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コラム 経済トレンド139

ガストロノミーツーリズムと地域活性化
大臣官房総合政策課 調査員 古川 晃久/日比野 聡太

 本稿では、地域活性化の観点から、ガストロノミーツーリズムの意義と可能性について考察する。
ガストロノミーツーリズムとは
 近年、地域資源を活用した持続可能な観光の推進において、ガストロノミーツーリズムへの関心が高まっており、世界的にその市場規模は拡大すると予測されている。我が国においても、観光立国推進基本計画内でもガストロノミーツーリズムの推進が謳われており、地域活性化や訪日外国人客の誘客等の観点からその重要性は高まっている(図表1 ガストロノミーツーリズム定義、図表2 訪日外客数の推移)。
 2024年インバウンド消費動向調査によると、訪日前に期待していたことで「日本食を食べること」、「日本の酒を飲むこと」は上位に位置しており、訪日外国人の日本の食文化に対する期待を伺うことができる(図表3 訪日前に期待していたこと(全国籍・地域、複数回答)、図表4 土産物に酒類を購入した訪日客の比率)。
 ガストロノミーツーリズムの中でも、とりわけ酒類を中心とした観光形態は、「酒蔵ツーリズム(ワイナリー・ブルワリー等を含む)」として地域の食文化・歴史的背景を体験できる手段として注目されており、近年では地域活性化において新たな価値を創出している。本稿では、酒類を中心としたガストロノミーツーリズムの意義と可能性について、事例を交えながら考察する。
(出所)JNTO「訪日外客統計」、観光庁「インバウンド消費動向調査」、観光庁HP

酒類を中心としたガストロノミーツーリズムの魅力と価値
 日本各地で造られる、日本酒やクラフトビール、焼酎、ウイスキー、ワインなどは、地域の魅力を引き出す観光資源として注目されている。これらを中心にしたガストロノミーツーリズムは、観光客に鮮やかな体験価値を提供している(図表5 酒蔵・醸造所で体験できる観光コンテンツ一覧)。
 酒造所や醸造所を訪れる観光客は、テイスティングや酒造り体験を通じて地元の食文化や人との交流を楽しむことができる。こうした体験型観光が飲食店や宿泊施設、交通機関など周辺産業への消費に繋がり、地域内経済循環を推進する(図表6 酒造と周辺産業の連携で地域内資金循環を促進する)。
 国産酒類の輸出増加は年々増加しており、インバウンド観光とも相まって、国内外でのそのブランド価値が高まっている。観光客が現地で味わった酒の味を自国でも味わいたいと、帰国後にも購入するケースも多いのではないかと推察され、観光が販路拡大のきっかけとなる好循環に繋がっている(図表7 訪日外客数と酒類輸出量の推移)。
 また、地域に根差した酒類関連のツーリズムは地域の新たな雇用にも繋がる。ガイドや通訳、体験プログラムの企画運営など、多様な働き方が増え、人口流出の防止または移住者の受け入れに繋がる可能性もある。観光を軸にした地域づくりは、経済面だけでなく、社会面でも貢献が期待できる。
(出所)国税庁HP、日本政府観光局HP、財務省広報誌『ファイナンス』2025年10月号

ガストロノミーツーリズム 事例紹介
 ガストロノミーツーリズムの取組み推進のためには、基盤となる食の開発に、付加価値となる特別な体験の醸成・提供を確立し、その上で、官民学が連携し、地域一体で持続的な体制づくりを行う必要がある(図表8 ガストロノミーツーリズムの取組類型の位置づけ)。
 観光庁「令和5年度 地域一体型ガストロノミーツーリズムの推進事業」にも採択されている、北海道の余市町役場の「世界が恋する余市の美酒&美食」事業では、余市町と観光協会、地域事業者等が連携し、地域の特徴でもあるワインやウイスキーのペアリングメニューや醸造所体験を通じ、主に訪日外国人客の集客に繋げ、地域のブランド力向上に寄与している(図表9 余市町役場の取組み)。
 300年以上前から酒造りが続く米どころである、長野県佐久地域に拠点を構える「KURABITO STAY」では、歴史ある酒蔵に「蔵人」として旅行客を受け入れる酒造り体験など、独自の体験型観光を展開することで、地域一体となり持続可能な観光ビジネスモデルに取り組んでいる(図表10 KURABITO STAYの取組み)。
(注)令和6年度においては、新規付加価値類型群として、高付加価値型、ナイトタイム型、認証型の3類型を、基礎部分アップデート類型群として地域食文化体験型、生産者連携型の2類型を設定。
(出所)JNTO HP、観光庁「令和5年度 地域一体型ガストロノミーツーリズムの推進事業」、観光庁「令和6年度 地域一体型ガストロノミーツーリズムの推進事業」、日本経済新聞

ガストロノミーツーリズム推進のために
 ガストロノミーツーリズムは、地域の食文化を通じ、観光客にその土地ならではのストーリーを感じさせる深い体験価値を提供するが、こうした体験は、単なる消費にとどまらず、地域経済の活性化や持続可能な観光の推進に繋がる貴重な機会である。
 今後のさらなる推進には、地域全体での受け入れ体制の整備が重要であり、多言語対応やバリアフリーなど環境整備を進めるとともに、SNSやインフルエンサーを活用したプロモーション戦略により、国内外への情報発信強化が求められる。体験の共有が新たな観光客の呼び水になる可能性も高い(図表11 SNS・インフルエンサーを活用したプロモーション事例)。
 そして、酒蔵、醸造所が自治体や地域の飲食店や観光協会などと連携を強化することで、地域全体での魅力発信や観光資源の磨き上げが可能となり、観光客の滞在時間長期化や消費額増加に繋がり、地域ブランドの確立を後押しする(図表12 関係各所の連携状況)。また、別の自治体や地域外事業者との連携により、幅広く周知することでより多くの観光客の来訪を期待できる。
 ガストロノミーツーリズムを通じて、酒蔵や食文化をきっかけに地域との繋がりを持つ「関係人口」が創出されることで、観光を超えた持続的な地域支援にもなり、リピーターやファンの存在が、地域ブランドの価値向上や長期的な発展の基盤となる(図表13 ガストロノミーツーリズムから関係人口へ)。
(出所)公益社団法人日本観光振興協会HP、観光庁HP、国土交通省HP

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。