大臣官房総合政策課 朏島 大樹/正司 貫統/川本 将平/廣元 未希/田矢 祐樹/齊之平 大致
本稿では、サプライチェーン上における依存関係へ着目し、我が国における地政学リスクについて分析した。本稿では、サプライチェーン上における依存関係へ着目し、我が国における地政学リスクについて分析した。
地政学リスク・サプライチェーンリスクにかかる分析
昨今の厳しく複雑な安全保障環境下において、サプライチェーンが持つ地政学リスクについて把握する重要性が増している。
地政学リスク・サプライチェーンリスクについて詳細に把握するうえでは、リスクとなり得る特定品目や個社の貿易状況に着目したミクロ的アプローチが求められるが、その前提として、どの産業がどの国へ依存しているか、といった全体像を掴むことが有効となる。本稿では、オープンデータを用いてマクロ的な視点から日本における地政学リスク・サプライチェーンリスクについて分析した。
輸入額を元に他国への依存を計る場合は、最終輸入がどの国から行われたかの値しか見ることができず、サプライチェーン上の依存関係を見ることができない。サプライチェーン上における依存関係とは、直接A国からは輸入していないが、輸入する製品がほとんどA国で製造されており、実質的にA国へ依存しているケース(量的依存)や、直接A国からは輸入していないが、サプライチェーン上、頻繁にA国の生産工程を経由しており、実質的にA国へ依存しているケース(頻度的依存)である。(図表1 サプライチェーン上のリスクの概念図)
国際産業連関表を元に、量的集中リスクはTiVA、頻度的集中リスクはPTFを用いて分析を行った。(図表2 TiVAとPTF)
TiVAとPTF
量的集中リスクの分析には、TiVAを用いる。TiVAは、産業連関上での各国を源泉とする付加価値金額を明らかにするものであり、サプライチェーン上における量的依存関係の実態を把握することができる。
TiVAを用いることで、企業によるGVC構築によって生産プロセスが国境を越えて分散化していく中においても、完成品に含まれる各国の貢献度を計測することが可能となる。また、貿易統計とは異なり、中間財貿易により輸出入が大幅に拡大しているように見える、といった統計上の問題を解消することができる。(図表3 TiVAの特性を示す例(貿易統計との比較))
頻度的集中リスクの分析には、PTFを用いる。PTFは、サプライチェーンの依存関係を示す指標として、ある製品のサプライチェーンにおいて特定国の特定産業部門がどの程度の「頻度」で登場するかという地理的集中リスクを示す指標であり、2019年に提唱された概念である。国際産業連関表から、サプライチェーン上で特定産業部門が登場する回数を、全経路で加重平均することで計算される。(図表4 PTFの算出における考え方)
従来の集中度指標とは異なり、PTFは、ハイリスク国に対するサプライチェーンの連関構造を「頻度」という新たな分析次元から捉えることができる。PTFに関する値は2024年末よりOECDにより公式に公表されている。
(出所)図表4はInomata and Hanaka(2024)を参考に筆者作成
TiVAと貿易統計との差分分析
貿易統計とTiVAとでは統計上の違いがあるものの、GDP対比における動きは、国別構成比や変化の方向性において似通った動きをしており、世界からの輸入額とその源泉付加価値の動きは連動していることがわかる。(図表5 TiVA(上図)・輸入額(下図)の対GDP比)
なお、TiVA(日本を源泉とする付加価値額を除く)の合計額は輸入額の約半分で推移しているが、これらの動きと構成割合は似通った推移を示している。TiVAには、海外で創出された付加価値のみが計上されるのに対し、貿易統計には、(日本で創出された付加価値を含む)輸入する財価格そのものが計上されるため、貿易統計はTiVAを上回る。
輸入額や付加価値額で影響の大きい米中へ着目し、日本へのTiVAと輸入金額の推移を見てみると、一定の類似性はあるものの、直近2020年に中国からの輸入が減少している一方で中国源泉の付加価値は増加している、などといった乖離が見られる(図表6 米中から日本へもたらされるTiVA・輸入額)。また貿易統計とTiVAを国別シェアの推移により比較すると、シェア上位に含まれる国に違いが見られる(図表7 日本へのTiVA(左図)・輸入額(右図)の国別シェア)。
(注)いずれも、TiVAは、付加価値源泉国の業種を農林水産業、鉱業、製造業に限定、また日本からもたらされる付加価値額は除いている。
国別TiVAの公表国は76カ国のみであり、国別シェアの対象とする国数は、貿易統計と異なる。OECDの国際産業連関表においては、個別国として計上される76カ国以外の国々はその他としてまとめて集計されている。図表7において、輸入額上位に載っているUAEはTiVAで登場しないが、国際産業連関表においてUAEはその他に計上されていることに留意が必要である。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、財務省「貿易統計」
TiVAを用いた量的集中リスク
日本へもたらされる付加価値額は、直近では、中国からの付加価値額が最大となっており、基調としても増加トレンドが続いている。他方で、従前日本にとって最大の付加価値源泉国であった米国からの付加価値額は、長期的におおよそ横ばい圏で推移しており、2010年頃に中国により逆転されている。(図表8 日本へもたらされる付加価値の源泉国別推移)
日本の製造業別に中国を付加価値源泉国とする割合を確認したところ、「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」や、半導体を含む「コンピュータ、電子機器・光学機器産業」を中心に、多くの業種において増加がみられた。(図表9 日本の製造業における中国の付加価値源泉シェア)
日本の製造業別の米国を付加価値源泉国とする割合は、「その他の輸送機器産業」や「医薬品、医薬化学品、植物製品産業」などの業種を中心に増加が確認された。中国シェアの伸びが見られた「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」や「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」においては、米国シェアは低下している。(図表10 日本の製造業における米国の付加価値源泉シェア)
(注)2020年に、日本へもたらす付加価値額の多い上位6か国より、日本へもたらされる付加価値額の推移を示す。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」
量的・頻度的集中リスク
TiVA・PTFを用いて、量的・頻度的双方の視点から地政学リスク分析を行った。
2020年時点では、日本は量的依存、頻度的依存いずれに関しても中国への依存度が最も高くなっている。量的依存については、中国に続いて米国への依存度が高くなっているが、頻度的依存については、中国に続いてドイツ、シンガポールへの依存度が高い。(図表11 日本の各国依存度(2020))
量的・頻度的いずれについても、かつては米国への依存が最も高くなっていたが、長期的に中国への依存度が高まってきている状況にある。(図表12 日本の各国依存度(1995)、図表13 日本の各国依存度(2010))
(注)グラフの縦軸は、各年時点において、日本のサプライチェーン上に各国各産業が表れる回数(PTF)を、国際産業連関表における日本の各産業産出額を基に加重平均を行い、国別に積み上げたものを示す。横軸は日本における中間投入において各国を源泉とする付加価値シェア(TiVAシェア)を示す。各年において量的或いは頻度的依存度の高い主要な国のみ抽出している。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、OECD「Pass-through frequency(PTF)」
対米・対中における量的・頻度的集中リスク
日本の各製造業における対中依存度は、頻度的依存、量的依存いずれに関しても、日本の「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」や「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」において高くなっている。中国への量的依存、頻度的依存が高い日本の製造業上位5業種は同じ顔ぶれとなっており、付加価値として依存している産業においては、頻度的にも依存していることがうかがえる。(図表14 日本の製造業における対中依存(2020))
日本の各製造業における対米依存度は、頻度的依存、量的依存いずれに関しても、日本の「その他輸送機器産業」において顕著に高くなっている。そのほかでは「医薬品、医薬化学品、植物製品産業」、「化学および化学製品産業」における依存度が高い。(図表15 日本の製造業における対米依存(2020))
特に頻度的依存の観点では、製造業全般として対米依存より対中依存が高い状況にある。
(注)縦軸は日本の産業(各マーカーに対応)のサプライチェーン上に米中の各産業が表れる回数(PTF)を積み上げたもの、横軸は日本の各産業における中間投入において米中を源泉とする付加価値シェア(TiVAシェア)を示す。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、OECD「Pass-through frequency(PTF)」
日本の製造業における量的・頻度的集中リスク
日本の製造業のうち対中依存の高さが見られた「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」、「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」について、世界各国への依存度合を確認したところ、いずれの業種においても、量的・頻度的に、中国への依存度が突出して高いことがわかる。(図表16 日本の「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」における各国依存度(2020)、図表17 日本の「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」における各国依存度(2020))
日本の製造業のうち対米依存の高さが確認された「その他輸送機器産業」へ着目してみると、量的には米国への依存度が他国と比べて高いことがわかる。なお頻度的には、中国への依存度が最も高く、米国への依存度合はフランスやドイツなどその他の国と比べても、同程度である。(図表18 日本の「その他輸送機器産業」における各国依存度(2020))
(注)縦軸は、日本の各グラフそれぞれの産業のサプライチェーン上に各国各産業が表れる回数(PTF)を国別で積み上げたもの、横軸は、日本の各グラフそれぞれの産業における中間投入において、各国を源泉とする付加価値シェア(TiVAシェア)を示す。各産業において量的或いは頻度的依存度の高い主要な国のみ抽出している。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、OECD「Pass-through frequency(PTF)」
まとめ
我が国におけるサプライチェーン上のリスクについて分析する上で、依存度という観点から実態を把握したところ、日本が多くの輸入を行っている中国と米国について、量的・頻度的いずれの観点においても依存度が高いことが確認された。
1995年以降の長期的な趨勢としては対中では頻度的依存、量的依存ともに大幅に増加している一方で、対米に関しては、量的依存が増加した一方で、頻度的依存は減少している。(図表19 日本の対米・対中依存度の推移(1995~2020))
対中依存度について、日本の業種別では、重要物資である半導体などを含む「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」などにおいて高くなっており、こちらの業種では長期的な対中依存増加と対米依存低下が確認された。(図表20 日本の「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」における対米・対中依存度の推移(1995~2020))
以上の通り、PTFとTiVAを用いて、貿易統計では把握できない新たな観点からサプライチェーンリスクを分析してきた。ただし、国際産業連関表における部門分類の粗さや製品代替可能性に関する情報が含まれていない点などには注意が必要であろう。地政学リスクについて分析する上では、貿易統計、TiVA、PTFなどマクロ的観点からサプライチェーンリスクを捉え、その上で個別の貿易状況を分析する、といったミクロ的アプローチにより補完することが重要と考える。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、OECD「Pass-through frequency(PTF)」
本稿では、サプライチェーン上における依存関係へ着目し、我が国における地政学リスクについて分析した。本稿では、サプライチェーン上における依存関係へ着目し、我が国における地政学リスクについて分析した。
地政学リスク・サプライチェーンリスクにかかる分析
昨今の厳しく複雑な安全保障環境下において、サプライチェーンが持つ地政学リスクについて把握する重要性が増している。
地政学リスク・サプライチェーンリスクについて詳細に把握するうえでは、リスクとなり得る特定品目や個社の貿易状況に着目したミクロ的アプローチが求められるが、その前提として、どの産業がどの国へ依存しているか、といった全体像を掴むことが有効となる。本稿では、オープンデータを用いてマクロ的な視点から日本における地政学リスク・サプライチェーンリスクについて分析した。
輸入額を元に他国への依存を計る場合は、最終輸入がどの国から行われたかの値しか見ることができず、サプライチェーン上の依存関係を見ることができない。サプライチェーン上における依存関係とは、直接A国からは輸入していないが、輸入する製品がほとんどA国で製造されており、実質的にA国へ依存しているケース(量的依存)や、直接A国からは輸入していないが、サプライチェーン上、頻繁にA国の生産工程を経由しており、実質的にA国へ依存しているケース(頻度的依存)である。(図表1 サプライチェーン上のリスクの概念図)
国際産業連関表を元に、量的集中リスクはTiVA、頻度的集中リスクはPTFを用いて分析を行った。(図表2 TiVAとPTF)
TiVAとPTF
量的集中リスクの分析には、TiVAを用いる。TiVAは、産業連関上での各国を源泉とする付加価値金額を明らかにするものであり、サプライチェーン上における量的依存関係の実態を把握することができる。
TiVAを用いることで、企業によるGVC構築によって生産プロセスが国境を越えて分散化していく中においても、完成品に含まれる各国の貢献度を計測することが可能となる。また、貿易統計とは異なり、中間財貿易により輸出入が大幅に拡大しているように見える、といった統計上の問題を解消することができる。(図表3 TiVAの特性を示す例(貿易統計との比較))
頻度的集中リスクの分析には、PTFを用いる。PTFは、サプライチェーンの依存関係を示す指標として、ある製品のサプライチェーンにおいて特定国の特定産業部門がどの程度の「頻度」で登場するかという地理的集中リスクを示す指標であり、2019年に提唱された概念である。国際産業連関表から、サプライチェーン上で特定産業部門が登場する回数を、全経路で加重平均することで計算される。(図表4 PTFの算出における考え方)
従来の集中度指標とは異なり、PTFは、ハイリスク国に対するサプライチェーンの連関構造を「頻度」という新たな分析次元から捉えることができる。PTFに関する値は2024年末よりOECDにより公式に公表されている。
(出所)図表4はInomata and Hanaka(2024)を参考に筆者作成
TiVAと貿易統計との差分分析
貿易統計とTiVAとでは統計上の違いがあるものの、GDP対比における動きは、国別構成比や変化の方向性において似通った動きをしており、世界からの輸入額とその源泉付加価値の動きは連動していることがわかる。(図表5 TiVA(上図)・輸入額(下図)の対GDP比)
なお、TiVA(日本を源泉とする付加価値額を除く)の合計額は輸入額の約半分で推移しているが、これらの動きと構成割合は似通った推移を示している。TiVAには、海外で創出された付加価値のみが計上されるのに対し、貿易統計には、(日本で創出された付加価値を含む)輸入する財価格そのものが計上されるため、貿易統計はTiVAを上回る。
輸入額や付加価値額で影響の大きい米中へ着目し、日本へのTiVAと輸入金額の推移を見てみると、一定の類似性はあるものの、直近2020年に中国からの輸入が減少している一方で中国源泉の付加価値は増加している、などといった乖離が見られる(図表6 米中から日本へもたらされるTiVA・輸入額)。また貿易統計とTiVAを国別シェアの推移により比較すると、シェア上位に含まれる国に違いが見られる(図表7 日本へのTiVA(左図)・輸入額(右図)の国別シェア)。
(注)いずれも、TiVAは、付加価値源泉国の業種を農林水産業、鉱業、製造業に限定、また日本からもたらされる付加価値額は除いている。
国別TiVAの公表国は76カ国のみであり、国別シェアの対象とする国数は、貿易統計と異なる。OECDの国際産業連関表においては、個別国として計上される76カ国以外の国々はその他としてまとめて集計されている。図表7において、輸入額上位に載っているUAEはTiVAで登場しないが、国際産業連関表においてUAEはその他に計上されていることに留意が必要である。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、財務省「貿易統計」
TiVAを用いた量的集中リスク
日本へもたらされる付加価値額は、直近では、中国からの付加価値額が最大となっており、基調としても増加トレンドが続いている。他方で、従前日本にとって最大の付加価値源泉国であった米国からの付加価値額は、長期的におおよそ横ばい圏で推移しており、2010年頃に中国により逆転されている。(図表8 日本へもたらされる付加価値の源泉国別推移)
日本の製造業別に中国を付加価値源泉国とする割合を確認したところ、「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」や、半導体を含む「コンピュータ、電子機器・光学機器産業」を中心に、多くの業種において増加がみられた。(図表9 日本の製造業における中国の付加価値源泉シェア)
日本の製造業別の米国を付加価値源泉国とする割合は、「その他の輸送機器産業」や「医薬品、医薬化学品、植物製品産業」などの業種を中心に増加が確認された。中国シェアの伸びが見られた「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」や「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」においては、米国シェアは低下している。(図表10 日本の製造業における米国の付加価値源泉シェア)
(注)2020年に、日本へもたらす付加価値額の多い上位6か国より、日本へもたらされる付加価値額の推移を示す。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」
量的・頻度的集中リスク
TiVA・PTFを用いて、量的・頻度的双方の視点から地政学リスク分析を行った。
2020年時点では、日本は量的依存、頻度的依存いずれに関しても中国への依存度が最も高くなっている。量的依存については、中国に続いて米国への依存度が高くなっているが、頻度的依存については、中国に続いてドイツ、シンガポールへの依存度が高い。(図表11 日本の各国依存度(2020))
量的・頻度的いずれについても、かつては米国への依存が最も高くなっていたが、長期的に中国への依存度が高まってきている状況にある。(図表12 日本の各国依存度(1995)、図表13 日本の各国依存度(2010))
(注)グラフの縦軸は、各年時点において、日本のサプライチェーン上に各国各産業が表れる回数(PTF)を、国際産業連関表における日本の各産業産出額を基に加重平均を行い、国別に積み上げたものを示す。横軸は日本における中間投入において各国を源泉とする付加価値シェア(TiVAシェア)を示す。各年において量的或いは頻度的依存度の高い主要な国のみ抽出している。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、OECD「Pass-through frequency(PTF)」
対米・対中における量的・頻度的集中リスク
日本の各製造業における対中依存度は、頻度的依存、量的依存いずれに関しても、日本の「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」や「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」において高くなっている。中国への量的依存、頻度的依存が高い日本の製造業上位5業種は同じ顔ぶれとなっており、付加価値として依存している産業においては、頻度的にも依存していることがうかがえる。(図表14 日本の製造業における対中依存(2020))
日本の各製造業における対米依存度は、頻度的依存、量的依存いずれに関しても、日本の「その他輸送機器産業」において顕著に高くなっている。そのほかでは「医薬品、医薬化学品、植物製品産業」、「化学および化学製品産業」における依存度が高い。(図表15 日本の製造業における対米依存(2020))
特に頻度的依存の観点では、製造業全般として対米依存より対中依存が高い状況にある。
(注)縦軸は日本の産業(各マーカーに対応)のサプライチェーン上に米中の各産業が表れる回数(PTF)を積み上げたもの、横軸は日本の各産業における中間投入において米中を源泉とする付加価値シェア(TiVAシェア)を示す。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、OECD「Pass-through frequency(PTF)」
日本の製造業における量的・頻度的集中リスク
日本の製造業のうち対中依存の高さが見られた「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」、「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」について、世界各国への依存度合を確認したところ、いずれの業種においても、量的・頻度的に、中国への依存度が突出して高いことがわかる。(図表16 日本の「繊維、繊維製品、皮革、履物産業」における各国依存度(2020)、図表17 日本の「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」における各国依存度(2020))
日本の製造業のうち対米依存の高さが確認された「その他輸送機器産業」へ着目してみると、量的には米国への依存度が他国と比べて高いことがわかる。なお頻度的には、中国への依存度が最も高く、米国への依存度合はフランスやドイツなどその他の国と比べても、同程度である。(図表18 日本の「その他輸送機器産業」における各国依存度(2020))
(注)縦軸は、日本の各グラフそれぞれの産業のサプライチェーン上に各国各産業が表れる回数(PTF)を国別で積み上げたもの、横軸は、日本の各グラフそれぞれの産業における中間投入において、各国を源泉とする付加価値シェア(TiVAシェア)を示す。各産業において量的或いは頻度的依存度の高い主要な国のみ抽出している。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、OECD「Pass-through frequency(PTF)」
まとめ
我が国におけるサプライチェーン上のリスクについて分析する上で、依存度という観点から実態を把握したところ、日本が多くの輸入を行っている中国と米国について、量的・頻度的いずれの観点においても依存度が高いことが確認された。
1995年以降の長期的な趨勢としては対中では頻度的依存、量的依存ともに大幅に増加している一方で、対米に関しては、量的依存が増加した一方で、頻度的依存は減少している。(図表19 日本の対米・対中依存度の推移(1995~2020))
対中依存度について、日本の業種別では、重要物資である半導体などを含む「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」などにおいて高くなっており、こちらの業種では長期的な対中依存増加と対米依存低下が確認された。(図表20 日本の「コンピュータ、電子機器、光学機器産業」における対米・対中依存度の推移(1995~2020))
以上の通り、PTFとTiVAを用いて、貿易統計では把握できない新たな観点からサプライチェーンリスクを分析してきた。ただし、国際産業連関表における部門分類の粗さや製品代替可能性に関する情報が含まれていない点などには注意が必要であろう。地政学リスクについて分析する上では、貿易統計、TiVA、PTFなどマクロ的観点からサプライチェーンリスクを捉え、その上で個別の貿易状況を分析する、といったミクロ的アプローチにより補完することが重要と考える。
(出所)OECD「Trade in value-added(TiVA)」、OECD「Pass-through frequency(PTF)」