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コラム 経済トレンド138

地方銀行の進化
~「守り」の再編から「攻め」の再編へ~
大臣官房総合政策課 調査員 大塚  新平/伊藤  祐嗣

本稿では、地方銀行の再編や非金融ビジネスへの展開に関する現状、及び今後の展望について考察する。
金融経済圏の再編とは
 日本の金融経済圏は、人口減少やデジタル化の進展を背景に、従来の枠組を超えた再編が進行している。
 特に地方では、高齢化の進展により、今後、相続による家計金融資産の県外流出が懸念されており(図表1 今後30年程度で起こりうる、相続に伴う家計金融資産残高の変化(地域別))、地方銀行における貸出マーケットの縮小も問題となりうる(図表2 2022年から2030年にかけての貸出マーケットの増減率)。
 地域課題の顕在化や規制緩和、デジタル化等によって、地方銀行は競争領域や競争相手が多様化している(図表3 地銀を取り巻くビジネス環境)。
(出典)三井住友信託銀行『相続に伴う家計金融資産の地域間移動』、三菱総合研究所『都道府県別の貸出マーケット推計』、日本総研『地方銀行を取り巻くビジネス環境と成長戦略の重要性』

再編の現状1(吸収・合併、経営統合)
 地方銀行の数は1990年末の132行から、2025年3月末には97行へと約3割減少。特に、比較的小規模な第二地方銀行(注1)は68行から36行へとほぼ半減しており、これまでの金融緩和下における経営環境の厳しさが表れている(図表4 銀行数の推移)。
 地方銀行の再編では、地域の一番行による吸収や小規模行同士の合併が主流となっている。中には、地域をまたいで異なる経済圏の銀行が合併し、営業エリアの拡大を図るケースもある。こうした動きの背景には、地域経済の県域一体化や、大阪市等の大都市を中心とした広域経済圏の存在がある(図表5 吸収・合併の概念図、図6 吸収・合併の事例 関西みらい銀行の沿革)。
 他方、近年は「金利ある世界」に移行し、預金量を確保する重要性が増すなかで、経営統合が増加している。経営統合は持ち株会社の傘下に各行が併存する形式であり、吸収・合併と比べるとブランドや自主性を維持できるため、比較的合意に至りやすい傾向がある。規模の拡大、競争力の強化を急ぐ各行にとって、現実的かつ有力な選択となってきている(図表7 地方銀行 総資産ランキング※25年3月期各社決算資料より作成)。
(注1)本稿では、一般社団法人全国地方銀行協会に加盟する普通銀行を「第一地銀」、一般社団法人第二地方銀行協会に加盟する普通銀行を「第二地銀」と定義し、両者を総称して「地方銀行」とする。
(注2)図表6は筆者による簡略な図式化。詳細は全国銀行協会資料を参照されたい。なにわ銀行と福徳銀行は1998年に特定合併、なみはや銀行となった後、2001年に近畿大阪銀行等へ営業譲渡されている。
(出典)預金保険機構HP「預金保険対象金融機関数の推移」、大和総研『地方銀行の越境再編』、全国銀行協会『銀行の提携合併リスト』

再編の現状2(資本提携・業務提携)
 また、競争環境の多様化に伴い、人手不足や地方創生、家計における資産形成の定着といった社会課題解決に向けて、銀行には、金融面だけでなく、非金融面を含む様々な役割が期待されている(図表8 地銀による新ビジネス展開事例)。
 大手行に比べて規模が小さく、専門人材や予算の制約がある地方銀行は、自行の強みを活かしつつ人材育成と外部連携を組み合わせることで、収益性の高い本業支援を実現しようとしている。人材確保が難しいなか、外部事業者との協業も有効な選択肢となっている(図表9 注力する分野の人材の育成・確保の方針)。
 同様に、再編(合併・統合)に代わる選択肢として、統合負荷が比較的少ない、地銀同士や金融プラットフォーマー(証券・銀行・IT企業等)との業務・資本提携も挙げられる(図表10 金融大手等との連携事例)。
(出典)日本総研『地方銀行を取り巻くビジネス環境と成長戦略の重要性』、金融庁『地域銀行による顧客の課題解決支援の現状と課題』

「守り」の再編から「攻め」の再編へ
 地方銀行は90年代後半の金融危機以降、人口減少等に伴う低収益に直面した。単独での維持が困難となった銀行は、店舗やシステムの統合を行う等、自行の経営基盤強化を目的とした「守り」の再編を進めた(図表11 地方銀行の経常収益推移)。
 近年、金利上昇により収益が改善に向かうなか、再編が急務であるという意識が薄れつつあり、再編の動きが停滞しているという指摘もある。今後、加速する人口減少等の構造的な課題に直面するうえで、地方銀行は従来の経営基盤強化を目的とした「守り」の再編ではなく、地域課題の解決や域内経済の活性化を目的とした「攻め」の再編を行う必要がある(図表12 「守り」の再編から「攻め」の再編へ)。
 「攻め」の再編において重要な点は、各地域が真に直面している課題を捉え、その解決に必要であれば、あくまで手段として再編を行うことである。地方創生の支援には相応の時間・コストを要するが、地域課題の解決により域内経済の活性化を実現できれば、地方銀行にとっても預貸率の改善等、持続可能な収益基盤の強化を展望できる(図表13 非金融サービス強化の事例 地方創生専門コンサル会社の設立(山口FG))。
(出典)全国銀行協会HP「全国銀行財務諸表分析」、日本総研『地方銀行に求められる「攻め」の再編戦略』『地方銀行を取り巻くビジネス環境と成長戦略の重要性』、株式会社 YMFG ZONEプラニングHP
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。