生成AI導入はゴールではない~企業が乗り越えるべき壁とは~
大臣官房総合政策課 大塚 新平/瀧岡 信太朗
本稿では、生成AIに関する企業の導入状況、及び今後の展望について考察する。
生成AIの概要
・生成AIは2022年頃から急速に普及し、テキストや画像、音声などを自立的に生成する技術により、多様なビジネスや日常生活に変革をもたらしている(図表1 主な生成AIサービスの種類と機能)。
・2022年のOpenAIによる対話型AI“ChatGPT”の発表以降、生成AIのユーザー数は驚異的なスピードで拡大し、現在では、大手企業からスタートアップ企業までを巻き込む、世界的な開発競争が起こっている(図表2 各種サービスにおける1億ユーザー達成までにかかった時間)。
・生成AIの市場規模は今後も拡大することが予想されており、2027年には1,200億ドルと、2023年のノートPC市場とほぼ同規模になると予想されている(図表3 生成AIの市場規模※1(試算))。
(出典)総務省 『令和6年版 情報通信白書』
生成AIの導入状況
・言語系生成AIの導入状況をみると、6割以上の企業が、導入済みもしくは導入準備中や検討中と答えている(図表4 生成AIの導入状況(2024年度))。
・言語系生成AIの導入効果を業種グループ別にみると、業種グループごとに大きな違いはみられず、多くの企業で期待に対して何らかの効果を実感していることが分かる(図表5 業種グループ別 「言語系生成AI」導入の効果(想定との比較))。
・一方、各企業における生成AIの活用方法についてみると、日常業務の効率化で活用している企業が最も多く、業務改革やビジネス改革に活用している企業は少ない(図表6 生成AIの活用用途)。
(出典)一般社団法人JUAS 『企業IT動向調査報告書2025』、株式会社三菱総合研究所 『生成AIコラム』
生成AIのリスク・課題
・企業が業務改革・ビジネス改革に至っていない原因には、生成AIの利用に様々なリスクが伴うことが考えられる(図表7 生成AIのリスク・課題)。
・生成AIを利用するリスクは、社内業務で利用する「利用者としてのリスク」と、顧客向けサービスで利用する「サービス提供者としてのリスク」に大別できる。両者への対策状況をみると、前者は対策が進んでいる一方で、後者は4割以上が「わからない・生成AIの活用予定はない」と回答している(図表8 生成AIを利用するリスクに対する企業の対策状況※3)。顧客向けサービスでの活用が進んでいない企業が多い原因として、社内に閉じた環境で生成AIを用いる場合と比べ、社外向けサービスに用いる場合にはより慎重な判断が必要であることが考えられる。
・生成AI活用に伴うリスクについて、情報漏洩や権利侵害等のリスクが拡大すると回答した企業はいずれも7割近くあり、多くの企業が生成AIの利用リスクに対して懸念をいだいていることがわかる。一方で、6割以上の企業で生成AIを活用しないリスクが認識されており、社内向け・社外向けいずれにしても、利用しない(あるいは十分に活用できない)こともまた、競争力や生産性の低下といったリスクにつながると考えられる(図表9 企業に聞いた生成AI活用に伴うリスク・課題※4)。
(※3)売上高100億円未満が26.3%、100億円以上が73.7%。調査期間は2024年9月~10月。
(※4)大企業361社、中小企業154社。調査期間は2024年1月~2月。
(出典)一般社団法人JUAS 『企業IT動向調査報告書2025』、総務省 『国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究(2024)』
生成AI導入の効果と展望
・生成AIを導入した企業で、導入効果が期待を大きく上回った企業と、そうでない企業を比較すると、効果が期待を大きく上回った企業では、要約や資料検索といった基本的な利用だけでなく、音声・画像生成機能の活用や新規ビジネス企画に応用しているほか、業務プロセスの一部として正式に生成AIが組み込まれているなど、仕組みとしての定着が進展している傾向がみられ、生成AIを単なるツールとしてではなく、業務変革の中核として捉えている(図表10 生成AI導入の効果別にみる企業の取り組みパターン※5、図表11 生成AIの業務プロセスへの組み込み度合い)。
・昨今、企業のAI投資意欲にも前向きな傾向がみられる。2025年の計画では、AIへ相当規模の投資を予定している日本企業も少なくない(図表12 2025年のAIに対する投資予定額※6)。このように生成AIのさらなる国内普及が見込まれるなかで、企業が期待以上の効果を得るためには、既存業務の延長線上での取り組みにとどまらず、一歩踏み込んだ、戦略的かつ本質的な生成AI活用が求められるだろう。
(※5)売上高500億円以上の日本企業に所属する課長職以上かつ生成AIに対して関与がある従業員を対象としたアンケート調査結果(日本の回答者数:945名)。調査期間は2025年2月。回答者の約10%が期待を大きく上回ったと回答、約51%が期待通り、約25%が期待未満、約14%が未評価と回答。
(※5)売上高500億円以上の日本企業に所属する課長職以上かつ生成AIに対して関与がある従業員を対象としたアンケート調査結果(日本の回答者数:945名)。調査期間は2025年2月。回答者の約10%が期待を大きく上回ったと回答、約51%が期待通り、約25%が期待未満、約14%が未評価と回答。
(※6)売上高5億ドル以上の日本企業に属する経営層を対象としたアンケート調査結果。調査期間は2024年9月~12月。
(出典)PwC Japanグループ 『生成AIに関する実態調査2025春 5カ国比較』、BCG 『From Potential to Profit:Closing the AI Impact Gap』
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。