エコノミストが率いる南米の大国
―アルゼンチンタンゴが意味するもの―
―アルゼンチンタンゴが意味するもの―
在アルゼンチン日本国大使館 二等書記官 山本 高大*1
1 はじめに
ハビエル・ミレイ。現在のアルゼンチンの大統領の名前を聞いてどのようなイメージを持つ方が多いでしょうか?ボルソナーロ前ブラジル大統領のように「南米のトランプ」と報じられることも多く、実際にトランプ米大統領と個人的に近い関係を築いていることから、そうした文脈で想起される方も多いでしょう。あるいは、ボサボサな髪型でチェーンソーを振り回す映像が度々とりあげられることもあるので、「何となくアブナイ感じの人」という印象を持たれている人もいるかと思います。『ファイナンス』の読者の方であれば、「ドル化」や「中央銀行廃止」といった過激な政策を主張しつつ、伝統的に財政赤字の多いアルゼンチンで自由主義的な経済政策を掲げて緊縮財政を実施したイメージを持たれるかもしれません。
私がアルゼンチンに赴任したのは2023年の7月の終わりで、ミレイ大統領が一躍注目を浴びた大統領選挙の予備選挙が行われたのは、着任して2週間余りのことでした。「ドル化」や「中央銀行廃止」を掲げる大統領候補とは一体何者だということで、それ以来彼の経済政策を追いかけることとなり、幸か不幸か私のアルゼンチンでの仕事はミレイ大統領の足跡とほぼ重なるものとなりました。
こうした経験を踏まえて、なぜミレイ大統領が支持を得たのか、そして今アルゼンチンで何が起きているのかの全体像を可能な限りお伝えできればと思います。紙面の都合もあって、ミレイ大統領を語る上で重要なポイントとなる外交や宗教観についてはあまり触れることができないですが、特に経済面でアルゼンチンに関心を持たれている方に、地球の裏側の今を理解する一助になると幸いです。
本稿では、まずミレイ大統領の人物像について触れ、次にアルゼンチン経済の歴史と2023年の大統領選挙の経過について説明します。その後、政権交代後に行われた経済政策の内容とその成果、今後の課題について説明し、最後にまとめを行います。また、コラムとして、高インフレ下での体験談、「ドル化」のロジック、アルゼンチンにおける日系人社会についても紹介します。
2 ハビエル・ミレイの人物像
まずは、ハビエル・ミレイという人物の生い立ちやその横顔について説明します。
(1)生い立ち
ミレイ氏は1970年、ブエノスアイレス市でイタリア系移民の子孫の家庭に生まれました。父親はバス会社の運転手・経営者でしたが、ミレイ氏自身は家庭内で暴力的な扱いを受けて育ったと語っています。こうした辛い家庭環境の中で、妹のカリーナ・ミレイが大きな心の支えとなっていたようです。*2若い頃はアルゼンチン人らしくサッカーに打ち込み、クラブチームのゴールキーパーとしてプレーしており、キーパーとしては低身長なのを補うべく日々努力を重ねたと言います。また、ローリング・ストーンズのファンでもあり、カバーバンドを組んでボーカルをしていたこともあるようです。
経済学に深い関心を持ったのは、次節で説明する1980年代末のハイパーインフレを大学生のときに経験したことがきっかけだったと語っています。ベルグラーノ大学を卒業後に、経済社会開発研究所(IDES)とトルクアルト・ディテラ大学で修士号を取得し、その後は民間企業でエコノミストとして働くとともに、複数の大学で教鞭を取ります。当初は新古典派のマクロ経済学や経済成長理論に傾倒しますが、次第に新古典派の理論への違和感を覚える中で*3、市場機能を信頼し国家の介入に極めて批判的なロスバートの著書を読んだことで、オーストリア学派の経済学を信奉するようになったと語っています。こうしたエコノミストとしての活動の傍ら、テレビ討論番組に度々出演し、歯に衣着せぬ激しい発言で注目を集めるようになりました。
さらに、自由主義の考え方を広める「文化的闘争」として、胎児を含む個人の生命と財産の徹底した保護を訴えて、2021年の連邦議会選挙に「自由の前進(LLA)」を立ち上げて立候補します。コロナ禍で社会の閉塞感が広まる中で、現状打破を望む若者を中心に支持を獲得し、当選に至ります。議員当選後は、議員報酬を抽選で支持者に渡すといったイベントも行って注目を集め、2023年の大統領選挙へと立候補します。
(2)横顔
その後の足跡については項を改めて説明するとして、ここではミレイ氏の人物評について少し触れようと思います。辛い幼少期を過ごしたこともあってか、各方面から情緒不安定だという評価を受けることが多く、過激な主張もあって度々「ロコ(頭のおかしい男)」という呼ばれ方もされています。他方で、嘘をつくと却って損になると考えるタイプだとか、内省的で人をよく見る性格という評価もあるようです。
また、革ジャンを着てロックなパフォーマンスをしている姿がよく取り上げられますが、一方で大のオペラ好きという一面もあり、大統領就任式で各国の代表者を招いた演奏会では、自身の思い入れのあるオペラに由来する曲「ロコへのバラード」を演目に入れています。山東昭子特派大使を代表とする日本政府代表団との会談でも、オペラの話を楽しそうにしていたようです。
ちなみに、「ロコへのバラード」の作曲者は伝統的なタンゴに一石を投じたアストル・ピアソラであり、ミレイ大統領は変革者としての自分を重ねるという意味合いも込めて選曲したのではないか、との見方もあります。
写真 ミレイ大統領と大統領就任式に出席した山東昭子特派大使。奥はモンディーノ外相(当時)(在アルゼンチン日本国大使館HPより)
(3)経済学者としての思想
経済学者としてのミレイ氏は、市場機能を重視し国家の介入を極力排除することを是とするオーストリア学派に傾倒していると自認しており、ケインジアン的な学説を徹底的に批判する点が特徴的です。演説では度々、「ケインズは経済学の講義を数カ月受けただけであり、部分均衡と一般均衡の区別ができていない」といった趣旨の発言をしています。金利についても、本来は将来の財との相対価格として市場機能の下で決まるべきで、景気調整のために中央銀行が金利を操作すると却って変動が助長されるとしています。また、フリードマンの「インフレは常に貨幣的現象」という言葉も多用し、通貨を増発しない限りインフレは起こらないとしています。
こうした考え方が「中央銀行廃止」という主張に集約されていますが、一方で具体的なタイムスパンを示して近い将来に中央銀行を廃止する、あるいはその機能を停止するといった主張は今のところしていません。後述する「ドル化」と同様、長い時間軸の中で達成を目指す目標だと思われます。
3 アルゼンチン経済の混迷の歴史
ミレイ氏は従来の政治勢力への批判を取り込んで支持を拡大していくのですが、ここでは支持拡大の背景を探るべく、アルゼンチンの歴史について簡単に振り返るとともに、2023年大統領選挙直前の経済状況について説明します。
(1)「4種類の国」
アルゼンチン(と日本)の経済について語る際、1971年にノーベル経済学賞を受賞したグズネッツの「世界には4種類の国がある。先進国、発展途上国、そして日本とアルゼンチンだ」という発言がよく取り上げられますが、20世紀に急成長して発展途上国から先進国になった日本と対照的に、アルゼンチンは経済的に混乱・停滞し続けることとなります。
19世紀後半から20世紀初頭までは広大かつ肥沃な「パンパ」の農産品をヨーロッパや米国に輸出することで繁栄を享受し、多くの移民を引き付けました。しかし農地開拓が一区切りすると地主となれない移民も増え、世界恐慌と世界大戦により欧米諸国への輸出も伸び悩み、外部要因に依存する脆弱性が顕在化します。第二次世界大戦後の1946年に労働者層を支持基盤としてペロン政権が発足すると、国内産業保護や外資企業の国営化を進めますが、産業の競争力低下や財政赤字の拡大を招きます。1955年にペロン政権がクーデターで倒れた後は、軍事政権の下での自由化・対外開放政策と、急進党(UCR)やペロン氏の流れを継ぐ正義党(ペロン党)政権の下での産業保護・貿易抑制政策の間を行き来しつつも、抜本的な構造改革や財政赤字解消はなされず、経済的な混乱が続きます。フォークランド(アルゼンチンでの呼び方はマルビーナス)紛争後に民政移管で発足した急進党のアルフォンシン政権でそうしたひずみが爆発して、1989年には年率5,000%を超えるハイパーインフレに見舞われます。
1990年代には、メネム政権がインフレ抑制のために1ドル=1ペソの兌換性を導入するとともに、ペロン党政権であるにも関わらず国営企業の民営化など自由主義・対外開放的な経済政策を実施します。当初はインフレ抑制など経済の安定を実現するものの、次第に輸出競争力の低下や対外債務の拡大を招き、メネム大統領退任後は政治的な混乱も重なって、2001年には史上最悪ともされるデフォルトを宣言。国外送金規制や預金凍結にまで波及する、大きな混乱と深刻な景気低迷を招きます。
2003年に発足したキルチネル政権は、民営化された企業を再国有化するなどメネム政権下の自由主義経済政策を見直し、当初はコモディティブームを背景に好調な経済を築くものの、夫人のクリスティーナ・フェルナンデス氏が2007年に大統領を引き継いでからは低迷します。2015年に発足した非ペロン党(共和国提案(PRO))のマクリ政権は対外開放政策を進めるものの、財政改革や構造改革が十分に伴っていなかったこともあり、2018年に新興国全般で発生した為替危機を受けて資本流出に直面し、IMFから史上最大となる500億ドル相当の融資を受けます。*4
(2)フェルナンデス政権の経済運営
2019年の大統領選挙で発足したフェルナンデス政権は、マクリ政権下で実施された対外開放政策の揺り戻しとなる政策を打ち出します。しかし、長引くコロナ対応に苦慮するとともに、国際金融市場へのアクセスを失って対外債務再編の問題に直面し、2020年5月にはアルゼンチン史上9回目とされるデフォルトを迎えます。当時のグスマン経済相の交渉の結果、同年9月には民間債務の再編に成功し、また2022年3月にはIMFとの間で、マクリ政権で受けた融資を実質的に借り換えるプログラムの合意に至ります。しかし、グスマン経済相は政権内の急進的な左派勢力と対立して同年8月に辞任を余儀なくされます。その後*5、下院議長から経済相に就任したマサ氏は、11月にパリクラブとの債務再編に合意し、またIMF支援プログラムのレビューにも当初は順当に対応していきます。しかし2022年から2023年にかけて発生した干ばつにより、政策を大きく転換することとなります。
この干ばつは60年に一度と言われるほど深刻なもので、主力の輸出産業である農業部門に大打撃を与えます。200億ドルもの損失があったとされ、IMFをはじめとする対外債務の返済に大きな懸念が生じます。外貨流出抑制のために様々な輸入・外貨規制が導入され、原材料や資本財を輸入に頼る製造業も大きな打撃を受けるとともに、輸入代金も満足に支払えない事態となります。当時は日系企業の関係者からも、この国でビジネスをやっていく見通しが立たないという声をよく耳にしました。
インフレ抑制のために公定レートが一定もしくは小幅な切り下げになるように調整されていましたが、先行き不透明感から並行為替レート*6は急落し、公定レートとのギャップが2倍になることもありました。この結果、公定レート切り下げを見越して売り惜しみが起こり、スーパーの商品棚にもあまり商品が並ばない事態も見られました。*7こうした状況下で、マサ経済相自身が大統領選挙に与党連合の候補として立候補します。支持拡大のため、年金受給者・労働者に対する一時金の支給、大宗の被雇用者に対する所得税の課税免除など、バラマキ的な政策が次々と実施されました。この結果、インフレはますます加速し、2023年は年間インフレ率が211%、特に12月は月間インフレ率が25%という、ハイパーインフレ寸前の状況となりました。
このように、これまでの政権が右派と左派を行き来する中でも一向に経済的安定を達成できず、アルゼンチン国民の従来の政治勢力に対する不満は相当なものになっていました。それがアウトサイダーであるミレイ氏が支持を拡大する原動力となります。
コラム1 高インフレ下の体験談
日本も近年は物価高が大きな話題となっていますが、それでも一か月あたり10%を超えるインフレの世界は想像がつかないという声を聞きます。ここでは、高インフレの環境ならではのエピソードを少し紹介できればと思います。
(1)値段表示のないメニュー:私の着任当初は、レストランのメニューでは、頻繁な価格改定のために何枚もシールが重ねられていましたが、それでも値段を表示しているところが多い印象でした。ところが、その後さらにインフレが進むとシールを張るのも面倒になったのか、とうとうメニューから値段が削除され、今では紙のメニューがあっても値段はQRコードから見る形が多くなっています。
(2)割高なクレジットカード払い:カード払いで入金が先送りになると、その間に売掛金の価値が目減りするからか、着任当初はクレジットカード払いだと10%増しになる場合が結構ありました。(最近はインフレが落ち着いたからか、レストラン以外ではそういうケースは少なくなっています)
(3)3ドル以下の最高額紙幣:2023年末の最高額の紙幣は2,000ペソでした。これは2022年末時点であれば10ドル以上の価値があったものの、2023年末には2.5ドル程の価値しかありませんでした。(いずれも公定レート換算)大型スーパーで大量の買い物を現金でする人がいると、札束を数える時間でそのレジの後ろでかなり待たされることになったり、何人かで食事に行って割り勘で精算しようとすると、何十枚ものお札が机の上に溢れかえることになりました。(政権交代後は10,000ペソ札や20,000ペソ札が登場し、こうした場面でも随分便利になったと感じます)
写真 値段が隠されたメニューとQRコード(筆者撮影)
4 大統領選挙
2023年の大統領選挙は、前節で述べたように干ばつに伴う経済的な混乱のもとで実施されることとなります。この中でミレイ候補は、「ドル化」や「中央銀行廃止」といった主張に加えて、「No hay plata(カネがない)」というスローガンのもと、従来の政権が放置してきた財政再建に取り組むことを掲げます。これに対して、左派勢力である与党連合からはマサ経済相、右派寄りの野党連合からは中道勢力を支持基盤とするラレタ元ブエノスアイレス市長や、マクリ元大統領の支援を受けたブルリッチ元治安相が立候補します。
当初は選挙資金も豊富で支持基盤も厚いマサ候補やラレタ候補、ブルリッチ候補が有力視され、アウトサイダーであるミレイ氏は泡沫候補と見られていました。しかし、従来の政治勢力に対する不満は想像上に大きく、ミレイ候補は選挙資金が少ないながらも、SNSを効果的に活用することでそうした不満を取り込みます。その結果、8月13日に実施された予備選挙では他の候補を抑えて1位に躍り出ます。世の中として大きなサプライズとなりますが、ミレイ候補本人もその周辺も1位になるとまでは予想していなかったようです。
この予備選挙の結果、大統領選挙はマサ候補、ブルリッチ候補、そしてミレイ候補の実質三つ巴で争われることとなります。ミレイ候補はブルリッチ候補の支持票の取り込みを図る一方、予備選挙で躍進して注目を集めたことで、過激な主張への風当たりも強くなります。他方マサ候補は、経済相という自身の立場を利用した選挙活動を展開するとともに、ペロン党の政治基盤も活用して支持拡大を図ります。10月22日の本選挙では、こうしたマサ候補の取組みが奏功し、国政選挙と地方選挙が同時に行われた影響もあったのか*8、経済危機の責任者であるはずのマサ候補が1位、ミレイ候補が2位という結果になり、予備選挙に続くサプライズとなります。
しかし、1位のマサ候補も大統領選出に必要な票を得るには至らず、2位のミレイ候補との決選投票に進みます。予備選挙も本選挙も想定外の結果となり、決選投票ではどちらの候補が勝利するのか見通しが立たない戦いとなりましたが、多くのアルゼンチン国民がこれまでの政治に辟易とする中、旧来の政治勢力を代表すると見られたマサ候補との対立構図がミレイ候補にとって有利に働いたのか、11月19日の決選投票では、ミレイ候補がマサ候補に予想を上回る大差をつけて勝利し*9、12月10日、第59代アルゼンチン大統領に就任しました。
5 政権交代後の取り組み
こうして大統領に就任した後、経済チームのメンバーとして、カプート経済相、バウシリ中央銀行総裁、キルノ経済副大臣(金融担当)など、金融実務に通じた人材を登用します。また2024年7月には新設の国家規制撤廃・変革省の大臣にハーバード大学で教鞭をとっていたスツルツェネッガー氏を任命します。
彼らはマクリ政権でも経済運営に関わっていて、当時の経験も踏まえた政策を実施していきます。その取り組みを、いくつかの切り口から見ていきます。
(1)財政
発足以来、ミレイ政権の最優先課題はインフレ抑制にありました。フェルナンデス前大統領は「インフレの要因は多面的」としていたのとは対照的に、ミレイ大統領は「インフレの根本要因は財政赤字である」として、徹底した財政収支の改善に取り組みます。政権発足とともに省庁の数を18から8に減らし、公務員の数も約11%削減します。優先順位の低い公共事業の停止や各州への裁量的移転の縮小にも取り組み、就任翌月から早速、月間の財政収支が黒字に転じます。2024年の通算では、歳出が前年比で実質27%減、歳入は5%減となった結果、2008年以来の財政黒字を達成しました。
他方で、貧困層支援の観点から、児童手当や食料補助は実質ベースで増やしています。従来はこうした社会支援が様々な中間団体を経由して行われていたため非効率なものとなっていましたが、ミレイ政権はそうした中間団体を徹底的に排除して、真に必要とする人に直接届くように支援を行っているとしています。
加えて、価格抑制措置や為替レートの固定によって歪められた相対価格の是正にも取り組みます。政権発足と同時にペソを50%以上切り下げて実勢水準にあったものとし、各種価格抑制措置も廃止。エネルギー補助金の見直しや水道光熱費・交通機関などの公共料金の引き上げも段階的に実施していきました。
(2)規制緩和
政権発足直後の2023年12月20日に、366条からなる大型の必要緊急大統領令を発表します。主だったものとして、不動産取引・観光・衛星インターネットサービス等の規制緩和、民営化に向けた国営企業の株式会社化、オープンスカイ政策の導入などが定められていました。
続く12月27日には、664条からなる「アルゼンチン人の自由のための基盤及び出発点に関する法律」(以下、自由推進法)を議会に提出します。少数与党であるために議会審議が難航し、一時は取り下げられますが、税制関連の内容を別の法律として条文数を279まで減らした上で改めて議会に提出し、2024年6月28日に税制関連法とともに議会承認、7月8日に公布に至ります。
自由推進法の主な内容としては、(1)行政・経済・財政・エネルギーの分野における非常事態宣言と行政府に対する立法権付与、(2)国営企業8社の民営化、(3)年金モラトリアム(払込期間が短く受給資格を持たない者に対する救済措置)の廃止、(4)労働制度の近代化、(5)大型投資奨励制度(RIGI)が挙げられます。また、税制関連法では、マサ前経済相が大統領選挙期間中に行った被雇用者向けの大幅な減税措置が実質的に撤回されたほか、未申告資産申告へのインセンティブが導入されます。(RIGIと未申告資産申告のインセンティブについては後述)
また、7月に発足した国家規制撤廃・変革省も様々な改革を行っています。行政手続きのデジタル化、公務員試験の導入や縁故採用の禁止に取り組んだほか、足元では、歴代政権で恣意的に導入されたものの実質的に機能していない法令を悉皆的に改廃・整理する取り組みが進められていると報じられています。
(3)金融
アルゼンチンは歴史的にバラマキ的な財政政策がとられ、そのツケをペソ増発という形で中央銀行に押し付けてきた訳ですが、これに加えて、余剰ペソを吸収するために中銀自身が有利子負債を発行するオペレーションも行われていました。このため、インフレ抑制のために政策金利を引き上げると、中銀の負債がますます増えて更なるペソ増発要因となってしまうため、伝統的な金融政策が実施できない状況になっていました。
政権交代後の財政改革の結果、中央銀行による財政ファイナンスは停止します。さらに流動性調整のために発行されていた中銀の有利子負債を短期国債に置き換え、財政赤字の責任が国庫にあることを明確にします。その他にも、国債に付与されたプットオプションを金融機関から買戻すなど潜在的なインフレ要因の解消に取り組み、中銀のバランスシート健全化を進めます。
また、これまでの経済危機で度々預金凍結といった憂き目にあってきたアルゼンチン人は、海外口座や所謂タンス預金の形で、国内金融システムの外に多くの外貨建て資産を保有しているとされます。こうした資金の取り込みを狙い、自由推進法とともに成立した税制関連法に、未申告資産の申請に対する罰則を時限的に免除する措置が盛り込まれます。この結果、ドル建て預金が200億ドル近く増加しました。さらに2025年6月には、未申告資産を消費に使いやすくするために、簡素化された所得税申告制度を新たに導入しました。*10
コラム2 「ドル化」のロジック
ミレイ大統領は経済を「ドル化」させると主張していますが、最近の演説で語っているロジックをごく簡単にまとめると以下のようになっています。
●インフレ抑制のためにも、新たにペソを発行することはしないが、経済が強くなっていくと新たな資金需要が発生する。
●もともとアルゼンチンでは貯蓄をドルで行うことが一般的で、所謂タンス預金として2,000億ドルもの資産がある。これを自由に活用できるようにすれば、経済発展に伴う資金需要に対応できる。
●ペソを新たに発行しなければ、経済が強くなるにつれてドルでの取引が増えて、ペソの流通量が相対的に減っていく。そうすれば、「内生的に」経済はドル化する。
このように、ドル化はかなり長いスパンで実現を目指すものとされています。前述した未申告資産活用策に加えて、ドル建て預金・決済の規制も緩和されており、ドル化に向けた一歩とされていますが、当面は税金の支払いはペソで行われると明言しており、今後数年の間に急にペソが廃止されるようなことにはならないと見られています。
(注)演説の出所は大統領府HP(https://www.casarosada.gob.ar/informacion/discursos/50959-discurso-del-presidente-javier-milei-en-la-11-edicion-del-latam-economic-forum-2025-en-la-ciudad-de-buenos-aires)
(4)ビジネス環境整備
2018年の危機以降、様々な外貨・為替規制が導入されました。個人の外貨購入量の制限、外貨建てカード決済や観光目的での外貨購入への課税、企業が輸出で得た外貨の強制的なペソ替え、利益配当の国外送金の実質的な禁止は、そうした規制のごく一例です。干ばつが発生してからは輸入の事前許可制(SIRA、SIRASE)が強化されるとともに、輸入代金支払いも満足に行えなくなります。
政権交代後は、輸入の事前許可制は廃止され、輸入代金の支払いも確実に行われるようになりました。他方で、マクリ政権時に財政改革や構造改革が伴わない中で拙速に対外開放政策を行って危機を招いた反省から、外貨・為替規制の廃止には慎重な姿勢を貫きます。為替レートについても、政権交代直後に大幅な切り下げが行われたものの、その後は一ヶ月あたり2%の切り下げになるように調整がされていました(クローリング・ペッグ)。市場機能を重視し、国家の介入・規制を最小限にすることを掲げるミレイ大統領ですが、外貨準備が少ないこともあり、なかなかこれらの規制を緩和できずにいました。
しかし、上述したような経済改革を進めたことで、IMFや国際開発金融機関からの信頼を得て、規制緩和に必要となる外貨準備増強のため多額の融資*11を得ることに成功します。これにより、今年4月には大幅に外貨・為替規制が緩和されます。為替レートが需給に応じて一定の範囲内で自由に変動する為替バンド制が導入されるとともに、個人の外貨購入量に関する上限撤廃や課税廃止が行われ、また企業の利益配当の国外送金も可能となりました。この結果、並行為替レート(脚注6参照)とのギャップはほとんど解消されます。ミレイ大統領とカプート経済相は「財政・金融・為替の3つ全ての秩序が整ったのは、この120年間で今だけだ」と成果を強調しています。
ただし、外貨が一気に流出することを防ぐため、政権交代前の輸入債務に対しては依然として規制が続いています。政府としては、BOPREALと呼ばれる債券を発行して段階的に債務を返済していくとしていますが、これまで度々デフォルトを起こした国の債券ということで、購入に不安を感じる企業も少なからずいるようです。
ビジネス環境整備の観点では、自由推進法に盛り込まれたRIGIと呼ばれる大型投資奨励制度もポイントとなっています。アルゼンチンは常々、天然資源が豊富*12で経済成長のポテンシャルが高いと言われてきましたが、政権交代の度にビジネス規制に対するスタンスが変わることから、外国からの投資を十分に呼び込めず、一向にそのポテンシャルを発揮できない状況にありました。こうした状況を打破するため、エネルギー・鉱物などの重要セクターでの長期・大型投資について、税制や為替面での長期優遇措置を導入します。法的安定性の観点から、将来の政府が違反した場合には国際的な調停の場に訴えることができるとされています。
6 成果
上記のような取り組みの結果、IMFも「目覚ましい(impressive)」と評価する様々な成果が生まれました。ここではその具体例として、(1)インフレ低下、(2)経済活動の回復、(3)貧困率の低下、(4)金融機能の回復、(5)エネルギー・鉱物分野での投資呼び込みについて説明します。
(1)インフレ低下
2023年12月には25%だった月間インフレ率(消費者物価指数の上昇率)が2025年5月には1.5%まで低下し、2020年5月以来5年ぶりの低水準となりました。2023年は211%だった年間インフレ率も2024年には118%となり、2025年は20%台にまで低下すると予想されています。依然として高い水準ではあるものの、伝統的にインフレに悩まされたアルゼンチンとしては大きな進歩と言えます。特に2025年4月に外貨・為替規制を緩和したにも関わらずインフレ上昇を招かずにいる点は、良い意味でのサプライズとなっています。
内訳では、補助金削減の影響で光熱費の価格上昇が高い一方、飲食料品の値上がりは相対的に小さいことが特徴となっています。
(2)経済活動の回復
公共事業の停止や各種補助金の削減など緊縮的な政策が行われたこともあり、2024年上半期は、干ばつに悩まされた前年よりも各種指数が悪化し、特に建設業・製造業の落ち込みが顕著なものとなっていました。
しかし、干ばつから回復した農業や豊富な天然資源の開発が下支えとなり、また様々な規制改革の実施も奏功したのか、下半期からは回復傾向となります。最終的に2024年の実質GDP成長率は前年比▲1.7%となりましたが、2024年半ばまでは▲3%程度の落ち込みになるというのが大方の見方だったため、回復のペースは想定よりも高いと言えます。
(3)貧困率の低下
経済活動の推移と合わせる形で、2024年上半期は貧困率*13も悪化しますが、下半期には大幅に改善します。行政改革に伴う公務員削減などで正規雇用は減った一方、非正規の分野で雇用増加と賃金上昇が起こっていることが背景にあるようです。
アルゼンチンの貧困問題を考える際には、世代ごとの格差も大きな論点になっています。直近(2024年下半期)の政府統計では、0~14歳の貧困率は51.9%である一方、65歳以上は16.0%となっています。この要因は、経済規模の割に年金制度が手厚く整備されているためともされています。財政健全化を進める中でも児童手当を増額しているのには、こうした世代間格差が背景にあります。
足元で、効率的な社会支援の結果として若年層の貧困率が改善しているという民間の調査結果もありますが、限られた財源の中でいかにして公平に社会福祉政策を実現していくのかは引き続き課題となりそうです。
(4)金融機能の回復
多くのアルゼンチン人が国内金融システムの外に資産を持つことを選好することに加えて、金融機関への預金も多くが国債や中銀債の引き受けに使われて民間部門への貸し付けに十分に回らないなど、金融仲介機能が十分に作用していない状況になっていました。しかし、未申告資産の取り込みに加えて、準備金制度の合理化や金利制限の撤廃といった金融機関の規制緩和の結果、貸付先が公的部門から民間分野にシフトしており、直近では月次経済活動指数や四半期GDPにおける金融分野の伸びが顕著になっています。
また、海外投資家も経済安定化計画を評価しているようで、政権交代以降カントリーリスクが大幅に改善します。2025年5月には、7年ぶりに非居住者も対象とした国債入札によって10億ドルの資金調達に成功しました。
(5)エネルギー・鉱業での投資呼び込み
RIGI(大型投資奨励制度)に対して、欧米の資源メジャーや中韓印の資源開発会社が相次いで関心を表明しており、2025年6月までに11件の申請があったとされ*14、このうち太陽光、パイプライン、LNG、リチウムの4件が承認されました。
公共事業を縮小する中でも、資源・エネルギー分野の開発は優先順位をつけつつ民間企業も巻き込みながら進めており、エネルギー収支も黒字となって外貨獲得にも貢献しています。
7 今後のポイント
前節で述べたように短期間で多くの成果を実現していますが、ここでは、今後の中長期的な安定・成長の観点から、どういった点がポイントになるのかについて取り上げようと思います。
(1)成長トレンドの維持
足元でも各種経済指標は堅調で、2025年は実質GDP成長率が5%になると見込まれていますが、干ばつや緊縮財政からの反動という側面もあり、この成長トレンドをどこまで持続可能にできるかがポイントとなっています。現政権は、豊富なエネルギー・鉱物資源を活かして外国からの投資を呼び込むことで経済成長を目指しており、その土壌は整いつつあると言えます。当館を訪問する日系企業の出張者の数も格段に増えていて、関心の高さを日々実感します。
他方、外貨・為替規制が大幅に緩和されたとはいえ、政権交代前の輸入債務の支払いには依然として制約があります。また、カントリーリスクも減少していますが、南米の近隣諸国と比べると依然として高い状況にあります。更なる外貨準備の積み増し等によって、こうした課題をどのように解消していくかがカギとなりそうです。
(2)改革の深化
政権発足後に様々な改革を行ってきましたが、税制、労働市場、年金といった分野では依然として課題が残っており、IMFと合意したプログラムにおいても長期的に取り組んでいく事項とされています。賃金や年金が同様の新興国と比べて高かったり、あるいは細々とした税金が多々導入され市場機能が歪められているといった指摘も度々耳にします。現在行っている改革をどこまで深化できるのかも今後のポイントになるでしょう。
(3)政治的安定
ミレイ政権は議会で少数与党であるため、多くの施策が行政府の必要緊急大統領令または政令によって進められてきました。短期間で大きな成果を挙げてはいますが、他方でこの改革を深化させ持続可能なものとするためには、やはり議会での議席を増やすことも重要になります。
この点、今年10月には議会の中間選挙が行われ、ここでどこまで議席を増やすことができるかに注目が集まっています。これまでの政権への失望感の裏返しもあってか、国民に苦労を強いる政策を実行している割には支持率が比較的高い状況になっており、本年5月に実施されたブエノスアイレス市議会選挙でもミレイ大統領率いるLLAが大きく議席を伸ばす結果となりました。
8 結び
ここまでミレイ政権発足の背景や政権交代後の取り組みについて説明をしてきましたが、最後に多分私見を交えつつ総括することで、結びとしたいと思います。
ミレイ政権の本質は、多くの政府関係者が「大統領がチーフエコノミストだ」と話している点に凝縮されているように思っています。政権幹部も金融分野での実務経験が豊富な人材が多く、既得権益層に振り回されずに一貫した政策を遂行できているのは確かな強みでしょう。そうした点が、米国をはじめとする先進国や国際機関からの支持を得ている要因になっているのかもしれません。
ただし、多くの政策が大統領令に基づいて行われており、また外交面で、ジェンダーや人権、環境といった分野で国際社会のマルチの合意を軽視するようにも見える点には留意が必要です。こうした点も含めて、現在のアルゼンチンで起きているのは、エコノミストが自身の信念に沿った政策を、周囲の雑音を気にせずに忠実に実施したらどのようなものになるのか、と言えるように思います。
アルゼンチン人からは「この国は数年単位では目まぐるしく動くものの、何十年という期間では同じ場所から動いてない」という声も聞きます。過去のアルゼンチン経済に関する資料を見ると、たとえ何十年も前の出来事でも、ここ数年で経験したのとほぼ同じようなことが書かれていて、既視感で思わず笑ってしまいそうになります。他方で、「過去の繰り返しではないか」という批判に対して現政権は、「財政・金融・為替の全ての秩序が整ったのは今だけだ」と強調しており(第5節参照)、その主張も一理あるように思われます。エコノミストが率いる国家がどこにたどり着くのか、その答えが出るのにはもう少し時間がかかりそうですが、その行く末は経済政策立案に関わる全ての当事者にとって知る価値があるように思います。
BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は、財務総合政策研究所の「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」報告書において、グズネッツの「4種類の国」の言葉を引用した上で、日本経済の先行きに警鐘を鳴らす意味で「日本がアルゼンチンタンゴを踊る日」という言葉を使われています。タンゴはブエノスアイレスの下町で経済的に苦しい人々の間で始まったものとされており、どこか暗い感じのする演目も多いので、経済混乱の象徴になってしまうのはある意味もっともです。一方で、タンゴにもバラエティや変化があります。例えば、先ほども触れた「変革者」ピアソラの「リベルタンゴ」という、ショーのフィナーレで演奏されることが多い演目は、決して明るい曲調ではないですが、演奏時に聴衆が手拍子でパフォーマンスに加わることで、現状から一歩踏み出そうと思わせる力強さやエネルギーを感じさせるものになっています。アルゼンチンに縁を持った身としては、現在の取り組みが実を結ぶことで、タンゴが今を前向きに変えていく原動力の代名詞になることを願ってやみません。
コラム3 アルゼンチンの日系人社会
アルゼンチンには約65,000人の日系人がいるとされており、これは南米でブラジル、ペルーに次ぐ規模となっています。1886年に牧野金蔵氏が中西部コルドバに定住したのが第一号とされ、それ以来アルゼンチン社会に着実に根を下ろしてきました。各地で日系人のコミュニティが形成され、盆踊り大会や七夕祭りなどのイベントも盛大に開かれています。日本の風物詩とも言える行事を地球の真裏で体験すると、その長い歴史に思いを馳せずにはいられません。
ちなみに、写真のラプラタ盆踊りでは、定番曲の他にもアップテンポで動きの激しい曲も含まれていて、踊っていてかなり息が上がるのは新鮮でした。それもまた、長い歴史を踏まえて日本の伝統をアルゼンチンに合わせた形なのかなと思ったりもします。
来年2026年は、最初の日系移民がアルゼンチンに定住してから140周年の節目の年となります。在アルゼンチン日本国大使館としても、日系人コミュニティと連携して記念の行事を行う予定で、これを機に日本とアルゼンチンの関係がより深まっていくことが期待されます。
写真 ブエノスアイレス市近郊のラプラタの盆踊り大会にて同僚と(右端が筆者)
参考文献
アルベルト松本. (2004). アルゼンチンを知るための54章. 明石書店.
河野龍太郎. (2025). 国際通貨としての「円」の賞味期限 ―日本がアルゼンチンタンゴを踊る日. 「日本経済と資金循環の構造変化に関する研究会」報告書. 財務総合政策研究所
佐々木伶. (2024). 激動のアルゼンチン政治-ミレイ政権誕生の経緯とその分析. ラテンアメリカ時報(2024年春号).
中川隆進. (1975). アルゼンチン経済の旅. 東洋経済新報社.
藤田直文.(2022).地球の裏側アルゼンチンのいま-パンデミックと債務危機. ファイナンス(2022年2月号).
山内弘志. (2023). 日本アルゼンチン外交関係125年の歩みと展望-新しい関係の構築を目指して. ラテンアメリカ時報(2023年夏号).
IMF. (2025a) “Argentina:Ex-post Evaluation of Exceptional Access under the 2022 Extended Fund Facility Arrangement-Press Release; Staff Report; and Statement by the Executive Director for Argentina”. IMF Staff Country Reports 2025, 003.
IMF. (2025b)”Argentina:Request for an Extended Arrangement Under the Extended Fund Facility-Press Release; Staff Report; Staff Supplement; and Statement by the Executive Director for Argentina”, IMF Staff Country Reports 2025, 095.
Márquez, N., & Duclos, M. (2024). Milei:La revolución que no vieron venir. Editorial Hojas del Sur. (邦訳:蔵研也. (2025). ミレイと自由主義革命-世界を変えるアルゼンチン大統領. 自由主義研究所.)
図表 財政収支(対GDP比)の推移
図表 為替・外貨準備の推移
図表 消費者物価指数の推移
図表 ミレイ政権発足後の分野別インフレ率
図表 各種月次指数の推移
図表 貧困率・極貧率の推移
*1) 本稿の内容は、筆者が参考資料等も参照しながら個人的に執筆したものであり、誤りがある場合は筆者個人に責任があります。また、本稿は全て筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織を代表するものではありません。
*2) カリーナ・ミレイ氏はミレイ政権で大統領府長官を務めています。
*3) ミレイ氏としては、新古典派の理論では独占や寡占が市場の失敗としてマイナスに捉えられるものの、実際にはそうした現象が経済成長を実現している点に違和感を覚えたようです。
*4) その後の初回レビューで融資総額が570億ドルまで拡大されますが、4次レビューを終えて約450億ドル相当までディスバースが行われた後、政権交代後の2020年9月にプログラムがキャンセルされました。(当初は2021年まで12回のレビューを予定)
*5) グスマン氏の辞任後、内務副大臣だったバタキス氏が3週間ほど経済相を務めた後に、マサ氏が経済相に就任しました。
*6) アルゼンチンでは、自国通貨であるペソへの信頼が極端に低いために、厳しい外貨規制が存在する中でも強い外貨需要があり、主として貿易決済に使われる公定レート以外にも、債券売買を通じて外貨を購入・売却するレート(MEP/CCLと呼ばれる)、闇市場のレート(ブルーと呼ばれる)など、様々な為替レートが存在しています。
*7) この時期の私自身の体験として、体調を崩したタイミングで自宅のミネラルウォーターを切らしてしまい、這うようにして近くのスーパーに行ったものの、炭酸水やジュースはあってもミネラルウォーターは売ってなく、愕然としたこともありました。
*8) 一部の地域を除き、各選挙区で、政党ごとに国政レベル・地方レベルの候補者をまとめて掲載した投票用紙が作成され、有権者は自身が支持する候補が掲載された投票用紙を選んで投票する方式が採用されていました。それぞれのレベルで異なる政党の候補を選ぶこともできるものの、そのためには複数の投票用紙を切って投票するという手間がかかるため、結果的に国・地方で同じ政治勢力を選ぶことが多くなり、地方に政治基盤を持つ勢力にとって有利な投票様式であると考えられています。
*9) ミレイ候補が56%、マサ候補が44%の得票となりました。
*10) 従来は税務申告の際に、所得や経費に加えて個人消費や資産増減を申告する必要があり、また小売店等も個別の販売情報を税務当局に報告する義務が課されていました。新たな制度の下では、個人消費や資産増減に関する情報の申告は不要となり、さらに小売店等の情報提供義務も廃止・緩和されました。
*11) IMFとの間で4年総額200億ドルの拡大信用供与措置に合意するとともに、世界銀行グループ・米州開発銀行グループから3年総額220億円の支援パッケージの表明を得ます。
*12) リチウムは埋蔵量世界3位(米国地質調査所(USGS))、シェールガスは技術的回収可能量世界2位(米国エネルギー情報局(EIA))とされています。
*13) アルゼンチンでは貧困率を算定する際に、最低限度の食糧を購入するのに必要な費用に加えて、一定程度の交通費や通信費等も加味するため、貧困率が高く出やすいとされています。一般的にイメージされる貧困の割合としては、極貧率が実態に近いとされています。
*14) 2025年4月のIMFレポートでは、総額は約125億ドルになるとされています。