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コラム 経済トレンド135

“コーヒー高”の正体に迫る
大臣官房総合政策課 調査員 齊之平  大致/酒井  亮

昨今のコーヒー価格の動向を踏まえ、背景や見通しについて考察した。

日本のコーヒー消費
日本では嗜好飲料としてコーヒーが好まれている。インターネット調査によると、20代以上でコーヒーを好きな人の割合は68%に及ぶ(図表1 コーヒーに関するインターネット調査)。現に日本のコーヒー消費量は世界で4番目に多く、日本は世界有数のコーヒー消費国であるといえる(図表2 コーヒー消費量(2023年)上位国)。

家計調査の結果からもコーヒー人気が見て取れる。他の代表的な嗜好飲料である紅茶や緑茶と比べても、日本の家計におけるコーヒーの消費金額・消費量は非常に大きい(図表3 コーヒーの消費金額(上段)と消費量(下段))。コーヒーの飲用場所は家庭と学校・職場が大半を占め、特に家庭で飲用する割合が近年増加傾向にある。コーヒーが身近な嗜好飲料として定着していることが分かる(図表4 日本のコーヒー飲料場所推移)。

コーヒーを値上げした場合の対応に関するアンケート結果では、“飲む量や頻度を減らす”回答割合が26%あったものの、コーヒー消費を続ける人の割合は合計で69%と高く、代替コーヒーやコーヒー以外の飲料に変更する割合は合計12%であった(図表5 コーヒーが値上げした場合の対応に関する調査)。家庭に欠かせない嗜好飲料であるからこそ、価格の動向について注視する必要がある。
(注)図表1は2024年、図表5は2025年にクロスマーケティング社によって実施されたインターネット調査。両調査とも、20代から60代までの各年代へ、220名ずつ(n=1,100)調査を実施している。
(出所)全日本コーヒー協会HP、総務省「家計調査」、クロスマーケティング「コーヒーに関する調査2024、2025」

コーヒー価格の動向
消費者物価指数を確認すると、コーヒーに関する品目では上昇トレンドが目立つ(図表6 消費者物価指数推移(総合・飲料)、図表7 消費者物価指数推移(コーヒー類詳細))。嗜好飲料の中でもコーヒー・ココアの価格が高騰しており、コーヒーに類する品目の内訳を見ると、特にコーヒー豆の高騰が顕著である。原材料であるコーヒー豆の価格上昇に釣られ、コーヒー関連価格が広範囲で高騰していると推測される。

コーヒー豆は生産している国や地域が偏在しており、日本を初めとした多くの国が輸入に頼らざるを得ない品目であるが、輸入単価は年々上昇している状況である(図表8 日本のコーヒー輸入単価)。なお、世界的なコーヒー豆の市場価格も高騰しており、輸入価格と連動していると考えられる(図表9 コーヒー豆市場価格の推移)。

コーヒー豆は、品質や産地の異なるアラビカ種とロブスタ種の2種類が代表的な品種として挙げられるが、2024年頃より両種へ同じように価格高騰が起こっている(図表10 コーヒー豆の代表的な品種)。次項より、コーヒー豆の価格が高騰している理由や背景を深掘する。
(出所)全日本コーヒー協会、総務省「消費者物価指数」、財務省「貿易統計」、武田淳「コーヒー2050年問題」、World bank group

コーヒー豆価格高騰の背景
コーヒー豆の市場価格は、世界的な需給や生産者の状況、消費動向など複数の要因によって決定される。中でも生産者の動向に影響される面は大きいと見られる。コーヒー豆は生育可能な環境が限られており、赤道付近の一部地域に産地が偏在しているためだ(図表11 コーヒー豆を生産する主な地域)。目下、世界のコーヒー豆生産の約半数がブラジルとベトナムの2か国に集中している(図表12 コーヒー豆の国別生産量(2023))。

我が国のコーヒー豆輸入においても、ブラジル・ベトナム両国への依存度は極めて高い(図表13 日本のコーヒー豆輸入相手国(2024))。コーヒー豆の国際取引は、途上国に多い生産国が主な輸出国、日本をはじめとした先進国が主な輸入国となる貿易構造を形成している(図表14 コーヒー豆の主な貿易国)。

またコーヒー豆の生育は環境要因に対し極めて敏感であるため、気候変動の影響を受けやすい(図表15 気候変動がコーヒー豆栽培に与える影響)。昨今の地球温暖化により、コーヒー豆生産へのマイナス影響が指摘されているところだ。加えて近年、コーヒー豆の主要生産国であるブラジルやベトナムにおいて、干ばつなどの異常気象が発生しており、コーヒー豆生産への深刻な影響が報告されている(図表16 コーヒー豆主要生産国における近年の異常気象)。

このように、世界のコーヒー豆供給の主要な担い手国において供給ショックが顕在化している一方で、一部では中国をはじめとして世界的なコーヒー需要が伸びているとの報告もあり、需給の逼迫から市場価格が高騰しているのが実情だ。
(出所)国連食糧農業機関(FAO)、Bing、財務省「貿易統計」、武田淳「コーヒー2050年問題」、各種報道など

今後の展望
なお昨今のコーヒー豆市場価格高騰には、投機マネーの動向が関係しているとする指摘もある。コーヒ豆先物市場では、将来の価格変動に対するリスクヘッジから、“売り・買い”双方のポジションが作られる中で市場価格が形成される。しかし、需給逼迫によりコーヒー豆価格が上昇を続ける中、含み損を避けるために先物売りのポジションが縮小されている可能性がある。足下では売りポジション縮小による買い戻しと売り手減少の双方を受け、「買い越し」が続いている状況にある。(図表17 商品先物価格高騰のメカニズム、図表18 コーヒー豆先物の売買動向)

このように実際の需給によらない事象も、価格高騰の一要因となっていることに留意が必要である。しかしながら根底となる背景には、全世界的な需要に対し供給国が一部地域に偏在する需給構造、そして昨今の気候変動リスクがあることに変わりないだろう。

気温上昇などの気候変動は、コーヒー供給そのもののリスクとなり得るようだ。一部研究によると、地球温暖化により、コーヒー豆栽培に適した環境が2050年に世界全体で半減するとしている(図表19 『2050年問題』の概要)。これは所謂『2050年問題』として知られている。

これまで述べてきた通り、コーヒーの実情について把握する上では、コーヒー豆のグローバルな需給構造について留意する必要がありそうだ。昨今のコーヒー価格高騰は、供給サイドに所在するリスクが表面化した事象といえよう。なお『2050年問題』はじめ、供給サイドの先行き懸念は根強い。さらなるコーヒー価格高騰の可能性についても念頭に置くべきであろう。
(出所)商品先物取引委員会(CFTC)、日経新聞、Christian Bunn, Peter Läderach, Oriana Ovalle Rivera & Dieter Kirschke「A bitter cup:climate change profile of global production of Arabica and Robusta coffee」、各種報道など
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。