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コラム 経済トレンド133

持続可能な森林経営を考える
大臣官房総合政策課 調査員 齊之平 大致/古川 晃久

本稿では、我が国の森林や林業の実情を踏まえ、持続可能な森林経営について考える

我が国の森林
・我が国の国土の3分の2は森林であり、世界でも有数の森林国である(図表1 我が国の用地別面積割合(2020))。森林は国土保全や水源涵養などといった多面的機能を有しており(図表2 森林の有する多面的機能)、中でも環境意識の高まりを受けた社会的要請もあり、森林が温室効果ガス削減に資する効果に期待が高まっているところである(図表3 温室効果ガス吸収実績(2023))。そういった森林の機能を継続的に発揮させていくためには、間伐や再造林といった森林整備が必要である。
・しかしながら昨今、所有者不明林の存在(図表4 市町村における所有者不明林の状況(2023))や、一定数の林業経営体が経営それ自体に消極的であること(図表5 林業経営体における今後の経営規模にかかる意向)などにより、整備が行き届かない森林が増加しており、国土強靱化を図るうえでの障壁となっている。
(出所)林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題」、国土交通省「令和6年版土地白書」、日本学術会議答申「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的機能の評価について」、国立研究開発法人国立環境研究所「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量について」、林野庁「森林経営管理制度に係る都道府県・市町村アンケートについて」、農林水産省「令和2年度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査」

我が国の林業
・我が国林業の現状に目を向けると、林業経営体数・林業従事者数は減少して推移している(図表6 林業経営体数の推移、図表7 林業従事者数の推移)。林業離れの背景には、事業としての低収益性が挙げられよう。
・低収益性に関して、傾斜が多い国土の性質上、林道整備が遅れているため導入機械の大規模化が進んでいないことや、個人経営体が大宗を占めており森林保有者が細分化していることなどが背景にあろう(図表8 路網の現状と整備の目安、図表9 林業経営体割合の推移)。そのため、国内の林業において、強い労働集約的性質や、管理事業者による効率的な管理が行き届いていない、といった実情がある。
・海外の林業先進国と日本との、丸太1m3あたりのコスト構造を比較すると、上記事情を背景として、流通コスト等が収益を圧迫していることがわかる(図表10 1m3あたりの丸太価格の内訳)。
・国土保全のためには、持続可能な森林経営が求められ、そのためには林業における労働生産性向上等の取組みにより、収益構造を改善していくことが重要となろう(図表11 林業における収益構造の現状と目指す姿)。
(出所)林野庁「森林・林業・木材産業の現状と課題」、林野庁「令和6年度 森林・林業白書」、農林水産省「農林業センサス」、総務省「国勢調査」、林野庁「林業経営と林業構造の展望(2)」

林業の生産性向上へ向けて
・林業における生産性向上を目指すうえで、近年成長著しい地理空間情報やICT等の先端技術を活用し、林業の効率化・省力化により収益性改善を実現する「スマート林業」への期待がある(図表12 スマート林業のイメージ図)。
・スマート林業は、世界的な市場規模拡大が目される分野であり(図表13 スマート林業の市場規模の実績・予測)、国内で先進的に取組まれている事例もある(図表14 国内におけるスマート林業導入事例)。他方で我が国においては、資源管理等の領域でスマート林業が浸透しつつあるものの、生産管理・流通等の領域においては普及道半ばであり(図表15 都道府県におけるスマート林業普及状況)、生産性向上へ向けてさらなる拡がりに期待したいところである。
・なおスマート林業の導入にあたっては、初期投資などのコストを踏まえた経済合理性の確保や、先進技術を扱える高度人材の確保、ノウハウの共有・蓄積などが必要となる。したがって、林業経営体においても相応の経営資源を有するべきであろう。
(出所)林野庁「スマート林業実践マニュアル」、The Business Research Company「Smart Foresty Global Market Report 2025」、農林水産省「スマート林業の実現に向けた取組事例」、林野庁「スマート林業取組状況調査 結果概要」

我が国の林業経営の展望
・なお持続可能な森林経営を実現する上では、所有と経営の分離を促進することが一助になると考える。所有と経営の分離を進めることで、管理面積の拡大による規模の経済化によって効率性向上が図られ、小規模経営体では対応困難な大型機械やスマート林業技術の導入が推進される蓋然性が高まるからである。
・2019年より開始された森林経営管理制度の活用は、適切な森林経営の推進力となろう。森林経営管理制度とは、経営管理が行われていない森林について、市町村が仲介者となり、所有者から事業者へ管理を委託する制度である(図表16 森林経営管理制度の概念図)。2020年の森林組合改正法により、森林経営管理制度における組合と自治体の連携、森林保有者と林業経営体との連携の強化が目指されている(図表17 森林組合法と森林組合改正法の比較)。
・また、適切な森林管理等によるCO2の吸収量などを「クレジット」として国が認証するJ-クレジット制度を活用することで、林業経営のインセンティブ向上を促し、当該産業の振興を後押しする可能性にも期待が持たれる(図表18 J-クレジット制度の概念図)。
・林業経営の効率化・推進を図り、林業における先進技術を一層活用していくことで、持続可能な林業経営が促され、国土強靱化への取組みが強化されていくことに期待したい。
(出所)林野庁HP、林野庁「森林組合制度の課題と方向性について」、田辺真裕子「森林組合の経営基盤強化に向けた法改正ー森林組合法改正案をめぐる国会論議ー」、J-クレジット制度HP
(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。