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小規模校の子どもたちの学びを遠隔授業で支える
~北海道高等学校遠隔授業配信センター(T-base)の挑戦~ 北海道
北海道高等学校遠隔授業配信センター(T-base)次長
佐藤  豊記

1.はじめに
 北海道教育委員会によって令和3年度に設置された「北海道高等学校遠隔授業配信センター」(愛称:T-base)。これは、少子化に伴い小規模な高校が多くなっている本道における、小規模校の課題の解決に向けた取組である。
2.設立の背景—人口減少社会への対応
 北海道の人口は、平成9年の約570万人をピークとして全国に先駆けて減少局面に転じ、令和5年には510万人を割り込んだ。第二次ベビーブーム世代が学んだ昭和63年度3月の道内の中学校卒業者は92,222人だったが、令和7年3月の卒業者数は39,970人と半分以下まで減少した。昭和63年度~令和7年度では、道立高校も243校から187校に減少するとともに、学校の小規模校化が進行した。「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」によると、1学年1クラスの学校では教員定数は8である。すると原則として各科目は1名の教員配置となり、教科によっては、免許外教科担任制度を活用して授業を担当する場合もみられる。その結果、進学に必要な発展的な科目や習熟度別授業、多様な選択科目を開設することが難しいという状況が生まれる。これは都市部の大規模校との格差にもつながる。更に,近年は地域の公共交通機関の縮減が進み、生徒たちが自力で通学できる範囲そのものにも制限が生じている。そこで「夢は地元でつかみ取る」のスローガンを掲げ、ICTの力を最大限に活用する「北海道高等学校遠隔授業ネットワーク構想」が始動。その構想を具現化する組織として、T-baseが北海道有朋高等学校内に設置された。愛称の「T-base」には、センターが置かれている「屯田地区」の頭文字「T」、ここを起点に全道へ学びを届ける「基地(=Base)」にするという、意味が込められている。
3.役割と現状—教室へ、熱意を繋ぐ
 T-baseの役割は、小規模校であっても、多様な学習ニーズにできるだけ対応する教育課程を提供することである。令和7年度は15の配信スペースから学年1クラスの道立小規模高校32校(道教委から地域連携校に指定された30校+2校の協力校(利尻高校、礼文高校))に対し、週当たり295時間の授業をライブ配信している。配信を受けている生徒は延べ950名あまりである。配信科目は、共通教科・科目のうち、「保健・体育」と「美術」「工芸」を除く9教科30科目に及び、「書道」「音楽」「情報」「家庭」といった実習系科目の配信も実現している。
 T-baseの授業は、単に講義を配信するだけではなく、クロマキー合成、書画カメラを駆使した手元の詳細な解説、さらには美術館などからの中継授業、2校に同時配信する合同授業でのメタバース活用など、先進的な取り組みにもチャレンジしている。これらは、教員からの提案を積極的に採用した結果であり、何よりも「生徒とともにワクワク感を共有し、一緒に面白がる」という姿勢を大切にしていることの表れでもある。遠隔授業専用機器は存在しないので、教員が試行錯誤を繰り返して、どうやれば機器が遠隔で有効なのかを研究し、授業に取り入れている。
通常の授業配信に加え、夏休み、冬休み、春休みには受信校を含む1学年2クラス以下の道立高校を対象とした進学講習も開講し、令和7年度の夏は延べ825名の生徒が受講した。
4.財務省・北海道財務局との連携—社会と未来を「自分ごと」として
 T-baseが繋ぐのは、学校と学校だけではない。社会で活躍する専門家たちの知見と、生徒たちの探究心をも繋いでいる。例えば、財務省本省や北海道財務局との連携である。
(1)金融経済教育プログラム(令和5年):北海道南茅部高等学校の生徒たちは、T-baseの画面越しに財務局の職員と向き合った。家計管理や資産形成といった「生きる力」を学ぶ講義、株式の疑似売買ゲーム。教室にいながらにして触れるリアルな経済は、生徒たちが自らの未来を具体的に描く貴重な体験となった。
(2)財政教育プログラム(令和4年):北海道豊富高等学校では、対面授業に合わせて旭川財務事務所の職員が現地に赴き、国の財政予算編成のシミュレーションなどの授業を行った。生徒たちは財政の問題を「自分ごと」として捉え、白熱した議論を交わした。
(3)フューチャーデザイン授業(令和5年~):財務省主計局調査課と連携し、未来世代の視点で地域社会や日本の財政を考える授業を実施、地域の社会の未来について私ごとの視点で議論をしている。
 これらの連携は、生徒たちの金融リテラシーを高めるだけでなく、社会の仕組みを深く理解し、未来の担い手としての自覚を育む機会となっている。今後は金融教育、財政教育を「家庭科」や「公民科」の連携で実施する予定である。
5.成果と課題
 最大の成果は、小規模校における教育課程に柔軟性が生まれ、生徒たちが選択できる科目の幅が拡大したことである。受信校の生徒たちは北大をはじめ、道内外の国公立大学や私立大学、専門学校などへ進学している。また、受信校の若手教員たちにとっても、一人一台端末を活用した授業を間近で学ぶ機会ともなるようだ。
 一方で、乗り越えるべき課題も存在する。配信センターは、高校標準法による教員定数措置がなく、教員は道単独の予算で配置しており、配置できる教員に限りがある。また、配信スペースをどう確保するかも課題となる。
 遠隔授業には、学校同士で連携して行う方法もある。しかし、T-baseのようなセンター方式の遠隔授業配信を行うことにより、教員間での相互作用による授業の質の向上や効率的な配信が可能となった。
 T-baseの挑戦は、まだ道半ばである。生まれた場所に関係なく、生徒たちが未来への希望を等しく描けるような北海道であることを願ってやまない。学びを通じた子どもたちの笑顔が私たちの支えである。
写真 授業配信の様子


遠州の小京都リノベーション推進計画と官民連携による地域活性化事業
森町
森町役場政策企画課 主幹
平野  令悟

1.森町の概要
 森町は、三方を小高い山々に囲まれ、北部には緑豊かな森林が広がり、その森林を源とする清流「太田川」が町を南北に流れ、この川の流れが肥沃な土壌を生み、町中心部から南部にかけて市街地や田園を形成している風情豊かな町です。
 また、森町には、京都を由来とする伝統舞楽や、お祭り、神社仏閣が多く存在し、京都との歴史的なつながりや伝統的な文化を有していること、さらに、大正時代に森町を訪れた地理学者志賀重昂(しがしげたか)が漢詩「森町之賦(もりまちのふ)」で「小京都」と称賛したことから、「遠州の小京都」と呼ばれています。
 平成24年11月からは、全国の「小京都」で構成する「全国京都会議」に県内で唯一加盟しています。
写真 森町の風景
写真 森町之賦
2.遠州の小京都リノベーション推進計画
 この小京都と称された町並みや景観、歴史文化、自然を活かしたまちづくりに取り組むため、平成27年に遠州の小京都まちづくり基本構想、平成29年に同基本計画を策定しました。これらの計画に基づき、これまでソフト事業を中心に実施してきましたが、令和5年2月、ハード事業を中心とした施策により「遠州の小京都まちづくり」をさらに展開するため、「遠州の小京都リノベーション推進計画」を策定しました。
 本計画は、森町の地域資源や潜在的価値である歴史的文化的建築物や公共施設跡地等を、地域の歴史や文化を体感できる場所や地域住民と観光客が交流できる場所として整備し、今ある魅力を維持しながら新たな魅力を創出することにより「遠州の小京都まちづくり」を具体的に推進して、町の賑わいの創出や、生活の質の向上を図り、「住む人も訪れる人も心和らぐ森町」を目指すものです。
 令和6年5月には、森地区の老朽化した町有施設の解体跡地とその周辺地域を整備して魅力と活力ある中心市街地を創出することを目的に、町と民間事業者1者、町内金融機関2者の4者で「森町まちなか賑わい創出推進コンソーシアム」を発足し、協議を進めています。
 また、城下地区では遺族の方から寄贈していただいた森町の偉人・藤江勝太郎氏の生家を中心とした「城下地区歴史的資源活用まちづくり事業」を、(一社)創造遺産機構(HERITA)の伴走支援を受けながら進めています。
 このほかにも、高校跡地に、地下貯留施設を合わせた都市公園整備や、旧周智郡役所の移築を計画し、観光・交流・文化拠点整備や防災インフラ整備等に取り組みます。
写真 新設都市公園イメージ
3.官民連携による地域活性化事業
 森町とヤマハ発動機株式会社は、令和7年3月31日に、「地域活性化に関する包括連携協定」を締結しました。この協定は、多様な分野で包括的な連携と協力関係を築き、双方の資源を有効に活用した協働による事業を推進することにより、活力ある個性豊かな地域社会の形成・発展及び地域活性化を図ることを目的としています。
 現在は主に、ヤマハ発動機が製造するE-bike(スポーツ電動アシスト自転車)を活用し、町内の豊かな自然環境を活かしたマウンテンバイクコースの開拓や、観光施設であるアクティ森の一部をMTBパークとする整備等に、連携して取り組んでいます。
 今後は、町内でのMTBパークやMTBコースの整備を進め、国内外の観光客を誘致するための取り組みを進め、町の活性化を図っていきます。
写真 ヤマハ発動機包括連携協定締結式
写真 マウンテンバイクコースの現地確認の様子
4.今後の展開
 森町が持つ歴史・文化や自然環境といった、地域資源を活かしながら、「遠州の小京都リノベーション推進計画」や官民連携事業を実施していくことで、地域の魅力を高め、賑わいの創出や生活の質の向上を図り、「遠州の小京都まちづくり」を進めていきたいと考えています。

地域資源を活用した官民連携で地域を豊かに!
地方創生コンシェルジュ
東海財務局静岡財務事務所長 小田川  浩二
 歴史・文化や自然環境など、地域資源が豊富な森町。「遠州の小京都リノベーション推進計画」や官民連携によるマウンテンバイクコースの整備は、豊かな地域資源を持った町という強みを活かした取組であると言えます。
 今後も官民が連携し、地域資源を有効に活用することで、地域の魅力が高まっていくことに期待しています。


伝統文化と異文化、スポーツが融合した魅力的なまち
沖縄市
沖縄総合事務局財務部理財課 課員
喜屋武  和奏

1.はじめに
 沖縄市は、沖縄本島の中央部に位置し、戦後、嘉手納基地などの米軍施設が市周辺に設置されたことで、基地の門前町として発展してきました。
 中心市街地にはアメリカンな雰囲気ある飲食店や雑貨店、ライブハウスなどが立ち並び、英語の看板の店や米ドルが使えるお店が今もなお残っています。特に週末の夜には外国人で賑わうなど、日本にいながらまるでアメリカの街に訪れたような雰囲気を体験することができます。
写真 中心市街地の街並み(写真提供:沖縄市)
2.伝統文化と異文化が共存するまち
 沖縄市では、戦後、アメリカ文化の流入によって、ロックやジャズなどの多彩なジャンルの音楽文化を受け入れるとともに、島唄やエイサー、獅子舞などの伝統芸能を大切に守り、継承し続けてきました。
 このような伝統文化と異文化の混在、融合により、独自の文化として昇華され、沖縄市民の生活に根付くとともに、音楽・芸能分野で数多くの著名アーティストが誕生し、戦後の沖縄文化をリードしてきました。
 特に沖縄市の中心市街地は「音楽の街」、「ロックの街」としても知られ、地元民と外国人が共に音楽を楽しむライブハウスやイベントが多数存在しており、そこでは国籍・年齢を問わず、音楽を通じて交流が行われています。
 2007年には、音楽によるまちづくりの拠点施設「ミュージックタウン音市場」が整備され、地元のミュージシャンから県内外の著名なアーティストのライブまで、音楽のみならず、ダンスやエンターテイメントなど多彩なイベントが開催され、「音楽のまち沖縄市」のシンボルとして定着しています。
 また、沖縄市は、毎年30万人以上が来場する「沖縄全島エイサーまつり」や「エイサーナイト」が開催されるなどエイサーが盛んな地域でもあり、2018年には「エイサー会館」が整備されました。このエイサー会館は、見て、学んで、楽しめる体験型施設として、エイサーのまち沖縄市の発信拠点となっています。
写真 ミュージックタウン音市場(写真提供:沖縄市)
写真 沖縄全島エイサーまつりでのエイサー演舞(写真提供:沖縄市)
3.スポーツによる地域活性化
 1996年、沖縄市は、活気と共感に満ちたスポーツ交流のまちづくりを目指す「スポーツコンベンションシティ」を宣言し、スポーツ団体のキャンプや大会、合宿、イベントを誘致し、スポーツを「文化」、「観光」、「ビジネス」と結びつけることにより、地域活性化に取り組んでいます。
 一年間を通じて温暖な沖縄の気候を活かし、プロ野球チーム「広島東洋カープ」が春季キャンプ地として、プロサッカーチーム「FC琉球」とプロバスケットボールチーム「琉球ゴールデンキングス」がホームタウンとして提携しており、沖縄市でプロチームの公式戦などを楽しむことが出来ます。
 また、毎年2月には、米軍基地内を走ることができる「おきなわマラソン」が開催され、県内外から約1万人のランナーが参加しています。
4.新たなランドマーク「沖縄アリーナ」
 2021年には、県内最大の屋内収容人数を誇るエンターテイメント施設「沖縄アリーナ(現沖縄サントリーアリーナ)」が完成し、バスケットボールやバレーボール、格闘技などのプロスポーツ興業、アーティストのコンサート、MICE 会場として活用されています。
 同アリーナは、プロバスケットボールリーグのBリーグが推進する地域経済の活性化・関係交流人口の拡大に向けた新たな“夢のアリーナ建設計画”の第1号、「琉球ゴールデンキングス」のホームアリーナとして整備され、年間30試合のBリーグ公式戦のほか、FIBAバスケットボールワールドカップ(日本ラウンド)や、Bリーグオールスターゲームが開催されるなど、沖縄市の新たなランドマークとなっています。
 同アリーナをホームとする「琉球ゴールデンキングス」は、沖縄市の魅力を伝えるイベント「Enjoy Okinawa City Day」を同アリーナで毎年開催するなど、地域に密着した活動を行っています。今年は沖縄市と連携し、「沖縄市産業まつり」との同日開催や、近隣商店街では、「キングス商店街ナイト」と題して、キングスの試合のパブリックビューイングや音楽ライブなどの多彩なイベントが開催されました。
 同アリーナを中心に、行政や企業、地元住民が一丸となることで、まちづくりを推進する力が生まれ、さらなる地域活性化へとつながることが期待されています。
写真 沖縄サントリーアリーナ(写真提供:沖縄市)
写真 沖縄サントリーアリーナでのバレーボール教室(写真提供:沖縄市)
5.おわりに
 今回ご紹介した「沖縄サントリーアリーナ」、「エイサー会館」の施設整備費用や「ミュージックタウン音市場」の運営管理費用として財政融資資金が活用されています。
 沖縄総合事務局財務部では、こうした地域の実情や地方公共団体のニーズを把握しつつ、財政融資資金の活用により、地域活性化の取組みが一層進展するよう、取り組んでまいります。