国際局地域協力課長 津田 夏樹/東京大学 服部 孝洋
津田夏樹 国際局地域協力課長
2002年、東京大学法学部卒業後、財務省に入省。国際通貨基金(IMF)金融資本市場局審議役、財務省理財局国庫課長兼デジタル通貨企画官を経て、2025年7月より現職。2009年コロンビア大学MBA修了。
服部孝洋 東京大学公共政策大学院特任准教授
2008年、一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了後、野村證券に入社。2016年、財務省財務総合政策研究所を経て、2020年に東京大学に移籍し、現在に至る。経済学博士(一橋大学)を取得。
本インタビューの目的
日本の国庫制度について、その概要を明らかにした文献は必ずしも多いとはいえません。国庫制度についての知識は、国の資金の流れを正確に理解するだけでなく、金融政策等について正確に理解する上でも必須です。日銀が有する「政府の銀行」としての機能は、国庫金に係る制度そのものと言っても過言ではありません。そこで本稿では、国庫課課長の津田夏樹課長との対談を通じて、国庫制度およびその業務についての理解を深めます。本稿が短期金融市場の実務家にとっても役に立つ文章になることを期待しています*1。
なお、本記事は、紙面の関係上、「津田夏樹課長に聞く、日本の国庫制度」の前編から後編で含むことができなかった内容をカバーしています。「前編」「中編」「後編」を前提としているため、そちらも参照していただければ幸いです。
国庫余裕金とは
服部:国庫余裕金および国庫余裕金の繰替使用について、より深く議論したいと考えています。まず、国庫余裕金の定義を確認したいのですが、国庫課のウェブサイトでは、「国庫余裕金の定義を法令上規定しているものはありませんが、実務上、当座預金に支払準備として置くこととしている1,500億円を超える額、すなわち国内指定預金(一般口)残高相当額を国庫余裕金として取り扱っています。国庫余裕金は、国庫金の受入と支払のタイミングのずれ等により一時的に発生するものであり、年度を通じて発生する性格のものではありません」と説明しています*2。
要するに、国庫余裕金とは国の最低限の流動性として確保した1,500億円の政府の当座預金を超えた金額の部分ということだと思います。この支払準備金の1,500億円という金額にはどのような根拠があるのでしょうか。
津田:1,500億円という金額は予期せぬ資金ニーズに対応できるために最低限必要な金額として設定されています。大内(2005)にも注記されていますが、現在ではFBの市中公募発行による資金繰りが一週間単位になっているため、その間に様々なことがあっても耐えられるようにということで、1,500億円に設定されました。
平成10年度までの定率公募残額日銀引受制度下では、2日に1回といった頻度でFBを発行できたため、FBが発行されない日に突然予期せぬ資金ニーズが高まったとしても、400億円程度で対応できていました。しかし、平成11年度以降の市中公募入札方式下では、調達できない期間が一週間あるため、1,500億円に設定されたのです。
服部:FBの市中公募発行に伴い、FBの発行が一週間単位となったことから、少し資金に余裕を持つようになった、という話ですね。
国庫余裕金の繰替使用
服部:政府預金が1,500億円を超える場合、国庫余裕金が生まれますが、特別会計に資金がない場合に、無利子で資金融通しようというのが国庫余裕金の繰替使用です。ウェブサイトに記載されているとおり、国庫余裕金の繰替使用は、法令上、すべての特別会計(特別会計に関する法律第15条)、外国為替資金(特別会計に関する法律第83条)、財政融資資金(財政融資資金法第9条)等に対して行うことができます(毎年度の予算総則に限度額を規定する必要があります*3)。
図表1 国庫の資金繰りは大内(2005)の抜粋ですが、国庫余裕金をどのように繰替使用しているかを図示しています。この図を使って議論をしたいのですが、まず、この図にあるとおり、「一般口」と「外為口・食管口・財融口」が分かれている点が複雑ですよね。基本的な質問になってしまうのですが、例えば、ここでいう食管口と、特別会計における食料管理勘定はどのような関係でしょうか。
津田:食糧管理勘定というのは、食料安定供給特別会計の中にある6つの勘定のうちの一つで、食糧管理勘定が日銀内に保有する口座を「食管口」と呼びます。外為口とは、外国為替資金特別会計が有する日銀内に保有する口座になります。
服部:なぜ「外為口・食管口・財融口」だけであり、他の特別会計はないのでしょうか。
津田:平成10年度以前に日銀が実質的にFBの直接引受を行っていた時、これらの特別会計においては、FBの発行等を行っており、余裕金が発生した場合、随時、日銀が保有するFBを繰上償還すること等により資金繰りの調整をすることが可能でした。それが、市中公募入札方式に移行することで、原則としてFBの繰上償還等ができなくなることの代替措置として、口座が設置されることとなりました。しかし、その当時存在しなかった特別会計等は、一般口でまとめて管理することになったのです。
服部:そういう経緯があったのですね。ここから具体的に議論をしていきたいのですが、まず図表1の左側の一般口をみると、政府預金の「国庫対民間収支」と「国庫対日銀収支」により一般口の当座預金の額が決まります。国庫課が民間や日銀に対し、日銀当座預金を通じて、資金のやりとりをした結果、政府の当座預金の水準が決まるということです。その結果、資金が不足するなら、指定預金から組み入れる、あるいはFBを発行して必要額を調達するということです。
津田:例えば、当座預金1,500億円を保有しているとします。仮に明日に一般会計で500億円の支払いが見込まれるとすると、1,500億円から500億円程度を使うことになり、当座預金が基準額に比べて不十分になります。この時、一般口の指定預金残高に資金があれば、「そちらを取り崩してこちらに回せば良いじゃないか」となるのです。
それでもなお足りなければ、当座預金が基準額を下回ってしまいます。そうならないように、FBを発行し、最低限当座預金が1,500億円を満たすまで資金を調達しなければなりません。これが図表1の左側で示されていることです。
服部:このメカニズムは、図表1の右側の外為口・食管口・財融口についても基本的には同じということでしょうか。
津田:そのとおりです。例えば、食糧管理勘定については100億円の残高を維持することになっており、それを下回ってしまったら、これまで集めた資金でやり繰りする、という仕組みが組み込まれています。
図表1の左側の一般口の図において、「資金余剰→国庫余裕金の繰替使用」というフローがあり、一般口の資金が外為口・食管口・財融口へ移っています。これは、これらの口座においてFBを発行する前に、一般口に資金の余剰があれば、一般口から繰替使用が行われることを意味し、FBの代わりに必要な資金を無利子で借りられることになります。しかし、一般口に資金がなく、また、組替、つまり自らが蓄えてきた指定預金口座からも取り崩せなければ、FBを発行せざるを得ません。ただ、FBを発行する際には、市中に出す前に、国債整理基金特別会計か財政融資資金で引き受けが可能であれば、そこに引き受けてもらうことも可能です。これが国庫内引受です*4。
服部:今おっしゃった「国庫余裕金の繰替使用」に関し、図表1で、左から右へ矢印が繋がっていますが、これが片方向だけであるのはどうしてでしょうか。
津田:「国庫余裕金」とは、その実務上、一般口にある余裕資金を指します。一般口は一般会計のみならず多くの特別会計の資金も管理しているので、実際にどの会計に属する余裕資金かはその時々で異なりますが、そのときに一般口に存在する余剰金を活用します。
服部:なるほど、一般口の余裕金を、あくまで資金がない特別会計に無利子で貸し出すという話なのですね。例えば、食料安定供給特別会計に余裕資金があった場合に、国庫余裕金の繰替使用として外国為替資金特別会計に流れることはないのですか。
津田:ないです。大内(2005)に記載されているとおり、国庫余裕金の法律上の定義はないものの、強いて言えば、「政府預金の残高が支払準備資金(通常1,500億円)を超える額」(大内2005, p.58)となります。つまり、この一般口の指定預金が国庫余裕金である、ということです。なので、例えば食管口に余剰資金があったとしても、それは一般口のお金ではないので、勝手に取り崩すことはできません。国庫余裕金の繰替使用の対象にはならないのです。要は、食管口にある余剰資金としての指定預金口座の残高は、国庫余裕金ではないということです。
服部:国債整理基金特別会計と財政融資資金に余裕金があれば、国庫内引受をすることもありますよね。そこはどう考えればいいのでしょうか。
津田:国庫余裕金の繰替使用は無利子ですが、FBの国庫内引受は有利子です。
このため、一般口に国庫余裕金があれば、まず繰替使用を行います。あたかも親が子供に無利子でお金を貸すようなイメージです。しかし、それができない時には、FBを発行せざるを得なくなります。その際、兄弟のような存在がいて、有利子であれば貸してくれるとします。この場合、親と違って利子は発生することにはなりますが、赤の他人に借りる場合よりは調整が容易といえます。これが国庫内引受のイメージです。
服部:ここでいう兄弟とは国債整理基金と財政融資資金のことですね。
津田:そういうことです。たとえて言えば、一般口が親のような存在で、他の指定預金は子供のような存在です。親(一般口)は、余裕があれば、無利子で貸してくれるのです。
学生:当座預金に1,500億円を確保していると説明がありました。例えば、当座預金中に食糧管理勘定は手元現金100億円を確保した上で、それを超える余剰資金があればそれを指定預金(食管口)に組み替える、という話だったと思うのですが、それを一般口に組み替える、ということではないのですよね。
津田:ご認識のとおりです。一般口は、一般会計及びその他の特別会計の手元現金(外国為替資金、財政融資資金勘定、食糧管理勘定を除く)に属する現金を管理するものです。外国為替資金、財政融資資金勘定、食糧管理勘定に属する現金は、それぞれ当座預金中の手元現金を超過する分は、各指定預金(外為口、財融口、食管口)に組み替えられます。
服部:図表2 国庫金の管理*5が政府預金残高の内訳ですが、指定預金のうち、一般口、外為口などと分かれていますね。ここでは当座預金とセットにまとめられていますが、政府預金の中で、それぞれの口があるということだと思います。
外為口、食管口、財融口に係る3つの会計は、独自でFBを発行できるので、ある意味で自立している存在ともいえます。一方、一般口に含まれる特別会計でもFBを発行できるものはありますよね。
津田:はい。例えば、エネルギー特別会計は一般口に含まれますが、独自のFB発行権限を持っています。この口とFBの発行権限は、必ずしも直接的にリンクしているわけではありません。
服部:図表3 国庫余裕金繰替使用の月末残高及び平均残高の推移が財務省のウェブサイトにある国庫余裕金の繰替使用の状況です。これを見ると、外国為替資金が多いことがわかります。ウェブサイトでは、「実務上は、FB発行額の抑制の観点から、外国為替資金に対して優先的に行っています」*6としています。実態としては、FBの大部分は外国為替資金特別会計によるものなので、資金繰りが一番必要である主体に、国庫余裕金を繰替使用しているということですね。
国庫金の効率的な管理
服部:財務省のウェブサイトでは、国庫課が国庫金の効率的な管理についても議論しています。例えば、毎年リリースされる「財政金融統計月報」の「国庫収支特集」において定期的に取り上げられていますが、2000年代後半に、国庫余裕金がみだりに増えないよう、効率的な管理を行うために加えられた工夫が説明されています。
一番シンプルなものは、国庫金の受払いのタイミングを合わせるということです。例えば、制度的な要因で、毎年ある月のβ日に歳出があるのに対し、同じ月のα日に歳入があるとします。そうなると、図表4 国庫金の受払日の調整*7の左側のように、α日といった早い段階で歳入を受け取ると、歳出を行うまで国庫余裕金が生まれます。そこで、図表4の右側のような形でα日に支払いを行うことで収支を相殺し、国庫余裕金の残高を抑えることができます。
平成17年9月から、租税や国債発行収入金のような大きな収入(歳入)の受入日に、普通交付税等の大きな支出(歳出)を充てるという形で、国庫金の受と払を合わせるような調整を行うことにより、国庫余裕金の圧縮を行っています。
これ以外にも、例えば年金制度などの関係で、図表5 国庫余裕金の繰替使用と2ヶ月程度のFBの併用*8の左側のように国庫余裕金がまばらに発生することがあります。以前は、このような短い期間に発生する国庫余裕金の繰替使用ができませんでした。そこで、図表5右側のような形で、必要に応じて、より短い年限のFBを発行し、短い期間に発生する余裕金を繰替使用できるようにすることで、余裕金残高を圧縮できるような工夫をしています。
財務省のウェブサイトや「財政金融統計月報」では、年度末の国庫余裕金の活用や外貨調達コストの縮減の取り組みについても触れているので、そちらも参照してもらえれば幸いです。
特別会計の積立金等の繰替使用
服部:大内(2005)では、特別会計の積立金等の繰替使用についても説明されています。具体的には、「各特別会計において支払上現金に不足があるときは、各特別会計法により、各省各庁の長は財務大臣の承認を経て積立金に属する現金を支払元受高に繰替使用することができることとなっている」、「『資金』を保有している特別会計では『資金』の繰替使用が、勘定区分のある特別会計では勘定間の繰替使用ができる特別会計もある」としています。その事務および資金の流れは図表6 積立金繰替使用の事務及び資金の流れのとおりです。
津田:そうですね。基本的にそれぞれの特別会計内部での話なのですが、ここで記載されているとおり、特別会計には積立金を持っているものと持っていないものがあります。
ここで言う繰替使用というのは、例えば年金特別会計の積立金から外国為替資金特別会計に貸し出す、といった話ではなく、年金特別会計の中の積立金を、年金特別会計の資金繰りに使う、という世界です。特別会計と資金、そして積立金は、同じ特別会計の内部でも分別管理されているのです。
なぜ、こうした繰替使用にわざわざ財務大臣の承認が必要なのかというと、目的があって積み立てている資金なので、安易に取り崩すのは適切ではないからです。ですから、財務大臣が承認すれば、一時的な流用が可能となる、という仕組みになっています。大内(2005)では「特に保険会計においては、年度当初には保険料収入がほとんどないのに対し、保険給付の支出が必要となることから、積立金の繰替使用承認申請が多い」(p.59)とあります。
国庫、国債およびFBの資金の流れ
服部:最後に、私が国債市場に関心があるということから、国庫と国債、さらに、FBの動き全体について議論をしておきたいです。国庫課のウェブサイトには、「国債、国の借入金に係る主な資金の流れ(概念図)」というタイトルで図表7 国債、国の借入金に係る主な資金の流れ(概念図)*9のような図が開示されています。
まず、一番下に国債整理基金特別会計があり、国債の保有者への利払いや償還については、国債整理基金特別会計に集約しているということが明確な図になっています。各特別会計が借り入れた分などは、国債整理基金特別会計を通じて返済してください、ということですね。
また、この図の左をみると、財務省が国債を発行することで、金融市場からファンディングしていることが示されていますが、一般会計や特別会計に直接入金されるということもわかります。債券を発行することで資金調達ができる特別会計は限られているので、この図では、借入(ローン)により調達している流れ(図における「民間からの借入」部分)も、きちんと分けて記載されています。GX経済移行債や復興債の資金の流れについても明示されています。
津田:国債整理基金特別会計は、対市場の元利払いの窓口となっています。実務的には、最終的に外国為替資金特別会計や一般会計、あるいはその他の部署が資金を必要とする場合、国債業務課がそれらを全て集約し、対市場で一括して発行しているのです。その上で、もともと誰がこの資金を必要としていたのか、例えば一般会計なのか外国為替資金なのかを明確にし、必要な資金を入金するとともに「あなた方がきちんと返済するのですよ」と確認するわけです。そうして、国債や借入金の償還金や、利子相当額の繰り入れとして、例えばエネルギー対策特別会計から国債整理基金特別会計へ資金が流れていくのです。同様に、一般会計の歳入とすべき国債の部分についても、一般会計から国債整理基金へ「我々の分の利払い費相当額は渡しておく」という形で資金が渡されます。これは、飲み会の幹事が国債整理基金特別会計で、皆が飲み会の会費を幹事に納めているような状態に似ています。
服部:「後編」で「資金」について触れましたが、財政投融資特別会計における「財政融資資金」に余裕がある場合、各特別会計に資金を出していることもわかります。こうしてみると、この図は体系的に書かれていますね。
津田:一方、この図で表現されていないこともあります。例えば、この図には国債と借入金しか記載されておらず、FBは含まれていません。図のタイトルも「国債、国の借入金に係る主な資金の流れ」とされていますね。つまり、多種多様なマネーがあるため、ある角度から切り取って図示すると、他の角度からのマネーの流れは省略しないと、訳がわからなくなってしまいます。全てを高解像度で一枚の図に表す「曼荼羅図」のようなものは存在しません。もし存在するとすれば、先ほどのように非常にハイレベルで、何がどうなっているのか全く分からないような図になってしまうでしょうね。
服部:おっしゃるとおりです。国庫課は、FBに関する図はFBだけを取り出して作成されていますね。図表8 国庫短期証券に係る主な資金の流れ(概念図)*10がFBに関する図です。この図のタイトルは、「国庫短期証券に係る主な資金の流れ」ですが、金融市場から国庫への流れは、「国庫短期証券(T-Bill)発行収入」とあり、TBとFBが一体として記載されています。そして、TBとFBがわかれ、各会計に資金が流れる形になっています。
津田:概念の話になってしまいますが、1年以内の国の債券は「国庫短期証券」(T-Bill)と呼ばれています。これは、純粋な資金繰りのためのFBと、財源債のTBを包括する、1年以内のゾーンを指します。したがって、青い矢印の根元は「国庫短期証券(T-Bill)発行収入」となっていますが、会計ごとにFBであったりTBであったりする、ということだと思います。
服部:この図をよく見ると、国庫内引受の流れも入っていますね。図表8における国債整理基金特別会計と財政投融資特別会計については、「FBの国庫内引受(運用)」という矢印があることが分かりますが、この二つの「資金」に余剰資金があれば、他の特別会計に資金が流れるということもしっかり記載されています。
津田:そのとおりです。FBの国庫内引受(運用)が国債整理基金特別会計から伸びており、これはどこにでも向かうことができます。例えば、外国為替資金のFB発行収入の原資となることもあります。
一方、資料の左下には「本概念図は全ての資金の流れを網羅しているものではありません」とありますので、この資料についてもやはり、あくまで国庫間のお金のやり取りのうち一部を示しているものです。外国為替資金特別会計や、食料安定供給特別会計なども、独自にFBを発行できます。このようにFBを発行できる主体が複数存在する中で、その資金がどのようにファイナンスされているかを示しているのがこの図です。
服部:ありがとうございます。これらの図は国庫の知識がないと、複雑すぎる図にも思えますが、ここまでの対談の流れを読んでもらうと、国債市場と国庫について、読者も見通しが良くなるのではと思います。また、前編から順番に読んでいただくことで、財務省の国庫課が、国の歳出入や資金繰り等で重要な役割を果たしているということも想像しやすくなるのではと感じます。私自身、国庫について理解するのに苦しんできましたが、今回の企画では、適時、財務省の説明や文献、データを参照したため、国庫を勉強したい人にとって良いガイドになると思います。
今回はお忙しい中、4回にわたり、ありがとうございました。
津田:ありがとうございました。
*1) なお、本対談は2025年6月に実施されており、以下における肩書や組織名は2025年6月当時である点に注意してください。また、本稿を記載するにあたり、安斎由里菜さんと新田凜さんの協力を得ました。
*2) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm
*3) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm
*4) 「中編」で記載したとおり、国庫余裕金の繰替使用は、国庫全体で余裕金が発生している場合において、資金不足の特別会計に対し、無利子で一時的に資金融通するものです。一方で、国庫内引受についても議論しましたが、こちらは、国債整理基金特別会計と財政融資資金に一時的な資金余裕がある場合に、その運用手段の1つとしてFBを引き受けるものであり、運用手段でもあるという点で国庫余裕金の繰替使用と違いがあります(この場合、FB発行会計からFB引受会計に対して、利子の支払が行われることになります)。
*5) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/index.htm#01
*6) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm
*7) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/08.pdf
*8) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/10.pdf
*9) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/02.pdf
*10) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/03.pdf
津田夏樹 国際局地域協力課長
2002年、東京大学法学部卒業後、財務省に入省。国際通貨基金(IMF)金融資本市場局審議役、財務省理財局国庫課長兼デジタル通貨企画官を経て、2025年7月より現職。2009年コロンビア大学MBA修了。
服部孝洋 東京大学公共政策大学院特任准教授
2008年、一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了後、野村證券に入社。2016年、財務省財務総合政策研究所を経て、2020年に東京大学に移籍し、現在に至る。経済学博士(一橋大学)を取得。
本インタビューの目的
日本の国庫制度について、その概要を明らかにした文献は必ずしも多いとはいえません。国庫制度についての知識は、国の資金の流れを正確に理解するだけでなく、金融政策等について正確に理解する上でも必須です。日銀が有する「政府の銀行」としての機能は、国庫金に係る制度そのものと言っても過言ではありません。そこで本稿では、国庫課課長の津田夏樹課長との対談を通じて、国庫制度およびその業務についての理解を深めます。本稿が短期金融市場の実務家にとっても役に立つ文章になることを期待しています*1。
なお、本記事は、紙面の関係上、「津田夏樹課長に聞く、日本の国庫制度」の前編から後編で含むことができなかった内容をカバーしています。「前編」「中編」「後編」を前提としているため、そちらも参照していただければ幸いです。
国庫余裕金とは
服部:国庫余裕金および国庫余裕金の繰替使用について、より深く議論したいと考えています。まず、国庫余裕金の定義を確認したいのですが、国庫課のウェブサイトでは、「国庫余裕金の定義を法令上規定しているものはありませんが、実務上、当座預金に支払準備として置くこととしている1,500億円を超える額、すなわち国内指定預金(一般口)残高相当額を国庫余裕金として取り扱っています。国庫余裕金は、国庫金の受入と支払のタイミングのずれ等により一時的に発生するものであり、年度を通じて発生する性格のものではありません」と説明しています*2。
要するに、国庫余裕金とは国の最低限の流動性として確保した1,500億円の政府の当座預金を超えた金額の部分ということだと思います。この支払準備金の1,500億円という金額にはどのような根拠があるのでしょうか。
津田:1,500億円という金額は予期せぬ資金ニーズに対応できるために最低限必要な金額として設定されています。大内(2005)にも注記されていますが、現在ではFBの市中公募発行による資金繰りが一週間単位になっているため、その間に様々なことがあっても耐えられるようにということで、1,500億円に設定されました。
平成10年度までの定率公募残額日銀引受制度下では、2日に1回といった頻度でFBを発行できたため、FBが発行されない日に突然予期せぬ資金ニーズが高まったとしても、400億円程度で対応できていました。しかし、平成11年度以降の市中公募入札方式下では、調達できない期間が一週間あるため、1,500億円に設定されたのです。
服部:FBの市中公募発行に伴い、FBの発行が一週間単位となったことから、少し資金に余裕を持つようになった、という話ですね。
国庫余裕金の繰替使用
服部:政府預金が1,500億円を超える場合、国庫余裕金が生まれますが、特別会計に資金がない場合に、無利子で資金融通しようというのが国庫余裕金の繰替使用です。ウェブサイトに記載されているとおり、国庫余裕金の繰替使用は、法令上、すべての特別会計(特別会計に関する法律第15条)、外国為替資金(特別会計に関する法律第83条)、財政融資資金(財政融資資金法第9条)等に対して行うことができます(毎年度の予算総則に限度額を規定する必要があります*3)。
図表1 国庫の資金繰りは大内(2005)の抜粋ですが、国庫余裕金をどのように繰替使用しているかを図示しています。この図を使って議論をしたいのですが、まず、この図にあるとおり、「一般口」と「外為口・食管口・財融口」が分かれている点が複雑ですよね。基本的な質問になってしまうのですが、例えば、ここでいう食管口と、特別会計における食料管理勘定はどのような関係でしょうか。
津田:食糧管理勘定というのは、食料安定供給特別会計の中にある6つの勘定のうちの一つで、食糧管理勘定が日銀内に保有する口座を「食管口」と呼びます。外為口とは、外国為替資金特別会計が有する日銀内に保有する口座になります。
服部:なぜ「外為口・食管口・財融口」だけであり、他の特別会計はないのでしょうか。
津田:平成10年度以前に日銀が実質的にFBの直接引受を行っていた時、これらの特別会計においては、FBの発行等を行っており、余裕金が発生した場合、随時、日銀が保有するFBを繰上償還すること等により資金繰りの調整をすることが可能でした。それが、市中公募入札方式に移行することで、原則としてFBの繰上償還等ができなくなることの代替措置として、口座が設置されることとなりました。しかし、その当時存在しなかった特別会計等は、一般口でまとめて管理することになったのです。
服部:そういう経緯があったのですね。ここから具体的に議論をしていきたいのですが、まず図表1の左側の一般口をみると、政府預金の「国庫対民間収支」と「国庫対日銀収支」により一般口の当座預金の額が決まります。国庫課が民間や日銀に対し、日銀当座預金を通じて、資金のやりとりをした結果、政府の当座預金の水準が決まるということです。その結果、資金が不足するなら、指定預金から組み入れる、あるいはFBを発行して必要額を調達するということです。
津田:例えば、当座預金1,500億円を保有しているとします。仮に明日に一般会計で500億円の支払いが見込まれるとすると、1,500億円から500億円程度を使うことになり、当座預金が基準額に比べて不十分になります。この時、一般口の指定預金残高に資金があれば、「そちらを取り崩してこちらに回せば良いじゃないか」となるのです。
それでもなお足りなければ、当座預金が基準額を下回ってしまいます。そうならないように、FBを発行し、最低限当座預金が1,500億円を満たすまで資金を調達しなければなりません。これが図表1の左側で示されていることです。
服部:このメカニズムは、図表1の右側の外為口・食管口・財融口についても基本的には同じということでしょうか。
津田:そのとおりです。例えば、食糧管理勘定については100億円の残高を維持することになっており、それを下回ってしまったら、これまで集めた資金でやり繰りする、という仕組みが組み込まれています。
図表1の左側の一般口の図において、「資金余剰→国庫余裕金の繰替使用」というフローがあり、一般口の資金が外為口・食管口・財融口へ移っています。これは、これらの口座においてFBを発行する前に、一般口に資金の余剰があれば、一般口から繰替使用が行われることを意味し、FBの代わりに必要な資金を無利子で借りられることになります。しかし、一般口に資金がなく、また、組替、つまり自らが蓄えてきた指定預金口座からも取り崩せなければ、FBを発行せざるを得ません。ただ、FBを発行する際には、市中に出す前に、国債整理基金特別会計か財政融資資金で引き受けが可能であれば、そこに引き受けてもらうことも可能です。これが国庫内引受です*4。
服部:今おっしゃった「国庫余裕金の繰替使用」に関し、図表1で、左から右へ矢印が繋がっていますが、これが片方向だけであるのはどうしてでしょうか。
津田:「国庫余裕金」とは、その実務上、一般口にある余裕資金を指します。一般口は一般会計のみならず多くの特別会計の資金も管理しているので、実際にどの会計に属する余裕資金かはその時々で異なりますが、そのときに一般口に存在する余剰金を活用します。
服部:なるほど、一般口の余裕金を、あくまで資金がない特別会計に無利子で貸し出すという話なのですね。例えば、食料安定供給特別会計に余裕資金があった場合に、国庫余裕金の繰替使用として外国為替資金特別会計に流れることはないのですか。
津田:ないです。大内(2005)に記載されているとおり、国庫余裕金の法律上の定義はないものの、強いて言えば、「政府預金の残高が支払準備資金(通常1,500億円)を超える額」(大内2005, p.58)となります。つまり、この一般口の指定預金が国庫余裕金である、ということです。なので、例えば食管口に余剰資金があったとしても、それは一般口のお金ではないので、勝手に取り崩すことはできません。国庫余裕金の繰替使用の対象にはならないのです。要は、食管口にある余剰資金としての指定預金口座の残高は、国庫余裕金ではないということです。
服部:国債整理基金特別会計と財政融資資金に余裕金があれば、国庫内引受をすることもありますよね。そこはどう考えればいいのでしょうか。
津田:国庫余裕金の繰替使用は無利子ですが、FBの国庫内引受は有利子です。
このため、一般口に国庫余裕金があれば、まず繰替使用を行います。あたかも親が子供に無利子でお金を貸すようなイメージです。しかし、それができない時には、FBを発行せざるを得なくなります。その際、兄弟のような存在がいて、有利子であれば貸してくれるとします。この場合、親と違って利子は発生することにはなりますが、赤の他人に借りる場合よりは調整が容易といえます。これが国庫内引受のイメージです。
服部:ここでいう兄弟とは国債整理基金と財政融資資金のことですね。
津田:そういうことです。たとえて言えば、一般口が親のような存在で、他の指定預金は子供のような存在です。親(一般口)は、余裕があれば、無利子で貸してくれるのです。
学生:当座預金に1,500億円を確保していると説明がありました。例えば、当座預金中に食糧管理勘定は手元現金100億円を確保した上で、それを超える余剰資金があればそれを指定預金(食管口)に組み替える、という話だったと思うのですが、それを一般口に組み替える、ということではないのですよね。
津田:ご認識のとおりです。一般口は、一般会計及びその他の特別会計の手元現金(外国為替資金、財政融資資金勘定、食糧管理勘定を除く)に属する現金を管理するものです。外国為替資金、財政融資資金勘定、食糧管理勘定に属する現金は、それぞれ当座預金中の手元現金を超過する分は、各指定預金(外為口、財融口、食管口)に組み替えられます。
服部:図表2 国庫金の管理*5が政府預金残高の内訳ですが、指定預金のうち、一般口、外為口などと分かれていますね。ここでは当座預金とセットにまとめられていますが、政府預金の中で、それぞれの口があるということだと思います。
外為口、食管口、財融口に係る3つの会計は、独自でFBを発行できるので、ある意味で自立している存在ともいえます。一方、一般口に含まれる特別会計でもFBを発行できるものはありますよね。
津田:はい。例えば、エネルギー特別会計は一般口に含まれますが、独自のFB発行権限を持っています。この口とFBの発行権限は、必ずしも直接的にリンクしているわけではありません。
服部:図表3 国庫余裕金繰替使用の月末残高及び平均残高の推移が財務省のウェブサイトにある国庫余裕金の繰替使用の状況です。これを見ると、外国為替資金が多いことがわかります。ウェブサイトでは、「実務上は、FB発行額の抑制の観点から、外国為替資金に対して優先的に行っています」*6としています。実態としては、FBの大部分は外国為替資金特別会計によるものなので、資金繰りが一番必要である主体に、国庫余裕金を繰替使用しているということですね。
国庫金の効率的な管理
服部:財務省のウェブサイトでは、国庫課が国庫金の効率的な管理についても議論しています。例えば、毎年リリースされる「財政金融統計月報」の「国庫収支特集」において定期的に取り上げられていますが、2000年代後半に、国庫余裕金がみだりに増えないよう、効率的な管理を行うために加えられた工夫が説明されています。
一番シンプルなものは、国庫金の受払いのタイミングを合わせるということです。例えば、制度的な要因で、毎年ある月のβ日に歳出があるのに対し、同じ月のα日に歳入があるとします。そうなると、図表4 国庫金の受払日の調整*7の左側のように、α日といった早い段階で歳入を受け取ると、歳出を行うまで国庫余裕金が生まれます。そこで、図表4の右側のような形でα日に支払いを行うことで収支を相殺し、国庫余裕金の残高を抑えることができます。
平成17年9月から、租税や国債発行収入金のような大きな収入(歳入)の受入日に、普通交付税等の大きな支出(歳出)を充てるという形で、国庫金の受と払を合わせるような調整を行うことにより、国庫余裕金の圧縮を行っています。
これ以外にも、例えば年金制度などの関係で、図表5 国庫余裕金の繰替使用と2ヶ月程度のFBの併用*8の左側のように国庫余裕金がまばらに発生することがあります。以前は、このような短い期間に発生する国庫余裕金の繰替使用ができませんでした。そこで、図表5右側のような形で、必要に応じて、より短い年限のFBを発行し、短い期間に発生する余裕金を繰替使用できるようにすることで、余裕金残高を圧縮できるような工夫をしています。
財務省のウェブサイトや「財政金融統計月報」では、年度末の国庫余裕金の活用や外貨調達コストの縮減の取り組みについても触れているので、そちらも参照してもらえれば幸いです。
特別会計の積立金等の繰替使用
服部:大内(2005)では、特別会計の積立金等の繰替使用についても説明されています。具体的には、「各特別会計において支払上現金に不足があるときは、各特別会計法により、各省各庁の長は財務大臣の承認を経て積立金に属する現金を支払元受高に繰替使用することができることとなっている」、「『資金』を保有している特別会計では『資金』の繰替使用が、勘定区分のある特別会計では勘定間の繰替使用ができる特別会計もある」としています。その事務および資金の流れは図表6 積立金繰替使用の事務及び資金の流れのとおりです。
津田:そうですね。基本的にそれぞれの特別会計内部での話なのですが、ここで記載されているとおり、特別会計には積立金を持っているものと持っていないものがあります。
ここで言う繰替使用というのは、例えば年金特別会計の積立金から外国為替資金特別会計に貸し出す、といった話ではなく、年金特別会計の中の積立金を、年金特別会計の資金繰りに使う、という世界です。特別会計と資金、そして積立金は、同じ特別会計の内部でも分別管理されているのです。
なぜ、こうした繰替使用にわざわざ財務大臣の承認が必要なのかというと、目的があって積み立てている資金なので、安易に取り崩すのは適切ではないからです。ですから、財務大臣が承認すれば、一時的な流用が可能となる、という仕組みになっています。大内(2005)では「特に保険会計においては、年度当初には保険料収入がほとんどないのに対し、保険給付の支出が必要となることから、積立金の繰替使用承認申請が多い」(p.59)とあります。
国庫、国債およびFBの資金の流れ
服部:最後に、私が国債市場に関心があるということから、国庫と国債、さらに、FBの動き全体について議論をしておきたいです。国庫課のウェブサイトには、「国債、国の借入金に係る主な資金の流れ(概念図)」というタイトルで図表7 国債、国の借入金に係る主な資金の流れ(概念図)*9のような図が開示されています。
まず、一番下に国債整理基金特別会計があり、国債の保有者への利払いや償還については、国債整理基金特別会計に集約しているということが明確な図になっています。各特別会計が借り入れた分などは、国債整理基金特別会計を通じて返済してください、ということですね。
また、この図の左をみると、財務省が国債を発行することで、金融市場からファンディングしていることが示されていますが、一般会計や特別会計に直接入金されるということもわかります。債券を発行することで資金調達ができる特別会計は限られているので、この図では、借入(ローン)により調達している流れ(図における「民間からの借入」部分)も、きちんと分けて記載されています。GX経済移行債や復興債の資金の流れについても明示されています。
津田:国債整理基金特別会計は、対市場の元利払いの窓口となっています。実務的には、最終的に外国為替資金特別会計や一般会計、あるいはその他の部署が資金を必要とする場合、国債業務課がそれらを全て集約し、対市場で一括して発行しているのです。その上で、もともと誰がこの資金を必要としていたのか、例えば一般会計なのか外国為替資金なのかを明確にし、必要な資金を入金するとともに「あなた方がきちんと返済するのですよ」と確認するわけです。そうして、国債や借入金の償還金や、利子相当額の繰り入れとして、例えばエネルギー対策特別会計から国債整理基金特別会計へ資金が流れていくのです。同様に、一般会計の歳入とすべき国債の部分についても、一般会計から国債整理基金へ「我々の分の利払い費相当額は渡しておく」という形で資金が渡されます。これは、飲み会の幹事が国債整理基金特別会計で、皆が飲み会の会費を幹事に納めているような状態に似ています。
服部:「後編」で「資金」について触れましたが、財政投融資特別会計における「財政融資資金」に余裕がある場合、各特別会計に資金を出していることもわかります。こうしてみると、この図は体系的に書かれていますね。
津田:一方、この図で表現されていないこともあります。例えば、この図には国債と借入金しか記載されておらず、FBは含まれていません。図のタイトルも「国債、国の借入金に係る主な資金の流れ」とされていますね。つまり、多種多様なマネーがあるため、ある角度から切り取って図示すると、他の角度からのマネーの流れは省略しないと、訳がわからなくなってしまいます。全てを高解像度で一枚の図に表す「曼荼羅図」のようなものは存在しません。もし存在するとすれば、先ほどのように非常にハイレベルで、何がどうなっているのか全く分からないような図になってしまうでしょうね。
服部:おっしゃるとおりです。国庫課は、FBに関する図はFBだけを取り出して作成されていますね。図表8 国庫短期証券に係る主な資金の流れ(概念図)*10がFBに関する図です。この図のタイトルは、「国庫短期証券に係る主な資金の流れ」ですが、金融市場から国庫への流れは、「国庫短期証券(T-Bill)発行収入」とあり、TBとFBが一体として記載されています。そして、TBとFBがわかれ、各会計に資金が流れる形になっています。
津田:概念の話になってしまいますが、1年以内の国の債券は「国庫短期証券」(T-Bill)と呼ばれています。これは、純粋な資金繰りのためのFBと、財源債のTBを包括する、1年以内のゾーンを指します。したがって、青い矢印の根元は「国庫短期証券(T-Bill)発行収入」となっていますが、会計ごとにFBであったりTBであったりする、ということだと思います。
服部:この図をよく見ると、国庫内引受の流れも入っていますね。図表8における国債整理基金特別会計と財政投融資特別会計については、「FBの国庫内引受(運用)」という矢印があることが分かりますが、この二つの「資金」に余剰資金があれば、他の特別会計に資金が流れるということもしっかり記載されています。
津田:そのとおりです。FBの国庫内引受(運用)が国債整理基金特別会計から伸びており、これはどこにでも向かうことができます。例えば、外国為替資金のFB発行収入の原資となることもあります。
一方、資料の左下には「本概念図は全ての資金の流れを網羅しているものではありません」とありますので、この資料についてもやはり、あくまで国庫間のお金のやり取りのうち一部を示しているものです。外国為替資金特別会計や、食料安定供給特別会計なども、独自にFBを発行できます。このようにFBを発行できる主体が複数存在する中で、その資金がどのようにファイナンスされているかを示しているのがこの図です。
服部:ありがとうございます。これらの図は国庫の知識がないと、複雑すぎる図にも思えますが、ここまでの対談の流れを読んでもらうと、国債市場と国庫について、読者も見通しが良くなるのではと思います。また、前編から順番に読んでいただくことで、財務省の国庫課が、国の歳出入や資金繰り等で重要な役割を果たしているということも想像しやすくなるのではと感じます。私自身、国庫について理解するのに苦しんできましたが、今回の企画では、適時、財務省の説明や文献、データを参照したため、国庫を勉強したい人にとって良いガイドになると思います。
今回はお忙しい中、4回にわたり、ありがとうございました。
津田:ありがとうございました。
*1) なお、本対談は2025年6月に実施されており、以下における肩書や組織名は2025年6月当時である点に注意してください。また、本稿を記載するにあたり、安斎由里菜さんと新田凜さんの協力を得ました。
*2) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm
*3) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm
*4) 「中編」で記載したとおり、国庫余裕金の繰替使用は、国庫全体で余裕金が発生している場合において、資金不足の特別会計に対し、無利子で一時的に資金融通するものです。一方で、国庫内引受についても議論しましたが、こちらは、国債整理基金特別会計と財政融資資金に一時的な資金余裕がある場合に、その運用手段の1つとしてFBを引き受けるものであり、運用手段でもあるという点で国庫余裕金の繰替使用と違いがあります(この場合、FB発行会計からFB引受会計に対して、利子の支払が行われることになります)。
*5) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/index.htm#01
*6) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/index.htm
*7) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/08.pdf
*8) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/exchequer_cash_management/10.pdf
*9) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/02.pdf
*10) https://www.mof.go.jp/policy/exchequer/summary/03.pdf

