会社ローソンスタッフ」というローソン専用の人材会社を設立しました。現在も全国の加盟店のアルバイト採用支援を行っています。この会社では、ローソンスタッフの派遣やコールセンターを担う拠点を全国に作りました。
 しかし、それだけでは全国の加盟店を救うことができないという課題に直面しました。そこで、ITやアプリを活用し、もっと広域で、より手軽に、身近な方々を活用できるような仕組みを作りたいと考え、2018年から人材シェアリングのプラットフォームの開発に着手しました。のちに「マッチボックス」と呼ばれるシステムです。どの加盟店でも安心して使えるようにするため、約3年の時間をかけて開発し、2021年にリリースに至りました。
 翌年の2022年、ちょうどコロナ禍が終わる頃、新潟県の湯沢町と新潟県から「女性がもっと働きやすいマッチングシステムをつくれないか」というご相談をいただきました。そこで、おそらく国内で初めてとなる「自治体主導のスポットワーク」にチャレンジしていくことになり、現在に至っています。

2.マッチボックスが挑戦・提供するサービス

(1)日本の労働力不足を解消したい
 なぜ、私たちはこうした挑戦をしているのでしょうか。
 大きなテーマは、「日本の労働力不足を解消したい」、ということです。
 では、どのようにそれを実現するのか。それは「眠れる労働力」を掘り起こすこと。つまり、働ける人の数を増やし、そして働ける時間を増やすということです。この発想は、小売業から来ています。売上は「客数×客単価」で決まります。同じように、「働ける人を増やすこと」と「一人当たりの労働時間を増やすこと」が、労働力不足の解消につながるのではないか、そう考えました。
 では具体的に何をするのか。それは、自治体や企業向けにスポットワークの運用システムを提供することです。この仕組みを作ればうまくいくのではないか、という思いで、私たちはシステム開発に取り組みました。
 弊社が提供するシステムは2重構造になっています。一つが「公開型のプラットフォーム」です。これは、運営主体がいて、事業者が求人を広く一般に公開し、求職者が誰でも閲覧・応募できるスポットワークの環境です。
 もう一つが「自社専用のスポットワーク環境」です。これは業務システムに近いもので、各社専用のデータベースに人材を蓄積し、自前でマッチングできる仕組みです。アウトソースに頼らず、身近な方や自社のリソースをどんどん登録し、マッチングを内製化する「セルフソーシング」という概念でシステムを構築しています。
 この二つのシステムが連動することで、人材が効率よく循環していくのです。
(2)公開型のプラットフォーム
 公開型のプラットフォームは「〇〇による△△のためのスポットワークサービス」です。
 運営主体が変われば、対象者も変わります。例えば、〇〇が自治体であれば△△には地域企業や住民が、〇〇がフランチャイズチェーン本部であれば△△には加盟店などが入ります。依頼者ごとの目的や対象等に合わせ、最適なプラットフォームを構築しています。
 構造はとても簡単で、(1)「××公式スポットワーク」のような独自のプラットフォームを開設することでスポットワーク環境を構築する、(2)加盟店や地域企業等の事業所に提供する、(3)働きたい人と事業所をつなげる、の3段階です。
 最終的な目的はこの仕組みに依存することではありません。むしろ、各事業所が自社の従業員やメンバーをどんどん増やし、自立していくことを目指しています。
(3)自社専用のスポットワーク環境
 閉鎖的なスポットワーク環境である「自社専用マッチボックス」は、求人と求職者を自前でマッチングする「セルフソーシング」を実現するためのものです。
 まずは各社専用のデータベースに人材をどんどん蓄積していきます。対象者は、定年退職した方、OB・OG、外部から来たスポットワーカー、そして現役従業員です。こうした方々のデータを集め、自前でマッチングを行います。シフトを共有して公開すると、「その時間帯なら働けるよ」という方が、自ら手を挙げて応募してくれる、そういう仕組みです。
 そして、この二つのシステムを併用した事業モデルが最も効果的なのです。

3.コンビニオーナーがスポットワークのシステムを開発したわけ

 私は現在も、新潟、埼玉、東京、神奈川で40店舗のコンビニ経営をしております。では、なぜ、コンビニオーナーである私が、スポットワークのシステムを開発したのか。理由はとてもシンプルです。私自身、十数年にわたり、急な欠勤対応や深刻な人手不足で悩む店長の姿を見てきました。一方で、働き手からは「育児・介護などの事情で、今までのように固定シフトで働き続けるのが難しい」という声がありました。柔軟な働き方を実現する仕組みがないことで、店長も働き手も苦しんでいたのです。
 そこで、「アプリで依頼をすると、地域にいるローソン勤務経験者がすぐに駆けつけてくれるような、ローソンの人材シェアリングができたらいいな」「自社のOB・OGや現役従業員、そしてスポットワークで時々お手伝いに来てくれる方を、自前でマッチングできるようなシステムがあったらいいな」と思うようになりました。
 イメージしたのは二つのシステムです。一つは公開型で誰でも応募できる環境、もう一つは自社専用の閉鎖環境、そういった仕組みがあればいいなと思っていました。でも、世の中にそういったものがなかったので、自分たちで作ってみようと考えたのです。
 価値観や経験を共有する人材がチェーン全体、また自社内でどんどん循環していく仕組み、本部・加盟店・働き手の誰も損しない仕組みを目指しました。こうして生まれたのが、先ほどご紹介したシステムです。
先ほど、このシステムの開発と実証に数年を要したとお話しましたが、これは「労働者保護・コンプライアンス遵守」と「効率性」という、相反するものを徹底的に追求したからです。

4.システムを実際に創って分かったこと
 弊社が経営するコンビニエンスストア40店舗の実績から次のようなことがわかりました。
・内外(公開型と閉鎖環境)に求人を公開することで、働いてくれる人が増えた
・登録者の属性によって応募件数が異なる
・空きシフトの掲載件数を超える応募が発生した
・予想外の地域から応募が来る
 これらはすごく大きな発見でした。選択肢を提供すると、働き手の意思表示が可視化され、現場の店長には思った以上に選択肢があることが分かったのです。
 次に考えたのは、「この仕組みは他社、他業種、他地域でも再現できるのか?」ということです。そこで、同じチェーンの北海道のオーナーさんに試してもらいました。その結果、このオーナーさんは、常勤者630名の3倍の自社メンバーを確保し、期間平均の応募率も140%以上に達しました。私たち以上にうまくこのシステムを活用し、人手不足を解消しています。
 このほか、沖縄で多業種を展開するグループ企業では、特にシニアのOB・OGにスポットライトを当て、1日単位の復職制度を設けて集中的に運用しました。その結果、登録者は約1,300名に達し、60歳以上、特に70代の登録者が大活躍しています。月別・属性別の応募人数を見ると、多い月ではOB・OGが約200名稼働しており、年間では約46,000件の依頼に対して約39,000件の応募、37,000件以上の採用が実現しました。これまで外部へのアウトソースや既存従業員の時間外労働で対応していた業務を、シニアの活躍により効率的にマッチングできています。古巣で安心して働ける環境が整えば、日本の労働力不足は本当に解消できるのではないかと感じる、非常に貴重なデータです。
 次は東京の運送会社の事例です。運送会社はとても人手不足だという話はメディアでもよく出ますが、この会社は、自前で人材を確保して登録者を確保し、OB・OGと登録制のアルバイトで運用しています。
 求人に対してほぼ全ての月で応募が大幅に上回っていて、期間平均の応募率は約160%です。内製化率は驚異の100%ということで、ほぼ人手不足を解消したと言ってもいい状態です。

日本は、本当に労働力不足なのか?
 このように、自社だけでなく、他社、他業種、他地域でも、同じような現象が起きています。つまり「身近な人に機会を提供すると、人手不足が解消できる」のです。
 このように考えると、本当に日本は労働力不足なのでしょうか?不足しているのは、身近な方を活用できる環境ではないか、私はそう思っています。
1.全国2,126万の非正規労働者の状況
 全国には2,126万人の非正規労働者がいると言われています。「なぜ非正規を選んだのか?」という問いに対して、多くの方が「自分の都合のいい時間に働きたい」「家事・育児・介護との両立」と回答しています。こうした方が増えている一方で、一人当たりの働く時間がどんどん減少しているのです。
 それなら、自治体や企業が柔軟に働ける環境を整備すれば、労働力が確保できるのではないでしょうか。
 日本の非正規労働者2,126万人が月80時間程度働くと仮定すると、そこから得られる労働力は約17億時間です。この労働時間をさらに一人10時間ずつ増やせば、月間で2.1億時間増え、非正規労働者約260万人分の労働力が生まれるのと同じ効果です。
 これは、外国人技能実習生(47万人)や留学生の方の労働力(40万人)と比較すると、かなり大きなボリュームです。つまり、まだまだ日本には膨大な労働力が眠っているのではないか、私たちはそこに注目しています。

2.マッチボックスは自治体で活用できるのでは?~就業状況の分析

そこで、「公開型のプラットフォーム」と「自社専用マッチボックス」を自治体でも活用できるのではないかと考えました。すると、特にシニア層、育児・介護世代、若年層、こうした層が十分に活かされていない現状が見えてきました。
 事例として、ある県をサンプルとして分析しましたのでご紹介します。
(1)年齢別の就業状態
 まず、シニア層の問題です。全世代で有業率が大きく下がるのは定年を迎える65歳から69歳の層で、60歳から64歳の有業率72.6%に対し、65歳から69歳では49.9%と約23ポイントも下落しています。もしこの層が体調に合わせて1日単位で復職できる環境を整えられたら、非常に大きな効果があると思います。
 65歳~69歳の方は約15万人いますが、この層の有業率の低下を72%まで抑えることができれば、有業者が35,000人増え、さらにこの人たちが月20時間程度働けば、月間労働力は71万時間増加し、最低賃金換算でも給与は約7.7億円流通します。
 次に、育児・介護世代の女性の問題です。年齢が上がると本来は有業率が安定するはずですが、25歳~29歳から30歳~34歳になると5.4%下がり、さらに50歳~54歳から55歳~59歳でも6.8%と有業率が大きく下がります。これには育児や介護が影響している可能性があります。こうした方々が空いた時間で社会参加できれば、地域の労働力は増えるはずです。
 三つ目は若年層の問題です。どの地域でも共通していますが、若年層が東京や大都市に出て行き、戻ってこない状況があります。理由の一つは、15歳~19歳の有業率が非常に低いことです。地元の魅力を知らないまま県外に出てしまうため、戻るきっかけがないのです。大学時代に居酒屋でアルバイトし、そのまま就職するケースのように、環境整備で興味を持ってもらえれば、就業につながる可能性があります。こうした環境整備は地方自治体にとって非常に重要です。
 このように、各世代の有業率をきめ細かく支援することで、地域全体の労働力不足は大きく改善できると思います。
(2)男女の有業率比較
 次に、男女別の有業率を見ると、ほぼ全世代で女性の有業率が男性を下回っている状況です。
 「前職を離職した理由」を見ると、「出産・育児」「介護・看護」「結婚」という女性特有の理由が挙がっています。どんなライフステージでも働けるような環境が、特に女性には必要ではないかと考えさせられます。
(3)現在、無業者の方も「本当は働きたい」?
 人口263万人のうち、高齢者を含めて95万人が無業者です。そのうち16万人は就業希望、79万人は非就業希望と分類されています。
 非就業理由を見ると「出産・育児」「介護・看護」「仕事をする自信がない」「学校以外で資格取得の勉強中」などになっており、必ずしも「働く意思がない」とは言い切れません。
 上記のような理由の方は「非就業希望の方」ではなく「就業困難者」と見る方が正しいのではないでしょうか。例えば、育児をきっかけに仕事を辞めた方が15%、介護を理由に無職になった方が45%います。こうした方々が無理のない範囲で就業できる環境を整えることは、地域の労働力確保にとって大きな可能性があります。

3.自治体マッチボックス事業で「解決してみたい」
 県、市町村といった自治体が1日単位で働ける就業環境を整え、無業者を有業者に、有業者を納税者に、さらには長期雇用・キャリアアップへ、というような好循環が作れたら、地域の活性化につながるのではないかと私は思っています。スタートアップを育てよう、というようなマインドセットで、地域の人材にどんどん投資をしていくのです。
 こうして誕生したのが、「自治体マッチボックス」です。これは地方自治体が主導する、スポットワーク版のハローワークのような機能です。これで本当に課題の解決ができるのかを検証するため、2022年から取組を始めました。
 現在、様々な展開パターンが増えています。2022年に始めた当初は、市町村単独型でした。新潟県湯沢町による湯沢町のための「ゆざわマッチボックス」がその例です。翌年には県が入り、兵庫県による淡路地域のための「淡路島マッチボックス」がスタートしました。これは3市による複数市合同型となっています。他にも、富山県による農業に特化した「富山あぐりマッチボックス」、徳島県全域の「徳島マッチボックス」など、様々なタイプが増えてまいりました。
 現在、9府県59の対象市町村で18のプラットフォームを開設、支援しており、2026年にも新たに複数の市町村の参加を見込んでいます。
 自治体マッチボックス事業には「誰でも、どんなライフステージでも働ける、住みやすい地域づくりをしましょう」という共通した目的があります。そのために、まず働き方の選択肢を増やすことから始めます。
 全国には約1,700の自治体がありますが、ハローワークがある自治体は500~600程度だと思います。過疎地域など公共の職安機能が不足している部分を自治体マッチボックスで補完し、眠れる労働力を掘り起こそうとしています。

自治体マッチボックス事業の仕組み
1.自治体マッチボックスの運営体制
 どんな小さな町でも運営・開設できるように、自治体の専任者は不要です。担当者は付けていただきますが、事業計画の設定、KPIの設定、月次レポートを通じて、成果が出るまで私たちが伴走する体制としています。

2.事業の構造(取組の具体的内容)

 自治体マッチボックスの構造は先ほどご説明した仕組みを活用しています。
 まず、自治体が公開型の「××マッチボックス」を開設し、参加企業各社に自社専用マッチボックスを提供します。さらに、自治体にはリアルタイムで地域の雇用状況、活動状況がわかるようなデータ分析画面を提供し、雇用支援策に活用していただいています。

3.自治体のデータ活用

 自治体は、企業数や業種、年齢層別登録状況、月別求人・応募件数、労働時間、給与額、働き手の地域分布などを把握できます。
 「ゆざわマッチボックス」を活用している、スキーで有名な新潟県湯沢町は、人口8,000人程度です。求職者登録は全国どこからでもできるので、湯沢町内だけでなく、首都圏をはじめ全国各地に登録者がいます。例えば、関東の主婦が、子どもがスキーの練習をしている2時間の間に湯沢町のカフェで働いて、お小遣いを稼いで帰る、そんな流れも生まれています。求職者の年齢は幅広く、隣町から働きに来る70代の方もいらっしゃいます。
 月間就業時間は一番多い方で97時間です。先ほどの「眠れる労働力を掘り起こせるのか」という問いに対して、実際のデータによってその効果が可視化されています。
 こうしたデータをもとに、どういう雇用政策やキャンペーンをしていくか、どういう世代を主要対象にしていくのか、自治体の方と検討しています。
 また、南魚沼市や長岡市といった、近隣の自治体マッチボックスの開設地域からも「ゆざわマッチボックス」への応募が活発になっています。南魚沼市は湯沢町の隣に位置していますが、両地域は産業構造が全然違います。南魚沼市はキノコの食品製造など製造業が多いのですが、湯沢町は観光業が盛んです。湯沢町の求人は冬場が繁忙のピークで、3~6月には、途端に仕事の需要が減っていきます。一方で、南魚沼市ではその時期に人が必要になってくるので、相互補完をしているという関係です。湯沢町は南魚沼市から約1,000時間分の労働力を受け入れ、117万円ほどの給与を支払っているので、構図としてはどちらも損をしない状況です。

4.利用料金と費用
 利用企業は無料で求人掲載でき、採用時のみ手数料が発生します。通常の採用手数料は給与の19%で、自社メンバーとして採用する場合の手数料は給与の10%となり、より負担が軽くなります。
 自治体はデータを見ながら、人手不足が顕著な業種、業態や就労支援したい求職者の層等を定め、対象の企業が負担する採用手数料や労務処理費を補助により減額するなど、年度ごとに様々な就業支援策を実施できます。例えば「さどマッチボックス」では、様々な事情で働きにくさを感じる若者の社会復帰支援施策として、取組に賛同した事業者の採用手数料を無料としています。
 開設時の自治体側の費用としては、初年度に求職者向けサイト、企業向けサイト等の制作費を含む初期費用が必要です。2年目以降の運営費予算は、各自治体で決定していただきます。弊社の収益は、自治体からシステム料をもらうのではなく、その地域で発生した採用手数料から捻出しています。自治体には、1年間で終わるような事業ではなく、少なくとも3年間の継続を推奨しています。

自治体による雇用政策の実践・研究
1.スポットワーク市場の課題
 コロナ禍明け以降、「スポットワーク」という言葉を耳にする機会が増えました。登録人数は現在約3,200万人、そのうち6割が副業者というデータもあります。スポットワーク市場は拡大していますが、様々な課題があります。
(1)企業側による一方的な採用取消と休業手当の未払い
 一つ目は企業側による一方的な採用取り消しと休業手当の未払いの問題です。未払い賃金は総額で300億円以上あるだろうといわれています。
 一般的なスポットワーク市場での企業側の採用取消は13%程度とされていますが、自治体マッチボックスの2025年10月実績は、1.5%程度です。この乖離はどこから生まれるのでしょうか。
 理由は仕組みにあります。一般的なスポットワークでは、企業が求人を出し、応募者が先着順で即時採用されます。この場合、勤務直前に現場でQRコードをスキャンするまで労働条件が通知されません。したがって、それまでの期間は取消も自由ですし、通勤時の労災も適用されません。これが今問題になっています。
 自治体マッチボックスは「企業が求職者を選考して責任を持つ」という、すごく当たり前の仕組みとしています。また、求人応募に対して企業が採用ボタンを押す前に、「この応募者を取消した際には、補償が発生する」ことに同意してもらったうえで採用が確定します。
 企業が採用取消を行う場合は、取消理由を選択し、休業手当をシステムが自動計算して、事務局から労働者に直接払い込みます。
(2)適切な所得区分での運用
 二つ目は適切な所得税区分で運用されていないという問題です。一般的なスポットサービスは継続雇用を前提としていないため、源泉徴収税額の区分は「丙」が基本です。「丙」は、同一法人で継続して二ヶ月を超えて支払ってはならない、というのが原則です。企業がその人を採用して三ヶ月目になると、「丙」ではなくて、「乙」「甲」を適用していく必要がありますが、スポットワークサービスで、これらを適正に運用できているケースは、まだ多くはありません。その結果、税区分の誤りによる追徴課税が発生しています。ある上場企業の子会社では、300万円ほどの追徴課税が実際に発生してしまったという事例があります。
 一方、マッチボックスでは、求職者ごとに勤務回数を自動的判定し、適正な所得税区分に自動で変更する仕様です。利用者が適正な納税をしながら一つの法人に継続勤務し、安心して働けるという環境がとても大事だと思っています。
(3)適正な納税と正しい就業実態の把握
 三つ目は、納税と就業実態の把握が難しくなり得る点です。一般的なスポットワークでは、社会保険加入や給与支払報告書の提出を回避するため、同一企業での報酬制限を設けていることがあります。そうすると、自治体は、「有業者なのか無業者なのか」「本当の所得はいくらなのか」全く把握できません。求職者が複数の企業で働いている場合、確定申告していなければ、自治体に給与支払報告書が届かず、実態が不明となってしまいます。
 マッチボックスでは、給与支払報告書を1円単位で自動生成し、事業者に提出していただいています。これにより、自治体は新規有業者の増減、課税・非課税者の割合、税収の増減などを利用できます。そして、事業の検証と就業実態の把握が可能になるのです。

2.「自治体マッチボックス」全体の状況
(1)事業所数、応募人数、採用人数
 事業所数は順調に推移し、自治体マッチボックスでアカウントを持っている事業所は約3,500事業所、求職者の登録数も今どんどん増えていて、37,000人以上となっています。
 業種別でも、かなり裾野が広くなってきました。レストラン・食堂など飲食関係が多いですが、最近は介護や農業も増えてきております。
 また、応募人数、採用人数ともに前年を超えています。
(2)男女別・世代別の状況
 登録人数を世代別に見ていくと、上位3位は全て女性です。登録者数のうち一度でも応募したことがある方は約12,000人です。応募人数では、若年層が上位になっています。
 累計の稼働率は32%です。稼働率とは、登録したことがある方のうち、応募したことがある人の割合です。一般的なスポットワークサービスが10%前後であることと比べて高い水準です。おそらく自治体が主体となっている安心感が、稼働率の高さにつながっているのではと思っています。男女ともに若年層は、登録した後には応募する傾向があり、年齢が上がると、登録はしているけれども、応募しない傾向があります。男女比では、男性の稼働率が高い傾向にあります。
 採用人数は1位が20代女性、2位が20代男性、3位が40代女性となっています。
 採用率では、ほぼすべての世代で、女性が採用されやすい傾向にあります。
(3)登録属性別の傾向(件数単位・人単位)
 登録属性とは、事業者との関係性のことであり、「一般求職者」「友だち(元一般求職者)」「OB・OG(元常勤者)」「現役(常勤者)」に区分されます。
 応募件数、採用件数ともに、「一般求職者」が最多ですが、採用率は「友だち」が一般求職者に比べて33%も高くなっています。人単位でも事業者との関係性が強い方が採用されやすい傾向があります。
 事業者との関係性が強ければ強いほど、欠勤率が下がるというデータも出ています。
 ただし、欠勤率については、「2022年7月から2025年10月までの期間で(一度でも)欠勤したことがあるか」というデータを見ると、属性にほぼ差がないことが分かります。長期間で計測すると、一度でも欠勤する確率はほぼ等しい、ということです。つまり、「常勤者を定員数確保していても、人手不足は必ず発生する」とも言えます。
 したがって、常勤者の負担を下げるためにも、「常勤スタッフ」+「信頼できる自社のメンバー」を増やし、人員を安定させるという、セルフソーシングの構造がとても重要だと思っています。

3.セルフソーシングの効果・事例
 常勤者やOB・OG、定年退職者など信頼できる独自の人材データを蓄積して、自前で最適な人材を確保できる仕組みが「セルフソーシング」です。
 地域において、事業者がセルフソーシングを活用していくことと、自治体マッチボックスの活性化にはどのような関係があるのでしょうか。
 弊社は2024年12月、自治体マッチボックス事業において、全自治体で一斉に大きな仕様変更を行いました。
 一つ目は、すべての参画事業者に、「自社専用のマッチボックス」を付帯機能として提供したことです。従来は、自社専用マッチボックスは業務システムに近い要素があるので、個別にお申し込みいただいていましたが、それを撤廃して、自動で付帯機能として提供することにしました。
 二つ目は、自治体マッチボックスで採用した方を、事業者のホーム画面から簡単に「自社メンバー」へ招待できる機能を追加したことです。自分たちのメンバーをどんどん増やして、人手不足を根本的に解消してほしい、内製化してほしい、というのが目的です。
 その結果、「自社メンバー」登録者のいる事業者がどんどん増えました。自社メンバー「登録あり」の事業所数は、2024年時点で200事業所程度でしたが、2025年には570事業所までぐっと増えました。自社メンバーの人数も2024年の2,100名程度から2025年では5,200名以上へと大幅に増加しました。
 セルフソーシングの効果について新潟県佐渡市の事例をご紹介します。「さどマッチボックス」では、事業者の登録数は直近で208事業者となっており、業種別で見ても一次、二次、三次産業と幅広く、かなりバランスよく使われています。登録している方は直近で2,900人を超えます。このうち佐渡市民が約2,400人で、佐渡の生産年齢人口(24,279人)比で約10%が「さどマッチボックス」に登録している状況です。
 「さどマッチボックス」全体の応募者分布を見ると、同じ新潟の湯沢町と比較して全く異なる傾向があります。「さどマッチボックス」の応募者の86.3%は佐渡市内の方で、県外からの応募は8.1%にとどまります。一方、湯沢町は高速道路や新幹線があるため、近隣や県外からの応募者が非常に多いのです。この違いから、離島における事業者の人手不足を支援する方法は、アクセスの良い地域とは、力を入れるポイントが全く異なってくることがよく分かります。
 先ほどお話しした2024年12月の仕様変更により、「さどマッチボックス」でも自社専用マッチボックスを活用する事業者が増えてきました。自社メンバー数は26名から337名に増え、自社メンバーによる応募件数も2024年の301件から2025年は3,250件と大幅に増加しました。
 結果として、「さどマッチボックス」全体の掲載・応募・採用件数は、10月時点で前年を超える成長を遂げています。セルフソーシングの活用により、「さどマッチボックス」全体が活性化しているのです。
 こうした取組が評価され、新潟県佐渡市は地方創生AWARD2025で地域事業者支援部門のグランプリを受賞しました。
 さらに佐渡市では独自の雇用政策である二つのプロジェクトが進行しています。一つが「こわかプロジェクト」という、働きにくさを感じる若者向けのモデル、もう一つが佐渡総合病院の求人・求職を支援する取組です。弊社はこうした自治体独自の雇用政策にも「さどマッチボックス」を通じて関与させていただいております。

4.新規機能(より多く、質の高いマッチング)
 最後になりますが、今後、何を目指しているのか、新規機能についてお話しいたします。
 一つ目は、登録している方の勤務希望日時をきめ細かく収集することです。働きたい日時をスマホ画面で簡単に設定できるようにする予定です。さらに、働きたい環境、保有資格、正社員を目指しているか否かなどの情報もスマホで設定できるよう検討しています。
 二つ目が勤務オファー機能です。掲載しているのに応募が来ない、または応募しているのに採用されない、というミスマッチが生まれています。そこで、事業者側から求職者にオファーできるような機能を開発中です。
 三つ目は、マッチングの質の向上と専門職の利用拡大です。災害や感染症の流行など非常時にも地域の暮らしを支えられるよう、日頃から地域に必要なデータを収集していくことが重要だと考えています。
 そこで自治体マッチボックスにおける求人作成をより簡単にするためにも、業種・職種マスターを再整理します。また、病院が看護師を募集する場合に「看護師免許が必須」というようにあらかじめ設定できる求人テンプレートを整備します。こうした取組により、応募者側も何が求められているのか、業務内容がわかりやすくなります。さらに勤務完了後に業務スキルを勤務者に自動付与し、応募者の熟練度を可視化できるようにしたいと考えております。
 そうすることで、医療機関だけでなく、いろいろな業種・業界で「その地域の誰が、どんな資格を持ち、何回勤務したことがあるか」が明確に可視化されていきます。企業はオファーをかけるときにとても便利になりますし、有事の際には、自治体が「看護師の資格を持っている方で、勤務回数何回以上」等と検索すると、その地域における該当者がリストアップできます。こうしたデータを活用すれば、自治体からの緊急のお知らせや勤務依頼など、様々な対応が可能になります。こういった、いろいろなことに使える地域データを収集できるような機能を今検討しています。

最後に
 本当に日本は労働力不足なのでしょうか?
各自治体が本気で雇用政策に取り組んでいけば、より明るい社会、選択肢の増える地域社会が創れるのではないかと思っています。「眠れる労働力を掘り起こす」という地方自治体の挑戦は、まだ始まったばかりです。これからもどんどん良くしていきたいなと思っています。
 ご清聴ありがとうございました。

講師略歴
佐藤 洋彰(さとう ひろあき)
株式会社Matchbox Technologies 代表取締役社長
1984年 静岡県出身
2004年 株式会社Fusion’zを 創業
2014年 ローソンスタッフ株式会社(株式会社ローソンとの合弁会社)を設立
2015年 株式会社Matchbox Technologiesを設立
幼少期をアメリカ・デトロイトで過ごす。中央大学を中退し新潟県でFusion’z創業。ローソン1店舗から日本最大級の加盟店に成長。2014年に株式会社ローソンと合弁でローソンスタッフ株式会社を設立し、同法人の取締役に就任。
2015年7月には、企業や地方自治体が独自のスポットワーク環境を構築できるプラットフォーム“matchbox” の開発・運用を目的に、株式会社Matchbox Technologies を設立。