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日本国債決済入門―発展編―*1

東京大学 服部 孝洋*2

1.はじめに
 「日本国債決済入門―基礎編―」(同論文を「基礎編」と記載します)では国債の決済の基礎について包括的に説明を行いました。本稿では「基礎編」をベースに、より発展的な内容を説明します。本稿では、まず国債振替決済制度に係る詳細を説明します。そのうえで、国債振替決済制度の歴史や政策的意義について議論します。
 次に、国債の決済に関し、RTGS(Real-Time Gross Settlement、即時グロス決済)との関連で議論を深めます。RTGSを国債に導入するうえで、日銀は国債DVP同時担保受払機能を導入しましたが、この機能は国債の決済において理解しにくいものの一つです。そのため、紙面を割いてこの機能の目的を説明します。また、RTGSの導入に伴い、国債のクリアリングやフェイル慣行導入が進んだこと等についても説明を行います。
 「基礎編」及び本稿は、物理的な(紙の)国債を想定して説明していくというスタイルをとっていますが、最後にペーパーレスの国債についても説明を行います。
 なお、本稿では国債の基本的な知識を前提とします。詳細は「日本国債入門」(服部, 2023)や「はじめての日本国債」(服部, 2025)を参照してください。これまでの債券入門シリーズは、国債について様々な観点から説明しているため、筆者のウェブサイトも適宜参照してください*3。

2.国債振替決済制度
2.1 国債振替決済制度の階層構造
 「基礎編」で説明したとおり、読者が国債(物理的な証券)を証券会社から買ったとします。素朴な管理方法は、読者が証券会社の支店に出向き、100円を払う一方、物理的な証券である国債を受け取り、保管するというものです。もっとも、国債市場は金融機関など機関投資家(プロの投資家)が中心であり、本日購入した国債を、例えば1か月後に売却する可能性もあります。そのような観点でいえば、取引の度に毎回、支店にきて物理的な証券を受け渡すというのはあまりに非効率と言えます。
 そのため、国債そのものは日銀に置いておいて、読者が筆者から、370回債を100円で購入した場合、日銀に管理してある筆者の370回債を、読者のものへ振り替えてもらうという形が取られています*4。これが国債振替決済制度と呼ばれる制度です。
 国債振替決済制度に直接参加している金融機関(直接参加者)は、証券会社や銀行などです。この制度では、日銀が振替機関となり、証券会社や銀行などの直接参加者が振替機関(日銀)に口座を開設します。その一方、全ての投資家は日銀に直接口座を開設しているわけではありません。具体的には、証券会社や銀行以外の多くの投資家は直接参加者(証券会社や銀行)に口座を開設するという形で、国債振替決済制度を利用しています(このような主体を間接参加者といいます)。
 このように、日銀に直接口座を持っているのは証券会社や銀行といった参加者ですが、多くの投資家(間接参加者)は参加者の口座をいわば間借りしているといえます。そのため、直接参加者である証券会社や銀行等は日銀に開設した口座のうち、自分たちの国債を管理する口座(これを「自己口」といいます)と、顧客が用いている口座(これを「預り口」といいます)を分けて管理しています。
 このように間接参加者が直接参加者の口座を間借りしている構造を図表にしたものが図表1 国債振替決済制度における国債の振替処理*5です。このような構造を「階層構造」と表現することもあります。
 そもそも国債振替決済制度の直接参加者になるためには、一定の資本の要件等を満たす必要があります*6。したがって、全ての市場参加者が直接参加者になることはできず、多数の投資家が口座を直接開設する単層構造は現実的ではなく*7、直接参加者の口座を間借りする階層構造がとられています。
 このように大手金融機関の口座を間借りさせてもらうという仕組みは国債振替決済制度以外にもあります。例えば、クリアリングについても、利用頻度の多くない金融機関が、直接、中央清算機関でクリアリングするのではなくて、クリアリングしている大手金融機関を経由してクリアリングするという形が取られています(これをクライアント・クリアリングといいます。クリアリングについては「基礎編」を参照してください)。
 図表2 日銀ネット利用先が日銀ネットを利用している金融機関の数ですが、日銀ネット当座預金系に対し、日銀ネット国債系の利用者は相対的に利用が少ないことがわかります(日銀ネット当預系と国債系については4節で説明します)。一方で、生命保険会社など、日銀に当座預金口座を保有していない先であっても日銀ネット国債系を利用することができる点に注意してください(ちなみに、日銀の当座預金先の基準については白川・服部(2025)や服部(2026b)を参照してください)。
外国間接参加者と適格外国仲介業者
 図表1をみると、階層構造の中に、「外国間接参加者」が含まれています。これは、外国人投資家が日本国債を保有する際に利用する海外のカストディアン*8(多くは、世界的に業務展開しているグローバルカストディアン)のことを指します。外国人による日本国債への投資を促進するための非課税措置*9の開始(2001年度の税制改正)に伴って導入された参加形態です。
 この非課税措置を受けるには、2段階のプロセスが必要になります。まず、下記のように海外の金融機関(カストディアン)が日銀の承認を受けて、振替制度の外国間接参加者になります。そのうえで、非課税措置が受けられるよう、国税庁長官の承認を受けて、「適格外国仲介業者(QFI:Qualified Foreign Intermediary)」になります(このような制度設計になった理由については次回以降の論文で議論します)。

2.2 振替決済制度普及の歴史的意義
 次に、歴史的な観点から、国債決済振替制度の意義について議論します。まず、1905年に登録国債制度が出来ました*11。この制度は、国債の保有者が請求を行い、日銀にある「登録簿」に氏名等を記載することで、実際に国債を物理的に保有しなくても国債の保有が可能になる制度です(登録国債制度に基づく国債を登録国債と呼ぶ一方、国債決済振替制度に基づく国債を振決国債と呼ぶこともあります)。この制度では日銀は政府からの委任に基づく「登録機関」の役割を果たしており、実際に国債の売買が行われると、日銀がそれぞれの国債の登録名義を変更する仕組みでした。
 登録国債制度は、国債の保有者自身が物理的な国債を管理しなくてよいという意味では効率的な制度ともいえます。もっとも、国債の売買に伴って日銀が登録名義を変更する際には厳格な手続きが求められるという特徴もありました*12。そのような中、1970年代から国債の増発が進み、国債の決済制度のさらなる効率化が求められました。それを受けて、1980年に国債決済振替制度が設立しました。
 この観点で、1980年以降、登録国債制度と国債決済振替制度が並立していたといえます。図表4 決済別でみた国債残高の推移は決済制度別でみた国債残高の内訳ですが、1995年では登録制度に基づく国債が89兆円である一方、振替決済制度に基づく国債は115兆円あることがわかります。
 当時の日銀は、登録国債と振決国債が併存している点に問題意識を持っていました。例えば、白川(1999)は国債の市場流動性を低下させる理由として、税制面等の要因から国債の決済において登録国債制度と国債振替決済制度が併存していることを指摘しています*13。そこで、振替決済制度に集約していく努力をすすめました。
 図表4にその推移をしめしていますが、登録国債の金額が低下していくことが分かります。その結果、2024年3月末時点では、登録国債の残高は皆無になり、国債決済振替制度に集約されました。なお、国債市場における分断という観点ではいわゆる課税玉と非課税玉に伴う問題が1990年代に指摘されており、同時期にこの点についても一定の改革もなされましたが、それについては次回以降の論文で議論します。

2.3 記名国債
 現在、国債についてはペーパーレス化が進みましたが、全ての国債がペーパーレス化したわけではありません*14。現在も紙でやり取りが行われている国債の代表例が戦没者の遺族などに発行される「記名国債」です。「記名国債」と呼ばれるのは国債証券の裏面に「保有者の氏名」と「支払い場所」が記載されているためです。この国債は、第二次世界大戦による戦没者の遺族などに対して、金銭に変えて交付される国債です(このように交付することから「交付国債」と呼ばれることもあります)。
 図表5 記名国債証券の見本*17が記名国債の例です。この国債は政府が資金調達を行う国債とはその目的が異なるほか、物理的な国債が欲しいという根強いニーズもあることから、現在でも物理的な国債を発行しています*15*16。

3.RTGSの導入と国債決済の変化
3.1 時点ネット方式とRTGS
 次に、国債に関するRTGSについて議論を進めます。まず、RTGSとは、リアルタイムかつグロスで行う決済方法です。RTGS導入以前は、時点ネット方式が取られていました。時点ネット方式とは、例えば15時という1日の中の特定の時点で、決済する予定の支払額と受取額の差額によって算出(ネッティング)された差引き支払額(負け額)と差引き受取額(勝ち額)によって決済を行うという方法です。もっとも、この方式は一つの金融機関が破綻したら決済システムに影響を与えるという意味で、システミック・リスクを有しているといえます。そのため、システミック・リスクの軽減を目指し、取引のたびに決済を行うRTGSが2001年に導入されました。
 RTGSはシステミック・リスクを防ぐという意味では有効であるものの、国債を取引する金融機関は、取引ごとにその金額の資金を調達する必要があり、金融機関にとって資金面で負担が大きい決済方法といえます。したがって、日銀及び民間金融機関は様々な工夫をしました。それが次で説明する国債DVP同時担保受払機能や中央清算機関の立ち上げです。

3.2 国債DVP同時担保受払機能
 まず、日銀は、RTGSを導入した2001年において、「国債DVP同時担保受払機能」を導入しました。この仕組みは、日銀の説明を引用すると、「国債の買い手である金融機関が、売り手から受け取る国債を担保に、日本銀行から日中当座貸越を受け、同時にその資金を当該国債の買入代金の支払いに充てることができる仕組み」*18とあります。直感的には、RTGS導入後、手元に十分な資金がない金融機関が国債の取引をするうえで、日銀が日中に資金を貸し出すことでDVP決済を円滑に機能させる仕組みです。
 例えば、読者が証券会社のトレーダーであり、マーケットメイクをするため、国債を在庫として持ちたいと考えています。しかし、読者には今、手元資金がないとしましょう。読者は国債を在庫として持つため、国債を担保にレポ取引により資金調達をしたいとします(レポ取引については服部(2026b)を参照してください)。もっとも、DVP決済では国債を受け取ると同時に、資金も支払わなければいけないため、レポ取引をして資金を調達したいものの、そもそもレポ取引を行うために引き渡す国債を買ってくる決済ができません。そこで、国債購入の決済をする際に、日銀が日中に資金を貸し出してくれる仕組みが「国債DVP同時担保受払機能」です。
 図表6 国債DVP同時担保受払機能*19が国債DVP同時担保受払機能の仕組みを図示しています。国債DVP同時担保受払機能により、日銀がDVP決済のために日中に資金を貸してくれるため、読者は日銀から一時的に借り入れることにより、資金を得て、その資金を渡して国債購入するというDVP決済をします。そして、国債を得られたら、レポ取引のDVP決済ができるようになります。すなわち、レポ取引の相手にその国債を引き渡して資金を調達してきて、その資金を日銀に返すということになります(詳細な説明はレポ取引も含め、BOXで説明します)。

3.3 国債の中央清算機関の立ち上げ
 国債のRTGS導入後は、基本的にはグロスで取引を行っているものの、実務では、一定程度、ネッティングを行っています。「基礎編」で説明したとおり、国債を決済するうえで、「取引執行→取引照合→清算(クリアリング)→決済(セトルメント)」というプロセスを経ます。そして、クリアリングとは取引の債権・債務関係を中央清算機関(CCP)に置き換えて、ネッティングすることでした。
 そもそも、資金の決済であれば、取引したタイミングでそのたびに決済を行いますが、国債の場合、現在、約定(Done)した1営業日に決済を行う方法がとられています(T+1決済)。そのため、実際の決済は1営業日後であるため、実務では決済をする前に、クリアリングなどでネッティングできる部分はネッティングしています(実務では、クリアリングが行われないものについても、金融機関サイドでネッティングできるものはネッティングしています)。
 実は、日本国債をクリアリングするようになった背景として、2001年におけるRTGSの導入も指摘できます*20。そもそも、時点ネット方式では、特定のタイミングでネッティングして決済をするため、クリアリングの必要性が低いといえます。ですが、RTGSが導入されたことで、グロスで決済をするようになると、前述のとおり、資金規模が上がるため、ネッティングの工夫が必要となりました。また、決済リスクそのものを軽減することから、クリアリングの必要性が高まり、日本国債のクリアリング機関である「日本国債清算機関」(JGBCC)が日本の証券会社による出資により2003年に設立されました*21(JGBCCはその後、日本証券クリアリング機構(JSCC)と合併して現在に至っています)。
 このように、T+1決済において、クリアリングを行うプロセスの中で一定程度ネッティングするため、「時点ネット決済」に類似*22しているようにも感じるのですが、RTGSの場合、時点ネット方式とは異なり、ネッティング後の取引は一時点でまとめて決済するのではなく、(各取引ごとに)それぞれのタイミングでそれぞれ決済を行っています。そのため、決済日当日は、それぞれの取引が徐々に決済されるというプロセスを経ます。現在では、決済日当日においてできるだけ早く決済がなされる傾向があります。図表7 国債DVP取引の時間帯毎決済進捗(金額)*23がその推移ですが、9割近い取引が午前中に決済を済ませていることが分かります。

3.4 RTGSとフェイル慣行
 フェイル慣行が導入されたのもこの時期です。フェイルとは、当初予定していたとおりに証券の受け渡しが行われないことを指します。RTGSであれば、時点ネット方式のように特定の時点でまとめてネッティングして決済するというわけではなくて、取引ごとに決済をしていくため、フェイルを許容しやすいともいえます*24。RTGSによりネッティングしないことによりループの問題がおこりやすく、フェイルをある程度許容していくことが求められました(ループについては服部(2026b)を参照してください)。
 これらの市場慣行は、RTGSが導入される前の2000年に、日本証券業協会における「国債決済RTGS化に関する研究会」での議論を経て、「国債の即時グロス決済に関するガイドライン」が作られ、公表されています*25。この中で、フェイル慣行に加え、決済当日、午前中に決済を進めることを推奨するなどのプラクティスが記載されました。その後、このガイドラインは定期的にアップデイトされています。

4.ペーパーレス化と日銀ネット
 「基礎編」では、国債を物理的な紙の証券として取り扱う形で議論してきましたが、最後に、ペーパーレス化のイメージについて説明します。第2節の説明では、紙ベースの国債は、国債振替決済制度に基づき、日銀で管理されていました。この制度は2003年に廃止されて、新しい振替決済制度が導入されました。これに伴い、現時点ではほとんどの国債はペーパーレスになっています*26。
 これまでは、国債という紙が物理的に日銀に管理されていたところ、ペーパーレス化が実現した現在は、日銀ネット上の国債を管理するシステム(これを「日銀ネット国債系」といいます)により管理されるようになりました。イメージとしては、日銀ネットのサーバの中で帳簿情報が管理されているということです。日銀ネットには資金の動きを管理するシステム(これを「日銀ネット当預系」と言います)もあり、このシステムを通じて、国債の資金の動きが管理されています。「基礎編」では、1994年にシステム開発によりDVP決済が実現したと説明しましたが、具体的には、システム上、日銀ネット国債系と日銀ネット当預系を連動させることができたということを意味します。
 具体的な取引のイメージは次のようなものです。国債の取引があった場合、証券会社などの金融機関が、それによって発生する決済の内容を日銀ネットのシステムを介して日銀に送付します(これを「電文を送る」といいます)。日銀はその電文をベースに、電子上の帳簿を操作し、筆者が保有している100円分の370回債を、読者に移管するという処理をします。さらに、それと同じタイミングで、日銀ネット当預系で100円を筆者から読者の口座に振り込みます(厳密に言えば、一定の要件を満たさないと日銀に当座預金口座を持つことはできないのですが、ここでは筆者と読者が両方とも日銀当座預金を持っていると想定します*27)。
 なお、国債振替決済制度は、2003年にペーパーレス化されて制度変更がなされましたが、基本的な部分はペーパーレス前の国債振替決済制度と変わりがありません*28(法的には2003年以前の制度と違いが存在しますが、その点については紙面の関係で別の機会に記載します)。
 また、このように日銀が国債の決済を管理している点は、国債特有です。例えば、社債などについては、資金の受け渡しは主に日銀ネットを介していますが、証券の管理は証券保管振替機構が担っています(社債などのDVP決済は、保振の証券のシステムと日銀の資金のシステムが連動して実施されます)。日銀が、証券の中でも国債だけを管理している理由は、国債が日本政府の資金調達手段であり、日銀が政府の銀行としての役割を担っているからであると筆者は理解しています。

5.おわりに
 本稿では、「基礎編」と合わせて国債の決済について包括的に解説を行いました。本稿により国債決済制度の理解が進めば幸いです。

参考文献
[1].青木周平(2001)「決済の原理」
[2].河西慎・菅野浩之・加藤毅(2001)「RTGS化後の国債取引に関する市場慣行について」『マーケット・レビュー』2001-J-7
[3].公社債市場研究会(2011)「公社債市場研究会」日本証券経済研究所
[4].白川方明(1999)「日本の国債市場の機能向上に向けて」『日本銀行調査月報』1999年9月号。
[5].白川方明・服部孝洋(2025)「日銀は短期金融市場にどう向き合ってきたのか:白川方明元日銀総裁インタビュー」『経済セミナー』2025年12月・2016年1月号:101-109.
[6].日本証券クリアリング機構(2023)「清算・決済から知る日本国債:市場における清算機関の役割」金融財政事情研究会
[7].日本銀行(1992)「日本銀行の機能と業務」日本銀行金融研究所
[8].日本銀行(2001)「日本銀行の機能と業務」日本銀行金融研究所
[9].中島真志・宿輪純一(2008)「証券決済システムのすべて」東洋経済新報社
[10].服部孝洋(2023)「日本国債入門」金融財政事情研究会
[11].服部孝洋(2025)「はじめての日本国債」集英社新書
[12].服部孝洋(2026a)「日本国債決済入門―基礎編―」『ファイナンス』
[13].服部孝洋(2026b)「マネー・マーケット入門」日本評論社
BOX 国債DVP同時担保受払機能の詳細
本稿では国債DVP同時担保受払機能を取り上げましたが、このBOXでは本稿で説明したプロセスを、図を用いて説明します。まず、筆者が証券会社のトレーダーであり、他の証券会社から国債を買う約定(Done)をしたとします。もっとも、手元にキャッシュを持っていないとします(ここでは国債購入のために100円必要だとします)。そこで、筆者は国債購入の資金を調達するため、その国債を担保に短資会社とレポ取引の約定(Done)をしたとします。国債の決済はT+1ですので、約定日には売買およびレポ取引において国債や資金の受渡(決済)は発生せず、翌営業日に受渡をすることになります。
国債購入の決済プロセス
さて、ここで翌営業日を迎えたとします。まず、筆者は証券会社から国債を買う決済をすることになります。しかし、そもそも筆者は手元資金がないので、DVP決済ができないことになります。そこで、筆者は、これから国債を受け取るため、その国債を担保に出して日銀から資金調達をしたい旨、日銀に伝え*29、日銀から100円を借りてきます。これが日中当座貸越です(図表8 国債DVP同時担保受払機能のプロセス(1)を参照)。
「(日中)当座貸越」は、国債等を日銀に担保として入れておくと、当日中の返済を条件として日銀から資金を借りることができる(日中に限り日銀当座預金の赤残が許容される)仕組みです*30。これは日銀を相手に日中レポ(当日スタート当日エンドのレポ)取引がいつでもできる仕組みと解釈できるかもしれません。図表8の時点ではまだ筆者は国債を受け取っていないわけですが、「国債DVP同時担保受払システム」では、既に手持ちがある(残高がある)国債のみならず、購入の決済をする予定の債券をもそのまま日銀に担保に差し入れて決済を回すことができるわけです。当座貸越を受けられる金融機関は、自社の国債口座(自己口)から日銀の共通担保に国債を差し入れることで、その範囲内で当座預金(資金)の赤残を日中に限り作ることができます*31。日銀は「利用先がDVPにより国債を譲受ける場合には、その譲受ける国債を日本銀行に担保として差入れると同時に、資金受渡金額が当座勘定から引落されます。その際、当座預金残高が不足する場合には、当該譲受国債を含む差入済み担保国債の担保価額の範囲内で日本銀行から当座貸越が供与されます*32」と説明しています。
筆者は日銀から100円を調達できれば、証券会社に100円を出して、国債を受け取るというDVP決済をします。これが図表9 国債DVP同時担保受払機能のプロセス(2)の通りです。
厳密には、日銀は100円をまるまる貸してくれるわけではなく(ここでは取引する国債の代金を100円としています)、筆者のリスクを勘案し、ヘアカットをするので、ヘアカットが1円だとすれば、1円分は筆者が調達しなければなりません。もっとも、筆者は担保なしで100円まるまる調達しなければならなかったところ、1円まで借りるお金を減らすことができたということになります。これが国債DVP同時担保受払機能の効果です。
レポ取引の決済プロセス
次に、筆者が日銀から借りてきた100円を返すため、レポ取引の決済を考えます。現在、日銀に国債を担保に出していますが、前営業日に短資会社と約定したレポ取引を決済することにより、日銀から先ほど借りてきたお金(日中当座貸越)を返すことを考えます。現時点で担保は日銀にあるため、図表10 国債DVP同時担保受払機能のプロセス(3)のように、日銀から国債を返してもらうと同時に、短資会社に国債を引き渡し、100円を借りてきます(つまり、DVP決済をします)。これで100円を筆者は受け取れたので、この100円を日銀に返却することで、日中当座貸越の返済をします(図表11 国債DVP同時担保受払機能のプロセス(4))。日銀はこの部分について、「利用先がDVPにより国債を譲渡する場合には、日本銀行に担保として差入れている国債を受戻してその国債を譲渡すると同時に、当座勘定への入金(国債の譲受人からの資金払込)が行われます。その際、日本銀行から当座貸越を供与されている場合には、当座貸越が回収されます*33」と説明しています。
図表3 適格外国仲介業者の承認プロセス*10
*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 東京大学公共政策大学院 特任准教授
*3) 下記を参照
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*4) 現在は振替制度で扱われる国債はペーパーレスになっていますが、ここでは国債の物理的な紙があるイメージで議論をすすめます。
*5) https://www.imes.boj.or.jp/jp/historical/pf/chapter9.pdf
*6) 直接参加者になるための要件については下記を参照してください。
https://www.boj.or.jp/paym/jgb_bes/touyo06.htm
*7) 改正社株法上という観点でも、金融機関を介し多数の一般投資家によって取引されている実態を考慮する必要があります。
*8) 投資家に代わって国債などの有価証券の管理などの業務を行う金融機関を指します。
*9) 債務管理リポートでは「平成11年9月以降、海外の投資家が日本国債に投資しやすくするための諸施策の一環として、適正・公平な課税にも配慮しつつ、非居住者・外国法人に対しては、一定の要件の下で振替国債の利子等を非課税とするなどの税制上の措置が講じられています」としています。
*10) https://www.mof.go.jp/jgbs/topics/taxation28/8pfi.html
*11) 本節の記載は日本銀行(1992)に基づいています。
*12) 例えば、売買などに伴う移転登録の際には、「譲渡人(売り手)と譲受人(買い手)の双方から書面による請求を必要とするなど厳格な手続きを定めていた」(日本銀行(2001)のp.198)としています。
*13) 白川・服部(2025)も参照してください。
*14) 本節は表現も含め下記を参照しています。
https://www.boj.or.jp/about/annai/genba/focusboj/focusboj25.htm
*15) 具体的な発行事務のイメージは下記を参照してください。
https://www.boj.or.jp/about/annai/genba/focusboj/focusboj25.htm
*16) デジタル化に関する要望もありますが、「厚生労働省における制度により、国として弔慰の意を表すという目的から、書面で記名国債を発行しており、各手続きにおいて国債そのものが必要となっています。厚生労働省が制度変更した場合は、オンライン化への移行も検討可能と考えられますが、現時点で具体的な方針・時期を示すのは困難です」としています。
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000211838
*17) https://www.boj.or.jp/about/annai/genba/focusboj/focusboj25.htm
*18) https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/kess/i17.htm
*19) https://www.boj.or.jp/paym/outline/pay_boj/pboj250731b.pdf
*20) 例えば、公社債市場研究会(2011)では、「RTGS移行の大きな背景は、国債の取引規模が急速に膨らむ一方で、現実に国内外の金融機関の破綻が起きる中でリスクをいかに軽減するかという流れがあって、特にそこは中央銀行が一番気になるところですから、どうしても中央銀行主導で進められたのだろうと思います。一方、国債清算機関等の話は、DVP、RTGSが進む中では証券会社さんも物の手当てが大変なので、そこを効率化するにはネッティングが必要、一方、決済リスクの軽減にも清算機関というセントラル・カウンターパーティの必要性があって、そういう流れの中でこういう組織ができ上って行ったということではないかとおもいます」(p.84)と指摘されています。
*21) 日本証券クリアリング機構(2023)では、第8章でJGBCCの設立に向けた経緯が説明されています。
*22) 本節では、決済に必要な資金(流動性)に着目して議論を進めていますが、厳密には、清算機関によるクリアリングは、債権・債務関係の置換・解消である「オブリゲーション・ネッティング」であるのに対し、時点ネット決済は単なる債権・債務の差し引き計算である「ペイメント・ネッティング」であるという違いがあります。詳細は、青木(2001)の第3章および第7章を参照してください。
https://www.boj.or.jp/paym/outline/expkess.htm
*23) https://www.boj.or.jp/statistics/set/kess/release/2025/kess2510.pdf
*24) 河西・菅野・加藤(2001)は「わが国でも従来からフェイル慣行を整備する必要性が議論されてきた。しかしながら、時点ネット決済下では、全ての取引が決済可能であることを前提に決済の手続きが進められていくため、一件でもフェイルが発生すると、それが全体の決済遅延を招いてしまうなどの問題があった。RTGS化の実施でこの点が解消されたことに加え、時点ネット決済下では表面化しなかったループによる受渡未了などへの対応が不可避であることから、RTGSの下での円滑な国債決済に資するための市場慣行の一つとして、フェイル慣行が整備されることとなった」と指摘しています。
*25) 詳細は下記を参照してください。
https://market.jsda.or.jp/shijyo/saiken/kessai/rtgs/rtgs/files/160315_rtgs_gline.pdf
*26) 記名国債など、現時点でもペーパーレス化されていない国債もあります。
https://www.boj.or.jp/about/annai/genba/tanbou/006.htm
*27) 日銀当座預金を持つための要件については、服部(2026b)を参照してください。
*28) 中島・宿輪(2008)では、旧振決制度と比較し、現物証券がまったくもちいられないこと、振替に関する法律面が明確化されたこと(帳簿上の振替によって移転の効力が直接発生する)などに違いがあるものの、基本的な枠組みには大きな違いはないとしています。
*29) 実際には、国債を買う決済の指示を日銀ネットで送る際のフォーマットにおいて、同時担保受払の欄に特定の値を入力することで日銀に伝えます。
https://www5.boj.or.jp/bojnet/saisoku/07/7index.htm
*30) https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/kess/i18.htm
*31) 共通担保オペで日銀から資金を借りる際にも、日銀の共通担保に担保となる証券を差し入れます。共通担保オペについては服部(2026b)を参照してください。
*32) https://www.boj.or.jp/paym/bojnet/rtgs/set9902c.htm
*33) https://www.boj.or.jp/paym/bojnet/rtgs/set9902c.htm