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コラム 経済トレンド140

食料安全保障を脅かす「温室効果ガス排出」と「価格高騰」の二重課題
大臣官房総合政策課 調査員 大塚 新平/川野 祥太

 本稿では、食料安全保障に関する現状、及び今後の展望について考察する。

日本農業がかかえる構造的問題

 日本は、カロリーベース自給率が約38%と主要国に比べて低く、安定的な食料基盤を確保することが重要である(図表1 諸外国の食糧自給率(カロリーベース)推移)。
 肥料や飼料などの重要資材を海外に頼る構造は、地政学リスクや為替変動による供給不安を増大させうる(図表2 穀類・肥料・飼料の国内生産量及び輸入量)。
 加えて、基幹的農業従事者の高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増加といった国内農業の構造的問題も深刻である(図表3 年齢別基幹的農業従事者数の推移)。
(出所)農林水産省「食糧自給表」、「肥料をめぐる情勢」、「農業センサス」

食料生産と温室効果ガス排出の関係
 世界の食料生産による温室効果ガス排出量は2023年に165億トンに達し、2000年以降10%増加している(図表4 食料生産による温室効果ガス排出量の変化)。
 また、農業における温室効果ガス排出量は、人類の総排出量全体の約12%を占めるが(図表5 分類別、温室効果ガス排出割合(2023年))、食品加工から家庭消費までの前後処理工程や森林伐採等の土地利用変化に伴う排出量を含めると、全体の約30%を占める。
 温室効果ガスに伴う気候変動により、食料安全保障の4本柱(入手可能性・アクセス・利用・安定性)全てに影響が出ており、今後の温暖化進行で影響はさらに拡大する見込みである(図表6 温室効果ガスに伴う気候変動による、食料安全保障への影響)。
 実際、世界の気象・気候関連災害の件数は、1980~1999年と2000~2019年を比べると約83%増加しており、干ばつ・洪水・高温といった異常気象や災害リスクが収量の安定性を脅かしている。こうした世界の気候変動により、例えばカカオ豆やコーヒー豆など、日本での食糧供給についても、不確実性が高まる事態となっている(図表7 世界の気象・気候関連災害件数の推移(20年期間比較))。
(出所)IPCC 『Climate Change and Land(SRCCL)』、FAO 『Greenhouse gas emissions from agrifood systems. Global, regional and country trends, 2000–2022』、UNDRR/CRED 『The Human Cost of Disasters 2000–2019』(EM‑DAT)、WMO 『Atlas of Mortality and Economic Losses (1970–2019)』

農業生産資材の価格高騰による食料供給リスクの拡大
 農業生産資材の価格は、2021年頃以降、上昇傾向が続いている。なかでも、肥料および飼料の価格指数は令和4年に急上昇し、令和5年以降も高水準で推移している(図表8 農業生産資材価格指数の推移(令和2年=100))。こうした生産資材価格の高騰を背景に、農産物価格指数についても、全体として緩やかな上昇傾向がみられる(図表9 農産物価格指数の推移(令和2年=100))。
 一方、農業法人における経営上の課題としては、「資材コストの上昇」や「コスト増分を十分に価格転嫁できないこと」が上位に挙げられており、資材価格の高騰に比べて、農産物の価格上昇が十分でない可能性がある。今後、資材コストの上昇する一方で、農産物への価格転嫁が進まない状況が続いた場合には、農業経営の持続性を損なわれ、ひいては食料安定供給のための基盤が弱体化するおそれがある(図表10 農業法人の経営課題(上位6位)(n=1,325))。
(注)(図表10)は令和5(2023)年9⽉~6(2024)年2⽉に実施した調査で、有効回答数は1,325者(複数回答)である点に留意。
(出所)農林水産省「2024年度日本農業経済学会特別セッション「食料政策の新たな展開方向」第1報告」、公益社団法⼈⽇本農業法⼈協会「2023年版 農業法⼈⽩書」

食料安全保障を持続可能にしていくためには
 今後、世界的な人口増加等による食料需要が増大していくことが予想される(図表11 2050年の世界の食料需要見通し(億トン))が、国内での安定的な食料供給基盤を確保する方策として、スマート農業やフードテックの活用が注目されている。
 スマート農業の導入により、農薬散布をはじめとする作業効率の向上が確認されており、担い手不足が深刻化する国内農業に対する有効な対策として、その活用が期待されている(図表12 スマート農業技術の導入効果(時間/a))。
 また、フードテックの活用に着目した新たなビジネス創出への関心が高まっている。フードロス削減、新たなたんぱく質源の活用等を通じた持続可能な食料供給に向けた有効な手段としても位置付けられており、その対象分野は多岐に渡る(図表13 日本発のフードテック)。
(注)(図表11)穀物は、小麦、米、とうもろこし、大麦及びソルガムの合計である。油糧種子は、大豆、菜種、パーム及びひまわりの合計である。砂糖作物はサトウキビ及びテンサイの合計である。畜産物は牛肉、豚肉、鶏肉及び乳製品の合計である。基準年次の2010年値は、毎年の気象変化等によるデータの変動影響を避けるため、2009年から2011年の3カ年平均値としている。2015年値は、USDAのPSDにおける2014年から2016年の3カ年平均の実績値を基に算出した参考値である。
(出所)農林水産省「食料・農業・農村白書」、農林水産省「フードテックをめぐる状況」

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。