高齢者の資産をめぐる2つの問題
~認知症発症による資産凍結と相続に伴う大都市圏への資産集中~
財務総合政策研究所 総務研究部研究員 別所 範優
総務研究部主任研究官 森 友理
財務総合政策研究所では、財務省内外から様々な知見を有する実務家や研究者等を講師に招き、業務を遂行する上で参考になる幅広い知識や情報を得る場として「ランチミーティング」を開催しています。今月のPRI Open Campus では、2025年6月27日(金)に三井住友信託銀行調査部の青木美香上席調査役にご講演いただいた内容を、「ファイナンス」の読者の方々にご紹介します。
「高齢者の資産をめぐる2つの問題
~認知症発症による資産凍結と相続に伴う大都市圏への資産集中~」
青木 美香 三井住友信託銀行株式会社 調査部 上席調査役
主に家計の金融行動・消費行動、社会現象からみた経済分析などを担当。
2008年~2009年 法政大学大学院 政策経済研究所 客員研究員。2019年 兼 三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員。
著書に「日本経済知っておきたい70の勘どころ」(共著、NHK出版)、「女性が変える日本経済」(共著、日本経済新聞出版社)、 「安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A」(共著、金融財政事情研究会) 他。
主なレポートテーマは、団塊世代の家計収支と貯蓄、女性の金融資産保有力、インフレへの転換と資産運用、家計のインフレダメージ格差、若年層の負債拡大と資産形成、認知症発症による資産凍結問題、相続に伴う家計資産の地域間移動、故人資産のゆくえ など。
高齢者の資産をめぐる2つの問題として、認知症発症による資産凍結と、相続に伴う大都市圏への資産集中につきましてお話しいたします。
高齢者の資産をめぐる問題といいますと、ひところ話題沸騰しました老後資金2,000万円問題のように、備えておくべき資産額や、老後の資産運用といった、個人・家庭レベルでの問題がよく取り上げられるかと思いますが、今回はよりマクロの視点から、日本全体で発生しうる問題を二つお伝えします。
一つ目は、高齢者が生きている間の話です。高齢者が認知症を発症すると、自ら思うように動かせない資産、いわば「凍結資産」が発生しうる、という問題です。
二つ目は、高齢者が亡くなってからの話です。相続に伴う家計資産の地域間移動が発生し、この結果家計資産が東京圏を中心とした大都市圏に集中してくる、という問題です。
1.認知症発症による高齢者保有資産の凍結
(1)増え続ける認知症有病者
ご承知の通り、日本は超高齢社会に突入して久しいですが、2010年時点で23%だった総人口に占める高齢者の比率は、2030年には30.8%、2040年には34.8%になると予測されるなど、まだまだ高齢化が進行することが見込まれています(図表1 年齢階層別の高齢者数、高齢者比率の推移)。
加えて、今後の高齢化の特徴として、80代、90代といった「超」高齢層の人数が増えていくことが挙げられます。
認知症の有病率は年をとるにつれて上がっていきますから、日本において今後、認知症高齢者が増加していくことは、残念ながら避けられないと言えます。
では、認知症高齢者が増加すると、どのようなことが起こるのでしょうか。
(2)認知症発症に伴う資産の凍結
高齢者が認知症を発症すると、保有者自身による取引が実質的に不可能な資産、いわゆる「凍結資産」が発生します。この増加により、世の中全体としても動かないお金が増え、資金が滞留します。不動産も同様に、中古住宅の流通が不活性化するなどの不具合が生じてきます。
図表2 世帯種類別・世帯主年齢別 1世帯当たり保有資産は、一世帯当たりの保有資産を世帯主の年齢別にみたものです。単身世帯、二人以上世帯のどちらも60代以上の保有資産額が大きくなっています。高齢者の保有資産額が相対的に大きいだけに、認知症の発症によりその資産が動かなくなれば、マクロ経済に対する負の影響も小さくなく、超高齢社会における新たな社会問題となる可能性があります。
凍結する可能性のある資産が一体どれだけあるのか、推計してみた結果が図表の3 認知症高齢者の保有資産残高(推計値)と図表4 認知症高齢者保有資産の家計資産総額に占める比率(推計値)です。(3が実額、4が家計資産総額に占める割合。)
認知症高齢者の保有資産は2020年時点で金融資産・不動産合わせて254.8兆円ですが、2030年時点では317.5兆円、2040年には348.7兆円まで膨らむ見通しとなっています。
家計資産総額に占める割合も、2020年に8.2%であったのが2030年には10.4%、2040年には12.1%と大きく拡大します。
(3)凍結資産の地域分布と地方圏における懸念
次に、認知症高齢者が保有する資産について、都道府県別にみていきます。
まず、金融資産について。認知症高齢者保有の金融資産は、東京圏*1に3割強、三大都市圏*2に約6割が集中していますが、今後その度合いがさらに強まるとともに、額も大きく増加することが見込まれます。
次に不動産について。こちらも大都市圏に偏在していますが、特に東京都の額が群を抜いており、全国の認知症高齢者の保有不動産総額の3割が東京都に集中しています。三大都市圏でみれば約3/4が集中しています。
このように、凍結資産を金額ベースで見ますと大都市圏への偏在が明らかで、この点からすれば「認知症発症による凍結資産問題は大都市圏の問題」と言えるかもしれません。ただ、地方は地方で問題があります。地方圏における懸念点を三点指摘したいと思います。
一点目は空き家問題です。認知症高齢者が保有する不動産は原則取引ができず、空き家となってしまう可能性を孕みます。空き家が放置されれば防災、防犯、衛生、景観等のあらゆる面で、地域社会に悪影響を与えるリスクが大きくなります。この、いわゆる空き家問題を扱う上では、認知症高齢者の保有不動産を金額ベースではなく、件数ベースで見る必要があるでしょう。
図表5 都道府県別 認知症高齢者が保有する不動産件数(上位10県、東京圏、三大都市圏)にて都道府県別に実際にみてみますと、三大都市圏の合計件数の全国に占める割合は、ちょうど50%ほどです。裏を返せば、空き家化リスクを抱える凍結不動産の半数は地方圏にあるということです。個別のランキングをみても、北海道の件数が11.2万件で、全国の4.7%を占め6位にランクインしてきます。福岡県や静岡県も、全国に占める比率が3~4%で、北海道、福岡、静岡合わせて全国の1割強を占めます。
一般的に、地方圏の方が物件の資産価値は低く、また不動産需要も少ないため、認知症高齢者の保有不動産の件数は大都市圏と地方で半々でも、これに伴う空き家問題は、地方においてより顕在化しやすいと考えられます。
二点目は、都道府県内経済へのダメージです。ダメージの大きさを測る指標としてここでは、各都道府県の家計保有資産総額に占める、認知症高齢者保有資産の割合を採用しています。
図表6 都道府県別 家計保有資産総額に占める認知症高齢者保有額の比率(2020年、上位10県)の通り、これが1割を超える県だけでも、新潟県、島根県、長崎県など計7県あります。家計資産の1割以上が凍結されるとなれば、県内経済への影響は決して小さくありません。この7県のうち、6県が地方圏であることからも、凍結資産問題が地方圏の経済にもダメージを与えることがおわかりいただけるかと思います。
図表6の上位県はいずれも高齢者の人口比率が高く、それだけ認知症高齢者の割合も大きくなってくることが影響していると考えられます。
唯一例外的なのが東京都の不動産です。高齢者人口比率が22.7%と全国で二番目に低いにもかかわらず、認知症高齢者の不動産保有割合が9.4%と全国で二番目に高くなっています。これは都内の高齢者が保有する不動産の資産価値が非常に大きいこと、および都内の若年層の持ち家率が極めて低いこと、この二つに起因しているものと考えられます。
三点目は、今後の資産凍結問題の深刻化です。図表7 認知症高齢者が保有する資産総額(2020年時点)と同増加率(2020年~2040年)でみた都道府県分布は認知症高齢者が保有する資産額の2020年から2040年にかけての増加率を示していますが、元の額が大きい大都市圏もさることながら、地方圏の中にも今後20年で4割~6割近く凍結資産増加が見込まれる県がみられ、地方圏においてもこの問題が深刻化する可能性があることがわかります。
(4)資産凍結に対する事前準備の必要性
ここまで認知症高齢者の資産凍結に伴うマクロ経済への負の影響を挙げてきましたが、この対策としては、財産管理委託など、個々人における認知症発症前の準備が肝要です。
認知症を発症し、意思能力に問題が生じてしまった後ですと、原則資産は一旦凍結されてしまいます。しかも、凍結解除のための法定後見制度においては、家庭裁判所が後見人を選任しますから、本人やご家族が望む人が後見人になるとは限りません。
こうして選任された後見人は、財産の保全を第一として保守的に行動しますから、その運用は大きく制限されます。場合によっては本人の生活に必要な最低限の預金しか引き出すことを認めない、ということもあります。加えて後見人報酬も、管理対象資産の額により月2万円から6万円程度、本人が亡くなるまで継続して負担が発生します。
本人や家族が納得するかたちで、認知症発症後も資産を動かせるようにしておきたいのであれば、発症前に対策をとっておく必要があります。具体的には、任意後見制度、任意代理(委任契約)制度、民事信託(家族信託)、商事信託、の活用などが有効です(図表8 認知症発症による資産凍結防止対策)。
また不動産については、上記制度を活用したとしても、実際に利活用や処分をするには状態が悪く、結局そのまま放置されてしまうというケース、例えば家屋であれば、住人が認知症を発症し施設等に転居した後に、空き家化してしまうといったケースが散見されます。事前にリフォームやリノベーションも含めた住まいのメンテナンスをきちんと行っておき、仮に後見人へ管理を引き継がれた場合にも、スムーズに利活用処分がしやすい状態にしておくことが重要です。
政府としても、制度の周知や使いやすい形への改正等を通じ、これらを後押しする余地もあると考えられます。
(5)補論:最新データに基づく凍結資産推計
図表9 年齢別認知症有病率、図表10 年齢別認知症+MCI有病率は、2024年、11年ぶりに公表された最新の認知症有病率データを用いた試算です。今回の公表では認知症有病率だけでなく、その一歩手前の軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:以下、MCI)も含めた有病率も示されており、それぞれの保有資産残高を推計したものが、図表11 認知症高齢者の保有資産残高と家計資産総額に占める比率(推計値)と図表12 認知症+MCI高齢者の保有資産残高と家計資産総額に占める比率(推計値)です。
認知症有病率は本論で用いた2013年のデータより相当低下しており、その分認知症高齢者の保有資産残高も小さくなっていますが、MCI有病者まで含めた場合、先ほど紹介したよりかなり大きくなります。
現時点では都道府県別の推計はできておらず、今後の課題としたいと思います。
2.相続に伴う家計資産の地域間移動
(1)「大相続時代」
続いては二つ目のテーマ、高齢者が亡くなってからの、相続に伴う家計資産の地域間移動についてご紹介します。
まずは前提となる死亡数の推移からみますと、日本における2023年の年間死亡数が約158万人、うち高齢者が約145万人ですが、特に高齢者については10年余りのうちに4割増しとなるなど、ここ数年で急増しており、またこの数は2040年頃まで増加し続けると推計されております。高齢者死亡数の増加は相続件数の増加に直結し、日本には「大相続時代」ともいうべき時代が到来しつつあります。
相続の際、被相続人と相続人の住んでいる地域が異なれば、資産の移動も当然地域をまたいだものになります。日本ではこうしたケースが多く、また今後更なる件数の増加も見込まれ、家計資産の地域分布にも変化がもたらされます。
(2)高度成長期の置き土産
資産の地域間移動が膨らむのは、日本において地方に住む親と大都市圏に住む子どもという組合せが非常に多いためです。これは、1960年から1974年にかけての高度経済成長期に、地方圏から三大都市圏へ約1,700万人もの人口が流入したこと(図表13 非大都市圏から三大都市圏への転入者数推移中、(1)~(3))に加え、その後も東京圏については1990年前後まで年間50万人という大量の人口流入が継続していたこと(図表13中、(4))に起因します。
このうち1960年代前半の転入者(図表13中、(1))は、現在80歳前後になっており、すでに親からの相続を終えた者が大半と想定されますからここでは扱わず、1960年代後半から1980年代にかけての転入者数(図表13中、(2)~(4))と、それぞれが18歳で転入したと仮定した場合の、親世代の現在の生存率、この二つを基にして、現在三大都市圏に住む子どもと地方圏に住む親という組合せの数を試算したところ、約1,200万組という結果となりました。(転入当初の人数を基にしており、転入後すでに死亡した人数や、転入後再度地方圏に転出した人数は考慮していません。)
言い換えればこの1,200万人が、地方圏に住む親が亡くなった際、保有資産を三大都市圏で相続する相続人になり得る、その母集団ということになります。かなりのボリュームであり、彼らが相続による家計資産の地域間移動を後押しするのは間違いないでしょう。
(3)地域ごとの相続先の傾向
では次に、相続によって実際どれだけの家計資産が、どのように移動するのかを地域ごとにみていきます。
図表14 相続発生時の家計資産の域外流出率マップは都道府県別に、相続によって地域*3外に流出する家計資産の比率を5段階に色分けしたものです。
資産の25%以上が地域外に流出する県は全体の3割、13県に上ります。流出率が高い県は全国に分布する一方、流出率が低い都道府県は東京圏に集中しています。東京圏各県の流出率は6~7%で、即ち、相続を経てもなお地域内に93~94%の家計資産が留まることになります。
図表15 相続発生時の家計資産の移動先はさらに細かく、相続発生時の家計資産の行き先を(1)県内残留、(2)同じ地域内の他県への流出、(3)地域外に流出、の三つに分類し、その比率を都道府県別にグラフ化したものです。同じ地域内でも、都道府県によりかなり傾向が違うことが見てとれます。東北地域を例にとれば、宮城県では相続を経てもなお家計資産の約8割が県内に留まる一方、秋田県と岩手県は相続が発生した際、同じ地域内の他県(多くは宮城県)への流出率が高く、残りの青森、山形、福島の各県は、地域外への流出率が非常に高い、といった具合です。
これを整理し直したものが図表16 資産の県外流出率と地域外流出率による分類で、横軸に県外への流出率、縦軸に地域外への流出率をとり各県をプロットしております。相続に伴う家計資産の移動の傾向は、A~Dの大きく4つのグループに分類できます。
Aはグラフ右上にあたり、県外流出率、地域外流出率ともに高いグループです。同じ地域内に地方の中核都市が無いか、あっても遠く、親元を離れた子どもの転出先として三大都市圏を指向することが考えられる都道府県です。
グラフ右中ほどのBは、地方の中核都市が比較的近く、親元を離れた子どもの転出先、即ち相続資産の流出先が地域内の他県となることが多いと考えられるグループです。
左中ほどのCは大阪圏の各府県や地方の中核都市を内包する都道府県が該当します。この場合、親元を離れた子どもが県内、少なくとも地域内には留まることが多く、相続資産の動きもそれに準じます。
他方左下のDは地域外への流出率が格段に低い東京圏です。
(4)相続に伴う家計金融資産の地域間移動額
次に移動額をみてみましょう。不動産は所有権の移転は発生しても物理的な移動は発生しませんので、相続によって確実に移動しかつ金額の把握しやすい家計金融資産に絞って分析を進めます。
図表17 相続発生に伴う家計金融資産の地域間移動額は、先述の母集団における相続がおおよそ完了すると考えられる今後30年程度の間に、どれだけの地域間移動が発生するのかを推計し、資産の移動元と移動先の組合せで金額を示したものです。全体でみると、相続によって発生する金融資産の額644兆円のうち、約2割にあたる124.5兆円が地域間をまたいで移動しますが、重要なのはその非対称性です。
下端の流入額から右端の流出額を差し引きすることで、相続に伴う地域外への流入超過額(マイナスの場合は流出超過額)がわかります。これを現在残高と並べてまとめたものが図表18 地域別に見た相続に伴う家計金融資産残高の変化です。
注目すべきはやはり、東京圏への流入超過額の大きさです。今後、東京圏は相続によって家計金融資産総額を38.1兆円増加させるポテンシャルを秘めているということになります。流入超過額が次に大きいのは大阪圏ですが、2.2兆円と東京圏に比して非常に小さな額です。またそのほかの地域は流出超過ですから、相続による家計金融資産の流入は東京圏に集中しているといっても過言ではありません。しかもそれは、元より経済規模の小さな地方圏からの吸い上げにより発生しますから、地方経済に与える影響も看過できません。
流出超過額で見れば、中部・北陸地域が最も大きくマイナス9兆円、流出率でいえば四国の19.0%を筆頭に、東北、中部・北陸、中国、九州・沖縄で10%以上の家計金融資産が失われる可能性があります。
相続前後における、全国の家計金融資産の地域別分布比率を示したものが、図表19 相続に伴う家計金融資産の地域分布の変化です。
東京圏では36.4%から41.0%へ、三大都市圏で見れば60.4%から64.9%へ、その集中の度合いが高まるということになります。これほどの変化が、相続だけでもたらされるのです。
(5)今後の展望
ここまで、1960年代から1980年代にかけて発生した大量の人口移動を背景とした「地方圏に住む親から三大都市圏に住む子への相続」という観点から資産移動についてみてきましたが、今後の変化の可能性を三点挙げておきたいと思います。
一点目は、「東京圏完結型」相続増加の可能性です。先述の時期に地方圏から東京圏へ流入した相続人は、今後被相続人となる世代に差し掛かりますが、彼らの子、相続人もまた東京圏に居住しているケースが多く、こうした親子間で発生する「東京圏内完結型」相続の場合、地域をまたいだ資産移動は発生せず一極集中は維持されることになります。
二点目は、相続により地方圏から大都市圏に移動した家計資産が、今度は相続によらず地方圏へ再移動する可能性があるということです。退職後の地方移住によるUターンやIターン、親の呼び寄せなどの潮流によるものか、三大都市圏からの高齢者の転出者数は少しずつ増えています(図表20 三大都市圏からの高齢者の転出者数)。これに伴い、家計資産も地方圏へ還流する可能性があります。
また、近年は、大都市圏に住む子どもによる地方の不動産の相続放棄も増えていると聞きます。この結果、相対的に地価が低い地方圏において未利用地が拡大しているとすれば、これを地方への投資促進の1つの材料と捉えることもできるでしょう。地方創生などの流れを追い風に、相続で三大都市圏に集積した資金を再び地方に呼び込むといった取り組みにも期待したいところです。
三点目は、相続そのものが減少する可能性です。図表21 子供に財産を残す意向を持つ人の比率の通り、子どもに財産を残す意向を持つ人は減っています。これにより、地方圏に住む親と三大都市圏に住む子どもという組合せであっても、遺産が三大都市圏へ向かわず、地元への社会貢献活動などを通じて地方圏に留まり続ける、あるいは海外へ流出するなど、遺産の動きに新しい道筋が生まれれば、これまで続いてきた地方圏から大都市圏への家計資産移動を若干和らげることになるかもしれません。
財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html
*1) 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県。
*2) 東京圏に加え名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)、大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)の1都2府8県。
*3) 地域割は図表17を参照。
~認知症発症による資産凍結と相続に伴う大都市圏への資産集中~
財務総合政策研究所 総務研究部研究員 別所 範優
総務研究部主任研究官 森 友理
財務総合政策研究所では、財務省内外から様々な知見を有する実務家や研究者等を講師に招き、業務を遂行する上で参考になる幅広い知識や情報を得る場として「ランチミーティング」を開催しています。今月のPRI Open Campus では、2025年6月27日(金)に三井住友信託銀行調査部の青木美香上席調査役にご講演いただいた内容を、「ファイナンス」の読者の方々にご紹介します。
「高齢者の資産をめぐる2つの問題
~認知症発症による資産凍結と相続に伴う大都市圏への資産集中~」
青木 美香 三井住友信託銀行株式会社 調査部 上席調査役
主に家計の金融行動・消費行動、社会現象からみた経済分析などを担当。
2008年~2009年 法政大学大学院 政策経済研究所 客員研究員。2019年 兼 三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員。
著書に「日本経済知っておきたい70の勘どころ」(共著、NHK出版)、「女性が変える日本経済」(共著、日本経済新聞出版社)、 「安心ミライへの「資産形成」ガイドブックQ&A」(共著、金融財政事情研究会) 他。
主なレポートテーマは、団塊世代の家計収支と貯蓄、女性の金融資産保有力、インフレへの転換と資産運用、家計のインフレダメージ格差、若年層の負債拡大と資産形成、認知症発症による資産凍結問題、相続に伴う家計資産の地域間移動、故人資産のゆくえ など。
高齢者の資産をめぐる2つの問題として、認知症発症による資産凍結と、相続に伴う大都市圏への資産集中につきましてお話しいたします。
高齢者の資産をめぐる問題といいますと、ひところ話題沸騰しました老後資金2,000万円問題のように、備えておくべき資産額や、老後の資産運用といった、個人・家庭レベルでの問題がよく取り上げられるかと思いますが、今回はよりマクロの視点から、日本全体で発生しうる問題を二つお伝えします。
一つ目は、高齢者が生きている間の話です。高齢者が認知症を発症すると、自ら思うように動かせない資産、いわば「凍結資産」が発生しうる、という問題です。
二つ目は、高齢者が亡くなってからの話です。相続に伴う家計資産の地域間移動が発生し、この結果家計資産が東京圏を中心とした大都市圏に集中してくる、という問題です。
1.認知症発症による高齢者保有資産の凍結
(1)増え続ける認知症有病者
ご承知の通り、日本は超高齢社会に突入して久しいですが、2010年時点で23%だった総人口に占める高齢者の比率は、2030年には30.8%、2040年には34.8%になると予測されるなど、まだまだ高齢化が進行することが見込まれています(図表1 年齢階層別の高齢者数、高齢者比率の推移)。
加えて、今後の高齢化の特徴として、80代、90代といった「超」高齢層の人数が増えていくことが挙げられます。
認知症の有病率は年をとるにつれて上がっていきますから、日本において今後、認知症高齢者が増加していくことは、残念ながら避けられないと言えます。
では、認知症高齢者が増加すると、どのようなことが起こるのでしょうか。
(2)認知症発症に伴う資産の凍結
高齢者が認知症を発症すると、保有者自身による取引が実質的に不可能な資産、いわゆる「凍結資産」が発生します。この増加により、世の中全体としても動かないお金が増え、資金が滞留します。不動産も同様に、中古住宅の流通が不活性化するなどの不具合が生じてきます。
図表2 世帯種類別・世帯主年齢別 1世帯当たり保有資産は、一世帯当たりの保有資産を世帯主の年齢別にみたものです。単身世帯、二人以上世帯のどちらも60代以上の保有資産額が大きくなっています。高齢者の保有資産額が相対的に大きいだけに、認知症の発症によりその資産が動かなくなれば、マクロ経済に対する負の影響も小さくなく、超高齢社会における新たな社会問題となる可能性があります。
凍結する可能性のある資産が一体どれだけあるのか、推計してみた結果が図表の3 認知症高齢者の保有資産残高(推計値)と図表4 認知症高齢者保有資産の家計資産総額に占める比率(推計値)です。(3が実額、4が家計資産総額に占める割合。)
認知症高齢者の保有資産は2020年時点で金融資産・不動産合わせて254.8兆円ですが、2030年時点では317.5兆円、2040年には348.7兆円まで膨らむ見通しとなっています。
家計資産総額に占める割合も、2020年に8.2%であったのが2030年には10.4%、2040年には12.1%と大きく拡大します。
(3)凍結資産の地域分布と地方圏における懸念
次に、認知症高齢者が保有する資産について、都道府県別にみていきます。
まず、金融資産について。認知症高齢者保有の金融資産は、東京圏*1に3割強、三大都市圏*2に約6割が集中していますが、今後その度合いがさらに強まるとともに、額も大きく増加することが見込まれます。
次に不動産について。こちらも大都市圏に偏在していますが、特に東京都の額が群を抜いており、全国の認知症高齢者の保有不動産総額の3割が東京都に集中しています。三大都市圏でみれば約3/4が集中しています。
このように、凍結資産を金額ベースで見ますと大都市圏への偏在が明らかで、この点からすれば「認知症発症による凍結資産問題は大都市圏の問題」と言えるかもしれません。ただ、地方は地方で問題があります。地方圏における懸念点を三点指摘したいと思います。
一点目は空き家問題です。認知症高齢者が保有する不動産は原則取引ができず、空き家となってしまう可能性を孕みます。空き家が放置されれば防災、防犯、衛生、景観等のあらゆる面で、地域社会に悪影響を与えるリスクが大きくなります。この、いわゆる空き家問題を扱う上では、認知症高齢者の保有不動産を金額ベースではなく、件数ベースで見る必要があるでしょう。
図表5 都道府県別 認知症高齢者が保有する不動産件数(上位10県、東京圏、三大都市圏)にて都道府県別に実際にみてみますと、三大都市圏の合計件数の全国に占める割合は、ちょうど50%ほどです。裏を返せば、空き家化リスクを抱える凍結不動産の半数は地方圏にあるということです。個別のランキングをみても、北海道の件数が11.2万件で、全国の4.7%を占め6位にランクインしてきます。福岡県や静岡県も、全国に占める比率が3~4%で、北海道、福岡、静岡合わせて全国の1割強を占めます。
一般的に、地方圏の方が物件の資産価値は低く、また不動産需要も少ないため、認知症高齢者の保有不動産の件数は大都市圏と地方で半々でも、これに伴う空き家問題は、地方においてより顕在化しやすいと考えられます。
二点目は、都道府県内経済へのダメージです。ダメージの大きさを測る指標としてここでは、各都道府県の家計保有資産総額に占める、認知症高齢者保有資産の割合を採用しています。
図表6 都道府県別 家計保有資産総額に占める認知症高齢者保有額の比率(2020年、上位10県)の通り、これが1割を超える県だけでも、新潟県、島根県、長崎県など計7県あります。家計資産の1割以上が凍結されるとなれば、県内経済への影響は決して小さくありません。この7県のうち、6県が地方圏であることからも、凍結資産問題が地方圏の経済にもダメージを与えることがおわかりいただけるかと思います。
図表6の上位県はいずれも高齢者の人口比率が高く、それだけ認知症高齢者の割合も大きくなってくることが影響していると考えられます。
唯一例外的なのが東京都の不動産です。高齢者人口比率が22.7%と全国で二番目に低いにもかかわらず、認知症高齢者の不動産保有割合が9.4%と全国で二番目に高くなっています。これは都内の高齢者が保有する不動産の資産価値が非常に大きいこと、および都内の若年層の持ち家率が極めて低いこと、この二つに起因しているものと考えられます。
三点目は、今後の資産凍結問題の深刻化です。図表7 認知症高齢者が保有する資産総額(2020年時点)と同増加率(2020年~2040年)でみた都道府県分布は認知症高齢者が保有する資産額の2020年から2040年にかけての増加率を示していますが、元の額が大きい大都市圏もさることながら、地方圏の中にも今後20年で4割~6割近く凍結資産増加が見込まれる県がみられ、地方圏においてもこの問題が深刻化する可能性があることがわかります。
(4)資産凍結に対する事前準備の必要性
ここまで認知症高齢者の資産凍結に伴うマクロ経済への負の影響を挙げてきましたが、この対策としては、財産管理委託など、個々人における認知症発症前の準備が肝要です。
認知症を発症し、意思能力に問題が生じてしまった後ですと、原則資産は一旦凍結されてしまいます。しかも、凍結解除のための法定後見制度においては、家庭裁判所が後見人を選任しますから、本人やご家族が望む人が後見人になるとは限りません。
こうして選任された後見人は、財産の保全を第一として保守的に行動しますから、その運用は大きく制限されます。場合によっては本人の生活に必要な最低限の預金しか引き出すことを認めない、ということもあります。加えて後見人報酬も、管理対象資産の額により月2万円から6万円程度、本人が亡くなるまで継続して負担が発生します。
本人や家族が納得するかたちで、認知症発症後も資産を動かせるようにしておきたいのであれば、発症前に対策をとっておく必要があります。具体的には、任意後見制度、任意代理(委任契約)制度、民事信託(家族信託)、商事信託、の活用などが有効です(図表8 認知症発症による資産凍結防止対策)。
また不動産については、上記制度を活用したとしても、実際に利活用や処分をするには状態が悪く、結局そのまま放置されてしまうというケース、例えば家屋であれば、住人が認知症を発症し施設等に転居した後に、空き家化してしまうといったケースが散見されます。事前にリフォームやリノベーションも含めた住まいのメンテナンスをきちんと行っておき、仮に後見人へ管理を引き継がれた場合にも、スムーズに利活用処分がしやすい状態にしておくことが重要です。
政府としても、制度の周知や使いやすい形への改正等を通じ、これらを後押しする余地もあると考えられます。
(5)補論:最新データに基づく凍結資産推計
図表9 年齢別認知症有病率、図表10 年齢別認知症+MCI有病率は、2024年、11年ぶりに公表された最新の認知症有病率データを用いた試算です。今回の公表では認知症有病率だけでなく、その一歩手前の軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:以下、MCI)も含めた有病率も示されており、それぞれの保有資産残高を推計したものが、図表11 認知症高齢者の保有資産残高と家計資産総額に占める比率(推計値)と図表12 認知症+MCI高齢者の保有資産残高と家計資産総額に占める比率(推計値)です。
認知症有病率は本論で用いた2013年のデータより相当低下しており、その分認知症高齢者の保有資産残高も小さくなっていますが、MCI有病者まで含めた場合、先ほど紹介したよりかなり大きくなります。
現時点では都道府県別の推計はできておらず、今後の課題としたいと思います。
2.相続に伴う家計資産の地域間移動
(1)「大相続時代」
続いては二つ目のテーマ、高齢者が亡くなってからの、相続に伴う家計資産の地域間移動についてご紹介します。
まずは前提となる死亡数の推移からみますと、日本における2023年の年間死亡数が約158万人、うち高齢者が約145万人ですが、特に高齢者については10年余りのうちに4割増しとなるなど、ここ数年で急増しており、またこの数は2040年頃まで増加し続けると推計されております。高齢者死亡数の増加は相続件数の増加に直結し、日本には「大相続時代」ともいうべき時代が到来しつつあります。
相続の際、被相続人と相続人の住んでいる地域が異なれば、資産の移動も当然地域をまたいだものになります。日本ではこうしたケースが多く、また今後更なる件数の増加も見込まれ、家計資産の地域分布にも変化がもたらされます。
(2)高度成長期の置き土産
資産の地域間移動が膨らむのは、日本において地方に住む親と大都市圏に住む子どもという組合せが非常に多いためです。これは、1960年から1974年にかけての高度経済成長期に、地方圏から三大都市圏へ約1,700万人もの人口が流入したこと(図表13 非大都市圏から三大都市圏への転入者数推移中、(1)~(3))に加え、その後も東京圏については1990年前後まで年間50万人という大量の人口流入が継続していたこと(図表13中、(4))に起因します。
このうち1960年代前半の転入者(図表13中、(1))は、現在80歳前後になっており、すでに親からの相続を終えた者が大半と想定されますからここでは扱わず、1960年代後半から1980年代にかけての転入者数(図表13中、(2)~(4))と、それぞれが18歳で転入したと仮定した場合の、親世代の現在の生存率、この二つを基にして、現在三大都市圏に住む子どもと地方圏に住む親という組合せの数を試算したところ、約1,200万組という結果となりました。(転入当初の人数を基にしており、転入後すでに死亡した人数や、転入後再度地方圏に転出した人数は考慮していません。)
言い換えればこの1,200万人が、地方圏に住む親が亡くなった際、保有資産を三大都市圏で相続する相続人になり得る、その母集団ということになります。かなりのボリュームであり、彼らが相続による家計資産の地域間移動を後押しするのは間違いないでしょう。
(3)地域ごとの相続先の傾向
では次に、相続によって実際どれだけの家計資産が、どのように移動するのかを地域ごとにみていきます。
図表14 相続発生時の家計資産の域外流出率マップは都道府県別に、相続によって地域*3外に流出する家計資産の比率を5段階に色分けしたものです。
資産の25%以上が地域外に流出する県は全体の3割、13県に上ります。流出率が高い県は全国に分布する一方、流出率が低い都道府県は東京圏に集中しています。東京圏各県の流出率は6~7%で、即ち、相続を経てもなお地域内に93~94%の家計資産が留まることになります。
図表15 相続発生時の家計資産の移動先はさらに細かく、相続発生時の家計資産の行き先を(1)県内残留、(2)同じ地域内の他県への流出、(3)地域外に流出、の三つに分類し、その比率を都道府県別にグラフ化したものです。同じ地域内でも、都道府県によりかなり傾向が違うことが見てとれます。東北地域を例にとれば、宮城県では相続を経てもなお家計資産の約8割が県内に留まる一方、秋田県と岩手県は相続が発生した際、同じ地域内の他県(多くは宮城県)への流出率が高く、残りの青森、山形、福島の各県は、地域外への流出率が非常に高い、といった具合です。
これを整理し直したものが図表16 資産の県外流出率と地域外流出率による分類で、横軸に県外への流出率、縦軸に地域外への流出率をとり各県をプロットしております。相続に伴う家計資産の移動の傾向は、A~Dの大きく4つのグループに分類できます。
Aはグラフ右上にあたり、県外流出率、地域外流出率ともに高いグループです。同じ地域内に地方の中核都市が無いか、あっても遠く、親元を離れた子どもの転出先として三大都市圏を指向することが考えられる都道府県です。
グラフ右中ほどのBは、地方の中核都市が比較的近く、親元を離れた子どもの転出先、即ち相続資産の流出先が地域内の他県となることが多いと考えられるグループです。
左中ほどのCは大阪圏の各府県や地方の中核都市を内包する都道府県が該当します。この場合、親元を離れた子どもが県内、少なくとも地域内には留まることが多く、相続資産の動きもそれに準じます。
他方左下のDは地域外への流出率が格段に低い東京圏です。
(4)相続に伴う家計金融資産の地域間移動額
次に移動額をみてみましょう。不動産は所有権の移転は発生しても物理的な移動は発生しませんので、相続によって確実に移動しかつ金額の把握しやすい家計金融資産に絞って分析を進めます。
図表17 相続発生に伴う家計金融資産の地域間移動額は、先述の母集団における相続がおおよそ完了すると考えられる今後30年程度の間に、どれだけの地域間移動が発生するのかを推計し、資産の移動元と移動先の組合せで金額を示したものです。全体でみると、相続によって発生する金融資産の額644兆円のうち、約2割にあたる124.5兆円が地域間をまたいで移動しますが、重要なのはその非対称性です。
下端の流入額から右端の流出額を差し引きすることで、相続に伴う地域外への流入超過額(マイナスの場合は流出超過額)がわかります。これを現在残高と並べてまとめたものが図表18 地域別に見た相続に伴う家計金融資産残高の変化です。
注目すべきはやはり、東京圏への流入超過額の大きさです。今後、東京圏は相続によって家計金融資産総額を38.1兆円増加させるポテンシャルを秘めているということになります。流入超過額が次に大きいのは大阪圏ですが、2.2兆円と東京圏に比して非常に小さな額です。またそのほかの地域は流出超過ですから、相続による家計金融資産の流入は東京圏に集中しているといっても過言ではありません。しかもそれは、元より経済規模の小さな地方圏からの吸い上げにより発生しますから、地方経済に与える影響も看過できません。
流出超過額で見れば、中部・北陸地域が最も大きくマイナス9兆円、流出率でいえば四国の19.0%を筆頭に、東北、中部・北陸、中国、九州・沖縄で10%以上の家計金融資産が失われる可能性があります。
相続前後における、全国の家計金融資産の地域別分布比率を示したものが、図表19 相続に伴う家計金融資産の地域分布の変化です。
東京圏では36.4%から41.0%へ、三大都市圏で見れば60.4%から64.9%へ、その集中の度合いが高まるということになります。これほどの変化が、相続だけでもたらされるのです。
(5)今後の展望
ここまで、1960年代から1980年代にかけて発生した大量の人口移動を背景とした「地方圏に住む親から三大都市圏に住む子への相続」という観点から資産移動についてみてきましたが、今後の変化の可能性を三点挙げておきたいと思います。
一点目は、「東京圏完結型」相続増加の可能性です。先述の時期に地方圏から東京圏へ流入した相続人は、今後被相続人となる世代に差し掛かりますが、彼らの子、相続人もまた東京圏に居住しているケースが多く、こうした親子間で発生する「東京圏内完結型」相続の場合、地域をまたいだ資産移動は発生せず一極集中は維持されることになります。
二点目は、相続により地方圏から大都市圏に移動した家計資産が、今度は相続によらず地方圏へ再移動する可能性があるということです。退職後の地方移住によるUターンやIターン、親の呼び寄せなどの潮流によるものか、三大都市圏からの高齢者の転出者数は少しずつ増えています(図表20 三大都市圏からの高齢者の転出者数)。これに伴い、家計資産も地方圏へ還流する可能性があります。
また、近年は、大都市圏に住む子どもによる地方の不動産の相続放棄も増えていると聞きます。この結果、相対的に地価が低い地方圏において未利用地が拡大しているとすれば、これを地方への投資促進の1つの材料と捉えることもできるでしょう。地方創生などの流れを追い風に、相続で三大都市圏に集積した資金を再び地方に呼び込むといった取り組みにも期待したいところです。
三点目は、相続そのものが減少する可能性です。図表21 子供に財産を残す意向を持つ人の比率の通り、子どもに財産を残す意向を持つ人は減っています。これにより、地方圏に住む親と三大都市圏に住む子どもという組合せであっても、遺産が三大都市圏へ向かわず、地元への社会貢献活動などを通じて地方圏に留まり続ける、あるいは海外へ流出するなど、遺産の動きに新しい道筋が生まれれば、これまで続いてきた地方圏から大都市圏への家計資産移動を若干和らげることになるかもしれません。
財務総合政策研究所
POLICY RESEARCH INSTITUTE, Ministry Of Finance, JAPAN
過去の「PRI Open Campus」については、
財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。
https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html
*1) 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県。
*2) 東京圏に加え名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)、大阪圏(大阪府、京都府、兵庫県、奈良県)の1都2府8県。
*3) 地域割は図表17を参照。

