国際局地域協力課 地域協力企画官 竹中 俊一/課長補佐 金田一 敏幸/調査係長 齋藤 康太/
埼玉大学経済経営系大学院特任教授 山寺 智*1/野村総合研究所タイ顧問 水野 兼悟*2
埼玉大学経済経営系大学院特任教授 山寺 智*1/野村総合研究所タイ顧問 水野 兼悟*2
アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)は、90年代後半のアジア通貨危機の原因となった通貨と期間のダブルミスマッチ解消を目的として、2003年第6回ASEAN+3(日中韓)財務大臣会議で正式に設立された。日本は、ABMIとして、アジア開発銀行(ADB)や東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局への拠出基金を通じ、ASEAN発展途上国の債券市場整備を一貫して支援してきた。
本稿では、ABMIとして技術支援を行なったカンボジア債券市場発展の経緯とその方策について振り返る。特に、一国の国債市場の創設支援という貴重な機会に恵まれたことから、国債市場を中心に回顧したい。
1.国債市場育成
(1)旧国債法(2007~2020年)
カンボジア経済財政省(MEF)は、2022年9月から満期一年以上の国債を発行し始めた。よって、これが最初の国債発行と報道され、多くのMEF職員や金融関係者もそう思っている。
しかし、実際には少なくとも2003年から2006年にかけて、当時の財政法(1993~2008年)に基づき、国庫短期証券を発行していた。入札・発行事務は、中央銀行であるカンボジア国立銀行(NBC)に委託していた。
2007年には、旧国債法が成立したが、皮肉なことに同年から国庫短期証券の発行は中止された。後にその経緯について当時の関係者たちに聞いてみたが、明確な理由はえられなかった。なお、旧国債法の起草には、ABMI技術支援は関わっていない。
旧国債法の特徴としては、以下の4点が挙げられる。第1に、国債の発行・償還計画は政府予算の枠外で、別途に国会承認を必要とした。第2に、国債管理基金を設立し、調達資金を同基金で管理し、返済原資も同基金から拠出するとした。返済が不足しそうな際には、国庫より返済を補うという条項もついていた。第3に、調達資金の使途は、MEF大臣を委員長とする同基金の運営委員会で投資計画を作り、国会承認をえるとした。第4に、同基金は財務諸表を作成し、国会に提出するとなっていた。
要するに、政府予算や国庫統一口座とは別に、(目的税歳入のない)特別会計で公共投資基金を作るような仕組みであった。しかも、国債の返済に責任を持つのは第一義的に同基金である。これでは、投資家や格付機関からすると、国債の信用力の裏付けである徴税権とは別に、同基金の返済能力や政府による同基金への関与度合をみなければならない。
2010年代半ばまでのABMI技術支援では、旧国債法を所与として、国債管理基金やその運営委員会にかかる施行令案や省令案、同基金と国庫の連携案の作成などに従事した。しかし、これらの案が政府やMEF大臣に提出されることはなく、日の目を見ることはなかった。
一方、カンボジア政府の債務調達手段は、国際開発金融機関などからの長期かつ低利な譲許性の高い外貨建て借款がほとんどを占めてきた。
(2)新国債法(2021年~)
2010年代後半に入って、後の国債市場(再)創設につながる環境変化が2つ起きた。第1に、カンボジアの経済成長により、国連の後発開発途上国(LDC)分類からの卒業が見えてきた*3。卒業すると譲許性の高い借款で債務調達できる割合は減っていくため、MEFにとって国債市場育成の重要度が増した。第2に、MEFで国債の主管局が変わった。以前は金融機関総局(GDFI)が主管していたが、同局の役割はノンバンク金融庁(NBFSA)の設立準備*4に移管され、代わって国際協力・債務管理総局(GDICDM)が国債の主管局となった。GDICDMは譲許性の高い借款の借入・返済窓口であるため、将来的にそれを少しづつ代替していく国債の重要性を強く認識していた。
ちょうど主管の移行期であった2018年に、転機は訪れた。当時のABMI技術支援カウンターパートは名目上はまだGDFIであった。しかし、GDFIとGDICDMはMEF本省敷地内の同じビルに入居していたため、たまたま遭遇したGDICDM局長(当時)に呼び止められた。同局長いわく、「国債の担当がGDICDMに1~2年以内に移管される方針である。ただ、(旧)国債法が成立して10年以上たつのに国債市場はもちろん施行令や省令もない。根本的な理由を教えて欲しい」との由だった。
筆者(水野)の返答は、「そもそも(旧)国債法が想定する公共投資基金のような仕組みは、財政黒字な石油産出国などでは機能するかもしれないが、カンボジアのような開発途上国には不向きである。できれば大幅な法改正が望ましい」という、本質的だが外国人コンサルタントとしては大胆なものであった。GDICDMとしては当初マイナーな改正に止めるつもりだったようだが、最終的には、国債法の抜本的な改正を目指すこととなった。
法改正(案)としては、具体的に主に以下の3点を2019年に提案した。第1に、国債の発行・償還計画は、政府予算の枠内に入れ込むこと。第2に、国債の調達資金や返済原資は国庫統一口座で管理し、国債管理基金やその運営委員会にかかる条項をなくすこと。第3に、調達資金の使途も政府予算の枠内とし、投資計画にかかる条項をなくすこと。また、法改正(案)では、国債事務の委託や無券化に関する条項も追加した。
2020年3月までプノンペンに足しげく通い、改正(案)を練り上げていった。しかし、新型コロナウイルスの世界的な大流行にともない、同年4月から現地に行けなくなった。数ヶ月してGDICDMから連絡あり、MEF大臣を含む関連閣僚の意向として、旧法を廃止する前提で、新しい国債法としての法案が送られてきた。いくつか修正点をコメントし、法案の最終文面はクメール語であることもあり、しばらくGDICDMに任せていたところ、2020年末に国会で可決されたと連絡と報道があった。新国債法は2021年から施行されて現在に至る。
(3)国債市場の(再)始動
新国債法が成立してから、GDICDMの動きは速かった。2021年に審議・成立した2022年の政府予算に国債発行が盛り込まれた*5。
2022年に入ると、国債事務を誰が執り行うかが具体的な検討課題となった。新国債法では、国債事務はMEF自身でもできるし、NBCやカンボジア証券取引所(CSX)に委託もできると規定している。中央銀行法(1996年)でも、NBCは政府の代理人として国債事務を受託できると規定している。対して、CSXは会社法(2005年)に基づいて設立された、MEFと韓国取引所との合弁会社である。
三つの選択肢のうち、まずMEF自身という案が消えた。GDICDMに金融事務処理を行う体制がないという判断であった。残る二つの選択肢の中で、NBCもCSXも国債事務の受託に対して積極的であり、GDICDMの判断は揺れていた。また、NBCは国庫事務をMEFから受託しているが運営上は独立性を保っているのに対して、CSXはいわばMEF傘下でありMEFとの人的な関係性が強い。よって、MEF内部ではCSXを推す勢力が強かった。
2022年半ばにかけてコロナ禍での何度かのオンライン会議で、ABMIチーム(ADBとASEAN事務局)からは以下の理由でNBCを推した。第1に、まず想定される機関投資家である商業銀行にとって最もアクセスが簡単である。第2に、国庫事務もNBCに委託しており、MEFにとって資金決済が簡単である。第3に、NBCはすでに中銀債(短期の譲渡性預金証書)を発行しており、債券事務の経験がある。第4に、MEFとNBCなら覚書の類で国債事務を委託できるが、企業体であるCSXに対しては委託料を含む子細な契約締結が必要であり、年内発行まで契約交渉している時間的な余裕がない。
結果的には、暫定的にNBCに委託することでMEF大臣の決裁がおり、MEFとNBCは国債事務にかんする同意書を締結し、2022年9月に約16年ぶりに国債が発行された。以降、MEFはほぼ月に一回の頻度で国債を発行している。執筆時点で、国債は現地通貨リエル建てで、期間は1~3年満期がほとんどである。
(4)発行方式
発行方式としては、国債募集引受団(シンジケート団、シ団)を提案した。主な理由は2点であった。第1に、それまで短期の中銀債と流動性のほぼ皆無な社債しかなかった金融市場で、入札だと銀行や証券会社が価格づけするのは困難で、結果的にMEFにとって高くつくと懸念した。対して、シ団方式であれば、シ団と交渉して価格づけできる。第2に、シ団方式だと総額引受なので、国債を安定的に発行できる。シ団との協議を通して、発行額や期間なども調整しやすい。対して、入札だと札割れを起こしかねない。
しかし、MEFは入札方式を選択した。シ団の選定や価格づけそのものがGDICDMにとって交渉コストになり、かつ入札結果という分かりやすく透明性の高い価格づけの方がMEF内外に説明しやすいとの由であった。
(5)入札方式
入札方式としては、利回り競争入札かつダッチ方式を提言した。金融がドル化しているカンボジアにおいてリエル建て国債に入札する機関投資家数は多くないであろうし、発行頻度ひいては国債本数もそう多くならないので、できるだけ簡素な商品設計から始めてはという意図であった。
しかし、MEFは価格競争入札かつコンベンショナル方式を採用した。ちょうど同時期にNBCが中銀債を価格競争入札に移行しようとしていたので、歩調を合わせたことになる。また、各落札者ごとの入札価格で発行するコンベンショナル方式の方が、均一の発行条件となるダッチ方式より、MEF内外に説明しやすいとの由であった。
2022年9月の発行再開から半年ほどは入札の不調が何度か続いた。2023年に入ってプノンペン出張に行けるようになり、NBCプラットフォーム(銀行間市場ITシステム)上の入札画面を見せてもらうと、その一因が判明した。一入札あたり一価格しか応札できない仕組みになっていた。
早速、周辺国の国債入札を調べると、タイでは3つの価格、ベトナムでは5つの価格まで応札できる仕組みになっていた。MEFとNBCに対して、柔軟性のある入札方式の意義を説明し、複数価格での入札を提言したところ、2023年7月から5つの価格まで応札できるようになった。国債の入札状況も改善し、2024年にかけて発行額も増えていった(図表1 カンボジア債券発行額)。
(6)市場設計(国債事務委託先)
2022年からの国債の発行再開に先駆けて、MEFは2021年10月に「国債市場発展にかかる政策的枠組み(暫定版)」を公表した。暫定版とはいうものの、首相の署名もついた国債市場の発展計画である。国債の発行・流通市場として、2022年はNBCで開始、2023年にかけてNBC and/or CSXプラットフォームに移行し、2024年から少なくとも流通市場はCSXに集約するという実行計画がついていた。
2023年1月にMEFが公表した同年の国債発行計画では、毎月一回の入札のうち、7~8月と11~12月の入札はCSX、他の月はNBCとなっていた。よって、実際には2022年末からCSXで国債事務をどう行うかという検討が始まった。
また、2023年内に暫定版を更改し、「国債市場発展にかかる政策的枠組み2023-2028年」と格上げすることになった。よって、中期的に国債市場をどう設計するか、具体的にはNBCまたはCSXどちらに国債事務を集約していくかという議論が再燃した。
先手を打ったのはCSXであった。ウェブ上で国債入札プラットフォームを作成し、2022年11月には証券会社むけに入札デモを試行した。証券会社むけの説明資料では、CSXプラットフォームで発行された国債はCSXに上場され、別の債券専用プラットフォームで取引するという計画であった。
MEFは長官を議長とする「国債市場発展にかかる政策的枠組み」ワーキンググループを設置し、2023年に入ると約2か月ごとの頻度で検討を重ねた。ワーキンググループにはMEF傘下のカンボジア証券取引委員会(SERC)やCSXも入った。NBCも必要に応じて参加した。また、ABMIチームだけでなく、世界銀行や国連開発計画(UNDP)の専門家やコンサルタントも議論に加わった。
ABMIチームや世界銀行でまず、国債事務をNBCとCSXの両方に委託することは避けるべきであるという点で一致した。ただでさえ小さな国債市場を二分することは、MEFに費用がかかるだけでなく、投資家にとっても不便で、安定的な発行や将来的な流通をむしろ阻害しかねない。MEFの国債発行計画を否定することになったが、MEFは国際開発金融機関の意見を受入れ、同計画を変更した。
ワーキンググループ会合や相対の面談では、NBC(現状維持)とCSX移管案の比較検討も求められた。ABMIチームとしては、CSXの計画について、主に4つの懸念を指摘した。第1に、NBCによる国債取引・保有を想定しておらず、国債を用いた公開市場操作など金融政策を阻害する。第2に、資金決済をCSX指定の決済銀行(複数)としており、決済銀行以外の国債投資を阻害する。決済銀行以外にとっては、決済銀行に事前送金が求められ、DVP決済にならない。本来リスクのない国債投資なのに、決済銀行の信用リスクを取らないといけない。しかも、他行に落札価格や取引価格が知られてしまう。第3に、償還や利払いに際してMEFがどのように投資家に支払うか考慮されていない。保管振替するCSXには、NBCにある国庫統一口座へのアクセスがない。第4に、合弁会社のCSXが保管振替すると、国外投資家からみてカンボジア国債に投資するのにCSXの信用リスクが生じかねない。
ワーキンググループ会合も回を重ねるうちに、少しづつ他の国際機関が呼ばれなくなり、最後に残ったのはABMIチームだけとなった。理由はよく分からないが、議論を積み重ねる中で相手国の状況を理解した的確なアドバイスと債券市場育成に関する幅広い知見が評価されたのではないかと思う。また、ソーシャルメディア等を通じて担当者とやり取りができるほど緊密な関係を築けていたことも影響した可能性がある。2023年10月の会合では、「国債市場発展にかかる政策的枠組み2023-2028年」の最終案として、当面2026年までの国債事務をどちらに委託するか、MEF大臣に上申する結論をだすことになった。GDICDM担当者からは、長官を含む出席者に対して、どちらを推すか意見をはっきり述べて欲しいと事前に要請された。MEF高官だけでなく、NBCやSERC、CSXの幹部たちが出席する中で、カンボジア側の出席者たちは一択の意見を言いにくいとの由だった。
ABMIチームとしては、NBCを推奨する理由を3点にまとめて発言した。第1に、カンボジアをはじめASEANの金融市場では銀行の存在が圧倒的に大きく、国債への投資家も銀行が中心になる。そして、全ての銀行が最もアクセスしやすいのがNBCプラットフォームである。第2に、NBC自体が国債の流通市場の参加者であり、特に市場発展の初期段階では中央銀行による国債取引が価格形成の基礎となる。流通市場を機能させることは、発行価格の低下を通してMEFにも裨益する。NBCにとっても銀行ごとの国債保有状況を常時みれることは、金融政策の実効性を増す。第3に、NBCプラットフォーム、即時グロス決済(RTGS)、保管振替、国庫統一口座など、DVP決済を含む国債事務に必要不可欠な機能は、中銀債の発行などを通じてすでに準備している。
ワーキンググループ会合の休憩時や合間には、費用問題も飛び交った。NBCは既往のプラットフォームを使えるので、少なくとも2026年までに取扱い手数料を設定する意向はないと明言していた。一方、CSXも同様に2026年までは国債入札プラットフォームの手数料を免除するとしていた。しかし、同年までも保管振替手数料や取引手数料をMEFや取引参加者に設定し、同年以降の国債入札プラットフォーム手数料も設定した契約案をMEFに提案した。官民合弁会社としては当然な提案ではあるものの、NBCによる好条件に慣れていたGDICDMから見てCSX提案は不興を買ったようだ。
2023年10月のワーキングループ会合では、GDICDMやNBC、CSX、ABMIチームからの意見を聞いたうえで、議長をつとめたMEF長官がNBC継続案を上申すると裁定した。翌11月になって、NBC継続でMEF大臣から決裁がとれたと、GDICDMから連絡があった。そして、「国債市場発展にかかる政策的枠組み2023-2028年」は、首相の署名をうけて2023年末に発布された。
(7)銀行・証券会社による国債仲介
ワーキングループ会合では、NBCに対して、NBCプラットフォームへのアクセスが銀行やマイクロファイナンス機関に限定されており、かつ銀行が国債という証券を仲介できるか規定ないのが課題と指摘した。そして、国債目的に限って証券会社にもNBCプラットフォームへのアクセスを認めること、また銀行にも国債に限って仲介業を認めることを提案した。国債限定とはいえ、中央銀行にとって所管外の証券会社に銀行間プラットフォームを開放するとは、できても数年がかりだろうと思っていた。しかし、数週間でNBCから総裁の内諾がとれたと連絡があり、NBCの国債事務受託に対する積極的な姿勢を感じた。
後の2024年になって、NBCは「NBCプラットフォームにおけるノンバンク金融機関による国債取引」という証券会社むけ規則を、SERCは「国債仲介業の管理」という銀行および預金取扱いマイクロファイナンス機関むけ規則を発布した。どちらも、ABMIチームが作成支援した。執筆時点で、複数の銀行や証券会社が国債を仲介できるようになっている*6。
写真 ワークショップ会合(2023年8月)
2.社債市場育成
社債を含む証券市場は、非政府証券法(2007年)やノンバンク金融庁法(2021年)に基づき、カンボジア証券取引委員会(SERC)が監督している。2010年代半ばにASEAN事務局(日本ASEAN金融技術支援基金)で作成支援した、SERCの「社債発行にかかる省令(2017年)」が社債市場の礎となっている。
初めてのカンボジア国内社債は、2018年11月に発行された。初の発行体となったハッタ・カクセカー社は、三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)傘下であるタイのアユタヤ銀行が全株式を保有する、マイクロファイナンス預金取扱機関であった*7。同じく日系金融機関であるSBIロイヤル証券が引受けた。以降、同社はカンボジアの社債市場でシェア最大の引受け証券会社となっている(図表2 社債引受実績(2018年~2025 年7月))。
「社債発行にかかる省令(2017年)」は公募および私募を規定するものであったが、ABMIチームとして「適格投資家むけ債券募集省令(2020年)」の作成も支援した。これにより、主に機関投資家から構成されるプロ債券市場セグメントが創出された。また、プロ投資家むけであることから、発行申請や情報開示要件が、公募より簡素化された。
SERCの「グリーン・ソーシャル・サステナビリティ債券指針(2022年)」も、ABMIチームで作成支援した。これに基づき、カンボジア初のグリーンボンドが同年12月に発行された。発行体の不動産開発会社ゴールデン・ツリー社に対しては、同社グリーンボンド枠組みの作成などをADBが支援した。また、2023年には通信事業者CamGSM社が、カンボジア初のサステナビリティボンドを発行した。
カンボジアで社債市場が始動してからまだ7年しか経っていない。しかし、SERCは進取の精神に富んでおり、金融商品を多様化させるための制度づくりに貪欲である。ADBが年3回開催するASEAN+3債券市場フォーラムにもSERC高官が積極的に参加しており、今後も社債市場のさらなる発展が期待される。
3.ABMI技術支援20周年記念レセプション
日本ASEAN金融技術支援基金でのASEAN事務局を通じたカンボジアむけABMI技術支援は、2004~2005年にフェーズ1が実施された。現在はフェーズ11(2024~2025年)にあたる。断続的ながら約20年にわたり日本が支援してきたことになる。
2025年1月には、植野篤志・駐カンボジア日本国大使により「対カンボジア日本ASEAN金融技術支援20周年記念レセプション」を大使公邸で開催頂いた。カンボジア政府からは主賓として、ハン・チュオン・ナロン副首相(兼教育・青少年・スポーツ大臣)が出席した。ナロン副首相は、初期フェーズの頃にMEF事務総長であり、ABMI技術支援のカウンタパートでもあった。ASEAN+3会合にもよく出席していた。主賓挨拶のなかで、ナロン副首相からは、証券市場などなかった20年前から現在の発展度合への感慨とともに、日本の長年の支援への感謝が述べられた。他にもカンボジア側からは、MEFロス・セイラバ長官やメイ・バン長官、NBCチア・セレイ総裁、SERCスー・ソチート事務局長など、高官がたくさん参加した。財務省国際局からは渡部康人次長(当時)などが出席した。
レセプションの歓談の場では、参加者から後日談を聞けた。NBC出席者からは、「2023年10月のワーキングループ会合では、明確にNBCを推奨してくれて感謝している。MEFにはCSXを推す勢力がいた一方、NBC総裁からは将来の金融政策のため国債事務は何としてでもNBCで引受けろと指示を受けていた」と聞かされた。また、SERC出席者からは、「2010年代半ばに社債市場を作ろうと検討し始めたころ、複数の国際機関から国債イールドカーブや信用格付機関も存在しないのに社債市場など無理と言われた。ABMIチームだけが、国債イールドよりも銀行金利を参照にし、かつ当時は信用格付機関も機能していないのに社債市場が勃興していた隣国ベトナムを事例に、カンボジアでも社債市場は始動できると後押ししてくれた」と言われた。
ABMIという地域金融協力の枠組みの中で、市場の創設を一からサポートできたことは、技術支援従事者冥利に尽きることであった。また、地域協力というかたちであるとはいえ、それを資金面、技術面、人材面から日本がサポートしてきたことはカンボジア財政・金融関係者に明確に理解されている。ABMIによる技術支援は、これまでの二国間協力に止まらない、新たな技術支援のモデルも提示できたのではないかと思う。
末筆ながら、ABMI技術支援に20年超に渡り基金支援してきた財務省への感謝を記して、本稿を絞めたい。
写真 20周年記念レセプション(2025年1月)
*1) 前ADB経済調査・開発効果局アドバイザー
*2) ASEAN事務局(日本ASEAN金融技術支援基金)コンサルタント
*3) 2029年末にLDC卒業の見込み(執筆時点)
*4) NBFSAは2021年に設立された
*5) 財政年度は暦年
*6) プライマリーディーラー制度は未導入
*7) 2020年8月に銀行免許を取得し、以降はハッタ銀行