国税庁査察課 橘高 秀*1
0.はじめに
本年10月、日本(国税庁武田審議官(国際等担当))が単独議長を務める、経済協力開発機構(OECD)の「租税犯罪等タスクフォース(TFTC:Task Force on Tax Crimes and Other Financial Crimes)」の第30回全体会合がパリで開催された。
クロスボーダーの(越境)租税犯罪等に、各国の税務当局等が協力・連携等して対処する必要性・重要性が高まる中、ここ数年で参加者のクラスが大幅に引き上げられ、各国当局の租税犯罪調査部門のヘッド(審議官・部長級)等が執行面で戦略的・包摂的に議論等を行う、本会議の重要性・注目度が高まっている。
TFTCの創設以来の取組の詳細についてはファイナンス令和6年9月号の記事*2に譲り、本稿では、本年秋に行われた第30回全体会合の概要に触れつつ、TFTCの足下の活動等の一端をご紹介したい。
1.国際租税犯罪とTFTC
上記のとおり、近年の急速な経済社会のデジタル化や国際化に伴い、消費税不正受還付やその他の越境租税犯罪等への対応における各国税務当局の国際的な協力・連携などの必要性・重要性が高まっている。
そしてTFTCは、「グローバルな課題にはグローバルに対応すべし」という考え方の下、各国租税犯罪調査当局のハイレベルで、執行面の議論等を行う多国間の枠組みとして、活発な活動を行なっている。(日本からは国税庁査察課が参画。)
TFTCは、OECDの租税委員会(CFA:Committee on Fiscal Affairs)に属し、税務行政を執行面から議論する多国間枠組みとして、数あるOECDの会議体の中でも他に類のない非常にユニークな存在である。
OECD加盟国(38か国)及びアルゼンチンの「メンバー国」により構成されるが、実際の会合には、これらに加え、投票権や役職就任権がない「参加国」(中、印、星、伯、サウジアラビア等)、「招待国」(アフリカ諸国等)、オブザーバーの国際機関など、多くの主体が積極的に参加している。租税犯罪調査権限を有する機関は国により異なり、税務当局とは限らないため、その他法執行当局(LEA:Law Enforcement Agency)が会合に参加する場合もある。
活動経緯を概観すると、2010年代前半のTFTC設立当初は、租税犯罪の高度化・国際化に対応するため、マネーロンダリングやテロ資金供与、贈収賄などの金融犯罪との関連を中心に議論され、2011年の「政府一体アプローチ(Whole of Government Approach)」(オスロ対話)のほか、2012年の「税務調査官・検査官のための贈賄・腐敗のハンドブック」等の成果に繋がった。
その後、2017年には、租税法違反に対する刑事罰の導入、租税犯罪に対処する戦略の策定、組織体制や国内・国際協力枠組みの整備その他、効果的な租税犯罪対策のための基本原則を示す「租税犯罪と闘うためのグローバル10原則」(TGP:The Ten Global Principles to Fight against Tax Crime)を策定・公表(2021年の改訂*3を経て、OECD理事会勧告として採択)する等、OECD加盟国に限らず参加国・招待国にも自己審査を促し、開発途上国のキャパシティ・ビルディング等にも活用される国際的な「ソフトスタンダード」の策定主体としての側面も持っている。
そして、よりハイレベル(租税犯罪調査部門のヘッド等)の参加者による議論を求める流れを受け、2024年5月、第27回全体会合では、国税庁の武田調査査察部長(当時)が、主要国の積極的支持の下、全会一致の信任プロセスにより議長に選出され、より戦略的かつ包摂性(Inclusiveness)を重視した取組等を始動した。
足下ではグローバル企業の課税逃れ等への対応として国際課税ルールの整備が精力的に行われているが、同時に税務執行の運用面で国際協力・連携等を包摂的に強化することの重要性に関しても、各国当局の認識が一段と高まっていると言える。そして、このような国際的な流れの中、日本が非欧米圏から始めてTFTCの議長ポストを獲得し、税務執行面でグローバルなリーダーシップを発揮していることは、各国当局と協力して的確にグローバルな課題に対処しているということのみならず、日本の国際的なプレゼンス向上になっているという意味でも非常に有意義なものと考えられる。
今回の第30回全体会合では、71か国・地域から総勢約190人に上る参加者が集い、第27回会合以降、最多となった。出席者レベルについても、前回の対面会合同様、例えば、米・内国歳入庁犯罪調査部(IRS-CI)チーフ、英・歳入関税庁(HMRC)犯則主席捜査官、星・内国歳入庁(IRAS)の査察部長級等が参加した。
写真 TFTC会合の全体写真(武田議長は最前列中央左)
2.第30回TFTC全体会合の概要
第30回全体会合はパリのOECD本部で10月2日・3日の2日間にわたって行われた(オンライン含む)。
全体会合の幕開けとなる、武田議長のオープニング・リマークスでは、本会合の目的が、最新の租税犯罪リスクや傾向情報及びこれらに対する有効な対処方法の共有等に加え、各国の租税犯罪調査部門のヘッドが一同に集い、対面でネットワークの形成・強化を図りながら、より効果的かつ有益な戦略的協力・連携に向けた実践的な議論等を行うことにある旨のメッセージを発出し、多くの参加者から強い賛同を得た。
また、武田議長は、非欧米圏から初めて選出された議長として、OECD非加盟国も議論に参加しやすいアジェンダ設定や議事進行、さらにメンバーの地理的及びジェンダー・バランスに配慮したビューロー編成等、包摂的な(Inclusive)会議運営を心掛けており、こうした姿勢は参加国や事務局からも高く評価されているところである。OECDの会議体でありながら、いわゆるグローバルサウスを含めた多くの国・地域が参加し、会合を重ねるごとに参加国の数が増加していること、各国の制度や運営上の制約等の違いを前提に、議長として「There is No “one-size fits for all” approach」というメッセージを出しつつも、多様な意見を取りまとめ、会議体として明確な方向性や成果に繋げていることは、特に多極化が進む現代において価値が高く、特筆に値すると思われる。
個別の議論の詳細等については本稿では触れないが、今回の会合では、越境租税犯罪の摘発事例の紹介、有効な調査手法の共有、キャパシティ・ビルディング等、多くの議題が取り扱われた。
知見共有の観点では、例えば、暗号資産を用いた租税犯罪への対応、AIを活用した調査手法等について、情報共有・意見交換等が行われた。現金輸送や銀行送金といった従来型手段に加えて、デジタル空間で容易に国境を越える暗号資産等を用いた取引等が増加する中、税務当局側も調査手法等を常にアップデートすることが求められることは論を待たないであろう。このような認識の下、今回の会合でも、当局間の国際協力・連携等について活発な議論等が行われたところである。
また、マネロンや贈賄等と租税犯罪の繋がりに関して、TFTCがその初期から提唱している、税務当局・税関・警察等の国内関連当局間の適切な連携(「政府一体アプローチ」(Whole of Government Approach))についても、今次会合で議論等が行われた。関連して、国際刑事警察機構(Interpol)の担当者も招待された。
さらに、TFTC同様、OECDのCFAに属する税務執行面での多国間枠組みであり、税務行政上の諸課題について各国税務当局の長官級が議論等を行うフォーラムである「OECD税務長官会議(FTA(Forum on Tax Administration))」との連携強化についても、本会合でハイライトされた。
写真 議事を進行する武田議長
3.インフォーマルなネットワーク形成:TCEN・J5
TFTC本会合に先立つ10月1日には、租税犯罪調査当局間のインフォーマルなネットワーク形成に関する試みとして、昨年に引き続き、「租税犯罪執行ネットワーク(Tax Crime Enforcement Network(TCEN))」というスピンオフ会合も開催された。当該会合は、米国内国歳入庁(IRS)のGuy Ficco査察部長(Chief of Criminal Investigation)が議長を務め、租税犯罪捜査に従事する職員や検察等の法執行機関等が参加した。
TCEN会合の背景にあるのは、インフォーマルなネットワーク形成に関する各国当局の関心の高まりである。越境租税犯罪調査においては、執行管轄権上の問題から、租税条約等に基づく情報交換(Exchange of Information:EOI)が重要な役割を果たしている。その際、「要請に基づく情報交換」(EOIR:Exchange of Information on Request)の枠組みを用いて、刑事裁判の証拠として使用する証拠等の収集(情報交換)を行う、いわゆるフォーマルなネットワークだけでなく、刑事裁判の証拠には至らないまでも様々な関連情報を交換する、いわゆるインフォーマルなネットワークの実務上の重要性・有効性について、近年、各国当局から指摘等がなされているところである。
このようなインフォーマルなネットワークの先駆であり、かつ今後の一つのモデルケースとなり得るものとして、米・英・蘭・加・豪の5か国の査察部長から成る「Joint Chiefs of Global Tax Enforcement(J5)」*4がある。J5では、2018年の第1回会合以来、情報交換のほか、データ活用・暗号資産等に係る技術開発及び研修、強制調査における共助、銀行等への民間セクターへの共同での働きかけ等が行われているが、今回のTCENにはJ5のメンバーも対面参加し、地域・多国間の当局間連携・協力の可能性や実務的課題等に関して、非常に有益な意見交換等が行われたところである。
なおTFTC本体においても、インフォーマルなネットワーク形成に関する各国当局の関心の高まりを受け、地域連携(Regional Alliances)に関するプロジェクト等が立ち上げられている。今後、当局間のインフォーマルなネットワーク形成・強化は、租税犯罪調査当局間の協力の重要な流れの一つとなる可能性があると考えられる。
4.バイ会合
TFTC全体会合の合間等には、武田審議官が主に議長として、各国の租税犯罪調査部門のヘッドとの二国間(バイ)会合等を精力的に取組まれた。
アジア・太平洋地域だけでなく、欧米諸国や中南米諸国からも、バイ会合等の要望が多数寄せられたところである。議長として包摂性(Inclusiveness)を重視した会議運営を円滑に行うべく、発言力が大きくコンセンサス形成に長ける欧米諸国のほか、アジア諸国、南米諸国等とのバイ会合を積極的に行い、当局間の協力・連携強化等についても意見交換を行なった。
5.終わりに:将来展望・FTAとの連携強化
将来を展望し、AIや暗号資産等、新興技術が広がっていくデジタル化の流れの中での、TFTCの立ち位置及びTFTCとFTA(先述)との連携強化についても、簡単に触れておきたい。
今後、税務行政のデジタル化の一層の進展により、納税者の利便性の向上とコンプライアンス・コストの低下が見込まれ、税務当局による一般的な租税回避対応等に必要なリソースも減少するであろう、といった議論がFTAを含む国際会議等でなされている。
確かに、新興技術の広がり・デジタル化の進展には、こうした正の側面があると考えられるが、一方で、高度なデジタルツールの悪用等により、租税回避・租税犯罪等の手口が著しくクロスボーダー化・複雑化する等、デジタル化の進展に伴い悪質な租税回避や租税犯罪のリスクがむしろ高まる可能性も、現実問題として看過してはならないと考えられる。そのような環境の下では、租税犯罪対応等の重要性が(従来型の「一般的な」租税回避への対応に比して)相対的に高まると同時に、デジタル化に伴い、一層容易にクロスボーダー化・複雑化する租税犯罪等に対して、各国税務当局が国際的に連携・協力して対処する必要性・重要性はさらに高まるであろう、と考えられる。(従来型の租税回避への対応ニーズが軽減されるとしても、その分、税務行政はより悪質でリスクの高い事案に多くのリソースを配分する必要が生じ、技術進歩に対応するための知見共有を含め、クロスボーダーの当局間連携・協力が一層重要になる、と予想される。)
そして、そのような状況を想定した場合、租税犯罪に関する執行面での唯一の多国間枠組みであるTFTCの重要性について、改めて解説するまでもないであろう。(武田議長のリーダーシップの下、TFTCでは既に様々な取組を行なっているところである。)
加えて、TFTCとFTAの連携強化により、高い相乗効果(シナジー)が期待されるとの認識が、各国当局間で高まっていることも紹介しておきたい。
(具体的には様々なシナジーが考えられるが)例えば、租税犯罪調査(Tax Criminal Investigation)は、デジタル・フォレンジック、AI分析、ビッグデータ解析、暗号資産の追跡等、技術・技能(Techniques, Tools, Skills)の観点で、税務行政調査(Tax Audit)と多くの共通点(Commonalities)が見い出せるところであり、AI、暗号資産、地域連携、各種キャパシティ・ビルディングその他、数多くのプロジェクト等を通じて税務犯罪対応に積極的に取り組んでいるTFTCと、長官級が税務行政全般の諸課題を議論等するFTAとの連携を強化させることで、大きなシナジーが期待できるという認識が各国当局間で高まっている。
実際、本年11月に南アフリカ・ケープタウンで行われたFTAの年次全体会合では、昨年に続き武田審議官がTFTC議長として招待され、租税犯罪対応に関するセッションで、オープニング・リマークスのプレゼンターとなったほか、モデレーターとして各国税務長官によるパネルディスカッションをリードしたところである。FTAのメンバー間でも、デジタル化・国際化が進む中、(デジタル技術を活用した納税者の利便性向上等だけでなく)的確な租税犯罪対応及びFTAとTFTCとの連携強化の重要性等に関する認識*5が高まり、租税犯罪対応について活発な議論がなされた。今後は、一層TFTCとFTAとの協力・連携強化が期待されるところである。
以上のように、様々な観点から非常に重要性・価値の高いTFTCにおいて、今後とも議長をサポートし、議長国日本としてリーダーシップ・プレゼンスを発揮しつつ、国際的な議論・取組に積極的に貢献すると同時に、各国の租税犯罪調査部門等との連携強化等を通じ、我が国の査察行政の充実化に取り組んでいきたい。
写真 シンガポール内国歳入庁(IRAS)のHan Hsien Low部長(Assistant Commissioner, Investigation &Forensics Divisionと
写真 米国内国歳入庁(IRS)のGuy Ficco 査察部長(Chief of Criminal Investigation)と
写真 FTAでモデレーターをつとめる武田議長
*1) 本文中の意見は筆者個人の見解を示したものである。
*2) 租税犯罪等タスクフォース(TFTC)の概要と国際租税犯罪対策の展望(同誌令和6年9月号)、木村元気https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202409/202409d.html
*3) OECD (2021), Fighting Tax Crime – The Ten Global Principles, Second Edition, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/006a6512-en.
*4) “About | J5 Alliance.” n.d. https://j5alliance.global/about.
*5) OECD (2025), OECD Forum on Tax Administration Plenary 2025, Outcome Statement, https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/events/2025/11/forum-on-tax-administration-2025-event/statement-of-outcomes-fta-plenary-meeting-2025.pdf
0.はじめに
本年10月、日本(国税庁武田審議官(国際等担当))が単独議長を務める、経済協力開発機構(OECD)の「租税犯罪等タスクフォース(TFTC:Task Force on Tax Crimes and Other Financial Crimes)」の第30回全体会合がパリで開催された。
クロスボーダーの(越境)租税犯罪等に、各国の税務当局等が協力・連携等して対処する必要性・重要性が高まる中、ここ数年で参加者のクラスが大幅に引き上げられ、各国当局の租税犯罪調査部門のヘッド(審議官・部長級)等が執行面で戦略的・包摂的に議論等を行う、本会議の重要性・注目度が高まっている。
TFTCの創設以来の取組の詳細についてはファイナンス令和6年9月号の記事*2に譲り、本稿では、本年秋に行われた第30回全体会合の概要に触れつつ、TFTCの足下の活動等の一端をご紹介したい。
1.国際租税犯罪とTFTC
上記のとおり、近年の急速な経済社会のデジタル化や国際化に伴い、消費税不正受還付やその他の越境租税犯罪等への対応における各国税務当局の国際的な協力・連携などの必要性・重要性が高まっている。
そしてTFTCは、「グローバルな課題にはグローバルに対応すべし」という考え方の下、各国租税犯罪調査当局のハイレベルで、執行面の議論等を行う多国間の枠組みとして、活発な活動を行なっている。(日本からは国税庁査察課が参画。)
TFTCは、OECDの租税委員会(CFA:Committee on Fiscal Affairs)に属し、税務行政を執行面から議論する多国間枠組みとして、数あるOECDの会議体の中でも他に類のない非常にユニークな存在である。
OECD加盟国(38か国)及びアルゼンチンの「メンバー国」により構成されるが、実際の会合には、これらに加え、投票権や役職就任権がない「参加国」(中、印、星、伯、サウジアラビア等)、「招待国」(アフリカ諸国等)、オブザーバーの国際機関など、多くの主体が積極的に参加している。租税犯罪調査権限を有する機関は国により異なり、税務当局とは限らないため、その他法執行当局(LEA:Law Enforcement Agency)が会合に参加する場合もある。
活動経緯を概観すると、2010年代前半のTFTC設立当初は、租税犯罪の高度化・国際化に対応するため、マネーロンダリングやテロ資金供与、贈収賄などの金融犯罪との関連を中心に議論され、2011年の「政府一体アプローチ(Whole of Government Approach)」(オスロ対話)のほか、2012年の「税務調査官・検査官のための贈賄・腐敗のハンドブック」等の成果に繋がった。
その後、2017年には、租税法違反に対する刑事罰の導入、租税犯罪に対処する戦略の策定、組織体制や国内・国際協力枠組みの整備その他、効果的な租税犯罪対策のための基本原則を示す「租税犯罪と闘うためのグローバル10原則」(TGP:The Ten Global Principles to Fight against Tax Crime)を策定・公表(2021年の改訂*3を経て、OECD理事会勧告として採択)する等、OECD加盟国に限らず参加国・招待国にも自己審査を促し、開発途上国のキャパシティ・ビルディング等にも活用される国際的な「ソフトスタンダード」の策定主体としての側面も持っている。
そして、よりハイレベル(租税犯罪調査部門のヘッド等)の参加者による議論を求める流れを受け、2024年5月、第27回全体会合では、国税庁の武田調査査察部長(当時)が、主要国の積極的支持の下、全会一致の信任プロセスにより議長に選出され、より戦略的かつ包摂性(Inclusiveness)を重視した取組等を始動した。
足下ではグローバル企業の課税逃れ等への対応として国際課税ルールの整備が精力的に行われているが、同時に税務執行の運用面で国際協力・連携等を包摂的に強化することの重要性に関しても、各国当局の認識が一段と高まっていると言える。そして、このような国際的な流れの中、日本が非欧米圏から始めてTFTCの議長ポストを獲得し、税務執行面でグローバルなリーダーシップを発揮していることは、各国当局と協力して的確にグローバルな課題に対処しているということのみならず、日本の国際的なプレゼンス向上になっているという意味でも非常に有意義なものと考えられる。
今回の第30回全体会合では、71か国・地域から総勢約190人に上る参加者が集い、第27回会合以降、最多となった。出席者レベルについても、前回の対面会合同様、例えば、米・内国歳入庁犯罪調査部(IRS-CI)チーフ、英・歳入関税庁(HMRC)犯則主席捜査官、星・内国歳入庁(IRAS)の査察部長級等が参加した。
写真 TFTC会合の全体写真(武田議長は最前列中央左)
2.第30回TFTC全体会合の概要
第30回全体会合はパリのOECD本部で10月2日・3日の2日間にわたって行われた(オンライン含む)。
全体会合の幕開けとなる、武田議長のオープニング・リマークスでは、本会合の目的が、最新の租税犯罪リスクや傾向情報及びこれらに対する有効な対処方法の共有等に加え、各国の租税犯罪調査部門のヘッドが一同に集い、対面でネットワークの形成・強化を図りながら、より効果的かつ有益な戦略的協力・連携に向けた実践的な議論等を行うことにある旨のメッセージを発出し、多くの参加者から強い賛同を得た。
また、武田議長は、非欧米圏から初めて選出された議長として、OECD非加盟国も議論に参加しやすいアジェンダ設定や議事進行、さらにメンバーの地理的及びジェンダー・バランスに配慮したビューロー編成等、包摂的な(Inclusive)会議運営を心掛けており、こうした姿勢は参加国や事務局からも高く評価されているところである。OECDの会議体でありながら、いわゆるグローバルサウスを含めた多くの国・地域が参加し、会合を重ねるごとに参加国の数が増加していること、各国の制度や運営上の制約等の違いを前提に、議長として「There is No “one-size fits for all” approach」というメッセージを出しつつも、多様な意見を取りまとめ、会議体として明確な方向性や成果に繋げていることは、特に多極化が進む現代において価値が高く、特筆に値すると思われる。
個別の議論の詳細等については本稿では触れないが、今回の会合では、越境租税犯罪の摘発事例の紹介、有効な調査手法の共有、キャパシティ・ビルディング等、多くの議題が取り扱われた。
知見共有の観点では、例えば、暗号資産を用いた租税犯罪への対応、AIを活用した調査手法等について、情報共有・意見交換等が行われた。現金輸送や銀行送金といった従来型手段に加えて、デジタル空間で容易に国境を越える暗号資産等を用いた取引等が増加する中、税務当局側も調査手法等を常にアップデートすることが求められることは論を待たないであろう。このような認識の下、今回の会合でも、当局間の国際協力・連携等について活発な議論等が行われたところである。
また、マネロンや贈賄等と租税犯罪の繋がりに関して、TFTCがその初期から提唱している、税務当局・税関・警察等の国内関連当局間の適切な連携(「政府一体アプローチ」(Whole of Government Approach))についても、今次会合で議論等が行われた。関連して、国際刑事警察機構(Interpol)の担当者も招待された。
さらに、TFTC同様、OECDのCFAに属する税務執行面での多国間枠組みであり、税務行政上の諸課題について各国税務当局の長官級が議論等を行うフォーラムである「OECD税務長官会議(FTA(Forum on Tax Administration))」との連携強化についても、本会合でハイライトされた。
写真 議事を進行する武田議長
3.インフォーマルなネットワーク形成:TCEN・J5
TFTC本会合に先立つ10月1日には、租税犯罪調査当局間のインフォーマルなネットワーク形成に関する試みとして、昨年に引き続き、「租税犯罪執行ネットワーク(Tax Crime Enforcement Network(TCEN))」というスピンオフ会合も開催された。当該会合は、米国内国歳入庁(IRS)のGuy Ficco査察部長(Chief of Criminal Investigation)が議長を務め、租税犯罪捜査に従事する職員や検察等の法執行機関等が参加した。
TCEN会合の背景にあるのは、インフォーマルなネットワーク形成に関する各国当局の関心の高まりである。越境租税犯罪調査においては、執行管轄権上の問題から、租税条約等に基づく情報交換(Exchange of Information:EOI)が重要な役割を果たしている。その際、「要請に基づく情報交換」(EOIR:Exchange of Information on Request)の枠組みを用いて、刑事裁判の証拠として使用する証拠等の収集(情報交換)を行う、いわゆるフォーマルなネットワークだけでなく、刑事裁判の証拠には至らないまでも様々な関連情報を交換する、いわゆるインフォーマルなネットワークの実務上の重要性・有効性について、近年、各国当局から指摘等がなされているところである。
このようなインフォーマルなネットワークの先駆であり、かつ今後の一つのモデルケースとなり得るものとして、米・英・蘭・加・豪の5か国の査察部長から成る「Joint Chiefs of Global Tax Enforcement(J5)」*4がある。J5では、2018年の第1回会合以来、情報交換のほか、データ活用・暗号資産等に係る技術開発及び研修、強制調査における共助、銀行等への民間セクターへの共同での働きかけ等が行われているが、今回のTCENにはJ5のメンバーも対面参加し、地域・多国間の当局間連携・協力の可能性や実務的課題等に関して、非常に有益な意見交換等が行われたところである。
なおTFTC本体においても、インフォーマルなネットワーク形成に関する各国当局の関心の高まりを受け、地域連携(Regional Alliances)に関するプロジェクト等が立ち上げられている。今後、当局間のインフォーマルなネットワーク形成・強化は、租税犯罪調査当局間の協力の重要な流れの一つとなる可能性があると考えられる。
4.バイ会合
TFTC全体会合の合間等には、武田審議官が主に議長として、各国の租税犯罪調査部門のヘッドとの二国間(バイ)会合等を精力的に取組まれた。
アジア・太平洋地域だけでなく、欧米諸国や中南米諸国からも、バイ会合等の要望が多数寄せられたところである。議長として包摂性(Inclusiveness)を重視した会議運営を円滑に行うべく、発言力が大きくコンセンサス形成に長ける欧米諸国のほか、アジア諸国、南米諸国等とのバイ会合を積極的に行い、当局間の協力・連携強化等についても意見交換を行なった。
5.終わりに:将来展望・FTAとの連携強化
将来を展望し、AIや暗号資産等、新興技術が広がっていくデジタル化の流れの中での、TFTCの立ち位置及びTFTCとFTA(先述)との連携強化についても、簡単に触れておきたい。
今後、税務行政のデジタル化の一層の進展により、納税者の利便性の向上とコンプライアンス・コストの低下が見込まれ、税務当局による一般的な租税回避対応等に必要なリソースも減少するであろう、といった議論がFTAを含む国際会議等でなされている。
確かに、新興技術の広がり・デジタル化の進展には、こうした正の側面があると考えられるが、一方で、高度なデジタルツールの悪用等により、租税回避・租税犯罪等の手口が著しくクロスボーダー化・複雑化する等、デジタル化の進展に伴い悪質な租税回避や租税犯罪のリスクがむしろ高まる可能性も、現実問題として看過してはならないと考えられる。そのような環境の下では、租税犯罪対応等の重要性が(従来型の「一般的な」租税回避への対応に比して)相対的に高まると同時に、デジタル化に伴い、一層容易にクロスボーダー化・複雑化する租税犯罪等に対して、各国税務当局が国際的に連携・協力して対処する必要性・重要性はさらに高まるであろう、と考えられる。(従来型の租税回避への対応ニーズが軽減されるとしても、その分、税務行政はより悪質でリスクの高い事案に多くのリソースを配分する必要が生じ、技術進歩に対応するための知見共有を含め、クロスボーダーの当局間連携・協力が一層重要になる、と予想される。)
そして、そのような状況を想定した場合、租税犯罪に関する執行面での唯一の多国間枠組みであるTFTCの重要性について、改めて解説するまでもないであろう。(武田議長のリーダーシップの下、TFTCでは既に様々な取組を行なっているところである。)
加えて、TFTCとFTAの連携強化により、高い相乗効果(シナジー)が期待されるとの認識が、各国当局間で高まっていることも紹介しておきたい。
(具体的には様々なシナジーが考えられるが)例えば、租税犯罪調査(Tax Criminal Investigation)は、デジタル・フォレンジック、AI分析、ビッグデータ解析、暗号資産の追跡等、技術・技能(Techniques, Tools, Skills)の観点で、税務行政調査(Tax Audit)と多くの共通点(Commonalities)が見い出せるところであり、AI、暗号資産、地域連携、各種キャパシティ・ビルディングその他、数多くのプロジェクト等を通じて税務犯罪対応に積極的に取り組んでいるTFTCと、長官級が税務行政全般の諸課題を議論等するFTAとの連携を強化させることで、大きなシナジーが期待できるという認識が各国当局間で高まっている。
実際、本年11月に南アフリカ・ケープタウンで行われたFTAの年次全体会合では、昨年に続き武田審議官がTFTC議長として招待され、租税犯罪対応に関するセッションで、オープニング・リマークスのプレゼンターとなったほか、モデレーターとして各国税務長官によるパネルディスカッションをリードしたところである。FTAのメンバー間でも、デジタル化・国際化が進む中、(デジタル技術を活用した納税者の利便性向上等だけでなく)的確な租税犯罪対応及びFTAとTFTCとの連携強化の重要性等に関する認識*5が高まり、租税犯罪対応について活発な議論がなされた。今後は、一層TFTCとFTAとの協力・連携強化が期待されるところである。
以上のように、様々な観点から非常に重要性・価値の高いTFTCにおいて、今後とも議長をサポートし、議長国日本としてリーダーシップ・プレゼンスを発揮しつつ、国際的な議論・取組に積極的に貢献すると同時に、各国の租税犯罪調査部門等との連携強化等を通じ、我が国の査察行政の充実化に取り組んでいきたい。
写真 シンガポール内国歳入庁(IRAS)のHan Hsien Low部長(Assistant Commissioner, Investigation &Forensics Divisionと
写真 米国内国歳入庁(IRS)のGuy Ficco 査察部長(Chief of Criminal Investigation)と
写真 FTAでモデレーターをつとめる武田議長
*1) 本文中の意見は筆者個人の見解を示したものである。
*2) 租税犯罪等タスクフォース(TFTC)の概要と国際租税犯罪対策の展望(同誌令和6年9月号)、木村元気https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202409/202409d.html
*3) OECD (2021), Fighting Tax Crime – The Ten Global Principles, Second Edition, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/006a6512-en.
*4) “About | J5 Alliance.” n.d. https://j5alliance.global/about.
*5) OECD (2025), OECD Forum on Tax Administration Plenary 2025, Outcome Statement, https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/events/2025/11/forum-on-tax-administration-2025-event/statement-of-outcomes-fta-plenary-meeting-2025.pdf

