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コラム海外経済の潮流 159

欧州で突出した成長を示すスペイン経済~移民流入が支える成長構造~
大臣官房総合政策課 海外経済調査係 調査統計官 川本 将平

1.はじめに
 パンデミック後、世界各国で経済が回復する中、欧州の20か国で構成されるユーロ圏の実質GDPは、日本と同程度のペースで回復しているものの、米国と比べると回復の勢いは弱い【図表1 実質GDPの推移(国際比較)】。
 ユーロ圏経済の回復が鈍い主な要因として、ユーロ圏最大の経済規模*1を持つドイツが2023年・2024年と2年連続でマイナス成長となり、景気低迷が続いている点が挙げられる。
 これに対して、ユーロ圏第4位の経済規模を持つスペインは、直近約2年にわたり他のユーロ圏諸国と比較しても際立って高い成長を記録しており、同図表が示すとおり、ユーロ圏の成長を下支えする存在となっている。
 本稿では、特に力強い成長を示しているスペイン経済について、その成長要因を考察する。

2.需要面からみた成長要因
 まず、需要面からスペイン経済の成長要因を確認していく。【図表2 スペインの実質GDP成長率(寄与度分解)】により、直近6年間のスペインの実質GDP成長率を需要項目別にみると、2021年以降、個人消費を中心とする内需項目に加え、輸出も一貫してプラスに寄与していることが分かる。
(1)旺盛な個人消費
 ここで、物価の影響を取り除いたスペインの実質雇用者報酬を【図表3 スペインの実質雇用者報酬(寄与度分解)】で確認すると、2021年以降増加が続いている上、その増加ペースはユーロ圏を上回っている。
 こうした実質雇用者報酬の伸びが家計所得を押し上げ、個人消費の堅調な伸びを下支えしているとみられる。
(2)好調なサービス輸出
 需要面からみた成長要因としては、個人消費に加え、サービス輸出の好調も重要な役割を果たしている。
 IMFの報告書*2によれば、スペインのサービス輸出は、観光業のパンデミック後の力強い回復のほか、ICT・専門サービスなどの非観光サービス分野におけるスペイン輸出業者の業績改善によって牽引され、経済全体を支えている。
 こうした指摘を踏まえ、特に回復の著しい観光業に注目する。観光収入及び観光客数の変化をパンデミック前と比較した【図表4 観光収入・観光客数の変化(2019-2024)】をみると、観光のイメージが強いイタリアや日本と比較してもスペインの回復が際立っていることが確認できる。

3.供給面からみた成長要因
 前節では需要面からスペイン経済の成長要因を確認したが、同国の高成長の背景には、むしろ供給面の改善が大きく寄与していると考えられる。以下では、こうした供給面の動きに焦点を当てて分析する。
 前述のIMFに加え、OECD*3や欧州委員会*4の報告書では、パンデミック前の水準を大幅に上回る移民流入によって生産年齢人口が増加し、経済活動が押し上げられていると指摘されている。
 先に【図表3】で示したスペインの実質雇用者報酬をみると、雇用者数のプラス寄与が全体の伸びを継続的に支えていることが確認できるが、これも移民流入の増加が背景にある。
 さらに【図表5 生産年齢人口(15-64歳)の変化(2015-2024)】において、2015年から2024年にかけての日米欧の生産年齢人口の変化を比較すると、ユーロ圏、ドイツ、日本では減少している一方、スペイン、米国では増加している。その内訳をみると、スペインも自国民人口は減少しており、この点では、ユーロ圏やドイツ、日本と共通している。一方で、移民の増加率が非常に高いため、生産年齢人口全体では大きく押し上げられていることが分かる。
 ここまで移民が増加した要因は主に二つ考えられる。
 一つは、スペインでは2018年のサンチェス政権発足以降、移民が人道政策の対象にとどまらず、労働力確保と人口動態対策の中核として明確に位置づけられるようになったことだ。
 サンチェス首相は「移民受入れは人口減少*5や高齢化をカバーし、福祉国家の持続可能性を保証する上で不可欠」として、異文化摩擦のない「スペイン独自の成功モデル」の構築を目指している。
 最近では、2024年に承認された新たな外国人規則が2025年から施行され、移民の在留・就労手続きの大幅な簡素化と、滞在2年での正規化を可能とするインテグレーション制度*6の拡充を通じて、2025年から2027年まで年間25万~30万人規模の外国人を労働市場と社会保障制度に統合する枠組みが本格的に動き出している。これは移民を人道的配慮の対象にとどめず、少子高齢化下の労働力確保と経済成長を支える構造的政策として明確に位置づけている。
 もう一つは、言語の障壁が低いことだ。
 【図表6 スペインにおける移民の出身国構成(2022)】において、2022年時点での移民の出身国の内訳をみると全体の4割程度が中南米のスペイン語圏で占められている。このように言語の障壁が低い分スペイン社会への統合が進みやすいと考えられる。
 このような政策面および言語面の要因を背景に移民流入が拡大し、少子高齢化により自国民の人口が減少する中であっても生産年齢人口が増加している。その結果、所得や消費が押し上げられているという姿がスペイン経済の好調さを特徴づける実態といえよう。

4.今後の展望
 IMFの世界経済見通し*7によれば、スペインの2025年の実質GDP成長率は前年比+2.9%と2024年の同+3.5%から減速するものの、先進国の中では最も高い成長率となる見通しである。
 今後も経済成長の鍵を握るのは移民であると考えられるが、前述した寛容な移民政策が続くことからも、引き続き移民の持続的な流入を背景に雇用・所得の更なる増加が消費支出ひいては景気拡大を押し上げると予想される。
 一方、中東やアフリカ等から流入する不法移民に対する大規模な移民送還を主張する最大野党(極右政党*8)のVOXは、近年、有権者からの支持を拡大している。こうした動きを踏まえると、これまで比較的寛容だった有権者が、左派政権の移民受け入れ促進政策を今後も支持し続けるかどうかについては、不透明な面もある。

5.おわりに
 本稿では欧州や先進国の中でも目を見張る成長を見せてきたスペイン経済の成長要因を確認した。中核的な要素は、スペインが受け入れる移民の増加であったが、その背景には寛大な移民政策に加え、スペイン語という共通の言語基盤がある。
 近年、移民に対する姿勢は欧米諸国で厳格化する傾向がみられるが、実際、2024年のフランス国民議会選挙や2025年のドイツ連邦議会選挙では、移民に否定的な極右政党が議席数や支持率を大きく伸ばした。
移民に対する考え方については、国際的に様々な議論が交わされているが、日本をはじめ先進国では少子高齢化による人口減少が問題視されている現状において、移民の受け入れにより労働力を補うことは一つの有効なアプローチであると思われる。
もちろん移民の受け入れには様々な懸念が生じるであろうが、スペインを成功例として学べる部分がないか目を向けてみる価値はあるのではないか。

(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見であり、誤りは全て筆者に帰する。

(参考文献、出所)
・IMF “Spain:2025 Article IV Consultation-Press Release; and Staff Report”(2025年6月6日)
・OECD “OECD Economic Surveys:Spain 2025”(2025年11月26日)
・欧州委員会 “Economic forecast for Spain”(2025年11月17日)
・スペイン経済研究所 “Coyuntura Económica:Un crecimiento económico condicionado por un contexto institucional adverso”(2025年7月23日)
・みずほリサーチ&テクノロジーズ 『独り勝ちを謳歌するスペイン経済~当面は高成長が続く見通し~』(2025年10月30日)
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング 『スペイン経済の強みとしての人口増~今後も中南米出身者の流入に支えられる見込み~』(2025年10月10日)
・IMF、OECD、国連世界観光機関、世界銀行、欧州委員会、Eurostat、ドイツ連邦統計局、スペイン国立統計局、スペイン政府首相府、米国商務省経済分析局、内閣府、各種報道等(JETRO、Euronews、日本経済新聞等)、

*1) ユーロ圏の2024年名目GDPに占める各国のシェア:1位ドイツ(28.4%)、2位フランス(19.3%)、3位イタリア(14.5%)、4位スペイン(10.5%)
*2) IMF “Spain:2025 Article IV Consultation-Press Release; and Staff Report”(2025年6月6日)
*3) OECD “OECD Economic Surveys:Spain 2025”(2025年11月26日)
*4) 欧州委員会 “Economic forecast for Spain”(2025年11月17日)
*5) 世界銀行によると、2023年のスペインの合計特殊出生率は1.12と世界全体の2.20を大きく下回っており、欧州主要国の中でも最低。なお、日本の同年の出生率は1.20。
*6) 一定期間スペインに滞在した外国人に在留・就労資格を与える制度
*7) IMF “World Economic Outlook”(2025年10月14日)
*8) 政党の立場は報道等に基づく