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日本国債決済入門―基礎編―*1

東京大学 服部  孝洋*2

1.はじめに
 本稿では、日本国債の決済の基本について説明することを目的としています。筆者の意見では、国債の中でも、決済は最も記載が少ない分野の一つです。国債の決済の難しさの一つに、多くの人にとって手触り感がないことが挙げられます。実は、金融機関に勤務していても、決済に関わる実務を担うことは稀です。
 そこで、本稿では、国債の決済のイメージをしやすくする仕掛けとして、国債がペーパーレスになる前の紙ベースの国債を事例として説明するというスタイルをとります。実際に国債という紙があるということをベースに説明することで、実際の決済のイメージがしやすくなるからです。また、できるだけ具体的な取引を事例にしながら説明していくというスタイルもとります。本稿では、読者が国債に投資する機関投資家、筆者が証券会社のセールスであるとして、読者が国債を筆者から買いたいという設定のもと議論を進めていきます。
 なお、本稿では、国債の決済の中でも、国債の売買の決済のみ(いわゆるアウトライト取引のみ*3)を取り扱い、レポ取引は取り扱いません。従来の債券の決済の文献では、アウトライト取引とレポ取引をセットで説明されることが少なくなく、このことにより、初学者が混乱する傾向があると筆者が考えているためです。また、本稿で取り上げられなかった論点は次回以降の「ファイナンス」で取り上げる予定です(ペーパーレス化についても次回の論文で説明します)。
 本稿では国債の基本的な知識を前提とします。詳細は「日本国債入門」(服部, 2023)や「はじめての日本国債」(服部, 2025)を参照してください。これまでの債券入門シリーズは、国債について様々な観点から説明しているため、筆者のウェブサイトも適時参照してください*4。

2.国債の決済とは何か
2.1 決済とは:債権・債務の解消
 まず、そもそも決済とは何か、ということから話を始めようと思います。読者がコンビニに行ってお茶を100円で買うとします。この場合、読者が100円を支払い、お茶をコンビニから受け取るという行為が決済です。決済という表現そのものは日常用語であり、このような使い方は、多くの人にとって身近だとおもいます。
 国債の決済も同じように考えられます。例えば、読者が国債を買いたい機関投資家であり、筆者が証券会社のセールスであるとします(国債市場におけるセールスとトレーダーの役割は服部(2023, 2025)を参照してください)。読者は、筆者に電話をかけて、「10年370回債*5を買いたい」と伝えます。セールスである筆者は、その時の自社のプライスを読者に返しますが、ここでは簡単化のために100円であるとしましょう。読者がその価格に納得したら、読者が100円を支払い、証券会社から国債を受け取ることで決済がなされます(実際には国債は100円では買えませんが、本稿では単純化のために100円で考えていきます)。
これが決済に関する直感的なイメージですが、厳密には、決済とは取引から発生する債権・債務の解消と定義されます*6。日銀の説明を見てみましょう。
 私たちは、日々、様々な経済取引(多くの場合、「お金」と「もの」や「サービス」との交換を約束し合うこと)を行っています。取引を行うと、お金を支払ったり品物等を引き渡したりする義務(取引の相手側からみればそれらを受け取る権利)が生じます。これらの義務を債務と呼び、相手方の権利を債権と呼びます。決済とは、一般的には、これら債権・債務のうちお金に関するものについて、実際にお金の受払をして債権・債務を解消することをいいます。
 このように取引により債権・債務が発生し、決済により債権・債務を解消するわけですが、国債の決済の事例で考えてみましょう。読者が筆者に電話をかけて、370回債を購入したいと伝え、その条件で購入することに合意したとします。この行為を「約定した」(またはDoneした、決めた)といいます。約定した時点で、読者は100円を支払う義務を負うと同時に、370回債を受け取る権利を有します。決済とはこのように発生した債権・債務関係を解消するプロセスを指します。具体的には、読者が100円を支払い、370回債を受け取ることで債権・債務関係を解消するわけです*7。
 決済の語源は、「支払いを済ませて決まりをつける」というものです*8。もし決済がなされていないと、債権と債務の関係が残っていますから、「〇〇日までに取り立てなければならない」といった不安が残ります。決済をすることで、このような債権・債務関係から解放されて「決まりがつく」というわけです。
利払いや償還のイメージ
 上記では国債を購入する時点に焦点をあてましたが、国債の有するキャッシュフローに目を向ければ、例えば国債を持っていると半年に1回、利払いがありますし、満期に元本の償還を迎えます。現時点ではペーパーレスになっていますが、紙ベースで国債が発行されていた時は、利払いのタイミングで、国債に付された利札(りふだ)と呼ばれる小さな紙(=クーポン)をびりっとはがして金融機関にもっていくと、利子を支払ってもらえるというイメージで利子の決済がなされていました。満期を迎えた場合には、元本部分の紙を持っていくと元本の100円分が支払われるというイメージです。

2.2 ネッティングと決済
 取引により債権・債務が生まれ、お金を支払うことにより、債権・債務が解消する(決済される)と説明しました。このほかに債権・債務を解消する方法としてネッティングという方法もあります。
 例えば、筆者が読者に10万円の債務を負っており、読者は筆者に8万円の債務を負っているとしましょう。これは実質的に8万円の債務が重複しているため、それを相殺して、筆者が2万円の債務を負っていると処理できます。このような処理をネッティングというのですが、これは8万円の債権・債務がなくなり、2万円という債権・債務が残るという意味で、債権・債務を解消している行為とみることができます。これは債務を打ち消しているという意味から、「オブリゲーション・ネッティング」と表現することもあります*9。
 実際に国債の売買でも日々無数の売買がなされるため、その取引の中で債権・債務の重複が起こります。それをネッティングするということがありますが、少々複雑であるため、その事例については3節で詳細に議論します。

2.3 国債決済の4ステップ
 次に、国債の決済について取引から決済までの流れを簡単に確認します。国債の取引は決済まで(1)取引執行→(2)照合→(3)清算(クリアリング)→(4)決済(セトルメント)という4つのステップでなされます(図表3 証券の取引から決済までのプロセス)。
取引執行
 先ほどのとおり、読者が370回債を購入したいとします。そこで読者はセールスである筆者に電話をかけて、筆者から価格が100円であることを聞きます。読者がこのプライスに納得したら約定します(決めます、Doneします)。これは100円という条件で370回債を買いますという約束をする行為です。これが取引執行にあたります。
取引照合
 取引執行した後、「取引照合」がなされます。これは取引の詳細を確認するプロセスです。というのも、国債の取引手段には電話などの口頭もあり、その場合、プライスなどの条件で認識に違いがあると事故になりえます(例えば、読者は370回債を100円で買うと思っていたのに、筆者は101円で売ると考えていたなど、齟齬があると後々問題が起こります)。したがって、実際に決済を行う前に、その認識に齟齬がないかをチェックする必要があるわけです。
 典型的には、読者と筆者が証券保管振替機構(保振(ほふり))と呼ばれる機関に、それぞれの取引の条件を通知し、マッチしているかを保振が確認することで照合します*10。マッチしていれば照合が完了ということになります。
清算(クリアリング)
 前述のとおり、国債は日々無数の取引がなされるため、取引の結果、債権・債務の重複が起こります。そこで、中央清算機関(Central CounterParty, CCP)と呼ばれる機関に、その債権・債務を置き換えて、ネッティングするということがなされています。これを「清算(クリアリング)」と言います。ただし、この「清算」がなされている取引は、大手金融機関同士の取引に限定されます。その具体的なイメージについては3節で議論します。
セトルメント(決済)
 最後に、セトルメント(決済)のプロセスに入ります。現在の日本国債の取引では、約定した1営業日後に決済をする市場慣行になっています。これを「T+1決済」(TはTrading dayからきています)と言います。したがって、本日約定したら、読者は1営業日後に、筆者から370回債を受け取ると同時に、筆者に100円を支払うという市場慣行になっています(このように、国債と資金を同時に受け渡す決済をDVP(Delivery Versus Payment)決済というのですが、この点は後ほど説明します)。これにより約定したタイミングで発生した債権・債務関係が解消されるので決済完了となります。
 なお、現在、T+1決済がスタンダードになっていますが、当事者同士の合意がある場合には、T+0決済(約定した当日に決済)やT+2決済(約定した2営業日後に決済)が用いられることもあります。

2.4 国債振替決済制度
 本節の最後で、購入した国債をどのように管理するかという話をします。先ほどの事例と同様、読者が国債(物理的な証券)を証券会社から買ったとします。素朴な管理方法は、読者が証券会社の支店に行き、100円を払うと同時に物理的な証券である国債を受け取り、保管するというものです。もっとも、国債市場は金融機関など機関投資家(プロの投資家)が中心であり、本日購入した国債を、例えば1か月後に売却する可能性もあります。そのような観点でいえば、取引ごとに毎回、支店に来て物理的な証券を受け渡すというのはあまりに非効率と言えます。
 そのため、国債そのものは日銀に置いておいて、読者が筆者から、370回債を100円で購入した場合、日銀に管理してある筆者の370回債を、読者のものへ振り替えてもらうという形が取られています*11。これが「国債振替決済制度」と呼ばれる制度です。
 歴史的には、国債振替決済制度は1980年に生まれました。この背景には、1970年代に日本の不況等を受けて国債の発行が増加し、国債の決済に関する効率性が求められたことが挙げられます。国債振替決済制度であれば、日銀が国債を管理していて、日銀の帳簿上でその所有権を振り替えることで決済を済ませるため、効率的といえます。現在、99.9%以上の国債がこの制度によって管理されています。

3.決済リスクと削減策
3.1 決済リスクとは
 ここまで国債の決済の基本について説明しましたが、ここから決済にかかるリスクに議論を移していきましょう。決済にかかるリスクの代表例は、国債そのものの受け渡しができなかったり、お金を払ったのに国債を受け取れなかったりするリスクです。
 再び、読者が筆者から370回債を購入する事例に戻りましょう。読者が約定した後、その1営業日後に受渡をするわけですが、その前に、筆者が倒産してしまった場合、読者は370回債を買うことができなくなります。
 過去にはこういう事例もありました。2008年の金融危機時に、米国大手金融機関であるリーマン・ブラザーズが倒産しましたが、リーマン・ブラザーズは日本国債の入札にも参加しており、入札後に倒産してしまったことで大混乱を生みました。
 この例は極端ですが、よくあるケースは、読者と筆者が取引した後、筆者が実際に370回債を渡そうとしていたところ、筆者の所属する証券会社のトレーダーが実際には370回債をもっておらず、370回債を渡せないというものです。これを「フェイル」といいます。証券会社は日中に多くの売買をしており、証券の貸し借りもしているため、様々な理由で370回債を実はもっていないということが起こりえます。
 図表5 フェイル総額の推移(月ベース)がフェイルの件数の推移です。これをみると、フェイルが一定程度発生しているということが分かります。
決済のリスク:期間と決済量
 このように発生する決済リスクですが、そもそも、決済のリスク量は、約定した後、受け渡すまでの期間およびその金額に依存します。この関係を再び、先ほどの事例をベースに考えてみましょう。
 読者が370回債を約定した後、現在の市場慣行ではT+1決済、すなわち、1営業日後に証券の受け渡しをするのですが、ここでは、仮に3営業日後に実際に受渡をするとします(T+3決済とします)。そのうえで、もし翌営業日に、何らかの理由で、今度は読者が369回債を欲しい理由が生まれ、再度、筆者から100円で369回債を約定したとします。この決済もT+3決済であるとすれば、前営業日の100円の決済が終わっていない中で、さらに、決済がなされていない取引が100円分積みあがることになります。大切な点は、この段階で、筆者がデフォルトした場合、200円分の国債を受け渡せないということになります。この事例からわかる通り、機関投資家によって日々大量の売買がなされている状況を想定すると、約定してから決済をするまでの期間が長くなるほど、未決済の残高がどんどん増加していく可能性があります。
 また、決済リスクは決済する金額(決済量)にも依存します。上記では370回債を100円で購入する事例を考えましたが、370回債を200円分購入した場合は、上記に比べ、仮に筆者がデフォルトした場合の損害が2倍になります。したがって、国債の決済のリスクは、図表6 証券決済リスクのエクスポージャーのような形で期間および金額に比例するということが分かります。

3.2 決済期間の短縮化:T+1決済
 それでは、どのようにすれば決済リスクを解消できるでしょうか。まず、決済リスクは「決済までの期間×決済量」であるため、約定してから決済までの期間を短くするという工夫が考えられます。
 歴史的には、国債の決済は、ある時点でまとめて決済をするという形をとっていました。具体的には、約定したものを、例えばその月の20日までためておいて、その日に集中して決済*12するというものです。もっとも、これでは決済までの期間が長すぎて、リスクが大きいのではないかという国際的な勧告*13を受けて、1996年にT+7決済、1997年にはT+3決済という形で、約定した〇〇営業日後に決済するという形に決済方法を変更しました。このような決済を「ローリング決済」と言います。その後、2008年の金融危機を経て、2012年にはT+2決済に変更になるなど、その期間はどんどん短くなっていき、2018年以降、T+1決済が実現しています。決済までの期間という観点からみると、決済の期間のリスクは相当程度小さくなったといえます(図表7 国債決済期間短縮化の取組み)。
 読者の中には、現在普及しているT+1決済よりも期間の短いT+0決済は実現しないのかと思う人がいるかもしれません。2節で説明したとおり、国債を取引した場合、「執行」→「照合」→「クリアリング」→「決済」というプロセスを経ます。例えば、読者が今日の午前中に約定(執行)する場合、照合やクリアリングをその日の午後に行うことができるものの、時間がタイトになり、大量な件数の処理が難しい面などがあります。
 読者がその日の夕方に約定(執行)した場合はどうでしょうか。この場合、T+1決済であっても、夕方になれば職員も帰宅を始めますから、その日に照合などを行うのも困難であると言えます。この場合、遅い時間に約定(執行)した場合、翌営業日に実務をスタートさせるという意味で、事実上、T+0決済とみることもできます。この観点で、T+1決済は現時点では実務的に対応できる最短の期間とも解釈できます。

3.3 クリアリング
 ここまで、決済までの期間を減らす取り組みについて紹介してきましたが、決済リスクが「決済までの期間×決済量」に依存するのであれば、決済量を減らすという努力もできます。この工夫の一つがネッティングです。証券会社は日々様々な売買をしています。例えば、筆者が証券会社のトレーダーであるとして、ある日に360回債を100円で購入した後、すぐに、別の投資家に360回債を100円で売ってしまったとしましょう。この場合、その決済はT+1であるため、約定した当日の未決済の金額はグロスでみれば200円ですが、筆者は買ったものを売ったので、ネットでみれば0円のポジションとみることもできるかもしれません。
 このようにグロスでみると決済量は膨らんでいくのですが、例えば、取引所のような場所があれば、そこに取引を集中させることで重複した取引を相殺して効率化することができます。具体的には、約定した後、中央清算機関(CCP)と呼ばれる組織に、その取引により発生する債権・債務関係を移すことで、重複部分をネッティングします。先ほど、読者と筆者で国債の取引をしましたが、イメージとしては、読者が370回債を購入することを約定した後、取引所のような場所を通じて、370回債の購入に関する債権・債務関係をCCPに置き換えるということです(日本国債の取引では、執行自体はCCPを介することがなく、投資家と証券会社など相対で行われます)。日本国債については、日本証券クリアリング機構(JSCC)がCCPとしての役割を果たしています。
 図表8 クリアリングを用いて具体的に考えてみましょう。まず、読者と筆者で370回債の約定をしたら、照合を経た後に、まずその取引で発生する債権・債務関係をJSCCに移します。つまり、読者はJSCCに100円を払う一方、JSCCが読者に370回債を渡すという債権・債務関係となります(一方、筆者はJSCCから100円を受け取る一方、JSCCに370回債を渡すという債権・債務関係となります)。このようにJSCCは相対での取引から発生する債権・債務関係を自らに付け替えます。
 取引の多くを、上記のようなプロセスによりJSCCにまとめることで、本来は図表8の左側の図であったような取引が、図表8の真ん中の図のようになります。JSCCは多くの主体から国債の取引を集約するため、多くの債権・債務関係を一手に引き受けることになります。そして、このように集約すると債権・債務関係が重複する取引も出てきます。図表8の真ん中の図のように集約された債権・債務関係を、図表8の右側の図のような形で、ネッティングすることで全体の決済量を削減するわけです(JSCCを利用した際は、決済の前営業日の18時半にまとめてネッティングの上で債権・債務の引受がなされます)。
 このように取引の債権・債務関係をCCPに集中させ、ネッティングすることをクリアリング(清算)と言います。現在、国債の取引においてクリアリングの対象となっている主体は、JSCCのクリアリングの参加者(清算参加者)である42社です*14。現在の国債の取引では、清算参加者同士の取引は基本的にクリアリングされています(一方、この42社以外の参加者による取引はクリアリングされません)。大手証券会社は清算参加者ですので、大手証券会社同士だとクリアリングを行いますが、例えば、大手証券会社が、清算参加者ではない地銀や生保などと取引を行うと、クリアリングがなされません。

3.4 DVP決済
 これまで決済リスクについて、主に国債の取引における決済までの期間および金額という2つの観点から議論をしてきましたが、決済リスクを縮小させる方法はこれ以外もあります。決済に伴うリスクには、債券の受け渡しとお金の受け渡しのタイミングが異なることから生じるリスクもあります。例えば、読者が筆者から100円で370回債の購入を約定し、筆者に100円を支払ったのに、その後、筆者が倒産してしまうことで、370回債を受け取れないということがあり得ます。
 そこで、読者が100円を支払うタイミングと同時に、370回債を受け取るという形で、証券の動きと資金の動きのタイミングを同時にすることで、お金を払ったのに証券を受け取れない(あるいは証券を渡したのにお金を受け取れない)という「取りっぱぐれ」を防ぐことができます。このような決済をDelivery Versus Paymentの略でDVP決済と言います。Delivery(証券の受渡)とPayment(資金の受渡)を対応させて同時に実施するという意味合いです。
先ほど、T+3決済の例を挙げて、未決済残高が積みあがることのリスクを説明しました。例えば、本日約定して1営業日後に、取引相手がデフォルトしたとしても、DVP決済をしていれば、お金を払ったのに国債を受け取れないというリスクは起こりません。一方、DVP決済をせずに、お金を渡すタイミングと国債を渡すタイミングがずれると、お金を払ったのに国債を受け取れない(あるいはその逆)ということが起こりえます。
 現在、国債の取引ではDVP決済が実施されています。国債と資金の動きはどちらも日銀ネットで管理されているため、DVP決済が行われているのは一見当たり前に思えるかもしれません。しかし、次回の論文で説明するとおり、歴史的には、日銀において国債と資金は別々のシステムで管理されていました*15。1990年代に日銀内で決済リスクについての問題意識が高まり、システム開発が進んだことで、1994年に両システムを連動させることにより、国債市場でDVP決済が実現しています。このような努力がなされたのは、1990年代に、日銀が国債の決済リスクに関して問題意識を持っていたからといえます。
 ちなみに、DVP決済以外の処理もあります。例えば、FOP(Free of Payment)決済では、債券と資金の受け渡しを別々に行います。FOP決済は現在では使われることは減ってきましたが、例えば有担保コールでは今でも用いられています(有担保コールについては服部(2026)を参照)。

3.5 RTGS(即時グロス決済)
 先ほどネッティングの話をしましたが、現在、国債の決済では、即時グロス決済(Real Time Gross Settlement, RTGS)が取られています。これは取引ごとに(ネットではなく)グロスの金額で、リアルタイムで決済していく方式です。
 RTGSは2001年に導入されましたが、それ以前は、「時点ネット決済」と呼ばれる方法が用いられていました。これは毎営業日、例えば、15時に取引をネッティングしたうえで決済を行うというものです。この方法は、15時時点で取引をネッティングするため、国債の受け渡す量を減らせるという意味で効率的ではあります。もっとも、もし一つの金融機関が倒産した場合、その金融機関の決済が滞ることで、連鎖的に全体の決済ができなくなってしまう仕組みになっていました。こうなると、一つの金融機関のデフォルトが決済システム全体に影響を与えるという意味で、システミックリスクを有する方法であると言えます。
 そこで、15時など特定の時間まで待ってネッティングするという形ではなくて、筆者と読者が370回債の取引をするならば、照合およびクリアリングが終われば、随時、決済していきましょうという形になりました。これが「グロス」の即時決済、つまり、RTGSです。
 RTGSの問題は、ネッティングせずにグロスで随時取引をしていくことから、どうしても決済量が増えてしまう点です。これは資金調達などの観点で、証券会社などに負担が大きい仕組みであることから、日銀はRTGSの導入のタイミングで、国債DVP同時担保受払機能を導入しています。また、このタイミングで「フェイル慣行」など市場慣行の整備が進みましたが、これらの論点については次回の論文で議論します。

4.終わりに
 今回は、国債の決済の基本的な部分について説明しました。次回は本稿で取り上げられなかった論点について議論します。

参考文献
[1].青木周平「決済の原理―決済についての入門講義―」
[2].中島真志・ 宿輪純一 (2008)「証券決済システムのすべて」東洋経済新報社
[3].服部孝洋(2023)「日本国債入門」金融財政事情研究会
[4].服部孝洋(2025)「はじめての日本国債」集英社新書
[5].服部孝洋(2026)「マネー・マーケット入門:日本銀行の金融政策と短期金融市場」日本評論社
[6].藤本文・加藤達也・塩沢裕之(2019)「国債決済期間短縮(T+1)化後の市場取引動向―レポ市場を中心に―」BOJ Reports & Research Papers.
図表1 国債決済のイメージ
図表2 ネッティングと決済
図表4 取引照合のイメージ
図表9 DVPのイメージ
*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。
*2) 東京大学公共政策大学院 特任准教授
*3) アウトライト取引は、レポ取引のように買戻しや売戻がない、という意味合いですが、その他の意味も含むことがあります。詳細は服部(2026)を参照してください。
*4) 下記を参照
https://sites.google.com/site/hattori0819/
*5) 国債は370回などの回号を用いて取引をする商慣行があります。服部(2023)の第3章を参照してください。
*6) https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/kess/i01.htm
*7) https://www.boj.or.jp/paym/outline/data/kgall.pdf
*8) ここでの記述は下記を参照しています。
https://www.boj.or.jp/paym/outline/kg11.htm
*9) ここの部分は青木(2001)を参照しています。
*10) これを両側照合といいますが、片側照合もあります。
*11) 現在は国債振替決済制度で扱われる国債もペーパーレスになっていますが、ここでは国債の物理的な紙があるイメージで議論をすすめます。
*12) 日本では、1996 年の T+7 決済実現前は、約定日にかかわらず、5、10、15、20、25、30日の月6回決済(五・十日(ご・とうび)決済)でした。
https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2019/data/ron190530a.pdf
*13) 藤本・加藤・塩沢(2019)は「G30が、決済リスク削減の観点から、国債決済のT+3化(約定日の3営業日後決済)の推奨を含む勧告4を行ったことを受けて、1996年にT+7決済(約定日の7営業日後決済)化、1997年にT+3決済化が図られた」としています。
*14) https://www.jpx.co.jp/jscc/sankasha/tentou/tentou2.html
*15) 国債のシステムを日銀ネット国債系、資金のシステムを日銀ネット当預系といいます。