環境省総合環境政策統括官(前 環境再生・資源循環局長) 白石 隆夫
1.はじめに
2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)の事故から14年の月日が経過した。現状を見ると、津波等による被災地の多くは着実な復興を遂げつつあるが、福島第一原発事故による影響を大きく受けた福島県については、今なお、多くの帰還困難区域を抱え、社会・経済の復興への苦しい道のりの途上にある。
筆者が所属している環境省は、福島第一原発事故の発生以来、事故により大気中に放出された放射性物質が付着した廃棄物・土壌の処理を担ってきている。このうち、福島県内の除染等により生じた土壌(以下、除去土壌)等については、発災当時からその膨大な量をどうするかが大きな課題となったが、福島県・大熊町・双葉町の重い決断の下、大熊町・双葉町に立地された中間貯蔵施設に搬入することとするとともに、国は、上記3者に対し、中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分することを約束した。この旨は、「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」で規定されている(筆者注:期限は2045年3月まで)。
2025年8月末現在、中間貯蔵施設に搬入された除去土壌等の量は、約1,400万m3(東京ドーム11杯分)である。この膨大な量を福島県外で最終処分するためには、中間貯蔵されている除去土壌の約3/4を占める放射能濃度が8,000Bq(ベクレル)/kg以下の除去土壌を、可能な限り復興再生土として利用(復興再生利用)し、最終処分量を減らすことが鍵である。
このため、昨年来、環境省はもとより、政府全体で取組を進める推進体制を作ったところであり、最終処分への道筋を着実に進めるためにも、まずは国民各位の理解醸成を進めるとともに、復興再生利用を推進する必要がある。
ともあれ、はじめに、本件は、日本経済を電力供給という形で支えてきた福島のふるさとを取り戻し、復興を進めるため、この土壌の行先は全国民が等しく考えていかなければならない国民的課題であるという点を強調しておきたい。
以下の記事は、これまでの経緯と最近の取組の概要である。
2.復興再生利用に係るこれまでの取組
(1)中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略
除去土壌等の県外最終処分の実現に向けて、環境省は、2016年に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略(以下、技術開発戦略)」を取りまとめた。技術開発戦略において、放射能濃度が低い除去土壌を再生資材化して利用するための技術開発を進める旨が示されており、環境省では、同戦略に基づき、実証事業等を行ってきた。
(2)福島県飯舘村長泥地区における農地造成実証事業(環境再生事業)
2018年から福島県飯舘村長泥地区において、地元の皆様の御協力をいただき、農地造成実証事業(環境再生事業)を実施した。
小規模な盛土を造成し、2020年から再生資材化した除去土壌に覆土がある場合とない場合についてそれぞれ食用作物の栽培試験を行い、放射線に関する安全性や生育性の確認を行った。
試験の結果、いずれの場合においても、十分な生育状況が確認されるとともに、栽培した作物の放射性セシウム濃度は放射性セシウムの基準値(一般食品)(100Bq/kg)より十分小さい値となることが確認された。
2021年4月より、かさ上げ土(盛土)として除去土壌を利用し、その上に覆土を行い、覆土上で耕作する形で、大規模な農地造成の実証を行った。造成後、2つの水田試験を実施し、盛土の放射線に関する安全性や作物の生育性を確認した。
試験の結果、作物は順調に生育し、水稲(玄米、もみ、稲わら)の放射能濃度については、放射性セシウムの基準値(一般食品)(100Bq/kg)や農業資材の基準(400Bq/kg)より十分小さい値となることが確認された。
(3)中間貯蔵施設における道路盛土実証事業
2022年から中間貯蔵施設内において、再生資材化した除去土壌の道路への利用に関する実証事業を実施した。
道路盛土実証事業では、路体として再生資材化した除去土壌を用い、放射線や路体の沈下量等のモニタリングを通じて、放射線に関する安全性や構造物の安定性、走行試験を通じて道路としての使用性の確認を行った。
実証事業の結果、放射線に関する安全性については、盛土の施工前後で空間線量率は同程度で推移したことが確認された。
また、構造物としての安定性については、沈下量のモニタリング結果や大型車両の走行によって盛土に負荷をかけた走行試験などの結果、安定性が損なわれるような沈下等が生じていないことが確認された。
道路としての使用性についても、前述の走行試験の結果、使用性が損なわれるような路面の平坦性の変化やわだち掘れ等は確認されなかった。
(4)IAEA専門家会合
2023年度には、これまでの環境省の取組に対し、技術的・社会的観点から国際的な評価・助言等を行う目的で、国際原子力機関(IAEA)による「除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合」が3回開催された。実証事業の現場視察等を経て、2024年9月には、IAEA専門家会合の成果を取りまとめた最終報告書がIAEAから公表された。本報告書においては、「再生利用及び最終処分について、これまで環境省が実施してきた取組や活動はIAEAの安全基準に合致している。」、「今後、専門家チームの助言を十分に満たすための取組を継続して行うことで、環境省の展開する取組がIAEA安全基準に合致したものになる。これは今後のフォローアップ評価によって確認することができる。」との結論が示された。
(5)復興再生利用の基準等の策定
このような実証事業の取組の成果やIAEAの最終報告書、放射線審議会への諮問及び同審議会の答申、国内の有識者からの助言等を踏まえ、環境省では、2025年3月に「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則」の一部を改正して除去土壌の復興再生利用の基準を策定するとともに、同月に「復興再生利用に係るガイドライン(以下、ガイドライン)」を公表した。
さらに、同月に、技術開発戦略におけるこれまでの取組の成果を踏まえ、「復興再生利用の推進」「最終処分の方向性の検討」「全国民的な理解醸成等」を3本柱とする「県外最終処分に向けたこれまでの取組の成果と2025年度以降の進め方」を公表し、復興再生利用については、今後、各府省庁と連携しながら、案件創出を進める旨が示された。
3.復興再生利用の基準
(1)再生資材化
復興再生利用の基準において、復興再生利用は、「事故による災害からの復興に資することを目的として、再生資材化した除去土壌を適切な管理の下で利用すること(維持管理することを含む。)」と定義され、「公共事業又は実施主体及び責任体制が明確であり、かつ、継続的かつ安定的に行われる事業において行うこと。」とされている。
再生資材化とは、除去土壌から草木などの異物を除去し、復興再生利用の用途先で求められる要求品質に適合するよう必要に応じて品質調整を行うことであり、再生資材化を行うことで除去土壌は復興再生土として、復興再生利用に用いることが可能となる。
(2)放射能濃度の基準
復興再生利用の基準では、復興再生土には、一般公衆の追加被ばく線量が年間1mSv(ミリシーベルト)以下となるような放射能濃度の除去土壌を用いることとされている。この年間1mSvという基準は国際的な基準として設定されたものであり、移動等によって生じる地域間の差程度の値であると考えられている。具体的な放射能濃度としては具体的にはセシウム134、セシウム137の合計で8,000Bq/kg以下とされており、これは最も被ばくの影響が大きくなると考えられる、復興再生利用の作業者の追加被ばく線量が年間1mSvを超えないように設定された値である。
この濃度は、電離則等による放射線障害防止措置の適用外の放射能濃度(1万 Bq/kg以下)であり、復興再生利用の作業者は電離則等に基づく特別な放射線防護措置を講ずる必要はない。
(3)飛散・流出防止
復興再生利用に当たっては、復興再生土が飛散・流出しないよう、覆土等の覆いにより表面を覆う等の必要な措置を講ずることとされており、ガイドラインでは、土砂による覆土を行う場合、飛散・流出の防止のために20cm~30cm程度の厚さ(層A)を設けることとされている。また、利用先の用途に応じて必要となる厚さ(埋設管の敷設や、点検等のために必要となる厚さ)については、層Aの外側に設けられる層(層B)として別途設けられることとなる。
覆土等の覆いは、放射線の遮へい効果も有し、20cmの覆土を施した場合、復興再生土から生じる放射線の約90%を遮へいすることができる。
(4)空間線量率の測定
復興再生利用の基準では、復興再生利用の施工時及びその後の維持管理時において、空間線量率を測定することとされている。ガイドラインでは、復興再生利用の施工時は7日に1回以上、維持管理時には1年に1回以上とされている。また、施工前後の空間線量率を比較するため、施工前の空間線量率についても測定をすることとされている。
また、測定した空間線量率については、遅滞なく公表することとされている。
4.復興再生利用の推進に向けた取組
(1)福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議
復興再生利用による最終処分量の低減方策、風評影響対策等の施策について、政府一体となって推進するため、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議が2024年12月に設置された。
議長である官房長官の指示に基づき、本会議において2025年5月には、「再生利用の推進」「再生利用等の実施に向けた理解醸成・リスクコミュニケーション」「県外最終処分に向けた取組の推進」に係る基本方針が取りまとめられ、復興再生利用については、国民への理解醸成を図るという観点から、総理大臣官邸での利用を始めとして政府が率先して先行事例の創出等に取り組む旨が示された。
また、同年8月には、基本方針に基づく当面5年程度のロードマップが取りまとめられ、総理大臣官邸に続いて、霞が関の中央官庁での利用を行うこと、さらには各地にある各府省庁の分庁舎、地方支分部局、所管法人等の庁舎等での復興再生利用を検討し、事例を創出する旨が示された。
(2)総理大臣官邸での復興再生利用
基本方針に基づき、復興再生利用の基準を策定してから最初の案件として、総理大臣官邸での復興再生利用を2025年7月に施工した。2m3の復興再生土を官邸の前庭に利用しており、施工前後の空間線量率について、施工前は0.07~0.10μSv(マイクロシーベルト)/時、施工後は0.10~0.12μSv/時であり、人体への影響を無視できるレベルであった。
(3)霞が関の中央官庁での復興再生利用
ロードマップに基づき、2025年9月より霞が関の中央官庁の花壇等において復興再生利用を行い、同年10月までに全9か所の施工を完了した。施工前後の空間線量率について、例えば中央合同庁舎5号館では、施工前は0.06μSv/時、施工後は0.06~0.10μSv/時であり、いずれの箇所においても、人体への影響を無視できるレベルであった。
なお、上記3(2)で述べた年間被ばく線量と上記の空間線量率との関係が分かりにくいが、被ばく線量が年間1mSvに相当する空間線量率は、所定の換算式によれば、0.23μSv/時であり、上記のように、施工後の空間線量率が0.06~0.10μSv/時であれば、年間被ばく線量は、1mSvを優に下回る水準となる。また、参考までに、世界主要都市における空間線量率[1]を調べると、東京都新宿区は、0.036μSv/時であったが、国際的には、ロンドン(0.100μSv/時)、ソウル(0.125μSv/時)、香港(0.15μSv/時)など、比較的高い数値のある都市もあり、これらの数値のいずれも、人体への影響があるとはされていない。
5.終わりに
繰り返しになるが、福島県内で生じた除去土壌の中間貯蔵開始後30年以内(2045年3月まで)の県外最終処分の方針は、法律に規定された国の責務である。県外最終処分の実現には、政府一丸となって復興再生利用の案件創出等に取り組むことが重要である。環境省としても、各府省庁との連携を深めながら、引き続き、尽力してまいりたい。また、今後、様々な局面で、関係各位が関わる国有地・所有地や公共事業等で、「復興再生土」の扱いが課題となることも想定されることから、本件に関して、国民各層や国・地方の行政関係者各位の御理解・御協力を、平にお願いしたい。
出典
[1] 「主要都市の空間線量率の測定結果(2024年)」(環境省)
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/current/02-05-07.html
図1 中間貯蔵施設
図2 除去土壌の復興再生利用
図3 飯舘村長泥地区での農地造成実証事業(環境再生事業)
図4 中間貯蔵施設での道路盛土実証事業
図5 被ばく線量の比較
図6 復興再生利用における追加被ばく線量
図7 覆土等の覆い
図8 総理大臣官邸での復興再生利用
図9 霞が関中央官庁での復興再生利用
1.はじめに
2011年3月11日の東日本大震災とそれに伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所(以下、福島第一原発)の事故から14年の月日が経過した。現状を見ると、津波等による被災地の多くは着実な復興を遂げつつあるが、福島第一原発事故による影響を大きく受けた福島県については、今なお、多くの帰還困難区域を抱え、社会・経済の復興への苦しい道のりの途上にある。
筆者が所属している環境省は、福島第一原発事故の発生以来、事故により大気中に放出された放射性物質が付着した廃棄物・土壌の処理を担ってきている。このうち、福島県内の除染等により生じた土壌(以下、除去土壌)等については、発災当時からその膨大な量をどうするかが大きな課題となったが、福島県・大熊町・双葉町の重い決断の下、大熊町・双葉町に立地された中間貯蔵施設に搬入することとするとともに、国は、上記3者に対し、中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分することを約束した。この旨は、「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」で規定されている(筆者注:期限は2045年3月まで)。
2025年8月末現在、中間貯蔵施設に搬入された除去土壌等の量は、約1,400万m3(東京ドーム11杯分)である。この膨大な量を福島県外で最終処分するためには、中間貯蔵されている除去土壌の約3/4を占める放射能濃度が8,000Bq(ベクレル)/kg以下の除去土壌を、可能な限り復興再生土として利用(復興再生利用)し、最終処分量を減らすことが鍵である。
このため、昨年来、環境省はもとより、政府全体で取組を進める推進体制を作ったところであり、最終処分への道筋を着実に進めるためにも、まずは国民各位の理解醸成を進めるとともに、復興再生利用を推進する必要がある。
ともあれ、はじめに、本件は、日本経済を電力供給という形で支えてきた福島のふるさとを取り戻し、復興を進めるため、この土壌の行先は全国民が等しく考えていかなければならない国民的課題であるという点を強調しておきたい。
以下の記事は、これまでの経緯と最近の取組の概要である。
2.復興再生利用に係るこれまでの取組
(1)中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略
除去土壌等の県外最終処分の実現に向けて、環境省は、2016年に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略(以下、技術開発戦略)」を取りまとめた。技術開発戦略において、放射能濃度が低い除去土壌を再生資材化して利用するための技術開発を進める旨が示されており、環境省では、同戦略に基づき、実証事業等を行ってきた。
(2)福島県飯舘村長泥地区における農地造成実証事業(環境再生事業)
2018年から福島県飯舘村長泥地区において、地元の皆様の御協力をいただき、農地造成実証事業(環境再生事業)を実施した。
小規模な盛土を造成し、2020年から再生資材化した除去土壌に覆土がある場合とない場合についてそれぞれ食用作物の栽培試験を行い、放射線に関する安全性や生育性の確認を行った。
試験の結果、いずれの場合においても、十分な生育状況が確認されるとともに、栽培した作物の放射性セシウム濃度は放射性セシウムの基準値(一般食品)(100Bq/kg)より十分小さい値となることが確認された。
2021年4月より、かさ上げ土(盛土)として除去土壌を利用し、その上に覆土を行い、覆土上で耕作する形で、大規模な農地造成の実証を行った。造成後、2つの水田試験を実施し、盛土の放射線に関する安全性や作物の生育性を確認した。
試験の結果、作物は順調に生育し、水稲(玄米、もみ、稲わら)の放射能濃度については、放射性セシウムの基準値(一般食品)(100Bq/kg)や農業資材の基準(400Bq/kg)より十分小さい値となることが確認された。
(3)中間貯蔵施設における道路盛土実証事業
2022年から中間貯蔵施設内において、再生資材化した除去土壌の道路への利用に関する実証事業を実施した。
道路盛土実証事業では、路体として再生資材化した除去土壌を用い、放射線や路体の沈下量等のモニタリングを通じて、放射線に関する安全性や構造物の安定性、走行試験を通じて道路としての使用性の確認を行った。
実証事業の結果、放射線に関する安全性については、盛土の施工前後で空間線量率は同程度で推移したことが確認された。
また、構造物としての安定性については、沈下量のモニタリング結果や大型車両の走行によって盛土に負荷をかけた走行試験などの結果、安定性が損なわれるような沈下等が生じていないことが確認された。
道路としての使用性についても、前述の走行試験の結果、使用性が損なわれるような路面の平坦性の変化やわだち掘れ等は確認されなかった。
(4)IAEA専門家会合
2023年度には、これまでの環境省の取組に対し、技術的・社会的観点から国際的な評価・助言等を行う目的で、国際原子力機関(IAEA)による「除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合」が3回開催された。実証事業の現場視察等を経て、2024年9月には、IAEA専門家会合の成果を取りまとめた最終報告書がIAEAから公表された。本報告書においては、「再生利用及び最終処分について、これまで環境省が実施してきた取組や活動はIAEAの安全基準に合致している。」、「今後、専門家チームの助言を十分に満たすための取組を継続して行うことで、環境省の展開する取組がIAEA安全基準に合致したものになる。これは今後のフォローアップ評価によって確認することができる。」との結論が示された。
(5)復興再生利用の基準等の策定
このような実証事業の取組の成果やIAEAの最終報告書、放射線審議会への諮問及び同審議会の答申、国内の有識者からの助言等を踏まえ、環境省では、2025年3月に「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則」の一部を改正して除去土壌の復興再生利用の基準を策定するとともに、同月に「復興再生利用に係るガイドライン(以下、ガイドライン)」を公表した。
さらに、同月に、技術開発戦略におけるこれまでの取組の成果を踏まえ、「復興再生利用の推進」「最終処分の方向性の検討」「全国民的な理解醸成等」を3本柱とする「県外最終処分に向けたこれまでの取組の成果と2025年度以降の進め方」を公表し、復興再生利用については、今後、各府省庁と連携しながら、案件創出を進める旨が示された。
3.復興再生利用の基準
(1)再生資材化
復興再生利用の基準において、復興再生利用は、「事故による災害からの復興に資することを目的として、再生資材化した除去土壌を適切な管理の下で利用すること(維持管理することを含む。)」と定義され、「公共事業又は実施主体及び責任体制が明確であり、かつ、継続的かつ安定的に行われる事業において行うこと。」とされている。
再生資材化とは、除去土壌から草木などの異物を除去し、復興再生利用の用途先で求められる要求品質に適合するよう必要に応じて品質調整を行うことであり、再生資材化を行うことで除去土壌は復興再生土として、復興再生利用に用いることが可能となる。
(2)放射能濃度の基準
復興再生利用の基準では、復興再生土には、一般公衆の追加被ばく線量が年間1mSv(ミリシーベルト)以下となるような放射能濃度の除去土壌を用いることとされている。この年間1mSvという基準は国際的な基準として設定されたものであり、移動等によって生じる地域間の差程度の値であると考えられている。具体的な放射能濃度としては具体的にはセシウム134、セシウム137の合計で8,000Bq/kg以下とされており、これは最も被ばくの影響が大きくなると考えられる、復興再生利用の作業者の追加被ばく線量が年間1mSvを超えないように設定された値である。
この濃度は、電離則等による放射線障害防止措置の適用外の放射能濃度(1万 Bq/kg以下)であり、復興再生利用の作業者は電離則等に基づく特別な放射線防護措置を講ずる必要はない。
(3)飛散・流出防止
復興再生利用に当たっては、復興再生土が飛散・流出しないよう、覆土等の覆いにより表面を覆う等の必要な措置を講ずることとされており、ガイドラインでは、土砂による覆土を行う場合、飛散・流出の防止のために20cm~30cm程度の厚さ(層A)を設けることとされている。また、利用先の用途に応じて必要となる厚さ(埋設管の敷設や、点検等のために必要となる厚さ)については、層Aの外側に設けられる層(層B)として別途設けられることとなる。
覆土等の覆いは、放射線の遮へい効果も有し、20cmの覆土を施した場合、復興再生土から生じる放射線の約90%を遮へいすることができる。
(4)空間線量率の測定
復興再生利用の基準では、復興再生利用の施工時及びその後の維持管理時において、空間線量率を測定することとされている。ガイドラインでは、復興再生利用の施工時は7日に1回以上、維持管理時には1年に1回以上とされている。また、施工前後の空間線量率を比較するため、施工前の空間線量率についても測定をすることとされている。
また、測定した空間線量率については、遅滞なく公表することとされている。
4.復興再生利用の推進に向けた取組
(1)福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議
復興再生利用による最終処分量の低減方策、風評影響対策等の施策について、政府一体となって推進するため、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議が2024年12月に設置された。
議長である官房長官の指示に基づき、本会議において2025年5月には、「再生利用の推進」「再生利用等の実施に向けた理解醸成・リスクコミュニケーション」「県外最終処分に向けた取組の推進」に係る基本方針が取りまとめられ、復興再生利用については、国民への理解醸成を図るという観点から、総理大臣官邸での利用を始めとして政府が率先して先行事例の創出等に取り組む旨が示された。
また、同年8月には、基本方針に基づく当面5年程度のロードマップが取りまとめられ、総理大臣官邸に続いて、霞が関の中央官庁での利用を行うこと、さらには各地にある各府省庁の分庁舎、地方支分部局、所管法人等の庁舎等での復興再生利用を検討し、事例を創出する旨が示された。
(2)総理大臣官邸での復興再生利用
基本方針に基づき、復興再生利用の基準を策定してから最初の案件として、総理大臣官邸での復興再生利用を2025年7月に施工した。2m3の復興再生土を官邸の前庭に利用しており、施工前後の空間線量率について、施工前は0.07~0.10μSv(マイクロシーベルト)/時、施工後は0.10~0.12μSv/時であり、人体への影響を無視できるレベルであった。
(3)霞が関の中央官庁での復興再生利用
ロードマップに基づき、2025年9月より霞が関の中央官庁の花壇等において復興再生利用を行い、同年10月までに全9か所の施工を完了した。施工前後の空間線量率について、例えば中央合同庁舎5号館では、施工前は0.06μSv/時、施工後は0.06~0.10μSv/時であり、いずれの箇所においても、人体への影響を無視できるレベルであった。
なお、上記3(2)で述べた年間被ばく線量と上記の空間線量率との関係が分かりにくいが、被ばく線量が年間1mSvに相当する空間線量率は、所定の換算式によれば、0.23μSv/時であり、上記のように、施工後の空間線量率が0.06~0.10μSv/時であれば、年間被ばく線量は、1mSvを優に下回る水準となる。また、参考までに、世界主要都市における空間線量率[1]を調べると、東京都新宿区は、0.036μSv/時であったが、国際的には、ロンドン(0.100μSv/時)、ソウル(0.125μSv/時)、香港(0.15μSv/時)など、比較的高い数値のある都市もあり、これらの数値のいずれも、人体への影響があるとはされていない。
5.終わりに
繰り返しになるが、福島県内で生じた除去土壌の中間貯蔵開始後30年以内(2045年3月まで)の県外最終処分の方針は、法律に規定された国の責務である。県外最終処分の実現には、政府一丸となって復興再生利用の案件創出等に取り組むことが重要である。環境省としても、各府省庁との連携を深めながら、引き続き、尽力してまいりたい。また、今後、様々な局面で、関係各位が関わる国有地・所有地や公共事業等で、「復興再生土」の扱いが課題となることも想定されることから、本件に関して、国民各層や国・地方の行政関係者各位の御理解・御協力を、平にお願いしたい。
出典
[1] 「主要都市の空間線量率の測定結果(2024年)」(環境省)
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/current/02-05-07.html
図1 中間貯蔵施設
図2 除去土壌の復興再生利用
図3 飯舘村長泥地区での農地造成実証事業(環境再生事業)
図4 中間貯蔵施設での道路盛土実証事業
図5 被ばく線量の比較
図6 復興再生利用における追加被ばく線量
図7 覆土等の覆い
図8 総理大臣官邸での復興再生利用
図9 霞が関中央官庁での復興再生利用

