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特集 Future TALK 〇〇さんと日本の未来とイマを考える

馬渕磨理子さん(経済アナリスト)編

はじめに
和田広報室長 本企画は、財政や税の役割等について読者の皆さまにわかりやすくお伝えするために、様々な分野でご活躍されている方々をお招きして、日本の未来やイマについて対談をする企画です。
 今回は、経済アナリストとしてご活躍されている日本金融経済研究所 代表理事の馬渕磨理子さんをお迎えし、財務省の中山主計局次長、理財局の城田国債業務課長、金融庁の冨田暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション室補佐と対談していただきます。
写真1 左から三人目が馬渕磨理子さん

成長投資と資産運用立国
馬渕磨理子さん 経済アナリストの馬渕です。本日はよろしくお願いします。
 私は大学院卒業後に法人の資産運用を担当し、金融メディアに転職して“経済アナリスト”になりました。今は一般社団法人日本金融経済研究所を立ち上げて、金融・経済に関する情報発信や政策提言を行っています。そのほか、上場企業の皆さんと企業価値を高める勉強会も行っています。

中山次長 今日は金融に関する話もできて嬉しいです。私は岸田政権の時に総理秘書官をしており、「資産運用立国」に企画段階から携わりました。“成長と分配の好循環”を力強く推し進めるべく、インベストメントチェーンを構成する各主体に対する働きかけを行いました。金融構造全体の改革を進める、大きな取組でした。
 例えば、家計に対しては貯蓄から投資への流れを後押しするためNISAの抜本的な見直しを行ったほか、資産運用業の高度化や、企業の持続的成長に向けたガバナンス改革等にも取り組みました。
実際に動き出すと、上場企業の多くが投資計画を出すようになり、内部留保を投資に回すという意識も少しずつ定着してきました。例えば、それまで、人件費というものはコストカットの対象であったわけですが、むしろ人へ投資することで労働生産性を上げ企業価値の向上に繋がっていくことが理解されるようになってきました。
 政府としても、内部留保が次の成長につながるような投資を後押しするよう、環境整備を行っていくことが重要だと思っています。

馬渕磨理子さん 年間100社と意見交換をしていますが、企業経営者のマインドもすごく変わりましたね。自社株買いや配当を実施する会社が増えており、コーポレートガバナンスが向上していると思います。
 企業価値向上のためには、①自社株買い、②配当、③成長投資、④従業員の4つのバランスが大切ですよね。現在は①自社株買い、②配当に寄っている傾向があるので、③成長投資を後押しするのが政府の役割になると思います。
 成長という話になると「国が成長投資先を見つけられるのか?」という疑問が国民から挙げられます。例えば、iPhoneやGPSなどの技術はアメリカで生まれたものですが、国が率先して成長投資先(軍事・防衛研究先)を見極め、そこに予算を充ててきた経緯があります。同じように、成長分野に重点的に投資していけば国の経済全体としても成長できるのではないでしょうか。

中山次長 自由主義経済、資本主義経済の中でどこまで国が関与するのかという論点はありますが、社会課題の解決に資するイノベーションを国としてどのようにサポートするかというのは重要な視点だと思います。
 政府による成長投資の事例として一つご紹介します。政府は2021年から2025年の5年間を対象に『第6期科学技術・イノベーション基本計画』というものを策定しています。これは政府が30兆円の研究開発投資を行い、政府の投資が呼び水となって90兆円の民間投資を促すという計画です。しかし、計画最終年の現在、政府の投資額は約40兆円になった一方、民間投資は約20兆円でした。政府として大きくコミットする一方、当初想定したほどの民間投資を呼び込めていない状況です。これは、政府として検証・分析すべき点です。国の投資先を選ぶ「目利き力」には限界があり、金融の力が重要と思います。
 また、国費だけ投入して民間投資がついてこないような投資先であっても、投資した企業には貴重な人材を割いていただいたわけであり、それがなければ他の成長分野に人材投入をできたかもしれないことを重く受け止めなければなりません。
写真2 馬渕磨理子さん

金融商品としての日本国債
城田課長 日本国債の発行や、個人向け国債の販売促進を担当しています。日本では個人の金融資産は約2,200兆円ある一方で、個人向け国債の購入金額は年間約4~5兆円となっており、個人の金融資産に占める割合は小さいです。
 これから先、日本国債の最大保有者である日本銀行が「長期国債買入の減額計画」を決定していること等を踏まえながら、どのように国債の安定消化を進めていくのかについて考えていく必要があります。
 個人向け国債は元本割れしない商品設計になっていてリスクが低い性質があり、安全資産を保有したいという個人のニーズに合致した商品です。投資家層の多様化の観点からも、広く個人に持ってもらうことは国債の安定消化に資するため、個人向け国債の販売にも力を入れています。

馬渕磨理子さん 現在の30年国債の金利を踏まえると、外国債券のように為替リスクもないですし、もし個人で買えるのであれば、ニーズがあるのではないでしょうか。ただ、30年という長い期間、個人が安心して持つためには、物価連動(インフレ対応)かつ元本保証という、今の個人向け国債(変動10年)を進化させた仕組みが必要だと考えます。
 NISAの普及に伴って、現在ではS&P500やゴールドを投資先として考えている方が増えており、それらの商品との比較になってきます。また、最近、日本の会社でも3%の高配当を出す会社も出ています。
 個人向け国債は最長で10年だと思うのですが、そうなると現状では利率が1%前後となってしまうので、利回りが2%台後半となるような商品設計の国債が出てくれば、持ちたいと思われる人は多い気がします。
 元本保証国債の保有期間は金利収入が安定的に入ってきます。もちろん、高い利回りを保証することは国の財政負担になりますから、丁寧な制度設計は不可欠です。例えば、インフレへの連動は「部分的」なものに留めるとか、期間も30年はあくまで一例で、20年の方が現実的という議論もあるかもしれません。「0才から国債でも資産形成できる仕組み」「安心できるリターン」があれば、子供を育て、消費も楽しむ。国民が国を信頼し、共に繁栄を目指す象徴になるのではないでしょうか。そんな『国民と国がWin-Winになれる国債』があればと思います。

中山次長 これまでも預金との比較等もしつつ、個人の方にどのように魅力を感じていただくか踏まえながら、商品設計しています。定期的に利子が入ってくるので、見通しもある程度立てることができると思います。

城田課長 金融機関で国債取引に従事されている方も30年国債の利回りが魅力的だとおっしゃる方は多いです。
写真3 理財局 国債業務課 課長 城田郁子

イノベーションと通貨
冨田補佐 私は今、金融庁で暗号資産やステーブルコインなどを扱う事業者の監督を担当しているほか、フィンテックのイノベーション促進に取り組んでいます。
 金融庁は2025年3月に「AIディスカッションペーパー」を公表しました。AI活用に「チャレンジしないリスク」を指摘していますが、新しい技術については政府が何らかの指針を示すことも重要だと思っています。
 例えば、最近、ステーブルコインは決済コストを低く抑えられる決済手段として注目されていますが、政府が今後の決済手段について何らかの考え方のようなものを示すことがあれば、民間企業はより投資がしやすいのかもしれません。
 ステーブルコインのほかに、CBDCや、預金自体をトークン化するという決済手段も検討されています。様々なイノベーションがあって、世界では今後どう活用していくかという国家戦略的な動きもあります。

中山次長 国際通貨という円のポジションを維持していこう、あるいはこの国の金融力を維持していこうと思えば、そうしたイノベーションの動きにも対応していく必要があります。
 米ドルはこれだけの市場シェアと基軸通貨としての決済機能を持ち合わせているので安泰ということかもしれませんが、世界に占める日本のGDPシェアも落ちてきている中、国際通貨としての円の価値をどれだけ維持できるかというのは、経済力や国力にも関係してくる話だと思います。

馬渕磨理子さん 日本企業がステーブルコインを発行していくとなると、その企業は日本国債を裏付け資産として購入するのでしょうか。購入してもらうとなると、そこに国債の購入する需要が生まれるのではないでしょうか。

城田課長 おっしゃるように、法定通貨担保型のステーブルコインだと、1円が1ステーブルコインと等価であるためには、顧客から「ステーブルコインをそれだけの現金に換えて欲しい」と要求されたときに対応できなければなりません。流動性の高い形、つまり預金や国債なりを持つというのが一般的かと思います。
 ただ、デジタル通貨の優位性は匿名性や送金のスピーディさにあると思いますが、全ての決済がステーブルコインやデジタル通貨に代替されるわけではなく、法定通貨が必要な場面もあります。

中山次長 日本円は、これまで長年にわたって築き上げてきた国際通貨としての地位があります。1,000兆円を超える国債が安定消化できてきたのも、日本の金融力を背景に企業が成長し、日本の財政を下支えしていたからです。しかし、これからもその地位を維持できるかというのは別の話です。金融のイノベーションや企業の成長、冒頭話に出た企業価値の向上が必要だと思います。
写真4 金融庁暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室 参事官補佐 冨田絢子

中小企業のチャレンジ
馬渕磨理子さん 企業の話でいうと、私は年間100社と意見交換しています。上場企業だけではなく、中小企業もとても努力しています。
 一方で、例えばDX分野では似たサービスを展開している中小企業が複数ありますが、もし株式交換などを活用したM&Aを活用してこれらの企業が1つの企業になれば企業価値も飛躍的に上がるのではないかと思うこともあります。日本の労働人口の減少問題を考えると、人材が分散している状況も望ましくないようにも思いますし、M&Aで1兆円規模の企業になれば世界も広がると思います。

中山次長 おっしゃる通り、上場企業の構成が変わ るぐらい、中小企業がさらにチャレンジできる環境を整備していくことは重要です。
 きらりと光る中小企業が現状維持にとどまらず、次のステップを目指せるよう、例えばM&Aをしやすいような環境整備も大事だと思います。
 その際、それだけの成長資金を供給できるような金融機関の役割も重要です。政府の目利きには限界がありますので、信用情報が蓄積されていて、目利きの力がある地域金融機関にこそ、本来の金融仲介機能の役割を期待したいですね。
写真5 右から2番目が馬渕磨理子さん

わかりやすい情報発信について
和田室長 馬渕さんはYouTubeチャンネルもされています。ご覧になるのは投資を始めたばかりの方から詳しい方まで、様々な方がおられると思うのですが、情報発信に当たってどのようなことに気を付けていますか。

馬渕磨理子さん 情報発信するときに、受け取った方の“思考を奪わない”発信を心がけています。先に偏った意見を聞いてしまうと、その思考から抜けられなくなり他の意見が聞けなくなってしまう懸念があります。発信するときは「教えてあげよう」という気持ちはなく、受け手の方と対等だと思っています。また、発信する際は両方の意見を挙げるようにし、「あなたはどう考えますか?」と投げかけ、受け手に思考の余地を残すことを心がけています。
 この前、Yahoo!のエキスパートコメントを投稿したところ、「この人の本を読んでもう一度考え直してみて」と意見をいただきました。薦められた本を読んで再度考えたところ私自身も「議論が荒かったな」と気付きがありました。厳しいご意見ももちろんありますが全てがそうではなくて、自分に足りないものを教えていただける意見というのもあります。そんな対等な関係構築をメディア・SNSで実践しています。
 また、金融について情報発信をすることが多いので、時の政権の政策に関してコメントすることがありますが、これまで私は否定するのではなく、良い政策を取り上げて評価するようにしてきました。しかし、現在の政権になってからいつものように投稿すると、いきなり政権擁護をし始めたと受け取られてしまったことがありました。「批判ではなく良いところにフォーカスをして皆さんと議論するのが自分のスタンスです」と表明したところ、「建設的な意見を求めていた」、「批判ばかりのSNSに疲れた」といった賛同のご意見を多くいただきました。

中山次長 財務省は発信の機会が少なくて。例えば、予算案を作成しても、具体的な投資戦略の内容は各省庁の政策と受止められがちです。財務省は、財政健全化だけではなく、経済成長やそのための成長戦略も重要視しているつもりですが、うまく伝わってないですね。どうしても財政悪化に対する懸念ばかりが先行してしまいます。
 私たちが目指すべきは、国の成長であり、安定した経済基盤、国力、経済力です。財務省も財政を通じてその一翼を担っているので、上手く発信できたらなと思います。

馬渕磨理子さん 私は公共政策大学院に通っていたので、行政学の授業で官僚の皆さんの仕事について学びました。予算のイメージはというと、財務省が予算を振り分けて、他の省庁はいかに頭を下げて予算を取りに行くかというのが仕事だと教わった記憶があります。実態は違うと思うのですけれども。

城田課長 正直、私も学生時代は「財務省って予算を切るのが仕事なんじゃないか」というイメージがありました。
 そうした中、財務省に官庁訪問をして採用面接を受けてみたら、「そういうイメージを持っているかもしれないけど、実際には、相手省庁と話をしながら、全部実現することはできないので限られた予算の中で日本の将来に本当に必要なものが何かを見極めていって、それに予算をつけて、最適なものを一緒に作っていくのが仕事だよ」と言われて、印象が変わったことがあります。

中山次長 予算の話になると、各省庁で「予算をとってきた」みたいな話が話題になりがちですが、予算額の大きさや予算が付いたこと自体がゴールになってはいけないと思います。
 結局、予算を使って十年後に数十倍に成長して国民の方々にその恩恵が還元されることが重要ですし、目指すべきものです。
 また、財政を扱う財務省としては、何より信頼を得られる財政運営が大事です。税金等で負担していただく一方で、社会保障等の行政サービスできちんと還元する、国債を通じて国が投資していくのであれば償還確実性の説明責任を果たす。そうやって自分の国の成長につながっているということを信頼でき、将来世代が安心を持てる環境を作っていくことが必要だと思うのです。

馬渕磨理子さん そうですよね、とても腑に落ちました。成長に寄与する政策を作っていることが、財務省の発信の中でも伝わっていくと良いですね。
写真6 主計局 次長 中山光輝

最後に
和田室長 未来につながる、前向きなメッセージを発信できるようにしていきたいと思います。
まだまだ話が尽きないところではありますが、本日はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。