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第18回OECD税務長官会議について(於:南アフリカ)

国税庁長官官房国際業務課 課長補佐 橘高 秀

 昨年11月18日(火)~20日(木)に、南アフリカ・ケープタウンにおいて、第18回OECD税務長官会議(FTA:OECD Forum on Tax Administration)が開催された。会議にはOECD非加盟国・地域を含む49か国・地域*1の税務当局の長官クラスが参加し、税務行政における様々な課題に関する議論が活発に行われた。我が国からは、江島一彦国税庁長官、武田一彦審議官(OECD TFTC議長)ほかが出席した。本稿ではFTAの概要、今回の会議における主要議題の背景及び議論の概要について説明する。なお、本文中の意見は筆者個人の見解を示したものである*2。

1.OECD税務長官会議(FTA)の概要
 FTAは、2002年にOECD租税委員会に設置された税務当局の長官級のフォーラムであり、税務行政の幅広い分野における課題について各国の知見・経験の共有や意見交換を行うことを目的としている。現在はOECD加盟38か国及び非加盟16か国・地域から構成されている。当初は約1年半おきの開催だったが、税務当局間の協力の重要性が高まったことから、2019年以降は毎年開催されている(新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、2020年、2021年はオンラインにて開催)。
 今回の会議には、合計49か国・地域の長官クラスが参加したほか、アフリカ税務行政フォーラム(ATAF)、米州税務長官会議(CIAT)、国際通貨基金(IMF)及び租税犯罪等タスクフォース(TFTC)といった国際機関が参加し、幅広い参加者により活発な意見交換が行われた。
写真1 長官集合写真

2.第18回FTAにおける主要議題の背景
 当日の議論の様子も含め、主要な議題及び日本として重視している論点について、以下3点紹介したい。
(1)自発的納税意欲(Tax Morale)向上のための取組について
 OECD加盟国を中心とする国際的議論の場では、Tax Moraleを「the motivation of a country’s citizens to paying taxes, in addition to legal obligations (法的義務以上に、国民が税金を納めようとする意欲)*3」と定義している*4。国税について、原則的に申告納税方式を採用する日本において制度が適切に機能するためには、国民が高い納税意識を持ち、自発的に正確な申告を行うこと(自発的な納税義務の履行)が前提となる。国税庁においても、「納税者の自発的な納税義務の履行を適切かつ円滑に実現すること」を使命として、納税手続等の利便性向上と共に、適正かつ公平な課税・徴収の実現に向けた各種取組を進めている所である。
 このうち、国際的に見てもユニークであって、他国の税務行政にとっても示唆があると思われる以下の取組を紹介するプレゼンを、江島長官より行った。
 第一に、大企業を対象とした、税務に関するコーポレートガバナンス(税務CG)の充実に向けた取組についてである。税務CGとは、税務について経営責任者等が自ら適正申告の確保に積極的に関与し、必要な内部体制を整備することを指している。本取組では「経営責任者等の関与・指導」、「税務(経理)担当部署等の体制・機能」、「税務調査での指摘事項等に係る再発防止策」等の確認項目を基に、国税局の特別国税調査官が税務調査の機会に企業の取組状況の評価を行っている。税務CGの充実を図ることにより、企業側では、事業部や支店、工場等の組織の第一線で不適切な経理処理が発生するリスクの軽減や税務調査に対応する負担が軽減するというメリットがある一方、国税当局側においても、調査必要度の高い法人に対し、調査事務量を重点的に配分することが可能になる。税務コンプライアンスの維持・向上を図るため、企業と国税当局が対話を通じて協力関係を構築することは、OECD諸国を中心とする国際的な議論の場においても奨励されているところ、日本の取組は他国の参考にもなると考えている。
 第二に、青色申告会・法人会・税理士会を始めとする、関係民間団体との連携・協調である。いずれも長い歴史を持ち、直近では例えば、マイナンバー制度の普及・定着に向けた取組等を通じて、適正な申告納税制度の実現や税知識普及のために大きく寄与している団体である。プレゼンでは、こうした団体が税制改正の要望を通じて税制改正プロセスに関与していることや、租税教育の推進・税務広報の活動を通じて申告納税制度の普及発展及び税知識の普及に努めた構成員が表彰を受けていることといった、国税当局との積極的な協働を紹介した。世界的に見れば、こうした団体と積極的な協力関係を構築している税務当局は珍しい様子で、プレゼン後に個別に問い合わせが寄せられた。
 第三の取組は、上述の関係民間団体や地方公共団体の協力を得つつ各地で進めている租税教育に関してである。学校からの要請に基づいて、講師を派遣しての租税教室の開催や、税に関する作文・書道作品の募集について紹介したところ、質疑応答の場において関心がある旨のコメントがあった。
写真2 プレゼンを行う江島長官
(2)租税犯罪に対する取組について
 本セッションでは、武田審議官が「租税犯罪等タスクフォース(TFTC:Task Force on Tax Crimes and Other Financial Crimes)*5」の議長として、オープニング・リマークスのプレゼンターを務めたほか、モデレーターとしてオランダ・フィンランド・ブラジルの各国税務当局の長官・副長官によるパネルディスカッションをリードした。
 オープニング・リマークスでは、近年グローバル化・デジタル化が進む中、申告手続きのデジタル化等納税者のコンプライアンスコストを削減する取組み等が各国において進められ、FTAでも積極的に取り上げられているが、税務当局としては同時に、デジタル化等に伴い租税回避・租税犯罪等のリスクが高まることへの備えも決して忘れてはいけない、という認識が示された。その上で、こうしたリスク・脅威に対応するため、各国税務当局が最新の技術動向やリスクに関する情報等を共有する重要性が強調され、国際協力の強化が呼びかけられた。また、税務調査(civil)と租税犯罪調査(criminal)の間には、デジタル関連の調査技術面その他の共通性があることを指摘しつつ、FTAとTFTCの一層の連携強化の必要性・重要性が強調された。
 その後パネルディスカッションでは、各国当局の最近の取組の紹介等がなされ、例えばオランダからは、米・英・豪・加・蘭の租税犯罪調査部門の長から成る非公式ネットワーク「Joint Chiefs of Global Tax Enforcement(J5)」の取組等も共有された。
また質疑応答では、租税犯罪対応の重要性に賛同しTFTCの活動を強くサポートする旨のほか、FTAとTFTCの一層の連携強化の重要性、J5の経験を踏まえた租税犯罪対策のためのクロスボーダー連携の重要性等についても賛同・指摘がなされた。
写真3 モデレーターをつとめる武田審議官
(3)税務行政のデジタルトランスフォーメーション
 2019年のFTA本会合において、経済のデジタル化に即した税務行政の在り方を検討すべきとの認識が共有されて以降、税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)を目指すプロジェクトである「税務行政3.0(Tax Administration 3.0)」が重要課題として位置づけられている。
 これはDXの進展を活用し、日常のあらゆる取引をリアルタイムで捕捉したり、税務当局間で迅速にデータを連携したりすることにより、課税プロセスにおいて納税者の自発的コンプライアンスへの依存を軽減させるような将来の税務行政のあり方を指している。
 2022年に立ち上がった複数のワーキンググループにおいて各プロジェクトの検討が進められており、本会合ではそれぞれの進捗に係る中間報告がなされた。プロジェクトの一例として例えば、現状各国当局間の納税者に関する情報交換が「手動又は定期」ベースで実施されていることにより、納税者及び税務当局双方において多大な事務負担が生じているのではないか、という問題意識から、租税条約上の手続きに必要な居住性情報交換をユースケースとして、「自動かつリアルタイム」ベースな情報交換システムの構築を目指していく試みが挙げられる。
 また、税務当局によるAI活用の信頼性向上のため、活用事例の目録化や信頼性チェック枠組の作成を通じた各国間の知見共有を行うプロジェクトも進んでいる。
 欧州諸国を中心に検討が進められている更に野心的な取組の一例としては、法を機械で読み取れる形式(コード)に転換することで、納税者・企業の用いるシステムへの統合により税務処理を自動化し、法解釈の一貫性・明確性を高めてコンプライアンスコストの縮減を目指す「Rule as Code」プロジェクトが挙げられる。
 いずれも、最新のテクノロジーを活かしながら、各国の制度・システムの差異を乗り越えつつ制度を設計していこうとする、完成するとしても数年から十数年かかる可能性のある意欲的なプロジェクトである。実現可能性も含め様々な意見があるだろうが、将来的な理想像を見据えつつ検討を進めることで、税務事務の改善の糸口となる気づきが得られるという点で、日本の税務行政にとり前向きに参画することが有意義だと考えている。
写真4 各国長官と議論する江島長官

3.おわりに
 各国の税務当局長官が集う場であるFTA会合は、個別具体のイシューに関して何らかの拘束的な意思決定を行うのではなく、既存の協力関係を維持・発展させつつ、各国の抱える課題やベストプラクティス等を共有し更なる連携の可能性を探る場として機能している。同様の課題を抱えている他国の経験を、我が国の取組の先行事例として参照することも有意義であると考えており、特にDX分野においては、欧州諸国やシンガポール等が行っている先駆的な取組が大いに参考になると同時に、日本の立ち位置を客観的に把握する上でも役立った。
 また、より実践的な側面として、テーブルディスカッションやバイ会談の機会を捉え、日本から各国に対し、条約締結国間で租税債権の徴収を相互に協力し合う徴収共助のネットワークへの参加を呼び掛けている。当該制度を効果的に機能させていくためには、より多くの国が当該ネットワークに参画することが重要であり、徴収共助制度の導入に慎重な国にその有効性や、必要性に対する認識を広げられたと考える。
 OECD関係の会合では一般に、言語的ハードルの低さやメンバーの地理的なバランスにより、欧州諸国のプレゼンスが目立つ一方でアジア諸国の発信は控え目になる傾向があるが、本会合において日本は、江島長官のプレゼンや数多くのバイ会談・テーブルディスカッション、武田審議官のモデレーターといった機会を通じて、かなり大きな存在感を示せたと考える。
 今後も積極的に国際的議論に貢献していくことは当然として、これを国内の税務行政にフィードバックし、海外の有用な知見を取り入れていくことも重要である。特に、日本と同様の課題に直面している各国税務当局の経験は非常に有益であり、こうした視点を持ちつつ、引き続き業務に取り組んでいきたいと考えている。
写真5 江島長官とノルウェーのフンネマルク長官(FTA新議長)

*1) 49の参加国・地域は以下の通り。豪州、オーストリア、ベルギー、ブラジル、ブルガリア、カナダ、チリ、中国、デンマーク、エストニア、エスワティニ、フィンランド、フランス、ジョージア、ドイツ、ギリシャ、香港、ハンガリー、アイスランド、インド、インドネシア、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マレーシア、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、サウジアラビア、セーシェル、シンガポール、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦、英国、ザンビア
*2) 会議への参加及び本稿の執筆に当たり、査察課の櫛引友里香氏、国際業務課の坂本琢也氏に大きな助力をいただいた。この場を借りて感謝申し上げる。
*3) Daude, C., H. Gutiérrez and Á. Melguizo (2012), “What Drives Tax Morale?”, OECD Development Centre Working Papers, No. 315, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/5k8zk8m61kzq-en.
*4) 玉岡雅之『Tax moraleと租税道徳:行動財政学序説』(國民經濟雑誌, 219(2):15-23、2019年)は、日本にこの概念を取り入れる過程で「Morale(意欲)」が「Moral(道徳)」と混用されて「租税道徳」が人口に膾炙したと指摘する。この背景として、「意欲・士気」の他に「道徳・道義」の意味を併せ持つドイツ語「Moral」を、後者の意味を用いて「租税道徳」と日本語に訳したものが定訳となったため、と述べている。
*5) TFTCは、OECDの租税委員会(CFA:Committee on Fiscal Affairs)に属し、租税犯罪調査部門のヘッドを中心に構成される、租税・金融犯罪対策に関する国際的議論を行う会議体である。2024年5月以降は日本(武田審議官)が議長となり、知見・情報共有やキャパビル、ソフトスタンダードの策定等を通じて国際協力を推進している。詳細は、『租税犯罪等タスクフォース(TFTC)での活動と国際租税犯罪対策の現状について(同誌令和7年12月号)』橘高秀を参照のこと。