未来につながる復興に向けて 羽咋市
総務部まちづくり課 課長 崎田 智之
1.はじめに
羽咋市は能登半島の基部に位置し、世界でも珍しい、車でドライブのできる“なぎさドライブウェイ”をはじめ、2千年の歴史を誇る“能登國一宮 気多大社”や、国宝化を目指す“日蓮宗北陸総本山 妙成寺”など、恵まれた自然と、歴史が息づくまちです。
観光資源に恵まれながら、宿泊についてはかつての民宿ブームも去り、能登の有力な温泉街の人気から、市民にも「羽咋市は通過型の観光地」という感覚が刷り込まれていました。
この状況の中2019年、市では観光客の滞在時間を長くすることで、周辺観光や宿泊に繋げる取り組みのひとつとして、“能登里山海道千里浜インター”付近で“道の駅のと千里浜”を開業しました。 開業からこれまで、多くの観光客の方が訪れ、道の駅ランキングでも中部や県内でも上位評価となるなど、市民の想いを具現化できる施設へと成長してきました。
写真 賑わう道の駅のと千里浜
2.JR羽咋駅西口の暗闇
市では、千里浜インターを海側の玄関口として整備を進め、道の駅のほか、宅地・商用地造成を行ってきましたが、これまで多くの人流を支えたもうひとつの玄関口としてJR羽咋駅があります。
駅周辺には商店街がつらなり、かつては駅西口のショッピングモールにも多くの市民が訪れ、賑わいの拠点となっていました。
平成14年、ショッピングモールから灯りが消え、パフェに歓喜する子どもの声も聞かれなくなりました。つられるように商店街でも閉店が進み、周辺の市民からは「廃墟で治安が悪くなる」「暗くて怖い」など、改善の要望が絶えませんでしたが、民間の所有地であることや、市での活用策を見いだせないまま月日が経過していました。
写真 荒れた旧ショッピングモール
3.アイディアがほしい
平成30年、長らくの懸案事項であった旧ショッピングモールをはじめ、周辺の浸水対策、都市計画道路の整備も含んだ一帯の整備に取り組むこととしましたが、一番の課題である旧ショッピングモール約5,000m2については、市民の要望も様々あり、限られた敷地や財源の中でどのような取り組みが最も効果的か根拠を示せず、整備方針が定まっていませんでした。
また、施設の機能によっては効果的・効率的な運営のノウハウが市にない場合もあるという懸念もありました。
そんな中、いしかわPPP/PFI地域プラットフォーム(北國銀行、石川県、日本政策投資銀行、北陸財務局)を活用したサウンディング型市場調査を実施し、民間の資金やノウハウの活用、市民の想いを事業として実現できる可能性があるかアイディアをいただく機会としました。
プレサウンディングに始まり、2回のサウンディング型市場調査により、市民の一番期待した商業施設での可能性は少ないことも判明し、結果として公共施設で賑わいを創出し、民間事業者による出店で経済効果に繋げるよう、DO+B(設計指定管理一括発注)による賑わい交流拠点(LAKUNAはくい)と、PRE(公有地活用事業)による商業棟(LAKUNAぷらす)として整備を進めることとしました。
また、都市構造再編集中支援事業を活用し、周辺の一体整備も実施できることとなりました。
写真 想いを伝えるプレサウンディング
4.帰省で賑わう能登半島が一変
令和6年1月1日午後4時6分、能登地方が震源地となった“令和6年能登半島地震”は、帰省でにぎわう半島に甚大な被害をもたらしました。発災当初は市役所に1千人以上の市民が避難し、眠れない夜を過ごしました。時が経つにつれ、津波被害や、市内全域での断水、大規模な液状化・側方流動も確認されました。結果として約半数の世帯(4219/8481)に被害が及ぶなど、震災からの復興にはまだ時間を要する状況です。(令和7年6月末現在)
能登半島において、有史以来最大の被害をもたらした震災でしたが、幸いにして当市では電力の供給は途絶えなかったことから、市民に協力を呼びかけ、井戸水の提供による断水対策など、今後の災害時の備えとなるようなスキームを組むこともできました。
写真 液状化による被害
5.大きく予想を超えてきた
サウンディング型市場調査や、市民・市内事業者、地元中学生などの意見を集約し、屋内公園や、図書カフェ、eスポーツスタジオなどの機能を備えた“LAKUNAはくい”は、令和6年夏の開業に備え、本体工事はじめ石川県による河川・県道の改修が進んでいました。
液状化被害により、再工事となる箇所もありましたが、一部を除き令和6年7月1日、市の施行記念日に併せ開業することができました。震災からの復興に向けた明るい話題として発信できたことは、関わってくださったみなさまの尽力にほかなりません。
開業から約半年で20万人の方が訪れ、当初計画していた年間6万5千人を大きく上回る結果となりました。計画では「雪の多い北陸では冬場の遊び場がない」という意見から、屋内公園を設置しましたが、昨今の温暖化の影響か、夏場での家族利用が当初想定していなかったほか、地元の中学生が、異なる高校に通うことになっても、図書カフェを活用し勉強を教えあうなど、新しいニーズも発見することができました。
写真 屋内公園でまちなかに子供の声が戻る
6.復興にかける想い
“LAKUNAはくい”のコンセプトとして、「羽咋の未来をともす、集い、ふれあう、賑わい拠点づくり」を掲げています。当市においてもグラウンドに仮設住宅が建設されるなど、これまで当たり前だったものが当たり前でなくなった状況で、“LAKUNAはくい”が、周辺の景観も併せて開業できたことは幸いでした。自宅でも職場でもないサードプレイスが、振り返った時に「LAKUNAはくいが復興のシンボルだった」となるよう、この賑わいが、当市にとどまらす周辺地域にも波及できるよう引き続き取り組んでいきます。
写真 暖かい照明が川面も照らす
7.おわりに
震災から1年半が経ち、一見日常生活を取り戻したかのような場面も見られますが、復興関係の事業者やボランティアの皆さまを除き、能登半島への人流は大きく減少しています。
以前のようなおもてなしには遠い状況ではありますが、いま一番の懸念は、能登半島が忘れられるのではないかという不安です。被災していない観光地もありますので、ぜひ復興に向かう能登の今を訪ね、我々を励ましていただければ幸いです。
写真 復興祈願の獅子舞フェスティバル(R6.8.31開催)
能登半島の魅力を生かしたまちづくりへの期待
地方創生コンシェルジュ
北陸財務局総務課企画調整官 高田 祐一郎
能登半島の入口に位置し、能登半島地震で大きな被害があった羽咋市。
令和6年7月に賑わい交流拠点「LAKUNAはくい」が開業し、屋内公園やeスポーツスタジオなどの施設があり、子供から高齢者までさまざまな世代が集い、ふれあう場として活況を呈しています。
ほかにも、波打ち際をドライブでき爽快感のある千里浜なぎさドライブウェイや、縁結びのパワースポットとしても有名な気多大社など、人々を魅了するスポットがたくさんあります。創造的復興の実現に向けて、それらの魅力を更なるにぎわい創出に繋げ、能登半島全体に波及していくことを期待しています。
地域経済の発展に貢献する財政融資資金 常総市
関東財務局水戸財務事務所財務課
1.はじめに
財政融資資金は、低利で長期の資金を地方公共団体に供給することで、インフラ建設や公共事業に広く活用されています。本稿では、地方公共団体が財政融資資金を活用して整備した「道の駅」が地域振興に役立っている事例として、茨城県常総市の取り組みをご紹介します。
道の駅は1993年の制度創設以降、全国に設置され、観光情報の発信や地元産品の販売、地域住民と観光客の交流、防災拠点としての役割など、地域経済の振興に大きく貢献してきました。
今回ご紹介する茨城県常総市は、農業を基幹産業とし、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)や国道が走る交通アクセスにも恵まれた地域です。
市が設置し、2023年4月にオープンした「道の駅常総」は、県内外から多くの観光客が訪れ、メディアでも取り上げられるなど高い注目を集めています。
写真 「道の駅常総」(写真提供:常総市)
2.「道の駅常総」の概要
「道の駅常総」は、地域農産物の販路拡大・新たな市の玄関口・防災といった諸機能を担う、農業を活かした新たなまちづくりの拠点として整備されました。
1階には、地元で収穫された野菜や果物を販売する直売所、メロン・さつまいも・鶏卵など茨城県で生産が盛んな農産物を使った加工品やスイーツを扱う店舗がそろっています。
2階には茨城県産の食材を使用したメニューを提供するレストランがあり、広々とした空間でゆったり過ごすことができます。
屋外スペースには多目的広場、遊具、展望デッキが設けられています。展望デッキからは、はるかかなたまで広がる関東平野の空を望むことができます。
常総市では2015年に市内を流れる河川による水害が発生しました。その教訓を踏まえ、「道の駅常総」は防災拠点としての機能が強化されています。建設に当たっては敷地を約2メートルかさ上げし、浸水を防ぐ設計となっています。また、防災倉庫や太陽光発電設備などは2階に設置され、水害時でも機能を失わないよう工夫されています。
また、「道の駅常総」周辺は「アグリサイエンスバレー事業」による開発が進められています。書店や温浴施設が隣接し、少し先には観光農園も営業しており、これらの民間集客施設と一体的に整備されている点が特徴です。
写真 広々とした駐車場
3.人気の理由と事業の効果
「道の駅常総」はすでに茨城県内有数の観光地となっており、地元経済の活性化に大いに貢献しています。
当初、年間100万人の来場者を見込んでいたところ、実際にはその2倍のペースで来場があり、開業後約1年間で約200万人が訪れました。2年目にはさらに増加し、年間300万人が来場しています。
予想を上回る集客が実現した要因として、交通アクセスの良さに加え、「道の駅常総」ならではのポイントがあります。
まず、販売されている商品の人気が上昇しました。特に、メロンパンは高い知名度を誇り、なかでも「ぼくのカスタードメロンパン」は、2024年5月に「8時間で最も多く売れた焼きたて菓子パンの数」のギネス世界記録(9,390個)を樹立しました。
そのほかにも、カリポリ食感の「黄金極細けんぴ」をはじめとしたさつまいも加工品、常総市オリジナルブランドの「天てり卵」やそのたまごを使ったスイーツが評判となっています。
書店・温浴施設・観光農園といった民間集客施設との相乗効果も見逃せません。「道の駅常総」を訪れた方は、こうした民間集客施設にも立ち寄ることができます。オリジナル商品の人気に支えられ、多様な楽しみ方ができる滞在型の施設運営が集客につながっているのです。
地元経済への効果としては、農産物の販路拡大・雇用の創出・税収増といった多方面でプラスの影響がみられています。
常総市は想定を超える反響に手ごたえを感じており、今後は農業の6次産業化を進め、持続可能な農業生産を目指して地域農業への波及効果をさらに高める方針です。
写真 大人気のメロンパン(写真提供:常総市)
写真 にぎわう売り場
4.まとめ
以上、財政融資資金を活用して整備された「道の駅常総」についてご紹介いたしました。本稿が観光のきっかけとなれば幸いです。
「道の駅常総」の事業費約21億円のうち、約6億円が財政融資資金により賄われています。
財政融資資金は、地方公共団体による学校教育施設の建設や上下水道の整備、近年多発する自然災害からの復旧など、さまざまな目的に活用されています。関東財務局では、これからも財政融資資金の供給を通じて、地域のお役に立てるよう努力して参ります。
(資料提供:常総市)
小豆島におけるサステナブルな観光の推進 小豆島
(一社)小豆島観光協会 事務局長 塩出 慎吾
1.小豆島の概要と観光協会統合の背景
香川県に属する小豆島は、土庄町、小豆島町の2町から成る離島で、面積169.93km2、人口24,230人(2025年4月1日時点)、豊かな自然と文化、食の資源に恵まれた地域です。
オリーブや素麺、醤油、石材などが特産品として知られ、観光地としてはエンジェルロード、寒霞渓、小豆島オリーブ公園、迷路のまち、二十四の瞳映画村などが人気を集めています。
しかし、島内人口の減少傾向が続く中、瀬戸内国際芸術祭の開催やインバウンドの増加もあり、オーバーツーリズムの兆候が見られるなど、持続可能な観光の在り方が問われるようになりました。また、新型コロナウイルスの影響を受けた際には観光客が激減、「観光の島」である小豆島は大きな打撃を受けました。
こうした背景の中、観光により「消費される島」から「持続できる島」への転換が急務とされており、2022年、土庄町と小豆島町は観光振興による島の活性化を施政方針の冒頭に掲げ、そのための環境整備を進めてきました。
まず4つあった観光関連団体と協議を進め、2023年4月にはこれら団体が全て一般社団法人小豆島観光協会に一本化されました。これを機に小豆島に存在しなかった観光長期計画として、2024年1月に初めて「小豆島観光ビジョン」を策定しました。
また、2024年3月には小豆島観光協会が観光地域づくり法人(DMO)として正式登録され、小豆島の観光を推進する役割が明確になりました。
写真 小豆島オリーブ公園
2.観光客数と宿泊客数の推移と現状
2.観光客数と宿泊客数の推移と現状
2024年の小豆島の観光客数は約97.9万人と、前年(2023年)の91.6万人から約7%の増加を記録しました。2019年(115.3万人)のコロナ禍前と比較すると同水準とまではいきませんが、概ね回復してきている状況にあります。
一方で、宿泊者数は2024年が28.7万人で前年比5.5%増加したものの、2019年の45.9万人と比べると約6割にとどまっています。これはパンデミック期に多くの宿泊施設が休業・廃業したこと、また営業中の施設でもスタッフ不足によりフル稼働が難しい状況が続いているためです。その中で外国人宿泊者数は4.2万人と大きく回復し、宿泊者全体に占める割合も15%弱まで戻ってきました。
また、お遍路や団体旅行は大幅に減少し、マイクロバスの利用は2019年比で51%にとどまっています。これらの傾向から、観光の個人化が進みつつあることが読み取れます。
写真 エンジェルロード
3.持続可能な観光の推進とGreen Destinationsへの挑戦
3.持続可能な観光の推進とGreen Destinationsへの挑戦
こうした状況の中、小豆島では持続可能な観光地を目指した取組を加速させています。
持続可能な観光の国際基準の制定・管理を行うGSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)より認定を受けた国際認証団体であるGreen Destinationsが毎年、世界各地の観光地における持続可能な観光に関する取組を評価・認証しており、その認証取得に小豆島も挑戦しております。
まず2021年、22年と2年連続して小豆島町が「世界の持続可能な観光地Top 100選」に選出され、2024年には土庄町、小豆島町、小豆島観光協会が一体となって世界的な持続可能な観光に関する国際認証「Green Destinations」アワードを申請し、見事「シルバーアワード」を受賞しました。これは複数自治体としては日本初、シルバーアワード並びにゴールドアワードを受賞したのは日本で5地域のみという価値の高いものとなっています。
この受賞に際しては、前述の観光ビジョンの策定に加え、持続可能な観光に関する事業者向け研修や補助金支援、ボランティアガイドによる自然解説、EVスタンドや電動シェアサイクル導入、地域文化の継承など、多方面での努力が評価されました。
今後は、さらなる高みである「ゴールドアワード」の獲得を目指し、観光ビジョンに基づくアクションプランを実践していきます。
写真 GDシルバーアワード受賞記者発表
4.「20年先の小豆島をつくるプロジェクト」
持続可能な観光地を目指す一方で、小豆島においては将来の日本の縮図ともいえる急速な少子高齢化社会の進行が既に到来しており、小豆島の課題解決を目指すことが、将来の日本の「観光」の在り方を示すことにつながると考え、2024年8月、小豆島の両町と観光・開発関係者は「20年先の小豆島をつくるプロジェクト」を始動しました。
このプロジェクトは、テクノロジー・クリエイティビティ・ファイナンスの力を活用し、島の将来に向けた総合的な地域づくりを目指すものです。プロジェクトでは、以下の3つの軸に基づく具体的な取組が提示されています。
○観光の再設計
二次交通の整備(自動運転バスや海上ルート)、DX支援、宿泊施設の誘致などにより、観光の利便性と滞在価値を高めます。
○教育の改革
小豆島中央高校を中心としたSTEAM教育の推進やビジネスなどの実践機会の創出などにより、若者の活躍と定住促進を図ります。
○環境配慮
再生可能エネルギー導入やエネルギー循環システムの構築を通じて、持続可能なインフラを整備していきます。
これらの取組を通じて、小豆島は“訪れるだけの島”から“住み続けたくなる島”へと深化を遂げることを目指しています。地域と観光の未来を見据えたこの挑戦は、まさに「日本の縮図」とも言える小豆島から、日本全体へのロールモデルとしての発信につながることでしょう。
写真 自動運転バス
次代に夢をつなぐ 持続可能なまちづくり 地方創生コンシェルジュ
四国財務局総務部総務課 企画調整官 家奥 幸一
2024年、小豆島町創生総合戦略会議の委員就任の打診を同町から受け、計4回の会議に出席させていただいた。委員は執筆者の塩出事務局長のほか事業者(観光・開発・地場産業)、大学、報道、議会、自治会、高校生など多様な人材で構成されており、地方創生の取組について、それぞれの立場から意見が交わされるなど熱意に感銘を受けた。
観光だけでなく地場産業の再興、防災、教育など多くの課題に対応していくこととなるが、同様の課題を抱える多くの自治体にとって、課題解決のヒントになることを期待する。